Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2023 Volume 30 Issue 3 Pages 59-69

Details

会 期:現地およびライブ配信 2022年10月15日(土)

    オンデマンド配信   2022年10月31日(月)~11月30日(水)

会 場:アクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター)

会 長:石川慎一(姫路赤十字病院麻酔科ペインクリニック)

副会長:福永智栄(姫路赤十字病院緩和ケア内科)

■会長講演

Beyond Pain Clinic―Integration―

石川慎一

姫路赤十字病院麻酔科ペインクリニック

Beyond Pain Clinic―Integration―とはペインクリニックの域を超えて各科と統合して連携することを意味する.

私は1992年に大学卒業し,今年で30年になる.現在ペインクリニックを中心に業務を行っているが,麻酔科に入局し各関連病院で麻酔から集中治療,ペインクリニックまでご指導いただいたことは非常に役立っている.特に福山では,ペインクリニック専従研修に加えて脳脊髄液漏出症に出会った.卒後13年で大学院に入学し,現在教授として活躍されている諸先輩方よりご指導いただいた.研究・教育・臨床の大切さに気づくとともに国際学会発表や留学の機会に恵まれた.また科を超えた臨床解剖に携わり,書籍の執筆やハンズオンセミナーを開催する機会を得て解剖の理解が深まった.これはインターベンショナル治療や超音波ガイド下神経ブロックの手技向上と充実につながっている.

振り返れば麻酔科を中心に,他科の先生方との連携やご指導を得て今のペインクリニック診療技術と心構えが形成されている.私のBeyond Pain Clinicについて,椎間板内治療を中心にエビデンスとともに解説する.

■教育講演I インターベンショナル手技をがん性疼痛に活かす

くも膜下鎮痛法のこれから

小杉寿文

佐賀県医療センター好生館緩和ケア

くも膜下鎮痛法(IT鎮痛法)は,海外では体内埋め込み型ポンプシステム(implantable intrathecal drug delivery system:IDDS)でがん性疼痛および非がん慢性疼痛に対して使用されている.しかし本邦ではIDDSは承認されているものの収載待ちの状態であり,これまで使用することができなかった.そのため硬膜外用の皮下ポートキットを使用して,体外ポンプで薬液を注入しているのが現状である.今後,IDDSによるくも膜下モルヒネ(ITM)が使用できるようになれば,長期間の日常生活での使用が期待されるが,薬液の保険適応の問題などもある.がん診療連携拠点病院には,IT鎮痛法などがん性疼痛に対する神経ブロックの施行状況をHPなどで公開することが求められるようになっており,どの地域でも難治性がん性疼痛に対する有効な治療が受けることができるようになることを期待されている.

■教育講演II インターベンショナル手技を脳脊髄液漏出性頭痛に活かす

1  脳脊髄液漏出症治療の到達点と出発点2022

守山英二*1 西 和彦*2 岡 哲生*1 岩戸英仁*1 土本正治*1

*1尾道市立市民病院脳神経外科,*2岡山大学大学院脳神経外科

当院での硬膜外ブラッドパッチ(EBP)の治療開始は2021年6月である.その後演者の移籍に伴い,2022年5月から本格的な治療が始まった.2022年7月までに当院で脳脊髄液漏出症と診断し,EBP治療を行った患者は43名(男:22,女:21,12~71歳:中央値18歳)である.典型的な特発性低髄液圧症候群(SIH):6例,小児期の起立性調節障害(OD)あるいは体位性頻脈症候群(POTS)と診断されていた例:10例,外傷(交通外傷,転倒・転落など)の関与が疑われた例:7例,が含まれていた.硬膜外持続注入による一時的な症状改善,CT脊髄造影(CTM)による診断確定~漏出部位特定後のEBP治療が基本だが,大きな硬膜下血腫を合併したSIH例では腰椎穿刺の危険を勘案してCTMを省略した.総計63回(平均1.5回)のEBP治療を行い,22例が治癒,10例が一部の症状を残して就労~就学可能な状態に復していた.脳脊髄液漏出症診療の現状について報告する.

2  脳脊髄液漏出症および関連疾患とインターベンショナル治療

石川慎一 岡部大輔 村田雄哉 妹尾悠佑 南 絵里子 小橋真司

姫路赤十字病院麻酔科ペインクリニック

硬膜穿刺後頭痛(PDPH)に対する硬膜外自家血注入(EBP)は,麻酔科医にとって身近な手技であるが,低髄液圧症候群(SIH)や脳脊髄液漏出症では診断から治療まで麻酔科・ペインクリニック医が活躍できうる.画像機器の進歩により全脊椎MRIおよびCT脊髄造影を用いた診断は容易になってきたが,的確な脊髄くも膜下穿刺と初圧測定および造影剤注入は重要である.画像診断に迷う場合は,持続硬膜外生理食塩水注入が診断と治療に有用で,EBPの効果も予測しうる.また外傷性を含めて,各種超音波ガイド下・X線透視下神経ブロックが鑑別診断と痛みの治療に役立つ.このように診断から治療まで,脳脊髄液漏出症および関連疾患に対する熟練した麻酔科関連手技の有用性は非常に高い.

2021年に当科紹介となったのは9~80歳まで29例で,うち18歳以下の紹介が10例と増加しつつある.診断の内訳は外傷性11例,SIH 2例,PDPH 3例,漏出なし13例(頭蓋内圧亢進症1例,外リンパ瘻1例など)であった.

脳脊髄液漏出症の診断・治療および関連疾患とインターベンショナル治療の有用性について報告する.

■特別企画I 一歩未来へ:各施設で行っているペインクリニック研修の魅力

1  クリニックでのペイン研修の魅力

石尾純一

ぱくペインクリニック

ペイン領域において研修施設といえば,高度な治療・研究を行うことのできる大学病院や特定の技術に特化した症例を多くこなす中小規模の病院が挙げられる.研修先としてクリニックを選ぶという選択肢はあまり見かけない.大施設での,複雑な痛みへのアプローチ・高度な治療技術は必須習得項目であるが,common diseaseと呼ばれる疾患に対して少ないツールで正確に診断し治療できることも習得すべき技術である.

クリニックは痛みを持つ患者が初めて門を叩く場所である.そのため,ペイン領域の疾患はもちろんのこと,リウマチ膠原病・一般整形疾患,紹介すべき重症な疾患を全て診ることができるのがクリニックの特色である.さらに,隣には見本となるその地域で何十年も戦ってきた院長がいるため,学べることは非常に多い.

研修先に挙がることのない「クリニック」で働く私が,研修の魅力を若手ペインクリニシャンらしく自分の言葉で伝えたい.

