Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2022 Volume 29 Issue 5 Pages 98-108

Details

会 期:2022年1月29日(土)

    ・WEBライブ配信:2022年1月29日(土)

    ・オンデマンド配信:2022年1月29日(土)~2022年2月19日(土)

会 場:オンライン開催(WEBライブ配信+オンデマンド配信)

会 長:山口敬介(順天堂東京江東高齢者医療センター 麻酔科・ペインクリニック)

■特別講演

『新たな医療危機を超えて』~コロナ後の未来を医学×経済で考える~

真野俊樹

中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授

コロナ禍の真っ最中であったが2021年の7月に,「新たな医療危機を超えて~コロナ後の未来を医学×経済で考える~」という書籍を出版させていただいた.細かい点はこの書籍を読んでいただければと思うが,今回の講演では大きな流れとして,コロナ後あるいはwithコロナの時代の日本の医療の変化を考えてみたいと思っている.

日本の医療レベルは世界的にみてもトップクラスである.コロナの対応においてもさまざまな問題点はあったが,最終的には先進国の中ではかなり良い結果になったといってもいいであろう.ただしそれは,これからの日本の医療に変化がないということではない.

本講演では通常の医療の視点とは少し異なった社会保障という視点を交えて今後の医療の状況を考えてみたい.そもそもコロナ以前から日本の医療には変化が求められていた.その一つは急速な高齢化により不足する医療資源や介護資源の対策および生産年齢人口が少なくなることによる社会保障財源が枯渇してくる点である.

一方そこに人生100年時代という考え方から,会社だけで人生が終わるわけではない,あるいは一人になった時にどのように生きていくかといった視点が重視されるようになった.さらにITの発達により個人主義の傾向が助長し,医療に関しても選択が重視されるようになった.

このような中で,レベルは高いが,個々人の満足度が必ずしも高くない,といった日本の医療のあり方にも転換が強いられることになるのは時間の問題であった.

さらにそこに医療ITの進歩により,既存概念の変化が起きつつある.たとえばIT化はコロナ禍により加速している.生活と医療の関係性が変わり,生活の中に医療あるいは医療・健康概念が組み込まれるようになっていくであろう.

変化が遅れていた日本の医療も新しい局面を迎えているともいえる.

■教育講演[第一三共株式会社共催]

解剖に基づいた仙腸関節障害の診断と治療―明日から使える仙腸関節ブロック手技の実際―

黒澤大輔

独立行政法人地域医療機能推進機構仙台病院整形外科

腰臀部痛における仙腸関節障害の割合は15~30%を占める.仙腸関節は脊柱の基部で体幹と下肢の境界に存在し,衝撃吸収装置として機能しており,直立二足歩行のために不可欠な構造である.解剖学的に仙腸関節は前方の関節腔領域と後方の靱帯領域からなり,両方を含めて仙腸関節である.仙腸関節面内には三角形ないし台形をなした凹凸形状が形成されており,関節面の形状と周囲靱帯により許容される関節の動きはあらかじめ規定されている.また,周囲靱帯付着部には衝撃に備えるための線維軟骨構造が組織学的に確認されている.不意の動きや繰り返しの動作,追突事故,高所からの転落を契機に関節に微小な不適合が生じると仙腸関節障害が発症する.

仙腸関節障害の診断につながる特異的な画像所見には乏しいが,one finger testで上後腸骨棘(PSIS)を指す腰殿部痛を有し,約半数で鼠径部痛を伴い,椅子座位時に疼痛が増悪するという症状と,仙腸関節Shearテスト陽性,PSIS,仙結節靱帯の圧痛所見といった腰椎疾患とは異なる特徴的な身体所見から仙腸関節障害を疑い,最終的に仙腸関節ブロックで確定診断できる.仙腸関節ブロックには後方靱帯ブロックと関節腔内ブロックの2種類がある.これまで関節腔内ブロックが診断のためのgold standardとされてきたが,手技的に難しく,また診断率も高くはなかったことから,診断方法としては信頼性が低いとされてきた.しかしながら,ブロック以外に発痛源を特定する手段はなく,苦慮しながら臨床を行ってきたのが実情であった.一方,後方靱帯ブロックは手技が簡便で,しかも約8割の症例は後方靱帯ブロックのみで仙腸関節障害の診断が可能であることが分かった.痛みを伝える神経終末は関節腔内よりも後方靱帯内に多く認められており,後方靱帯ブロックが診断により適していることが解剖学的にも裏付けられている.後方靱帯ブロックは一連の外来診療の中で超音波装置を用いて迅速に施行できる.ブロック効果の判定はpain relief scaleを用いて,ブロック後15~30分で,ブロック前の痛みを10として,残っている痛みがどれくらいかを聞いて,3以下であれば70%以上の疼痛軽快と判断して確定診断に至る.

仙腸関節障害は腰椎術前に合併,または術後に新規発症することがあり注意を要す.当院ではペインクリニックと協働し,各種ブロック効果に基づいて,仙腸関節障害例のうち約3割で,腰椎椎間板や椎間関節,腰部神経根由来の痛みを合併していることが分かった.仙腸関節と腰椎が相互に関連しあう病態をsacroiliac-spine syndromeとの概念で捉え,念頭に置いて対処していくことが重要である.

■IASP–JASP–Pfizer Globalグラント『日本の慢性疼痛教育普及事業』シンポジウム

本邦における慢性疼痛教育―オピオイド鎮痛薬に対する理解を深めよう―

シンポジウム演題I

本邦で使用可能な慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の薬理特性

Pharmacological property of opioids available for chronic pain in Japan

金井昭文

北里大学医学部新世紀医療開発センター疼痛学教授/北里大学病院緩和ケアセンター長

オピオイド鎮痛薬は全身に分布するオピオド受容体に結合して作用する鎮痛薬であるが,用量依存性に受容体作動の強まる完全作動薬と,受容体作動に限界(天井効果)のある部分作動薬に分類される.完全作動薬は増量するほどに鎮痛作用が増強するが,呼吸抑制などの副作用も増悪する.部分作動薬は増量で得られる鎮痛作用に限りがあるが,副作用も頭打ちとなるために比較的安全性が高い.ブプレノルフィンは例外であり,鎮痛作用は完全作動薬,副作用の呼吸抑制は部分作動薬として働く.完全作動薬と部分作用薬を,単独で完全除痛できる高用量同士で併用すると鎮痛作用は拮抗される可能性があるが,不完全鎮痛の不十分量で併用すると鎮痛作用は相加的ないし相乗的に強まるとされる.

コデイン,ジヒドロコデイン,トラマドールは,それ自体にはオピオイド作用がほとんどなく,代謝物がオピオイド作用を発揮し,鎮痛作用は代謝酵素活性の影響を大きく受ける.ただし,トラマドールには,セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害作用,ナトリウムチャネル阻害作用がある.また,モルヒネは,それ自体がオピオイド作用を有し,代謝物もオピオド作用を有するため,腎障害で鎮痛作用と副作用が遷延する.

