Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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A case of bladder and rectal disorder associated with herpes zoster in the sacral region: the occurrence after the caudal epidural block
Mayu TOKUNAGAKeiko MIYAHARATetsuya KAI
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2022 Volume 29 Issue 9 Pages 206-209

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Abstract

症例は78歳,男性.仙髄領域の帯状疱疹後神経痛の診断で紹介受診し,疼痛管理目的で仙骨硬膜外ブロックを行ったところ,3日後に尿閉と排便障害が出現した.硬膜外ブロックの合併症の可能性も考慮したが,硬膜外ブロック直後には排尿が可能であったことと,腰椎硬膜外血種を認めなかったことから,帯状疱疹に合併した膀胱直腸障害と考えられた.膀胱直腸障害は患者の生活の質を著しく低下させるため,仙髄領域の帯状疱疹は膀胱直腸障害を合併する可能性があることを認識し,そのことをあらかじめ患者に説明しておく等,注意して診療すべきである.

Translated Abstract

A 78-year-old man diagnosed as having postherpetic neuralgia in the sacral region complained of urinary retention and defecation disorder 3 days after undergoing the caudal epidural block for the purpose of pain management. We initially assumed that the disorder was associated with the caudal epidural block. However, we concluded that it was associated with herpes zoster in the sacral region because he could urinate soon after caudal epidural block and developed no hematoma in the lumbar epidural space. We should be aware and inform patients that herpes zoster in the sacral region can cause bladder and rectal disorder because it reduces quality of life of patients remarkably.

I はじめに

帯状疱疹後神経痛は神経障害性疼痛の代表的疾患である.疼痛コントロールに難渋することが多く,薬物療法のみでコントロールできない場合には神経ブロックを依頼されることがある.一方,まれではあるが,仙髄領域の帯状疱疹は膀胱直腸障害を合併する可能性がある1).今回,仙髄領域の帯状疱疹後神経痛という診断のもとに施行した仙骨硬膜外ブロック後に膀胱直腸障害が出現し,患者に硬膜外ブロックの合併症ではないかとの疑念が生じたが,考察の結果,帯状疱疹に合併した膀胱直腸障害と考えられた1例を経験したので報告する.

II 症例

症例は78歳,男性,身長169 cm,体重57.0 kg.肝細胞がんと膵頭部がんの既往があり,九州医療センター(以下,当院)肝臓外科に通院中であった.第1病日に左臀部から大腿部にかけての疼痛が出現したが,この時点では原因不明であり,経過観察となっていた.第12病日に皮疹が出現したため,第13病日に当院皮膚科を受診した.左臀部,大腿部,下腿,足背に痂皮を伴う丘疹と紅斑を認め,右下腿内側に膿疱を数個認める皮膚所見から,帯状疱疹と診断された.バラシクロビル3,000 mg/日を投与され,第20病日に皮疹は消退した.疼痛に対してはロキソプロフェン120 mg/日とプレガバリン150 mg/日を投与されていたが,皮疹消退後も持続するため,第41病日にKMペインクリニック(以下,当クリニック)を受診した.帯状疱疹後神経痛と診断し,仙骨硬膜外ブロック(0.25%レボプピバカイン8 ml)を行ったところ,疼痛はnumerical rating scaleで10から3まで改善したが,第44病日に発熱,尿閉,排便障害が出現したため,かかりつけである当院肝臓外科に入院した.

入院時の身体所見として37.3度の発熱と両側後背部の叩打痛を認め,直腸診では球海綿体筋反射の消失を認めた.尿検査では膿尿を認め,超音波検査では残尿による膀胱の緊満と前立腺肥大を認めた.骨盤部CTでは腰椎硬膜外血種は認めなかった.膀胱直腸障害による腎盂腎炎と診断され,泌尿器科併診の上でレボフロキサシンの投与,前立腺肥大に対するタムスロシンの投与,尿閉に対する自己導尿が開始された.腎盂腎炎は問題なく治癒し,第65病日に自宅退院したが,膀胱直腸障害は遷延し,自己導尿の継続を要した.退院後は当クリニックにて経過観察を行い,第111病日に排便障害の改善を認め,第139病日に尿意を自覚できるようになり,第293病日に自尿を認めるようになった.臨床経過のまとめを図1に示す.仙骨硬膜外ブロック後に膀胱直腸障害が出現しており,患者に硬膜外ブロックの合併症ではないかとの疑念が生じたが,硬膜外ブロック直後には排尿可能であり,3日後に症状が出現したことと,腰椎硬膜外血種を認めなかったことから帯状疱疹に合併した膀胱直腸障害と考えられることを説明し,理解が得られた.なお,診療情報を匿名化した上で症例報告として公表することについての同意は患者から取得済みである.

