Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2021 Volume 28 Issue 6 Pages 141-147

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会 期:2021年2月13日(土)~2021年2月23日(火)

会 場:Web開催

会 長:恒吉勇男(宮崎大学医学部病態解析医学講座麻酔生体管理学分野)

■特別講演

知って良かった! 知らなきゃ良かった? 脊髄刺激療法の光と陰

立山真吾

潤和会記念病院ペインクリニック科

脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS,以下SCSとする)は,1965年にMelzackとWallによるgate control theoryに端を発する.しかし,その後の研究により,SCSの作用機序は,この説だけでは説明ができないことが明らかになり,その他の作用機序の関与も報告された.適応疾患については,試行錯誤ののち,2009年に英国疼痛学会がSCSに対する反応性の分類を発表し,効果が認められやすい疾患が判別しやすくなった.

本邦では,1992年にSCSが保険適用され,約30年が経過する.SCSの製品は,当初,日本メドトロニック株式会社の1社のみであったが,2010年にセント・ジュード・メディカル株式会社(現 アボットメディカルジャパン合同会社),2012年にボストン・サイエンティフィックジャパン株式会社が参入した.現在,3社の製品が使用可能となっている.

近年,製品が進化し,治療効果が向上しているのではないかと考えられる.リードは電極数が増え,ジェネレーターは充電式と非充電式の選択ができ,MRI対応製品が増え,患者用リモコンが日本語化され,刺激様式が多様化している.選択肢が増えることで,柔軟な対応ができるようになったが,その一方で,容易にSCSを行うのではなく,適応疾患の見極めを適正に行い,最適な製品選択を考えなければならない.

本講演では,SCSの変遷を踏まえて,SCSの現状を整理し,SCSの有用性と注意点について要約したい.

■一般演題

1. 静脈穿刺が原因となった末梢性神経障害性疼痛患者の検討高濃度テトラカインによる神経根ブロックの1症例

宅野結貴*1 平川奈緒美*2 原野りか絵*2

*1嬉野医療センター麻酔・緩和医療科,*2佐賀大学医学部附属病院ペインクリニック・緩和ケア科

静脈穿刺は日常的に行われる医療行為であるが,針刺しにより末梢神経障害を生じることがある.今回,静脈穿刺による末梢神経障害後疼痛患者10例について,発生要因・症状・治療経過などについて後ろ向きに検討した.対象は2016年から2020年までに佐賀大学医学部附属病院ペインクリニック外来を受診した10例で,男性5例,女性5例,平均年齢54歳であった.穿刺部位は肘部皮静脈6例(正中3例,橈側1例,尺側2例),手関節部橈側皮静脈3例,上腕橈側皮静脈1例で,損傷部位は橈骨神経5例,正中神経3例,尺骨神経2例だった.治療は1例が経過観察のみで,残る9例では薬物治療,局所レーザー治療,星状神経節近傍レーザー治療,ブロック注射,局所静脈内交感神経遮断術,理学療法などの集学的治療を要した.治療経過は4例が1カ月未満で軽快,2例が1年未満で軽快,4例は1年以上の治療を要し,内1例は発症から4年以上経過した現在も治療継続中である.

静脈穿刺による末梢神経障害の症状は数日から数週で消失するものが多いが,中には痛みや感覚障害が遷延し難治化する症例もある.今回の研究では,半数で前腕橈側皮静脈や肘部尺側皮静脈などの神経障害を起こしやすいとされる部位での穿刺が行われていた.またほとんどの症例で放散痛などの随伴症状を認めていた.静脈穿刺による神経障害が疑われる場合は直ちに抜針して症状を確認し,患者の訴えをそのままにせず,早急に専門医の受診を勧めるといった対応が重要である.

