Journal of Japan Society of Pain Clinicians
Online ISSN : 1884-1791
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2022 Volume 29 Issue 6 Pages 130-141

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会 期:2022年2月26日(土)

会 場:Web開催

会 長:牛田享宏(愛知医科大学学際的痛みセンター)

■特別講演

痛み治療における催眠

水谷みゆき

愛知医科大学学際的痛みセンター/三重催眠研究センター

催眠の鎮痛領域への応用は外科医Braidが1841年に催眠現象が心理的集中によるものと考え,外科治療の際に用いたことに始まる.その後,麻酔薬が広く普及し,催眠鎮痛は影を潜めた.

近年になり,急性疼痛について,処置や術中術後の不快感と痛みの緩和,麻酔薬が使えない場合の鎮痛に,催眠が見直されている.普及の程度は国により異なるが,最も進んでいるフランスでは催眠の考え方を取り入れた救急隊活動を行い,麻酔科医の10%以上が催眠の研修を受けている.一方,慢性疼痛に関しては1950年ごろより身体治療で改善しない症例に対して行動療法や認知行動療法(CBT)が導入され,2000年ごろから催眠を導入するメリットが注目されるようになった(Jensen, 2009).現在,催眠鎮痛は,CBTやさまざまな身体治療に反応しない慢性疼痛に対して,副作用が少なく,安全で有効な手段と考えられており,慢性疼痛治療における催眠の有効性が認められている(Adachi, Fujino, Nakae, Mashimo, & Sasaki, 2014).

私どもは強い痛みと無力感をもった患者には直接鎮痛暗示は負担が大きいと考え,2003年にCRPS I型患者に対して自律訓練の形で催眠鎮痛を行うことの有効性を報告した.その後,心理療法へ紹介された約160名の幻肢痛を含む多様な慢性疼痛患者に対して,直接鎮痛暗示を用いず,身体感覚を用いる催眠鎮痛を適用し,半数以上がセッション中と日常生活において鎮痛を経験した.催眠鎮痛を生じるには,説明と質問を通して,患者自身の経験に即した鎮痛に向かう文脈を形成し,催眠誘導後に痛みではない心身の経験を作り上げることが必要であった.

慢性疼痛治療におけるゴールは,本人の自己効力感を回復し,自己催眠による催眠鎮痛を習得することにより日常的な痛みが改善し,再燃時にも自ら対応できることである.今回の講演ではこれらの催眠鎮痛の経験や経緯を紹介する.

■一般演題A

A–1 仙骨硬膜外ブロックをきっかけとした運動の推奨により疼痛が軽快した腰椎変性すべり症に伴う坐骨神経痛の1例

大川真駒 牛田健太 坂本 正 横地 歩 丸山一男

三重大学医学部附属病院麻酔科(ペインクリニック)

【症例】80代男性.6年前より右下肢に有痛性痙攣を認め,第4と第5腰椎変性すべり症と坐骨神経痛と診断された.不定期に生じる疼痛や症状増悪時に,NSAIDs内服と低周波治療を2カ月ほど施行,症状改善を得ることを繰り返していた.6カ月前から,右坐骨神経痛の再燃を認め,同様の治療を受けたが改善しなかったため,当科に紹介された.

【初診時所見】歩行時や安静時に,右臀部から踵,足趾,下腿外側に電気が走るような痛みを認めた.NRS 7~8.右下肢伸展挙上テスト陽性.知覚低下なし.

【経過】患者は,薬物治療を好まなかったため,坐骨神経痛の保存療法として,ストレッチと運動の推奨を第一優先とした.運動療法を行うために,痛みの軽減が必要と考え,受診ごとに仙骨硬膜外ブロック(0.5%キシロカイン10 ml)を同時に施行した.ハムストリングスなどのストレッチと運動の継続を指導し,実行するよう励ました.仙骨硬膜外ブロック後は,1~2日ほど疼痛軽減を認め,患者からは「ストレッチや運動をやっていて,調子がいい」と発言があった.受診3回目には,NRS 3へ低下しており,ブロックは中止し,ストレッチと運動のみとした.徐々に疼痛は軽快し,3カ月後には,痛みが生活上の問題になることなく,通院不要となった.

【考察】坐骨神経痛に対する初期治療は,保存療法であり,運動など活動的に過ごすことが大切である.しかし,痛みのために体を動かすことへの抵抗感がありがちである.本症例では,仙骨硬膜外ブロックにより一時的ではあるが,日常生活動作での疼痛軽減を実感したのを契機に,ストレッチや運動を取り入れやすくなったと思われる.そして,ストレッチや運動のみでも,疼痛が軽減することに自らが気付き,継続することができた.

【結語】仙骨硬膜外ブロックが運動療法のアドヒアランスを向上させるきっかけとなり,坐骨神経痛が軽快した症例を経験した.

A–2 段階的運動療法の促進に硬膜外ブロックが有効であった慢性疲労症候群の1例

吉村文貴 山口 忍 中村好美 杉山陽子 操 奈美 田辺久美子 飯田宏樹

岐阜大学大学院医学系研究科麻酔・疼痛制御学

【はじめに】慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome:CFS)は生活が著しく損なわれるほどの激しい全身倦怠感,睡眠障害,思考力・集中力の低下,起立性調節障害,全身痛などの臨床症状により,日常生活や社会生活に重大な支障をきたす疾患である.CFSの治療には段階的運動療法の有効性が報告されているが,痛みや恐怖感は運動療法のアドヒアランスに影響を与えることが報告されている.今回,硬膜外ブロックによる一時的な鎮痛効果が段階的運動療法の促進につながった症例を経験した.

【症例】20歳女性,156 cm/58 kg,看護学生.全身麻酔下の血管腫切除術を契機に慢性疲労症候群を発症し,治療目的に当科外来へ紹介となった.病的疲労はパフォーマンス・ステイタス(performance status:PS)は7(身の回りのことはでき,介助も不要であるが,通常の社会生活や軽労働は不可能である)であり,CFSの臨床診断基準(案)を満たしていた.CFSに関する情報提供を行い,段階的運動療法を指導・開始したが,運動に伴う痛みが強く,継続不可能であった.患者と相談し,可動に伴う痛みの緩和目的に局所麻酔薬を用いた硬膜外ブロックを施行した.硬膜外ブロックによる治療により腰痛・下肢痛の軽減が得られたため,患者の状態に応じて硬膜外ブロックを施行しながら,段階的運動療法を再開した.経過とともに,運動量は緩徐ではあるが徐々に増加していき,それに伴い疲労感も軽減していった.

【結語】痛みは運動療法のアドヒアランスに影響を与えるため,インターベンション治療の介入は運動療法の促進に役立つ可能性がある.

A–3 鎮痛補助薬の減量と趣味の再開にアクセプタンス&コミットメント・セラピーが有効であった慢性疼痛の症例

酒井美枝*1,2 大堀 久*3 浅井明倫*4 杉浦健之*1,2 祖父江和哉*1

*1名古屋市立大学大学院医学研究科麻酔科学・集中治療医学,*2名古屋市立大学病院いたみセンター,*3医療法人秀士會大堀クリニック,*4社会医療法人明陽会成田記念病院麻酔科・ペインクリニック内科

【はじめに】薬物療法と併用して,アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)を行うことで,鎮痛補助薬の減量と趣味の活動が再開された慢性疼痛の症例を経験したので報告する.

【症例】50代女性,主訴は左鼠径部痛,臀部痛.診断は慢性一次性筋骨格痛.X−1年11月,左足の伸展時に違和感が出現.X−1年12月より,左の下肢・臀部・鼠径部に痛みを自覚.かかりつけ整形外科でMRI撮影し経過観察.その後,両下肢に痛みやしびれが出現.X年4月に近医ペインクリニック受診.CT・MRI撮影で痛みの原因となる所見なし.プレガバリン75 mg処方と神経ブロックにより右下肢痛は軽減したが,左鼠径部から左下肢の痛みは残存.神経ブロック終了とし,デュロキセチン40 mgを追加処方.内服によりNRS:8→3に改善.X年11月に当院当科初診.