オピオイド鎮痛薬の鎮痛作用と副作用が出現する投与量(血中濃度)は異なる.モルヒネを漸増投与すると,便秘,悪心,鎮痛,眠気,呼吸抑制の順で出現し始める.オキシコドンでは便秘,悪心,鎮痛の血中濃度が近い.フェンタニルでは鎮痛と呼吸抑制の血中濃度が近く,呼吸抑制は少量追加で重篤になりやすい.痛み刺激に見合わないオピオイド鎮痛薬の過量投与では,依存,耐性,痛覚過敏,呼吸抑制などの重篤副作用を招きやすい.重篤副作用の獲得様式は各オピオイド鎮痛薬で異なる.

今回,本邦で使用可能な慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬において,臨床使用する上で重要と考えられる薬理特性を中心に解説する.

シンポジウム演題II

オピオイド鎮痛薬の減薬・休薬を再考する

大岩彩乃

東京慈恵会医科大学医学部麻酔科学講座講師

非がん性慢性疼痛におけるオピオイド鎮痛薬治療の目的は,あくまでQOLの改善であり,益と害のバランスが重要である.そしてその評価のためには,慎重で継続的な監視に基づく処方体制が不可欠である.しかしながら,近年の新興感染症による医療体制の変化等により,ペインクリニックにおける薬物療法も,社会情勢に応じた治療体制の変化を余儀なくされつつある.1例を挙げると,受診控えやオンライン診察によるコミュニケーション不十分,患者を取り巻く環境変化による心理的孤立などは,処方薬の理解不足,オピオイド鎮痛薬の不適切使用,さらには過剰投与のリスクとなりうる可能性がある.

本講演では,減薬・休薬を再考する際の:①慢性非がん性疼痛患者のオピオイド治療の漸減を検討すべき状況の判断,②オピオイド治療の減量・中止方法の理解,③減量中の退薬症状への対応,④適切な減薬中の諸問題への対応策,について理解を深めることを目標とし,実臨床におけるさまざまな症例提示を行う.欧米におけるOUD(オピオイド使用障害)の治療方法を紹介し,全く無害な治療を目指すのではなく,ハームリダクションも解決策の一手として紹介する.

実臨床では,画一的にオピオイド治療の適否を決定するのは難しい患者も多く,医療側の配慮により治療薬の「害」を減らすことで,対応できる場合もある.現代における,より慎重で現実的なオピオイド治療薬の選択を再考したい.

■一般演題

I. 神経ブロック・インターベンショナル治療

I–1 超音波ガイド下縫工筋下fasciaリリースが,変形性股関節症の股関節痛に有効だった2例

齋藤義孝 新堀博展 丸田秀郎 打越絵理子 伊藤純子 立山俊朗

緩和会横浜クリニック横浜痛みのクリニック

【はじめに】変形性股関節症による股関節痛の患者が,整形外科での保存治療で効果がなく,手術療法を薦められている症例は多くある.ペインクリニック外来治療においても,即効性のある有効な結果が得にくいこともしばしばある.このたび,超音波ガイド下縫工筋下(腸骨筋膜間)fasciaリリースが変形性股関節症の股関節痛に有効であった2症例を報告する.

【症例1】50歳女性.長年の右股関節痛があり,他院整形外科にて,右変形性股関節症の診断で,鎮痛薬内服処方での対応をされていた.疼痛が改善しないため,手術療法の提案もされていたが,本人は希望せず,当院受診となった.右縫工筋下fasciaリリースにより,疼痛が著明に改善し,屈曲制限も45度から60度へと改善した.看護師としての病棟業務への復帰に至った.

【症例2】53歳女性.長年の左股関節痛があり,他院整形外科にて,左変形性股関節症の診断で,リハビリテーションでの対応をされていた.疼痛が改善しないため,手術療法の提案もされたが,本人は希望せず,当院受診となった.左縫工筋下fasciaリリースにより,疼痛が著明に改善し,屈曲制限も60度から90度へと改善した.趣味のダンスも再開するに至った.

【考察および結論】変形性股関節症においてwhole joint diseaseの認識も広がってきている.関節内アプローチの治療のみに捉われず,関節外の周囲組織へのアプローチの治療が奏効したと考えられる.

I–2 コーンビームCT併用下にTrigger-Flex® Dartを用いた経皮的髄核摘出術を施行した頚椎椎間板ヘルニアの1例

高岡早紀 上島賢哉 澤田龍治 桑原沙代子 林 摩耶 中川雅之 安部洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

Trigger-Flex® Dart(Dart)を用いた経皮的髄核摘出術(percutaneous discectomy:PD)は頚椎椎間板ヘルニアに対する有用な低侵襲治療であるが,椎間孔付近に位置するヘルニア近傍まで透視下に針先を進めることが難しい.今回われわれはDartによるPDをコーンビームCT(cone-beam computerized tomography:CBCT)併用下に行うことで,針先をヘルニア近傍へ正確に到達させ,良好な治療経過を得たので報告する.

【症例】52歳女性.左C7領域の痛みとしびれを主訴に受診し,MRIにて椎間孔付近に位置する左C6/7ヘルニアを認めた.神経根ブロックの効果は一時的でありNRS 8の痛みとしびれが持続したため,椎間板内治療を考慮した.C6/7椎間板造影後しびれは著明に軽減したが,痛みが残存したためDartによるPDを計画した.C6/7椎間板の右前外側穿刺にて開始し,透視下にスパインニードル先端を椎間板内へ進めたところで,CBCTで針先からヘルニアまでの距離と方向を計測した.計測をもとに針先を椎間板後方へ進め,ヘルニア近傍まで到達させたところでDartを挿入し,髄核減圧と線維輪収縮を実施した.

痛みはPD施行翌日にNRS 5,7カ月後にNRS 0まで低下した.

【考察】Dartには頚椎用デバイスがあり,頚椎椎間板ヘルニアのPDに有用である.しかし透視単独で行う場合は針先端位置の厳密な評価が難しく,後方の脊髄や神経根の損傷の恐れもあることから椎間孔付近に位置するヘルニア近傍まで針先を進めることが難しい.今回われわれはCBCTの併用により針先とヘルニアの位置関係を立体的に把握し,針先を正確かつ安全にヘルニア近傍へ到達させることができた.椎間孔付近の頚椎椎間板ヘルニアに対してPDを施行する際,CBCTの併用は考慮すべき選択肢の一つと考えられた.

I–3 腹部手術後約6年経過して発症した肋間神経前皮枝絞扼症候群に対して神経ブロック治療が有効であった症例

武田昌子 小柳哲男 藤原治子 平石禎子

東京逓信病院麻酔科

慢性腹痛の原因疾患の一つとして肋間神経前皮枝絞扼症候群(anterior cutaneous nerve entrapment syndrome:ACNES)がある.ACNESは,腹壁の感覚を支配する肋間神経皮枝神経の分岐である前皮枝が腹直筋前鞘で絞扼されることで腹痛を呈する疾患である.症状とCarnett signによって診断される.治療方法としては神経ブロック治療や手術が効果的とされている.私達は以前腹部手術直後に発症したACNESに対して神経ブロック治療が有効であった症例を報告させていただいた.今回は腹部手術後約6年経過して発症したACNESに対しても神経ブロック治療が有効であった症例を報告させていただく.

