Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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A case of inappropriate use of oxycodone prescribed for micturition pain after intravesical bacillus Calmette-Guerin (BCG) therapy
Aya ONUKAMutsumi ABEAkihiro OTSUKIReiko NAKAU
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2023 Volume 30 Issue 12 Pages 279-283

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Abstract

BCG膀胱内注入療法(BCG膀注)後の排尿時痛は,合併症の中でも最も頻度の高い症状である.BCG膀注後の難治性排尿時痛に対してオピオイド処方が行われる場合があるが,痛みが慢性化した場合は不適切使用につながる可能性がある.今回,オピオイド不適切使用に陥ったBCG膀注後の難治性排尿時痛に対して,ステロイド内服や経尿道的膀胱腫瘍摘出術にて疼痛が軽減し,オピオイド使用に関する患者教育や排尿時痛以外の併存する痛みに対処することで徐々にオキシコドンに対する依存状態が改善し,最終的にオキシコドンを中止することができた症例を経験したので報告する.

Translated Abstract

Micturition pain after intravesical bacillus Calmette-Guerin (BCG) therapy is the most common side effect. The use of opioids for refractory pain, such as micturition pain, may lead to inappropriate use. In this report, we describe a case of refractory micturition pain after intravesical bacillus Calmette-Guerin (BCG) therapy that resulted in inappropriate use of prescribed opioids. By taking steroids and transurethral resection of bladder tumor (TURBT), the patient's dependence on oxycodone gradually improved, and he was eventually able to discontinue oxycodone through education about opioid use and treatment of coexistent pain other than micturition pain.

I はじめに

世界保健機関(WHO)はがん対策の一つに「有効ながん疼痛対策」を掲げ,WHO方式がん疼痛治療法を普及させた1).本邦においても「がん対策推進基本計画」に基づいて,緩和ケアの推進とともにがん患者に対するオピオイド処方が浸透してきた.がん患者に対するオピオイド処方が広まる一方,がん治療にも発展がみられ,がん患者の長期生存が可能となった.がんサバイバーが増えることにより,がんそのものの痛みだけではなく,がん治療に伴う痛みや併存するがん関連以外の痛みへの対応が必要となり,オピオイド適応の見極めが難しくなっている.

今回,膀胱がんに対して行われたBCG膀胱内注入療法(BCG膀注)後に難治性の排尿時痛をきたし,処方されたオピオイドの不適切使用に陥った症例を経験したので報告する.

今回の症例報告に関して患者本人より書面にて同意を得ている.

II 症例

70代男性,身長155 cm,体重51 kg.高血圧,高脂血症の既往歴があり,右肩腱板断裂の手術歴があった.明らかな精神疾患はなく,オピオイドを内服する以前に薬物依存やアルコール依存の既往もなかった.

当科初診25カ月前に頻尿を主訴に精査した結果,膀胱腫瘍を認め経尿道的膀胱腫瘍摘出術(TURBT)が施行された.診断は浸潤性尿路上皮がんであった.当科初診22~23カ月前にBCG膀注(80 mg)が8回施行された.以後,尿細胞診や膀胱鏡検査では再発所見はなかったが,BCG膀注後から排尿時痛を自覚するようになった.

排尿時痛に対する鎮痛剤として最初にロキソプロフェンが処方されたが効果は限定的であり,トラマドールも追加処方されたが効果は乏しかった.当科初診14カ月前からオキシコドンの処方が開始され,当科初診7カ月前にはオキシコドン徐放剤60 mg/日(分2,12時間毎),レスキューとしてオキシコドン速放剤10 mg/回が処方された.オキシコドンを内服し始めた頃より徐々に不眠が出現し,内服後10時間ごろになると振戦や気持ちの高ぶりでいても立ってもいられなくなるような違和感を自覚するようになった.このような症状はオキシコドン内服により改善したが,定期の処方量はそれ以上増量されなかったため,徐々にレスキューを使用するようになった.

当科初診2カ月前には不安感,悪寒や振戦,呼吸困難感が出現し救急搬送された.さらに当科初診1カ月前にも同様の症状で救急搬送された.また,オキシコドン内服の合間に呼吸困難感や不安感が出現し,悪寒や振戦など特徴的な症状を伴っていることからオキシコドンによる退薬症状が前医で疑われ,当科へ紹介受診となった.初診時の主訴は排尿時痛であったが,問診ではオキシコドンの内服の合間に不安を感じており,不安感増強時には呼吸困難感や静坐不能などの症状が出現すること,排尿時痛以外に右肩関節痛が併存すること,不安解消や右肩関節痛に対してオキシコドンを使用していたこと,家族へ迷惑をかけたくないという思いと孤独感があることも把握できた.排尿に関わる痛みの経過は尿意を自覚してから排尿するまでの時間であり,排尿時にnumerical rating scale(NRS)6と痛みのピークがあり,排尿を終えると痛みが消失していた(NRS 0).頻尿のため数時間ごとにこの突出痛が繰り返され,徐放剤の増量では痛みの軽減は得られず,オピオイド速放剤は効果があるが,患者本人が自制をしてなんとか1日数回に制限していた.