2  一般病院でのペイン研修

村田雄哉

姫路赤十字病院麻酔科ペインクリニック

現在私は姫路赤十字病院の麻酔科ペイン専従コースとして,週3日程度のペインクリニック診療(研修)と,残りの日は手術麻酔を中心とした業務を行っている.

当院では,痛み関連部門のペインクリニックと緩和ケアが独立している.ペインクリニック研修では,慢性痛を中心に外来診療だけでなく入院の必要な検査や治療に携わる.インターベンション治療では,その治療経過を回診にて連続して観察できる.一方,ペインクリニック研修中に緩和ケアカンファレンスにも参加でき,希望すれば緩和ケア研修も可能である.また,ペインクリニックに専念しつつも麻酔業務を定期的に行うため,麻酔関連のテクニックについて忘れることはない.

今回の発表では,当院におけるペインクリニック研修の実際について,研修するに至った経緯を含めて提示する.また,当院の特徴を踏まえた上で,一般病院でペインクリニック研修を行う意義について考えてみたいと思う.

3  インターベンショナル治療を中心とした集学的痛み治療の研修

清水覚司 岩下成人 石原真理子 河島愛莉奈 西脇侑子 赤澤舞衣 岩本貴志 中西美保 松本富吉 福井 聖 北川裕利

滋賀医科大学医学部附属病院麻酔科・ペインクリニック科

滋賀医科大学ペインクリニック科では,同医学部附属病院の他診療科や近隣開業医と緊密に連携を図り,痛みの治癒を目指したインターベンショナル治療を積極的に行っている.特に,腰部脊柱管狭窄症や帯状疱疹後神経痛に対するX線透視下神経ブロックやパルス高周波法,末梢血行障害に対する腰部交感神経節熱凝固法などの症例が非常に豊富で,多くのベテラン指導医の丁寧な指導の下で確かな技術を身につけることができる.また,末梢神経を標的としたエコーガイド下パルス高周波法のような先進的治療にも取り組んでいる.一方,初診時には,看護師の協力を得ながら,患者さんの精神心理状態や社会生活の状態を詳細に把握し,痛みの背景にも着目した診療を提供している.このように,インターベンショナル治療に加え,東洋医学を取り入れた幅広い薬物療法,理学療法,心理療法を駆使しながら,個々の患者さんに合わせた集学的痛み治療の研修を受けている.

■特別企画II 一歩未来へ:リハビリテーションを痛み診療に活かす

1  腰下肢痛診療におけるペインクリニックと理学療法の融合

朴 基彦 岡本光司

ぱくペインクリニック

ペインクリニックに受診する腰下肢痛患者の多くは腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの神経根症を呈している.急性発症で早期に受診した場合,腰部硬膜外ブロックや神経根ブロックで責任病変部を治療すると速やかに改善するケースが多い.しかし発症後長期間経過していたり,寛解と増悪を繰り返したケースでは,神経根周囲の癒着や神経滑走の低下,神経機能の低下に起因する腰部多裂筋をはじめとした筋の攣縮,筋滑走の低下など,病態が複雑化していく症例も多々ある.

このような症例に対しては,単に神経ブロックで治療するだけでは不十分で,神経滑走の改善と筋機能の回復を目的とした,理学療法士による理学療法が非常に有効な治療手段となる.

ここでは,当院において腰下肢痛に対し,医師と理学療法士が具体的にどのように協同して治療にあたっているかを提示する.腰下肢痛診療のあるべき未来像を明らかにするきっかけになれば幸いである.

2  仮想現実(VR)技術を用いた脳再プログラミング療法を痛み診療に活かす

原 正彦

mediVRリハビリテーションセンターリハビリテーション科

薬物療法による症状緩和が奏功しない複合性局所疼痛症候群(CRPS)や中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)等の慢性疼痛患者に対する治療介入手段は限られている.現在われわれは慢性疼痛の症状緩和に対して仮想現実技術を用いた脳再プログラミング療法(VRリハ)を行っており,著効する例も多い.VRリハでは点推定による強力な動作イメージの生成と多生体信号フィードバックにより脳の機能統合を極めて効率的に行うことで慢性疼痛にアプローチする.治療介入は「座位」でのリーチング動作を「必ず左右交互」に繰り返すことを基本としており,「関節連関」と呼ばれる動作異常を丁寧に紐解くことで動作の分離が進むと症状が自然に改善してくることが多い.本セッションではmediVR社製mediVRカグラの慢性疼痛に対する治療アプローチの理論的背景から,実際の治療内容に関し動画を供覧しながら概説する.

■一般演題I 神経ブロック

一般演題I–1

1  人工股関節置換術後に原因不明の広範囲の下位運動ニューロン障害をきたした1例

神﨑由莉 植松弘進 別府曜子 吉藤正泰 小野まゆ

市立池田病院麻酔・ペインクリニック

症例は84歳女性で左人工関節置換術前外側アプローチを右側臥位で施行した.麻酔方法は全身麻酔に神経ブロック(①腰神経叢ブロック,②傍仙骨アプローチ坐骨神経ブロック)を併用し,いずれも超音波ガイド下神経刺激併用で施行した.5年前に第4/5腰椎後方椎体間固定術の既往があった.術直後から両大腿以下に感覚障害,筋力低下が出現した.術1日目には左下肢は運動麻痺となり,術4日目に尿道カテーテルを抜去後に膀胱直腸障害を4日間認め,術7日目から左下肢全体に痛みが出現し,術14日目に当科に紹介となった.初診時,左下肢全体の痛みを訴え,左足部を中心に3~8/10程度の知覚低下および徒手筋力テスト(MMT)で運動麻痺を認めた.したがって,左L2からS1の神経根症状と判断した.リハビリテーションを中心に保存的治療を行い,術30日目に左下肢麻痺はMMT 4に回復し,痛みの範囲は下腿のみとなり歩行可能となった.以上の経過から最終的には左L5,S1神経根を含む広範囲の下位運動ニューロン障害と診断された.本症例の神経障害の原因として,①術野操作,②神経ブロック,③術中体位や牽引など,④脳・脊髄梗塞などの血管性病変が考えられた.①②はいずれも末梢神経,神経叢レベルの操作であり考えにくい.③は術前と大きく異なる腰椎,股関節MRI,腰椎CT所見を認められなかったが完全には否定できない.④は頭部MRI,腰椎MRIより否定的である.

人工関節置換術後に原因不明の下肢麻痺をきたした本症例について文献的考察を加えて報告する.

