Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Effects of mirogabalin on tingling or pins & needles in a phase 3 study of diabetic peripheral neuropathy
Masayuki BABAMasanori KUROHAYosuke WASAKIShoichi OHWADA
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2020 Volume 27 Issue 4 Pages 287-295

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Abstract

【目的】糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)患者を対象としたミロガバリンの第3相試験(J303試験)のなかから,しびれ感のみを有する患者を対象にサブグループ解析を事後的に行い,しびれ感に対するミロガバリンの効果を検討した.【方法】プラセボ,またはミロガバリン15 mg/日,20 mg/日,30 mg/日を投与し,14週時点での評価を行った.おもな評価項目は,しびれ感の平均スコア(ADPS),ADPSのレスポンダー率,平均睡眠障害スコア(ADSIS),患者の全般的な状態の変化(PGIC)およびしびれに対する自覚症状の印象とした.【結果】解析対象は168名であった.30 mg/日群のADPSおよびADSISは,プラセボ群と比べ改善する傾向を示した.同群のPGICおよび自覚症状の印象は,プラセボ群と比べ改善した.また,同群でのおもな有害事象は,傾眠,浮動性めまい,末梢性浮腫および体重増加であった.これらの結果は,J303試験全体の結果とおおむね同様であった.【結論】ミロガバリンはDPNPのしびれ感に効果があることが示唆された.

I はじめに

糖尿病性末梢神経障害性疼痛(diabetic peripheral neuropathic pain:DPNP)は,糖尿病患者の20~30%にみられる合併症のひとつであり,日本におけるDPNPを有する糖尿病患者は90~220万人と推定される1).「糖尿病性多発神経障害の簡易診断基準」を用い,糖尿病患者15,000人を対象とした調査によって,DPNPの自覚症状のうち,“足のしびれ感”の出現率が最も高く,両方または片方の足に有する患者は21.6%であった1).この“足のしびれ感”は感覚消失のような陰性症状のしびれとは異なり,チクチクする,ピリピリする,ジリジリすると表現される陽性症状のしびれ感であり,quality of life(QOL)の低下を改善するためには,重要な治療対象である.

DPNPに対する治療薬の第一選択薬としてプレガバリンとデュロキセチンがあげられる.これらは疼痛やそれに伴う症状に対して有効性が確認されているが2,3),上記のしびれ感に対する有効性については明確にされてはいない.

末梢性神経障害性疼痛を適応症として2019年に承認されたミロガバリンベシル酸塩(以下,ミロガバリン)は,電位依存性カルシウムチャネルα2δサブユニットに対する強力かつ選択的な新規リガンドである4).DPNP患者を対象とした第3相試験(J303試験,NCT02318706)において,ミロガバリンを30 mg/日投与した患者では,14週時点の平均疼痛スコア(average daily pain score:ADPS)および平均睡眠障害スコア(average daily sleep interference score:ADSIS),患者の全般的な状態の変化(patient's global impression of change:PGIC)のすべてにおいて有意な改善効果が確認された5).治療薬との因果関係が否定されなかったおもな有害事象は傾眠,浮動性めまいであったが,その多くは軽度または中等度であり,無治療で回復し,これらの有害事象による試験の中止率は低かった5).これらの試験結果より,ミロガバリンは有効性と安全性のバランスがよい末梢性神経障害性疼痛に対する治療薬といえる.「2019年の神経障害性疼痛薬物治療ガイドライン改訂第2版追補版」および「糖尿病診療ガイドライン2019」において,DPNPに対する治療にあたりミロガバリンの投与が推奨されている6,7)

J303試験では疼痛,陽性症状のしびれ感,またはその両方を有する患者を対象に評価を行っていたが,本研究では,J303試験に参加したDPNP患者のうち,陽性症状のしびれ感のみを有する患者におけるミロガバリンのしびれ感に対する効果を検討した.

なお,本研究は第一三共株式会社の資金提供のもと,ヘルシンキ宣言に基づき,書面による本人の同意を得たうえで実施された.

黒羽正範は本試験の設計,日本施設の試験管理を行った.和崎陽介は日本を除くアジア施設の試験管理および論文作成を行った.大和田章一は本試験の統計学的側面に責任を持ち統計解析を行った.馬場正之は医学的見地から本試験を監督し,論文作成を行った.

