Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Adverse events in pain treatment in 2019 and 2020: a report from the Committee on Safety of the Japan Society of Pain Clinicians
Committee on Safety of the Japan Society of Pain CliniciansToru SHIRAIShinichi YAMADAAiko MAEDAYoichiro ABEHideki NAKATSUKA
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2022 Volume 29 Issue 12 Pages 233-240

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Abstract

日本ペインクリニック学会安全委員会では,2009年より毎年ペインクリニック専門医指定研修施設を対象に有害事象調査を行っている.本稿では,2019年および2020年の2年間にわたる有害事象および施設情報報告をもとに調査,分析を行った結果を報告する.【方法】国立大学病院長会議医療安全管理協議会の定めた「インシデント影響度分類」のレベル3a以上および学会の定めた項目としてその他(社会的問題や部位の間違い)を報告対象とし,レベル3b以上は詳細な報告を依頼した.【結果】2年連続98%の施設から回答が得られた.鎮痛薬・鎮痛補助薬に関するレベル3b以上の重大な有害事象として2019年が8件,2020年が7件,神経ブロック・インターベンショナル治療に関する重大な有害事象として2019年が64件,2020年が52件報告された.【まとめ】重大な有害事象は毎年減少することなく一定の件数が報告されており,今後も有害事象の発症要因や状況の究明と把握を行い,学会内での情報共有の強化と再発防止に向けた対策の提言を行っていく方針である.

Translated Abstract

The Committee on Safety of the Japan Society of Pain Clinicians (JSPC) has investigated the adverse events (AEs), which are categorized from level 0 to 5 according to the severity by “the incident severity classification system recommended by the National University Hospital Council of Japan” in pain-related management of all Japanese board-certificated training facilities since 2009. By referring to this classification system, it is mandatory to report AEs of 3a or above and more detailed reports are requested for AEs of 3b or above. Here we report AEs and facility information in 2019 and 2020. In this survey, we received responses from 98% of the facilities in both years. There were 8 cases of 3b or above AEs in 2019 and 7 cases in 2020 related to analgesics/additives, and 64 cases in 2019 and 52 cases in 2020 related to nerve block/interventional therapy. It is necessary to share the results among the members of the JSPC and enhance the recognition of risk management in pain treatment settings.

I はじめに

日本ペインクリニック学会安全委員会では,2009年よりペインクリニック専門医指定研修施設(以下,指定施設)を対象に有害事象調査を行い,2012年からは毎年調査を継続している.また2018年よりウェブアンケート方式から現在の即時入力が可能なファイルを用いた報告を取り入れ,より詳細な報告が行えるようになっている.さらに2019年の報告からは神経ブロックの項目を詳細に分類する試みを開始した.本稿では,第9,10回調査として2019年1月から2020年12月までの2年間の集計結果について報告する.

II 対象と方法

調査対象期間は2019年1月から2020年12月とし,1年ごとの報告をもとに各々集計を行った.指定施設を対象に以下の項目について回答を依頼した.

有害事象の調査項目は,薬剤,治療・処置,医療機器,医療材料および画像検査・透視に分類し,各々の患者区分,発生場所,有害事象発生状況,有害事象内容,要因に関して調査した.さらに,日本ペインクリニック学会治療指針改訂第6版1)に掲載されている鎮痛薬・鎮痛補助薬31項目,神経ブロック・インターベンショナル治療38項目に分類し調査した.

回答ファイルの回収はウェブ上で行ったが,施設や患者の個人情報に配慮し,これらが特定できない方法(情報の取得のみで施設の特定は不可能)を採用した.施設情報と有害事象の有無,有害事象発生状況などについて調査を行った.また個人情報保護の観点や係争に関わる問題も存在することから情報公開諾・否という項目を設け,匿名性が保たれるように配慮を行い,該当症例に関する詳細な記述を控えた.

指定施設更新のために報告義務のある有害事象は,国立大学病院長会議医療安全管理協議会の定めた『インシデント影響度分類』2)のレベル3a以上とした.

