Journal of Japan Society of Pain Clinicians
Online ISSN : 1884-1791
Print ISSN : 1340-4903
ISSN-L : 1340-4903
[title in Japanese]
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 29 Issue 1 Pages 12-14

Details

会 期:2021年9月26日(日)

会 場:Web開催

会 長:森本裕二(北海道大学麻酔・周術期医学教室教授)

■一般演題

1. 三叉神経痛に対する大口蓋神経ブロックの有用性

寺尾 基*1 原田修人*1 岡田華子*1 竹田尚功*2 高田 稔*3 赤間保之*1 的場光昭*1

*1旭川ペインクリニック病院,*2永山ペインクリニック,*3神居ペインクリニック

【はじめに】薬物療法,他の神経ブロック治療が困難な症例に大口蓋神経ブロックを施行したところ,有用な結果が得られたので報告する.

【方法】体位は仰臥位とし,頚部を軽度伸展させる.患者頭側より上顎第2大臼歯遠心側の歯槽突起起始部,正中線のより外側方向約10~15 mmに位置する窪みを触診して同部位に穿刺する.2%リドカインで局所麻酔後,無水エタノール0.3 ml注入を注入する.

【症例】症例は三叉神経第2枝の三叉神経痛の患者5名で,全員が薬物治療では効果が不十分であった.4名の患者はガッセル神経節ブロックが施行困難,施行できても痛みが残存した.1名の患者は,当初より大口蓋神経ブロックを選択した.全症例で,眼窩下神経ブロックを併用した.

【結果】全症例で,1年以上の有効性が得られている.

【考察】大口蓋神経ブロックはガッセル神経節ブロック等の透視下神経ブロックと比較して,手技が簡便で患者の侵襲,痛みも軽度である.眼窩下神経ブロックの併用が,必要である.

【結語】ガッセル神経節ブロックの効果が不十分な場合も大口蓋神経ブロックの追加で痛みのコントロール可能になった.ガッセル神経節ブロック施行の前に,眼窩下神経ブロックおよび大口蓋神経ブロックを施行することは有用である.また,ガッセル神経節ブロック施行の前に,眼窩下神経ブロックおよび大口蓋神経ブロックを施行することは有用であった.

2. 非がん性疼痛に対してコンビームCTガイド下腹腔神経叢ブロックを施行した2症例

西田遼子 片山勝之

手稲渓仁会病院麻酔科・ペインクリニック

保存的な鎮痛治療に不応性の慢性膵炎後上腹部痛および胆管空腸吻合後上腹部痛に対して,コンビームCTガイド下腹腔神経叢ブロックを施行し,良好な結果が得られたので報告する.

【症例1】46歳男性,慢性膵炎・膵石治療を繰り返し,他院より当院消化器内科に紹介された.内視鏡的膵管口切開術および結石除去後も痛みは改善せず当科に紹介となった.しかし3カ月間の薬物療法に反応せず,就労困難となり,腹腔神経叢ブロックを行う方針とした.CTガイド下腹腔神経叢ブロック施行直後より心窩部・左側腹部痛は消失した.ブロック後より新たに右腰部の痛みを自覚したため,精査を行ったが,膿瘍および筋組織の壊死等も認めなかった.鎮痛薬の内服で経過を見たところ,4カ月を経て軽快した.現在も両部位とも痛みの再燃を認めていない.

【症例2】57歳男性,バスの運転手.膵胆管合流異常症,先天性胆道拡張症に対し開腹肝外胆管切除,胆嚢摘出,胆管空腸吻合術を施行された.術後も,胆管炎を発症した際と同様の上腹部から背部に及ぶ間欠的な痛みを自覚するようになり,当科紹介となった.遷延性術後疼痛と考え,持続硬膜外鎮痛を行い,若干の症状改善が得られたため退院したが,徐々に腹痛が悪化し就労困難になったため,腹腔神経叢ブロックを適応する方針とした.CTガイド下腹腔神経叢ブロック施行後,上腹部・背部痛は直ちに軽快し,現在アセトアミノフェンの内服のみで就労を再開している.

腹腔神経叢ブロックは,腹腔内悪性腫瘍の神経浸潤による疼痛に対し多く用いられてきた.神経破壊薬を用いるため,良性疾患に対しては敬遠される傾向にあったが,慎重に適応を検討した上で施行すれば,速やかに除痛効果が得られ,施行する価値の高い方法であると考える.

3. POEMS症候群に伴う慢性両下腿痛の1例

前田洋典 敦賀健吉 宮田和磨 藤井知昭 三浦基嗣 森本裕二

北海道大学病院麻酔科

【背景】POEMS症候群は形質細胞腫瘍に関連する傍腫瘍症候群のことで,POEMS(Polyneuropathy,Organomegaly,Endocrinopathy,Monoclonal protein,Skin changes)の頭文字からなる.わが国に関して,2004年の厚生労働省難治性疾患克服研究事業「免疫性神経疾患に関する調査研究班」による調査では,国内に約340人の患者がいることが推定されている.

