2023 Volume 30 Issue 6 Pages 141-146
テーマ:疼痛治療と多職種連携
会 期:2023年2月25日(土)
会 場:千葉大学医学部附属病院外来棟3階ガーネットホール(ハイブリッド開催)
会 長:田口奈津子(千葉大学大学院医学研究院麻酔科学)
清水栄司
千葉大学大学院医学研究院認知行動生理学,千葉大学医学部附属病院認知行動療法センター,千葉大学医学部附属病院痛みセンター
慢性疼痛には薬物療法,神経ブロック療法,手術療法,運動・理学療法,認知行動療法などの多職種チームが提供する集学的治療が重要で,2019年に千葉大に痛みセンターが新設された.精神科では,2011年に千葉大の伊豫雅臣教授が「慢性疼痛の治療:患者さん用ワークブック―認知行動療法アプローチによる」(オーティスJD著,星和書店)を出版した.われわれは,医師,看護師,公認心理師,作業療法士,精神保健福祉士など多職種が貢献する国立大学初の認知行動療法センターを2016年に立ち上げた.厚労省難治性疾患政策研究事業(2017~2019年度)「慢性疼痛に対する認知行動療法の有効性の検証と医療経済評価及び医療機関からみた診療連携体制構築の医療経営分析」で,慢性疼痛の「統合」認知行動療法のマニュアルを開発した(https://www.cocoro.chiba-u.jp/pain/).そして,①慢性疼痛の個人認知行動療法のシングルアーム試験(Taguchi et al, 2021)で実用可能性を示し,②慢性疼痛のオンラインでの認知行動療法の効果に関する通常診療群を対照としたパイロット・ランダム化比較試験(Taguchi et al, 2021)を行った.結果,重篤な有害事象はみられず,認知行動療法が通常診療より,主要評価項目の疼痛強度に関しては有意差無しだが,副次評価項目の簡易疼痛質問票(Brief Pain Inventory:BPI)の11項目の総合スコア,特に,7項目の疼痛による生活への支障(interference)スコアで有意な改善を示し,費用対効果に優れることを報告した.さらに,認知行動療法の新しい4セッションの患者の体験の報告をした(Kutsuzawa K, et al. 2021).段階的ケアの普及のため,多職種での「メンタルサポート医療人とプロの連携養成」について論じたい.
戸部 賢
群馬大学医学部附属病院集中治療部
2022年度の診療報酬改定で『術後疼痛管理チーム加算(A242–2)』が新設され,1日100点の加算が取れるようになった.全身麻酔後で,継続的に術後鎮痛を行っている患者が対象となり,麻酔科医・看護師・薬剤師の3職種でチームとして質の高い術後鎮痛を行った際に3日間を限度に算定できるものである.もともと先行してそのような周術期管理チームで対応していた施設においては,算定は難しくないものかと思われるが,群馬大学ではそこまでのシステムはなく,まずは多職種で可能な範囲を設定して準備を行った.
周術期管理チームで年に数回の多職種ミーティングは行う体制があったため,まずは算定のために求められているプロトコルの作成や患者への周知を行うこととした.手術部運営委員会で各科とも情報共有して,メンバーの要件などを確認し,2022年7月より算定を開始した.業務量の負担を最小限の増加にとどめるため,実施は火曜日から金曜日に限定して開始した.8月の術後疼痛管理チーム加算算定件数は72件であり,その後も大きく算定件数が増えることもなく推移しているが,当面システムとして導入できたことに意義はあるかと考えている.
術後回復を早めるための周術期における多職種連携システムの確立は非常に重要で,周術期管理の効率化は病院経営にとっても非常にメリットが大きい.一方で大学病院のような施設において,その実施にはハードルが多く,スムーズに進まないことも多い.今回は新たに診療報酬が付いたということと既存のメンバーの連携で算定が可能であったことで,比較的スムーズに開始することができた.体制としてはいまだ十分とはいえず,算定のためのチーム診療で終わることのないように,全ての手術を受ける患者の術後管理の質を上げて,早期回復・早期退院に結びつけていけるように引き続き努力していく必要があると考える.
