Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Two cases of Reynaud's syndrome which were successfully treated with spinal cord stimulation
Kazuma HASHIMOTOYumiko TAKAOTakako NAGAIHiroaki SATOYasushi MOTOYAMAMunetaka HIROSE
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2021 Volume 28 Issue 6 Pages 118-121

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Abstract

虚血肢をきたす疾患には,重症血管病変(critical vascular disease)とレイノー症候群がある.また,これらの虚血肢に対し脊髄刺激療法(SCS)は有効とされている.しかし,その報告のほとんどは重症血管病変による虚血肢に対する治療でありレイノー症候群に対するSCSの報告は散見される程度である.今回われわれはレイノー症候群に対するSCSによる治療が有効であった2症例を経験した.また,その際の効果判定に経皮酸素分圧(TcpO2)が有用であった.

I はじめに

脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)は,神経障害性疼痛や虚血痛に対して有用性が高いとされているものの1),虚血痛に関する報告例はほとんどが閉塞性動脈硬化症などの血管病変によるものである.

今回われわれは,レイノー症候群に伴う虚血肢に対してSCSが有効であった2症例を経験したので報告する.1例は,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematousus:SLE)に併発した重症下肢虚血で,薬剤による治療に抵抗性であったため,一期的にSCS植え込み術を施行したところ著効した.もう1例は原因不明の手指のレイノー症候群で潰瘍を形成していたが,2週間のSCSの試験刺激のみで軽快した.今回の症例報告については,患者本人から文書で同意を得た.

II 症例

症例1:60歳,女性.19歳でSLEを発症し,内服加療および血漿交換療法が行われていた.以前より四肢とくに下肢のレイノー症状が強かったが,56歳から両下肢の血流低下が進行.潰瘍が足趾に出現し悪化傾向にあったため,X−1年11月に腰部交感神経節ブロック目的に紹介受診となった.初診時,患者の足趾は左右ともに色調変化や冷感が強く,足趾に潰瘍ができており,痛みはVAS 100/100であった.また1~3足趾末梢骨は虚血および2次感染により骨髄炎を併発していた.このため患者は靴を履くことができず,大型のスリッパを履いて移動していた.内服薬はアンブリセンタン,タダラフィル,バイアスピリン,プレドニゾロン,チラージン,フェンタニル経皮吸収型製剤3 mgであった.受診後ただちに両側の腰部交感神経節ブロックを行った.交感神経節ブロックにより温度上昇や,本人の自覚症状の改善が得られたが,潰瘍の治癒までには至らなかった.また交感神経節ブロックも数カ月で効果が減弱してきたため,X年6月に再度両側の腰部交感神経節ブロックを行った.交感神経節ブロックは今後も2回/年ペースで施行する必要があると思われること,また潰瘍と2次感染による骨髄炎は残存しており,今後切断術を予定されており,患者は症状が軽快する可能性のある治療を切望していた.SCS治療について効果とリスクについて説明し同意が得られたため,X年10月SCS植え込み術(8極リード2本留置,リード先端はTh9,留置後はtonic刺激)を行った.感染のリスク,抗凝固薬の休薬必要性,SCSにより微小循環改善効果が期待されることより,本症例ではトライアルをせずに一期的に植え込み術を施行した(図1).SCSにより症状は劇的に軽快し,痛みはVASで100/100から20/100に減少,フェンタニル貼付製剤も3 mgから2 mgに減量した.併発していた骨髄炎も軽快し,予定していた切断術は中止となった.その後足趾の潰瘍も完治し,患者は運動靴を履いて歩行できるまでになった(図2).

図1

症例1 SCS留置後

図2

SCS植え込み術後の比較

左:SCS植え込み術前,右:SCS植え込み術後.

症例2:64歳,男性.既往歴は特記事項なし.また喫煙は当院受診1カ月前に禁煙していたが,20日/本×40年であった.現病歴:Y年1月,両手指の色調変化と冷感を自覚.Y年5月,両手指に複数の潰瘍が出現し増悪したため,近医膠原病内科を受診し精査を受けたが膠原病は否定された.エコー検査で末梢動脈の血流障害を指摘され,当院循環器内科を紹介受診したが,足関節上腕血圧比(ankle-brachial index:ABI)は正常値であり血行再建の適応はなく当科紹介となった.内服:シロスタゾール(穿刺4日前より中止),プロスタグランジンE1製剤(穿刺当日は中止),当帰四逆加呉茱萸生姜湯.循環改善目的でY年7月にSCS試験刺激(8極リード2本留置,リード先端はC3,刺激開始後5日目まではtonic刺激,6日目から15日目までは高頻度刺激を使用)を施行したところ(図3),刺激直後より末梢皮膚温が上昇した.また経皮酸素分圧(transcutaneous oxygen tension:TcpO2)を測定したところ,SCS前後で23から64 mmHgと著明に上昇し,痛みもVAS 32から0になった.約2週間試験刺激を施行し,いったん抜去とした.再度悪化する場合は植え込み術を考慮したが,その後症状は軽快したまま維持し,10カ月経過後も血流は良好のままである(図4).