【経過】かかりつけ医での内服加療を継続し,当院当科では心理療法のみを実施.心理士による14回のACT(1~2週ごと,1回50分,個別)と1カ月後,3カ月後フォローアップ(FU)が行われた.#1~4:目標設定,痛みへの対処法の振り返り,#5~7:生活の充実につながる活動(「価値」)の明確化,活動に取組む際の障壁の同定,#8~12:「価値」に沿った活動の活性化,言葉と距離を取るエクササイズ,マインドフルネス,#13~14:「価値」に沿った活動の維持を行った.

【結果】介入前と終了時(#14),FU(#16)を比べて,生活支障(PDAS:11→9→4),痛みの程度(平均NRS:3→2→2),破局的思考(PCS:38→25→23),QOL(EQ5-D:0.705→0.724→0.768),自己効力感(PSEQ:31→39→46),不安・うつ(HADS-A:12→7→6,HADS-D:7→4→3)が改善し,デュロキセチンの減薬と趣味の再開が得られた.

A–4 患者が訴える疼痛と質問紙評価の結果に差異を認めた上行結腸がん手術症例に対するリハビリテーションの経験

成瀬宏司*1 磯村隆倫*1 小林 豊*1 大賀智史*2 松原貴子*2

*1医療法人医仁会さくら総合病院リハビリテーションセンター,*2神戸学院大学総合リハビリテーション学部

【緒言】がん性疼痛は,身体的要因だけでなく,精神的要因,社会的要因,スピリチュアルな要因を含め多面的に捉えるトータルペインとして理解することが重要である.今回,上行結腸がんの手術前に,患者が訴える疼痛と質問紙による多面的評価結果との間に差異を認めた症例に対するリハビリテーション(リハ)を経験したので,術後の経過を踏まえて報告する.

【症例】症例は70代男性で,入院前ADLは自立していた.貧血症状にて当院を受診し,上行結腸がんの診断にて入院となる.入院翌日より術前リハを開始した.入院3週後に腹腔鏡下結腸切除術を施行され,手術翌日より術後リハを開始した.

【経過】術前の疼痛評価において,問診では「どこも痛くない」との発言があったが,質問紙評価ではBPIで最大3の疼痛があり,SF-MPQ-2の感情で5点,HADSの抑うつで9点と精神的要因の影響がうかがえた.術直後には,BPI最大疼痛4,SF-MPQ-2合計49点と術侵襲に伴う急性痛が認められた.その後,薬物療法や術後リハにより身体機能やADL,QOLは術前と同程度まで改善し,術後10日目に自宅退院となった時点で,BPI最大疼痛1,SF-MPQ-2合計3点となり疼痛は著しく改善したものの,HADS抑うつは9点のままで改善を認めなかった.

【考察】本症例は,術前の疼痛評価において患者が訴える疼痛と質問紙評価の結果に差異を認め,その疼痛に精神的要因の関与がうかがえた.また,術後リハにより身体機能やADL,QOLとともに疼痛も改善したが抑うつは残存しており,退院後の精神的要因による疼痛経過を注視すべきと考える.本症例のようにがん性疼痛に対しては,患者の訴えにのみ注目するのではなく,トータルペインとして多面的に評価・理解し,疼痛影響要因に対しても早期からアプローチすることが重要である.

■一般演題B

B–1 慢性疼痛患者における中枢性疼痛調節機能のサブタイプ分類と疼痛症状との関係

服部貴文*1,2,3 松原貴子*1,2 城 由起子*1 尾張慶子*1 田中千晶*1 牛田享宏*1

*1愛知医科大学学際的痛みセンター,*2神戸学院大学大学院総合リハビリテーション学研究科,*3前原整形外科リハビリテーションクリニックリハビリテーション部

【緒言】慢性疼痛患者では上行性疼痛伝達系または下行性疼痛抑制系における中枢性疼痛調節機能の変調をきたすことが知られており,それらは疼痛の時間的加重(TSP)ならびに条件刺激性疼痛調節(CPM)によりそれぞれ評価可能である.一方,慢性疼痛患者ではこれらの相互性は明らかになっておらず,TSPとCPMの両方またはどちらか一方が変調する機能変調タイプと疼痛症状との関係性は不明である.そこで今回,中枢性疼痛調節機能をTSPとCPMによりサブタイプ分類し,各タイプによる疼痛症状の違いについて検討した.

【方法】対象は愛知医科大学学際的痛みセンターを受診した一次性・二次性慢性疼痛患者60名とし,運動・安静・夜間時の疼痛強度(VAS),身体機能障害(PDAS),TSP,CPMを評価した.なお,TSPは疼痛部位にて圧痛閾値強度の圧刺激を10回連続で加え1回目と10回目の疼痛強度(VAS)の差を測定値とし,CPMはペインクリップを用いて非疼痛側の耳垂に圧痛の条件刺激を加え条件刺激前・中の非疼痛部位での圧痛閾値の差を測定値とした.群分けは先行研究を参考にTSP/CPMとも正常群,TSP亢進/CPM正常群,TSP正常/CPM減弱群,TSP亢進/CPM減弱群の計4群に振り分け,VAS,PDASを比較した.

【結果】TSP/CPMとも正常群は7名(12%),TSP亢進/CPM正常群は2名(3%),TSP正常/CPM減弱群は40名(67%),TSP亢進/CPM減弱群は11名(18%)であった.また,運動・安静・夜間時VASで群間差はなかったが,PDASはTSP/CPMともに正常群は他の3群よりも低い傾向を示した.

【考察】本研究より,痛みセンターを受診する慢性疼痛患者の約85%でCPMが減弱しており,下行性疼痛抑制系に機能低下・不全を呈していることが明らかとなった.また,慢性疼痛患者では上行性疼痛伝達系と下行性疼痛抑制系の機能変調はそれぞれ独立して存在していると考えられ,いずれかの機能変調があれば身体機能障害を重症化させる一因になり得るものと考える.

B–2 変形性膝関節症患者に対するSDMを用いた運動処方が運動アドヒアランスに与える影響

本田太一*1 服部貴文*1 坂野裕洋*2

*1前原整形外科リハビリテーションクリニックリハビリテーション部,*2日本福祉大学健康科学部

【緒言】変形性膝関節症(膝OA)は,罹患率の高い慢性疼痛疾患であり,実践的な介入手段の確立が必要である.OARSIの診療ガイドライン(2014)では,保存的治療の中核として患者教育と減量,運動療法が位置づけられているが,その実施には良好な運動アドヒアランスが必須となる.一方,患者と医療者による意思決定の共有(SDM)は,患者の治療プロセスへの参加を促し,納得のいく決定ができるように支援することで,良好な運動アドヒアランスの獲得が期待できる.本研究では,膝OA患者に対するSDMを用いた運動処方が運動アドヒアランスや疼痛症状に与える影響について検討した.

【方法】対象は保存的治療が選択された膝OA患者14名とし,SDMを用いて自主運動の処方を行う7名(SDM群)と日整会が作成した自主運動内容を指示する7名(対照群)に無作為割付を行った.全対象者は,運動の目的や効果に関する情報を教示された後に,自主運動の実施状況や活動量(万歩計)を活動日記に記録した.評価は4週間の介入前後に膝関節機能を変形性膝関節症評価尺度(JKOM),膝痛(安静時・歩行時)の程度をvisual analogue scale(VAS),自己効力感をgeneral self-efficacy scale(GSES)を用いて評価した.また,活動日記を基に4週間の合計運動時間(分),1日の平均歩数(歩/日)を算出した.

【結果】膝関節機能と安静時痛および自己効力感は両群ともに介入前後で変化はなく,群間にも差を認めなかった.一方,歩行時痛は両群ともに有意な改善を認めたが,群間には差を認めなかった.また,合計運動時間は対照群と比較してSDM群で有意に高値を示したが,平均歩数は両群間に差を認めなかった.なお,合計運動時間は歩行時痛,平均歩数は安静時痛と有意な負の相関関係を認めた.

