2021 Volume 28 Issue 6 Pages 100-108
【目的】中等度から高度の非がん性慢性疼痛患者を対象にオキシコドン塩酸塩徐放錠(OXC)からOXCの新剤型であるS-8117OTR(OTR)への切替え前後の有効性と安全性,薬物動態を評価する.【方法】国内27施設において,多施設共同,非無作為化オープンラベル試験を実施した.試験は,用量調節期(14~29日間,OXCを投与して切替え移行基準を満たすまで用量調節を行う),切替え治療期(14日間,OTRに切替えて用量を維持し評価を行う),漸減期(7日間),後観察期(7日間)で構成した.OXCからOTRへの切替え前後の有効性と安全性,薬物動態を評価した.【結果】81名が登録され,そのうち61名が切替え治療期に移行し44名が完遂した.主要評価項目の切替え治療期の疼痛コントロール維持率[95%信頼区間]は80.3%[68.2,89.4]であった.有害事象は81例中65例(80.2%)に発現した.主な副作用は,便秘,悪心,傾眠,嘔吐であった.薬物依存と評価された症例はなかった.【結論】OXCからOTRへの切替え前後において有効性と安全性,薬物動態に大きな差はなかった.
オキシコンチン®錠(オキシコドン塩酸塩徐放錠,以下,OXC)は,1995年にPurdue Pharma社が中等度以上の疼痛に対して米国で承認取得後,世界各国で最も使用されてきたが,1990年代より北米を中心にOXCをはじめとしたオピオイド製剤の乱用が問題となった.S-8117OTR(以下,OTR)は,乱用対策の一つとして開発された粉砕および水溶化による薬物の抽出が困難な新剤型であり,2010年に米国で承認取得後,2019年12月時点では世界20カ国以上で発売されている.本邦では,2003年に塩野義製薬(株)がOXCを「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」で承認取得後,2017年にOTRをOXCの剤型追加で承認を取得した.非がん性慢性疼痛(以下,慢性疼痛)に対しては,2010年に厚生労働省から医療上の必要の高い未承認薬・適応外薬として「中等度から高度の慢性疼痛における鎮痛」の開発要請を受け,OXCを用いた国内第3相試験(3試験)1,2)および本試験を実施後,OTRの効能追加として2020年に承認された.
本試験は,慢性疼痛患者においてOXCからOTRに切替えた際,疼痛コントロールが維持され,切替え前後で安全性および薬物動態に大きな差がないかを評価した.
国内27施設(表1)において,中等度から高度の慢性疼痛患者を対象に,多施設共同,非無作為化オープンラベル試験を2018年7月から2019年1月に実施した(JapicCTI-183986).各医療機関の治験審査委員会で承認後,被験者に対して参加前に試験内容を十分に説明したうえで,本人の自由意思による同意を文書で取得した.ヘルシンキ宣言,医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(good clinical practice:GCP)を遵守して実施した.