一般演題I–2

2  C8頚神経近傍での神経ブロック後に両側ホルネル徴候をきたした症例

野村有紀 佐藤仁昭 森  梓 上野喬平 溝渕知司

神戸大学医学部附属病院麻酔科

超音波ガイド下に第1肋骨上でC8頚神経と第1肋骨の間に薬液を注入すると,直接的な星状神経節ブロックとなることが知られている.今回,右胸郭出口症候群術後の右側上肢の尺骨神経領域における疼痛症状に対して,超音波ガイド下に右側C8頚神経と第1肋骨間で神経ブロックを施行した際に,右側に加えて左側のホルネル徴候を認めた症例について報告する.症例は64歳女性.X−3年7月に右前腕尺側領域の疼痛に対して,超音波ガイドに右側C8頚神経と第1肋骨間で腕神経叢ブロックとして1%メピバカイン7 mlを使用し神経ブロックを施行した.施行30分後,両側のホルネル徴候(眼瞼下垂,結膜充血)および両側の上肢のしびれを認めた.神経ブロック側とは反対側の上肢および顔面にも付随症状が出現したことから,脊柱管内への薬液の拡がりの可能性を疑った.X年7月,同症例に対して上記神経ブロックが硬膜外腔に薬液が拡がるリスクを説明し,施行時は透視下に薬液の拡がりをリアルタイムに確認,さらに薬液注入後にコンビームCTにて薬液の拡がりを確認することとして上記神経ブロックを施行した.1%メピバカインと造影剤イオトロランを同量混合した薬液を用いて7 ml注入したところ,同側の頚長筋および椎間孔から脊柱管内の硬膜外腔への薬液の拡がりが確認された.

超音波ガイド下に第1肋骨上でC8頚神経と第1肋骨の間に薬液を注入する神経ブロックでは,同側の星状神経節だけでなく,硬膜外腔に薬液が拡がる可能性があるため,薬液の至適投与量や局所麻酔薬濃度について検討が必要であると思われる.

一般演題I–3

3  持続C5腕神経ブロックで疼痛管理できた左頚椎椎間板ヘルニアによる神経根症の1例

森本明浩

石川病院麻酔・ペインクリニック内科

【症例】60歳男性.2カ月前に自転車で転倒後,受傷時より左肩から左母指のしびれが徐々に強くなり,「いつも仰向けで就寝しているが横向き姿勢で就寝したところ入眠困難な強いしびれが出現した.」と救急要請し当院整形外科入院加療となった.入院2日後「左腕がちぎれるように痛い.」との主訴にて,内服のみで疼痛管理不可能であったため整形外科より当科紹介となった.初診時VAS 120/100で,車椅子上で歩行も困難な状態だった.左C5神経根ブロック実施し,即座に疼痛としびれが軽減した.しかし,3時間後に左肩痛再燃し自制不可のため,再度左肩甲上神経ブロック+斜角筋間腕神経叢ブロックを同日に追加した.4日後(入院6日目)VAS 70/100で,「まだ痛みが強くて,退院して自宅に帰れない.」との主訴にて,単回投与の末梢神経ブロックでは効果は小さいと判断し,入院加療中でもあり持続ブロックを考慮した.斜角筋間アプローチのC5腕神経ブロック実施後,C5腕神経下にカテーテル留置して持続投与管理を7日間行った.これによりVAS 5/100まで軽減し,持続投与を終了後も痛みの著明な再発を示さなかったため入院14日目に退院できた.

上記症例を1例経験したため,考察を加えて報告する.

一般演題I–4

4  完全覚醒下手外科再建術で選択的末梢神経ブロックが有用であった1症例

田原慎治*1 緒方洪輔*1,2 増澤宗洋*1 中本達夫*1,2 上林卓彦*1

*1関西医科大学総合医療センター,*2関西医科大学附属病院

手外科領域における麻酔法には全身麻酔,腕神経叢ブロック,浸潤麻酔などいくつかあるが,手術の侵襲や方法により鎮痛法を変更する場合がある.全身麻酔では局所麻酔を用いず手術ができるが,腱手術など手の機能を向上させる目的の手術では術者の経験によるところがあり,全身麻酔では術後まで機能評価ができない.しかし,浸潤麻酔では局所麻酔の必要量が最も多くなり広範囲の手術となると局所麻酔中毒も危惧される.低容濃度の腕神経叢ブロックで行う方法もあるが運動神経への影響は避けられず,正確性に欠ける上,運動神経が完全に麻痺してしまうと術後の機能評価となってしまう.運動神経の分岐部より末梢で行う選択的知覚神経ブロックでは,局所麻酔の必要量を減らしつつ,術中に再建した腱の緊張の評価ができる.今回,選択的知覚神経ブロックで行った完全覚醒下手外科手術を経験した.

45歳男性,外傷後の痙性拘縮手麻痺に対して,浅指屈筋と深指屈筋(第3~5指)の変換と尺側手根屈筋を総指伸筋へ腱移植術が予定され,創部は前腕遠位から中部,手掌,第3指の背側が予定された.筋皮神経,内側前腕皮神経,橈骨神経浅枝,正中神経(前腕遠位部),尺骨神経(本幹と背側枝)にそれぞれ0.5%レボブピバカイン2 ml投与を行った.切開前にアドレナリン入りキシロカインを6 ml程度創部皮下に局所麻酔を依頼した.理学療法士による評価では小指の屈曲がやや減弱しているもののほぼ筋力低下は認めなかった.術中,運動機能評価を行うことができ,疼痛など訴えなく局所麻酔の追加投与もなく経過した.術翌日には運動,感覚神経ともに回復し,運動機能は良好に再建されていた.本症例では広範囲の創部に対して術中から運動機能評価を行うことができ,より良い運動機能の再建が可能であったと考えられた.

一般演題I–5

5  変形性膝関節症に対して伏在神経末梢枝へのパルス高周波法が疼痛緩和に有効であった1例

清水覚司 岩下成人 石原真理子 河島愛莉奈 西脇侑子 赤澤舞衣 岩本貴志 中西美保 松本富吉 福井 聖 北川裕利

滋賀医科大学附属病院麻酔科・ペインクリニック科

【背景】変形性膝関節症に対して,末梢神経を標的としたパルス高周波法が有用である可能性が示唆されている.今回,変形性膝関節症に対して,ヒアルロン酸関節内注射による保存的加療によって疼痛緩和が得られなかった患者に対して,伏在神経末梢枝にパルス高周波法を施行し,良好な疼痛緩和を得た症例を経験した.