【考察】本研究結果より,SDMを用いた運動処方は,膝OA患者の運動時間を増加させ,その効果は疼痛症状が軽度な者ほど高い可能性が示唆された.

B–3 人工膝関節全置換術の遷延性術後痛を予測するモデルの開発~術前および術前から術後早期の変化に着目して~

田中 創*1,2 西上智彦*3 吉本隆昌*4 牛田享宏*2,5

*1福岡整形外科病院リハビリテーション科,*2愛知医科大学医学研究科臨床医学系専攻統合疼痛医学教室,*3県立広島大学保健福祉学部理学療法学科,*4福岡整形外科病院整形外科,*5愛知医科大学学際的痛みセンター

【目的】人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:TKA)における遷延性術後痛(chronic postsurgical pain:CPSP)には,術前・術後の中枢性感作や破局的思考が影響することが明らかにされている.また,近年では術前における膝関節の身体知覚異常がTKA後のCPSPに影響する可能性が指摘されている.周術期ではこれらの要因の改善が重要であることを経験するが,術前から術後早期における各因子の変化量がCPSPに影響するかは明らかにされていない.本研究の目的は,術前および術前から術後早期の中枢性感作や破局的思考,身体知覚異常の変化量がCPSPに影響するかを明らかにすることである.

【方法】対象はTKA術後患者123名とした(男性:20名,女性:103名,平均年齢:73.2±7.6歳).TKAの機種はPersonaが70例,Journey IIが53例であった.TKAの術前,術後1週に中枢性感作関連症状(central sensitization inventory:CSI-9),破局的思考(pain catastrophizing scale:PCS-6)および身体知覚異常(Fremantle Knee Awareness Questionnaire:FreKAQ)を評価した.それぞれの因子の術後1週から術前を引いた値(ΔCSI-9,ΔPCS-6,ΔFreKAQ)を算出した.また,疼痛強度(VAS)は術後6カ月に評価し,VAS 30 mm以上をCPSP有り,VAS 29 mm以下をCPSP無しとした.統計解析には決定木分析(CHAID)を用いた.CHAIDでは,術後6カ月におけるCPSPの有無を従属変数とした.共変量として,年齢,BMI,性別,独立変数として,Model 1は術前のCSI-9,PCS-6およびFreKAQ,Model 2はΔCSI-9,ΔPCS-6およびΔFreKAQをそれぞれ投入した.

【結果】TKA後6カ月時のCPSPは19例(15.4%)に認められた.CPSPの予測モデルでは,Model 1からはいずれの因子も抽出されなかった.Model 2ではΔFreKAQが抽出され,ΔFreKAQが7以下でCPSP有り10.9%,CPSP無し89.1%,ΔFreKAQが8以上でCPSP有り36.4%,CPSP無し63.6%となった.

【結論】本研究より,術前から術後1週までのFreKAQの変化量がTKA後6カ月時のCPSPを予測する因子になることが示唆された.FreKAQはneglect like symptom(NLS)や固有受容感覚,身体イメージといった膝関節の身体知覚異常を包括的に評価する尺度である.術後急性痛に伴うNLSの悪化,固有受容感覚や身体イメージのエラーがTKA後6カ月時のCPSPに影響すると考えられた.

B–4 股・膝関節の疼痛症状の病態は異なるのか?―人工関節置換術後の術後経過に基づく検討―

池村明里*1,2 服部貴文*1,3 松原貴子*1

*1神戸学院大学大学院総合リハビリテーション学研究科,*2石川病院リハビリテーション部,*3前原整形外科リハビリテーションクリニックリハビリテーション部

【緒言】人工股関節全置換術(THA)や人工膝関節全置換術(TKA)は重度の関節変形を認める変形性股・膝関節症(股・膝OA)に対する有効な観血的治療法である.THAやTKAでは疼痛が改善する患者が多い一方で,術後に疼痛,機能障害が残存する患者も少なくない.また,臨床において,THAに比べTKAで特に術後に疼痛,機能障害が改善しにくい症例を経験することから,対象関節の違いにより疼痛症状の病態が異なる可能性がある.しかし,THAとTKAの疼痛,機能障害を術後早期から経時的に調査し,比較・検討した報告はなく,THAとTKAにおける術後疼痛症状の特性や病態は明らかではない.そこでTHAとTKAでそれら症状経過を比較し,罹患関節による疼痛症状の違いについて検討した.

【方法】対象は股・膝OAと診断され手術適応となったTHA患者51名,TKA患者160名とし,術前に歩行時痛(NRS)と機能障害(WOMAC)を測定した.また,術後の経過を追うために歩行時痛は術後8週目まで毎週,WOMACは術後2・4・8週目に再度評価を行った.統計学的解析は罹患関節ごとに各評価の経時的変化と疼痛強度別の有訴者率を算出した.

【結果】NRSは術前と比較してTHAとTKAともに術後1週目以降で有意に改善した一方,術後8週目で痛みなし(NRS 0)であった者の割合はTHAで75%,TKAで50%であった.WOMACは術前と比較してTHAでは術後2週目以降に,TKAでは術後4週目以降で有意に改善を示した.

【考察】THAとTKAの術後疼痛と機能障害の改善過程は術後急性期から異なっており,THAでは術後早期から疼痛,機能障害の改善を認め,術後8週目では疼痛が寛解する割合が高かった.しかし,TKAでは術後8週目でも疼痛が残存する傾向にあり,機能障害も改善に時間を要した.よって,TKAではTHAよりも疼痛残存に伴って機能改善が遅延する傾向にあり,股・膝関節では罹患関節の違いにより疼痛症状の病態が異なる可能性が示唆された.

■一般演題C

C–1 漢方療法併用が有用と思われた帯状疱疹後神経痛の2症例

黒川修二*1 佐藤祐子*2 藤原祥裕*2

*1JA愛知厚生連江南厚生病院麻酔科,*2名鉄病院麻酔科

【はじめに】帯状疱疹後神経痛は帯状疱疹(PHN)の治療法としては抗てんかん薬,抗うつ薬等の薬物療法,神経ブロック療法等さまざまな治療法があるが,治療に難渋する場合もしばしばある.今回,西洋薬に漢方療法を併用し,有効と思われたPHN症例を2症例経験したので報告する.

【症例1】69歳,男性.2020年9月に下肢痛を認め,経過を診ていたが改善せず,その後皮疹も認めたため,皮膚科を受診.アセトアミノフェン,ミロガバリンの内服で治療されるも改善せず,麻酔科へ紹介となる.受診時,痛みの程度には日により波があるがVAS 15~80であった.下肢のしびれ,腰痛等は認めなかったが,痛みにより歩行困難さを認めた.また入浴により楽になるということであった.以上よりPHNと診断し,ミロガバリン,ノイロトロピン®に桂枝加苓朮附湯を併用にて治療を開始した.3週間後にはVAS 10/100と痛みの程度は改善し,歩行もスムーズになり,現在に至っている.

【症例2】82歳,女性.13年前に左胸部に皮疹を認め,その後,同部位に痛みを認め皮膚科受診.帯状疱疹痛にて麻酔科紹介となる.3カ月間ほどブロック療法施行し,プレガバリン,トラマドール/アセトアミノフェン配合錠,エチゾラム,イミプラミンの内服で治療開始するも改善せず(VAS 50/100).

また,本患者も入浴により楽になるということで,試しに桂枝加苓朮附湯を併用した.その後,痛みは徐々に改善し,現在ではヒリヒリ感は残存するも痛みはVAS 0~10/100とほぼ消失した.

【考察】PHNをはじめとした神経痛は治療に難渋する場合がしばしばある.本2症例とも西洋薬では治療に難渋していたが,病名漢方的な処方ではあるが,ある程度,証を考慮し漢方を併用した結果,有効であった.疼痛領域における漢方薬の役割は大きく,西洋医学的な治療が奏功しない場合でも劇的に改善することもあると思われる.

【結語】西洋薬で治療に難渋する疼痛疾患には漢方薬併用も試みてもよい.

