2021 Volume 28 Issue 4 Pages 43-48
【目的】慢性痛では副作用をできるだけ少なくしながら痛みの管理を行うことが重要である.今回,プレガバリン(pregabalin:PGB)が効果不十分な症例に対してミロガバリン(mirogabalin:MGB)へ変更し,添付文書の用法・用量よりも少量から開始して副作用について調査した.【方法】神経障害性疼痛の要素を含む慢性痛患者に対して,PGBの一日投与量を150 mg以下に減量後,MGBへ切り替えた.MGBは添付文書の用法・用量よりも少量から開始・漸増し,2,4,8,12,24週間後に副作用を質問票で,痛みを数値評価スケールで調査した.MGB以外の内服薬は固定量で継続投与し,神経ブロック治療は同内容を継続した.【結果】対象は257名,副作用によりMGBの投与を中止となった症例は87例(33.9%),おもな中止理由は傾眠,浮動性めまいであり,MGB承認時臨床試験の副作用発現率およびおもな副作用と同様であった.副作用中止例のうち74例はMGB投与開始から12週間後までの増量期間中に出現していた.痛みを理由にPGBへ再変更した症例はなく,PGBの減量および中止による退薬症状を認めなかった.【結論】PGBからMGBへ変更する際,添付文書の用法・用量より低用量から開始・漸増しても,副作用は添付文書と同等に出現する可能性がある.MGBはより低用量から開始・漸増する方が安全と考えられる.
慢性痛では副作用をできるだけ少なくしながら痛みの管理を行い,患者の生活の質(quality of life:QOL)や日常生活動作を向上させることが重要である1).ミロガバリン(mirogabalin:MGB)は新規の末梢性神経障害性疼痛治療薬でプレガバリン(pregabalin:PGB)と同様の作用機序を有する2–4)が,PGBでは添付文書5)の用法・用量で効果が得られる前に副作用が出現し,中止せざるを得ない症例が少なからず存在していた6,7).そのため,本研究ではPGBからMGBへ添付文書8)の用法・用量よりも少量から切り替え,併用薬や神経ブロック治療は変更せずに,実臨床でのMGBの副作用について調査した.
本研究は前向き観察研究でNTT東日本関東病院の倫理委員会の承認を得た(東総人医関病企第19–131号).本研究の参加に際し,担当医師は患者または代諾者に対して同意説明文書を用いて研究内容を十分に説明し,自由意志による同意を文書で得た.対象は,PGBを3カ月以上投与しても数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)4以上の神経障害性疼痛の要素を含む慢性痛患者とし,PGBを中止してMGBを低用量から開始した.
切り替えの方法は,研究参加時にPGBの一日の投与量が150 mg以下の症例ではPGBを中止し翌日よりMGBを開始した.PGBの一日の投与量が150 mgより多い症例では,150 mgに減量して2週間後にPGBを中止し翌日よりMGBを開始した.研究参加時に併用していたMGB以外の内服薬は固定量で継続投与とした.神経ブロック治療を併用している症例では同内容の治療を継続した.MGBの初期投与量は2.5 mgとしたが,年齢や体型によって主治医の判断で2.5~5 mgの範囲内での変更は可能とした.臨床症状に応じて1~4週間ごとに漸増し,30 mgを上限として定常状態を維持する投与量を決定した.
副作用の評価は質問票で行った.質問票は,研究参加時およびMGB投与2,4,8,12,24週後に施行した.MGB添付文書8,9)の主要な副作用項目である,傾眠,浮動性めまい,および神経障害性疼痛の要素を含む慢性痛患者の薬物療法時に多く認める便秘,嘔気,口渇感,浮腫について,4段階:症状なし・軽度(日常的活動に軽度影響があるがMGB内服を継続できる)・中等度(日常的活動に影響があるがMGB内服を継続できる)・高度(日常的活動が不能となりMGB内服を中止した)で評価した.その他の副作用が発現し中止に至った症例ではその原因について診察により回答を得た.痛みの評価はNRSで,研究参加時とMGB投与2,4,8,12,24週後に調査した.PGBの一日の投与量が150 mgより多い症例では減量時にもNRSを調査した.QOLの評価はEuroQOL Questionnaire-5 dimension(EQ-5D)で研究参加時とMGB投与4,8,12,24週後に調査した.推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate:eGFR)が29 ml/min/1.73 m2以下,肝機能検査で基準値以上,妊産婦,授乳婦,20歳未満で本人以外に同意書作成が必要な患者は除外した.患者背景は平均値±標準偏差で表した.PGBおよびMGBの一日の投与量,NRS,eGFRは中央値(四分位範囲)で表した.統計処理はMann-Whitney U test,Kulskal-Wallis test,post hoc testはSteel-Dwass検定を用いて検討した.P<0.05で有意とした.統計解析ソフトはEZR Version 1.5410)を使用した.