症例は穿孔性虫垂炎に対して開腹虫垂切除術を施行された53歳男性で全身状態は良好でASA-PS1である.半年後に癒着性イレウスで保存的治療を受けた既往がある.開腹手術から約8年経過したころから腹圧のかかる状態になると右下腹部に痛みと違和感を感じるようになり,審査腹腔鏡手術を施行したが,大網と腹壁の癒着をわずかに認めたが痛みを生じるような病態は認められなかった.当科初診時に安静時痛は認められず画像検査や血液検査で異常はなくCarnett signが陽性であることからACNESと診断した.腹壁に力がかかると右下腹部の創部付近にNRS7程度の痛みがあり睡眠時以外はコルセットを常に着用し,運動や力仕事ができない状態であった.

発症から年数が経過していたが,エコーガイド下腹直筋鞘ブロックをメピバカイン,デキサメタゾンを用いて施行した.腹直筋鞘ブロックを9回施行したところ,就寝時以外コルセットの着用が不要となり,さらに腹横筋膜面ブロックを3回施行したところ運動も可能となった.

開腹手術後遅発性に発症したACNESに対しても神経ブロック治療が有効であった症例について報告させていただく予定である.

I–4 コロナワクチン接種後,持続する左前腕部痛に上頚神経節ブロックが有効であった1症例

伊藤一樹 濱口孝幸 松原香名 林 摩耶 中川雅之 上島賢哉 安部洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

【はじめに】コロナワクチン接種後の副作用については,現在においても不明な点が多い.今回,コロナワクチン接種45日後,持続する左前腕部痛患者に対し,リハビリテーションと内服薬による治療に,上頚神経節ブロックを併用し症状が軽減した症例を経験したので報告する.

【症例・経過】16歳,女性,音楽学校ピアノ専攻の高校生,2回目のワクチン接種翌日に左前腕部痛と左手背の腫脹が認められた.原因不明で,接種45日後,当科紹介受診となった.しびれは左手全体で左手背の浮腫は強く,アロディニア陽性で,NRSにて,安静時痛が8,動作時痛は10,左手指の自動運動は不可能で両手指DIP関節の屈曲拘縮を認めた.持続する左前腕部痛に対し治療デュロキセチン20 mg/日と上頚神経節ブロックを開始した.患者は,ピアノを専攻しており,上腕に一時でもしびれなどの影響を与えるブロックに不安が強く,星状神経節ブロックを断念し,上頚神経節ブロックを週1回で実施した.ブロック後は,上肢のしびれの訴えもなく,3週目,左手背の腫脹に改善が認められ,アロディニアも消失した.NRSは運動時痛が4まで低下が認められた.両手指DIP関節の屈曲拘縮は残存しているが,治療継続中で症状の悪化は認められていない.

【考察】コロナワクチン2回目接種後に左前腕部に腫脹と疼痛,両手DIP関節に拘縮が認められた症例を経験した.CRPSが疑われたが,診断には至っていない.患者の上腕に影響するブロックへの不安を考慮し,上頚神経節ブロックを行ったが,前腕部の腫脹・疼痛軽減に対し有効で上肢の運動機能への影響も認められなかった.交感神経ブロックとして,上頚神経節ブロックは,上腕の脱力を起こしにくくかつ前腕部の持続痛に有効であることが考えられた.

【結語】上頚神経節ブロックが,前腕部持続痛に有効であった症例を経験した.

I–5 帯状疱疹後神経痛に対しパルス高周波眼窩上神経ブロックにより良好な疼痛管理を得た造血器悪性疾患の1症例

田尻友恵 大岩彩乃 八反丸善康 倉田二郎

東京慈恵会医科大学ペインクリニック

造血器悪性腫瘍患者では,化学療法に伴う免疫不全が生じ,高率に帯状疱疹を発症することが知られており,帯状疱疹後神経痛に対する治療には難渋する例が多い.今回,三叉神経第一枝領域の帯状疱疹患者に対しパルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)を用いた眼窩上神経ブロックにより良好な疼痛管理を行いつつ造血器悪性疾患の化学療法も完遂できた1症例を経験したので報告する.

【症例】44歳,男性.間欠的な微熱を自覚,汎血球減少を認め精査により急性白血病(M0)と診断された.寛解導入療法(ダウノルビシン+キロサイド併用療法)施行予定前に右三叉神経第一枝領域の帯状疱疹に罹患し,血液腫瘍内科から当科へ疼痛管理が依頼された.

【経過】初診時,右三叉神経第一枝領域に潰瘍を伴う小丘疹が散在,NRS 6の自発痛と強いアロディニアを認めた.ミロガバリン(30 mg/day),トラマドール(75 mg/day),ノリトリプチン(20 mg/day)を投与するも疼痛コントロールに難渋していた.同時期に化学療法,輸血,抗生剤等により肝機能障害や薬疹を認めていた経緯もあり,薬物療法を減量せざるを得ない背景があった.局所麻酔による右眼窩上神経ブロックを1回施行後,右眼窩上神経ブロック・PRFを42度6分にて施行したところ,知覚改善,アロディニア軽減,突出痛の消失,夜間痛消失などを認め,NRS 1と良好な鎮痛を得たため内服漸減した.約4カ月経過後も疼痛軽減は継続しており,鎮痛薬は終了している.

【考察】本症例では,内服は肝障害リスクが高く,頻回の神経ブロック注射は感染リスクや出血リスクが高かった.また新型コロナウイルス感染症第5波の期間であり,免疫不全状態での頻回の外来受診を避ける必要があった.PRFを行うことで,最小限の侵襲で良好な鎮痛効果を得ることができた.

I–6 髄膜腫による有痛性三叉神経ニューロパチーに対し,ガンマナイフ治療に先行してガッセル神経節ブロックを施行した1例

田村美穂子 中川雅之 林 摩耶 安部洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

【はじめに】有痛性三叉神経ニューロパチーの治療選択肢の一つとしてガッセル神経節ブロック(以下GGB)が挙げられるが,持続痛に対するGGBの有効性は乏しいとされる.今回は,髄膜腫による有痛性三叉神経ニューロパチーに対して,ガンマナイフ治療に先行してGGBを施行した1例を報告する.

【症例】49歳女性.身長158 cm,体重57 kg.