C–2 治療に難渋した硬膜穿刺後頭痛の褥婦に対し当帰芍薬散が有効であった1症例

加藤利奈 杉浦健之 太田晴子 徐 民恵 加古英介 藤掛数馬 祖父江和哉

名古屋市立大学大学院医学研究科麻酔科学・集中治療医学分野

【緒言】硬膜穿刺後頭痛(post dural puncture headache:PDPH)は,褥婦のQOLを低下させる.今回,脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔で経腟分娩後にPDPHを発症し,さまざまな治療にもかかわらず頭痛が残存し,当帰芍薬散により頭痛が消失した症例を経験した.

【主訴】頭痛.

【症例】31歳の女性.163 cm,51 kg.

【現病歴】陣痛発来して入院.脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔下の経腟分娩を予定.硬膜外穿刺時に髄液の逆流があったため,部位を変更.出産後に硬膜外カテーテル抜去したところ,頭痛が出現,立位・座位で悪化するためPDPHと診断した.カフェイン,五苓散,アセトアミノフェン,ロキソプロフェンの内服で改善なく,産褥2日目に硬膜外自家血パッチを施行した.処置直後より頭痛は消失,産褥4日目に退院したが,頭痛が再発して同日再入院した.頭部CTで器質的異常はなく,安静とカフェイン,五苓散,アセトアミノフェン,ロキソプロフェン再開で頭痛は軽減.産褥6日目に退院したが,頭痛が残存するため,産褥26日目にいたみセンターへ紹介された.

【西洋医学所見】後頚部から右側頭部にかけての痛み(NRS 1~2/10).脳神経検査にて異常所見なし.痛みは下向きの姿勢で増強し,育児の際に苦痛を感じた.痛みは臥位で軽快し,雨天時に頻度が増加.産後より両下肢に浮腫あり.

【漢方医学的所見】舌証:歯痕(+),腹証:右傍臍部圧痛(+),右下腹部圧痛(+).

【経過】当帰芍薬散開始後,頭痛が消失したため,鎮痛薬を自己判断で中止.1週間後に当帰芍薬散を自己判断で中止したが,頭痛の再発なし.

【結語】産後は体内水分変化や血液過凝固状態を伴い,漢方医学では水毒と瘀血の病態と考えられる.PDPHの治療として当帰芍薬散の報告はないが,水毒と瘀血に効果がある当帰芍薬散は,褥婦のPDPH治療法として選択肢の一つとなり得る.

C–3 芍薬甘草湯を中心とした漢方治療が有効だった前皮神経絞扼症候群の2症例

山口智子*1 小林 充*2 木村哲朗*2 佐藤徳子*1 加藤 茂*1 中島芳樹*2

*1総合病院聖隷三方原病院,*2浜松医科大学医学部麻酔・蘇生学講座

【諸言】前皮神経絞扼症候群(anterior cutaneous nerve entrapment syndrome:ACNES)は,脊髄神経前皮枝が腹壁に絞扼されて痛みを生じる症候群である.診断と治療を兼ねて神経ブロックを行うが難治性となることも多い.ACNESに対して神経ブロックと漢方治療の併用が有効だった2症例を経験した.

【症例1】44歳女性,右下腹壁痛(NRS 3),腹部手術歴なし.

ガバペンチノイド等を内服していたが無効であった.超音波で右腹直筋上外縁に3 mm程度の高輝度結節を認めた.腹直筋鞘ブロックを行い,直後より痛みは完全消失した.4日間ほど無痛となり,以後痛み出現頻度が減少した.2回目の受診以降,ブロックと芍薬甘草湯の頓用により,痛みの程度と持続時間が減少した.

【症例2】50歳女性,両側上腹壁痛(NRS 5~8),婦人科開腹手術歴あり.

ガバペンチノイド等を内服したが副作用のため内服継続は不可能だった.超音波で右側腹直筋上外縁と左外腹斜筋内に5 mmほどの高輝度結節を認めた.腹直筋鞘ブロックと腹横筋膜面ブロックを行ったが,ブロックの効果は一時的であった.芍薬甘草湯の頓用を開始し,痛みは減少した.甘草の減量のため桂枝加芍薬湯の定期内服に切り替えて症状緩和が得られている.

【考察】ACNESは脊髄神経前皮枝が腹直筋外縁を貫通する際に腹壁に絞扼されて痛みを生じる.局所麻酔薬注入で周囲運動神経と前皮枝がブロックされることで絞扼が解除され,痛みが軽減する.芍薬甘草湯と桂枝加芍薬湯は筋肉攣縮に伴う痛みに処方される漢方薬である.ブロックと併用することで腹壁の筋緊張が緩み,症状の緩和につながったと考えられる.

【結語】ACNESに対する神経ブロック治療に加えて,急激に起こる筋肉の痙攣性疼痛に有効である芍薬甘草湯を中心とした漢方治療により良好な鎮痛が提供できた.

C–4 原因不明の発汗時の痛みに対して漢方治療が奏功した1症例

野澤広樹*1 木村哲朗*1 佐野秀樹*2 五十嵐 寛*1,3 中島芳樹*1

*1浜松医科大学医学部麻酔・蘇生学,*2遠州病院麻酔科,*3浜松医科大学医学部臨床医学教育学

【症例】30代男性.170 cm,62 kg.特記すべき既往歴なし.

X年6月に運動用加圧シャツを着用してから,発汗時に背部と四肢末端にチクチクとした痒みを伴う痛みが出現するようになった.皮膚科を受診したが,抗アレルギー剤,ステロイド外用などはいずれも無効で原因は不明だった.トラマドール塩酸塩で痛みがわずかに軽減したため内服継続していた.症状が改善せず,X+1年3月に当科を紹介受診した.痛み(NRS 3程度)は運動や入浴など体温上昇,緊張などに伴って3~10回/日程度で誘発され,数分間持続した.皮疹は出現せず,明らかな知覚異常を認めなかった.

【東洋医学的所見】やや神経質な印象.四肢は温かく,湿潤.脈は浮,実.腹力は中等度.舌は小刻みに震え,薄白色舌苔,歯痕あり,静脈怒張なし.軽度の胸脇苦満あり.口渇は軽度あり.

【治療経過】白虎加人参湯(7.5 g/日分3)を処方し2週間の内服で症状が消失したが,さらに2週間経過したころより徐々に再燃した.加味逍遙散(7.5 g/日分3)を追加処方したところ,数日後から再び症状は軽減し入浴や運動もできるようになった.6カ月間2剤を継続して症状の軽減が得られているため,近医への通院を再開した.

【考察】皮膚科でコリン性蕁麻疹を疑われたが,皮疹がないこと,抗アレルギー薬などが無効であることから否定的であった.白虎加人参湯は清熱作用を有する石膏,知母を含み,のどの乾きとほてりに対して適応がある.口渇は軽度であったが,体温上昇時の皮膚表面の痒みを伴う痛みを体表の熱と捉えて白虎加人参湯を処方したところ有効だった.胸脇苦満があり,精神発汗時にも痛みが出現したことから柴胡を含む加味逍遙散を併用し,症状緩和を増強することができたと考えている.

【結語】原因不明の発汗時の痒みを伴う痛みに対して,白虎加人参湯と加味逍遙散の併用が奏功した症例を経験した.

C–5 カルバマゼピンで薬疹を引き起こした三叉神経痛患者に対し五苓散が著効した1症例

谷口美づき 小林 充 中島芳樹

浜松医科大学麻酔蘇生学講座

症例は92歳女性.7年前歯科治療を契機に右三叉神経第2子領域に電撃痛を認めたが,その後自然軽快したため加療はしていなかった.2年前より同部位の痛みが再燃し,近医で三叉神経痛と診断され,プレガバリン50 mg/日(分2)を処方されたが,痛みが軽快しないため,当院麻酔科紹介となった.カルバマゼピン100 mg/日(分1)で疼痛消失したが1週間後には疼痛が再燃したため柴胡桂枝湯7.5 g/日(分3)を併用したが無効であった.カルバマゼピン200 mgに増量後は,疼痛はほぼ消失した.1カ月後,同部位に5分ほど持続する疼痛が出現したが,プレガバリン25 mg内服で軽快したため,その後はプレガバリン25 mg/日(分1)も併用し,疼痛消失が得られていた.