2. 交通外傷による全型腕神経叢損傷後の難治性慢性疼痛に対して経椎間孔ブロックが著効した1症例遷延性術後痛に対する神経ブロックの効果

近間洋治*1 前田愛子*2 山田千晶*1 中山昌子*2 山浦 健*3

*1九州大学病院麻酔科蘇生科,*2九州大学病院手術部,*3九州大学大学院医学研究院

【症例】40代男性.現病歴:18歳時のバイク事故により左全型腕神経損傷と診断され,肋間神経移植術が行われた.その後重度の左上肢痛が持続した.X−2年,左上腕骨骨折とその治療を契機に左上肢痛がさらに増強し,疼痛緩和目的でX年に当科紹介受診となった.初診時現症:左上肢の徒手筋力テストは上腕二頭筋3(上記神経移植後),その他は0,左上肢全体の温痛覚消失と痺れがあり,数値評価スケール(NRS)で10の間歇的電撃痛とNRS 7の持続痛を訴えた.ミロガバリン(20 mg/日),トラマドール(100 mg/日)を内服していた.MRI所見:C5~6髄内左側にT2延長病変あるが神経根との連続性は否定できず,C7~Th1では左側硬膜外は嚢胞状で神経根と連続性はないと判断した.超音波所見:C5~7椎間孔外に神経根の走行は確認できなかった.治療経過:C5,6神経支配領域の末梢神経過敏を疑い,超音波ガイド下C5,6経椎間孔ブロック(1%メピバカイン各2.5 ml)を施行した.これにより3日程度は電撃痛が消失したため,週に1回程度の頻度で同様の治療を2カ月程度行い,電撃痛は頻度強度ともに低下しNRS 4,持続痛もNRS 2となった.1年以上経過した現在は1回/月のブロック注射で維持している.

【考察】外傷後の重度障害を伴った全型腕神経叢損傷患者でも全ての神経根が節前損傷(引き抜き)を生じているとは限らない.また,その疼痛は節後損傷部の求心路遮断性疼痛である可能性がある.本症例では,外傷を契機に疼痛が増強したことやMRI所見から,C5,6神経根は節後不全損傷であったと推測された.腕神経叢損傷後の診断と疼痛治療に節後損傷の疑われる部位に経椎間孔ブロックを行うことは有用と考える.

3. 胸部帯状疱疹後神経痛の加療中に尿閉と深部静脈血栓症を合併した1例

池田彩華 武藤佑理 齊川仁子 加藤治子 小川のり子 茗荷良則 平森朋子 神代正臣

北九州医療センター麻酔科

【症例】65歳,女性.

【入院までの経過】X年7月30日右Th8領域にピリピリとした痛みが出現し,8月2日同部位に皮疹が出現した.近医で帯状疱疹の診断でアメナメビル内服,NSAIDs,トラマドール(嘔気で中止),アミトリプチリン,ミロガバリン,リドカイン点滴静注,肋間神経ブロックなどで加療されたが痛みが続くため,8月31日紹介入院となった.

【入院時所見】VAS 90 mm,アロディニア著明,夜間不眠あり.

【入院後経過】入院1日目にTh10/11より持続硬膜外ブロックを開始し,プレガバリン150 mg,アミトリプチリン20 mgを併用したが,NRS(numerical rating scale)8と改善しなかったため,3日目に硬膜外カテーテルをTh8/9より再挿入した.制吐剤併用のうえトラマドールを50 mgより再開した.痛みは難治でプレガバリン250 mg,アミトリプチリン30 mg,トラマドール150 mgに増量したがアロディニアが強く常に衣服をはだけている状態であった.硬膜外カテーテル挿入後より排尿困難の訴えがあったものの排尿は認めており,持続硬膜外流量の減量で経過をみていた.6日目に38.5℃の発熱があり硬膜外カテーテルを抜去した.同時に右下肢痛を認め,dダイマー46 µg/ml,造影CTで右大腿から下腿にかけて深部静脈血栓が明らかとなった.また膀胱は著明に腫大しており,導尿で1,700 mlの排尿を認めた.アミトリプチリン内服を中止し,抗凝固療法を開始した.膀胱留置カテーテル抜去後,自尿認めず自己導尿指導を行った.トラマドール200 mg,プレガバリン200 mg内服で痛みはNRS 2程度となり,入院19日目に退院とした.

【考察】痛みによる長期臥床と排尿障害による膀胱腫大の結果,深部静脈血栓症を発症したと考えられた.排尿障害を起こした原因としては持続硬膜外ブロックによる胸髄交感神経への影響,アミトリプチリンの副作用が考えられた.反省点として,早期に残尿の評価をすべきであった.

4. 当院でのメサドンの使用経験

神代正臣 小川のり子 久米克介 武藤官大 平森朋子 茗荷良則 武藤佑理 加藤治子

北九州市立医療センター麻酔科

【はじめに】メサドンは他のオピオイド鎮痛薬で治療困難ながん疼痛に対し使用されるが,危険性も高いオピオイド鎮痛薬である.今回,骨転移に由来する神経因性疼痛の治療に難渋する患者にメサドンを使用した症例2例を報告する.

【症例】症例1:47歳男性.左腎がん再発.多発骨転移.主訴,腰下肢痛.X−3年,左腎がん,仙骨転移の診断で後腹膜鏡下左腎摘除術を施行された(A病院).転居に伴い当院泌尿器科に入院した.パゾパニブによる治療を受けSDとなった.X−2年,再びA病院で治療を受け仙骨部に放射線照射を受けた.X年,腰痛が再発し仙骨部の放射線治療後の再燃と診断された.再び当院に入院し鎮痛はオキシコドン1,220 mgを要した.メサドンを15 mgから開始し1週ごと増量し45 mgを使用した.オキシコドンは600 mgに減少し,大きな苦痛なくトイレに行けるようになった.しかし心電図上QT延長傾向がみられ45 mgで固定した.