II 対象と方法

1. 対象

J303試験は,日本を含むアジアの多施設におけるDPNPを有する患者を対象とした無作為化,プラセボ対照,二重盲検試験であり,2015年1月から2017年6月まで行われた.試験実施に先立ち,各実施医療機関の倫理審査委員会で審議・承認を得た後,医薬品の臨床試験の実施に関する基準(good clinical practice:GCP)を遵守して実施された.20歳以上の1型もしくは2型糖尿病患者で,スクリーニングの少なくとも6カ月前に有痛性対称性多発神経障害と診断され,VAS(visual analog scale)スコアが40 mm以上,平均疼痛スコアが4以上の疼痛,陽性症状のしびれ感,またはその両方を有する患者824名を解析対象とした5).そのなかから,陽性症状のしびれ感のみを有する168名を本研究の解析対象とした事後解析を実施した.糖尿病性末梢神経障害(diabetic peripheral neuropathy:DPN)罹病期間は,J303試験開始前に診断されている場合では,診断された日から,診断されていない場合では,スクリーニング時に日本を含むすべての患者で実施した糖尿病性神経障害を考える会の簡易診断基準での診断8),問診により確認した自覚時期から算出した.

2. 介入

患者は,プラセボ,ミロガバリン15 mg/日,20 mg/日,30 mg/日の4つの投与群のいずれかに無作為に振り分けられた.漸増期を含めて14週間(漸増期1~2週間,固定用量期12~13週間)の投与を受けた5)

3. 評価項目と評価方法

本サブグループ解析の有効性評価項目は,J303試験の主要評価項目である14週時点でのADPS9)のベースラインからの変化量(過去24時間における「痛みなし」=0から「想像できる最悪の痛み」=10を,治験薬服用前に患者によって入力された電子日記の記録より毎日収集し,週平均として算出)と副次評価項目であるADPSのレスポンダー率(ベースラインと比較して≧50%減少した患者の割合),14週時点の短縮版McGill疼痛質問票(short-form McGill pain questionnaire:SF-MPQ10))による5項目(感覚のスコア,感情のスコア,総スコア,VAS,および現在の疼痛強度)のベースラインからの変化量,14週時点のADSIS11)(過去24時間における「痛みにより睡眠は妨げられなかった」=0から「痛みにより一睡もできなかった」=10を週平均として算出)のベースラインからの変化量,PGIC12)(治療終了時での「非常に改善した」=1から「非常に悪化した」=7の患者による印象),14週時点のhospital anxiety and depression scale(HADS)による抑うつに関する7項目および不安に関する7項目(いずれも4段階で評価)13)のベースラインからの変化量,およびしびれ感に対する自覚症状の印象(1.良くなった,2.変わらなかった,3.悪くなった,4.症状なしの4段階評価14))とした.本研究におけるしびれ感の評価は疼痛と同様,ADPSとVASを用いて評価した.安全性評価項目は,投与期間中の有害事象(事象名はICH国際医薬用語集17.1版を用いた)とした.

4. 統計的解析

すべての有効性評価項目は,無作為化され治験薬を少なくとも1回服用したmodified intent-to-treat(mITT)解析対象集団を対象に解析した.ADPSについて,投与中止などにより発生する欠測値については,pattern mixture法を用いたnonfuture dependenceモデルに基づく多重代入法15)により補完した.補完後のデータセットに対して,ベースラインADPSを共変量としたmixed-effect model with repeated measures(MMRM)を適用し,14週時点のベースラインからの平均変化量をミロガバリン投与群とプラセボ投与群で比較した.

SF-MPQの各評価項目,ADSIS,HADSの各評価項目については,ベースライン値を共変量とした共分散分析を用いて,14週時点のベースラインからの平均変化量を,ミロガバリン投与群とプラセボ投与群で比較した.レスポンダー率,PGIC,自覚症状の印象についてはそれぞれ,ADPSが50%以上減少した,スコアが2以下になった,良くなったと回答した患者割合について,ロジスティック回帰分析を適用し,ミロガバリン投与群とプラセボ投与群を比較した.