【症例】症例は83歳男性.X年Y月ごろより,右変形性膝関節症に対して近医整形外科で膝関節内へのヒアルロン酸注射などの保存的治療を継続したが,疼痛緩和が得られなかった.患者は,約12年前より,左第5,6胸髄領域の帯状疱疹後神経痛に対して当科を定期受診しており,X年Y+1月,当科受診時に右膝関節痛についても加療を希望した.帯状疱疹後神経痛に対して,当科からデュロキセチン20 mg,ミロガバリン10 mg,フェントステープ1 mgを処方されていた.診察時,伏在神経末梢枝の支配領域におおよそ一致して,右膝関節内側に軽度の浮腫を認め,同部位にnumerical rating scale(NRS)7~8/10の痛みを訴えた.特に疼痛が強い領域を超音波で走査すると,伏在神経末梢枝と考えられる索状構造物が確認できた.超音波ガイド下にガイディングニードルを近接させ,0.5 V以下の刺激で再現痛を得た.0.15%アナペイン1 mlを投与した後に42℃,180秒間パルス高周波法を施行し,続いて0.15%アナペイン3 mlとベタメタゾン4 mgを投与した.30分の安静ののち帰宅した際には,右膝関節内側部の疼痛は消失していた.1週間後の再診時には,疼痛はNRS 2~3/10まで軽減し,右膝関節内側部の浮腫も軽減していた.同治療を繰り返したところ,日常生活を疼痛なく過ごせるようになった.

【考察】神経障害性疼痛の関与が疑われる症例では,膝関節を支配する感覚神経の末梢枝に対してパルス高周波法が有効である可能性がある.

■一般演題II 集学的治療・難治性疼痛

一般演題II–1

6  原因不明の顔面痛を契機として注意欠如・多動性障害による双極性障害の治療を行った1症例

内山智浩 平出恵理 秋永泰嗣 山本洋子

掛川市・袋井市病院企業団立中東遠総合医療センター麻酔科

【症例】20歳代女性.原因不明の上顎前歯部痛を主訴に歯科口腔外科より当科へ紹介があった.既往歴として,数年前から大学進学を機に遠方で生活していたが社会生活に辛さを感じるとともに腰痛など全身の痛みを訴え,総合診療科で線維筋痛症の診断を受けプレガバリンとデュロキセチンにより治療されていたことが聴取された.大学を中退し帰郷してからは服用していなかったため,処方し再開するようにした.しかしながら痛みは増悪し,行動に落ち着きがなく,顔面以外の腰痛や足関節の痛みなどを訴えるようになった.そこで他院精神科を紹介した.診察の結果,注意欠如・多動性障害(以下ADHD)による双極性障害との診断を受け非定型抗精神病薬であるルラシドンを処方されるようになり,痛みを訴えることはなくなり社会生活も徐々に営めるようになった.

【考察】近年,慢性疼痛とADHDによる症状との関連が報告されている.慢性疼痛はドパミン神経系の機能低下,ADHDはドパミン神経系およびノルアドレナリン神経系の機能障害という点で重なる部分がある.また,臨床的にも過集中・注意散漫,過活動,易怒性など類似の傾向を持つといわれている.本症例でも幼少期からの痛みが聴取されておりADHD発症時から慢性疼痛の存在があったと考えられた.精神科でADHDの治療としてメチルフェニデートのようなドパミンおよびノルアドレナリン再取り込み作用を持つ薬剤を選択されなかった理由は不明であるが,デュロキセチンとルラシドンの併用が何らかの効果をもたらした可能性が推察された.また,女性の場合ADHDの部分的な特性が目立っても全体的に問題行動があまり目立たず,周囲からADHDと気づかれずに成長することがあるといわれている.

【結語】本症例の経験により,原因不明の慢性疼痛の背景にADHDのような発達障害の存在を意識することで治療につながる可能性があることが示唆された.

一般演題II–2

7  マインドフルネスにより耳痛が改善した症例

加藤果林 廣津聡子 川本修司 池浦麻紀子 野田智美

京都大学医学部附属病院麻酔科

【はじめに】マインドフルネスにより耳痛が改善した症例について報告する.

【症例】60歳代女性.主訴は耳痛.受診半年前より耳痛と耳閉感があった.近医耳鼻科では「突発性難聴」と診断され,ステロイドを投与されたが改善しなかった.また,手足の痛みとこわばり,しびれがあり,筋電図や神経伝達速度検査,関節エコー,血算,生化学,自己抗体等の血液検査をしたが,耳鼻科でも内科でも器質的疾患は指摘されなかった.

痛みのコントロールのために当科紹介となった時には10種類以上の処方があり,過去に薬剤性肝炎の既往もあったため,当科では運動療法や痛みに関する考え方を教育することに主眼を置いた治療を行った.無料で提供されている媒体を用いたマインドフルネスを紹介して実践されていたが,症状が流動的で,3年にわたり改善と増悪を繰り返していた.

心理教育プログラムとしてマインドフルネスを保険適応で行われている精神科クリニックに紹介し,実践していただいた.

耳痛について知覚・痛覚定量分析装置で計測したところ,プログラム前は電流知覚閾値が平均11.5 µA,痛み対応電流が平均50.1(28.2~59.0)µA,痛み度337で,VAS 80/100,プログラム中には流知覚閾値が平均16.6 µA,痛み対応電流が平均15.9(14.4~16.7)µA,痛み度0となり,VAS 0となった.

【考察】マインドフルネスは慢性疼痛患者への効果が報告されているが,日本では保険適応ではなく,自費で参加する場合には数万~数十万円の経費が掛かるため,それが障壁となり,治療法として浸透していない.

慢性疼痛患者がマインドフルネスにより簡便にアクセスできるような環境が望まれる.

一般演題II–3

8  慢性の痛みに対する集学的診療における精神科医療機関との連携

柴田政彦*1,2 高橋紀代*2 中原 理*2

*1奈良学園大学保健医療学部,*2篤友会千里山病院

当院では,約8年前からリハビリテーションと認知行動理論に基づいた心理的教育的なアプローチを軸とした集学的診療に取り組んでいる.初診患者のほとんどは慢性痛のために複数の医療機関で治療歴がある.精神科や心療内科への通院歴がある場合も少なくない.当院の診療チームには現在3名の公認心理士資格を持つものがおり,日常の診療で精神心理面の評価や治療を行っている.しかしながら,他院の精神科との連携が必要だった例を7例経験したのでケースシリーズとして報告する.精神科医療機関からの紹介が2名,当院から精神科医療機関に紹介したのは5例である.内訳は3例が自殺企図ないし強い自殺念慮のため,3例は双極性障害に対する薬物治療,1例は発達障害の評価目的であった.7例のうち2例は復職し,残り5例中4例は主婦ないし退職後であった.