「このまま帰宅したらまたオキシコドンを飲んでしまいそうだ」とオピオイドに対する渇望も口にしており,オピオイドの使用障害の診断で初診当日に当科入院の上,治療開始とした.

III 入院後の経過

オキシコドン徐放剤では増量を繰り返しても排尿時痛のコントロールができなかったこと,オキシコドン速放剤の方が排尿時痛への鎮痛効果を実感でき,痛みの日内変動にも適宜調整できることから,徐放剤を中止し速放剤を定期内服とレスキューに使用した.また,オキシコドン以外の方法で鎮痛が得られるよう,入院後に膀胱鏡検査で膀胱がんの再発がないことを確認し,泌尿器科と相談の上,BCG膀注後の排尿時痛に効果があったとされるステロイド(プレドニゾロン20 mg/日)2)を開始した.右肩関節痛に関しては整形外科医が肩関節の可動域やレントゲン所見などから総合的に右肩腱板断裂の再発ではないことを判断し,術後遷延痛として低周波治療を開始した.低周波治療は右肩関節痛に有効であり,オキシコドン以外の対処法を患者に提示することができた.

オピオイドの定期内服は入院前がオキシコドン徐放剤60 mg/日(分2,12時間毎)であったのに対し,入院後はオキシコドン速放剤20 mg/日(分4,6時間毎)に減量した.レスキューは入院前がオキシコドン10 mg/回に対し,入院後は5 mg/回に減量した.大幅な減量で退薬症状が懸念されたため入院当初はレスキューの回数制限を設けなかったが,それでもレスキューは最大でも1日2回までの使用であった.

入院後2日間ほどは夜間に呼吸苦を自覚して看護師をコールすることもあったが,その後はパニックになるほどの呼吸苦はなくなった.排尿で夜間に起きることはあったが,不眠の訴えはなくなった.右肩から背部にかけての違和感やソワソワする漠然とした不安感は退院するまで継続した.

毎日の面談ではオピオイドの弊害を説明し,オピオイド使用の目的が疼痛であることを確認した.また,今まで表出することができなかった孤独の思いを傾聴した.入院をすることで気持ちに余裕ができ,散歩や新聞を読むなどの日々の楽しみを取り戻すことができた.

オキシコドンの定期内服が入院15日目には17.5 mg/日(1回2.5 mgを1回,1回5 mgを3回,6時間毎)まで漸減でき,レスキューも2.5 mg/回に減量し,レスキューがほぼ不要となったところで入院22日目に退院とした.

退院後はステロイドによる体重増加がみられ,鎮痛効果も得られなくなったためステロイドは漸減中止としたが,排尿時痛が増悪(NRS 7)したため,オキシコドン速放剤の減量や徐放剤への変更が進まない状況が続いた.当科初診から約5カ月後に膀胱がんの再発がみられ,再度TURBT(BCG膀注は施行せず)が行われた.TURBT後は排尿回数が1時間に1回から2~3時間に1回に減少し,排尿時痛は消失した(NRS 0).排尿時痛の消失に伴い,退院後も続いていたソワソワする漠然とした不安感が解消し,レスキューを使用しなくなった.また,オキシコドンは速放剤から徐放剤へと変更可能となり,最終的にオキシコドンを中止することができた(図1).現在は右肩関節の術後遷延痛に対してのみトラマドール50 mg/日(分2,朝夕食後)を継続し,それ以外のオピオイドの使用はない.今後はトラマドールも非オピオイド薬に切り替えていく予定である.

図1

オキシコドン内服量と症状の推移

排尿時痛はnumerical rating scale(NRS)で評価した.不安感と右肩関節痛を4段階で評価した.

不安感(0:なし,1:いらいらや不安の訴え,2:いらいらや不安の観察,3:診察困難なほどの不安やいらいら),**右肩関節痛(0:なし,1:軽度違和感,2:中等度不快感,3:重度不快感).