実施医療機関名 | 診療科名 | 治験責任医師 |
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社会福祉法人函館厚生院函館中央病院 | 整形外科 | 金山雅弘 |
医療法人社団関逓会仙台ペインクリニック | 麻酔科 | 伊達 久 |
公立大学法人福島県立医科大学附属病院 | 整形外科 | 矢吹省司 |
総合病院土浦協同病院 | 整形外科 | 河内敏行 |
医療法人研整会松田整形外科 | 整形外科 | 松田繁三 |
社会福祉法人聖隷福祉事業団聖隷佐倉市民病院 | 整形外科 | 岸田俊二 |
国立大学法人千葉大学医学部附属病院 | 整形外科 | 大鳥精司 |
NTT東日本関東病院 | ペインクリニック科 | 安部洋一郎 |
医療法人財団荻窪病院 | 整形外科 | 河野 亨 |
学校法人順天堂大学医学部附属順天堂医院 | 麻酔科・ペインクリニック | 井関雅子 |
国立大学法人東京大学医学部附属病院 | 緩和ケア診療部 | 住谷昌彦 |
医療法人社団眞和会西荻ペインクリニック | 麻酔科 | 河手眞理子 |
国立大学法人信州大学医学部附属病院 | 麻酔科蘇生科 | 田中 聡 |
社会医療法人抱生会丸の内病院 | 整形外科 | 縄田昌司 |
国立大学法人富山大学附属病院 | 整形外科 | 川口善治 |
独立行政法人労働者健康安全機構中部労災病院 | 神経内科 | 上條美樹子 |
医療法人早石会早石病院 | 整形外科 | 三木健司 |
医療法人寺西報恩会長吉総合病院 | 整形外科 | 梁瀬義章 |
医療法人徳洲会岸和田徳洲会病院 | 整形外科 | 小川将司 |
さかいペインクリニック | 麻酔科 | 酒井雅人 |
生田整形外科クリニック | 整形外科 | 生田進一 |
和歌山県立医科大学附属病院紀北分院 | 整形外科 | 川上 守 |
国家公務員共済組合連合会新小倉病院 | 整形外科 | 西田茂喜 |
佐賀大学医学部附属病院 | 整形外科 | 園畑素樹 |
医療法人藤垣クリニック | ペインクリニック・内科 | 藤垣 徹 |
一般財団法人潤和リハビリテーション振興財団潤和会記念病院 | ペインクリニック | 立山真吾 |
*掲載許諾施設,治験責任医師.
同意取得時に満20歳以上80歳未満で12週間以上痛みが継続し,各種慢性疼痛(器質的要因を含む慢性腰痛,変形性関節症,糖尿病性神経障害性疼痛,帯状疱疹後神経痛等)と診断された患者を対象とした.同時に,登録の14日以上前から非オピオイド鎮痛薬(鎮痛補助薬を含む)または単剤の弱オピオイド鎮痛薬(経口トラマドール製剤,経口コデイン製剤,ブプレノルフィン貼付剤)の定時投与で治療中かつ登録前24時間のBrief Pain Inventory(BPI)–疼痛重症度3)(平均の痛み)が4以上,あるいは単剤の強オピオイド鎮痛薬(経口モルヒネ製剤またはフェンタニル貼付剤)の定時投与で治療中(BPI–疼痛重症度は問わない)を条件とした.なお,経口コデイン製剤,経口モルヒネ製剤,フェンタニル貼付剤で治療中の患者はそれぞれ投与量が800 mg/日,120 mg/日,100 µg/日以下を条件とした.
悪性腫瘍の既往または合併,精神疾患の合併,本試験の評価に影響する疼痛を伴う合併症,疼痛の主因が心理社会的要因と考えられる患者,医師によるBrief Scale for Psychiatric Problems in Orthopaedic Patients(BS-POP)4)のスコアが11点以上,薬物乱用,薬物・アルコール依存歴のある患者等を除外した.
3. 試験デザイン本試験は,用量調節期14~29日間,切替え治療期14日間,漸減期7日間,後観察期7日間の4期(計最大約8週間)で構成した(図1).用量調節期は,先行オピオイド鎮痛薬の投与量から算出したOXCの投与量で(OXCの投与開始は先行薬の最終投与から薬剤ごとに設定した時間経過後),オピオイド鎮痛薬未投与の患者は1回5 mgで投与を開始し,移行基準(表2)を満たすまで用量調節(1日2回12時間ごとを目安に投与)した.移行基準を満たした患者は切替え治療期に移行し,用量調節期終了時と同一用量のOTRに切替え,1日2回12時間ごとを目安に14日間投与した.OTRまたはOXCの投与終了あるいは中止後は他のオピオイド鎮痛薬へ切替えを可とし,他のオピオイド鎮痛薬へ切替えない場合はOTRまたはOXCを7日間漸減投与した.OTRまたはOXCの投与終了あるいは中止後,7日間の後観察期を設けた.