カルバマゼピン内服開始約1.5カ月より皮疹を認めたが,抗アレルギー薬および外用薬で軽快した.内服開始約2カ月過ぎより再度皮疹が出現したため当院皮膚科受診した.カルバマゼピンを被疑薬とした薬疹の可能性が高いとされたため,カルバマゼピンを休薬した.約2年間投与歴のあるプレガバリンは投与可とされたが,他の抗痙攣薬も薬疹の可能性が示唆されたため投与しなかった.プレガバリン単剤では疼痛コントロール不良であることは既知であったため,五苓散7.5 g/日(分3)を開始した.その後はほぼ疼痛消失した状態が持続している.三叉神経痛に有効であると報告のある漢方薬には柴胡桂枝湯,柴苓湯,五苓散,牛車腎気丸などがある.本症例では「水滞」を認めたため五苓散を投与したところ著効した.三叉神経痛の第一選択薬はカルバマゼピンであるが,合併症により投与不可の場合には漢方薬も考慮すべきである.

■一般演題D

D–1 脳卒中後CRPSの発症因子―決定木分析を用いた検討―

桂 祐一*1,2 大賀智史*3 服部貴文*1 山田 良*1,2 下 和弘*3 松原貴子*1,3

*1神戸学院大学大学院総合リハビリテーション学研究科,*2医療法人えいしん会岸和田リハビリテーション病院リハビリテーションセンター,*3神戸学院大学総合リハビリテーション学部

【緒言】脳卒中後複合性局所疼痛症候群(CRPS)発症の危険因子として,上肢の重度運動麻痺による上肢不活動が報告されているが,上肢不活動を呈する脳卒中患者が必ずしも脳卒中後CRPSを発症するとは限らない.そこで,本研究では,上肢不活動に加えて,脳卒中後CRPSの患部外である下肢運動麻痺や全身性の身体不活動を評価し,決定木分析による脳卒中後CRPS発症の危険因子の特定を試みた.

【方法】脳卒中患者195名を対象に,入院3カ月後の脳卒中後CRPS発症の有無に基づき群分けを行った.上下肢・全身の運動機能と不活動は,上・下肢運動麻痺(FMA-UE・FMA-LE),上肢運動機能(ARAT),上肢使用頻度(MAL),バランス能力(BBS),身体不活動時間(IPAQ-SF)にて評価した.

【結果】脳卒中後CRPS群30名と非CRPS群165名に分類され,CRPS発症率は15.4%であった.脳卒中後CRPS発症の危険因子として,IPAQ-SF,FMA-UE,FMA-LEが抽出された.CRPS発症率は,IPAQ-SF<635で1.5%,IPAQ-SF≧635+FMA-UE≧19.5ならば0%,さらに,IPAQ-SF≧635+FMA-UE<19.5+FMA-LE≧16.5ならば33.3%,そしてIPAQ-SF≧635+FMA-UE<19.5+FMA-LE<16.5で全ての運動麻痺や不活動が顕著ならば84.6%であった.

【考察】今回,上肢運動麻痺だけでなく新たに身体不活動と下肢運動麻痺が加わることで,脳卒中後CRPS発症率が約85%まで高まることが示唆された.そのため,脳卒中後CRPS発症を予防するためには,患部となる上肢機能だけでなく下肢機能や身体活動性を評価し,全身的なアプローチを早期から実践する必要があると考える.

D–2 脳卒中後失語症患者の疼痛行動特性―疼痛行動の観察による非言語的評価―

山田 良*1,2 下 和弘*3 大賀智史*3 服部貴文*1 松原貴子*1,3

*1神戸学院大学大学院総合リハビリテーション学研究科,*2医療法人えいしん会岸和田リハビリテーション病院リハビリテーションセンター,*3神戸学院大学総合リハビリテーション学部

【緒言】脳卒中後失語症患者は言語機能の障害によりコミュニケーションが困難となる.そのため,従来の口頭で報告する疼痛評価は難しく,失語症患者の疼痛を評価する標準化された方法は確立されていない.一方,近年,コミュニケーション障害を有する認知症患者において疼痛行動を客観的に観察する疼痛評価法が使用されており,脳卒中後失語症患者においても有用な疼痛評価法となる可能性がある.そこで本研究は,疼痛行動観察評価を用いて脳卒中後失語症患者がどのような非言語的表現によって疼痛を表出するのかを調べ,疼痛行動観察による非言語的評価の有用性を検討した.

【方法】脳卒中患者72名を対象に,失語症(AP)群45名と非失語症(NA)群27名に分類し,疼痛行動観察評価(APS),自覚的疼痛強度(NRS),失語症の重症度(AQ)を評価した.

【結果】APS 3点以上の者はAP群では47%(21/45名),NA群では22%(6/27名)であり,NA群の中でNRS 1以上の者は48%(13/27名)存在した.また,APS下位項目では,AP群は声をあげる,表情,ボディランゲージの変化,身体的変化において項目特性曲線が直線的に増加する傾向を示し,特に表情の項目で最も大きな傾きを示した.一方,NA群では全ての項目で傾きを示さなかった.

【考察】脳卒中後失語症患者では声をあげる,表情,ボディランゲージの変化などの非言語的な表現で疼痛を表出する傾向を示し,非失語症患者では行動ではなく言語的に疼痛を表出する傾向を認めた.脳卒中後失語症患者では,疼痛行動観察を用いた非言語的疼痛評価が有用であり,特に表情に着目することで蓋然性が高い疼痛評価となることが示唆された.

D–3 高齢骨折術後患者の術後痛に影響する運動イメージ・タイプ

山口修平*1,2 下 和弘*3 大賀智史*3 松原貴子*2,3

*1済衆館病院リハビリテーション科,*2神戸学院大学大学院総合リハビリテーション学研究科,*3神戸学院大学総合リハビリテーション学部

【緒言】慢性疼痛患者の運動イメージ(motor imagery:MI)能力低下について報告されているが,近年,急性・亜急性期の術後痛においてもMI能力との関係性が指摘され始めている.しかし,MI能力には多面性があり,心的時間(mental chronometry:MC),心的回転(mental rotation:MR),鮮明度(kinesthetic and visual imagery questionnaire:KVIQ)などで評価されるが,亜急性期の術後痛の重症度やその改善経過とこれらMI能力との関係性を詳細に検討した報告はない.そこで本研究では,高齢の大腿骨骨折患者の術後痛とMI能力との関係性について多面的かつ縦断的に検討した.

【方法】対象は回復期リハビリテーション病棟に入院中の大腿骨近位部骨折術後患者59名(年齢80.7±9.5歳,男性=10名,女性=49名)であった.評価は歩行時痛(numerical rating scale:NRS),身体能力(timed up and go test:TUG),MI能力として,上・下肢MC,手・足部MR,鮮明度(KVIQ)を入・退院時に測定した.さらに,NRSと各評価項目の入院時および入・退院時の変化量を算出し相関を調べた.

【結果】NRS,TUG,下肢MCは退院時に有意に改善したが,上肢MC,手・足部MR,KVIQに有意な変化は認められなかった.また,入院時および入・退院時変化量(入院時/変化量)ともNRSとの間にTUG(rs=0.64,p<0.001/rs=0.43,p<0.01),下肢MC(rs=0.52,p<0.001/rs=0.56,p<0.001)で有意な正の相関を認めた.

【考察】回復期リハビリテーションにおける高齢の大腿骨近位部骨折術後患者では,術後痛の軽減とともに身体能力と下肢MCの改善を認めた.また,術後痛の重症度やその改善経過は罹患部である下肢MCと有意な相関を認めたことから,MI能力の中でも特に罹患部のMCが術後痛に関係する可能性が示唆された.

