2021 Volume 28 Issue 6 Pages 122-126
会 期:2021年2月15日(月)~2021年3月24日(水)
LIVE配信:2021年2月28日(日)
会 場:Web開催
会 長:長坂 浩(埼玉医科大学病院麻酔科)
藤巻高光
埼玉医科大学病院脳神経外科
【はじめに】三叉神経痛の神経減圧術(microvascular decompression,以下MVD)は多くの患者に長期にわたる疼痛寛解をもたらすが,死亡を含む重篤な合併症を生じうる手術でもある.外科医は1)目の前の患者を手術で治癒できるのか,リスクを冒す価値があるのかを判断し,2)執刀に当たっては確実な手術操作,合併症率,再発率の低減に努めなくてはならない.本講演では講演者が診断に当たって,および手術において気をつけていることをそれぞれ提示する.
【診断】初診時,病歴聴取,神経所見の採取に十分に時間をかける.文献上,MRI画像で神経への血管圧迫は偽陽性30%に及ぶ.変性疾患,脳幹病変,副鼻腔病変,歯科口腔外科疾患等,他の顔面痛を生ずる器質的疾患の鑑別に留意する.
【治療】少量の内服で良い疼痛コントロールが得られる場合は内科的治療でもよい.高齢者,ハイリスク症例では定位放射線治療も時に考慮する.疼痛コントロール不良で患者の手術への理解が十分な場合は手術治療を考慮する.欧米では伝統的には「神経と血管の間にクッションを挟む」手術が主流であるが,講演者は「挟む」操作は再発率に関係すると考え*,「血管を移動し神経を自由にする」手術を心がけている.術前画像の詳細な検討,内視鏡の併用等により圧迫血管の適切な同定,術中神経モニタリングによる合併症の低減も重要である.講演者のMVDの成績は,初期治癒率92%であるが長期的に再発例もある.合併症として難聴0,髄液漏0.8%,皮下感染0.8%,一過性眼球運動障害0.8%であった.
【結語】顔面痛の治療にあたっては,適切な鑑別診断,手術適応の決定のもと確実な手術操作が重要である.
*Fujimaki T, Acta Neurochir (Wien). 1996.
寺田忠徳
産業医科大学若松病院緩和ケア・血液腫瘍科
【はじめに】新規抗うつ薬であるベンラファキシ(イフェクサ―®)を投与した結果,抑うつ症状ならびに神経障害性疼痛の改善を認めた慢性腰痛患者の症例を経験した.
【事例】80歳代の女性.10年前より腰部脊柱管狭窄症による腰痛症にて近医で投薬,リハビリテーションを施行されていたが改善せず,抑うつ状態も認められ当科に入院加療となった.トラマドールに加え,ベンラファキシンを段階的に増量しながら投与し,支持的精神療法を組み合わせて複数の医療従事者で話し合いを重ねながら対応した結果,抑うつ状態の改善ならびに神経障害性疼痛の軽減を認めた.
【考察】ベンラファキシンは低用量ではセロトニン系におもに作用し,高用量ではノルアドレナリン系の作用も出現するというdual actionの薬理作用がある.抗うつ作用はデュロキセチンより高いという報告もあり,デュロキセチンと同様ベンラファキシンは神経障害性疼痛に対して第1選択薬となっているガイドラインもある.デュロキセチンは20 mg/日から開始し,60 mg/日までの3段階の調整が保険適応範囲で可能であるが,ベンラファキシンは37.5 mg/日から開始し,225 mg/日まで6段階の調整が保険適応範囲内で可能である.より患者の抑うつ状態や神経障害性疼痛の程度に併せてきめ細かな調整が可能である.今回の症例で,37.5 mg/日と最低用量から開始し75 mg/日まで増量したあたりで,抑うつ状態の改善を認めた.さらに150 mg/日まで増量することによって,さらなる抑うつ状態の改善ならびに神経障害性疼痛の軽減を認めた.理由はセロトニンの作用に加えてノルアドレナリンの作用効果がより多く出現したため,神経障害性疼痛の軽減につながったと考察される.トータルペインの概念でチーム医療を行ったことも大きい.本邦では報告例がまだ少ないが,患者,家族にとって恩恵が深い薬剤であることが本症例から示唆された.