周麻酔期看護師と病棟看護師の協働で行う術後鎮痛管理澤渡佑子
信州大学医学部附属病院看護部
適切な術後痛管理は,術後の機能回復,早期社会復帰を促進するとともに,患者満足にも直結する.より質の高い術後痛管理が求められる一方で,昨今の麻酔科医不足,在院日数の短縮化,さらには医師の働き方改革により,術後痛管理に十分な人手と時間を費やすことが難しい状況にある.信州大学医学部附属病院(以下当院)では,麻酔科医と周麻酔期看護師(perianesthesia nurse,以下PAN)を中心に,病棟看護師を巻き込んだ術後痛管理システムの構築を通して,術後痛管理の質向上と効率化に向けて取り組んでいる.
当院では,原則として各外科系診療科医師の責任で術後痛管理を行っている.複合的な要素が絡む術後痛のコントロールには多角的鎮痛(multimodal analgesia)が有用であるが,オピオイド鎮痛薬単剤に頼った処方,定時薬がなく頓服薬のみの処方となっている診療科も多い.また,実際に与薬を行う看護師にも,術後鎮痛に対する姿勢や知識にばらつきがあり,全ての患者に平等に術後鎮痛サービスが行き届いていない現状がある.このような中,麻酔科術後回診チームは日々病棟ラウンドを通して術後患者の状況を確認し,必要に応じて担当医師や病棟担当看護師に術後鎮痛管理・ケアに関する提案,アドバイスを行っている.しかし,術後回診チームメンバーのみで全ての術後患者をもれなくカバーすることは容易ではない.
術後鎮痛管理は,刻一刻と変化する痛みの状況や患者の活動状況に応じて継続的,ダイナミックに関わっていく必要があり,それには専従チームのラウンドだけでなく,患者の最も身近なところでケアを行う病棟看護師の理解と協力が欠かせない.
効果的な術後痛管理を行う上で核となるのはPANと病棟看護師であると考える.多職種で作成した「術後鎮痛プロトコル」を活用し,院内の術後痛管理の均一化を図るとともに,PANと病棟看護師が中心となって展開する新たな術後痛管理システムの確立を目指している.
慢性疼痛に対して認知行動療法と運動療法を併用するためのツール大鶴直史
新潟医療福祉大学リハビリテーション学部理学療法学科
認知行動療法と運動療法は,双方ともに国内外のガイドラインにおいて,慢性疼痛への有効性が示されている.理学療法士の立場からは,臨床の現場において両者をどのようにうまく併用していくかが重要である.慢性疼痛を抱える対象者においては,多様な心理的要因および社会的要因が痛みに影響を及ぼしている.例えば,痛みに対する強い破局的思考により極端な回避行動を認めたり,運動に対する強い恐怖心により運動の導入に苦慮することもある.一方で,一過性の過活動後に痛みが増大するような,ペーシングに問題があることも多い.よって,患者個別の生活および身体の状態を把握し,特徴的な認知過程を見いだし,活動量を適切にコントロールすることが重要となる.しかしながら,リハビリテーション現場において運動療法と認知行動療法を併用するのは,容易ではない.その一因としては,対象者と医療従事者が協同して取り組むべき課題を,うまく見いだせないことが想定される.そこでわれわれは,日々の外来における慢性疼痛治療において認知行動療法に基づく運動促進法を実施するために,「いきいきリハビリノート」を開発し,介入を試みてきた.本シンポジウムでは,本ノートの概要を説明するとともに,その実際に関して話題提供をし,議論を深めたい.
慢性疼痛における認知行動療法の適応について清水啓介
千葉大学未来医療教育研究機構
非特異的慢性疼痛には器質的要因のみならず心理社会的要因の関与が示唆されており,通常の整形外科的治療に加えて認知行動療法(以下CBT)が推奨されているが,CBTの適用ガイドラインは存在しない.結果,本来治療が適さない患者のスクリーニングができず,治療効果が低いことが問題となっている.今後CBTを行う上で患者側の治療阻害要因を明確とする必要があるが,先行研究ではCBTの治療促進因子の検討にとどまり,CBTに全く反応を示さなかった患者の考察がなされていない.そこで,われわれ研究グループではCBTの治療効果を阻害する患者側の因子について検討した.結果,不応群の固有因子として,言語化できない強い不安感が生じていること,親密な関係への欲求が非常に強く医療依存の傾向が強いこと,言語性IQが低いこと,ADHD傾向,感情的な価値判断をする傾向が存在することが分かり,客観的に痛みを表現したり意味づけたりする能力の低さが示唆された.