症例2:66歳女性.悪性リンパ腫,L5転移.主訴,下肢痛.X−12年,左頚部腫瘤から悪性リンパ腫の診断を受けR-CHOP療法と放射線頚部照射を受け緩解した.X−10年,S状結腸がんに対し摘除術,X−7年,肝転移に対し肝部分切除術を受けた.X年,下肢にビリビリした痛みを感じ,L5転移と診断され放射線照射を受けた.左下肢痛が残存しヒドロモルフォン36 mg,フェンタニル貼付剤6 mg,オキシコドン80 mg,モルヒネ240 mgで治療を受けたが痛みは残存した.モルヒネにメサドン15 mgを追加したが心電図上QT延長がみられ3日で中止した.

【考察】メサドンはµオピオイド受容体とNMDA受容体に作用し神経障害性疼痛に対する効果が期待されている.しかしQT延長作用があり今回の2症例は増量や継続を中止した.週ごとに心電図を測り注意が必要である.

【結語】当院で経験したメサドンを使用した2症例を報告した.

5. 肝移植術後の頚椎神経根症患者に対し,超音波ガイド下C6神経根パルス高周波治療(PRF)を繰り返し試行した1例

大久保潤一 安部真教 中村清哉 垣花 学

琉球大学病院麻酔科

【症例】54歳,女性.主訴は10年前から続く右肩から前腕橈側の痛みと痺れであった.

【経過】10年前よりアロディニアを伴う右上肢痛と痺れを認め,頚椎ヘルニアの診断で椎弓形成術が施行された.術後も症状改善なく近医通院となっていたが,4年前に薬剤性の劇症肝炎を発症し,死体肝移植術が試行された.術後から当院への通院を開始したが劇症肝炎の被偽薬に鎮痛薬が含まれており,また肝移植術後で免疫抑制薬を内服していた.薬物療法や頻回のブロック注射を避ける目的で,近赤外線星状神経節照射から開始したが効果は認めなかった.診断的に超音波ガイド下にC6選択的神経根ブロックを行い,一時的な症状改善を認めたことから42℃×10分のパルス高周波(PRF)治療を施行し症状緩和が得られた.治療後は3~4カ月後の症状再燃時にPRF治療を行い,計10回治療を行ったが,合併症も認めず治療に対する患者満足度は高かった.

【考察】臓器移植後の患者は免疫抑制と拒絶反応とのバランスを長期に保つ必要があり,頻回の穿刺に伴う感染症への注意が必要である.本症例では,穿刺時の針先と周辺組織の確認が容易で,より遠位からのアプローチになる超音波ガイド下神経根ブロックを選択したが,PRFの治療効果は良好であった.

6. 帝王切開後腰背部痛の原因が妊娠骨粗鬆症による多発胸腰椎圧迫骨折であった1例

岡田恭子 樋田久美子 村田寛明 原 哲也

長崎大学医学部麻酔学教室

妊娠・授乳関連骨粗鬆症は妊娠・授乳を契機に発症するまれな疾患である.妊娠後期には胎盤を通してカルシウムの児への移行,授乳中には母乳へのカルシウムの喪失,エストロゲンの低下,乳腺からのPTH関連ペプチド(PTHrP)分泌によって骨密度が低下することが原因とされている.今回,帝王切開後腰背部痛の原因が,妊娠骨粗鬆症による多発胸腰椎圧迫骨折であった症例を経験したので報告する.32歳女性,身長152 cm,体重55 kg(非妊時47 kg).4年前,第1子の妊娠中に下肢深部静脈血栓症を認め,プロテインS欠乏症の診断でヘパリン皮下注射による抗凝固療法を開始した.非妊時にはワルファリンを内服していた.第2子を妊娠し,既往帝王切開のため帝王切開術を予定した.妊娠37週で陣痛発来し性器出血を認めたため,脊髄くも膜下麻酔での帝王切開を施行した.穿刺前の最終ヘパリン5,000単位皮下注射からは8時間経過しており,穿刺は容易でとくに難渋することはなかった.抗凝固薬の再開は,術後3日からワルファリンを内服した.腰痛は妊娠後期から自覚しており,術後は術創痛と腰痛に対しNSAIDsを定時内服した.術後25日までNSAIDsの定時内服と安静で過ごしていたが,外出後に腰痛が増悪し歩行困難となり緊急受診した.第11,12胸椎の叩打痛と,下位胸椎から上位腰椎にかけて椎体周辺の局在のはっきりしない痛みを認めた.脊柱管内血腫を疑い撮像した胸腰椎MRIで,第9,10,11,12胸椎と第1腰椎の多発圧迫骨折を認めた.腰椎骨密度は若年骨密度(YAM)70%と骨量減少を認め,骨吸収マーカーである血中骨型酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ(TRACP-5b)値は高値を示した.妊娠骨粗鬆症の診断となり,断乳,安静,NSAIDsの定時内服で症状は軽快した.硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔での帝王切開後腰背部痛では,脊髄神経合併症や脊柱管内血腫を念頭に診察する必要があり,妊産婦における腰背部痛では妊娠骨粗鬆症による圧迫骨折も鑑別におくべきである.