影響度分類レベル3b以上(3b:一過性高度障害,4a:永続的軽度~中等度障害,4b:永続的中等度~高度障害,5:死亡,その他:社会的問題)を重大な有害事象として,その詳細な報告を求め,薬物の過量服用(乱用)などの社会的問題,部位間違いに関しても併せて報告を求めた.インシデント影響度分類を表1に示す.

表1 インシデント影響度分類(国立大学病院長会議医療安全管理協議会編,日本ペインクリニック学会安全委員会で一部改訂)
レベル 障害の継続性 障害の程度 内 容
0 なし エラーや医薬品の不具合がみられたが,患者には実施されず,未然に防げた
1 なし 何らかの影響を与えた可能性は否定できないが,患者への実害はない
2 一過性 軽度 処置や治療は要さなかった(患者観察の強化,バイタルサインの軽度変化,安全確認のための検査などの必要性は生じた)
3a 一過性 中等度 簡単な処置や治療を要した
例:皮膚の縫合,シーネ固定,循環改善薬や鎮痛薬の投与など
3b 一過性 高度 濃厚な処置や治療を要した
例:バイタルサインの高度変化,蘇生術,手術,入院日数の延長,外来患者の入院など
4a 永続的 軽度~中等度 永続的な障害や後遺症が残ったが,有意な機能障害や美容上の問題は伴わない
4b 永続的 中等度~高度 永続的な障害や後遺症が残り,有意な機能障害や美容上の問題を伴う
5 死亡 死亡(原疾患の自然経過によるものを除く)
その他 社会的問題 乱用,患者からの強要,違法行為
部位 部位間違い 治療部位の間違い
例:左右間違い

3b以上を重大な有害事象として詳細な報告対象とした.

III 結果

2019年は指定施設335施設中327施設(7施設が未回答で1施設のファイルが開けない)から,2020年は340施設中334施設(3施設が未回答で3施設のファイルが開けない)から有効な回答を得て,各々98%と高い回答率であった.

1. 指定施設情報

外来担当医数は1~2名の施設が146施設(43%)で,4名までの施設が242施設(72%)を占めた.5名が29施設,6名が21施設あり,7名以上が29施設存在した.常勤専門医数が1~3名の施設が289施設(86%)を占めた.

延べ外来患者数は2019年,2020年で各々1,405,980名,1,406,995名,新規外来患者数は各々91,877名,88,109名であった.

神経ブロック数は2019年,2020年とも1,000~9,999件施行した施設が最も多く,10,000件以上施行している施設が各年10施設,13施設存在した.また,神経ブロックを全く行わなかった施設が各年6施設,3施設存在した.

主な神経ブロックの施行総数は2019年,2020年で腰・仙骨部硬膜外ブロック(epidural block:epi)177,141,196,446件,頚・胸epi 26,231,27,935件,腰・仙部神経根51,491,33,484件,頚・胸部神経根18,860,21,430件,星状神経節ブロック(stellate ganglion block:SGB)90,633,96,975件,肋間神経ブロック11,777,12,466件であった.

施行頻度の高いepi,SGBにおいて,ランドマーク法での施行が補助装置下での施行より優勢であった.2019年,2020年の腰部epiでは各々83.8%,80%が,頚・胸部epiでは各々77.3%,70.1%がランドマーク法であり,SGBにおいては各々65.7%,67.9%がランドマーク法であった.

2. 有害事象

2.1  件数

2019年は70施設(21%)から137件,2020年は71施設(21%)から151件の有害事象報告があった.インシデント影響度分類の3a以上の報告を求めたが,2以下の報告も一部混在した.3a以上の件数は各々132件,115件であった.

2.2  患者区分

年齢別では,2019年,2020年で各々,0~15歳:1件,0件,15~64歳:61件,76件,65~79歳:48件,48件,80歳以上:27件,27件が報告された.

療養区分は各々,入院中:44件,39件,在宅:1件,1件,外来通院:92件,111件であった.

2.3  発生場所

2019年,2020年で各々,外来:93件(処置室86,診察室7),107件(処置室97,診察室9,待合室1),病棟:20件,14件,手術室:11件,11件,透視室:5件,7件,その他:8件,12件が報告された.