また,簡易脳波計を活用したα波のニューロフィードバックトレーニング(以下NFT)の介入試験においてはNFTを併用した群において治療効果のeffect sizeが大きいことが分かり,さらに慢性化後1年以内の早期にCBTを開始することが重要であるといえた.NFT実施前後でα波の上昇を全く認めない群が存在し,本群においてはCBTも一切無効であるケースが多く,ROC解析を実施したところ,上昇率42%未満の患者においてはCBT不応である可能性が高い(感度0.75,特異度0.84)といえた.つまりNFTで脳の状態をコントロールできる人はCBTでも思考や行動をコントロールできる,ということである.本研究成果については特許申請中である.
長田舞奈 舘田賢一 小松崎 誠 佐藤雄也 沼田祐貴 篠崎未緒 濱口眞輔
獨協医科大学医学部麻酔科学講座
【緒言】診断に難渋している右前胸部痛の症例について報告する.
【症例】39歳男性,農業従事.
家族歴:特記事項無し.
生活歴:特記事項無し.
主 訴:右前胸部痛.
既往歴:X−3年,リウマチ因子高値に対する精査で,異常を指摘されなかった.
現病歴:X年に前屈位や咳嗽時に右前胸部の激痛が生じたとの訴えで近医を受診したが,明らかな異常を指摘されず,非ステロイド性抗炎症薬やアセトアミノフェンの内服では痛みが軽減しないために,当院を紹介された.当院の内科では心疾患を否定され,総合診療科では慢性甲状腺炎と胸骨筋症候群と診断されたが,疼痛が緩和できないために当科を紹介された.
現 症:患者の疼痛部位は右胸鎖関節から,第3肋骨付近にみられ,明らかな局在性は示せなかった.X線検査やCT,MRIでは同部位の骨関節病変は確認できず,当科でもTietze病と胸骨筋症候群と臨床診断した.
治療経過:患者は痛みの原因特定を強く希望したため,超音波ガイド下に右胸鎖関節腔内注を行ったが,痛みは軽減しなかった.次いで行ったT2/3硬膜外ブロックで痛みが消失したため,以後はT2/3硬膜外ブロックを反復で痛み軽減傾向にあり,われわれは胸椎椎間板ヘルニアと診断して,整形外科医とともに前屈に近い姿勢での画像診断に取り掛かっている.
【考察】初診時に胸痛を主訴とした患者の最終診断は心疾患13%,呼吸器疾患20%,消化器疾患10%,筋骨格系20%,肋間神経痛8%,心因性17%とされている.このうち,筋骨格系疾患の中でも胸椎椎間板ヘルニアは脊椎ヘルニアの0.4~3%と頻度は少ないため,診断はさらに困難となる.本症例では,胸部硬膜外ブロックで痛みが消失したことから胸椎椎間板ヘルニアと考えたが,確定診断には至っておらず,今後の精査が必要となる.いずれにせよ,胸部硬膜外ブロックは診断を進める上での有用な選択肢であると考えた.
2. 妊娠後期の腹部痛に対して持続硬膜外麻酔による疼痛管理を施行した1症例吉田達矢*1 山田真紀子*2 太田 浄*3 齋藤 繁*3
*1群馬大学医学部附属病院麻酔・集中治療科,*2群馬大学医学部附属病院腫瘍センター,*3群馬大学大学院医学系研究科麻酔神経科学
【目的】今回,腸管癒着によると思われる上腹部痛に対して,妊娠32週から約4週間の持続硬膜外麻酔を実施し,無事に出産に至った症例を経験したので報告する.