【現病歴】X−6年に右小脳テント部の髄膜腫に対して他院で開頭腫瘍摘出術を施行した.X−4年に髄膜腫の再発をきたし,計4回のガンマナイフ治療を行った.2カ月前の頭部MRIで右斜台部と小脳テント部の髄膜腫がさらに増大していた.腫瘍の増大効果により右顔面痛の増強と複視が出現し,5回目のガンマナイフ治療が予定された.薬物療法に抵抗性の耐えがたい痛みが続き,患者および主治医より神経ブロックの強い希望があり術前の疼痛管理目的に当科を紹介受診された.

【現症】右前頭部から右眼周囲にかけてのしびれるような持続痛と,開口により誘発される右上顎部のずきんとした発作痛を認めた.右顔面の知覚低下と右動眼神経麻痺による複視を認めた.

【経過】ガンマナイフ治療に先行して,ガッセル神経節に対する高周波熱凝固法およびパルス高周波法を施行した.発作痛は消失したものの,持続痛は残存した.GGB終了後より7日間のガンマナイフ治療を施行した.術前と同程度の持続痛は残存したが,発作痛の消失により食事可能となり自宅退院された.

【考察】ガンマナイフ治療の除痛効果は術後数週間から数カ月遅れて出現する.本症例は重度の神経障害性疼痛を呈しており,GGBを行っても持続痛は除去しきれない可能性と,副作用によるしびれの増悪のリスクを考慮した上でGGBの先行に踏みきった.痛みのために腫瘍の減容積効果を待つことが困難な症例において,GGBは速やかに発作痛を軽減し生活の質の改善を回復させる点において有意義と考察された.

I–7 三次元コーンビームCTを用いた,選択的三叉神経節ブロックを行った帯状疱疹の1症例

溝口佳奈 大岩彩乃 八反丸善康 大谷さゆみ 川村大地 倉田二郎

東京慈恵会医科大学病院麻酔科ペインクリニック部

近年,放射線画像処理の進歩はめざましく,神経ブロック領域においてもさまざまな新規技術が取り入れられつつある.今回,ブロック前に撮像した3DCTをガイドに用い,選択的な三叉神経第一枝領域のガッセル神経節ブロックを行うことができた症例を経験したので報告する.

【症例】50代,女性.X−17日右第一枝領域の帯状疱疹に罹患し,当院皮膚科にて抗ウイルス薬投与,ステロイド療法が行われたのちに当科へ疼痛管理を依頼された.

【経過】X日当科初診した.右三叉神経第一枝領域に瘢痕を伴う皮疹とVAS 100 mmの激痛と強いアロディニアを認め,ミロガバリン20(mg/day),トラマドールアセトアミノフェン配合錠8錠/dayを投与開始したが疼痛コントロールは改善しなかった.その後局所麻酔による右眼窩上神経ブロックさらにその後パルス高周波療法(PRF)を施行したところ,以降はVAS 50~80 mmとなったが,目の奥および頭痛は不変で,右ガッセル神経節ブロック(GGB)施行の方針となった.X+22日,入院しGGBを施行した.

【方法】透視用ベッドで仰臥位とし,仰臥位,15度患側へ倒した位置で固定した.その後にコーンビームCTによる3D撮影を行った.穿刺点は右口角3.5 cmとし,若杉の誘導線上に透視管球が来るようにセッティングした上で,3D画像上で穿刺点から卵円孔の内側縁へ誘導線を引いたところ,計算上8.24 cmで卵円孔内へ到達すると予測された.穿刺点から実際に針を穿刺したところ,7.5 cmで頭蓋底へ到達し,咬筋の運動が誘発された.最終到達点までの距離は8.5 cmであり,右前額の放散痛を得ることができた.PRFを42度6分間行い終了とした.

【考察】既報によれば,コーンビームCTを用いたGGBは施行時間の短縮,被ばく量削減に役立つ可能性があるとされる.本症例においては,さらに精度の向上,刺入距離の計測,解剖学的妥当性の確認に有用であったのではないかと考察するが,今後さらなる症例の検討が必要である.その後本症例の経過は非常に良好であり,高い鎮痛効果を得ることができた.

I–8 微小血管減圧術や内服治療抵抗性であった三叉神経痛に対して透視下Gasser神経節高周波熱凝固が著効した1例

本田志津子 佐野 圭 関口竣也 福井秀公 内野博之 大瀬戸清茂

東京医科大学麻酔科学分野

【はじめに】三叉神経痛には顔面痛から日常生活に支障をきたすことがある.三叉神経痛は内服加療が奏功することが多いが,時に抵抗性である.内服治療抵抗性の場合には手術療法やブロック治療を考慮する.今回,日常生活に支障をきたしている三叉神経痛の患者で,内服や微小血管減圧術が無効であった症例に,Gasser神経節ブロックが奏功した症例を経験したので報告する.

【症例】50代男性.14年前から右三叉神経痛を認め,脳神経外科で2回MVD(微小血管減圧術)施行したが,顔面痛(V2,3領域)が継続し内服加療を続けていた.X年Y−1月より三叉神経第2,3領域の顔面痛の増悪を認め,内服量増量するも疼痛改善なくブロック治療の希望がありX年Y月当科受診.初診時,テグレトール700 mg,ガバペン600 mgを内服していたが,NRS 10/10と疼痛は強く,発作痛が5回/日で,30分程度持続し,下顎の可動を契機に出現するため日常生活にも支障をきたしていた.疼痛部位は三叉神経第2,3枝領域であり,疼痛部位にしびれはなく,感覚低下は認めなかった.初診時,V3神経領域の疼痛に対しオトガイ神経ブロックを施行した.ブロック施行後一時的に疼痛改善認めたが,持続性はなかった.初診から1週後にオトガイ神経根パルス施行も,長期効果なく,間欠痛の頻度は3回/日に減ったが,疼痛は残存した.初診時から約2週間後に入院で透視下Gasser神経節高周波熱凝固を施行した.施行後NRS 0/10と疼痛の改善を認め,内服も減量できた.現在は疼痛再燃なく,内服処方のみとなっている.

【考察】高周波熱凝固法によるGasser神経節ブロックは感覚低下が必発であるが,本症例では耳介下部から始まる電撃痛が頻回にあり日常生活に支障をきたしていたため,高周波熱凝固を施行した.手術治療や内服治療抵抗性の三叉神経痛にはGasser神経節ブロックを考慮すべきである.

II. 腰背部・四肢の痛み

II–1 当科での青年期における腰椎椎間板ヘルニアの治療経験

武冨麻恵 小林玲音 原 詠子 米良仁志 竹村 博 増田 豊 大江克憲

昭和大学医学部麻酔科学講座

【緒言】当科では10代の腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の治療に硬膜外ブロック,神経根ブロック,椎間板造影を選択しているが,まれな疾患でありその治療法は確立されていない.未成人例のLDHはまず保存療法が原則で,徹底した保存治療に反応しない場合は手術の相対適応となる.しかしながらしばしば保存治療は長期化し,結局50%以上が手術を要するという報告が散見される.

【目的】最近の当科における10代のLDHの保存治療の成績を明らかにすること.