慢性痛の診療において,痛みの原因となる疾患を鑑別することが困難な場合が少なくない.神経ブロックや薬物治療だけでは解決しないことも多い.痛みが慢性化する要因を患者ごとに判断して適切に対応することが重要であるが,医療者が提供できることには限りがあるのが現実である.当院では初診時から痛みの慢性化要因の評価を多職種で進め,個々の患者に適切にフィードバックすることを心がけ実績を積んできた.しかし,自殺への対応,双極性障害に対する薬物治療,発達障害の評価や支援などにおいては非力であることを認識し,利用可能な精神科医療機関との連携を進めた.

当院は厚生労働省による「慢性疼痛診療システム普及・モデ人材養成モデル事業(近畿地区)」において集学的診療の中心的な役割を担ってきた.当モデル事業の心身医学領域の事業において「精神科との連携」の必要性が指摘されているものの推進することは容易でない.連携する場合,その目的を明確にすることが重要である.

一般演題II–4

9  ストレスチェック制度(医療従事者について,集団分析)

畑中浩成 松川 隆

山梨大学麻酔科

【はじめに】現代はストレス社会である.コロナ禍によりストレスが増加した.メンタルヘルスは機敏であり,監督者,労働力,双方にハードルが高い.労働者のメンタルヘルス不調の発見のためストレスチェック制度が(心の健康管理)考案された.

【目的】ストレスチェック制度を医療従事者について検討した.

【方法】職業ストレス簡易調査票を集団分析した.質問項目は,1.心理的な負担の原因,2.心身の自覚症状(ストレス反応),3.同僚の支援.

【考察】心理的な負担のことを相談しづらい.ストレスチェック制度により,自分自身で解決の糸口がみつかる.自分自身で気づいていない心身不調が分かる.個人のメンタル不調の対応は個人対応だけでなく,組織の問題解決にもつながる.

ストレスチェック制度と実施者と労働者のcommunicationが重要であり,メンタル不調になっている労働者に制度を適用することが難しいことがある.また,労働者が,回答操作をすることもあり得る.ストレスチェック制度の結果が人事に利用されることもある.メンタルヘルス教育をすると労働者にも親しみやすくなるかもしれない.

ストレスチェック制度が身体の健康診断同様に世間にpopularになるようにしたい.

一般演題II–5

10  4年間診断されなかった症候性三叉神経痛の1症例

村谷忠利

洛西シミズ病院麻酔科

【症例】22歳男性.身長174 cm,体重70 kg.既往歴に上室性期外収縮と発作性頻拍があった.

【現病歴】4年前から特に誘因なく右頬部に痛みを自覚した.歯磨き,咀嚼時,階段の段差でも痛みを自覚する程度であった.近医で三叉神経痛と診断され加療中であったが,症状が改善しないため当科を受診された.

【臨床経過】身体所見として運動障害,神経障害はなかった.痛みはNRS 60,右頬部が中心でうずくような拍動性の痛みであり,トリガーポイントも確認できた.ミロガバリン10 mg・day−1が投与されていたが,効果は不十分であった.三叉神経痛の原因検索のため脳MRIを施行した.その結果,右小脳橋角部に腫瘍病変が確認できた.画像診断では類上皮腫の診断であった.診断基準を満たしたため,症候性三叉神経痛と診断し手術予定となった.本人に確認したところ,過去4年間脳CT,MRIなどの検査は受けていなかった.

【考察】若年者の三叉神経痛は症候性を疑う必要があるとされる.症候性三叉神経痛の原因として,帯状疱疹,転移性腫瘍,脳腫瘍,多発性硬化症や外傷などが挙げられる.また10%程度は小脳橋角部の類上皮腫や髄膜腫が原因とされており,本症例は典型例といえる.本症例の問題点として4年間画像診断を行わず加療していた点が挙げられる.三叉神経痛の診断時には,精査が必要とされている.本症例も早期に精査を行っていれば,患者に4年間の負担を強いることはなかったと考えられる.やはり臨床診断は基本を忠実に行うことが重要であると思われた.本症例は一般的な症候性三叉神経痛であり新奇性はない.しかしながら,典型的な症例として教材的意義も含め報告した.

【結語】4年間発見されなかった症候性三叉神経痛の1症例を経験した.

一般演題III 在宅ケア・緩和ケア,薬物療法など

一般演題III–1

11  ペインクリニック開業医が在宅医療を行う有用性

上川竜生

上川ペインクリニック

【はじめに】ペインクリニックにおける外来診療は,神経ブロックを中心とした痛み診療により患者の社会復帰を推進するフロー型ビジネスモデルである.一方で,神経障害性疼痛に対する薬物療法の進歩や抗凝固薬の使用頻度増加によって,神経ブロックを施行する症例は減少し収益が不安定化している.当院ではストック型ビジネスモデルである在宅医療も行っている.

【方法】2017年9月にビル診療の形態で開業し,外来診療と並行して在宅医療を開始した.外来診療,在宅医療それぞれの患者数,神経ブロック数,訪問診療・往診回数,看取り数の推移を調査した.また,ペインクリニシャンが担当すべき在宅症例を2例提示する.

【結果】外来診療のみでは損益分岐点を超えることはなく,コロナ禍でさらなる減益となった.一方で,在宅医療では順調に患者数が増加した.在宅医療を行うことでクリニックの収益を維持することが可能であった.

症例1:48歳女性,子宮頚がん,脊椎転移による下肢痛に対して持続くも膜下ブロックの管理を行うことで,看取りまで在宅療養が可能になった.

症例2:58歳女性,痛覚変調性疼痛,線維筋痛症として他院でオピオイド大量投与を受けていたが,通院困難となり当院に訪問診療を依頼された.フェンタニルクエン酸貼付剤1日用を12 mg/日から4 mg/日まで減量することで,オピオイドの乱用を防止して生活の質を改善できた.

【考察】在宅医療では医師をはじめ,歯科医師,訪問看護師,薬剤師,リハ専門職,ケアマネジャー,ヘルパーなど多職種連携を通じて患者の社会生活を支援する.在宅医療においても全身管理と痛みの緩和のための診断・治療は重要である.この際,麻酔科の各部門(麻酔,集中治療,ペインクリニック,緩和医療)で培った知識・技術が役立つ.

【結語】ペインクリニシャンの在宅医療への参加は単なる収益の安定化のみならず,麻酔科の特性を活かすことで地域包括ケアに重要な役割を持つことができる.

一般演題III–2

12  直腸テネスムスに対して神経破壊薬を用いた仙骨硬膜外ブロックが有効であった1例

松本直久*1 福永智栄*2 丸山真実*1 妹尾悠祐*1 南 絵里子*1 村田雄哉*1 岡部大輔*1 門馬和枝*1 小橋真司*1 石川慎一*1

*1姫路赤十字病院麻酔科,*2姫路赤十字病院緩和ケア内科

【はじめに】直腸テネスムスとは炎症や腫瘍の浸潤によって便の有無にかかわらず頻回に便意を催す状態である.極めて不快な感覚であるが確立された治療法はない.今回,神経破壊薬を用いた仙骨硬膜外ブロックが直腸テネスムスに有効な症例を経験したので報告する.