【症例】50歳代男性,原病以外の特記すべき既往歴なし.X−3年夏ごろに手掌足底のしびれと疼痛を自覚し,その後筋力低下,歩行障害が出現した.同年にPOEMS症候群の診断を受け,化学治療が施行された.X−2年に自家末梢血幹細胞移植が施行されるも,四肢の痛みは強く,ピーク時は静注オキシコドン製剤140 mg/日程度を要した.術後経過は順調で,鎮痛薬を漸減し退院となったものの,外来でリハビリテーションを行う上で,経口モルヒネ製剤60 mg/日に加えて,経口トラマドール製剤300 mg/日が投与されている状態であった.特に両下腿痛および眠気を主訴として,X年Y月に当科初診となった.両下腿より遠位の「火傷のような」痛みで,VAS 70 mmの持続痛,VAS 100 mmの突出痛であった.X年Y月より症状の強い左下腿から1%キシロカインによる坐骨神経ブロック(SNB膝窩アプローチ)を開始,またY+1月にはデュロキセチン40 mg/日が開始となった.左側SNBを計3回施行後,持続痛はVAS 55 mmに減少した.その後,右側SNBも計3回施行し,X年Y+3月にはトラマドール0~37.5 mg/日まで減量,VAS 45 mmとなった.

【考察】本邦においてPOEMS症候群によるニューロパチーに対する神経ブロックの報告は少ない.同疾患に伴う慢性下肢疼痛管理において,過去の報告にある硬膜外ブロックに加えて,坐骨神経ブロックも有効かもしれない.

【結語】今回,POEMS症候群に伴う下腿痛に対して坐骨神経ブロックが有効であった症例を経験したので報告する.

4. 片頭痛における抗CGRP抗体の使用経験

岡田華子 寺尾 基 原田修人 赤間保之 的場光昭

旭川ペインクリニック病院

片頭痛の発作が月に複数回以上ある場合や慢性片頭痛の場合,トリプタンの使用が頻回,または使用しても十分な効果が得られないことも多い.また,予防薬投与下でも発作の回数が減少しない,または副作用のために予防薬が適正量使用できないケースも多い.今回片頭痛の新規治療薬として抗CGRP抗体薬が発売された.当院でも採用を行い,十数例に使用したので検討を行った.

症例は国際頭痛分類第3版(ICHD-3)で診断を行った慢性片頭痛,発作が複数回月にあり日常生活に支障をきたしている片頭痛である.1カ月ごと皮下注射で投与を施行した.これらの症例に関して,頭痛改善日数等について検討を行ったので報告を行う.

5. 帯状疱疹に伴う神経障害性掻痒に対する温清飲の応用

宮田和磨 藤井知昭 前田洋典 三浦基嗣 敦賀健吉 森本裕二

北海道大学病院麻酔科

【背景】帯状疱疹に伴う神経障害性掻痒に対して,当科では温清飲を投与し有効な症例を経験しているので報告する.

【症例1】深部静脈血栓症の既往がある40歳台女性.右C6-T1の帯状疱疹を発症し,アメナメビル,ナプロキセン,プレガバリン,ジフルプレドナート軟膏を投与されたが,痛みと掻痒が強く発症4週後に当科紹介.痛みのnumeric rating scale(NRS)は7であった.また右前胸部から上腕にNRS=10の強い掻痒とそれによる不眠の訴えがあった.痛みに対してコデインリン酸塩水和物,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液,桂枝加朮附湯を追加し,掻痒に対して温清飲を開始した.また星状神経節レーザー治療を併用した.9日後には痛みのNRS=4,掻痒のNRS=5となった.16日後には痛みのNRS=3,掻痒のNRS=0となり,夜も眠れるようになった.

【症例2】40歳台男性.2年前に右三叉神経領域の帯状疱疹を発症した.他院で神経ブロックやプレガバリンなどの内服による治療を受けたが,痛みが悪化傾向となり当科紹介.罹患部位の夜間の掻痒が強いという訴えがあった.星状神経節レーザー治療とプレガバリン増量等の内服調整を行ったが,掻痒は持続していた.初診から2カ月後に温清飲を開始したところ,翌月には掻痒は軽減し,その後徐々に掻痒や痛みは減少傾向となった.

【考察】神経障害性掻痒は痒みを伝達するニューロンの末梢での過剰な発火や中枢での抑制の減弱により発症するとされるが,不明な点も多く治療法は確立されていない.温清飲は黄連解毒湯と四物湯の合方である.黄連解毒湯には炎症や掻痒を伴う皮膚疾患に対して用いられる.四物湯は「血虚」を治すとされており,血虚の概念には神経障害性疼痛も含まれるという意見がある.それらの合方である温清飲は帯状疱疹に伴う掻痒に適すると考えられる.