7. 脂肪肉腫の骨転移に対する重粒子線治療後遷延性神経障害性疼痛に末梢神経パルス高周波療法が有効であった1症例

加藤治子 武藤佑理 平森朋子

北九州市立医療センター麻酔科

【はじめに】がん疼痛の中には薬物治療抵抗性のものが10~30%存在するといわれている.近年,高周波熱凝固機器の進歩により,従来の高周波熱凝固法(radiofrequency thermocoagulation:RF)より安全で低侵襲な治療としてパルス高周波療法(pulsed radiofrequency:PRF)が注目されている.重粒子線治療後の遅発性神経障害による大腿神経領域の神経障害性疼痛に対するPRFが有効であった症例を報告する.

【症例】77歳男性,主訴は左大腿部前面の痛み.3年2カ月前に右背部の脂肪肉腫切除術を施行後,神経障害性疼痛をきたしプレガバリン・ノルトリプチリン内服を行っていた.1年1カ月前に左腸骨転移に対し重粒子線治療を施行した.肺転移出現および副作用のため本人の意思で6カ月前に化学療法終了した.左下肢の運動麻痺と疼痛が出現しタペンタドール50 mg/日を開始した.いったん疼痛軽減し近医緩和ケア内科へ紹介した.その後,左大腿部痛が増悪し激しい電撃痛とアロディニアを伴うようになった.タペンタドール225 mgまで増量,鎮痛補助としてプレガバリン・ノルトリプチリンに加えバルプロ酸ナトリウムも開始するもNRS 8~9の疼痛が持続するうえ,眠気も強く当科に逆紹介となった.重粒子線治療後の遅発性大腿神経障害による神経障害性疼痛と考えた.オピオイド量はモルヒネ換算で45~67.5 mg相当と大量ではないものの副作用の眠気を強く認めており内服薬の増量は難しいと判断した.局所麻酔による大腿神経ブロックを施行したところ疼痛軽減を認めため,カテーテルを留置し持続大腿神経ブロックを施行した.しかし持続神経ブロックを中止すると疼痛が再燃した.長期的神経ブロック効果を得るためPRFを施行したところ,電撃痛およびアロディニアは消失し,知覚異常などの合併症も認めずNRS 0~2で自宅退院となった.施行後1カ月経過した現在疼痛の再燃は認めていない.

【結語】投薬治療抵抗性の重粒子線治療後遅発性神経障害による神経障害性疼痛に対してPRFを行い良好な結果を得た.

8. 慢性炎症性脱髄性多発神経炎の下肢難治性疼痛に対し,選択的末梢神経ブロック・パルス高周波療法が有効であった1症例

山本俊介 池邉朱音 佐々木美圭 奥田健太郎 北野敬明

大分大学医学部麻酔科学講座

【はじめに】右上下肢痛と眼球運動障害を契機に慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)と診断され,主として右総腓骨神経支配領域に一致する右下肢難治性疼痛を呈した患者に,選択的に腓腹神経ならびに腓腹神経ブロック・パルス高周波療法を施行し良好な経過をたどった.

【症例】38歳女性.6年前より頭痛,めまい,耳鳴りを自覚.3年前より右上下肢麻痺あり,杖歩行を導入し近医リハビリ入院を繰り返すようになった.この頃からCIDPを疑われステロイドパルス療法や免疫グロブリン投与も頻回に実施されていた.今回,右総腓骨神経領域の激痛を主訴に近医入院し,同部に神経ブロックを実施したものの疼痛コントロールがつかず近医入院のまま当院へ紹介受診となった.来院時,右下腿皮膚を触れるだけで激痛が走るという特異的な痛みを呈して,疼痛部位は右踝と右第1,2足趾部分でそれぞれ腓腹神経(脛骨神経・総腓骨神経支配)領域と深腓骨神経領域に起因すると考えた.疼痛部位を確定するためより近位である膝窩部坐骨神経から神経ブロック・パルス高周波療法を開始し,外来通院4日目に腓腹神経と深腓骨神経を選択的にブロックすることで初めて除痛を達成し,その後自宅退院となった.現在も外来フォロー中である.