【症例】60歳代・女性.子宮頚がんに対して広範子宮全摘,両側付属器切除,骨盤内リンパ節郭清術を施行したが,化学療法施行中に子宮断端再発を示し,骨盤リンパ節転移,多発骨転移を合併した.手術から1年2カ月後に腹膜播種による閉塞性イレウスのために緊急入院となり,化学療法の治療効果が乏しいため,緩和ケアを主体とする治療方針となった.入院時より直腸テネスムスを訴えており,薬剤での症状緩和が難しく神経破壊薬を用いた神経ブロック療法を検討した.仙骨硬膜外ブロック(0.2%ロピバカイン10 ml)では短時間の症状消失が得られたが,不対神経節ブロック(無水エタノール4.5 ml)は無効であった.サドルブロックを試みたが穿刺が困難であったため,仙骨持続硬膜外カテーテルを留置し局所麻酔薬での効果を確認後,無水エタノール計6 ml(単回投与2 ml後,持続投与1 ml/hを2時間)を注入して症状の消失が得られた.直腸テネスムスの消失後は穏やかに過ごすことが可能となったため自宅退院となり,退院後6日目に永眠した.

【考察】神経破壊薬を用いた仙骨硬膜外ブロックは,会陰部痛に対する報告は散見するが直腸テネスムスに対する報告はない.サドルブロックと比較して鎮痛効果に劣るものの膀胱直腸障害のリスクが低いことがメリットである.疼痛を主としない直腸テネスムスの症状緩和として仙骨硬膜外ブロックは効果が期待でき,特に尿路変更やストマ造設のない症例においては有効な可能性がある.

【結語】直腸テネスムスに対して神経破壊薬を用いた仙骨硬膜外ブロックが有効な1例を経験した.

一般演題III–3

13  片頭痛に対するヒト化抗CGRPモノクローナル抗体製剤の投与により肩関節慢性術後疼痛が改善した1例

山中百優*1,2 永田沙也*1,5 高橋亜矢子*1,2 加藤直樹*2,4 須田万理*1,3 松田陽一*1,2,3

*1大阪大学大学院医学系研究科麻酔・集中治療医学教室,*2大阪大学医学部附属病院疼痛医療センター,*3大阪大学医学部附属病院緩和医療センター,*4大阪大学医学部附属病院リハビリテーション部,*5国立成育医療研究センター手術・集中治療部

【症例】47歳女性.X−2年,右肩痛が出現し,他院で石灰沈着性腱板炎と診断された.関節内ステロイド注射とリハビリテーションが施行されたが,痛みが増悪した.X−1年に観血的肩関節授動術,石灰除去,腱板修復術が施行されたが,術後も痛みと可動域制限が遷延したため,X年に当科へ紹介となった.右肩痛の強度は数値評価スケール(11-point numerical rating scale:NRS)で安静時2,動作時9であり,右肩関節可動域(自動/他動)は屈曲85/95度,外転60/70度,外旋0/0度であった.4週間の神経ブロック併用入院リハビリテーション,頚部神経根ブロック下に非観血的肩関節授動術を行い,全身麻酔下の右肩関節可動域が外転・屈曲は最大可動域まで,外旋は25度まで改善がみられたが,右肩痛は残存した.肩甲上神経および腋窩神経パルス高周波法を追加したが,安静時NRS 2,動作時NRS 6の右肩痛が持続し,右肩関節自動可動域制限も残存した(屈曲120度,外転90度,外旋10度).その後も右肩の痛みと可動域は変化なく経過していたが,退院6カ月後に併存症の片頭痛に対してフレマネズマブ皮下注射が施行されたところ,直後より右肩痛が緩和し,効果は1カ月以上持続した.フレマネズマブ皮下注射は3カ月間(計3回)継続され,右肩痛は安静時NRS 0,動作時NRS 2まで軽減し,自動可動域も屈曲150度,外転105度,外旋25度まで改善した.

【結語】ヒト化抗CGRPモノクローナル抗体製剤の効能は片頭痛の発症抑制のみであるが,他の慢性疼痛疾患においてもCGRPが痛みに関与し,同製剤が有効な患者群がある可能性が示唆された.

一般演題III–4

14  トラムセット®で重度の尿閉をきたした1症例

佐伯彩乃*1 高雄由美子*2 橋本和磨*1 石本大輔*1 永井貴子*2 佐藤史弥*1 廣瀬宗孝*1

*1兵庫医科大学麻酔科・疼痛制御科,*2兵庫医科大学ペインクリニック部

【はじめに】鎮痛目的で処方したトラムセット®で,重度の尿閉をきたした症例を経験したので報告する.

【症例】41歳,男性.X年10月末ごろより左下肢痛が出現し,整形外科受診したところ腰椎ヘルニアと診断され,疼痛管理目的で当科に11月10日に紹介受診となった.初診時の所見は左L5領域の軽度の感覚低下と痛みであった.これまでにも3回ほど同じ症状が出現したことがあったが,他には特に既往歴はなかった.外来でプレガバリン150 mg/分2を開始し,硬膜外ブロックを行った.翌週11月17日の再診日よりトラムセット®を4 T/分4で開始したところ,11月18日より徐々に排尿困難が出現し,11月21日に尿閉のため救急受診となった.導尿後一旦帰宅したが,やはり尿閉が続くため11月22日に再度受診,トラムセット®の副作用が疑われ中止となった.11月23日の午後より排尿ができるようになった.自己排尿が回復するまで,計4回(11/21 1回,11/22 2回,11/23 1回)の導尿が必要であった.下肢症状は硬膜外ブロックが有効で,数回の施行で軽快した.

【考察】トラムセット®はトラマールとアセトアミノフェン配合剤で,痛みに対して処方される機会も多い薬剤である.一般的な副作用としては,嘔気(約40%),便秘,眠気,めまい(各約20%)であるが,発現が1%未満であるものの尿閉の起こる可能性がある.これは含有しているトラマールの影響と推測される.

【結語】トラムセット®は使用機会の多い薬剤であるが,副作用として重度の尿閉が起こる可能性もある.

