Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2021 Volume 28 Issue 1 Pages 8-10

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I はじめに

今回,SGLT(sodium glucose transporter)2阻害薬使用後の難治性慢性膀胱炎による痛みに対して上下腹神経叢ブロック(superior hypogastric plexus block:SHPB)を施行し,奏効した症例を経験したので報告する.

II 症例

53歳の女性.身長154 cm,体重101 kg.

主訴:下腹部痛,頻尿.

既往歴:2型糖尿病(type 2 diabetes:T2D),高血圧,強直性脊椎骨増殖症.

現病歴:T2Dにより他院内科でX−1年10月よりSGLT2阻害薬(ルセオグリフロジン製剤)が導入された.その後より膀胱炎を繰り返すため数カ月後に中止され,以降メトホルミンで治療を継続した.膀胱炎に対して抗生物質(レボフロキサシンやバンコマイシン)による治療を行ったが排尿時痛と頻尿,血尿が持続し,尿検査で白血球反応は3+と炎症が持続した.膀胱鏡検査では間質性膀胱炎は否定的で,膀胱壁生検で慢性炎症を除き有意な所見はなかった.数カ所の病院を受診し,症状緩和のためプレガバリン(150 mg/日),ロキソプロフェン,アセトアミノフェン,ペンタゾシン筋注(頓用)による疼痛コントロールが試みられたが効果が乏しく,精査治療のためX年12月より当院内科に入院となった.猪苓湯(15 g/日)が開始されたが奏効しなかった.CT検査で膀胱壁全体の肥厚が確認され,尿培養検査は陰性で無菌性難治性膀胱炎と診断された.膀胱摘出やステロイド治療を考慮されたが,高度肥満とT2Dを考慮し積極的には推奨し難いと判断された.症状緩和目的でX年12月に当科紹介受診となった.

初診時現症:排尿時とその後15分ほど持続する下腹部痛は数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)9程度,排尿後以外でもNRS 3程度の痛みを訴えた.また昼間1回/1~1.5時間,3回/就眠中(16~18回程度/日)の頻尿がみられた.

治療経過:当科受診後よりトラマドール塩酸塩錠(200 mg/日まで漸増)を開始したが奏効しなかった.仙骨硬膜外ブロック(0.4%メピバカイン10 ml)で数日間排尿時痛の軽減が得られたが再燃したためSHPBを提案した.

X+1年1月SHPBを施行した(図1 a,b).高度肥満のため腹臥位は困難だった.左側臥位でレントゲン透視下にL5傍椎体法で施行した.右は造影剤5 ml注入後に局所麻酔薬(2%メピバカイン7 ml)の投与を行った.左側はやや体を前方に倒して穿刺し,ある程度進めたところで側臥位に戻し撮影を行ったが,造影剤の血管内注入となり中止とした.右のみ99%エタノール6 mlを注入した.ブロック後より突出痛はなくなり,持続痛もNRS 2程度に軽減した.排尿回数は15回程度とやや改善した.SHPB施行後数カ月間症状の増強なく,症状再燃時に再度施行する方針とした.

図1

上下腹神経叢ブロック

右側より造影剤注入後のレントゲン撮影像

a:側面像,b:正面像

III 考察

SGLT2阻害薬は,従来のT2D治療薬と異なり近位尿細管に作用して糖の再吸収を阻害する1).さまざまな利点があるが,尿への糖排出増加による尿路感染症に注意する必要がある.しかし本症例で使用されたルセオグリフロジンに関しての単独および経口糖尿病薬併用での調査では尿路感染症の頻度は0~5.3%で,中止に至るような重篤なものは報告されていない2,3).本症例の難治性膀胱炎に至った原因は不明であるが,高度肥満やT2D等が免疫応答の異常をきたし慢性炎症をもたらすという報告があり4),慢性炎症をきたしやすい全身状態とそれに加えて末梢性感作などが加わった複合的な要因によるものと考えられた.

SHPBは,難治性骨盤部内臓痛の治療として施行される.献体を用いた解剖学的研究では,上下腹神経叢は左右の腸間膜神経叢の延長部から形成され94%でシート状外観の一塊として存在すると報告され,82.4%は大動脈分岐より下位に位置し,58.8%で正中線のやや左側に,41.2%で正中に存在した5).本症例のSHPBは右側のみの施行だったが良好な結果を得た.上記解剖学的知見から考察すると多くの症例で正中付近に上下腹神経叢が存在することから,片側(できれば左側から)のみのアプローチでも正中まで造影されれば一定の患者で良好な結果が得られるものと考えられた.また本症例では,左側臥位で下方に薬液が流れ込みやすい体勢も良い結果をもたらしたと推測した.

良性疾患に対する神経破壊薬を用いたSHPBは,慎重に検討する必要がある.本症例では高度肥満および頻尿により同じ体勢保持が困難であったことを考慮し,ブロックの回数を減らす目的で初回から神経破壊薬を使用した.本症例のようなSGLT2阻害薬による難治性膀胱炎はまれな病態であり,根治的治療は困難であるが,SHPBにより痛みが軽減された.

IV まとめ

SGLT2阻害薬内服歴がある難治性慢性膀胱炎の患者に対し,SHPBが痛み改善に有用であった1例を経験した.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第53回大会(2019年7月,熊本)において発表した.

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