安全性については,治験薬を少なくとも1回服用した安全性解析対象集団を対象に,有害事象を集計した.

III 結果

結果を図表で示すにあたり,陽性症状のしびれ感のみを有する患者168例からなる本サブグループで得られた結果に加え,疼痛のみ,または疼痛としびれ感の両方を有する患者656名を加えたJ303試験全体の824名での既発表データも参考のために並列して記すことにする.

1. 患者背景

本サブグループ解析の患者背景を表1に示す.プラセボ群と3つのミロガバリン15 mg/日,20 mg/日,30 mg/日投与群に割り付けられた被験者は,それぞれ77名,35名,30名,26名であった.投与を中止した人数は15名で,プラセボ群では3名,15 mg/日群では5名,20 mg/日群では3名,30 mg/日群では4名であった.投与を中止したおもな理由は患者による同意撤回(6名,3.6%)と有害事象(4名,2.4%)であった.患者の多くは男性(73.2%)で日本人(73.8%)が多く,平均年齢は62.5歳であった.ほとんどの患者は2型糖尿病であり(95.2%),ヘモグロビンA1cとADPSの平均値はそれぞれ7.6%と5.39であった.これらの値はJ303試験全体の患者背景と類似していた.

表1 患者背景
項目 しびれ感のみを有する患者 J303試験全体
プラセボ群
(N=77)
ミロガバリン
15 mg/日
(N=35)
ミロガバリン
20 mg/日
(N=30)
ミロガバリン
30 mg/日
(N=26)
合計
(N=168)
合計
(N=824)
年齢,歳 61.7±10.15 62.3±7.67 65.9±6.77 61.2±9.81 62.5±9.16 61.4±9.77
 18歳以上65歳未満 41(53.2) 20(57.1) 12(40.0) 15(57.7) 88(52.4) 490(59.5)
 65歳以上75歳未満 32(41.6) 12(34.3) 15(50.0) 10(38.5) 69(41.1) 269(32.6)
 75歳以上 4(5.2) 3(8.6) 3(10.0) 1(3.8) 11(6.5) 65(7.9)
性別,男性 57(74.0) 25(71.4) 23(76.7) 18(69.2) 123(73.2) 599(72.7)
体重,kg 69.5±12.8 65.7±12.4 69.7±12.8 69.7±13.4 68.8±12.8 69.2±13.1
Ccr,ml/min 99.4±35.5 97.2±23.0 94.9±22.8 93.8±27.9 97.3±29.9 99.8±32.3
ADPS,点 5.44±1.048 5.44±0.920 5.27±0.858 5.32±0.836 5.39±0.954 5.58±0.963
VAS,mm 56.9±11.32 55.9±9.25 55.3±7.95 56.5±9.12 56.3±9.98 58.2±9.90
糖尿病の型            
 1型 5(6.5) 2(5.7) 1(3.3) 0(0.0) 8(4.8) 31(3.8)
 2型 72(93.5) 33(94.3) 29(96.7) 26(100.0) 160(95.2) 793(96.2)
DPN罹病期間,月 67.5±55.22 49.0±40.85 62.3±60.37 51.0±49.17 60.2±52.79 57.4±49.59
自覚症状(しびれ感,疼痛)を伴うDPN罹病期間,月 54.8±46.61 46.7±41.06 53.7±56.97 51.0±49.17 52.3±47.62 50.3±45.46
HbA1c,% 7.7±1.068 7.4±0.871 7.6±0.938 7.5±1.122 7.6±1.016 7.5±0.987
           
 日本 56(72.7) 25(71.4) 25(83.3) 18(69.2) 124(73.8) 597(72.5)
 韓国 1(1.3) 4(11.4) 2(6.7) 4(15.4) 11(6.5) 128(15.5)
 台湾 19(24.7) 5(14.3) 2(6.7) 3(11.5) 29(17.3) 73(8.9)
 マレーシア 1(1.3) 1(2.9) 1(3.3) 1(3.8) 4(2.4) 26(3.2)

平均値±標準偏差または患者数(割合,%).

Ccr:クレアチニンクリアランス,ADPS:average daily pain score,VAS:visual analogue scale,DPN:diabetic peripheral neuropathy,HbA1c:hemoglobin A1c.

