Journal of Japan Society of Pain Clinicians
Online ISSN : 1884-1791
Print ISSN : 1340-4903
ISSN-L : 1340-4903
[title in Japanese]
[in Japanese][in Japanese]
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 30 Issue 11 Pages 269-270

Details

I はじめに

麻酔科医やペインクリニシャンは,緩和医療において重要な役割を担っている.緩和医療の臨床では生と死が交差するさまざまな場面に立ち会うことになり,医療者であっても感情が乱れ,虚無感に捉われてしまうことがある.筆頭筆者は,医療者同士が生と死について話し合うことが大切だと考え,1)卒前教育として,医学生と「生と死」を考える実習,2)卒後教育として,医療者を対象に「生と死」を考えるオンライン講演会を継続してきた1,2)

2023年2月に開催したオンライン講演会(図1)では,先に筆頭筆者が2022年度の実習で印象に残った医学生4名のプレゼンテーションを紹介し,次いでがん治療に積極的に関わっている血液内科医および小児科医に,自身の体験を基に「生と死」について話してもらった.本稿では,1)医学生4名のプレゼンテーションのまとめ,2)小児科医(准教授)の講演要旨を紹介する.

図1

金沢大学附属病院で「生と死」を考えるオンライン講演会のポスター

II 医学生4名のプレゼンテーションのまとめ

緩和医療の臨床で人を診る時には,身体と生活(社会面)とそれに伴う心理面だけでなく,人生観(人間観と死生観)とそれに伴う心理面にも対応することが必要です.人生において老病死は避けられないことですが,当人も家族もそれを受け入れることは難しく,気持ちが不安定になります.

医学生①が述べたように,医療者の役割は,死を目前にした患者や家族を不安定な気持ちから引っ張り上げることであり,引っ張り上げる側が一緒に悲しみに打ちひしがれているだけではいけません.とはいえ医学生②が臨床実習中の体験を述べたように,最終段階を迎えている方々に寄り添おうと思っても,自身の防御反応のためなのか,患者さんの気持ちを考えることや感情を受け入れることはとても難しく感じたというのは,多くの人に共通する正直な気持ちだと思われます.

ですから医療者は人の死に関して前もって学び,考えておくことが必要です.医学生③が指摘したように,医療者以外に死に対応する職種として聖職者(宗教家),葬儀関係者や小説家等があります.医師は,死際の状況のみから他者の感情を近視眼的に断定しやすいことを反省し,他職種の考え方から学ぶ必要があります.また医学生④が指摘しているように,自分自身の物差しだけで,他者の心を測ってはいけないことも意識しておかねばなりません.他者の気持ちを完全に理解することはできないことを自覚したうえで,他者のさまざまな経験に触れて想像力を働かせ,寄り添いをブラッシュアップすることが重要です.

III 小児科医の講演要旨:小児科医が子どもの死と向き合うこと

小児科医が子どもの死と遭遇する機会は非常に少ない.そもそも子どもの死はまれであり,重症疾患を取り扱う大学病院以外で子どもは亡くならないからである.私は小児血液悪性腫瘍学が専門であり,子どもの死に遭遇する機会は比較的多い.それでも看取った子どもの数は21年間で22人(ほぼ1年に1人)である.

わが子の死を迎える両親は,経過中にさまざまに葛藤し,その受容に時間を要する.小児科医は難治性疾患と対峙した際,いつまで,どれだけ治療を施すことが患児そして家族にとって最良なのか,答えのない悩みを抱えながら子どもの死を迎えることになる.一般的なグリーフケアは死後における家族への支援とされる.しかし「家族にとってのグリーフケア:医療の現場から考える」の著者である坂下ひろこさんは,「肝心なのは患者の生前や闘病中に,患者と家族のために手を尽くす医療行為そのものと,関わる医療者のあらゆる人間的配慮が,結果的に死別後の痛烈な悲嘆を根底で支えていく.」と述べている.すなわち日々の診療にグリーフケアが内在されているのだ.

患児や家族と濃密な時間を過ごす医療者にとっても,患児の死は限りなくわが子の死に近くなる.小児科医は1年に1人しか経験しない子どもの死に慣れることはない.慣れない死を毎年受容することは容易ではなく,医療者にとってのグリーフケアも考えなければならない.医療者同士で自由に話し合えることが必要だが,そのような機会はほとんどない.今回このような素晴らしい機会を与えていただき,感謝申し上げます.

IV おわりに

緩和医療に関わる医師も,がん診療を専門とする医師も,生と死について考え,医療者同士で話し合える時間が必要と思われるが,実際にそのような時間は少ない.筆者はこのような時間や場所を作る活動を続けてきた.人により考え方はさまざまであり,各自の体験や考え方を閲覧できることで学ぶことも多く,新たな文脈の考え方を作り出すことも可能で,自身の感情のコントロール,患者や家族への対応にも有用と考えている.

生と死について考え,話し合う教育において興味深い点は,卒前教育での医学生のプレゼンテーションであっても,ベテラン医療者に大きな気づきを与えてくれることである.筆者は,医学生の優れたプレゼンテーションをオンライン講演会で紹介して,医療者の心を刺激してきた.緩和医療のリーダーとなるペインクリニシャンにとって,医学生および各診療科医師を含めた多職種と,「生と死」について,死にゆく人への対応に関して考え,語りあう時間と関係性を作ることも重要な役割である.

本稿の要旨は,日本ペインクリニック学会第57回大会(2023年7月,佐賀)において発表した.

文献
  • 1)  山田圭輔. 金沢大学医学生と「生と死」を考える報告集(第10号)の紹介. ペインクリニック2021; 42: 1231–3.
  • 2)  山田圭輔, 岡本理恵, 西村詠子, 他. 第42回金沢がん哲学外来オンライン講演会の紹介. ペインクリニック2022; 43: 786–9.
 
© 2023 Japan Society of Pain Clinicians
feedback
Top