【考察】CIDPは末梢優位の自己免疫性脱髄性疾患であり,慢性進行性または再発性に筋力低下や知覚障害を生じる.本症例のように激痛を伴う異常感覚を呈することもあるが,選択的に神経ブロックを実施したという報告はない.前医で総腓骨神経に神経ブロックを実施したものの効果は一時的であった.除痛効果を持続させるためにパルス高周波療法を計画したが同部位では効果を得ず,最終的に疼痛領域である腓腹神経と深腓骨神経を超音波ガイド下で同定し選択的に実施することで良好な結果を得た.疼痛部位に一致する解剖学的支配領域を選択的に処置することは非常に有効であると考えられた.

9. 三叉神経領域の帯状疱疹に外転神経麻痺を伴ったGradenigo症候群の1例

受田美紗 山田信一 兵頭彩子 津田勝哉 平木照之

久留米大学医学部麻酔学講座

【はじめに】Gradenigo症候群とは,三叉神経(V)の刺激症候と外転神経麻痺を示し,中耳炎の際に認められることがある.今回,われわれはV領域の帯状疱疹に罹患し,第1枝領域の帯状疱疹後神経痛に外転神経麻痺と眼瞼下垂を主とした動眼神経麻痺を合併した症例を経験したので報告する.

【症例】66歳,男性.右V 1,2領域帯状疱疹の診断で抗ウイルス薬の投薬を受けた.皮疹は改善したが,V 1,2領域の痛みが改善せず,複視も認めたため,発症26日目に当科を受診した.

側頭部を中心とした右V 1,2領域の疼痛と右動眼神経麻痺,右外転神経麻痺を認めた.

右眼窩上神経ブロック,右眼窩下神経ブロックを施行し,ミロガバリン5 mg/日,トラマドール・アセトアミノフェン配合錠3錠/日,ナルメデジン0.2 mg/日の内服を開始した.眼瞼下垂に対して眼瞼挙上訓練,外転神経麻痺に対しては眼球運動訓練を指導した.その後,右眼窩上・下神経ブロックと眼瞼挙上訓練,眼球運動訓練を継続した.発症44日目(治療開始18日)ごろから右外転神経麻痺が改善し始めた.発症72日目(治療開始46日)には,痛みと複視はほとんどなくなった.発症79日目から赤外線治療器での治療に変更した.

【考察】水痘・帯状疱疹ウイルスによる神経障害はRamsay Hunt症候群のように難治となる可能性もあり,本症例における動眼神経麻痺,外転神経麻痺も同様であると予測された.しかし,充分な眼瞼挙上訓練や眼球運動訓練を行うことで,症状を改善することができ,このような訓練方法は神経回復を促す可能性が高いと考えた.

【結論】われわれはV 1,2枝領域の帯状疱疹によるGradenigo症候群を発症した症例を経験した.動眼神経麻痺,外転神経麻痺に対しては,早期から眼瞼挙上訓練,眼球運動訓練を行うことで改善する可能性がある.

10. 慢性膵炎による上腹部痛に対するモルヒネ塩酸錠が断薬に至った1例

山田寿彦 小松修治 洲崎祥子 杉田道子 山本達郎

熊本大学病院麻酔科

【症例】50歳女性.慢性膵炎による上腹部痛に対して4年前よりモルヒネ塩酸錠が開始され,1日80 mgの内服で上腹部痛が軽減したため,定期フォローされていた.その他の既往歴として,糖尿病,術後性てんかん,不眠症があり,内服薬は数種類あった.薬物の過量内服による呼吸抑制で緊急搬送され,急性モルヒネ中毒による高二酸化炭素血症の診断で集中治療室にて全身管理が3日間行われた.一般病棟に転棟後,上腹部痛がないため段階的に塩酸モルヒネ錠を軽減し断薬することができた.その期間に退薬症状はなかった.今回,大量にモルヒネ塩酸錠を内服した原因としてなんらかの自殺企図が考えられたが,転棟後の患者の行動や精神科医の診察からその可能性は低かった.さらに臨床心理士による面接で,入院の数カ月前から,ご家族からの患者の私生活に対する攻撃が強くなり,不眠症が悪化していた.そのため眠剤も含めた内服薬を不適切に内服していることがわかった.1人暮らしであったため,社会福祉士や訪問看護師の協力により,自宅での内服の管理を徹底する方針となったため退院となった.