2. 有効性の結果

本サブグループにおける14週時点でのADPSのベースラインからの変化量は,プラセボ群は−1.18,15 mg/日群は−1.18,20 mg/日群は−1.26,30 mg/日群は−1.72であり,30 mg/日群とプラセボ群との差は−0.54(95%信頼区間[−1.29,0.21])であった(図1左).ADPSのレスポンダー率のプラセボ群に対するオッズ比は15 mg/日群は0.64,20 mg/日群は0.91,30 mg/日群は2.77(95%信頼区間[1.06,7.25])であった(表2).

図1

プラセボ群およびミロガバリン各投与群におけるADPSの14週時点でのベースラインからの変化量

左図:しびれ感のみを有する患者,右図:疼痛,しびれ感,またはその両方を有する患者(J303試験全体).

mITT解析対象集団を対象に解析した.投与中止後のADPSの欠測値については,pattern mixture法を用いたnonfuture dependenceモデルに基づく多重代入法により補完した.補完後のデータセットに対して,ベースラインADPSを共変量としたMMRMを適用し,14週時点のベースラインからの平均変化量をミロガバリン各投与群とプラセボ投与群で比較した(図は最小二乗平均−標準誤差で表示).

表2 投与14週時点におけるミロガバリン各投与群の疼痛,精神状態,およびしびれ感(プラセボ群との比較)
項目 しびれ感のみを有する患者 J303試験全体
ミロガバリン
15 mg/日
(N=35)
ミロガバリン
20 mg/日
(N=30)
ミロガバリン
30 mg/日
(N=26)
ミロガバリン
15 mg/日
(n=164)
ミロガバリン
20 mg/日
(n=165)
ミロガバリン
30 mg/日
(n=165)
レスポンダー率1 0.64
[0.21,1.92]
(0.4243)
0.91
[0.31,2.62]
(0.8567)
2.77
[1.06,7.25]
(0.0384)
1.09
[0.68,1.74]
(0.7218)
1.04
[0.65,1.66]
(0.8754)
1.86
[1.21,2.85]
(0.0048)
SF-MPQ3            
 全体 -1.0
[-2.9,1.0]
(0.3221)
-1.3
[-3.3,0.7]
(0.2059)
-0.2
[-2.4,1.9]
(0.8211)
-1.0
[-1.9,0.0]
(0.0493)
-1.7
[-2.7,-0.8]
(0.0003)
-1.9
[-2.8,-0.9]
(0.0001)
 感覚のスコア -0.9
[-2.4,0.6]
(0.2468)
-1.4
[-2.9,0.2]
(0.0843)
-0.4
[-2.0,1.2]
(0.6343)
-0.7
[-1.5,0.0]
(0.0566)
-1.4
[-2.2,-0.7]
(0.0002)
-1.6
[-2.3,-0.8]
(<0.0001)
 感情のスコア -0.1
[-0.6,0.5]
(0.8113)
0.1
[-0.5,0.7]
(0.8080)
0.2
[-0.5,0.8]
(0.6214)
-0.2
[-0.4,0.1]
(0.1698)
-0.3
[-0.6,0.0]
(0.0243)
-0.3
[-0.6,0.0]
(0.0205)
 VAS 4.7
[-3.0,12.4]
(0.2306)
-1.9
[-10.0,6.2]
(0.6446)
-8.2
[-16.8,0.3]
(0.0590)
-0.4
[-4.1,3.3]
(0.8307)
-1.9
[-5.6,1.7]
(0.2980)
-5.9
[-9.5,-2.2]
(0.0018)
 現在の疼痛強度 0.2
[-0.1,0.4]
(0.2212)
0.1
[-0.2,0.4]
(0.3627)
0.1
[-0.2,0.4]
(0.4197)
-0.1
[-0.2,0.1]
(0.3900)
0.0
[-0.2,0.1]
(0.5075)
-0.2
[-0.3,0.0]
(0.0174)
HADS2            
 抑うつ 0.2
[-0.6,1.0]
(0.6152)
-0.1
[-0.9,0.8]
(0.8587)
0.0
[-0.9,0.9]
(0.9662)
-0.1
[-0.5,0.4]
(0.7563)
0.0
[-0.5,0.4]
(0.9062)
-0.3
[-0.7,0.2]
(0.2333)
 不安 0.1
[-0.7,1.0]
(0.7492)
-0.4
[-1.3,0.4]
(0.3127)
-0.9
[-1.8,0.1]
(0.0676)
-0.2
[-0.6,0.2]
(0.2791)
-0.8
[-1.3,-0.4]
(<0.0001)
-0.8
[-1.2,-0.4]
(0.0002)
しびれ感の自覚
症状改善の印象3
1.19
[0.54,2.66]
(0.6638)
1.45
[0.62,3.37]
(0.3938)
2.84
[1.10,7.33]
(0.0304)
1.59
[1.09,2.32]
(0.0158)
1.42
[0.98,2.07]
(0.0650)
1.77
[1.22,2.59]
(0.0029)