2.4  有害事象内容

2019年,2020年で各々,薬剤:12件,11件,治療・処置:123件,139件,医療機器および医療材料:2件,1件が報告された.これまでの調査結果3,4)と同様に,多くが鎮痛薬・鎮痛補助薬および神経ブロック・インターベンショナル治療に関する内容であった.

2.4.1  薬  剤

薬剤に関する有害事象の発生要因に関しては,副作用(処方・管理・服薬に問題なし)が最も多く,2019年8件,2020年4件存在した.その他,不適切処方として,投与方法(投与量)の間違いが2019年に1件,乱用,強要などの社会的問題が各年1件,2件報告された.2019年に発生した12件の内訳は全て鎮痛薬・鎮痛補助薬に関するもので,非ステロイド性消炎薬3件,アセトアミノフェン1件,麻薬系(オピオイド)鎮痛薬3件(モルヒネ1,メサドン1,トラマドール1),serotonin noradrenaline reuptake inhibitors:SNRI 3件,漢方,複数の薬剤使用(特定不能)が1件ずつ存在した.2020年11件の内訳は,麻薬系(オピオイド)鎮痛薬5件(モルヒネ2,ハイドロモルフォン1,トラマドール・アセトアミノフェン配合剤2),プレガバリン1件,SNRI 2件,漢方,局所麻酔薬,造影剤がそれぞれ1件存在した.レベル3b以上の詳細については表2に示す.

表2 2019年,2020年薬剤による重大な(3b以上の)有害事象と社会的問題の詳細
薬剤分類 2019年 2020年
薬剤名 有害事象 薬剤名 有害事象
解熱鎮痛薬 NSAIDs
NSAIDs
アセトアミノフェン
社会的問題(強要)
消化性潰瘍(3b)
血小板減少(3b)
オピオイド・麻薬 トラマドール
メサドン
転倒,骨折(3b)
心室頻拍(3b)
モルヒネ
モルヒネ
TRAM
社会的問題(乱用)
社会的問題(乱用)
横紋筋融解症(3b)
抗うつ薬・SNRI SNRI 退薬症状(3b) SNRI 薬剤性SIADH(3b)
プレガバリン・ミロガバリン プレガバリン 尿閉(3b)
漢方薬 麻杏よく甘湯+二朮湯 間質性肺炎(3b) 桂枝加朮附湯 薬疹(3b)
造影剤 イオベリン 神経障害(4b)
複数の鎮痛(補助)薬,特定不能 公開不可 死亡(5)

有害事象内容と括弧内にグレードを記している.

SIADH:syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone,TRAM:トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合剤.

2.4.2  治療・処置

神経ブロック・インターベンショナル治療に関する有害事象の発生要因に関しては,2019年,2020年ともに,“治療上起こりうる合併症”が最も多く41件,33件,次いで技術的問題(未熟,不適切操作)が30件,31件,事前評価不十分が15件,20件,手技管理上の問題が11件,11件と続いた.

2019年,2020年の報告数はそれぞれ,神経ブロックが103件,126件,手術治療が14件,11件,その他の治療が数件ずつ報告された.神経ブロックに関する合併症はepi関連(70件,63件),SGB(11件,10件),次いで肋間神経ブロック(3件,6件)が多く,レベル3b以上の重大な合併症としては,2019年,2020年共にepi関連(カテーテル留置含む)が最も多く33件,24件存在し,SGB 6件,3件,肋間神経ブロック3件,5件,神経根ブロック3件,2件と続いた.その他の末梢神経ブロックなどが13件,8件報告された.2019年にはレベル5が1件報告された(公開不可).3b以上の頻度が最も高かったepi関連の有害事象の発生頻度は2019年,2020年で各々約0.016%(総数203,372件中33件),0.012%(同196,446件中24件)であった.部位間違いに関しては,それぞれ1件,4件報告され,左右間違いが大半を占めた.SGBにおける3b以上の有害事象は全て局所麻酔薬中毒であったが,超音波下での施行でも各年1件ずつ発生をみた.SGBに関する3b以上の有害事象発生率は各年0.007%(90,633件中6件),0.003%(96,975件中3件)であった.神経ブロックに関する重大な有害事象の詳細を表34に示す.手術療法(インターベンショナル治療)に関するレベル3b以上の重大な有害事象は脊髄刺激療法が多く,各年4件,9件発生し,他,2019年に硬膜外腔癒着剥離術,多汗症手術1件ずつの発生をみた.詳細を表5に示す.