図1

臨床経過

III 考察

帯状庖疹関連痛は前駆痛,急性帯状庖疹痛,帯状庖疹後神経痛に分類される2).前駆痛は皮疹が発現する前,急性帯状庖疹痛は皮疹が発現している時,帯状庖疹後神経痛は皮疹が消退した後に生じる痛みである2).前駆痛と急性帯状庖疹痛は主に侵害受容痛であり,帯状庖疹後神経痛は神経障害痛である.前駆痛と帯状疱疹痛ではアセトアミノフェンまたは非ステロイド性抗炎症薬による対応が可能なことが多い2).帯状疱疹後神経痛の治療にはプレガバリン,三環系抗うつ薬,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出物質,オピオイド鎮痛薬が用いられ,2019年にはミロガバリンが承認された3).疼痛コントロールに難渋することが多く,薬物療法のみではコントロールできない場合には神経ブロックを依頼されることがあるが1),有効性を証明するエビデンスレベルの高い研究は存在せず,効果と安全性に十分配慮する必要がある4)

本症例は当初,皮疹が消失したにもかかわらず,疼痛のみが残存したために帯状疱疹後神経痛の診断となった.仙髄領域の帯状疱疹後神経痛に対して亜急性期に仙骨硬膜外ブロックを行ったところ,疼痛はnumerical rating scaleで10から3まで改善したが,3日後に膀胱直腸障害が出現した.硬膜外ブロック直後には明らかな合併症を認めず,患者は当クリニックから独歩で帰宅し,帰宅後には問題なく排尿可能であった.通常,レボプピバカインを用いて硬膜外ブロックを行った際には効果は15から20分で発現し,持続時間は3から6時間程度であるため,仮に膀胱直腸障害をきたすとしても,硬膜外ブロックから数時間以内に出現すると考えられる.また,腰椎硬膜外に血種を形成し,遅発性に膀胱直腸障害をきたす可能性はあるが,骨盤部CTで否定された.今回,硬膜外ブロックの後に膀胱直腸障害が出現したため,患者に硬膜外ブロックの合併症ではないかとの疑念が生じたが,上記の理由から硬膜外ブロックの合併症ではなく,帯状疱疹後神経痛に合併した帯状疱疹ウイルスによる膀胱直腸障害である可能性が高いと考えられた.ブロックを施行した時点では,皮疹は消退しており,疼痛は帯状疱疹後神経痛の病態によるものであると考えられた.しかし,患者に膀胱直腸障害をきたしたことから,結果的に帯状疱疹ウイルスの活性が残存する帯状疱疹後神経痛への移行期であったと考えられた.

仙骨硬膜外ブロック後の排尿障害の報告は見当たらなかったが,帯状疱疹ウイルスによる排尿障害は帯状疱疹の0.6%に合併したと報告されており,まれな合併症であるといえるが,同文献内でS2~4領域の帯状疱疹の27%が排尿障害を合併したとも報告されており5),仙髄領域に帯状疱疹が出現した場合には注意が必要である.高齢者では排尿障害が遷延しやすく,尿閉にまで至る割合が高いと報告されている6).排尿障害の出現時期については,皮疹に先行する場合,皮疹と同時に出現する場合,皮疹に遅れて出現する場合のいずれもあり得ると報告されている7).帯状疱疹ウイルスによる排尿障害の機序としては,水痘として初感染後,仙髄後根神経節に潜伏していた帯状疱疹ウイルスが再活性化し,遠心性に皮膚に到達して皮疹が出現するが,求心性に仙髄中間質外側核に到達して骨盤神経が障害されることと,仙髄Onuf核に到達して陰部神経が障害されることで排尿障害が生じると考えられている8).さらに,本症例では前立腺肥大の存在も排尿障害の出現に寄与していた可能性が高いと考えられる.帯状疱疹ウイルスによる排尿障害は自己導尿等の対症療法のみで数週間かけて自然治癒することがほとんどであるが9),本症例のように長期間にわたって遷延することもある10).炎症を抑える目的でステロイドを投与し,有効であったとの報告はあるが11),適応は症例ごとに慎重に検討する必要がある.本症例は肝細胞がんに対する抗がん剤を内服中であり,免疫抑制状態と考えられたため,ステロイドは投与しなかった.本症例のように排尿障害から二次性に尿路感染症を発症し,敗血症にまで至った報告もあり12),注意が必要である.一方,帯状疱疹ウイルスによる排便障害についての報告は少ないが13),排尿障害を合併した帯状疱疹の45.5%に合併したと報告されている8).治療は緩下剤の投与や摘便等の対症療法になるが,排便障害が排尿障害よりもさらに遷延し,鼠径ヘルニアの嵌頓を惹起した報告もある8)

本症例のように,患者に誤解を与えないためにも,仙髄領域の帯状疱疹は膀胱直腸障害を合併する可能性があることを認識し,仙骨硬膜外ブロックを行う前に患者に前もって病態により尿閉や排尿障害が生ずること,ブロックによる尿閉の場合は一過性であり,ブロック後早期に起きるということ,可逆性であることを患者に説明しておくことが重要である.昨今のコロナ禍において,筆者らは帯状疱疹患者の増加を実感しており,新型コロナウイルスに対するワクチン接種後に出現した皮膚反応の13.8%が帯状疱疹ウイルスの再活性化によるものであったとの報告もある14).帯状疱疹患者の増加に伴い,類似した症例に遭遇する頻度も高くなると考えられる.

IV 結語

仙髄領域の帯状疱疹後神経痛に対する仙骨硬膜外ブロック後に膀胱直腸障害が出現し,患者に硬膜外ブロックの合併症ではないかとの疑念が生じたが,考察の結果,帯状疱疹に合併した膀胱直腸障害と考えられた1例を経験した.皮疹は消失していたが,帯状疱疹後神経痛移行期であり,帯状疱疹ウイルスによる膀胱直腸障害と考えられた.膀胱直腸障害は患者の生活の質を著しく低下させるため,仙髄領域の帯状疱疹は膀胱直腸障害を合併する可能性があることを認識し,そのことをあらかじめ患者に説明しておく等,注意して診療すべきである.

本論文の要旨は,日本臨床麻酔学会第39回大会(2019年11月,軽井沢)において発表した.

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