【結語】帯状疱疹に伴う神経障害性掻痒に対して,温清飲は治療選択肢の一つとなり得る.

6. 直腸がん術後の難治性肛門痛を複数回のくも膜下フェノールブロックで管理し得た1症例

南 ひかり*1,2 安濃英里*3 小野寺美子*1 佐藤 泉*1 菅原亜美*1 神田 恵*1 神田浩嗣*1 阿部泰之*3

*1旭川医科大学麻酔蘇生学講座,*2北海道医療センター麻酔科,*3旭川医科大学病院緩和ケア診療部

【緒言】くも膜下フェノールブロック(以下SAPB)を繰り返し施行する事で,難治性がん疼痛を管理し得た症例を経験したので報告する.

【症例】40代男性.直腸がん,上行結腸がんに対して大腸全摘術と人工肛門造設術が施行された.術後,旧肛門部に座位で悪化するNRS 10の疼痛が出現し,当院緩和ケア診療部に紹介となった.メサドン(最大40 mg/日)など強オピオイドを中心とした内服治療を行ったが,著効なく経過した.12カ月後に骨盤内再発による排尿障害を併発したため,SAPBを施行する方針となった.L4/5間穿刺で10%フェノールグリセリン溶液0.3 mlを注入したところ翌日NRS 3まで改善し,その後もNRS 3~5にて経過した.4カ月後,骨盤内再発増悪と左坐骨転移が出現し同部位の疼痛増悪(NRS 9)したため,2回目のSAPBを施行した(NRS 4に減少).4カ月後,右仙骨転移が出現し3回目のSAPB施行,良好な鎮痛効果を得た(NRS 9から5に減少).この間メサドンの内服量は40~50 mg/日で経過し,同部位の疼痛も永眠されるまで著変なかった.

【考察】SAPBは肛門部痛など,難治性がん疼痛に対し有効な治療法である.しかし膀胱直腸障害や下肢運動障害等の合併症があり,適応する症例や施行時期の見極めが重要である.本症例では,人工肛門造設と尿道カテーテル留置の必要性が出てきた時期にSAPBを実施し,かつ繰り返す事で,患者のQOLが維持され長期間の在宅療法が可能となったと考える.

【結語】直腸がん術後の肛門痛と骨盤内再発に伴う同部位の疼痛の悪化に対して,複数回のSAPBが有効であった.

7. γアミノ酪酸の産生を亢進させるアデノ随伴ウイルスベクターの機能評価

神田 恵*1 小山恭平*2 河村あさみ*1 川田友美*3 川田大輔*1 奥田勝博*4 中澤 瞳*5 神田浩嗣*1

*1旭川医科大学麻酔・蘇生学講座,*2旭川医科大学外科学講座心臓大血管外科学分野,*3旭川医科大学先端医科学講座,*4旭川医科大学法医学講座,*5旭川医科大学解剖学講座機能形態学分野

【背景/目的】神経障害性疼痛モデルではγアミノ酪酸(GABA)作動性抑制系が減弱していることより,GABAの回復によって疼痛を治療できる可能性がある.本研究では,GABAの合成酵素を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを作成し,疼痛治療への応用を目的としてAAVベクターによる神経細胞特異的な遺伝子発現誘導と,動物モデルへの投与経路の検討を行った結果を報告する.

【方法】緑色蛍光タンパク質(GFP)もしくはグルタミン酸デカルボキシラーゼ1(GAD1)を,サイトメガロウイルス(CMV),シナプシンI(SYN)またはCMVエンハンサー融合SYN(E/SYN)プロモーター制御下で発現するAAVベクターを作成した.AAVベクターをラット初代培養脳細胞に投与またはラットに髄注し,導入遺伝子の発現をqPCRおよび免疫染色で,GABA産生量は質量分析法を用いて定量した.

【結果】初代培養脳細胞において,SYNまたはESYNプロモーターを用いたGFP発現AAVベクターは,神経細胞特異的なGFP発現を誘導した.SYNまたはESYNプロモーターを用いたヒトGAD1発現ベクターは,同レベルのGAD1遺伝子発現を誘導した.GAD1発現ベクターを投与した細胞では,GFP発現ベクターを投与した細胞に比較して有意に高いGABA量が認められた.ラットへのAAVベクターの髄注により,神経細胞への遺伝子導入およびヒトGAD1遺伝子の発現が認められた.

【結語】SYNまたはESYNプロモーターを持ったAAVベクターは,神経細胞特異的な遺伝子発現を誘導し,ヒトGAD1の導入によってGABA産生を亢進した.in vivoにおいても,神経組織へ遺伝子導入することを明らかにした.

 
© 2022 Japan Society of Pain Clinicians
feedback
Top