Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Intertransverse process block for the management of herpes zoster-associated pain of thoracic nerve: two case reports
Natsuko OJIMakito OJIEkuko FUJIMOTOHiroshi AOKIYoshiaki TERAO
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2023 Volume 30 Issue 3 Pages 42-46

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Abstract

胸部帯状疱疹関連痛に対してintertransverse process block(ITPB)を行い良好な鎮痛効果が得られた2症例を経験したので報告する.症例1:78歳男性,初診15日前に左胸背部に皮疹が出現し,帯状疱疹の診断で薬物療法を受けたが効果が乏しく当科初診した.Th5レベルで超音波ガイド下ITPBを計5回行い,痛みが消失した.症例2:80歳男性,初診14日前に右腹部に皮疹が出現し,帯状疱疹の診断で薬物療法が開始されたが痛みの増悪があり当科初診した.Th10レベルで超音波ガイド下ITPBを計6回行い,痛みは徐々に減少した.薬物療法抵抗性の胸部帯状疱疹関連痛に対して,合併症なくITPBを施行し,良好な鎮痛が得られた.

Translated Abstract

We report two cases of intertransverse process block (ITPB) for herpes zoster-associated pain of the thoracic nerve with good analgesic effects. Case 1: A 78-year-old man visited our department after a skin rash appeared on his left chest and back 15 days before the visit and was diagnosed with herpes zoster. After performing ultrasound-guided ITPBs five times at the Th5 level, the pain disappeared. Case 2: An 80-year-old man was diagnosed with herpes zoster after a skin rash appeared on his right abdomen 14 days before the visit. Ultrasound-guided ITPB was performed six times at the Th10 level, and the pain gradually decreased. ITPB was safely performed for thoracic herpes zoster-associated pain that was not responsive to pharmacotherapy and provided good analgesic effect.

I はじめに

帯状疱疹関連痛の治療の一つとして神経ブロック療法がある.罹患部位が胸髄神経の場合の神経ブロックは,胸部硬膜外ブロック,傍脊椎神経ブロック,肋間神経ブロックが選択されることが多い.神経ブロックは痛みの程度に応じて定期的に繰り返し行うことが多いため,簡便で安全性の高い方法が求められる.近年,intertransverse process block(ITPB)と呼ばれる,上下の横突起の間の組織である上肋横突靱帯(superior costotransverse ligament:SCTL)後面での神経ブロックが,傍脊椎神経ブロックよりも簡便な手技として注目を集めている.上肋横突靱帯後面に注入された薬液は,容易に傍脊椎腔まで到達し,傍脊椎神経ブロックと同様に脊髄神経前枝,後枝,交感神経のブロックが可能と考えられている.今回われわれは,胸髄神経帯状疱疹関連痛に対してITPBを行った2症例を経験したので報告する.

なお,本報告は当院倫理委員会の承認を得ており,患者本人からも承諾と同意を書面で得ている.

II 症例

症例1:78歳男性,163 cm,59 kg.主訴は左胸背部痛で,既往歴は冠攣縮性狭心症,前立腺肥大症があった.冠攣縮性狭心症に対してバイアスピリンを内服していた.

初診18日前に左胸部痛が出現した.15日前に同部位に皮疹が出現し,初診14日前に近医皮膚科を受診し帯状疱疹の診断を受け,薬物療法(バラシクロビル塩酸塩,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液,メコバラミン,ビダラビン軟膏)が開始された.その後も痛みが続き,ロキソプロフェンを頓用していたが痛みが軽減しないため,当科を初診した.

初診時左Th5領域に痛みを伴う皮疹を認めた.皮疹はほぼすべて痂皮化していた.皮疹部の知覚は50%程度に低下し,アロディニアは認めなかった.痛みのnumerical rating scale(NRS)は10で,痛みの性状はズキズキする,針で刺されるようなものであった.夜間痛があり痛みで目が覚めた.

薬物療法としてプレガバリン50 mg/日を開始した.神経ブロック治療として,Th5レベルで超音波ガイド下ITPBを開始した.該当胸椎レベル傍正中で長軸方向にリニアプローブをあて,横突起と肋骨頚が見える位置を同定し,上下の横突起間に胸膜と上肋横突靱帯を確認した.目的胸椎横突起よりやや尾側から穿刺し,針先が上肋横突靱帯背側で横突起尾側面に接したところで薬液を注入した.治療薬は1%メピバカイン10 ml,もしくは0.25%レボブピバカイン10 ml,穿刺針は23Gカテラン針を使用した.ITPB時の超音波画像を図1に示す.ブロック後は左胸背部の痛み範囲すべてに鎮痛効果が得られた.ブロック後の冷覚消失範囲は患側胸背部Th3からTh6程度の広がりだった.ブロック前後にサーモグラフィを用いて皮膚体表温を評価したが,左右差はみられなかった.1週間後の再診時はNRS 5と痛みの軽減がみられた.その後もITPBを適宜行いながら経過を見ていた.初診34日に胃痛の訴えがあり内服薬はすべて中止したが,その後も痛みは漸減,消失し初診64日で終診した.経過を図2に示す.

図1

ITPB時の超音波画像

リニアプローブを胸椎傍正中で長軸方向にあてたところ.

白矢頭:上肋横突靱帯,黒矢頭:胸膜,矢印:ブロック針刺入経路,TP:横突起,Rib:肋骨頚.

図2

症例1の治療経過

横軸に日数,縦軸に薬物とITPB治療,痛みのNRSを示す.