【方法】2020年8月から2021年7月までの10代のLDH患者の診療録を後ろ向きに調査した.調査項目は年齢・性別・スポーツ歴・LDHの部位・LDHのタイプ・初診までの日数・当科での治療期間・治療法・NRSとした.50%以上のNRS減少を軽快とした.

【結果】症例数は3例(男性1例/女性2例)で平均年齢は15.3歳(13~18歳)3例ともスポーツ歴があった.全例腰痛を呈しており,下肢痛があったのは1例であった.筋力低下は3例ともなかった.感覚低下は1例でL5,S1神経領域に出現していた.患側肢のSLRテストは全症例陽性であった.罹患椎間数はいずれも1椎間で,L5/S1が2症例,L4/L5が1症例であり,ヘルニアの突出部位は3例とも傍正中部であった.migrationや後縦靱帯穿破症例はなく,いずれもsubligamentous extrusionであった.初診までの日数の中央値は3.5カ月(3~4カ月),治療期間の中央値は7カ月(5~9カ月)であり,いずれの症例も腰部硬膜外ブロックを行っていた.神経根ブロックおよび椎間板造影を行った症例は1症例のみであった.薬物療法はNSAIDsとアセトアミノフェンを内服した症例が1例で,Ca2+チャネルα2δリガンドを併せて内服した症例が2例であった.軽快率は100%であり,外科的治療を要した症例はなかった.

【結語】当科の10代のLDHは,神経ブロックと薬物療法を併用し,高い軽快率が得られた.外科的治療の前段階でペインクリニック治療を行うことは有効である可能性が示唆された.

II–2 椎間板ヘルニアの治療で残存した前屈時の痛みに対して椎間板ブロックが有効だった3症例

増田清夏 木村信康

湘南藤沢徳洲会病院痛みセンター

【はじめに】腰椎椎間板ヘルニアに対して硬膜外ブロックを行っても残存する前屈時の腰痛を経験することがある.この前屈時の腰痛に対して椎間板ブロック(2%メピバカイン1 ml+デキサメタゾン1 ml)が有効であった3症例を経験したので報告する.

【症例】症例1:40代男性.L4/5,L5/S1椎間板ヘルニア.2カ月前から腰痛があり,徐々に立位や歩行で悪化する右大腿の痛みが出現したため受診された.症例2:20代男性.L4/5椎間板ヘルニア.半年前にスクワットをした後から右臀部から大腿の痛みがあり,さらに1カ月前より左臀部から大腿にかけて徐々に痛みが広がってきたため受診された.症例3:40代男性.L4/5椎間板ヘルニア.5年前から歩行時に右大腿のしびれを認めていた.2カ月前より10分程度の歩行で悪化する右腰部から大腿の痛みのため受診された.いずれの症例も外来で複数回,硬膜外ブロックを行ったが前屈時の痛みが残存するため,椎間板ブロックを行った.各症例の初診時,椎間板ブロック前後のNRSとEQ5D5Lについて供覧する.

【考察】いずれの症例も硬膜外ブロックを行っても残存していた前屈時の痛みに対し,椎間板ブロックを行い痛みが改善した.

椎間板性腰痛に対して,硬膜外ブロックなどの神経ブロック治療を行っても一時的な効果しか認めない場合がある.特に腰椎椎間板ヘルニアの前屈痛は硬膜外ブロックでは軽減できない場合が多い.椎間板性腰痛の原因として,椎間板内のTNFα,IL-6などの化学的炎症が報告されている.提示した3症例では椎間板ブロックを行い,椎間板内に副腎皮質ステロイドを注入することにより椎間板内の炎症を抑え,除痛につながったと考えられた.

II–3 上殿皮神経痛に造影と電気刺激から第3腰椎神経根由来が疑われ,高周波熱凝固法で軽快した1症例

西山隆久 前田亮二 船津歌織 倉地聡子 岩瀬直人 内野博之 大瀬戸清茂

西東京中央総合病院麻酔科/東京医科大学八王子医療センター麻酔科/東京医科大学麻酔科学分野

【はじめに】上殿皮神経痛(superior cluneal nerve:SCN)は,上殿皮神経が腸骨稜を乗り越える際に胸腰筋膜で絞扼を起こし発生する腰痛の一つといわれる.上殿皮神経は遺体解剖で第11胸椎~第4腰椎脊髄神経後枝外側枝から構成される.しかし臨床診断と治療に関する報告は少ない.今回,圧痛点,電気刺激,造影,局所麻酔などから,第3腰椎(L3)に起因する上殿皮神経痛と診断し,高周波熱凝固法(radiofrequency thermocoagulation:RF)により痛みが軽快した症例を報告する.

【症例】70歳代女性,脊柱管狭窄症.−1年に左下肢痛がありL5神経根ブロック,仙骨硬膜外ブロックなどで軽快していたが,腰痛が強くなり再来した.左腸骨稜上に圧痛点を認めたため,超音波エコーガイド下で腸骨稜上にスライター針を進め,電気刺激を行った.放散痛を主訴と同じ位置に認めた.さらに腸骨稜を超えたところで造影剤を注入した.造影剤はL3方向に向かった.次に腰神経叢にスライター針を進め造影したところ,腸骨稜からL3神経根まで連続して造影された所見を得られた.さらに同部の電気刺激で腸骨稜の刺激と同様の放散痛を認めた.腸骨稜上でRFを行い,+3カ月で痛みは軽快中である.

【まとめ】臨床診断と治療の発表が少ない,上殿皮神経痛に腸骨稜の圧痛点からL3神経根まで連続した造影所見を得ることができた.さらに電気刺激で確認し,RFで痛みを軽快した1症例を経験した.

II–4 仙腸関節痛患者における長後仙腸靱帯に対するパルス高周波の治療経験

中村かんな 飯田史絵 今井美奈 山口敬介

順天堂東京江東高齢者医療センター麻酔科

【はじめに】仙腸関節痛の発症には後仙腸靱帯,特に長後仙腸靱帯が大きく関与し発痛構造として注目されている.私達は仙腸関節痛患者に対し超音波ガイド下に長後仙腸靱帯ブロックを行い診断と治療を行ってきた.近年,高周波熱凝固機器の進歩によりパルス高周波が痛み治療に応用されている.仙腸関節痛に対して仙骨後枝外側枝に対し施行されているが,長後仙腸靱帯を到達目標部位としてパルス高周波を施行した報告はあまりみられていない.長後仙腸靱帯にパルス高周波を行いその効果を検討した.

【症例】73歳,男性,腰椎術後.右側優位の両側仙腸関節痛.

【方法】超音波ガイド下に後仙腸靱帯を描出し,ブロック針を進め靱帯部分で患者が放散痛を訴えた部位にパルス高周波(40℃,6分)を施行した.

【結果】術後疼痛は軽減し,局所麻酔薬でのブロックに比べると効果は持続した.