試験デザイン
切替え治療期移行基準 投与開始15日目以降,下記基準のすべてに該当した場合,切替え治療期へ移行する. ・評価日前7日間の定時投与量が一定であった. ―評価日前7日前の夜(午後)に増量された場合も,本基準を満たしているものとする. ―評価日前7日間に過量投与がなく,指示された用量以下または未服薬の回数が2回以下の場合は本基準を満たしているものとする. ・評価日前3日間(評価日,評価日前日および評価日前々日)のBPI‐疼痛重症度(平均の痛み)が3以下に改善または登録時から30%以上改善が認められた. ・評価日前3日間,非オピオイド鎮痛薬(発熱等の有害事象に対する計3日以内の処置を除く)および鎮痛補助薬の新規追加および用法・用量の変更がなかった(減量は可). ―登録前日の用法・用量を基準として,1回投与量の増量または投与回数の増加がない場合とする. ・評価日前3日間,問診で治験責任(分担)医師により有害事象が認容できたと判断した. 鎮痛効果不十分の判定基準 切替え治療期で,下記基準のいずれかに該当した場合,鎮痛効果不十分と判定する. ・原疾患による疼痛増悪のため,治験薬の増量または鎮痛療法の変更(ただし,減量または中止は可),追加(非オピオイド鎮痛薬等によるレスキュー投与を含む.ただし,発熱等の有害事象に対する計3日以内の処置は除く)が必要と判断された. ・BPI‐疼痛重症度(平均の痛み)が3以下に改善しない[登録時のBPI‐疼痛重症度(平均の痛み)が0~5の被験者]または登録時から30%以上改善しない[登録時のBPI‐疼痛重症度(平均の痛み)が6~10の被験者]日が3日間継続した. |
神経ブロック,トリガーポイント注射,関節内ステロイド注射,電気痙攣療法,脊髄電気刺激療法,鍼灸療法は切替え治療期終了まで,治験薬を除くオピオイド製剤,手術,全身麻酔薬,トリアゾール系抗真菌薬は治験薬投与終了まで併用禁止とした.非オピオイド鎮痛薬(鎮痛補助薬を含む)の新規追加を禁止し,使用されている場合は登録前日からの用法・用量の変更を禁止した.
4. 評価項目と評価方法 1) 有効性主要評価項目は,切替え治療期の疼痛コントロール維持率(鎮痛効果不十分の判定基準(表2)に合致しなかった被験者の割合)とした.副次評価項目は,切替え治療期に鎮痛効果不十分と判定されるまでの期間,切替え治療期の鎮痛効果不十分または有害事象による中止率,切替え治療期への移行率,BPI–疼痛重症度,BPI–機能障害の程度6),Medical Outcome Study 36-item Short form Health Survey(SF-36)5)を評価した.BPI–疼痛重症度は患者が日誌に毎日記載し,BPI–機能障害の程度とSF-36は来院時に質問票を用い評価した.
2) 安全性有害事象は同意取得時から後観察期終了時まで調査し,重症度,治験薬との因果関係,重篤度(重篤/非重篤)を評価した.重症度は主にCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)v4.0に従い評価し,因果関係は「関連なし」,「関連あるかもしれない」,「おそらく関連あり」,「明らかに関連あり」の4段階で判定し,「関連なし」以外に判定された有害事象を副作用とした.臨床検査は来院回数(以下,Visit)1,5(または切替え治療期移行基準達成時),7(または中止時)に実施し,各医療機関の検査基準値を基に評価した(Visitは図1参照).退薬症候は,切替え治療期終了後または中止後に他のオピオイド鎮痛薬を使用しない患者を対象にClinical Opiate Withdrawal Scale(COWS)とSubjective Opioid Withdrawal Scale(SOWS)6,7)で評価した.薬物依存性評価はDependency-2-A(D-2-A),D-2-B8)で評価4)し,評価基準に該当またはD-2-A/B評価外で治験責任医師により薬物依存が疑われると判断された場合,安全性評価委員会に評価を依頼した.
3) 薬物動態OXCは切替え治療期の初回OTR投与直前(Visit 5),OTRは切替え治療期のVisit 6または7の午前の服薬前3時間以内に採血(4 ml)し,血漿中オキシコドン濃度(投与直前のトラフ値)を評価した.