数値は14週時点でのベースラインとの差の最小二乗平均値の差またはオッズ比[95%信頼区間](P値).

1)ADPSが50%以上低下した患者のプラセボ群に対するオッズ比.

2)ベースラインからの変化量におけるプラセボ群との差の最小二乗平均値.

3)自覚症状が改善した患者のプラセボ群に対するオッズ比.

14週時点でのADSISのベースラインからの変化量は,プラセボ群は−0.49,15 mg/日群は−0.55,20 mg/日群は−0.83,30 mg/日群は−1.28であり,30 mg/日群とプラセボ群の差は−0.73(95%信頼区間[−1.34,−0.12])であった(図2左).PGICが14週時点で2以下,つまり非常に改善した,または,かなり改善した患者の割合は,プラセボ群は24.7%,15 mg/日群は20.0%,20 mg/日群は20.0%,30 mg/日群は46.2%であり,プラセボ群に対する30 mg/日群のオッズ比は2.62(95%信頼区間[1.03,6.62])であった(図3左).SF-MPQにおけるVASのベースラインからの変化量では,プラセボ群との差は15 mg/日群は4.7,20 mg/日群は−1.9,30 mg/日群は−8.2であった(表2).HADSのベースラインからの変化量においては,プラセボ群との差は,抑うつでは15 mg/日群は0.2,20 mg/日群は−0.1,30 mg/日群は0.0,不安では15 mg/日群は0.1,20 mg/日群は−0.4,30 mg/日群は−0.9であった(表2).自覚症状について良くなったと回答した割合のプラセボ群に対するオッズ比は15 mg/日群は1.19,20 mg/日群は1.45,30 mg/日群は2.84であった(表2).

図2

プラセボ群およびミロガバリン各投与群におけるADSISの14週時点でのベースラインからの変化量

左図:しびれ感のみを有する患者,右図:疼痛,しびれ感,またはその両方を有する患者(J303試験全体).

mITT解析対象集団を対象に解析した.ベースライン値を共変量とした共分散分析を用いて,14週時点のベースラインからの平均変化量を,ミロガバリン各投与群とプラセボ投与群で比較した(図は最小二乗平均−標準誤差で表示).

図3

プラセボ群およびミロガバリン各投与群におけるPGICのスコアが14週時点で2以下の患者割合

左図:しびれ感のみを有する患者,右図:疼痛,しびれ感,またはその両方を有する患者(J303試験全体).

mITT解析対象集団を対象に解析した.14週時点でPGICスコアが2以下になった患者割合について,ロジスティック回帰分析を適用し,ミロガバリン各投与群とプラセボ投与群を比較した.

3. 安全性と忍容性

本サブグループ解析およびJ303試験全体にて報告されたおもな有害事象とその発現割合を表3に示す.ほとんどの有害事象は軽度なものであった.J303試験全体と同様に,本サブグループ解析においても,傾眠,浮動性めまい,末梢性浮腫,体重増加についてはプラセボ群(5.2%,1.3%,0.0%,2.6%)と比較してミロガバリン投与群(9.9%,7.7%,6.6%,5.5%)で発現率が上昇したが,その割合はJ303試験全体と同程度であった.また,30 mg/日群におけるこれらの有害事象の発現割合は,J303試験全体と本サブグループ解析でおおむね同程度であった.