研究参加者280例のうち調査対象は257例となった(図1).患者背景は,男性122名,女性135名,年齢は67.1±13.3歳,身長は161±9.6 cm,体重は60.1±11.6 kgであった.疾患の内訳は,帯状疱疹後神経痛84例,腰部脊柱管狭窄症62例,腰椎術後症候群30例,腰椎椎間板ヘルニア22例,頸椎症性神経根症12例,頸椎椎間板ヘルニア11例,頸椎術後症候群7例,三叉神経痛8例,その他21例であった.研究参加時のPGBの一日の投与量は150(93.8~150) mgで,NRSは7(4.8~8),EQ-5Dは0.649(0.533~0.715)であった.PGBの一日の投与量が150 mgより多かった症例は24例(9.3%)で,内訳は300 mg 13例(5.1%),225 mg 8例(3.1%),200 mg 3例(1.1%)であり,NRSは6(4.8~8)であった.PGB 150 mgに減量時のNRSは6(5~8)で,痛みを理由に他剤増量した症例はなく,不眠や悪心,頭痛等のPGBの退薬症状5)は認めなかった.腎機能はeGFR 67.0(58.0~79.3) ml/min/1.73 m2で,慢性腎臓病のGFR区分11)でG2(正常または軽度低下)~G3b(中等度~高度低下)の範囲内であった.
研究参加者のフローチャート
MGB以外の主要な併用薬は,トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合錠,デュロキセチン,トラマドール塩酸塩であり,139例(54.1%)で投薬していた.内訳は,トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合錠48例(18.7%),デュロキセチン39例(15.2%),トラマドール塩酸塩27例(10.5%)で,2剤併用例はトラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合錠+デュロキセチン17例(6.6%),トラマドール塩酸塩+デュロキセチン8例(3.1%)であった.神経ブロック治療は245例(95.3%)で施行していた.
調査対象257例中,MGBの副作用により中止となった症例(副作用中止例)は87例(33.9%)であった(図1).おもな中止理由は傾眠,浮動性めまいであった(表1).副作用の発現時期は,2週間以内27例(10.5%),2~4週間16例(6.2%),4~8週間21例(8.2%),8~12週間10例(3.9%),12~16週間10例(3.9%),16週以降3例(1.2%)であった.
副作用中止例 | 87(33.9) |
---|---|
傾眠 | 30(11.7) |
浮動性めまい | 21(8.2) |
浮腫 | 9(3.5) |
腹部膨満,不快感 | 7(2.7) |
霧視 | 4(1.5) |
高血圧,起立性低血圧 | 3(1.2) |
掻痒症 | 3(1.2) |
薬疹 | 3(1.2) |
肝機能障害 | 2(0.8) |
口渇感,口内乾燥 | 1(0.4) |
その他 | 4(1.5) |
副作用の内訳と中止例数(発現率%)を示す.
軽度や中等度の副作用を認めた症例(軽中等度副作用例,重複あり)は134例(52.1%)であった(図1).軽中等度副作用は研究参加時点のPGB投与時から認めており,MGBへ変更後もその発現率は有意な増減を認めなかった(図2).
ミロガバリン継続例での軽中等度副作用の発現率
研究参加時を0週とした.軽中等度副作用は研究参加時(プレガバリン投与時)から認めており,その発現率はミロガバリンへ変更2,4,8,12,24週間後と比較して有意な増減を認めなかった.
MGBの一日の投与量は開始時2.5(2.5~2.5)mgで,12週間後まで増加したが,12週間後と24週間後では有意差を認めなかった(図3).NRSは研究参加時7(5~8)からMGB開始2週間後6(4~7)となり(図4),調査期間中に痛みを理由にPGBへ再変更した症例はなく,PGBの退薬症状5)は認めなかった.EQ-5Dは研究参加時0.649(0.533~0.715)からMGB開始4週間後0.654(0.587~0.768)になった(図4).副作用中止例とMGB継続例とのeGFRを比較すると,それぞれ66(57.5~78.5),67(59~80) ml/min/1.73 m2であり,有意差を認めなかった.
ミロガバリンの1日の投与量の変化
ミロガバリンの一日の投与量を示す.ミロガバリン投与開始から12週間後まで有意に増加したが,12週間後と24週間後では有意差を認めなかった.箱ひげ図は,最小値–第1四分位–中央値–第3四分位–最大値とし,中央値は太線で示した.
* p<0.05 vs投与開始時,# p<0.05 vs 2週間後,Ф p<0.05 vs 4週間後,Δ p<0.05 vs 8週間後.
NRSとEQ-5Dの変化
箱ひげ図は,最小値–第1四分位–中央値–第3四分位–最大値とした.
NRS:数値評価スケール(numerical rating scale),EQ-5D:EuroQOL Questionnaire-5 dimension.
神経障害性疼痛の要素を含む慢性痛患者でPGBが効果不十分な症例に対して,MGBの一日の投与量を2.5~5 mgから開始し,担当医が臨床症状に応じて漸増した.本研究での副作用中止例の発現率およびおもな中止理由は,MGB承認時臨床試験9,12,13)の副作用発現率36.1%,おもな副作用の傾眠15.4%,浮動性めまい10.1%,浮腫6.8%と同様であった.MGB承認時臨床試験9,12,13)では,MGBの初期投与量を10 mgとし,2週間の漸増期を設定した場合に副作用発現率が低下したと報告している.本研究ではMGBをより低量から開始・漸増したにもかかわらず,同程度に副作用中止例が出現しており,MGBは添付文書8)の用法・用量よりも低用量から開始し漸増する方が安全と考えられた.MGBの有害事象の発現には最高血中濃度が最も関係するとされており14),MGBの投与量の増加に伴い副作用の発現率は上昇すると報告されている9).本研究でも副作用中止例87例のうち74例はMGB投与開始から12週間後までに出現していた.投与開始から増量の期間中は効果を得るより副作用を抑制する目的で血中濃度を漸増する期間と捉える方が安全と考えられた.