5. 解析 1) 症例数設定目標症例数は60例(切替え治療期移行例を40例)とした.症例数の算出は,OXCの国内第3相試験1,2)結果から,OXCとOTRの有効性が同等の場合に切替え治療期終了時の疼痛コントロール維持率を86%(95%信頼区間の下限値は80%)と想定し,疼痛コントロール維持率の点推定値が80%以上を期待できる数とした.
2) 解析対象有効性の解析対象は,最大の解析対象集団(full analysis set:FAS),切替え治療期有効性解析対象集団(FAS-2)および治験実施計画書に適合した対象集団(per protocol set:PPS)を定義した.FASは治験薬を少なくとも1回投与されベースラインと治験薬の投与開始後,FAS-2はFASのうち切替え治療期移行後に治験薬を少なくとも1回投与され切替え治療期開始後,それぞれ少なくとも1時点でBPI–疼痛重症度が観測された被験者集団とした.PPSはFAS-2に含まれ,治験実施計画書の選択基準に合致しないか,除外基準に該当,治験から脱落,治験薬の治療遵守が不十分,併用治療の制限の逸脱に該当しない被験者集団とした.安全性解析対象集団は治験薬を少なくとも1回投与された被験者集団とした.
3) 有効性切替え治療期の鎮痛効果不十分率(主要評価項目の算出にも使用)または有害事象による中止率は,FAS-2を対象に割合およびその95%信頼区間をClopper-Pearson法を用いて求めた.BPI–疼痛重症度とBPI–機能障害の程度は,FASを対象に投与開始前の値をベースラインとしてFAS-2への採否別に用量調節期終了時までの変化量の要約統計量を,またFAS-2を対象に用量調節期終了時の値をベースラインとして切替え治療期終了時までの各観測時点の変化量の要約統計量を算出した.SF-36はFASを対象に投与開始前の値をベースラインとしてFAS-2への採否別に各観測時点の変化量の要約統計量を算出した.
4) 安全性有害事象および副作用はMedical Dictionary for Regulatory Activities(MedDRA,ver21.0)による器官別大分類(system organ class)と基本語(preferred term)で発現率および発現例数を算出し,さらに重症度および発現時期でも算出した.COWSは各観測時点での合計スコアについて,SOWSは各観測時点の合計スコアおよびベースライン(Visit 7または中止時)からの変化量について,治験薬(OXCとOTR)ごとに要約統計量を算出した.D-2-AとD-2-Bの各評価項目の頻度も治験薬ごとに集計した.
5) 薬物動態各症例の血漿中オキシコドン濃度をOXCおよびOTRごとに集計した.
用量調節期に登録された患者81例中61例が切替え治療期に移行し,44例が切替え治療期を完了した(図2).用量調節期中止例20例,切替え治療期中止例17例および切替え治療期完了例44例のうち,治験薬投与中止後に漸減期に移行し,かつ漸減期にオピオイド治療薬で治療を行わなかった被験者は,それぞれ2例,3例および9例の計14例であり,漸減期中止例はなかった.81例全例がFASおよび安全性解析対象集団であった.FAS-2はFASのうち用量調節期中止例20例を除く61例で,PPSはFAS-2のうち処置違反例4例および服薬不遵守例1例を除く56例であった.FASの患者背景(表3)は,年齢(平均値±標準偏差)は65.0±10.1歳で,過半数(61.7%)が65歳以上80歳未満,性別は女性が61.7%と多かった.登録された患者は全例日本人で,選択基準で入院・外来を問わなかったが全例外来患者であった.また,鎮痛目的で併用薬を使用した被験者は82.7%(67/81例),鎮痛目的で併用治療を実施した被験者は8.6%(7/81例)であった.FAS-2は年齢(平均値±標準偏差)が63.9±10.3歳,女性が65.6%であった.
