Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Two patients with herpes zoster-associated pain in the subacute phase successfully treated with intravenous lidocaine
Keiko SHIMOHATATakayoshi SHIMOHATA
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2021 Volume 28 Issue 12 Pages 258-261

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Abstract

帯状疱疹関連痛(zoster-associated pain:ZAP)に対するリドカイン点滴静注は,本邦の神経障害性疼痛治療ガイドラインには含まれていないが,難治性疼痛治療に広く用いられている.亜急性期のアロディニアを伴うZAPに,リドカイン点滴静注が奏功した2症例を経験したので報告する.症例1は70歳男性,右Th4帯状疱疹を1カ月前に発症した.電撃痛,睡眠障害に対しプレガバリンが無効で,VAS 80 mm,アロディニアを認めた.抗血栓療法中のためリドカイン点滴静注を行ったところ,直後より電撃痛とアロディニアは軽減した.症例2は69歳男性で,左Th5帯状疱疹を3カ月前に発症した.電撃痛と睡眠障害に対し,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),プレガバリンが無効で,VAS 70 mm,アロディニアを認めた.肋間神経ブロックとリドカイン点滴を行ったところ,直後よりアロディニアは消失,疼痛も低下した.いずれの症例でも副作用は認めなかった.リドカイン点滴静注は,抗血栓療法中など神経ブロックが施行できないアロディニアを伴うZAPに対して有用な補助療法の一つと考えられた.

I はじめに

帯状疱疹関連痛(zoster-associated pain:ZAP)は,帯状疱疹に伴う痛みの総称である1,2).ZAPは,皮疹が出現する前の前駆痛,皮疹が出現しているときの急性帯状疱疹痛,そして皮疹消失後の帯状疱疹後神経痛に分けられる.Dworkinらは,さらに急性期を皮疹出現から30日までを急性期,皮疹出現から31~90日を亜急性期,91日以降を帯状疱疹後神経痛と定義している3).亜急性期ZAPの治療に関して指針はなく,症例に応じた治療の選択となる.リドカイン点滴静注は,本邦の神経障害性疼痛治療ガイドラインには含まれていないが4,5),難治性疼痛に適応外使用が認められており,臨床で広く用いられている6)

今回,亜急性期のアロディニアを伴うZAPに,リドカイン点滴静注が奏功した2症例を経験したので報告する.本症例の報告にあたり,患者本人の承諾を書面にて得ている.

II 症例

症例1:70歳,男性.172 cm,85 kg.

既往歴:心房細動,高血圧,脳塞栓症(左不全片麻痺).

現病歴:X年11月15日,右胸背部に痛みを伴う皮疹が出現した.18日,帯状疱疹と診断されアメナメビル400 mg/日を7日間内服した.24日,疼痛が悪化しプレガバリン50 mg/日,メコバラミン1,500 mg/日の内服を開始した.12月8日,プレガバリン150 mg/日に増量したが鎮痛効果を認めず,疼痛による睡眠障害を認めたため,12月14日当科に紹介された.

初診時現症:右背部から前胸部のびりびりした持続痛と,10秒ほど続く針で刺されるような発作性の電撃痛を認め,視覚アナログスケール(visual analogue scale:VAS)80 mmであった.右第4胸髄領域の皮膚に広範囲の色素沈着を認めた.感覚鈍麻は5/10で,アロディニア,睡眠障害も合併し,神経障害性疼痛スクリーニング質問表(Japan-Q)7)は14点であった.帯状疱疹発症1カ月後の右第4胸髄領域のZAPと診断した.