症例2:80歳男性,163 cm,45 kg.主訴は右腹部,腰部痛で,既往歴は胃がん術後だったが,常用薬の把握はできなかった.

初診18日前に右腹部痛が出現した.初診14日前に同部位に皮疹が出現し,初診13日前に近医皮膚科を受診した.帯状疱疹の診断を受け,薬物療法(ファムシクロビル,アセトアミノフェン)が開始された.初診6日前に痛みが増悪しワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液の内服が開始され,初診4日前からミロガバリン5 mgの内服が開始されたが痛みが軽減せず紹介初診した.

初診時右Th10領域に痛みを伴う皮疹を認めた.皮疹はすべて痂皮化し,色素沈着を認めた.皮疹部には知覚脱失があったがアロディニアは認めなかった.初診時の痛みはNRS 8で,痛みの性状はジリジリした持続痛にズキッとした発作痛を伴うものだった.

初診時よりTh10レベルでITPBを開始した.ブロック後の冷覚消失範囲はTh9からTh12程度であった.薬物療法は初診後ロキソプロフェン開始,ミロガバリンを15 mg/日まで増量したが,効果はなかった.ITPBを計6回行い,痛みは徐々に減少し,初診2カ月でNRSは3前後となり,初診91日目でNRS 2となり終診した.経過を図3に示す.

図3

症例2の治療経過

横軸に日数,縦軸に薬物とITPB治療,痛みのNRSを示す.

III 考察

ITPBは上下の横突起の間の組織である上肋横突靱帯後面で薬液を注入する手技であるが,傍脊椎神経ブロックと同等の効果が得られると考えられている.上肋横突靱帯は下位肋骨頚から上位胸椎横突起底部に付着する靱帯で,傍脊椎腔の背側を形成している.その上肋横突靱帯にはいくつかのスリットがあり,傍脊椎腔と直接つながっていることが解剖学的研究で示されている1).実際に遺体を用いた色素によるITPBでは,多層分節的な傍脊椎腔への薬液の広がりが確認されている2).つまり上肋横突靱帯後面で薬液を注入すれば,薬液は容易に傍脊椎腔へ到達するため,傍脊椎神経ブロックと同等の効果が得られると考えられる.本症例でもITPB後の冷覚消失範囲より,複数椎体レベルでの脊髄神経前枝と後枝へのブロック効果が確認できた.理論的には交感神経ブロックも得られると考えられるが,本症例ではブロック前後の皮膚体表温の変化はとらえられず,交感神経ブロック効果を判定することはできなかった.

胸髄神経帯状疱疹関連痛への神経ブロックは,胸部硬膜外ブロック,傍脊椎神経ブロック,肋間神経ブロックが一般的である.これらの神経ブロックは効果的である一方,まれではあるが血腫などの合併症の報告がある.本邦でも超音波ガイド下傍脊椎神経ブロック後の胸壁血腫の報告3)や,抗血小板薬投与下での胸部硬膜外ブロックによる急性硬膜外血腫の報告4)がある.またペインクリニック学会安全委員会の有害事象調査でも,肋間神経ブロックによる気胸や硬膜外ブロックによる硬膜外血腫,膿瘍,くも膜下注入などが1年間に数件報告されている5).帯状疱疹関連痛に対する神経ブロックは痛みに応じて定期的に繰り返す場合が多いため,侵襲の少ないブロックを選択することも重要と考えられる.

本症例で施行した超音波ガイド下ITPBは,硬膜外ブロックや傍脊椎神経ブロック,肋間神経ブロックと比較して安全性が高いと考えられる.超音波プローブを該当脊髄神経レベルで矢状断にあて,横突起と肋骨頚の見える位置に置くと上肋横突靱帯が描出可能である.ITPBは傍脊椎神経ブロックや肋間神経ブロックと異なり刺入経路に胸膜や主要な血管が存在しないため,手技は比較的簡便で安全に施行できると考えられる.しかしITPBも気胸のリスクが完全に回避できるわけではなく,有害事象の頻度をまとめた十分な報告もこれまでにないため,今後のさらなる研究が期待される.

近年,胸髄神経帯状疱疹関連痛への神経ブロックとしてerector spinae plane block(ESPB)が施行される場合もある.ESPBは脊柱起立筋の深部でのブロックであり6),ITPBよりも体表に近い部位で薬液を注入するため,安全性はより高いと考えられる.しかしESPBの効果範囲,傍脊椎腔への薬液拡散に関しては一定の見解が得られておらず,傍脊椎神経ブロック効果を得るにはITPBのほうが優れていると考えられる.帯状疱疹関連痛に対してESPBが有効であったという報告は複数あり,PHNへの移行を予防する効果があったとの報告もある7).今回施行したITPBでも,ESPBと同等かそれ以上の効果が期待できると考えられるが,今後のさらなる検討が必要である.

今回ITPBと称した上肋横突靱帯後面への薬液注入手技には,文献によりさまざまな呼称があり,midpoint transverse process to pleura block,subtransverse process interligamentary plane block,costotransverse foramen plane block,multiple injection costotransverse blockなどと呼ばれている.これらは薬液を注入する解剖学的部位が類似しているため,アメリカやヨーロッパの区域麻酔学会からintertransverse process blockへの名称統一が提案されている8).このため,本症例での神経ブロックもITPBと称することとした.

IV まとめ

胸髄神経帯状疱疹関連痛に対してITPBによる治療を行い良好な効果が得られた2症例を経験した.

本報告の要旨は,日本ペインクリニック学会 第2回九州支部学術集会(2022年2月,Web開催)において発表した.

文献
 
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