患者の内訳
切替え治療期 移行例n=61 |
用量調節期 中止例n=20 |
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年齢 | 20歳以上65歳未満,n(%) | 26(42.6) | 5(25.0) |
65歳以上80歳未満,n(%) | 35(57.4) | 15(75.0) | |
年齢(歳) | 平均±標準偏差 | 63.9±10.3 | 68.5±8.9 |
性別 | 男性,n(%) | 21(34.4) | 10(50.0) |
女性,n(%) | 40(65.6) | 10(50.0) | |
身長(cm) | 平均±標準偏差 | 157.8±10.2 | 157.4±10.3 |
体重(kg) | 平均±標準偏差 | 64.4±13.9 | 59.14±11.4 |
診断名 | 変形性関節症,n(%) | 16(26.2) | 4(20.0) |
糖尿病性神経障害性疼痛,n(%) | 1(1.6) | 0 | |
帯状疱疹後神経痛,n(%) | 14(23.0) | 3(15.0) | |
慢性腰痛,n(%) | 18(29.5) | 10(50.0) | |
その他,n(%) | 12(19.7) | 3(15.0) | |
重要な既往歴* | 有,n(%) | 2(3.3) | 5(25.0) |
合併症 | 有,n(%) | 60(98.4) | 19(95.0) |
*重要な既往歴:悪性腫瘍または登録前6カ月(180日)以内に手術した疾患.
主要評価項目(FAS-2対象)の「切替え治療期の疼痛コントロール維持率[95%信頼区間]」は80.3%(49/61例)[68.2,89.4]で,PPSでは78.6%[65.6,88.4]とFAS-2と同様であった.副次評価項目の「切替え治療期に鎮痛効果不十分と判定されるまでの期間」は,鎮痛効果不十分と判定された被験者のFAS-2に占める割合が半分未満のため,その中央値は得られなかった.切替え治療期への移行率は75.3%(61/81例)で,鎮痛効果不十分または有害事象による中止率は26.2%(16/61例)であった.切替え治療期終了時の残存率[95%信頼区間]はKaplan-Meier法により79.9%[67.3,88.1]と推定された.
BPI–疼痛重症度(平均の痛み:0~10段階)の平均値(例数)は,投与開始前5.3(81例)と比較して用量調節期終了時3.3(81例)で改善し,切替え治療期終了時3.0(61例)と用量調節期終了時(切替え治療期移行例のみ)2.7(61例)で大きな差は認められなかった.その他のBPI–疼痛重症度の項目,BPI–機能障害の程度およびSF-36の各項目も同様の傾向を示した.
3. 安全性有害事象(表4)は81例中65例(80.2%)に176件発現し,5%以上発現した有害事象は,便秘,悪心,傾眠,嘔吐および上咽頭炎であった.副作用は81例中61例(75.3%)に141件発現し,5%以上発現した副作用は,便秘35例(43.2%),悪心29例(35.8%),傾眠20例(24.7%)および嘔吐12例(14.8%)であった.有害事象の重症度は,81例中軽度47例(58.0%),中等度17例(21.0%),高度1例(1.2%,肝機能異常:治験薬との因果関係は否定されなかった)で,死亡例および重篤な有害事象は認められなかった.有害事象の時期別発現率(表4)は,用量調節期で81例中60例(74.1%),切替え治療期で61例中13例(21.3%),切替え治療期移行後の有害事象発現率の変化および有害事象の重症度において明らかな悪化は認められなかった.漸減期は14例中4例(28.6%)に,後観察期は81例中9例(11.1%)に有害事象が発現した.中止は用量調節期が10例,切替え治療期が4例であった.
例数(%) | 用量調節期 n=81 |
切替え治療期 n=61 |
全体 n=81 |
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全ての有害事象 | 60(74.1) | 13(21.3) | 65(80.2) |
上咽頭炎 | 4(4.9) | 0 | 5(6.2) |
傾眠 | 20(24.7) | 1(1.6) | 21(25.9) |
便秘 | 33(40.7) | 3(4.9) | 35(43.2) |
悪心 | 27(33.3) | 3(4.9) | 29(35.8) |
嘔吐 | 11(13.6) | 2(3.3) | 12(14.8) |
退薬症候の評価で,COWSはベースラインから2段階以上カテゴリーが悪化した症例はなく,SOWS合計スコアはベースラインからの変化量は小さかった.また,離脱症候群の副作用は,切替え治療期終了後に移行した漸減期で1例発現し,転帰は回復であった.薬物依存が疑われた症例は,D-2-Aで6.2%(5/81例),D-2-Bで0%(0/81例)が評価基準に該当し,D-2-A/B評価外で1.2%(1/81例)が抽出されたが,いずれも安全性評価委員会で薬物依存に該当しないと評価された.