D–4 刺激過敏を有する足部痛患者におけるAδ線維の痛覚閾値に関する検討

柴田由加*1 中楚友一朗*2,3 中山享之*4 牛田享宏*2,3

*1愛知医科大学メデイカルクリニック,*2愛知医科大学運動療育センター,*3愛知医科大学医学部学際的痛みセンター,*4愛知医科大学病院中央臨床検査部

【目的】刺激に対して過敏に反応し,強く痛みを訴える症例は臨床上問題となりやすい.したがって,痛みを過度に表出する患者層の痛覚伝達メカニズムを明らかにしていくことは重要である.今回,われわれは足部痛患者の病態分析目的に電気生理学検査を実施している中でみられた検査の刺激に対して強く痛みを訴える足部痛患者群(刺激過敏群)と健常者との痛覚閾値の比較検討を行った.

【対象・方法】足部痛を主訴として当院を受診した患者の中で,明らかな神経疾患がなく,検査時に通常では痛みとして感じない10 mA以下の電気刺激で強く痛みを訴える患者を刺激過敏群とした.対象は,刺激過敏群6名,健常群20名.年齢,性別,BMI,表皮内痛覚閾値検査(PINT検査)を評価した.PINT検査の結果は,短趾伸筋上に表皮内刺激電極を貼付し微小電流刺激装置PNS-7000を用いて表皮内Aδ線維神経末端に刺激を与え,被検者が電気刺激を感じた最も弱い電流値を痛覚閾値とした.統計学的解析には,SPSSを用いてMann–Whitney U testを行い,p<0.05で有意差ありとした.

【結果】刺激過敏群の痛覚閾値(平均±標準偏差)は0.34±0.33 mA,健常群は0.16±0.07 mAであり,有意に痛覚過敏群の閾値が高かった.

【考察】刺激過敏群は,痛みを強く訴えるが,Aδ線維における痛覚はむしろ鈍化している傾向がみられた.すなわち,弱い刺激が分かることが刺激に対して過敏であるというものではないことが示された.このような現象はアロディニアを示す患者が,アロディニア周囲の領域において,感覚低下を示すことと類似しているものと考えられる.

■一般演題E

E–1 オンライン環境での共感による鎮痛効果―共感者と被共感者の関係性に着目して―

城 由起子*1,2 笠松竜太朗*1 澤木亨輔*1 野田菜月*1

*1名古屋学院大学リハビリテーション学部,*2愛知医科大学医学部学際的痛みセンター

【目的】共感は痛みを軽減させることが報告されている.一方,新型コロナウイルス感染症の影響によりオンライン診療が急速に広がっているが,われわれは昨年の本学会において,オンラインでの共感では鎮痛効果は得られないことを報告した.そこで,オンラインによる共感でも対面と同等の鎮痛効果を得るための方法について,共感者と被共感者の関係性に着目し,両者の関係性を強化することによる鎮痛効果を検討した.

【方法】対象は健常成人80名とし,共感しない対照群20名,オンラインシステムを介して共感するオンライン群20名,共感者と対象者の関係性を強化させる条件付けをした上でオンラインでの共感をする条件オンライン群40名に分類した.全ての対象は,10℃の冷水に手部を1分間浸漬し,その疼痛強度をVASで測定する課題を1週間以上の間隔をあけて2回行った.オンライン群と条件オンライン群は2回のうちどちらか1回は冷水浸漬中15秒間隔で共感を行った.副次的指標として主観的共感度,痛みの自己効力感と破局的思考,状態特性不安を測定した.条件付けはShimada Sら(2010)の報告を参考とし,対象者は2名一組となり,じゃんけんをする実験者どちらか1名をそれぞれ応援した.じゃんけんはどちらかが6勝するまで行い,応援していた実験者が勝った場合には報酬を与えることを伝えた.対象者2名のうち,応援していた実験者が勝った者を条件オンライン群の対象とし,応援されていた実験者が共感を行った.なお負けた方を応援していた者は除外した.

【結果】疼痛強度は対照群とオンライン群では2回の課題間で変化しなかったが,条件オンライン群では共感により有意に減弱し,その変化量も他の2群に比べ有意に大きかった.副次的指標は3群間で差はなかった.

【結論】共感者と被共感者の関係性を強化することで,オンラインでの共感であっても鎮痛効果が得られることが示唆された.

E–2 運動中の経皮的電気神経刺激補助により,長期的にホームエクササイズの実施が可能であった慢性膝痛高齢者の1例

中楚友一朗*1,2 西須大徳*1,2 宮川博文*1 寺嶋祐貴*1,2 尾張慶子*2 新井健一*1,2 牛田享宏*1,2

*1愛知医科大学運動療育センター,*2愛知医科大学医学部学際的痛みセンター

【はじめに】慢性膝痛は身体活動性を低下させ,要介護リスクを高める愁訴であり,超高齢社会において喫緊の課題である.慢性膝痛の管理上,運動は有効であるが,運動時痛により導入・継続に難渋する場合がある.運動中の経皮的電気神経刺激(TENS)について,即時的に運動時痛緩和や歩行距離の延長が報告されており,運動の補助手段となる可能性があるが,長期使用の報告はない.TENS補助下でのホームエクササイズ(Home-Ex)を長期間実施できた症例を経験したため報告する.

【症例】60歳代女性.主訴:両膝痛.診断名:両変形性膝関節症(Kellgren-Lawrence分類:Grade2).

【経過】50歳代より膝痛あり.X−1年より膝痛管理目的で健康増進施設の利用を開始したが,運動時痛等により,運動アドヒアランスは不良だった.X年よりTENS補助下でのHome-Ex指導(週5日のTENS補助下での30分ウォーキング等)を開始した.TENSはひざ電気治療バンド®(オムロンヘルスケア社)を使用した.指導前,1カ月後,3カ月後に圧痛閾値(pressure pain threshold:PPT),QOL(Japanese Knee Osteoarthritis Measure:JKOM),運動機能(6分間歩行試験等)を評価した.右膝PPT(指導前:211 kPa,1カ月後:291 kPa,3カ月後:373 kPa),左膝PPT(204 kPa,277 kPA,406 kPa),JKOM(29,27,16),6分間歩行距離(520 m,625 m,635 m)と改善を認め,運動アドヒアランスは良好に保たれた.主観的使用感について,歩行・階段動作時に痛みが少なく行いやすいとの発言を得た.

【まとめ】慢性膝痛高齢者における運動時痛管理の補助手段としてTENSの長期使用の有用性が示唆された.

E–3 HIIT運動による鎮痛ならびに気分・認知機能改善に及ぼす影響

堂北絢郁*1 丹羽祐斗*1 常盤雄地*1 大賀智史*2 下 和弘*2 松原貴子*1,2

*1神戸学院大学大学院総合リハビリテーション学研究科,*2神戸学院大学総合リハビリテーション学部

【緒言】近年,短時間の高強度運動を間欠的に行う高強度インターバルトレーニング(high-intensity interval training:HIIT)要素を取り入れた運動が多岐にわたる身体諸機能を改善させることが報告されている.一方,運動誘発性鎮痛(exercise-induced hypoalgesia:EIH)や精神機能にHIITが及ぼす影響については散見される程度であり,HIITによる鎮痛メカニズムは不明である.そこで,HIITによる鎮痛効果を神経学的に検証し,気分・認知機能との関連性についても検討した.

【方法】若年健常者54名を対象に,安静座位条件とHIIT条件を無作為順に別日に実施した.安静座位は22分間の安静椅座位とし,HIIT条件は下肢ペダリング運動(70% heart rate reserve,4分間)と休息(2分間)で1セットとして計4セット実施した.鎮痛効果は大腿四頭筋と上腕二頭筋の圧痛閾値(pressure pain threshold:PPT)および痛みの時間的加重(temporal summation of pain:TSP),気分は主観的気分(visual analogue scale)とprofile of mood states(POMS),認知機能はtrail making test(TMT)-A・BとStroop課題を各介入前後に評価し,鎮痛効果と気分,認知機能の相関を調べた.