治療経過:抗血栓療法中で神経ブロックが施行できなかったため,リドカイン100 mgの点滴静注を行ったところ,直後より電撃痛とアロディニアは軽減した.副作用は認めなかった.プレガバリン150 mg/日に加えデュロキセチン20 mg/日,エトドラク400 mg/日,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液16単位/日の内服を開始した.受診2回目(治療開始1週後),VAS 40 mmに減少し電撃痛やアロディニアもほぼ消失,睡眠障害も認めなかった.受診3回目(治療開始4週後),VAS 10 mmでアロディニアは消失,疼痛範囲も右前胸部に縮小した.受診4回目(治療開始8週後),痛みも消失,異常知覚のみとなった.受診5回目(治療開始11週後),リドカイン点滴静注を計5回で終了した.受診6回目(治療開始15週後)よりエトドラクを中止,プレガバリンは漸減し,治療開始10カ月後にすべての内服を中止し完治した.

症例2:69歳,男性.167 cm,75 kg.

既往歴:高血圧,脂質異常症.

現病歴:X年11月8日,左胸背部に痛みを伴う皮疹が出現した.11月18日,帯状疱疹と診断され,アメナメビル400 mg/日を7日間内服した.12月24日より左胸背部の疼痛が悪化し,X+1年,1月15日よりNSAIDs,プレガバリン75 mg/日の内服を開始したが効果はなく,睡眠障害が重度のため,1月18日当科を受診した.

初診時現症:左背部から前胸部の電気が走るような痛みをVAS 70 mmで認めた.左第4胸神経領域に色素沈着があり,感覚鈍麻は6/10,アロディニア,睡眠障害も合併し,Japan-Qは14点であった.帯状疱疹発症2カ月半後の左第5胸髄領域のZAPと診断した.

治療経過:硬膜外ブロックを希望しなかったため,肋間神経ブロック(1%メピバカイン5 ml)と,リドカイン100 mgの点滴静注を行ったところ,直後よりアロディニアは消失し,疼痛も低下した.副作用は認めなかった.デュロキセチン20 mg/日,エトドラク400 mg/日,プレガバリン150 mg/日,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液16単位/日の内服を開始した.受診2回目(治療開始1週後),VAS 40 mmに軽減,アロディニアは認めず,睡眠障害も改善した.デュロキセチンは40 mg/日に増量した.受診3回目(治療開始3週後),VAS 30 mmに軽減しアロディニアと睡眠障害も認めなかった.受診4回目(治療開始4週後)では,電気が走るような痛みから締め付けられる痛みに変化したが,VAS 20 mmであった.肋間神経ブロックとリドカイン点滴静注は1~2週に1回施行し,4月26日(受診12回目,治療開始14週後)まで計12回行い終了した.その間VASは10~20 mm程度で,9月13日にはほぼ消失した.内服薬は2月22日よりエトドラク,4月1日よりワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液,5月15日よりデュロキセチン中止,プレガバリンも漸減中止し,治療開始10カ月後に完治した.

III 考察

帯状疱疹関連痛は,病期により病態機序が異なるため治療も異なる2).急性期は,水痘–帯状疱疹ウイルスによる神経および皮膚病変の炎症のための侵害受容性疼痛が主体で,治療は抗ウイルス薬,NSAIDsやアセトアミノフェンの内服,疼痛が重度の場合には神経ブロックの適応となる5).一方,慢性期の帯状疱疹後神経痛は,神経障害性疼痛が主体であり,神経障害性疼痛薬物ガイドラインに基づいた治療を行う2,4,5).亜急性期の治療に関しては指針がなく,個々の症状に応じた治療となる.

今回の2症例は,亜急性期に相当し,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛が混在している状態と考えられる.侵害受容性疼痛から神経障害性疼痛へ移行する時期は明確なものはなく,急性期でも神経障害性疼痛を呈する症例がみられたとの報告もある8).本症例では,アロディニアを認めJapan-Qでも,感度70%,特異度76%でスクリーニングされる9ポイント以上を示し,神経障害性疼痛の要素が強く考えられた.しかし,当初プレガバリンによる治療効果が乏しいという特徴がみられた.