2. フェンタニル貼付薬や抗不安薬,抗精神病薬を用いて,家族との意思疎通が直前まで可能であった上咽頭がんの1症例寺田忠徳
産業医科大学若松病院緩和ケア・血液腫瘍科
【はじめに】終末期では家族との意思疎通を確保することはきわめて重要であり,最大限取り組む必要がある.今回フェンタニル貼付薬や抗精神病薬,支持的精神療法などをチーム医療で取り組み,死亡される直前まで点滴を行わず,家族との意思疎通が可能であった上咽頭がんの症例を経験した.
【事例】50歳代の女性.上咽頭がんの腫瘍の増大に伴う咽頭部狭窄や多発転移性肺腫瘍を認め,当科に転院した.フェンタニル貼付薬1日型にオピオイドスイッチングし,4 mg/日に増量した.その後,NRSが3程度に低下し,呼吸困難もSTAT-Jで1程度に低下した.原病の悪化に伴い呼吸困難が増悪し,ベタメタゾン細粒を4 mg/日朝に服用し,ジアゼパム細粒を10 mg/日朝夕に分割投与し,オランザピン細粒を10 mg/日眠前投与し,20日目にクレチアピン細粒を50 mg/日眠前に追加投与した.さらにチーム医療で支持的精神療法やがんのリハビリテーションに取り組み,家族の望みである“会話したい,点滴を絶対にしたくない”ことを最優先した.その結果,入院後22日まで家族との会話が可能であり,呼吸困難や痛みの緩和が可能であった.
【考察】がん疼痛におけるオピオイド投与は経口投与が大原則であるが,経口摂取が困難な場合や,悪心・嘔吐対策としてオピオイドの投与経路を貼付薬や座薬,静脈投与や皮下投与に変更することがある.今回患者,家族の強い希望によりぎりぎりまで貼付薬や細粒にした内服薬で対応した.さらに,オランザピンとクエチアピンの両者を組み合わせることで,日中に家族との会話が可能であった.医療用麻薬や,ステロイドに加え,上記の作用機序・作用時間の異なる抗精神病薬を組み合わせたことも,効果を認めたと考えられた.さらに,チーム医療で連携・協働を常に念頭に置きながら,家族に寄り添ったことも良い結果をもたらした.
3. 腰椎後方除圧術(1~2椎間)の術後鎮痛に対する術前硬膜外ブロックの効果―後ろ向き研究西山友貴
丸山記念総合病院救急科(麻酔科)
【はじめに】腰椎後方除圧術術後痛に対する術前硬膜外ブロックの効果を後ろ向きに検討した.
【対象】腰椎後方除圧術(1~2椎間)施行症例で,術後鎮痛にフェンタニル(F)持続静注を用いた33症例(対照群,既報告)とF持続静注に術前硬膜外ブロックを加えた40症例(EP群)を抽出した.
【方法】麻酔はミダゾラム,プロポフォール,F,フルルビプロフェン,ベクロニウムで導入,デスフルラン,レミフェンタニルで維持し,手術終了時,アセトアミノフェン1,000 mg投与した.F20 µg/h,ドロペリドール0.2 mg/h持続静注を術後24時間行い,EP群は手術開始前,手術部位最下部椎間から0.25%ロピバカイン8 ml+F50 µgで硬膜外ブロックを行った.レスキューはVAS 5以上で,1.フルルビプロフェン50 mg静注,2.ジクロフェナック坐薬25~50 mg,3.ペンタゾシン15 mg静注を行った.術後24時間の血圧,心拍数,酸素飽和度,呼吸数,痛み(VAS:1~10),鎮痛薬使用回数,悪心嘔吐,頭痛の有無を抽出し,群間で比較検討した.
【結果】血圧60分値でEP群が有意に低い以外,背景,呼吸,循環,副作用に群間差は認めなかった.VASは直後から120分までEP群が有意に低かった.鎮痛薬使用回数はEP群[2(1~4),中央(最小~最大)]が対照群[4(2~6)]に比べて有意に少なかった.
【結語】1~2椎間の腰椎除圧術の術後にF20 µg/h,ドロペリドール0.2 mg/h持続静注に術前硬膜外ブロック(0.25%ロピバカイン8 ml+F50 µg)を追加することでより強い鎮痛効果が得られた.