【考察】患者は4年間上腹部痛に対してモルヒネ塩酸錠を内服していたが,痛みは軽減しており,痛みの再燃に対する不安からモルヒネ塩酸錠を内服していた.また,家族の問題や不眠症などの心理社会的な因子もあり,痛みに対する認知が低かった.慢性痛に対する患者の教育は重要であり,非がん性慢性痛に対するオピオイド鎮痛薬の処方の際には,その適応を十分検討する必要がある.

11. 足根管症候群による両足底部痛に認知行動療法的アプローチが有効であった1例

小松修治 山田寿彦 洲崎祥子 山本達郎

熊本大学病院麻酔科

63歳男性.6年前から両足底部の痺れを主訴に脳神経内科や整形外科を受診.神経伝導速度検査では脛骨神経に異常はなく,下肢や腰椎に症状の原因となるような所見は認めなかった.デュロキセチン,プレガバリン,メコバラミンを内服するも無効.1年前から痺れが悪化し,痛みを伴うようになったため,当院脳神経内科で再度精査が行われた.足根管部で神経伝導速度の低下を認め,足関節部で安全靴の靴紐をきつく締め上げていたというエピソードから足根管症候群を疑われた.その後,整形外科で患者希望により足根管部の神経減荷術が施行されたが,症状は改善しなかった.脳神経内科で各種鎮痛補助薬を使用されたが効果は乏しく,痛みのコントロールが困難であることから当科に紹介となった.初診時,痛みVAS 75 mm,痛み破局化思考尺度31点と高値であった.内側足底神経領域の知覚低下を認め,症状の原因は足関節以遠の末梢神経障害と考え,エコーガイド下内側足底神経ブロックを行った.短時間のみ有効であったことから,パルス高周波法を施行したが,無効であった.初診時のインテーク面接とその後の数回の診察から,心理社会的な背景としてネガティブ思考,数年にわたって自発的に痛み日誌を記録するような几帳面で真面目な性格であり,発症時期と仕事で責任ある立場になった時期が重なっていたこと,また,発症時期から趣味や楽しみへの興味が喪失していることが徐々に明らかになった.患者にとって,無効な鎮痛薬の定期内服や痛みに関する記録を続けることは痛みを反すうし,無力感を強め,破局的思考を高める結果につながっていると判断し,記録の中止,内服薬の漸減を提案し,趣味の再開をホームワークとした.4カ月経過したころから痛みの強さに変化はないものの,痛みを忘れている時間や趣味の時間が増加した.行動活性化から破局化思考が低減し,痛みの受容が進み,認知が修正されたことによりADLやQOLが改善したと考えられた.

12. 右側頭部皮膚移植術後に三叉神経第3枝領域の痛みを生じた1症例

大納哲也 藤井真樹子 野田美弥子 濱﨑順一郎

鹿児島市立病院麻酔科

症例は75歳女性,3年前施行された右浅側頭動脈−中大脳動脈吻合術の後,創離開を生じ感染を併発したため当院形成外科で頭蓋骨腐骨切除と遊離広背筋皮弁移植術が施行された.術後7カ月はロキソプロフェンが有効であったが,8カ月目ごろから効果が感じられなくなり,プレガバリンを使用するようになった.約10カ月経過し創部は治癒したにもかかわらず,右顔面の痛みが継続し,とくに右下顎の痛みが強くなったため,当科紹介となった.

初診時,右下顎の知覚低下,とくに下口唇は明らかに低下していた.頚部には問題はなかった.耳介側頭神経領域は皮弁に置換され,感覚はなかった.咬筋の筋力低下を自覚していた.

三叉神経第3枝の末梢神経障害による痛み診断しトラマドール・アセトアミノフェン合剤の投与を開始した.また,疼痛期間が長期に及び,希死念慮を伴う抑うつ症状が疑われたため,当院精神科を受診し,デュロキセチンが開始された.

約1カ月後,表情よく痛みも軽減したため内服薬を中止することとなった.しかし,投薬中止約1週間後から痛みが再燃,デュロキセチンが有効であったと判断し内服を再開した.しかし,その後も痛みが継続,典型的ではない所見が多く判断に悩んだが,痛みの性状は特発性三叉神経痛様であったため,カルバマゼピンを開始してみた.その後,痛みは軽減,デュロキセチンも中止し,現在はカルバマゼピンのみで痛みのコントロールを続けている.その後施行されたMRIでも三叉神経へ血管の接触が指摘されており,特発性三叉神経痛が関与している可能性は高いと考えられた.