【考察】仙腸関節痛に特徴的な身体所見は術前に比べ改善しており客観的には効果があったと考えられる.仙腸関節痛はその発生機序についてまだ不明の点が多い.今回の結果から仙腸関節痛の発症には複合的な要素が関わっている可能性が示唆された.

【結語】本研究は仙腸関節痛発症の機序を考える上での一助となる可能性がある.症例を増やして研究したい.

II–5 ビスホスホネート製剤内服中に生じた左大腿骨転子下不全骨折の症例

秋本真梨子 天野功二郎 権藤栄蔵 宮崎里佳 中村尊子 吉川晶子 田邉 豊

順天堂大学医学部附属練馬病院麻酔科・ペインクリニック

骨粗鬆症治療薬の一つであるビスホスホネート製剤の副作用として顎骨壊死や腎機能障害が良く知られている.

今回,帯状疱疹後神経痛で通院中に訴えた左大腿痛の精査でビスホスホネート製剤関連の大腿骨転子下不全骨折の診断となった症例を経験した.

症例は85歳,身長163 cm,体重59 kgの男性で,12年前に発症した右V1帯状疱疹後神経痛と両手のレイノー症状に対して当科外来で疼痛管理を行っていた.定期外来受診時に左股関節周辺から大腿にかけての痛みを訴えたため股関節単純撮影を施行したところ,左大腿骨転子下不全骨折を認めた.ビスホスホネート製剤関連の非定型大腿骨骨折の診断となり,髄内釘挿入術が施行された.ビスホスホネート製剤は,13年以上服用していた.

ビスホスホネート関連非定型大腿骨折は,骨リモデリング予防が抑制されることで骨の性状が均一化され,皮質内の微小骨折を繰り返すことで発症する.通常,微小骨折は破骨細胞性骨吸収で修復されるが,ビスホスホネートはこの過程も阻害するため微小骨折が積み重なりストレスなどにより骨折部位が拡大する.リスク因子として,5年以上の内服歴,女性,高いBMI,グルココルチコイド内服などが挙げられている.頻度は報告によるが,10,000人/年あたり2人程度と非常にまれな合併症である.治療は,不全骨折の場合でも骨折部位が拡大する前に外科的治療が適応となる.ビスホスホネート製剤関連非定型大腿骨骨折は整形外科領域では注目されているが,ペインクリニック領域での認知度は高くない.ビスホスホネート長期内服症例では副作用に注意が必要であり,下肢痛を認めた場合には非定型大腿骨骨折を疑い精査する必要がある.

III. 緩和医療

III–1 コロナ下において病病連携により腹腔神経叢ブロックをタイミングよく施行できた膵がん患者の1例

河内 順*1 千葉聡子*1 川口早織*1,2 濱岡早枝子*1 河合愛子*1 鈴木博子*1 清水礼佳*1 井関雅子*1

*1順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座,*2自衛隊横須賀病院麻酔科

【背景】腹腔神経叢ブロックは上腹部内臓のがん性疼痛緩和の目的に行われ,QOLの改善が期待できる.われわれはコロナ下で入院の制約が多い中,病病連携により腹腔神経叢ブロックをタイミングよく施行できたことで,化学療法の導入につなげることができた膵がん患者を経験した.

【症例】48歳女性,154 cm,39 kg.1カ月前から腹痛,めまい,悪心が出現し精査の結果,膵がんstage IVおよび多発肝転移と診断された.同病院で化学療法導入にあたりNRS 9の疼痛を緩和するため,オピオイドが開始されたが悪心の副作用が強く増量困難であり,疼痛コントロール不良であった.同病院麻酔科医から当科へ相談があり,神経破壊薬を使用した腹腔神経叢ブロックの適応と考えた.本邦でのワクチン接種開始前の期間であったが,PCR検査の施行,搬送車での転院などを両病院の医療スタッフが連携して最短で調整し,膵がん診断から14日で転院しブロックを行うことができた.X線透視下に2%メピバカイン10 mlを注入,知覚異常がないことを確認後に99.5%エタノールを10 ml注入した.ブロック翌日にはNRS 1と著効した.その後紹介元病院へ再度転院し副作用が許容範囲である少ないオピオイド量で疼痛コントロールがつき,化学療法を進めることができた.

【考察】本症例では,患者側のがん治療医や麻酔科医と神経ブロック施行施設の医師との連携,医師と事務系の連携,施設間の連携,などの全てのチーム医療が速やかに推進できたことで,タイミングを逃さずにブロック治療が行え,原疾患の治療へつなげることができたと考える.

III–2 持続脊髄くも膜下鎮痛により在宅療養が可能となった上行結腸がんの1例

田畑春菜 平井慎理 徳川茂樹 立花潤子 前 知子 服部政治

医療法人徳洲会中部徳洲会病院疼痛治療科

【はじめに】がん終末期には,疼痛に加え腹部膨満感などオピオイド等の鎮痛薬や鎮痛補助薬だけでは軽減できない苦痛が加わり退院の妨げになることが多い.今回われわれは終末期上行結腸がんに対して持続脊髄くも膜下鎮痛を行うことで在宅管理が可能になった症例を経験したので報告する.

【症例】70代男性,X−5カ月:上行結腸がんの診断で手術.X−8日:嘔気や食欲不振,腹痛のため外科入院となり,オキシコドン内服開始.X:腹痛軽減せず,疼痛緩和および在宅訪問診療の介入目的に当科紹介.腹水貯留による腹部膨満感と腹痛の訴えあり,脊髄鎮痛を導入した上での自宅療養が計画された.X+2日:陳旧性心筋梗塞で内服していたバイアスピリンを休薬し,7日後に硬膜外カテーテル留置を計画していた.X+7日:腹部膨満感の増悪とともに容態が悪化し,血圧低下傾向となった.本人と家族から在宅療養の希望強く,早急に硬膜外カテーテル留置を行い,モルヒネ7.6 mg/日で投与を開始した.腹痛,腹部膨満感の改善を認めたことから,同日,可及的に脊髄くも膜下カテーテルを留置し,モルヒネ3.6 mg/日で投与を開始した.X+8日(脊髄くも膜下ポート留置1POD):モルヒネ開始量で腹部膨満感,腹痛は消失し,自宅退院となった.退院後,訪問診療・看護で機械型PCAポンプを使用し脊髄くも膜下鎮痛を継続した.痛みなく経過し,X+13日(脊髄くも膜下ポート留置6POD)に自宅で永眠された.

【考察】がんの終末期にある患者に対する痛みのインターベンション治療は,リスクとベネフィットを吟味した上で迅速な判断が必要である.本症例では,除痛できないまま終末期を迎えつつあったが,積極的な疼痛治療を行ったことで希望された自宅退院が可能であった1例として報告する.

III–3 仙骨部褥瘡の疼痛緩和に持続脊髄くも膜下鎮痛が有用だった1例

前 知子 服部政治 立花潤子 徳川茂樹 田畑春菜 平井慎理

医療法人徳洲会中部徳洲会病院疼痛治療科

【はじめに】褥瘡治療において重要な事の一つに,創とその周りをきれいにすることが挙げられる.疼痛が処置の妨げになると十分な洗浄が行えず治癒の遷延にもつながる.今回,仙骨部褥瘡の安静時および処置時の疼痛緩和に持続脊髄くも膜下鎮痛が有用だった症例を経験したので報告する.