4. ロボット支援下胸部手術による開胸後神経痛の発生に関する後方視的調査竹生浩人 高井啓有 鍾野弘洋 水野裕子 田口奈津子
千葉大学医学部附属病院麻酔・疼痛・緩和医療科
【背景】ロボット支援下胸部手術(RATS)は三次元視野下に多関節鉗子を用いることで精密な手術ができることが期待されており,本邦では2018年4月より肺がんと縦隔腫瘍に対して保険適応となった.当院では2018年8月よりロボット支援下胸部手術が行われるようになった.術後疼痛に関する最近の調査では胸腔鏡下手術(VATS)と比較しRATSの優位性は否定的だが,多関節鉗子の複雑な動きの結果,肋間神経の損傷が緩和され開胸後神経痛の発症の予防が期待される.今回われわれは,当施設における遷延性開胸後神経痛(PTPS)の発生率に関して,後方視的に調査を行った.
【方法】2018年8月1日から2020年8月31日までに当院で行われた呼吸器外科による胸腔手術のなかで,RATS症例およびVATS症例を抽出し,調査を行った.PTPSの患者の抽出は外来で呼吸器外科医によりプレガバリンまたはミロガバリンが処方された患者とした.主要項目はRATSおよびVATSのPTPSの発生率とした.副次評価項目として,年齢,性別,BMI,術前鎮痛薬使用の有無,精神疾患の既往,術中硬膜外麻酔の有無,術中レミフェンタニル使用量,手術時間を調査した.統計解析はExcelおよびRを用いて行った.
【結果】調査期間中の胸腔手術症例は399例,RATS症例は82例,VATS症例は317例であった.PTPSを発症した患者はRATS症例で15例(18.3%),VATS症例で22例(6.9%)であった(p=0.0016,χ2検定).副次評価項目に関してロジスティック回帰分析を行ったところ,いずれの項目に関しても有意差を認めなかった.
【考察】今回の調査ではRATS症例の方が有意にPTPSの発生率が高いという結果が得られた.本調査の限界として当院でRATS導入直後の調査でありRATSの件数はまだ少なく,術者がVATSに比べ不慣れであることがあげられる.しかし,当調査期間内でその発症頻度は一定であったことから新規術式への慣れの問題は大きくないと推測される.ポート孔の数,創の長さなどの違いは明らかだが,RATS症例のPTPSの発症要因についてさらなる前向きな調査が必要である.
5. がん患者のオピオイド使用における電流知覚閾値の変化遠山 光*1 金井昭文*2 高橋佑一朗*1 岡本浩嗣*1
*1北里大学医学部麻酔科学教室,*2北里大学医学部付属新世紀医療開発センター
【背景】オピオイド鎮痛薬(OA)は,大量投与で痛覚閾値を上昇させ,少量持続投与では痛覚閾値を低下(痛覚過敏)させうる.がん疼痛患者のOA使用中の感覚閾値および痛覚閾値の変化の詳細は不明である.
【方法】1カ月以上にわたり,OAを連日定使用するがん疼痛患者13人に対し,電流知覚閾値検査装置(ニューロメーターTM)の電極を前腕近位屈側橈側に貼付し,2,000 Hz(Aβ線維;触覚),250 Hz(Aδ線維;速い痛覚),5 Hz(c線維;遅い痛覚)の感覚閾値(ST)と痛覚閾値(PT)の二重盲検法による計測を1カ月以上空けて2回行った.1回目と2回目の計測の群間比較にウィルコクソンの符号順位検定,相関関係にスピアマンの順位相関係数を用いた.
【結果】中央値(最小値,最大値)で示すと,がん疼痛患者13人の年齢は61(42,82)歳,身長は165(149,178)cm,体重は58(34,81)kgであった.4(1,32)カ月の連続使用中に,OAは経口モルヒネ換算量(OME)で39(0,1,289)mg/日から160(30,1,350)mg/日に有意に増量されたが(P=0.034),痛みの強さ(NRS)は3(1,7)から2(0,7)と有意には変化せず(P=0.155),2,000 HzのST[128(49,232)mA vs 168(66,224)mA,P=0.184]とPT[596(80,936)mA vs 378(77,999)mA,P=0.227],250 HzのST[69(22,302)mA vs 61(30,171)mA,P=0.446]とPT[189(32,598)mA vs 168(35,421)mA,P=0.534],5 HzのST[47(9,261)mA vs 36(11,233)mA,P=0.257]とPT[161(35,545)mA vs 144(18,423)mA,P=0.072]も有意に変化しなかった.OAの投与期間または総投与量と,STおよびPTの間に有意な相関関係はなかった.
