2022 Volume 29 Issue 6 Pages 123-125
椎間板内酵素注入療法(以下,酵素療法)は,治療部位が1カ所に限定されている.複数の椎間板ヘルニアを示した症例において,椎間板造影が有用であった1症例を経験したので患者の同意を得て報告する.
30歳代,男性.身長178 cm,体重80 kg.既往歴に特記事項はなかった.現病歴は1カ月前から重量物運搬を契機に腰痛と右下肢痛が出現した.VAS値80/100 mm,SLRテストは右50度,左70度を示したが,筋力低下は示さなかった.痛みの部位と性状から右L5,S1の神経根症状と診断した.腰部MRIではL4/5とL5/S1にいずれも正中型contained typeのヘルニアを示した(図1).右L5,S1神経根ブロックによりVAS値25/100 mmまで一時的に改善したが,数日で痛みが増強した.酵素療法の適応を検討するため椎間板造影を計画した.
腰椎MRI T2強調画像
矢状断:L4/5,L5/S椎間板ヘルニアを示す.
水平断:L4/5,L5/Sともに正中型の後縦靱帯下脱出型ヘルニアと思われる画像を示す.
椎間板造影は,X線透視下に患側を上とした側臥位で局所麻酔下に行った.椎間板穿刺には21G-14 cmブロック針を用いた.L4/5,L5/Sの各椎間板を正中かつ後方約1/3の部位を目標に穿刺した.各椎間板にイオトロラン240 mg/ml 1 mlを注入して,それぞれの造影剤の広がりを確認した.L5/Sでは放散痛は得られず造影剤は硬膜外腔へ流出し,L4/5では下肢への放散痛を得て造影剤は椎間板内に限局した(図2).以上よりL4/5は後縦靱帯下脱出型,L5/Sは後縦靱帯穿破型と診断し,放散痛からもL4/5が原因と判断した.L5/Sには局所麻酔薬とステロイド剤2 mlを追加投与して終了し,腰椎CTでも同様の所見を示した.
椎間板造影
左:L5/Sに1 ml注入,放散痛および下肢痛なし.脊柱管内造影剤流出あり,後方脱出後縦靱帯穿破型.
右:L4/5に1 ml注入,下肢の再現痛あり,造影剤流出なし,後方脱出後縦靱帯下型.L4/5椎間板後方の造影剤はL5/S由来.
酵素療法は椎間板造影2日後に,椎間板造影と同じ体位と方法でL4/5にのみ行った.造影剤は用いずブロック針先端がX線透視で正中にあることを確認後,コンドリアーゼ1 mlを注入して終了した.翌日にVAS値は3/100 mmと軽減し,合併症なく退院した.退院後数日で腰痛が増強したが,椎間関節由来と診断し腰椎椎間関節ブロックを1回施行して痛みは軽減した.治療28日後には,VAS値は10/100 mmと軽減したままで,SLRテストは右90度へ改善していた.3カ月後も症状は軽快しており悪化を示さず,患者の希望にてそのまま終診となった.
椎間板内酵素療法は,椎間板内圧低下を引き起こして神経根圧迫を軽減させる1).治療成績は治療後13週で有効率は70%の報告がある2,3).適応は,後縦靱帯下脱出型の腰椎椎間板ヘルニアに限られており,さらに一生に1回1部位のみ投与が可能である3,4).
椎間板造影を行う意義としては,①責任椎間の同定,②薬液注入による椎間板性腰痛や下肢痛の治療,③酵素注入手技の予行(骨棘,側弯などの経路の確認,治療中に神経根を障害しない経路の確認,薬液の広がりの確認),④椎間板造影後CTにおけるヘルニアの脱出形態評価,などが挙げられる.本症例では左L5,S1神経根症状に対して腰椎MRIではL4/5,L5/Sの連続する2椎間にヘルニアを示していた.またMRI所見において後縦靱帯の穿破の有無は確認できなかったが,形状から2椎間とも原因椎間板の可能性が示唆された.治療部位を決定するめに椎間板造影が必要と判断され,椎間板造影の結果L5/Sの後縦靱帯穿破型が確認された5).ただし,複数の椎間板に対して同時に造影剤を入れると,造影剤の流れ方によっては診断的責任部位の同定判断が難しくなるため,必要性が高い場合のみ施行すべきであると考えられる.本症例では,L5/Sでリークした造影剤が頭側に移動した可能性が椎間板造影(図2)で推察される.また酵素療法は複数の腰椎椎間板ヘルニアへの治療や後縦靱帯脱出型のヘルニアは適応外となる.複数の腰椎椎間板ヘルニアでは,最も原因となる椎間板を理学的所見や画像所見から推測し治療部位を選択する必要がある.また後縦靱帯脱出型のヘルニアでは,椎間板内ステロイド注射や加圧注射が適応となる.本症例では,L4/5椎間板造影で下肢への再現痛が得られ,かつ椎間板内に造影剤が限局したことからL4/5が原因かつ後縦靱帯下ヘルニアと診断できた.
複数の椎間板ヘルニアを有した腰下肢痛に椎間板内酵素注入療法を行った1症例を経験した.椎間板造影は,原因椎間板の特定と性状把握が可能で治療部位選択に有用性を示した.
本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第53回大会(2019年7月,熊本)において発表した.