【症例】87歳女性,152 cm,50.7 kg.

既往に胸部大動脈瘤と両下肢深部静脈血栓症があり,リクシアナを服用中.X−16日,2日間体動困難状態の後に救急搬送.搬送時にはすでに臀部に褥瘡あり.X日,形成外科よりコンサルト.脊髄くも膜下鎮痛の方針でリクシアナを休薬としX+5日,脊髄くも膜下ポート増設と形成外科で臀部デブリードマン術が施行された.持続脊髄くも膜下鎮痛は0.25%等比重マーカインを1 ml/hr,PCAドーズ1 ml,ロックアウトタイム30分で開始し,毎日2回の処置20分前にPCAドーズ1 mlを投与し,疼痛なく洗浄を行うことができた.X+14日(9POD)から持続投与量を漸減したが,処置前のPCAドーズのみで疼痛管理が可能な状態まで改善した.X+33日(28POD),脊髄くも膜下鎮痛が不要な状態まで創部が軽快し,X+61日,退院となった.

【考察】褥瘡の創治癒には,創部の洗浄や抗菌薬投与,全身状態の改善が重要である.今回,持続脊髄くも膜下鎮痛を行うことにより,安静時の疼痛軽減と交感神経ブロックによる血流改善が得られた.また処置前に局所麻酔薬を追加投与することにより脊椎麻酔を行ったのと同様な状態になり,痛みなく十分な処置が実施でき,創治癒に至った.処置のたびに全身麻酔や脊髄くも膜下麻酔を行うことは不可能であるが,十分な鎮痛をした上で処置を行うことが褥瘡の創治癒には必要であることから,持続くも膜下鎮痛法は褥瘡の治療に寄与するものとして治療選択肢の一つになると考える.

IV. 集学的アプローチ

IV–1 集学的診察により薬物療法の介入なく慢性疼痛が軽快した1例

菅家奈未 板谷朋亮 榎本孝也 蔵持智也 荒井 梓 松井美貴 加藤 実

日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野

【症例】31歳男性.

【主訴】日常生活制限を伴う慢性的な四肢の痛みと頭痛.

【現病歴】大学1年生の定期試験当日,両腕と大腿に痛みがあり,市販の鎮痛薬を内服し鎮痛を得た.その後もゼミの発表やテスト前日に四肢の痛みが出現するようになったが,それ以外では痛みなく過ごせていた.就職後は毎朝痛みが出現するようになり,就業困難で退職した.退職後は就労支援センターへ通所していたが,新たに頭痛も出現し,自宅に引きこもりがちとなり当院受診となった.

【初診時・経過】両上腕,両大腿にNRS 7~9のズキズキする痛みで,不安な感情が生じた時に痛みが増悪するとのことだった.痛みの部位に感覚障害はなく,上肢Wright testは両側陽性であり,体の緊張も強かったことから,上腕と大腿の痛みは慢性一次性筋骨格痛と診断した.一方で完璧主義な性格や,不安を感じやすくその都度体の緊張から痛みを生じていることも明らかとなり,身体的な痛みに心理的因子の修飾が大きく関わっていることが判明した.患者に痛みの発生機序,心理社会因子が痛みに及ぼす影響を説明し,薬物療法ではなく,体を動かしながら痛みを和らげていくという痛み対応を提案した.

診察の翌日より痛みに対する不安の軽減から痛みの頻度が徐々に低下し,3カ月後の再診時には痛みの訴えはなかった.6カ月後NRSは0になっており,ADLの改善も認め,終診となった.

【考察・結語】2020年国際疼痛学会が痛みの定義を改訂し,そこで初めて心理社会的因子が痛みに及ぼす影響について言及した.当院痛みセンターは看護師,薬剤師,精神科医,ペイン医によるナラティブアプローチに沿った集学的な診療体制を構築している.本症例では集学的診察により詳細な患者背景を知り,身体的な痛みの原因や修飾因子を明らかとした.患者が自ら痛みに対応する知識を得ることで,患者自身が痛みに対応することができたと考える.

IV–2 薬物療法に対し治療抵抗性であった慢性二次性筋骨格痛に対し,疼痛教育・運動療法で軽快した1症例

板垣益美 加藤 実 河合満月 石渡大祐 松井美貴

日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野

慢性二次性筋骨格痛に対し処方されていたブプレノルフィンテープを中止し,疼痛教育・運動療法で痛みの改善を認めた症例を経験したので報告する.

30代,女性.X−2年に誘引なく右上肢のしびれ・脱力が出現し近医整形外科にて画像検査,末梢神経伝導速度検査を施行するもしびれ・脱力を生ずる器質的疾患は認められず,トラマドール,アセトアミノフェン,デュロキセチンで薬物療法開始したが,症状改善しなかった.

X−1年,他院脳神経内科に紹介受診となったが,神経学的な異常は認めず,しびれの改善目的に,ブプレノルフィンテープが追加された.しびれは一時的に安定していたが,徐々に増悪し,最大量の20 mg/週まで増量したが,しびれは残存したため,当院へ紹介受診となった.

初診時,痛みは右肘から前腕部にかけてのピリピリとしたしびれを認めた.感覚障害はなく,NRS 4~6の持続する痛みで仕事や家事・外出は困難であった.仕事や家庭での心理社会的要因の修飾は認められなかった.診察でWrightテストが右陽性であったため,頚部の筋緊張による慢性二次性筋骨格痛と診断した.患者に痛みの持続する機序について絵を描いて説明し,痛みの機序に基づいた痛みの対応法を提案したところ理解と納得が得られた.

具体的な方法は,無効なブプレノルフィンテープの段階的減量,中止を主治医に依頼すると同時に,日常での運動習慣がなかったため,ラジオ体操の勧めとアセトアミノフェン2,400 mg/日を開始した.初診2週後の2回目の外来受診時に痛みの増悪はなく,運動療法による筋緊張の低下を認めた.退薬症状なくブプレノルフィンテープも徐々に減量し,当科初診より2カ月で中止することができた.その後も痛みの再燃なく初診3カ月後,当科外来も終診となった.

慢性痛に対し,漫然と薬物療法に頼るのではなく,疼痛教育・運動療法で痛みの改善を得ることができた1例を経験した.

V. 歯・口腔の痛み

V–1 歯科治療による下歯槽神経損傷に関する一考察

増田陸雄 信太賢治 西田梨恵 山本 桃 手島留里

昭和大学横浜市北部病院歯科麻酔科

【はじめに】昭和大学横浜市北部病院ペインクリニックでは,2021年2月から12月までの間に歯科治療を契機に発症した下歯槽神経損傷患者を7名受け入れ加療したので報告する.