【考察】がん疼痛の強さに応じてOAを連続使用しても,STとPTへの影響は軽度であると考えられる.ただし,5 HzのPTは低下傾向(P=0.072)にあるため,c線維の痛覚過敏が考えられる.これに関しては,症例を増やしてのさらなる検討が必要である.
【結論】OAを4(1,32)カ月の連日使用したがん疼痛患者において,電流刺激によるSTとPTはほとんど変化しないことが示唆された.
6. 初診時の頚部痛から化膿性頚椎脊椎炎を診断し得なかった1症例長田洋平 荻原正洋
健成会小林脳神経外科病院麻酔科ペインクリニック
頚部痛に対し頚椎症との診断にて神経ブロックを含めた疼痛治療を開始したが,その後3週間で四肢麻痺症状が出現し,最終的に化膿性頚椎脊椎炎と判明した症例を経験したので報告する.症例は64歳男性,既往はとくになし.主訴は10日前からのそれほど強くない頚部痛であり整形外科を受診しNSAIDsを処方されるも症状軽快なく,他院脳神経外科を受診し,頚椎症の疑いにて当院紹介受診された.頚部単純X線を施行し第4/第5頚椎に高度な頚椎症を認め,頚椎の後方凸の湾曲が確認された.頚椎症の診断にて神経ブロック・内服療法を開始した.その後2回の神経ブロックを施行し若干の疼痛軽減を認めていた.しかし初診から20日後に両上下肢の筋力低下,歩行困難の症状を認め,同日施行した頚部MRI検査にて,第3~6頚椎の前方に椎体を含む脊髄を圧迫する占拠性病変を認めた.腫瘍性病変を疑い,同日総合病院へ搬送となった.2カ月にわたる抗生剤治療にて感染の鎮静化を認め,転送先からの返書によると頚椎化膿性脊椎炎であった.
脊椎由来の疼痛を示唆する症例では化膿性脊椎炎の可能性も念頭におくべきである.
7. 遺伝子解析によるアセトアミノフェンの鎮痛機序の解明の研究南雲拓海*1 星島 宏*2 三枝 勉*1 土井克史*1 井手康雄*1 長坂 浩*1
*1埼玉医科大学病院麻酔科,*2東北大学大学院歯学研究科病態マネジメント歯学講座歯科口腔麻酔学分野
【目的】アセトアミノフェンの鎮痛作用の作用機序はいまだに解明されていない.現在までに,アセトアミノフェンの鎮痛の作用機序に関する研究は100件近く報告されている.しかし,確信的な答えは得られていない.この背景には,アセトアミノフェンの作用機序に,未知のレセプターが関与している,また,メジャーな作用機序が関与していない可能性が考えられる.そこでわれわれは,マイクロアレイ解析を用い,網羅的に遺伝子解析を行い,一からアセトアミノフェンの鎮痛作用に関与していると考えられる遺伝子を洗い出した.
【方法】本研究は,埼玉医科大学動物実験委員会の承認を受け実施している.実験には,雄性Sprague-Dawleyラット(200~250 g)を使用した.Naiveラット群,ホルマリン投与群,ホルマリン+アセトアミノフェン群の3群のラットを解析した.Naiveラット群を屠殺後,胸髄を採取した.ホルマリン投与群のラットには,足底に2.5%のホルマリンを投与し60分後に屠殺し胸椎を採取した.ホルマリン+アセトアミノフェン群のラットは,ホルマリン投与60分後にアセトアミノフェン(200 mg,腹腔内投与)を投与し,さらに60分後に胸髄を採取した.マイクロアレイ解析では,Naiveラット群からホルマリン投与群で2倍以上増加した遺伝子を選別した.さらに,それらの中から,ホルマリン+アセトアミノフェン群で0.5倍以下になった遺伝子を選択した.
【結果】Naiveラット群から,2万3,191個の遺伝子が同定された.このなかで,ホルマリン投与群で2倍以上増加し,ホルマリン+アセトアミノフェンで,0.5倍以下になった遺伝子は30個同定された.