三叉神経痛の診断は,末梢の神経の状態によっては診断を迷うことがあり注意が必要だと考えられた.

13. 脊髄刺激療法と運動療法を併用し疼痛・運動機能・心理面を評価した2症例

北岡祐美*1 立山真吾*2 高橋章大*1 渡邉拓也*1 池田沙織*1 田中信彦*3 宇野武司*2

*1潤和会記念病院リハビリテーション療法部,*2潤和会記念病院ペインクリニック科,*3潤和会記念病院緩和ケア科

運動療法は安静や生活指導等と比較すると慢性疼痛と機能障害に対して有効であると報告されており,慢性疼痛治療の第一選択治療の一つとして位置づけられている.また運動療法に加え心理評価・心理学的領域からのアプローチも重要視されている.

今回,慢性疼痛患者に対し脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)と運動療法を行い,周術期の疼痛・運動機能・心理面の評価を行った.術前,術後の疼痛の程度(NRS),10 m歩行試験(10MWT),timed up and go test(TUG),6分間歩行試験(6MWT),簡易疼痛評価(BPI),疼痛生活障害評価尺度(PDAS),破局的思考を評価(PCS),不安・抑うつの評価(HADS)を測定した.

【症例1】腰部脊柱管狭窄症の70歳台女性.疼痛部位は両腰部~両臀部,SCS施行後,NRS 4から3,10MWTは16.8秒から12.3秒,TUGは20.26秒から13.7秒,6MWTは180 mから245 m,BPI 57点から16点,PDAS 44点から20点,PCS 44点から17点,HADS 33点から12点へと改善を認めた.

【症例2】腰椎すべり症(L3)の術後の60歳台女性.疼痛部位は腰背部,SCS施行後,NRS 7から8,10MWTは9.45秒から8.91秒,TUGは10.97秒から10.17秒,6MWTは375 mから370 m,BPI 39点から38点,PDAS 13点から14点,PCS 41点から44点,HADS 18点から19点へと変化した.

症例1ではSCS施行により疼痛軽減,運動機能と心理面の改善が認められた.疼痛への恐怖や不安が軽減され恐怖−回避モデルからの脱却が認められたと考えられた.症例2ではSCS施行後,疼痛増強,運動機能は少し変化が認められたが,心理検査のPADS,PCS,HADSの数値は高くなった.痛みに対するネガティブな思考や破局的思考からの脱却が困難であったと考えられた.慢性疼痛の治療では疼痛の評価だけではなく運動療法,心理評価などを併用し客観的な評価を行い,効果的な治療戦略を考えていく必要がある.

14. 複合性局所疼痛症候群の治療に,いきいきリハビリノートを活用した1症例

立山真吾*1 渡邉拓也*2 川越香奈子*3 北岡祐美*2 池田沙織*2 田中信彦*4 宇野武司*1

*1潤和会記念病院ペインクリニック科,*2潤和会記念病院リハビリテーション療法部,*3潤和会記念病院看護部,*4潤和会記念病院緩和ケア科

近年,慢性疼痛に対する治療法のなかで,運動療法や認知行動療法の有用性が報告されており,慢性疼痛治療ガイドラインでも推奨されている.しかしながら,認知行動療法をすぐに始めることは難しい.2014年に運動療法・認知行動療法・患者教育の3つの要素を取り込んだ「いきいきリハビリノート(以下ノートとする)」が開発され,日本運動器疼痛学会などで講習会が開催され,普及活動が行われている.今回,複合性局所疼痛症候群の患者の治療にノートを導入し,治療効果向上に結びついた症例を経験したので報告する.

患者は60歳代,女性.X年7月,左足に違和感,痛みが出現した.近医整形外科,神経内科などを受診し,神経痛と診断され,プレガバリン,メコバラミンを処方された.11月,症状が改善しないため,当科紹介受診となった.複合性局所疼痛症候群I型と診断し,入院となった.神経ブロック療法,薬物療法,リハビリテーションを始めた.几帳面な性格で,物事に実直に取り組み,自分自身を追い込んでしまう傾向があり,心理的アプローチが必要と考え,ノートの導入も始めた.また,ノート導入前後で,心理評価も行った.簡易疼痛評価(BPI),疼痛生活障害評価尺度(PDAS),破局的思考の程度(PCS),不安・抑うつ評価(HADS)の4つを行った.入院期間は1カ月間で,その後外来で7カ月間治療を継続した.ノートについては,担当看護師・セラピストが記載内容を評価し,担当医師に報告し,担当看護師・セラピストから患者へアドバイスした.痛みは徐々に軽減し,NRS 10/10→2/10になった.心理評価は4つとも改善が認められた.ノートへの記載は,導入当初,空白なく,こと細かく記載し,悲観的な表現が多かった.痛みの状態を適宜説明し,痛みに対する向き合い方などを指導し,徐々に前向きな内容の記載が多くなった.ノートを活用することで,患者は痛みの状態を冷静に把握でき,医療者側は患者へのアプローチがしやすかった.