表3 2019年,2020年神経ブロックに関する3b報告の詳細
手 技 有害事象(件数)
2019年 2020年
硬膜外カテーテル挿入・留置 感染(7)(膿瘍,椎体炎など) 硬膜外膿瘍(4),化膿性脊椎炎(1),血腫(2),低血圧(1)
頚部硬膜外ブロック 硬膜穿刺後頭痛(2),くも膜下注入(3),血腫(1),神経障害(2) くも膜下注入(2),低血圧(1)
腰部硬膜外ブロック 硬膜穿刺後頭痛(11),転倒(1),気脳症(1) 硬膜穿刺後頭痛(4),くも膜下注入(3),硬膜外膿瘍(1)
星状神経節ブロック 局所麻酔薬中毒(6) 局所麻酔薬中毒(3)
肋間神経ブロック 気胸(3) 気胸(5)
肩甲上神経ブロック 気胸(1) 気胸(1)
神経根ブロック 気胸(1) 気胸(1),くも膜下注入(1)
トリガーポイント注射 公開拒否(2)
大腿神経ブロック 一過性神経障害(1),血腫(1)
椎間関節ブロック
(後枝内側枝ブロック)
皮下血腫(1),気胸(1) 頚神経系合併症(1)
傍脊椎神経ブロック 気胸(1)
腕神経叢ブロック 気胸(2)
三叉神経末梢枝 血腫(1)
坐骨神経ブロック 一過性運動障害(1)
外側大腿皮神経ブロック   一過性運動障害(1)
腹腔神経叢ブロック 低血圧持続(1)
関節内注射 感染(1)
IRS(局所静脈内交感神経ブロック) 局所麻酔薬中毒(1)

括弧内の数字は,症例数を表している.公開拒否症例に関しては詳細内容を省いた.

表4 2019年,2020年神経ブロックに関する4a,4b報告の詳細
手 技 グレード,件数,内容
2019年 2020年
硬膜外カテーテル留置 4b:2件,4a:1件(硬膜外膿瘍)
頚・胸部硬膜外ブロック 4b:2件(くも膜下注入など) 4a:3件(脊髄損傷など)
腰部硬膜外ブロック 4a:1件,4b:1件(共に硬膜外血腫)
頚部神経根ブロック 4a:1件(硬膜外血種)
おとがい神経ブロック 4a:1件(神経障害)
椎間関節ブロック 4a:1件
トリガーポイント注射 4a:1件(脊髄障害)
造影剤 4b:1件(脊髄障害)

グレード(4aか4b),症例数と括弧内に有害事象の詳細を記載,公開拒否事例に関しては詳細内容を省いた.硬膜外ブロック関連の合併症が過半数を占める.

表5 2019年,2020年手術治療(インターベンション)に関する3b報告
手 技 内 容(件数)
2019年 2020年
脊髄電気刺激療法 皮下膿瘍(2),その他感染(1),血腫(1) 皮下膿瘍(2),硬膜外膿瘍(2),その他感染(1),創部し開(縫合不全)(2),血腫(1),くも膜下迷入(1)
神経剥離(Racz) カテーテル断裂(1)
多汗症手術 公開不可(1)

括弧内数値は件数を表す.脊髄電気刺激療法関連が多く,感染性合併症が多い.

2.4.3  医療機器・医療材料

2019年に2件,2020年に1件の報告があったが,3b以上の重大な有害事象はなかった.