【結論】本研究では,遺伝子解析により,アセトアミノフェンの鎮痛作用に関与していると考えられる遺伝子を30個同定した.今後これらの遺伝子とアセトアミノフェンの関係について追跡していく.
8. 結節性多発動脈炎患者の四肢の痛みに対し交感神経ブロックが有用であった1例木村麻衣子 西岡 慧 東 俊晴
国立国際医療研究センター国府台病院
結節性多発動脈炎は中型から小型動脈に炎症や壊死を生じる疾患であり,皮膚炎のほかさまざまな臓器障害が発生する.今回,同疾患患者の四肢の痛みに交感神経ブロックが有効であったため作用機序について考察する.
【症例】58歳女性.左足の疼痛を初発症状とし,筋力低下や知覚障害が出現した.皮膚生検により皮下脂肪組織に含まれる筋性動脈の内膜にフィブリノイド物質の沈着と内腔の閉塞が認められ,結節性多発動脈炎と診断された.ステロイドやエンドキサンパルス治療のための入院が計画された.上下肢ともに不眠を生じるほどの痛み(NRS 8/10)を訴えたため,診療科医師(リウマチ内科)がプレガバリン,デュロキセチン,トラマドール,ロキソプロフェンを開始したが効果に乏しく,入院40日目にペインクリニック紹介となった.患者は知的好奇心が強く,自身の病態をかなり正確に理解していたため,交感神経ブロックが血管由来の痛みを改善する可能性が高いという説明を納得し同ブロックの施行を希望した.透視下腰部交感神経ブロックならびに超音波ガイド下星状神経節ブロックを施行し痛みの軽減が得られた.これらは診断目的のブロックとして行われたが三週間程度の長期間にわたって効果が持続した.
【考察】血管は交感神経の単独支配を受け,その痛みは内臓痛と同様に交感神経求心路を経て知覚される.これらのことからわれわれの施設では虚血性変化にともなう疼痛の他にも血管性の痛みが主体であると考えられる場合,交感神経ブロックが疼痛軽減のための選択肢であると考えている.
【結語】結節性多発動脈炎患者の四肢の痛みに対し交感神経ブロックが有効であると考えられた.
9. ペインクリニックを受診したfacial onset sensory and motor neuropathy(FOSMN)の1例小林泰知 椎名佐起子 福田裕也 山口重樹 濱口眞輔
獨協医科大学医学部麻酔科学講座
【緒言】顔面知覚異常と頚部痛を主訴にペインクリニックを受診したfacial onset sensory and motor neuropathy(FOSMN)の1例を経験したので報告する.
【症例】症例はX−5年に顔面知覚異常に対して三叉神経麻痺と臨床診断された既往がある71歳男性で,右顔面の痺れと痒み,頚部痛,右上肢筋けいれんを主訴に当科を紹介受診された.
【治療経過】頭頚部MRIでは異常がみられず,抗てんかん薬の内服と頚部トリガーポイント注射,星状神経節ブロックを行ったが症状は不変であった.その後,3回目の診察時に嚥下困難の訴えがあったために口腔内を観察した際,舌線維束攣縮を認めたために球麻痺と判断して内科に紹介し,精査の結果FOSMNと診断された.以後,治療は内科が引き継いだが,筋力低下と会話困難,嚥下困難が急速に進行し,気管切開にまで至っている.
【考察】FOSMNは緩徐進行性のまれな顔面発症型感覚運動神経障害である.平均発症年齢は55歳で,約91%の症例が進行性の顔面感覚障害で始まり,その後に運動障害を呈し,97%で球麻痺を発症する.
本症例はX−5年に三叉神経麻痺と臨床診断された顔面知覚異常が実はFOSMNの初発症状であり,疾患の進行によって頭位保持に必要な僧帽筋などの筋力が低下したために頚部痛が生じたと考えた.また,上肢筋けいれんは疾患による上腕二頭筋の不随意運動であった.
今回,診察時に気付けた神経学的異常は舌の線維束攣縮であり,神経梅毒患者の偽性球麻痺を診た過去の経験から本症例を球麻痺として内科に紹介出来た.ペインクリニック外来でも神経学的所見の評価が重要となることを再認識した症例であった.