【症例】35歳女性.妊娠18週4日に腹膜炎と診断され前医で入院加療が行われた.その後に切迫早産のため,妊娠30週4日に当院産婦人科に入院となった.妊娠31週2日から上腹部痛が出現しアセトアミノフェンやペンタゾシンが投与されたが,疼痛コントロールが難しいことから妊娠31週5日に当科ペインクリニックを受診した.痛みの原因は子宮筋腫の変性によると考えられていたが,左上腹部のTh8領域に限局した間欠的な痛みを認めた.既往に開腹歴があり,妊娠前から同部位に痛みを認めていたこと,前医のCT画像で腎下極付近に小腸の癒着が疑われる所見があったことから,痛みの原因は腸管癒着による疝痛と推測した.妊娠32週2日より悪心,嘔吐が出現しサブイレウスが疑われ,同時に鎮痛薬での疼痛コントロールが難しくなったことから,その翌日に持続硬膜外麻酔を実施した.硬膜外カテーテルはTh9/10から留置し,冷感検査法でTh6~9領域の知覚低下を確認後,0.125%レボブピバカイン4 ml/hの持続投与を開始した.その後は弱い痛みを感じることもあったが強い痛みはなく,絶食管理とともに痛みは消失した.硬膜外カテーテルは2回入れ替えを行い,妊娠36週1日に抜去した.抜去後は一時的に腹緊張を認めたが自然軽快し,妊娠37週3日に経腟分娩にて母子ともに問題なく出産した.
【考察】妊娠中の持続硬膜外麻酔に際し,本症例は妊娠後期であったことから陣痛等の痛みによって発見されうる妊娠経過の変化が修飾されすぎないよう痛みの完全な消失は目指さないことを前提として,低濃度の局所麻酔薬で持続硬膜外麻酔を行った.結果的に良好な疼痛コントロールを得ながら感染等の副作用を認めずに管理することができた.
3. 局所麻酔薬のみの神経ブロックが有効であった難治性がん疼痛患者2症例の検討橋田真由美 山田ことの 竹生浩人 高井啓有 鍾野弘洋 田口奈津子
千葉大学医学部附属病院麻酔・疼痛・緩和医療科
【はじめに】令和4年8月,がん診療連携拠点病院の整備内容に疼痛緩和のための神経ブロック等について,連携体制を確認することが新たに追加された.神経破壊薬を用いたブロックは比較的侵襲度の高い治療であり,適応には慎重にならざるを得ない.今回われわれはがん疼痛治療の過程で局所麻酔薬による神経ブロックが一時的な痛みの増強に対して有効に作用した症例を経験したため報告する.
【症例1】50代女性.乳がん多発骨転移のため複数部位の放射線治療歴があり,疼痛コントロール目的での入院中に突然強い右側胸部痛のため体動困難となり,酸素飽和度92%への低下を認めた.病的肋骨骨折が原因と考えられ,第8,第9肋間神経ブロックを局所麻酔薬のみで行ったところ,ブロック直後より痛みの軽減を認め,深呼吸が可能となり酸素飽和度の改善を認め入浴なども行えた.その後胸椎および肋骨に対する放射線治療を追加し,在宅へ移行した.
【症例2】80代男性.前立腺がん再発にて加療中であったが,自宅で朝体動困難となり救急搬送となった.原因は第12胸椎圧迫骨折であったが,画像上骨転移は否定的であり,骨粗鬆症が原因と考えられた.トラマドール製剤を用いた鎮痛を図ったが,痛みのためほぼ寝たきりの生活となっていた.局所麻酔薬を用いた硬膜外ブロックを施行したところ,翌日よりリハビリでの行動拡大が進み,その後施設へ転出となった.
【考察】局所麻酔薬を用いた神経ブロックは強い効果を認めるものの,その作用時間は一時的であり,がん疼痛治療への適応は一般的ではない.一方骨折に伴う痛みはオピオイド治療では除痛不十分であることをしばしば経験する.局所麻酔薬であっても針を刺すという侵襲的行為であり,永久ブロック同様に患者の理解が必須であるが,即効性のある治療の選択肢として有用であると考えられた.
4. 腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア修復術後の腹部痛の治療経験傳田定平 百瀬未来 日比野亮信 權 斎増 渡邉美子 小村玲子 西巻浩伸
新潟市民病院ペインクリニック外科・麻酔科
【症例】73歳 女性 身長160 cm 体重61 kg
【主訴】臍下部の痛み.
【現病歴】X年1月6日S状結腸がんに対し当院消化器外科にて腹腔鏡下S状結腸切除施行.術後,臍部創の瘢痕ヘルニアとなり7月7日腹腔鏡下ヘルニア修復術施行.術後より腹部の痛みが出現しロキソプロフェンが処方されたが疼痛軽減せず10月18日当科紹介となる.