IV 考察

2019年度から神経ブロック件数も報告項目に組み入れたが,中には2万件近く施行している施設も存在し,報告に際しては相当な労力を要したことがうかがえた.一方,有害事象の発生率の把握には指定施設全体での神経ブロックの施行概数が必須であり,今後は,重篤な合併症をきたしやすい,もしくはより中枢神経近傍の神経ブロックに限定した回答項目とするなどの工夫が必要と考えている.

情報公開が否となっている症例に関しては,会員間で共有すべき情報が含有されている重要な案件であることが多く,個人情報漏洩,施設特定に至らない範囲内での会員間における公開が必要であるのではないかと考えている.

薬物に関する有害事象報告は,処方頻度の多さも相まって,例年プレガバリン,デュロキセチン,麻薬系(オピオイド)鎮痛薬に関する報告が少なくないが,2018年4)に続き,これらに関する報告は限定的であった.デュロキセチンによる有害事象として,抗利尿ホルモン分泌異常症が1件報告された.まれではあるが,本邦でも複数例の報告があり5,6),抗うつ薬を開始して2~4週間は低ナトリウム血症のリスクが高いとされ7),慎重な観察が必要である.

他の重大な有害事象として,非イオン系造影剤の硬膜外腔への投与により生じたと考えられた有害事象報告が1件あり,頻度は少ないが注意を要する事例と考える.一般に使われるイオヘキソール(イオベリン®,オムニパーク®)は非イオン性の低浸透圧性の造影剤で,ヨード含有量の違いにより浸透圧が異なり,脊髄腔内へ投与が可能な製剤は180,240,300 mg/dlのものに限られる.一方,ヨード含有量が350 mg/dlのものは血管内,尿路造影の適応に限られる.また脊髄腔内用と同濃度の製剤で尿路・血管用が存在することも銘記する必要がある.イオン性の高浸透圧性の造影剤(ウログラフィン®)が髄腔内に投与され,全身痙攣,致死的合併症をきたしたとする事例も過去には存在し,脊髄造影用とそれ以外は厳密な分離保管,関係スタッフへの周知,教育および情報共有が重要である.

麻薬系(オピオイド)鎮痛薬の不適切使用(乱用)に関して2件報告があった.共に非がん性痛症例で,激痛に苛まれた結果,患者本人の判断で過量服用した症例であるが,1件は気管挿管管理を要した呼吸抑制例で,致死的な副作用発現の可能性を含めた繰り返しの患者教育の必要性と医療者側への再度の注意喚起が必要である.

神経ブロックに関する有害事象において,左右間違いが少数ながら存在する.全て重篤な有害事象には至っていないものの,患者に与える不要な侵襲,負担を重く受け止めるべきで,委員会としては今後も把握しやすいよう,重症度分類とは別に記載箇所を設ける予定である.硬膜外ブロックに関連する有害事象は例年多く(2017年105件3),2018年82件4)),2019年70件,2020年63件であった.各々3b以上の占める割合は47.1%,38.1%と高く,重篤な有害事象につながりやすいことがわかる.特に今回の集計では,永続的な障害,後遺症(4a,4b)をきたした報告の半分以上を硬膜外ブロック関連が占めており,今一度の対策が求められる.硬膜外カテーテル留置時における感染,硬膜外膿瘍の発生には消毒,抗菌薬使用など管理上の問題の関与が大きい8,9)可能性がある.本調査では,穿刺回数,消毒の方法などの詳細な情報を得るには至らなかったが,硬膜外穿刺,カテーテル挿入時,留置中の徹底した感染対策は必要であると考えられる.糖尿病など易感染性のない健常人が硬膜外膿瘍をきたしたとする報告10)も存在し,無菌操作,0.5%グルコン酸クロルヘキシジンと80%エタノールの混合液を用いた皮膚消毒,抗菌薬の投与などの感染対策が欠かせないのは言うまでもないが,感染兆候の早期発見,早期治療により重症化を予防することが重要である.実際に,Heusner11)の提唱した硬膜外膿瘍の臨床経過分類(Phase 1:背部痛,Phase 2:神経根刺激症状,Phase 3:筋力低下,膀胱直腸障害,知覚障害,Phase 4:麻痺)をもとに,早期兆候を見逃さないこと,神経症状が顕在化する前に対処することで重症化を回避したとする報告10)も存在する.