表3 おもな有害事象
有害事象 しびれ感のみを有する患者 J303試験全体
プラセボ群
(N=77)
ミロガバリン
15 mg/日
(N=35)
ミロガバリン
20 mg/日
(N=30)
ミロガバリン
30 mg/日
(N=26)
ミロガバリン
投与群
(N=91)
合計
(N=168)
合計
(N=824)
傾眠 4(5.2) 1(2.9) 6(20.0) 2(7.7) 9(9.9) 13(7.7) 71(8.6)
浮動性めまい 1(1.3) 1(2.9) 4(13.3) 2(7.7) 7(7.7) 8(4.8) 47(5.7)
末梢性浮腫 0(0.0) 2(5.7) 1(3.3) 3(11.5) 6(6.6) 6(3.6) 30(3.6)
体重増加 2(2.6) 3(8.6) 1(3.3) 1(3.8) 5(5.5) 7(4.2) 22(2.7)

患者数(割合,%).

IV 考察

ミロガバリンは,日本を含むアジアの多施設で実施されたJ303試験全体の結果より,DPNPを有する患者を対象に14週間の投与で有意な疼痛改善効果が示されている5).本研究では,J303試験に参加したDPNP患者のうち,しびれ感のみを有する患者集団におけるミロガバリンの有効性および安全性を検討した.主要評価項目であるADPSや副次評価項目のADSIS,PGIC,しびれ感に関する自覚症状についてのアンケートで,しびれ感のみを有する患者集団はJ303試験全体と同様の結果がみられた.これらの結果から,ミロガバリンはしびれ感のみを有する患者においても各種自覚症状の改善が観察された.このことは,ミロガバリンは疼痛症状と同様にしびれ感に対して有効性を示すことを示唆している.このようなしびれ感を有する患者を対象とした評価は他のDPNP治療薬では行われていないため,この結果はDPNP治療薬が陽性症状のしびれ感に効果を示した初めての報告である.

チクチク,ビリビリすると表現されるしびれ感はとくにDPNPで目立つ症状であり,欧米患者ではDPNPの一症状と記載されることが多い16).その発生機序として,慢性高血糖負荷による再生神経成熟不全や,高血糖時に生成される代謝物質による末梢痛覚線維Naチャネル興奮閾値低下などが推定されている17).このような病態メカニズムは,疼痛を引き起こす神経障害と類似していると考えられることや,DPNPにおけるしびれ感は疼痛と同じく陽性症状であることからニューロンの異常興奮が原因として考えられる.一方でミロガバリンは,電位依存性カルシウムチャネルα2δ-1サブユニットに強力かつ持続的に結合し,カルシウムイオンの流入を抑制し,神経伝達物質の放出を抑えることで鎮痛作用を発現すると考えられている4,18).しびれ感の詳細な病態メカニズムは解明されていないが,ミロガバリンはしびれ感に対しても同様の機序により,効果を発現すると考えられる.また,チクチク,ビリビリすると表現されるしびれ感はDPNPに限らず他の末梢性神経障害性疼痛でもしばしばみられる自覚症状である.本サブグループ解析では,DPNPを有する患者を対象にしたが,想定される病態メカニズムおよびミロガバリンの作用機序から,他の末梢性神経障害性疼痛における同様なしびれ感に対しても改善効果が期待される.

本研究の限界として,事後的なサブグループ解析であり解析対象の患者数が少なく,ミロガバリンの各評価項目に対する影響について断定的な言及は困難であることがあげられる.しびれ感に対する有効性および安全性に関する結論を検証するためには,より大規模な前向き臨床試験を新たに実施する必要がある.

本サブグループ解析によって,ミロガバリンは糖尿病性末梢神経障害性疼痛のしびれ感への効果が示唆され,末梢性神経障害性疼痛全般のしびれ感にも効果が期待される.しびれ感は患者のQOLを低下させるため,ミロガバリンによる治療により末梢性神経障害性疼痛患者のQOLの改善が期待される.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第54回学術集会(2020年11月,Web開催)において発表予定である.

文献
 
© 2020 Japan Society of Pain Clinicians
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