【経過】臍から下全体の痛み.腹部を軽く触れると痛み増強.立位が最も痛みが強く,座位,臥位の順に痛みが軽減,前屈位で痛みが増強する.試験的にリドカイン点滴療法を10月18日,11月1日に実施すると疼痛軽減するが短時間の効果であった.11月15日Carnett徴候,pinchテスト陽性から腹壁瘢痕ヘルニア術後の腹壁由来の痛みを疑い超音波ガイド下に腹直筋鞘ブロック,後方腹横筋膜面ブロックを左右に実施した.11月22日「10ある痛みが3~4に減った」の発言があり,同ブロックを再度実施した.12月27日「強い痛みはなくなった」「趣味のウクレレを演奏できる」の発言があったが「社交ダンスは踊れない」とのことであった.同日3回目のブロックを行い,末梢神経障害性疼痛と考えミロガバリン(5 mg/T 2T 2×)を開始し,さらなる日常生活を送る上での改善をみている.
【考察】痛みの原因は自覚症状および他覚的所見から腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア修復術後,腹壁を支配する神経の絞扼および刺激によるものと考え腹壁の神経ブロックを行い除痛を得た.腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア修復術は腹腔内全体を視認し確実にメッシュをおくことを可能とする.また術後創感染の低下,在院日数の短縮,美容の観点からも優れた方法であるが一定の割合で術後に腹部の痛みが出現し患者の満足度を低下させる要因となっている.
5. 血管肉腫の骨転移性疼痛に対してタペンタドールが有効であった1例藤田 怜 萩原知美 井上 敬 小板橋俊哉
東京歯科大学市川総合病院麻酔科
【背景】タペンタドールは骨転移性疼痛の緩和に対して臨床的に広く使用されているが,その有効性に関する報告は少ない.今回,血管肉腫の骨転移性疼痛に対してタペンタドールが有効であった症例を経験した.
【症例】48歳男性.6カ月前からの腰痛を主訴に前医整形外科を受診し,心臓腫瘍および多発骨転移を指摘され,精査・疼痛緩和目的に当院心臓血管外科を紹介受診した.右第6肋骨転移巣生検より血管肉腫と診断された.骨盤骨および多発脊椎転移に伴うNRS 5~7程度の腰痛・背部痛に対して,前医より処方された非オピオイド鎮痛薬に加え,第1病日よりタペンタドール200 mg/日投与開始したところ,翌日には安静時痛はNRS 2まで改善し良好な睡眠が得られた.体動時痛に対しては,第6病日よりヒドロモルフォン即放性製剤2 mg/回を投与開始した.腰背部痛の緩和は得られたものの,右腸骨転移に伴う右臀部痛がNRS 5~6程度に増悪したため,第7病日よりタペンタドール300 mg/日へ増量したところ,右臀部痛はNRS 0~3程度まで改善し病棟内歩行可能となった.オピオイドの量を調整し,最終的にタペンタドール400 mg/日まで増量したところで自宅退院可能となった.入院期間を通じて眠気や消化器症状等の副作用は認めなかった.退院6日後の外来受診まで疼痛コントロールは良好であり副作用も認めなかった.
【考察】血管肉腫は全肉腫の2%を占めるまれな腫瘍であり,好発部位として頭頚部皮膚,肝臓,心臓等が多い.タペンタドールはオピオイドµ受容体動作用とノルアドレナリン再取り込み抑制作用を有する比較的新しいオピオイドであり,その鎮痛効果に比してオピオイド特有の副作用が少ないことが特長である.本症例ではタペンタドール導入後早期から骨転移性疼痛に対して有効に作用し,良好な鎮痛効果とADL改善を認めた.まれな疾患である血管肉腫の骨転移性疼痛に対してタペンタドールが有効な可能性がある.
6. 当科における慢性疼痛に対するオピオイド処方の現状と減量の実際山田ことの 竹生浩人 橋田真由美 高井啓有 鐘野弘洋 田口奈津子
千葉大学医学部附属病院麻酔・疼痛・緩和医療科
【背景・目的】慢性疼痛治療ガイドラインにおいて,慢性疼痛に対するオピオイド使用は副作用や長期投与による依存,耐性形成などの問題点から強く推奨はされていない.今回,当科における慢性疼痛に対するオピオイド処方の現状を知り,適正な使用方法を検討するとともに,オピオイド減量の成功例から成功要因を探索し,今後の診療に応用することを目的とした.