局所麻酔薬,抗不整脈であるリドカインは,ナトリウムチャネルを遮断することにより,神経の過剰興奮や異所性発火を抑制し,鎮痛効果をもたらすと考えられている9).リドカインの静脈内投与が神経障害性疼痛に有効であることを示すランダム化比較試験や症例報告は,過去に数多く報告されている10,11).Bararowskiらは,帯状疱疹後神経痛に対するランダム化比較試験で,リドカインを1 mg/kgまたは5 mg/kg点滴静注したところ,VASの低下,アロディニアの軽減や疼痛範囲の減少を認め,鎮痛効果はリドカイン1 mg/kgと5 mg/kgで差はなかったと報告している10).Attalらも,帯状疱疹後神経痛,神経損傷に,リドカイン5 mg/kgのランダム化比較試験を行い,VASの低下とアロディニアの軽減を認め,鎮痛効果の継続は6時間まで認めたが,ピークは投与後1~2時間と短時間であったと報告している11).2019年のシステマティックレビューでも神経障害性疼痛に対し偽薬より有意に鎮痛効果が高いが,効果は短期間に限られること,重篤な副作用は認めないと示している12).つまり,リドカイン点滴静注は作用時間が短いが神経障害性疼痛に有効で,副作用も少なく簡便に施行できることから,抗血栓療法中などで神経ブロックが行えない場合に良い適応と考えられる.

また本症例はプレガバリンに抵抗性のアロディニアを伴っていたが,リドカイン点滴静注により消失した.アロディニアは,触覚刺激で痛みが誘発される症状であるが,病態機序に関して未だ明らかにされていない.正常な状態では,Aβ線維からの入力である非侵害性機械刺激は,抑制性介在ニューロンによりAδ線維やC線維に伝達されることはない.しかし神経損傷が起こると,介在ニューロンの機能が破綻,神経回路の異常をきたしアロディニアを生じる可能性が考えられている.脊髄後角のミクログリアがP2X4受容体を介して活性化し,脳由来神経栄養因子を放出することで神経回路の異常をきたす説13)や,大脳皮質の一次体性感覚野で,アストロサイトの活動が亢進しトロンボスポンジン1を放出することで神経回路の再編成を引き起こす説14)が近年報告されている.リドカインがアロディニアに及ぼす影響は解明されていないが,四級リドカイン誘導体であるQX314が,Toll様受容体5を介して脊髄後角のAβ線維を選択的に遮断しアロディニアを抑制するとの論文があり15),今後注目される.

本症例のlimitationとしては,亜急性期のZAPに自然軽快する症例も含まれるため,本症例もその経過の一つである可能性も否定できないことである.しかし,2症例とも睡眠障害をきたすほどの強い疼痛を呈し自然軽快することは難しいと考える.また,初回のリドカイン点滴静注直後に,2症例目は肋間神経ブロックを併用したが,明らかに電撃痛の低下やアロディニアの消失を認めた.その効果はリドカインの作用時間を超え翌週まで続いており,リドカインによる短時間の速やかな疼痛とアロディニアの軽減を契機に,追加した薬剤の効果が定常状態になるまでの補助療法として有用であったとも考えられる.本症例のようにプレガバリンの効果が不十分なアロディニアの強いZAPに対し選択肢の一つとして検討しても良いと思われた.リドカインと同様の作用を持つメキシレチンは,症例1ではカルベジロールを内服,症例2では本人が希望しなかったため併用しなかった.

以上,亜急性期のZAPに対しリドカイン点滴静注が奏功した2症例を報告した.いずれもアロディニアを伴い,VAS,Japan-Qスコアが高く,プレガバリンに対し抵抗性であったが,リドカイン点滴静注により速やかにアロディニアは消失した.リドカイン点滴静注は,抗血栓療法中で神経ブロックが施行できない場合のZAPの補助療法として,簡便で副作用も少なく,有用であると考えられた.

本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第54回大会(2020年11月,Web開催)において発表した.

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