図3

症例2 SCS試験挿入後

図4

症例2 SCS試験刺激術後の比較

左:SCS試験刺激前,右:SCS試験刺激6カ月後.

III 考察

SCSは微小循環を改善するが,この機序は交感神経抑制と求心繊維の逆行性興奮であるといわれている.後索刺激により求心線維が逆行性興奮することにより,カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)が末梢に放出されるが,このCGRPが強力な血管拡張作用を有する2)

SCSの虚血痛に関する報告は,重症虚血肢(critical limb ischemia:CLI)に対する欧州からの報告が主となっているが,そのほとんどが動脈硬化による重症血管病変症例であり3),レイノー症候群に対するSCSの報告はケースレポートが散見される程度である4).各疾患に対するSCSの推奨レベルについてのNACC(TheNeuromodulation Appropriateness Consensus Committee)の報告によると,レイノー症候群に対するSCSは,これまでRCTなどがなくエビデンスレベルは低いものの,早い時期,できれば12週までに導入することを推奨している5)

今回報告した2症例は,レイノー症候群による潰瘍を伴う虚血肢であった.症例1は,SLEに伴う重度のレイノー症候群による下肢血流障害であった.薬物抵抗性で,また腰部交感神経節ブロックは有効であるものの,効果時間が限られていることからSCSの植え込みに至った.本症例は抗血栓療法や免疫抑制療法中かつ局所感染があり,リスクが高い患者であった.また休薬期間はなるべく短時間にしたかったこと,感染のリスクもあるので処置はなるべく短時間で終わらせたかったことから,微小循環改善作用目的に,試験刺激を行わずに一期的に植え込み術を選択した.結果的に予定されていた足部切断術を回避することができ,また潰瘍が治癒し,靴を履いて歩行できるようになったなど患者のADLも大きく改善することができた.

症例2は,潰瘍を伴う手指のレイノー症候群患者であった.男性,喫煙歴があることから当初バージャー病が疑われたが,確定診断には至らなかった.潰瘍は難治性で薬物治療にも抵抗性であったため,植え込み術も視野にいれてのSCS試験挿入を行った.試験刺激は有効で,ほぼ2週間で潰瘍は完治した.その後10カ月を経過しても症状は軽快したまま推移していることより,血流障害は一過性のvasospasmが原因であり,発症早期のSCSの導入が有効であったのではないかと推測される.また2症例目では,微小循環の評価の指標として組織酸素分圧(TcpO2)を測定した.TcpO2は組織の酸素化状態を測定できるが,欧州から報告されている重症虚血肢に対するSCSの適応基準にも使われており,罹患肢の局所TcpO2が10~30 mmHgが有効であるとされている5).症例2では,虚血手指のTcpO2を測定したところ,SCS刺激前が23 mmHgであったのが,刺激直後に64 mmHgと著明に上昇し,SCSにより微小循環が劇的に改善した.TcpO2の測定器は本邦ではあまり普及しておらす,四肢虚血の測定には本邦では皮膚還流圧(skin perfusion pressure:SPP)が使われることが多い.TcpO2:30 mmHgがSPP:40 mmHgに相当するとされている6)

虚血肢に対しての有効性が確立しているSCSであるが,本邦での施行症例は欧米と比較して低いと考えられる.難治性疼痛と同様,重症虚血肢にも有効な方法であり,レイノー症候群は血管の反応性が保たれているために有効性が高いといわれている7).しかし,これまでの有効報告例は,ほとんどが重症血管病変を対象とした報告であった.レイノー症候群に伴う虚血肢にも有効であるため,難治例に対する治療法の選択肢の一つになると考えられる.

IV 結語

虚血肢をきたす疾患には,重症血管病変(critical vascular disease)とレイノー症候群がある.SCSは重症血管病変に有効であるが,レイノー症候群に対する報告は少ない.われわれはレイノー症候群にともなう重症虚血肢に対し,脊髄刺激療法が有効であった2症例を経験した.レイノー症候群にともなう重症虚血肢には脊髄電気刺激植え込み術が有効であるが,発症早期の症例では試験刺激のみで軽快する可能性もある.

本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第53回大会(2019年7月,熊本)において発表した.

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