【症例】男女比は男性1例に対して女性6例,平均年齢は60歳(最年少:43歳,最年長:78歳)であった.全例ともオトガイ部に限局した神経障害を認めており,右側3例,左側3例,両側1例だった.原因は抜歯4例,腫瘍摘出1例,インプラント埋入1例,局所麻酔によるものが1例であった(全て下顎).発症時の症状は主に感覚鈍麻としびれ感であり,全例でメコバラミンが処方されていた.発症時から当科初診までは平均243日(最短:49日,最長:629日)後で,5例でアロディニア(軽度~重度)を生じていた.当科では薬物療法や星状神経節ブロック(SGB)等を行ったが,改善傾向を示したのは2例のみで,知覚が戻ることによってアロディニアやしびれ感の出現または増強した症例が多かった.なかでも発症から1年以上経過した1症例では,局所麻酔薬を用いたオトガイ神経ブロックおよびパルス高周波療法まで行ったが症状改善には至らず,現在薬物療法とSGBを続けながら神経系の精査中である.

【考察】歯科治療後の下歯槽神経損傷は自然消退することが多くほとんどはメコバラミンを投与しながら経過観察されているが,なかには今回提示したような症例も存在する.こういった背景から,2019年に日本歯科麻酔学会が中心となり「歯科治療による下歯槽神経・舌神経損傷の診断とその治療に関するガイドライン」が発行されている.この中で受傷後3カ月以内の早期診断と介入を推奨しているが,当科初診までには平均で約8カ月を要していた.介入方法に関してはガイドライン上でも強く推奨されているものはなく,3カ月以内に当科に紹介された3例のうち改善傾向を示したのは1例だけであり,今後の検討課題であった.

VI. 興味深い症例

VI–1 ミロガバリンが著効したまれな疾患2症例

山岡卓司 大角 真 森 麻里子 赤羽日出男

日本医科大学武蔵小杉病院麻酔科

【はじめに】まれな疾患である視神経脊髄炎関連疾患と肢端紅痛症に対し,ミロガバリンが著効したので報告する.

【症例】症例1:50歳,女性.下痢,下肢脱力による歩行困難,嘔気,腹部膨満感改善しないため,救急要請した.来院時,MRIにてC5からTh4にかけてT2強調画像にて高信号所見を認め,抗アクアポリン4抗体陽性にて視神経脊髄関連疾患と診断した.翌日よりステロイドパルス療法を行い,その後,免疫吸着療法を行った.1カ月後,徐々に症状は改善したが,Th10以下両側性のしびれと痛みがあり,カルバマゼピンとデュロキセチンを処方された.その後,3カ月経過するも痛みの改善が認められないため,当科に紹介受診となった.受診時のNRS 6/10であった.そのため,ミロガバリンを処方したところ,痛みは著明に改善(NRS 2/10)した.症例2:62歳,女性.40歳ごろから手の赤みを自覚していた.61歳ごろより最初は手指,その後は手掌へ広がる痛みを感じ,近医を受診し肢端紅痛症と診断されるも痛みのコントロールが難しいとのことで当科に紹介受診となった.初診時,灼熱感を伴う両手指および手掌痛を自覚し,NRS 7/10であった.デュロキセチンを処方したところNRS 3/10となったが,夜間に痛みをぶり返すようになり,星状神経節ブロックを追加した.その後,NRSは2~4で推移していたが,半年後に痛み増強し,NRS 8/10となった.その時点でミロガバリンを処方したところ,痛みは著明に改善(NRS 2/10)した.

【考察】今回,視神経脊髄炎関連疾患と肢端紅痛症がミロガバリンにて著効した症例を経験した.ミロガバリンはプレガバリンと比べて副作用が少ないといわれているが,普段の診療にて使用しているとプレガバリンより副作用が少ないばかりか痛みの軽減が強い印象がある.これらの疾患の報告例は少ないが,多少の文献的考察を加えて発表する.

VI–2 cervical anginaの1例

桑原沙代子 上島賢哉 濱口孝幸 林 摩耶 中川雅之 安部洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

頚椎症由来の胸痛はcervical anginaとよばれ,冠動脈疾患と鑑別を要す.冠動脈疾患除外後も持続する左前胸部痛をcervical anginaと診断し,神経ブロックで軽快した1例を経験したので報告する.

【症例】72歳,男性.主訴:左前胸部痛.現病歴:冠攣縮性狭心症は内服でコントロールされていた.1年半前から左前胸部を認め,Holter心電図等の精密検査を何度か施行したが,異常は指摘されなかった.3カ月前から左前胸部の圧迫感の範囲の拡大傾向が認められたため,当科受診となった.初診時現症:numerical rating scale(NRS)5.左前胸部~側胸部の圧迫される持続痛,肩甲間部が冷たくなって圧迫される鈍痛の随伴を認めた.頚部痛や左上肢のしびれを時折認める.Spurling試験は陰性.左C6領域は9/10感覚低下と手関節背屈の軽度筋力低下を認めた.頚椎レントゲンで左C4以下の椎間孔狭小化と頚椎MRIでC4/5~5/6に脊柱管狭窄を認めた.cervical anginaを疑い,腕神経叢ブロックを施行したところ,NRS 5→2へ低下した.再度,腕神経叢ブロックを施行し,左前胸部はNRS 0となった.左側胸部痛が残存しているため,内側・外側胸筋神経ブロックを2回施行したところNRS 0となり終診となった.

cervical anginaはC4~7の脊柱管の病変で起こる事が多いと知られている.本症例は頚部の動きで疼痛は誘発されなかったが,臨床症状や画像所見からcervical anginaによる疼痛を考慮した.頚椎手術を必要とする報告もある中,本症例は神経ブロックを施行し,疼痛の軽減を得ることができた.冠動脈疾患や大動脈解離など生命に危険を及ぼす疾患を除外した後に,持続する前胸部痛には頚椎病変の可能性を考慮し,診察にあたる必要がある.

VII. 環境

VII–1 医療従事者のストレスチェック

畑中浩成 松川 隆 田中秀治

山梨大学麻酔科国士舘大学大学院

【目的】ストレスチェックの制度(心理的負担の程度)の結果を考察する.

【方法】職業性ストレス簡易調査票を用いた,①心身のストレス反応,②仕事のストレス要因,③周囲のサポートについて点数化した.

【結果】

・繁忙度の高い現場では高ストレス者が多かった.

・昨年より今年の方が高ストレス者は減少した.

【考察】

・心の健康の情報は労働者の協力が難しかった.

・自分では気付きにくく,表質しにくいことは,ストレスチェックにより点数化してみる化できた.

・ストレスチェック心の健康診断.

・高ストレス者は,昨年より減少した.しかし,世間では自殺者は増加した.ストレスチェックにより,組織内での高ストレス者が減少して社会に還元されることと思う.

・ストレスチェックは医療の自助努力につながる.

・実施医師は精神科医師でなくても勤まる.

 
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