一般演題III–5

15  帯状疱疹の発症に新型コロナウイルスワクチン接種の関与が疑われた症例

岩元辰篤 白井 達 辻本宜敏 湯浅あかね 松本知之 石崎智哉子 楠瀬貴士

近畿大学医学部麻酔科学講座

帯状疱疹は,水痘に罹患したのち,体内に水痘帯状疱疹ウイルス(以下VZV)が潜伏し,そのウイルスが回帰感染することで発症する疾患である.新型コロナウイルス(COVID-19)の感染後に,VZVが再活性化され,帯状疱疹の発症が増加傾向にあるとして,その関連性についてこれまでも各国より複数の報告がある.今回,2回目と3回目のCOVID-19ワクチン接種後,短期間に帯状疱疹を発症した症例を経験したので報告する.

症例は,60歳,女性.X年11月に右腋窩から背部に痛みが感じその後,発疹が出現した(同年8月にCOVID-19ワクチン接種).近医の皮膚科で帯状疱疹との診断しアシクロビルとミロガバリンを処方されるが,痛みが持続するとして,X+1年1月当科を紹介受診となった.初診時,右第4,5胸神経領域に皮疹と視覚評価スケール(以下NRS)8の痛みを呈していた.眠気のため仕事に支障が出るとして,ミロガバリン7.5 mgを眠前にのみ内服していた.硬膜外ブロックが有効であり,同2月右第4,5胸神経神経根ブロック(パルス高周波法)を施行し,NRS 1まで低下したため終診となるが,2カ月後に痛みが再燃し外来でフォローしていた.同年7月に同領域に皮疹が出現し,近位皮膚科を受診.帯状疱疹再発の診断で抗ウイルス薬を投与させた.抗がん剤の使用や,その他の免疫不全の既往はなかったが,再発の3カ月前に3回目のCOVID-19ワクチン接種したとのことであった.

以上,短期間に帯状疱疹の発症を繰り返した症例を経験した.ワクチン接種時には短期間でも再発する可能性を念頭に置く必要がある.

一般演題IV インターベンショナル治療

一般演題IV–1

16  透視下後側方斜位アプローチによる頚神経根ブロック707回の手技的解析

橋爪圭司*1,4 山上裕章*2 岩田敏男*3,4 藤原亜紀*5 渡邉恵介*1,6

*1社会医療法人高清会高井病院ペインセンター,*2ヤマトペインクリニック,*3岩田ペインクリニック内科,*4社会医療法人高清会香芝旭が丘病院麻酔科,*5奈良県立医科大学麻酔科,*6奈良県立医科大学附属病院ペインセンター

【緒言】透視下に椎間孔へ直進する前側方・頚神経根ブロックは,脊髄穿刺や動脈血栓のリスクがある.前方法は手の被爆が多い.われわれは後側方斜位法(山上,1994)を行う.半斜位で後側方から穿刺し,椎間孔後壁の関節柱に接して針の方向を制限しつつ,椎間孔出口で神経根に達する.正面像で針が関節柱中央を越えず,斜位像で椎間孔造影があれば成功である.平行法で前・後結節間に進めるエコー下頚神経根ブロックと進路が近似し,しばしば優劣が議論される.後側方斜位法の手技を再評価した.

【方法】2016~2020年,高井病院で行った後側方斜位法の透視画像を後方視的に解析した.椎間孔造影が成功で,神経根,経椎間孔的硬膜外腔,周囲組織(椎間関節,腕神経叢,深頚神経叢,傍脊椎筋)の造影を調べた.血管造影(造影剤が消えてゆく)は,必ず針の修正・再造影をした.

【結果】260症例(男/女=136/124,平均62.4歳,頚椎疾患186,頚・上肢帯状疱疹74)に,707回(右292,左415,C3~8各73,78,129,315,89,23)行われた.椎間孔造影は668回でブロック成功率94.5%,左右差,疾患差はなかった.C8の成功率が低かった(82.6%).椎間孔からの神経根レリーフ像が619回(92.7%),経椎間孔的硬膜外腔が233回(34.9%)造影された.32回は周囲組織造影に終わった.静脈が135回(6回は修正不可),椎骨動脈が2回(1回は腕神経叢造影で終結),根動脈が4回(全て修正)造影され,いずれも針位置に問題なく,静脈注入の38.5%と,根動脈注入全例が椎間孔造影と同時であった.58回(8.6%)に放散痛があった以外,合併症はなかった.

【結論】本手技は神経上膜外ブロックである.血管注入は避けがたく,リアルタイム透視で厳密な判定が必須である.今回検出した血管注入は,エコーでは視認できないと思われた.

一般演題IV–2

17  神経根パルス高周波法が著効した帯状疱疹後掻痒の1症例

上北郁男 橋爪圭司 川居利有

社会医療法人高清会高井病院麻酔科ペインセンター

【症例】50歳台男性.既往歴なし.X−32日,左腰,大腿前面・内側,季肋部痛を発症し,数日後左大腿部に皮疹を認め,前医で左L2,3帯状疱疹と診断された.以下,内服薬は1日量で示す.バラシクロビル1,000 mg(7日間),アセトアミノフェン500 mg,ロキソプロフェン60 mgが無効でX−16日,当科に紹介された.左大腿部の持続痛と痒みがあり,左季肋部痛が強かった.電撃痛,睡眠障害はなかった.皮膚面積の約50%を占める皮疹が左L2,3領域に認められたが,感覚低下,allodynia,筋力低下はなかった.プレガバリン150 mg,アセトアミノフェン1,500 mgを投与し季肋部痛は消退したが,X−10日,大腿部痛と掻痒のため睡眠障害を訴え,左L2神経根ブロック(以下根ブ,0.5%メピバカイン0.8 ml,デキサメタゾン0.8 mg注入)とアルプラゾラム0.4 mgを投与した.X−7日の左L3根ブ(注入薬剤は同じ)も無効で,X−5日,入院して連日左L2,3根ブを予定した.X−4日(ブロック通算3回)に痛みは消失したが,強い掻痒が持続し,X−5日よりナルフラフィン2.5 µg,ヒドロキシジン50 mg,クロタミトン・ヒドロコルチゾン配合クリームを試みたが無効であった.ブロック通算5回でも掻痒が続くため,X−2日,左L2神経根パルス高周波法(以下根パルス,6分間)を試行,これも無効であったが,X−1日に左L3根パルスが著効し,掻痒は消退した.X日に再度左L3根パルスを行い退院し,その後も症状はおさまっている.

【考察】痛みと痒みは区別するが,帯状疱疹の痒みは神経障害性因子の関与が示唆されている.当科では急性期帯状疱疹痛に神経根ブロックを行うが,無効な場合は神経障害性因子が強いと判断して神経根パルス高周波や脊髄刺激療法を検討する.本症例は,帯状疱疹の痒みにも神経障害性因子が関与することを示唆する経過を示した.

