Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2023 Volume 30 Issue 10 Pages 241-243

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I はじめに

慢性痛の集学的/学際的診療を提供する研究班集学的痛みセンター(痛みセンター)は,全国に40カ所ほど設置されている.厚生労働省慢性疼痛診療システム普及・人材養成モデル事業では,多職種診療の普及と均てん化,人材養成にあたっている.

名古屋市立大学病院いたみセンター(当科)では,地域の医療施設と連携しながら,年間100例ほどの慢性痛患者を受け入れている.ペインクリニシャン,精神科医,理学療法士,心理職,看護師等がチームを組み,ペインクリニック治療,リハビリテーション,心理療法,看護介入を組み合わせ,activity of daily livingやquality of lifeの向上を目指す.初診時には半日かけて診療するため枠を制限しており,待期期間が長い現状にある.そこで本調査では,当科に紹介された患者像と,実際に提供した多職種介入を整理し,患者像にあった介入が提供できているか評価する.

II 方法

2021年4~6月の間の当科への紹介患者20名を対象とした.診療録から,1)紹介元(院内外,県内外,診療科),2)International Classification of Diseases 11th Revisionによる慢性痛診断分類(7分類),3)器質的・精神心理的要因レベル,4)集学/学際的痛み診療の関与を後ろ向きに調査した.3)はK-S要因ツールを用いて,K要因を第二著者(ペインクリニシャン),S要因を第一著者(心理職)が判定した.これは,器質的要因(K)と精神心理的要因(S)を用いた多軸分類で,各要因の対応レベルを4段階(レベル0:ないかあっても臨床上問題とならない程度,1:プライマリ・ケア医が対応可能,2:専門医の介入が必要,3:専門医による高度な治療・管理が必要,4:専門医でも対応困難,多少の改善しか見込めない)で整理し,対応すべき医療機関を検討する1,2).4)は,ペインクリニシャン,精神科医,理学療法士,心理職,看護師による介入の有無で判定した(筆頭著者の所属の医学系研究倫理委員会から承認を得て実施).

III 結果

1. 紹介元

県外2名を含む13名が院外,7名が院内からで,内科,整形外科,ペインクリニック,脳外科,歯科が多かった.

2. 慢性痛診断分類

慢性一次性疼痛(13名)が多く,慢性術後および外傷後疼痛,慢性二次性筋骨格系疼痛,慢性神経障害性疼痛が続いた.

3. 器質的・精神心理的要因レベル

12名の患者が「集学/学際的介入が必要」に分類された.次いで「器質的疾患を扱うクリニック・高度医療機関」5名,「プライマリ・ケア医」1名,「専門家と連携し,社会的問題への対応も含めた介入が必要」1名,「精神心理的疾患を取り扱うクリニック・高度医療機関」0名,「その他」が1名であった(表1).

表1当科に紹介された慢性痛患者像の内訳

紹介元   慢性痛診断分類   器質的・精神心理的要因から推奨される
対応すべき医療機関
院内/院外 件数   7項目/診断なし 件数       件数
院内 7   MG30.0 慢性一次性疼痛 13   A・C プライマリ・ケア医 1
院外 13   MG30.1 慢性がん関連痛 0   B B1 器質的疾患を扱うクリニック 5
(うち県外2件)   MG30.2 慢性術後または外傷後疼痛 2   B2 器質的疾患を扱う高度医療機関 0
診療科 件数     D D1 精神心理的疾患を扱うクリニック 0
内科 4   MG30.5 慢性神経障害性疼痛 2   D2 精神心理的疾患を扱う高度医療機関 0
整形外科 3   MG30.6 慢性二次性頭痛または口腔顔面痛 0   E E1 複数の専門家の介入が必要 11
ペインクリニック 3     E2 専門家同士の密に連帯した介入が必要 2
脳神経外科 3   MG30.4 慢性二次性内臓痛 0   F 専門家と連携し,社会的問題への対応も含めた介入が必要 1
歯科口腔外科 3   MG30.3 慢性二次性筋骨格痛 2  
皮膚科 1   慢性疼痛診断なし 診断不能 1   その他(K:0,S:0) 0
精神科 1              
産婦人科 1              
血液内科 1              

4. 集学/学際的痛み診療の関与

5名が初診時に終診,15名が継続であった(2名受診せず).「集学/学際的痛み診療(E1/E2)」が必要とされた12名には,実際に2~4職種の介入が行われていた.他方で「器質的疾患を扱うクリニック」に分類された5名にも2~3職種の介入が行われていた(図1).

図1

当科に紹介された慢性痛患者の器質的・精神心理的要因レベルと集学/学際的痛み診療の関与の内訳

ぺ:ペインクリニシャン,精:精神科医,リ:理学療法士,心:心理職,看:看護師.

IV 考察

痛みセンターにはマンパワーの関係で待期期間が長くなる施設も存在し,当科もその一つである.本調査では,当科への紹介患者像を整理し,各患者像にあった介入が提供できているか評価した.

60%が「集学/学際的介入が必要」に分類,実際に「集学的/学際的介入」が行われており,痛みセンターでの診療が望ましい患者が紹介され,多職種介入できていた.一方,高強度の多職種介入が必要でない,「器質的疾患を扱うクリニック」で対応可能な患者も25%を占め,ペインクリニックの機能を求めて紹介されている他,精神科診療が必要ないレベルの心理社会面の関与が疑われての紹介も推測された.実際,「器質的疾患を扱うクリニック」に分類された患者には,低強度の心理介入が行われていた.したがって,精神−心理職のいないペインクリニック等において心理社会面を含めた多角的評価や低強度の心理介入が可能となれば,痛みセンターに紹介することなく診療継続できる患者が一定数いることが推測された.

そうした取り組みとして「心理職による出前のコンサルテーション」を行っている3,4).当科の心理職等が地域施設に訪問し,ペインクリニシャンや看護師,理学療法士等に,心理社会的評価,認知行動療法のエッセンスを伝え,症例検討を行っている.施設間を超えた交流により,痛みセンターと地域施設が効率的に分担・連携しつつ,適材適所で診療にあたることができると考える.

V 結語

半数以上が「集学・学際的介入が必要」に分類され,多職種介入が行われていた.一方,集学・学際的介入の必要が少ない者も紹介されており,心理社会的評価・介入の均てん化対策が必要と考えられた.

本稿の要旨は,日本ペインクリニック学会 第2回東海・北陸支部学術集会(2022年2月,Web開催)において発表した.

謝辞

牛田享宏先生,西原真理先生,青野修一先生,当科関係者,柳原尚先生に感謝いたします.

文献
 
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