PGBでは低用量から開始することで重篤な副作用は発現せず継続増量が可能であり6),神経障害性疼痛治療薬の第一選択薬15)の一つであるデュロキセチンでも投与継続に伴って副作用発現率は増加しない16,17)と報告されている.本研究ではPGBからMGBへ変更後に軽中等度副作用の発現率は増加しなかったが,研究期間を通して一定の割合に認め,MGB継続中のどの時点でも副作用が重篤になり薬物療法の拒否につながる可能性が考えられた.忍容性を考慮することで中断症例数を減らせた報告もあり18),MGBの継続投与時には臨床症状を診ながら忍容できる量で漸増する配慮が必要と考えられた.
MGBはPGBと同様の作用機序を有し,電位依存性カルシウムチャネルα2δサブユニットに結合し,興奮性神経伝達物質の過剰放出を抑制することにより鎮痛作用を発現すると考えられている2).また,転写因子NF-κBを介した作用や痛みの下行性抑制系賦活作用なども報告されている3,4).今回の研究でPGBの減量およびPGBからMGBへの変更時に,痛みによるPGBへの再変更や退薬症状を認めなかったのは,短期間での同効薬への切り替えによる可能性が考えられた.MGBはα2δ-1サブユニットに対する解離半減期が長く,長時間結合できるため,α2δ-1サブユニットを介した薬理作用を選択的に発現するとされており2,14),PGBが効果不十分な症例に対して低用量から変更できるかもしれないが,交絡因子を排除した形での研究が待たれる.
慢性痛の薬物療法では痛みの機序に基づいて薬物を選択し,他剤を併用している例が多い.異なる鎮痛機序の薬剤を併用することでそれぞれの薬剤の使用量を少なくし,副作用の危険性を少なくすることも期待できる.一方で,複数の薬物使用による相互作用も考える必要があるため薬物の併用には十分な注意が必要である.本研究では実臨床でのMGBの副作用を検討するため,MGB以外の内服薬を固定量で継続投与したが,多剤併用の影響も否定できず,今後交絡因子を排除した形での研究が待たれる.
慢性痛に対する治療法として,薬物療法,インターベンショナル療法,心理療法,運動療法等を単一でなく統合して行うと,より効果的である1).慢性痛に対する神経ブロック治療についてエビデンスレベルの高い報告はない19)が,神経ブロック治療は他の治療に比べ一時的な鎮痛効果は優れており,慢性痛症例のQOL向上に寄与するという報告もあり20),慢性痛の原因となる病態によっては有効に活用できると考えられる.本研究では実臨床でのMGBの副作用を検討するため研究参加時に併用していた神経ブロック治療は継続したが,神経ブロック治療の併用は薬物投与量に影響を及ぼす可能性があり交絡因子となるため,MGBの効果と有用性を検討する際にはコントロール群を設定し,交絡因子を排除した形での研究が望まれる.
MGBはおもに腎臓を介して排泄されるため,添付文書8)ではクレアチニンクリアランス値を参考に投与量,投与間隔を調整することを推奨している.Katoらは,中等度腎機能障害患者には開始量5 mg,1週間後10 mg,維持量15 mgとし,重度腎機能障害患者には開始量2.5 mg,1週間後5 mg,維持量7.5 mgとすることで,忍容性は良好で腎機能障害の程度によらず有効性が認められたと報告している21).本研究では,副作用中止例とMGB継続例とのeGFRを比較し両群間に有意差を認めなかった.MGBは腎機能障害の程度にかかわらず低用量から開始し漸増する方が安全と考えられた.
本研究は単施設での観察研究であり,対象患者は年齢層およびeGFRはMGB承認時臨床試験9,12,13)と同等であったが,対象疾患は帯状疱疹後神経痛や腰部脊柱管狭窄症が主であり,MGB承認時臨床試験9,12,13)の帯状疱疹後神経痛および糖尿病性末梢神経障害性痛とは一部異なっていた.今後,症例数を増やして疾患別でのさらなる検討が必要である.
本研究では,PGBが効果不十分な症例に対して,PGBの一日の投与量を150 mg以下に減量が可能であった場合,MGBへ変更して低用量から開始・漸増した.添付文書8)の用法・用量よりも低用量から漸増したにもかかわらず,副作用出現率は添付文書8)と同等であった.神経障害性疼痛の要素を含む慢性痛患者にPGBからMGBへ変更する際は,MGBを低用量から慎重に漸増する(start low and go slow)方が安全と考えられた.
この論文の要旨は,日本麻酔科学会第67回大会(2020年7~8月,Web開催)において発表した.