一般演題IV–3

18  特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併した脳脊髄液漏出症(CSFL)の治療経験

山村祐司*1 渡邉恵介*2 藤原亜紀*1 木本勝大*1 吉村季恵*2 川口昌彦*1

*1奈良県立医科大学附属病院麻酔・ペインクリニック科,*2奈良県立医科大学附属病院ペインセンター

【症例】42歳男性.182 cm,73 kg.既往にITP(血小板数5万/µl程度)があるが,出血症状はなく無治療経過観察中であった.X−6カ月,突然の起立性頭痛と耳鳴りを自覚したが放置していた.X月初旬に頭痛が増強し,近医脳外科を受診し両側慢性硬膜下血腫と診断された.血小板減少のため症状の強い右側のみ穿頭血腫除去術を受けたが,6日後に左側も血腫が増大し穿頭血腫除去術を受けた.脊髄MRIでC3–T11の硬膜外腔液体貯留を認めCSFLを疑われた.X月下旬,硬膜外自家血パッチ(EBP)目的で当科紹介された.

Gd造影脳MRIで全周性硬膜肥厚像を認めCSFLを強く疑った.ITPについて当院血液内科に相談しプレドニゾロン15 mg/日の内服が開始された.1週間後10.4万/µlまで上昇し,翌週にEBPを予定した.術当日の再検で7.5万/µlと減少していたが,穿刺時の出血リスクと血小板輸血の副作用を総合的に判断し,患者に十分に説明の上,輸血せずにEBPを施行した.単回EBPでの治療完遂を目的に術中コンビームCTで自家血の広がりを確認し,不十分なら追加で穿刺を行う予定とした.X線透視下にT2/3で穿刺し,造影剤を混じた自家血20 mlを注入し頚部硬膜外造影像を確認した.術中胸部コンビームCT撮影を行いT12までの硬膜外造影を確認した.その後,胸部圧迫感があるまで追加注入し総量23 mlで終了した.術後胸椎CTでC2–T12の拡がりが確認できた.症状の軽減を認め,3日後に退院した.

【考察】経過からCSFLと判断し,出血リスクのある造影脊髄CTは行わなかった.ITP治療ガイドラインでは,血小板数3万/µl以上で出血症状のない場合は無治療経過観察し,外科的処置に際してステロイド薬やγグロブリン投与を検討する.効果不十分な場合は輸血もするが通常よりも多量を要することがあるとされる.血液内科との連携で不必要な輸血を避けることが肝要である.

【結語】ITPを合併したCSFLの患者に対して,血液内科と連携し,合併症なくEBPを施行できた.

一般演題IV–4

19  1年間に当科を受診した帯状疱疹関連痛症例の検討~遷延する要因~

湯浅あかね 岩元辰篤 辻本宜敏 松本知之 石﨑智哉子 楠瀬貴士 白井 達

近畿大学医学部麻酔科学講座

2021年1月から12月に当科を受診した帯状疱疹関連痛症例107例のうち,治療介入6カ月後も治療継続を要した37例について検討した.

37例中9例が数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)4以上(以下,N4群)で,NRS 0~3(以下,N3群)が28例であった.平均年齢はN4群で65.9±13.9歳,N3群で71.4±11.7歳であった.

N4,N3群の各発症部位別の症例数はそれぞれ三叉神経領域25例中2例,11例,頚神経領域17例中2例,5例,胸神経領域50例中4例,12例,腰神経領域16例中1例,0例,仙骨神経領域2例中,共に0例であった.

N4群9例中8例は発症から3カ月以内(うち5例は1カ月以内)に当科を受診しており,N4群全症例で抗ウイルス薬が投与されていた.N4群の8例で,免疫抑制剤,ステロイド,コントロール不良の糖尿病,重症皮疹など遷延化する要素を有していた.当科受診後はガバペンチノイドなどの薬物治療と並行して早期にインターベンショナル治療を導入されていた.

初診時の不安およびうつ尺度(hospital anxiety and depression scale:HADS),破局的思考スケール(pain catastrophizing scale:PCS)では,PCS 31点以上の症例はN4群で4例,N3群14例存在し,下位尺度の‘反芻’12点以上はそれぞれ8例,24例存在した.

以上,治療の遷延化にはPCS下位尺度の‘反芻’が関与していることが示唆された.また治療介入後6カ月が経過しても治療を必要とする(希望する)症例は全体の35%を占めたが,その過半数がNRS 0~3と軽度な痛みであることが判明した.この点から,適切なタイミングで医療者側からの治療中断の進言を試みることも重要と考える.

一般演題IV–5

20  帯状疱疹関連痛に対しDTM刺激を用いた一時的脊髄刺激療法を行った2症例の検討

米山勝康 山崎広之 長谷川湧也 矢部充英 森  隆

大阪公立大学大学院医学研究科麻酔科学

【緒言】近年,脊髄刺激療法において神経障害性疼痛悪化に関与する脊髄のグリア細胞に対する刺激モード(differential target multiplexed:DTM)が開発され,有効性が期待されている.今回われわれは,帯状疱疹関連痛に対しDTM刺激を用いた一時的脊髄刺激療法を行った2症例を経験したので報告する.

【症例1】73歳女性.左T12/L1領域の帯状疱疹関連痛のため発症3カ月目に当科紹介となった.当科外来治療で疼痛コントロールに難渋し,17カ月目に一時的脊髄刺激療法を行った.電極リードは疼痛部位への刺激感を確認しながら先端をT6椎体上縁のレベルで留置し,DTM刺激を開始した.開始後3日目まで疼痛は不変のため,tonic刺激に変更して軽度痛み緩和が得られた.8日目に電極リードを抜去した.入院前の痛みNRSは8/10で,治療後には6/10まで改善した.

【症例2】70歳女性.左L1領域の帯状疱疹関連痛のため発症1カ月目に当科紹介となった.外来治療で疼痛が残存し,4カ月目に一時的脊髄刺激療法を行った.電極リードをT9椎体上縁レベルで留置し,DTM刺激を開始した.翌日には疼痛改善の自覚があり,痛みの範囲も縮小傾向でありDTM刺激を継続する方針とした.11日目に電極リードを抜去し,NRSは入院前の6/10から3/10まで改善した.

【考察】DTM刺激は神経障害性疼痛の形成,増悪に影響する脊髄のグリア細胞にも影響を及ぼすことが動物実験で確認されている.今回,症例1ではDTM刺激開始後に疼痛改善の自覚が全くなく,tonic刺激へ変更となったが症例2では治療開始翌日から効果を認めた.発症から施行日までの間隔,痛みの強さ,罹患部位,電極留置部位,刺激期間等が有効性に影響を与えている可能性があり,今後も検討が必要である.

 
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