Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Early reimplantation of a spinal cord stimulation device due to lead breakage in a patient with morbid obesity (body mass index: 47.8): a case report
Tomoyuki MATSUMOTOToru SHIRAITatsushige IWAMOTOKeiji UEHARAShinichi NAKAO
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2022 Volume 29 Issue 7 Pages 169-172

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Abstract

高度肥満患者に対する脊髄刺激療法中,術後1カ月で断線のため再留置を余儀なくされた症例を経験した.49歳,男性.BMI:47.8.右脛骨骨折に対するギプス固定治療後も持続した右足部の痛みに対して硬膜外ブロック,オピオイド等の薬物療法が行われたが十分な効果が得られず,受傷3年後に当科を受診した.右足部の痛みに加えて浮腫とアロディニアを認めたため,複合性局所疼痛症候群の診断で脊髄刺激療法を行った.トライアルで効果を確認した後,永久植込みを行った.植込み1カ月後,突如通電不良となり,画像検査で断線が確認されたため,電極交換を行った.本症例は高度肥満があり,留置時の刺入角度が急峻となったこと,アンカー中枢端が筋膜外に突出しリードに過剰な負荷がかかったことが断線の原因と考えた.再植込み時にアンカー中枢端を筋膜内へ確実に固定したことにより,以降順調な経過を得ている.

Translated Abstract

We report a patient with morbid obesity in whom pulse generator reimplantation was necessitated by lead break during spinal cord stimulation (SCS) 1 month after its initiation. The patient was a 49-year-old male. For pain of the right foot due to right tibial fracture, which persisted even after cast immobilization, epidural block and analgesic therapy using opioids, were performed, but the effect was unsatisfactory, and the patient consulted our department 3 years after the injury. Since edema and allodynia were observed in addition to pain of the right foot, SCS was performed with a diagnosis of complex regional pain syndrome. A permanent pulse generator was implanted, but it was suddenly de-energized 1 month after the implantation, and as lead breakage was confirmed, the device was replaced. The patient had morbid obesity, and lead breakage is considered to have been caused by excessive load exerted on the lead, as the electrode had to be inserted at a sharp angle, and as the proximal end of the anchor protruded out of the fascia. By confirming that the proximal end of the anchor was fixed inside the fascia at the time of reimplantation, an uneventful course was obtained thereafter.

I はじめに

脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)の合併症発生率は30~40%と報告されているが,重篤なものはまれである1).装置に関連した合併症が多く,位置移動や植込み型パルス発生装置(implantable pulse generator:IPG)の脱出,断線などが報告されている1)

本症例は,高度肥満患者のSCS治療中,断線に至ったが再植込み時に刺入角度やアンカー固定を工夫したことで良好な経過を得ている.

II 症例

49歳,男性.170 cm,138 kg(BMI:47.8).X年10月,歩行中の交通外傷で右脛骨を骨折して,約1カ月間のギプス固定を行った.ギプス治療後も右足部の痛みが持続したため,前医では硬膜外ブロックやオピオイド等の薬物療法が行われたが十分な効果を得られず,X+3年5月に当科受診となった.初診時,ブプレノルフィン貼付剤(10 mg)を使用していたが,安静時痛に加え動作時に痛みが増強するため,歩行時には杖を必要とした.右足部は浮腫状で冷感を伴い,アロディニアが存在し,複合性局所疼痛症候群と診断した.既往歴は睡眠時無呼吸症候群と糖尿病が存在した.

III 治療経過

硬膜外ブロック(0.4%メピバカイン10 ml)で効果を確認して,SCSサージカルトライアルを行った.高度肥満患者のため,皮下脂肪の厚さを考慮し長めのTuohy針(14G/152 mm)を準備した.第1~2腰椎椎間からの穿刺は,皮下脂肪の厚さのため角度を大きくする必要があった.リード(OctrodeTM 60 cm)先端を第10胸椎上縁に留置し,刺入部に約7 cmの切開を入れてアンカーを固定した.良好な刺激感と安静時痛の軽減を確認して,1週間後にIPG(Proclaim Elite 5)を臀部へ植込んだ.術1カ月後に突如通電不良となり,全電極の抵抗値の上昇から断線を疑った.画像検査(図1)で断線を確認できたため再植込み術を予定した.

図1

胸腰椎X線検査画像

X線検査でリードの不連続性を確認できた.