4. 薬物動態(図3)OXCからOTRへの切替え前後の血漿中オキシコドン濃度
血漿中オキシコドン濃度(投与前のトラフ値,用量を10 mgに標準化した平均値)は,用量調節期(OXC)が9.40 ng/ml,切替え治療期(S-8117OTR)が8.63 ng/mlであり,切替え前後で大きな差はなかった.
中等度から高度の慢性疼痛患者を対象に,OXCからOTRへの切替え前後の有効性と安全性,薬物動態を評価した.有効性の主要評価項目である切替え治療期の疼痛コントロール維持率[95%信頼区間]は80.3%[68.2,89.4]であり,OTRへ切替え後も鎮痛効果は持続されていた.OXCの国内第3相試験1,2)結果から想定した疼痛コントロール維持率の点推定値(80%以上)を超えているため,慢性疼痛患者においてOTRはOXCと同程度の鎮痛効果を示すと考えられる.
副次評価項目である切替え治療期への移行率,切替え治療期終了時の残存割合,切替え治療期の鎮痛効果不十分または有害事象による中止率は,これまでに本邦で実施された慢性疼痛患者対象のOXCの試験と大きな差はなかった.BPI–疼痛重症度,BPI–機能障害の程度およびSF-36は,いずれも投与開始前と比較して用量調節期の終了時に改善し,用量調節期と切替え治療期の終了時で大きな差は認められなかったことから,OTRへ切替え後も効果が維持されたと判断した.
本試験における有害事象はオキシコドン塩酸塩のがん性疼痛で報告されている副作用9)と類似しており,安全性に新たな懸念はなかった.また,OTRへ切替えに伴う安全性において問題は認められなかったことから,OXCとOTRは慢性疼痛の治療に用いた際の安全性に大きな差はないと判断した.
慢性疼痛患者対象のOXCの試験1,2)およびOXCとOTRを用いた本試験で,一貫した有効性および一定の忍容性が確認されたことから,オキシコドン塩酸塩徐放錠であるOTRは,本邦において慢性疼痛の治療選択肢の一つとして検討できると考えられる.なお,海外ではオピオイドの乱用・誤用等の不適切使用や依存形成が疼痛治療における処方から発生し,その中には過量投与や死亡等の重篤な転機を辿る患者が報告されている10).また,オピオイドの長期使用における有効性・安全性は確立されていない.そのため,本邦のガイドライン11)では,海外と同様に治療期間・用量を最低限にとどめること,依存形成のリスクの高い患者には使用しないこと,定期的なモニタリングとアセスメントの実施が推奨されており,OTRはこれらに従い適正に使用されることが必要である.
本試験の限界は,OTRの投薬期間が14日に限られることである.本邦におけるOXCを用いた試験1,2)では,慢性疼痛患者を対象に最大約1年投与した際の有効性と安全性は報告されているが,OTRでは現時点で14日を超えるデータの報告はない.
本試験において,OXCからOTRに切替えた慢性疼痛患者の大半で疼痛コントロールが維持され,OTRへ切替えに伴う安全性上の問題は認められなかった.OXCとOTRの有効性と安全性,薬物動態に大きな差はないと考えられる.
謝辞
本論文に記載される試験に関与いただいたすべての医師ならびに医療関係者(表1),患者様のご協力とご尽力に,心より敬意を表するとともに深く感謝する.
著者の貢献
全ての著者はInternal Committee of Medical Journal Editors(ICMJE)Criteriaの著者基準に合致し,出版原稿の最終承認を行い,研究のあらゆる部分について,その正確性または公正性に関する疑義が適切に調査され,解決されることを保証し,研究のすべての側面に対して説明責任を負うことに同意した.