IV 考察

膀胱がんに対して行われるBCG膀注は膀胱内再発抑制効果,進展抑制効果を期待して行われている治療法であるが,副作用の発現率が高いことでも知られている.本邦においてはBCG導入療法として80 mgで週1回,6~8回繰り返すレジメンが標準的であり3),本症例でも80 mgを8回繰り返していた.大島らの市販後調査成績によると,BCG膀注後の副作用の発現率は65.6%で,主な副作用は排尿痛,頻尿,血尿などの腎および尿路障害と発熱であった4).軽度の症状であれば対処療法で自然に改善することが多いが,BCG膀注による重度の膀胱刺激症状を繰り返すと萎縮膀胱を引き起こし,膀胱水圧拡張術や最終的には膀胱全摘を余儀なくされることもある5).長山らの報告では,BCG膀注後に重度な膀胱刺激症状が持続して膀胱容量の極度な減少がみられる症例に対しては,BCG膀注を中止し早期に抗結核薬やステロイド剤の投与の検討が必要であると指摘している5).これまでのBCG膀注後膀胱組織の病理所見の報告では,膀胱壁の肥厚や萎縮,膀胱粘膜の脱落やリンパ球・形質細胞の浸潤,炎症性肉芽腫が指摘されており6,7),また,今回ステロイドが奏功したことから,排尿時痛の発生機序として,膀胱壁の炎症が関与した可能性が考えられる.また,TURBTでの膀胱壁伸展による萎縮膀胱の改善と粘膜焼灼による粘膜上皮機能の改善が炎症に対して有効であった可能性がある.今回の症例では,BCG膀注後から約2年経過してステロイド治療などを行ったが,より早期の膀胱水圧拡張術や経尿道的粘膜凝固による治療介入でオピオイドの不適切使用を避けられた可能性がある.

2022年1月に国際疾病分類第11版(ICD-11)が発行され,はじめて慢性疼痛の分類コードが加えられることになった8).慢性がん関連疼痛もその中に分類されており,長期のがんサバイバーに対しては慢性がん関連疼痛という認識を持ち治療方針を検討する必要が出てくる.

非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン(改訂第2版)によると,オピオイド不適切使用に陥った患者の対処方法として,乱用に好まれにくい鎮痛薬への変更や残薬管理,処方量の制限や受診間隔の短縮,同意書の再確認など薬物アドヒアランス改善に努めることが重要である9).本症例は速やかに入院することで,患者の観察や薬の管理を適切に行い,オピオイド使用についての教育も行えた.

本症例ではオキシコドン徐放剤を60 mg/日使用しても排尿時痛は改善乏しく,この投与量で得られる血中濃度では突出する排尿時痛をカバーできないと考えた.オピオイド使用障害患者に徐放剤をさらに増量をすることは躊躇されたため,投与量を減量しながら疼痛コントロールを図る手段として定期内服にオキシコドン速放剤を使用した.レスキュー使用も想定し,投与回数を増やすことで頻回の排尿時に有効血中濃度を維持する割合が高くなると考えた.入院時に定期の投与量を60 mg/日から20 mg/日へ減量したが,実際はレスキュー使用頻度が増加せず,結果的に急激な減量となった.本症例は減量に伴ってレスキュー使用は増加しなかったことから偽依存の可能性は低いと思われた.

本症例の反省点は,退薬症状が懸念される患者に速放剤を使用したことである.速放剤使用は急激な血中濃度の変化を引き起こし,退薬症状を誘発する危険性があった.入院時から定期内服に徐放剤を使用する原則を守り,緩徐な減量を行うべきであった.また,退院後も常に不適切使用や退薬症状を懸念して,clinical opiate withdrawal score(COWS)等の診断ツールを使用した評価の継続をするべきであった.

さらに,ガイドラインではいずれの段階であってもオピオイド鎮痛薬以外の治療法も再検討し,慢性疼痛の治療も着実に行うべきだと強調している9).本患者は右肩関節の圧迫感を伴う術後遷延痛にも悩まされていた.オキシコドンはこの痛みに対しても効果的であり,オキシコドン減量の妨げになっていた.低周波治療を行い内服とは別のアプローチで治療をすることでオキシコドンへの依存を軽減することができた.がん関連疼痛以外の併存する痛みに対して対処し,内服以外の治療法を提案することも大切である.

V 結語

BCG膀胱内注入療法後の排尿時痛に対して処方されたオピオイドで不適切使用に陥った1例を経験した.入院の上で多角的な治療を行い,最終的にオキシコドンを中止することができた.

この症例の要旨は,日本ペインクリニック学会 第2回中国・四国支部学術集会(2022年2月,Web開催)において発表した.

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