術中透視で断線部を確認し,前回の創部を切開して断端部の表出を試みたが困難であった.末梢端を慎重に牽引するとリード全体が一塊として動き,連続性の保持が確認できたため,そのまま牽引することにより抜去できた.破損部はアンカー中枢側に一致した圧痕部に存在した.断線部位はリード先端から約17 cmに位置し,約2 cm破損していた.外部に破損はなく内部のみに断線を認めた(図2).

図2

リード断線像(上:全体像,下:拡大像)

リード先端から約17 cmの位置に屈曲点を認め,剪断力が働いたことにより約2 cmにわたって内部導線の完全断線を認めていた.この部分には強い屈曲を生じ過剰な負荷がかかったものと考えられた.断線部位から約2 cmの位置には圧痕を認めていた.アンカー中枢端とリードの圧痕までの部分は,アンカー中枢端が筋膜外へ固定されていたために,アンカー中枢端と筋膜とのリード部分が露出したと考える.

再挿入時は第1~2腰椎椎間から約40度の角度で穿刺してリード先端を第9胸椎上縁に留置した(図3).切開創でアンカー中枢端が筋膜内へ固定できたのを確認してIPGと接続し植込んだ.SCSは2年経過した現在も良好な治療効果を得ている.

図3

再挿入時の術野所見

断線部分のリードを取り除くために再挿入時は約8 cmの皮膚切開を行った.再穿刺時はこの切開創より15 cm Tuohy針を穿刺したが,完全に皮下へ埋もれているのが分かる.本症例のように皮下脂肪の厚い肥満患者に対して穿刺を行う場合は,穿刺角度を想定し切開を先行する必要がある.

IV 考察

SCSの合併症に関して,Cameron1)は位置ずれ13.2%,断線9.1%と報告,Nagyら2)は位置ずれ22.6%,接続不良9.5%,断線6%と報告している.Kumarら3)やHendersonら4)は断線の原因を,「挿入時の刺入角度」と「アンカー先端の位置」に重点を置いて報告している.「挿入時の刺入角度」はTuohy針の穿刺角度を45度以下にすることで,操作を容易にできる3).「アンカー先端の位置」は,アンカー中枢端が筋膜内に植込まれていることが重要である3).アンカー中枢端が筋膜外にある場合,筋膜とアンカー部分に過剰な負荷がかかって断線の危険性が高まるが,アンカー中枢端が筋膜内に植込まれている場合,アンカー部分への負荷が緩和される(図43).Kumarら3)の報告はHendersonら4)の実験に基づいている.Hendersonら4)はアンカー中枢端に関して,「筋膜外に固定した場合」と「筋膜内に植込んだ場合」を比較した.筋膜内に植込んだ場合,筋膜外に固定した場合と比較して,リードを含むアンカー中枢端と筋膜の間で形成される円弧から算出された半径が大きくなるため,断線に至る平均時間を60倍にできると報告した(図5).

図4

アンカー中枢端の挿入部位(文献3を改変)

筋膜内にアンカー中枢端が固定されていない場合(A),リードが屈曲してその部分へ負荷がかかりやすくなり,リードの断線につながるため注意が必要である.

アンカー中枢端が筋膜内に埋め込まれている場合(B),筋膜とアンカー部分に無理な屈曲が生じにくいため,アンカー中枢端が筋膜内に埋め込まれていることが重要である.

図5

リード固定のシミュレーション(文献4を改変)

(A):アンカー中枢端を筋膜外に固定した場合,リードの円弧(a)部分から算出される半径が小さくなる.

(B):アンカー中枢端を筋膜内に埋め込んだ場合,リードの円弧(b)部分から算出される半径が大きくなる.

リードを含むアンカー中枢端と筋膜の間で形成される円弧から算出された半径が大きくなることで,断線に至る平均時間を60倍にできる.

本症例は穿刺角度を45度以下に保持することが困難であったため,アンカー中枢端が筋膜外に突出しリードを含むアンカー先端と筋膜の間で形成される円弧の半径が小さくなったことで負荷がかかり,断線に至った.術野確保と穿刺角度保持のために,再挿入時に皮膚切開を先行することで,45度以下の穿刺角度保持を可能にし,アンカー中枢端を筋膜内へ植込むことも可能にして,リードへの負荷も軽減したことで,以降問題なく経過している.

V 結語

高度肥満患者では皮下脂肪の厚さを考慮し,先に創部切開を行い,穿刺角度を45度以下に保ち,アンカー中枢端を筋膜内へ固定することが肝要である.

本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第55回大会(2021年7月,富山)において発表した.

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