【結論】顔面知覚異常と頚部痛を主訴にペインクリニックを受診したFOSMNの1例を経験した.ペインクリニックでの神経学的所見の評価は重要である.
10. 星状神経節ブロックが有用であった特発性腕神経叢炎後遺症の1例椎名佐起子 小林泰知 山田哲平 篠崎未緒 濱口眞輔
獨協医科大学医学部麻酔科学講座
【緒言】星状神経節ブロック(stellate ganglion block:SGB)が有用であった腕神経叢炎後遺症の1例を経験したので報告する.
【症例】症例は甲状腺機能亢進症に対する薬物療法と乳がん切除の既往がある65歳女性で,X−4年に誘因なく左前腕の痺れと痛みを発症した.同時期に左乳がん再発に対して腫瘍切除と化学療法が施行されており,その時点で左腕神経叢と腋窩にPET-FDGの集積が確認されていた.しかし,精査の結果,腕神経叢部位への浸潤や転移はなく,神経学的所見として外側前腕皮神経(LCNF)領域と正中神経領域の知覚過敏やEMGで上腕二頭筋(BB)の脱神経パターンなどが認められた.以上の結果から本症例は特発性腕神経叢炎と診断され,リハビリテーションの継続,2回の神経剥離術とデュロキセチン20 mg/日の内服によって左前腕の運動機能低下はやや改善したが,左前腕の痛みと痺れが残存したためにX年に当科を紹介された.
【治療経過】初診時の所見では左前腕の神経支配領域と一致しない痛みと痺れ,左手掌の冷えと色調の蒼白化,患部の知覚過敏,爪の成長不良を認めたが,明らかなallodyniaはみられなかった.また,痛みはNRSで7/10であり,X線検査で左前腕の骨萎縮はみられなかった.以上の所見から,本症例の左前腕の痛みを複合性局所疼痛症候群1型の要素を有する慢性難治性神経障害性疼痛と診断して左SGBを行い,初回のSGB後に左上肢の痛みは軽減し,温感も感じられるようになった.以後,患者希望により21回のSGBを施行して,患者のQOLは向上している.
【結語】特発性腕神経叢炎の後遺症として生じた複合性局所疼痛症候群1型の要素を有する慢性難治性神経障害性疼痛の緩和にSGBは有用であった.
11. 術前のoffset analgesia(OA)評価は口腔外科手術の術後痛予測に有用である河野亮子*1 大野由夏*1 安藤槙之介*1 髙木沙央理*1 長坂 浩*2 小長谷 光*1
*1明海大学歯学部病態診断治療学講座歯科麻酔学分野,*2埼玉医科大学病院麻酔科
【目的】offset analgesia(OA)は,数秒間の熱痛み刺激の後にわずかに強い刺激を与え,元の刺激に戻した時に生じる痛みの減少であり,内因性疼痛抑制機構との関連が示唆されている.これまでOAと術後痛について検討した報告はないため,口腔外科手術患者を対象に術後痛とOAについて検討した.
【方法】当施設倫理委員会の承認を得(承認番号:A1624),UMIN-CTR登録後(UMIN000026719),同意が得られた口腔外科手術予定患者8名(プレート抜去術6名,上顎嚢胞摘出術1名,腐骨除去術1名)(男性3名,女性5名;28.5[23.3~36.3]歳(中央値[四分位範囲]))を対象とした.術前日に定量的熱刺激装置を用いて利き手前腕に46℃ 5秒(T1),47℃ 5秒(T2),46℃ 20秒(T3)の熱刺激を連続して与え,刺激に対する痛み感覚を電子visual analogue scale装置(VAS;0~100)で評価し,連続的に記録した.T2のVAS最高値とT3のVAS最低値の差をOA scoreとした.術後アセトアミノフェン3,000 mg/日の定時投与ならびに状況に応じて神経ブロックおよび鎮痛剤のレスキュー投与を行った.術後痛はVASで評価し,OA scoreと術後痛のVASが0となるまでの期間(VAS null days)の相関をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した(有意水準;p<0.05).
【結果】OA scoreは24.0[6.0~39.3],VAS null daysは4.4[2.5~6.3](days)であった(中央値[四分位範囲]).OA scoreとVAS null daysに有意な負の相関を認めた(R=−0.76,P=0.037).
【結論】本研究対象者において術前のOA評価は口腔外科手術の術後痛予測に有用である.