【結果】安静座位条件ではPOMSの全サブスケールの低減,Stroop課題の遂行時間が短縮した.一方,HIIT条件では両測定部位のPPT上昇,TSP減衰,主観的気分の鎮静感とPOMSの緊張−不安,抑うつ−落ち込み,怒り−敵意の低減,さらに高揚感,快感,身体的疲労の上昇を認め,全認知課題の遂行時間は短縮した一方,鎮痛効果と気分・認知機能に相関はなかった.

【考察】HIITによって全身の痛覚感受性低下と中枢性疼痛調節系を介する鎮痛効果が確認され,さらに気分・認知機能の改善も認めた.しかし,気分・認知機能ともに鎮痛効果との相互作用は認めず,HIITによる鎮痛効果には気分・認知機能変化の直接的な影響は少ない可能性が示唆された.

E–4 運動誘発性鎮痛の反応性とその予測因子の検討

丹羽祐斗*1 服部貴文*1 堂北絢郁*1 常盤雄地*1 大賀智史*2 下 和弘*2 松原貴子*1,2

*1神戸学院大学大学院総合リハビリテーション学研究科,*2神戸学院大学総合リハビリテーション学部

【緒言】運動誘発性鎮痛(exercise-induced hypoalgesia:EIH)に関する研究は多数報告されるようになり,その反応は運動部局所のみならず全身に現れることが明らかとなっている.従来,EIHは運動強度依存性と報告されてきたが,近年,低強度運動であってもEIHを認めるとの報告もある.一方で,健常者であってもEIH反応が乏しい者は一定数存在するが,EIH反応を決定づける因子は未だ明らかでない.そこで本研究では,若年健常者を対象に低強度運動によるEIH反応性とその予測因子について検討した.

【方法】対象は若年健常者75名とした.全対象に安静座位および低強度(30% heart rate reserve:HRR)の下肢ペダリング運動を各30分間,無作為順に実施した.各条件前後に大腿四頭筋(運動部)と僧帽筋(非運動部)の圧痛閾値(pressure pain threshold:PPT)と疼痛の時間的加重(temporal summation of pain:TSP)を測定した.また,二次解析として安静座位前後の僧帽筋PPTの測定誤差(standard error of measurement:SEM)を算出(16.5 kPa)し,低強度運動実施後にSEM以上に変化した者をEIH反応群(resEIH),SEM未満の変化だった者をEIH非反応群(nonEIH)とし,ベースライン特性を比較した.

【結果】安静座位では変化を認めなかったが,低強度運動実施後に両部位のPPTは上昇,TSPは減弱を認めた.また,SEMを基準にresEIH 40名とnonEIH 35名に分類され,ベースライン特性においてnonEIHはresEIHよりも両部位のPPTの低下を認めたが,TSPでは差を認めなかった.

【考察】今回の健常者を対象とした結果から,低強度運動であっても全身性にEIH反応を認め,その反応性にはTSPのような中枢感作指標よりもPPTのような痛覚感受性が影響することから,痛覚感受性が亢進している症例ではEIH反応性が低下する可能性が示唆された.

E–5 経皮的電気刺激によるノイズ刺激は侵害受容閾値を変化させるか

下 和弘 大賀智史 松原貴子

神戸学院大学総合リハビリテーション学部

【緒言】確率共鳴現象とは,感覚閾値下のノイズ刺激を生体に加えることで感覚刺激入力シグナルが増幅し,感覚閾値が低下する現象である.これまで,微小な振動刺激によって触覚閾値が低下することが知られている.物理療法でよく用いられる経皮的電気刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS)はAβ線維に入力されることから,振動刺激と同様に確率共鳴現象を生じることが予想される.また,アロディニアを呈する患者では疼痛部位の触覚閾値が上昇していることがあり,このような表在感覚の異常が疼痛症状に関連する可能性が考えられる.そこで本研究では,TENSによるノイズ刺激によってAβ,Aδ,C線維の閾値が変化するかを調べ,TENSによる確率共鳴現象および触覚閾値の変化が侵害受容閾値に与える影響を検討した.

【方法】対象は健常成人21名とした.TENS装置(Trio-300,伊藤超短波)を用いて,利き手側正中神経にノイズ刺激を加えたとき(noise条件)と電極を貼付するのみでノイズ刺激を付加しないとき(control条件)のAβ,Aδ,C線維の電流知覚閾値を測定した.ノイズ刺激は周波数200 Hz,パルス幅50 µsとし,電流強度は感覚閾値の80~90%に設定した.各神経線維の電流知覚閾値はニューロメーター(Neurometer CPT/C,Neurotron)を用いて利き手側母指球にて測定した.

【結果】各神経線維の電流知覚閾値(noise条件/control条件)は,Aβ線維が1.18/1.23 mA,Aδ線維が0.42/0.42 mA,C線維が0.37/0.33 mAで,Aβ線維でのみnoise条件がcontrol条件と比べて有意に閾値が低かった.

【考察】TENSによるノイズ刺激によって,触覚や振動覚を伝えるAβ線維の閾値が低下することが明らかとなった.TENSによるノイズ刺激が確率共鳴現象によって選択的にAβ線維の閾値を変化させたと考えられる.一方,健常者においては今回の触覚閾値の変化量では侵害受容閾値に与える影響はほとんどないことがうかがえた.

■一般演題F

F–1 新型コロナワクチン接種に伴う副反応との鑑別が必要となった薬剤過敏性肺臓炎の1症例

早渕光代 竹内健二 松田修子 松木悠佳 重見研司

福井大学麻酔科蘇生科

【症例】59歳男性.

【現病歴】X−1年8月,他院にて夏型過敏性肺臓炎の診断でステロイド治療中,帯状疱疹を発症.X年6月,疼痛治療目的に当院ペインクリニック外来を紹介.当外来にて内服と眼窩上神経ブロックを併用し経過しつつ,東洋医学的診断にて表熱実証,水滞と診断し,X年6月24日,越婢加朮湯エキス7.5 g/日を追加処方した.自覚症状に変化なく,X年7月29日,黄連解毒湯エキス7.5 g/日に変方した.X年7月30日,近医にて新型コロナワクチン(ファイザー社製)2回目接種.X年8月2日,悪寒を自覚.翌8月3日,38.7度の熱発が出現し,当院総合診療外来を受診.COVID-19抗原検査陰性を確認し帰宅するも,体動時の息切れを自覚するようになった.X年8月4日,当院ペインクリニック外来定期受診.問診で息切れの訴えを聴取し,SpO2を測定したところ91%(room air)と低酸素血症を認めたため,その日のうちに当院呼吸器内科を紹介受診.胸部CTでびまん性の間質性肺炎像を認め,即日入院となった.

【治療経過】検査の結果,LDH 424 U/L(基準値124~222)と上昇しており,薬剤過敏性肺臓炎と診断.黄連解毒湯(オウゴン)が被疑薬として挙がった.黄連解毒湯を中止しステロイドパルス療法を施行.ステロイドパルス療法により呼吸器症状および検査所見は改善.8月28日退院となった.

【考察】海外からの報告では,新型コロナワクチン接種後に帯状疱疹の再活性化が生じることが報告されており,新型コロナワクチン接種により免疫系に何らかの影響が出ることが示唆される.また,漢方薬投与に伴う間質性肺炎の発生にも何らかの免疫系の過敏性反応が関与していることも示唆されている.薬剤誘発性肺臓炎を誘発する可能性が考慮される薬剤への処方変更にあたっては,免疫系への影響を考慮し,新型コロナワクチン接種時期の設定には注意が必要と思われ,文献的考察を加え報告する.

F–2 「地域総活躍社会のための慢性疼痛医療者育成事業」オンライン開催について―参加者アンケート結果から―

尾本朋美*1 牛田健太*1,2,4 上條史絵*1,3 向井雄高*4 横地 歩*1,4 丸山淳子*1,5 丸山一男*1,4,6

*1三重大学医学部附属病院麻酔科,*2三重大学大学院医学系研究科リハビリテーション医学講座,*3鈴鹿医療科学大学保健衛生学部,*4三重大学医学部附属病院痛みセンター,*5鈴鹿医療科学大学医用工学部,*6三重大学大学院医学系研究科麻酔集中治療学講座

【はじめに】三重大学と鈴鹿医療科学大学では,文部科学省課題解決型高度医療人材育成プログラムに採択された「地域総活躍社会のための慢性疼痛医療者育成事業」を2016年度より展開し,補助期間が終了した2021年度以降も継続している.2019年度までは対面式で行ってきたが2020年度からはCOVID-19対策として,講義・ワークショップ(以下,WS)共にオンライン開催としている.今回は,参加者のアンケートをもとに対面式とオンライン開催での比較と今後の課題について検討する.