SGBに関する有害事象は,例年同程度の発生件数(2017年,2018年で各々13件3,4))が存在し,2019年,2020年は各々11件,10件であった.3b事例が各々6例(54.5%),3例(30%)存在し,全て局所麻酔薬中毒であった.3a以下のSGB有害事象として,軽症の局所麻酔薬中毒症状,硬膜外腔注入が疑われた症例や一過性の上肢運動障害などがあった.超音波ガイド下の施行でも発生しており,血管内注入に関しては補助装置の有無にかかわらず発生する可能性について注意を払う必要があるといえよう.また,血液の逆流が確認されないことで血管内注入を完全に否定できるわけでない12)ことを肝に銘じておく必要がある.また,他の神経ブロックにおいて末梢に向かう動脈や心臓に向かう静脈内への大量の局所麻酔薬注入によって誘発されるものとは異なり,多くは脳に直接血液を供給する頚部動脈(椎骨動脈,総頚動脈)の穿刺により発生するため,少量の局所麻酔薬注入でも瞬時に中枢神経毒性を呈する13)ことを理解する必要がある.硬膜外,脊髄くも膜下誤注入は超音波ガイド下では起こりにくいと考えられるが,ランドマーク法での施行が優勢である現状においては,今後も注意すべき有害事象の一つといえる.

肋間神経ブロックによる有害事象も例年一定数存在し(2017年5件3),2018年8件4)),気胸が大半を占め,重症化しやすいのが特徴である.2019年,2020年は各々3件,6件発生し,1件を除く全て気胸(3b以上)であった.近年超音波下での施行が増えていると考えられるが,ランドマーク法(表面から触れやすい肋骨角を触知,その直上を穿刺し,肋骨下縁にウォーキングさせる方法)での施行例も少なくないことが予想される.この点に関して,明確なエビデンスが存在しないものの,針先をリアルタイムで追うことで,胸膜を穿刺する危険性を減らす可能性はある14).特に肥満症例など肋骨角が触れにくい症例などにおいては有用と思われる.

大腿(皮)神経ブロックや坐骨神経ブロックなどの末梢神経ブロックでも有害事象が生じていることを認識する必要がある.各々一過性の運動障害をきたして1泊入院を余儀なくされた事例である.局所麻酔薬濃度,量の情報はなく,詳細な原因は不明であるが,神経の物理的損傷に関しては常に念頭に置く必要がある.針先を神経上膜の外側に留めるのが安全と考えられているが,より効果を期待して神経近傍にまで針先を進めた結果,神経上膜内(神経周膜外)注射になっていることも少なくない.この点に関しては個々の症例で判断が必要であり,糖尿病などの末梢神経障害が存在する場合などは特に注意を要する.

脊髄刺激療法に関する報告は感染性の有害事象が最も多く,皮下膿瘍などの軽症例から硬膜外膿瘍などの重篤なものまでさまざまである.一定頻度での発生は避けられないと考えられるが,硬膜外カテーテル留置時の管理と同様,無菌操作,消毒,抗菌薬の使用に加え,手術手技などが重要な要素と考えられるため,本学会としての標準化された手技手順の提案も検討していきたい.

V おわりに

有害事象の発生率の把握には指定施設全体での神経ブロックの施行概数が必須であり,今後は重篤な有害事象をきたしやすい,もしくはより中枢神経近傍の神経ブロックに限定した回答項目とするなど,より簡便な方法で情報の収集に努めていきたいと考えている.

以上,この有害事象報告,神経ブロック件数を含めた施設情報報告は学会会員全員で共有し,再発防止に役立てていきたい.安全委員会としては,再発防止に向けた対策に関しても今後取り組んでいく予定である.

この論文は日本ペインクリニック学会安全委員会による有害事象収集事業として学会理事会の承認を得て調査した結果に基づく報告書である.要旨は日本ペインクリニック学会第55回大会(2021年7月,富山)において発表した.

文献
 
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