Journal of Japan Society of Pain Clinicians
Online ISSN : 1884-1791
Print ISSN : 1340-4903
ISSN-L : 1340-4903
[title in Japanese]
[in Japanese][in Japanese][in Japanese][in Japanese][in Japanese][in Japanese]
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 30 Issue 6 Pages 138-140

Details

I はじめに

近年,神経ブロックは超音波ガイド下で穿刺することが多い.しかし,ブロック部位観察だけにとどまる場合やランドマーク法で施行される場面も少なくない.今回,10年来の胸背部痛の原因であった神経鞘種発見に神経ブロック時に使用した超音波装置によるプレスキャンが役立った1例を経験したので報告する.

また,症例報告に関して,患者から書面による承諾を得ている.

II 症例

40歳代,男性.10年前より左前胸部から背部にかけて疼痛を認めていた.1年前より疼痛出現頻度が増し,椅子の背もたれに背中をつけることができないほどの痛みとなったため,ペインクリニック外来受診となった.前医でのCT・MRI等では原因となる所見が認められなかったが,初診時,左Th7領域に強い疼痛を認め,ピンポイントで前胸部および背部に疼痛が存在し,前胸部疼痛部位はNRS:10/10の激しい圧痛を認めた.特発性肋間神経痛と考えアミトリプチリン塩酸塩錠30 mg/日 分3で服用したが改善が乏しく,肋間神経ブロックを導入した.

ブロック開始当初は,腋窩後線上近傍でランドマーク法にて左Th7肋間神経ブロックを施行し,0.75%アナペイン1 mlを投与した.背部痛は改善したが,前胸部痛は一時的に改善するものの効果は持続しなかった.肋間神経ブロックの効果を確実にするため,超音波ガイド下で施行することとした.その際に,疼痛残存部位である前胸部を観察したところ,左第7肋骨周囲に腫瘤様陰影を認めた(図1A).

図1

疼痛部位のエコー所見(A)と当院で撮影した造影CT画像(B)

A:疼痛部位である左前胸部第7肋骨近傍に腫瘤様陰影を認めた.

B:前胸部左第7肋骨肋軟骨直上に造影効果乏しい内部不均一な腫瘤あり.

造影CT検査では,左第7肋軟骨直上に造影効果の乏しい腫瘤を認めた(図1B).さらにMRI検査では肋軟骨上にT1低信号,T2高信号の小結節を認めた.症状,画像所見から神経鞘腫が疑われたため整形外科へ紹介したところ,腫瘍摘出術が施行された.病理所見で神経鞘腫と確定診断された.腫瘍摘出後,前胸部痛は改善し,約1カ月後には症状は消失した.

III 考察

有痛性皮膚腫瘍として血管脂肪腫,血管平滑筋腫,血管芽細胞腫(中川),神経腫,神経鞘腫,グロームス腫瘍,顆粒細胞腫,エクリン螺旋腫,平滑筋腫などがよく知られている1).神経鞘腫はその中の一つであるが,胸壁原発のものは胸壁腫瘍切除例の1%,原発性胸壁腫瘍の5.6%とまれである2).通常胸壁神経鞘腫は肋間神経もしくは交感神経由来であるので,壁側胸膜のすぐ体表側に発生することが多いといわれている3).CT上,著明な造影効果があるとされる一方,決まった所見がないことも指摘されている.MRIではT1強調像で低信号,T2強調像で不均一な高信号を示すとされる2)

神経ブロックは近年,超音波ガイド下で施行されることが多くなった.一般的にランドマーク法では準備物品などが少ないため短時間での施行が可能であるが穿刺部で起こっていることは確認できない欠点がある.超音波ガイド下法では目的とする対象物の描出が可能であり,ブロック施行中の薬液の広がりを確認することができる.また,刺入経路の血管や神経を確認することができるため,血管・神経損傷などの合併症の発生リスクを減少することができる.Choiらが行った超音波ガイド下法と従来の神経確認法(ランドマーク,神経刺激)を比較したランダム化研究29編の解析では,大半の研究で超音波ガイド下法の優位性が評価されているという結果であった4).超音波機器によるスキャンをすることで神経ブロックの確実性が上がり,より高い安全性を得ることができると考えられる.そのため,超音波が使える環境であればその使用が推奨される.

また,超音波機器によるスキャンは皮下のような浅い部位の場合,mm単位の空間分解能で病変を特定することができる.今回の症例のように神経鞘腫としては非典型的なCTで造影不良な小さい腫瘤の場合,CT画像(図1B)では発見しにくいが,超音波では図1Aのように明らかに腫瘤様病変として特定できる.体表に近い腫瘤では高周波数の超音波による観察が可能で画像も鮮明に得られる.CTやMRIよりも病変同定に適している場合があり,観察のメリットは大きい.

一方で,神経ブロックを施行する部位が疼痛部位から離れた部位である場合,疼痛部位を超音波機器で観察をしないまま神経ブロックを施行することも多い.初期の画像診断では発見できず経時的に増大する腫瘤を見逃す可能性がある.本症例と同様に神経ブロックの際の超音波が疾患の診断に役立ったという症例報告もある5).現在ペインクリニック診療における超音波は,神経ブロックを安全に確実に行うための補助ツールとして使用されているが,同時に診断ツールとしても活用する必要がある.初診時・神経ブロック時に疼痛部位の超音波機器による観察をルーチン化することで,未知の病変の特定やその後の治療に寄与すると考えられた.

IV 結論

今回,神経ブロックの穿刺法をランドマーク法から超音波ガイド下法に変更した際に穿刺部位ではない疼痛部位も超音波で確認したことで腫瘍性病変を発見し,その後の治療につなげることができた症例を経験した.

超音波は神経ブロックの穿刺時に必要とされるだけでなく,診断にも活かせる可能性がある.超音波機器があれば積極的に超音波を使用することが推奨される.

この論文の要旨は,日本区域麻酔学会第7回学術集会(2020年8月,Web開催)において発表した.

文献
 
© 2023 Japan Society of Pain Clinicians
feedback
Top