【対象と方法】三重大学は医学科と看護学科,鈴鹿医療科学大学は薬学部,看護学部,理学療法学専攻,作業療法学専攻,鍼灸サイエンス学科,医療栄養学科,医療福祉学科,医用工学部の学生が対象で1年次後期に15回の講義と2年次夏季に3日間のWSを行う.多職種の教員が講義を担当し,専門性の高い講義を他学科学生にも分かるように行っている.WSは対面式では腹診体験,鍼や灸に触れる体験,二人一組でのストレッチなど五感を使った体験が中心であったがオンラインではこれらは実施できなかった.慢性疼痛の模擬患者への援助策を多専攻で構成されたグループで検討したがこれはオンラインでも行った.WS参加者アンケート結果を日別,3日間全体で集計し,2019~21年度間で比較した.

【結果】2021年度はWS参加人数の増加(45~62人から123人へ)に伴い参加教員も増員した.アンケートから3年度とも参加者の満足度は高かった.

【考察・結語】WSのオンライン開催により体験型学習は困難になり,代わりにセルフストレッチングなど1人で身体を使う体験に重点を置いた.学生の満足度は下がると思われたが大きな変化はなかった.また,教員の増員に伴い新たな課題も明らかになった.オンラインでの開催が今後も続くと考えられ,今回の反省を活かしつつさらに事業を継続していきたい.

F–3 当院いたみセンターに紹介された慢性痛患者像の把握と多職種介入内容の検討

酒井美枝*1,2 杉浦健之*1,2 永田富義*2,3 青木晃大*2,3 山本恵美子*4 近藤真前*2,5

*1名古屋市立大学大学院医学研究科麻酔科学・集中治療医学,*2名古屋市立大学病院いたみセンター,*3医療法人孝友会孝友クリニックリハビリテーション部,*4名古屋市立大学病院看護部,*5名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学

【はじめに】当院いたみセンターは,学際的痛み診療を提供する拠点病院の一つとして慢性痛患者を受入れている.本調査では,当科に紹介された患者像と,実際に提供した多職種介入を整理し,各患者像にあった介入が提供できているか評価することを目的とする.

【方法】2021年4~6月,当科への紹介患者20名を対象とした.診療録から①紹介元,②慢性痛診断(ICD-11),③器質的・精神心理的要因レベル,④学際的痛み診療の関与,を後ろ向きに調査した.なお③の分類判定にはK-S要因ツール(e.g.,青野,2019)を用いた.学際的痛み診療の関与は,当科のペインクリニック,精神科,理学療法,心理,看護の介入の有無で判定した.

【結果】①県外2名を含む13名が院外,7名は院内からの紹介であった.診療科は内科(4名),整形外科,ペインクリニック,脳外科,歯科(各3名)からが多かった.②慢性一次性疼痛(13名)が最も多く,慢性術後および外傷後疼痛,慢性二次性筋骨格系疼痛,慢性神経障害性疼痛(各2名)が続いた.③対応すべき医療機関分類は,「プライマリ・ケア」(1名),「器質的疾患を扱うクリニック・高度医療機関」(5名),「精神心理的疾患を取り扱うクリニック・高度医療機関」(0名),「集学・学際的介入が必要」(12名),その他(2名)であった.④5名が初診終診で,15名が継続の方針となっていた(2名受診せず).K-S分類で「集学・学際的介入」が必要とされた12名は2~4職種の介入が行われていた.

【結語】半数以上の患者が「集学・学際的介入が必要」に分類され,そのほとんどに多職種介入が行われていた.一方,集学・学際的介入の必要性が少ない患者,特に「器質的疾患を扱うクリニック」での介入が必要とされる患者も多く紹介されてきており,早期に専門治療へつなげる対策が必要と考えられた.クリニック等での多角評価の可能性にも触れる.

F–4 デュロキセチンによる薬剤性SIADHが疑われた1症例

山口 忍 吉村文貴 中村好美 杉山陽子 操 奈美 田辺久美子 飯田宏樹

岐阜大学医学部附属病院麻酔科疼痛治療科

【はじめに】薬剤性SIADH(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone;バソプレシン不適切分泌症候群)は,薬剤が視床下部の室傍核・視上核のバソプレシン(AVP)産生細胞を直接刺激してAVPの不適切分泌を惹起する病態である.SIADHを惹起する薬剤にはさまざまなものがあり,慢性疼痛治療で使用される薬も含まれている.今回われわれは,デュロキセチンが原因と思われるSIADHを発症した症例を経験したので報告する.

【症例】70代男性.既往歴:梨状陥凹がん(現在治療終了).帯状疱疹後神経痛に対してプレガバリン,ミロガバリン,トラマドールなどの神経障害性疼痛治療薬を処方したが痛みが軽快せず,デュロキセチン20 mg/日を処方した.内服7日後に意識消失,転倒し近医に救急搬送となった.心電図および頭部CTでは異常なく,血清Na 116 mEq/Lと著明な低ナトリウム血症がみられた.生理食塩水の点滴を行ったが血清Na濃度は回復せず,デュロキセチンによるSIADHの可能性を考え入院5日目にデュロキセチンを中止したところ,血清Naの上昇がみられ,入院10日後には正常範囲内まで回復した.入院時採血ではADHが高値でありSIADHを疑う所見であった.さらにその2カ月後,入浴時に突然左下肢脱力が出現し,再度救急搬送となった.精査で右慢性硬膜下血腫が判明したが,幸い血腫量が少なく保存的加療のみで症状改善し退院となった.原因として2カ月前の転倒,頭部打撲の可能性が高いと考えられた.

【考察】デュロキセチンに関しては,国内安全性評価対象例において,低ナトリウム血症の頻度は0.19%,SIADHの発症頻度は不明とされている.デュロキセチンの薬剤性SIADH例は症例報告がいくつかあるのみでまれなものであるが,症状が非特異的であることから見逃されている可能性もあり,注意すべき病態であると考えられた.

F–5 ペインクリニック外来での禁煙治療

川瀬守智 川瀬治美

金山ペインクリニック

【背景】当院では,開院時より「痛みの治療と予防」をコンセプトに,ペインクリニックの診療と痛み(がんなど)の原因となり得る禁煙治療を行ってきた.また,神経ブロックの多くは血流改善も視野に入れた治療であり,喫煙による組織の血流低下は治療の妨げになると考えている.今回,当院の禁煙治療の実際について過去6年間を振り返ったので報告する.

【目的】ペインクリニック外来で禁煙治療を行う意義を検討した.禁煙治療のみより,ペインクリニックでの通院により受診回数や成功率が増えるのではないかと仮定.

【方法】全体の来院患者あたりの禁煙治療患者の割合,禁煙治療を目的に来院した患者と,ペインクリニックで来院した患者で禁煙治療に至った患者の比較.

【結果】6年間の全体来院患者数は5,865人.そのうち禁煙治療を行ったのは179名であり,全体の3.05%にあたる.禁煙のみで当院を訪れた患者は149名,禁煙成功率(4週間以上の禁煙に成功)は28.18%,平均受診率(5回の受診が必要)は3.56回だった.ペインクリニックの治療を行いながら禁煙治療をした患者は30名,禁煙成功率は40%,平均受診率は4.07回だった.

【考察】喫煙は痛みに悪影響があり,また喫煙自体健康に良くない.医師として,禁煙のきっかけを作ることは大切であり,痛みの治療を同時に行うことで,より信頼関係の深い治療を行えることが禁煙成功率の増加につながったのではないかと思われる.

 
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