15. 急性期帯状疱疹部位に疼痛が出現した仙腸関節症の鑑別と治療に成功した1例

鮫島弘子 田代章悟 佐藤朋世 榎畑 京 清永夏絵 上村裕一

鹿児島大学病院麻酔科

症例は71歳女性.血液悪性腫瘍(BPDCN:芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍)に対する化学療法中に右陰部から右臀部の帯状疱疹を発症し,発症後16日目に疼痛コントロール目的に当科紹介となった.皮疹は右鼠径内側と右陰部から臀部に認めたが,最も痛みが強い部位が陰部であることから右S3を責任高位と判断した.化学療法により血小板低値を呈しており,薬物療法で経過をみたところNRS:0~1まで疼痛の改善を認め,自宅退院となった.しかし退院1週間後に疼痛増強のため緊急入院となり,血小板数も回復傾向にあったことから神経ブロック療法による介入を開始した.右S3神経根パルス高周波法や仙骨硬膜外ブロック施行により,陰部のピリピリした強い持続痛はほとんど消失したが,治療の経過中から右臀部痛の訴えが強くなった.疼痛部位が皮疹の部位に一致していたため,当初は帯状疱疹関連痛の残存と判断し対応した.しかし,詳細な問診を行ったところ,疼痛は右臀部以外に右大腿後外側にも認め,座位などによる臀部への圧刺激によって右臀部痛が誘発され,アロディニアや触覚低下を認めないことが判明し,体性痛の可能性が高いと考えた.甲状腺濾胞がんの既往もあったことから転移なども鑑別するため骨盤部造影CTを施行したが,明らかな転移などは認めなかった.同時期の疼痛誘発試験の所見(SLRT:80/80,Patrick:+/−,Newton:+/−)や右仙腸関節部の著明な圧痛点の存在から,仙腸関節障害の可能性が高いと判断し,診断兼治療目的にX線透視下に右仙腸関節ブロックを施行したところ,強い再現痛と高い効果を認めた.

経過より,帯状疱疹関連痛の治療経過中に仙腸関節症が合併した状態であったが,痛みの性状などから診断を再考し,早期に鑑別,治療を行うことができたと考える.

16. 硬膜腹側の損傷による脳脊髄液漏出症に対して自家血パッチを行った2症例

日高康太郎 門田瑤子 渡部由美 山賀昌治 恒吉勇男

宮崎大学医学部麻酔生体管理学教室

脳脊髄液漏出症(cerebrospinal fluid leakage:以下CSFL)は,保存的加療が基本であるが,症状が遷延する場合には硬膜外自家血パッチ(epidural blood patch:以下EBP)が有効とされる.今回,骨棘による腹側硬膜の損傷が原因と考えられたCSFLの2症例に対してEBPを行った.経過を文献的考察とともに報告する.

【症例1】30歳台女性.突然発症した起立性頭痛の精査中に,MRIによる頭蓋内硬膜肥厚とTh12~L5までの硬膜嚢前面の硬膜外液体貯留を認め,CSFLが疑われた.Th12椎体後縁に骨棘を認め,骨棘による硬膜損傷が疑われた.EBPを実施後約3日で,症状はほぼ消失し自宅退院となった.

【症例2】60歳台男性.2年前に脳ドックで脳表ヘモジデリン沈着,小脳萎縮を指摘されたが放置していた.ふらつきが強くなり当院受診となった.MRIで,C6~Th6までの脊柱管腹側の硬膜外液体貯留とTh4~5に渡る硬膜腹側の欠損を指摘された.硬膜閉鎖術が検討されたがまずは低侵襲な治療を行うこととなり,EBPを施行した.しかし,症状改善認めず,椎弓切除を伴う硬膜閉鎖術が施行され,症状の進行が抑制できた.

外傷性および特発性のCSFLに対するEBPの奏功率は23%とされ,硬膜穿刺後頭痛に対するものと比べ低い.これは硬膜損傷の大きさや部位が影響している可能性がある.われわれの経験した症例はともに腹側の損傷であったが,症例2はMRIで確認できる硬膜損傷があり,損傷が大きかった可能性がある.このような症例でEBPの成功率を高めるには,損傷部位を血液で満たすための工夫が必要かもしれない.

 
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