【方法】2020年11月の時点で,当科を受診した患者700人/月のうち,慢性疼痛に対して強オピオイドを処方された患者24例を対象とし,2年間の経過を電子カルテ上で追跡した.
【結果】患者の男女比8:16,平均年齢は63.6±11.7歳であった.使用期間の中央値は120[87~209]カ月であり,オピオイド使用開始時の平均年齢は51.8歳だった.原疾患としては運動器疼痛(42%)が最多であり,複合性局所疼痛症候群(21%),神経障害性疼痛(13%),線維筋痛症(8%),その他(16%)だった.オピオイドの使用量は経口モルヒネ換算で中央値90[46.5~137.5]mgであった.副作用としては,便秘(67%),眠気(46%),動悸(17%),嘔気(8%)の順に多かった.オピオイド減量に成功したのは11例(46%),そのうち強オピオイドの中止に至った症例は5例(21%)であった.成功要因として年齢,性別,使用量,使用期間,原疾患,オピオイド種類,副作用の有無に有意な差は認めなかった.介入方法として,リハビリテーションや認知行動療法,強オピオイド以外の薬剤追加(トラマドール徐放性剤,トラゾドン塩酸塩)が有用だった.
【考察】当科においては比較的若年でオピオイドを開始されていることが多く,長期にわたって大量のオピオイドを使用している症例が多かった.一度開始した強オピオイドを離脱することは難しく,慢性疼痛に対して処方する際には,適正な使用法と多職種による連携した適切な中止方法を含めた共通したプロトコルを作成する必要がある.
7. 医療従事者のストレスチェック制度畑中浩成 松川 隆
山梨大学医学部附属病院麻酔科
【はじめに】コロナ禍,緊急事態発令以降ストレス不調者が増加している.マンパワー不足により周囲からのサポートができず,負のスパイラルに陥っている.ストレスは血圧や体重とは異なり分かりにくい.メンタルヘルス不調を未然に防止するためにストレスチェック制度が創設された.心理的な負担の程度を把握する.本人にその結果を通知する.メンタルヘルスを未然に防止と職場の改善を目指す.
【目的】ストレスチェック制度の結果判定について,後向きに研究した.
【方法】厚生労働省職業性簡易調査票を使用した.2018年から2021年まで1年に1回実施した.病院職員を対象.
A.仕事について(ストレス因子,量的,質的,自由度,コントロール度,裁量負担)
B.最近1カ月間の状態(ストレス反応,活気,イライラ感)
C.周りの方からの支援(communication,上司,同僚,頼り)
個人のストレス結果を集団ごとに集計,分析した.高ストレス者は,自覚症状があり,周囲のサポート状況が悪い者と定義した.
【結果】若年者,非常勤に高ストレス者が多かった.
【考察】結果がみえる化でき,疲労の蓄積を自己判定できた.高ストレス者を定量的に把握できた.隠れ高ストレス者が判明した.労働者自身のストレスへの気付きを促した.職場ドックは,職場のストレス要因を評価できた.毎年の検査による経年的にみえる化ができた.PDCA cycleを回し長期的なfollowが必要と思われた.web systemで受検できるため職員のhurdleを下げた.管理者の責任追及,現場批判になる可能性も認められた.管理者から職員へのtop downでは,やらされ感があった.従業員参加も必要と思われた.自分達の利点についても検討するとよいかもしれない.メンタルヘルスは機微な話題であるため職員の警戒心が強く協力が得られにくかった.ストレスチェックでも解決できない場合,医師面接,管理職によるfollowも必要と思われた.
8. 左室機能低下を伴う高齢者の神経障害性疼痛に対して薬物治療を施行した1例太田 浄 廣木忠直 三枝里江 麻生知寿 齋藤 繁
群馬大学医学部附属病院麻酔・集中治療科
今回われわれは左室機能低下を伴う高齢者の神経障害性疼痛に対して薬物治療を施行し,良好な鎮痛効果を得た1例を経験したため報告する.
【症例】80歳代の男性.下肢閉塞性動脈硬化症でA病院循環器内科通院中であった.左浅大腿動脈に留置したステントの急性閉塞で入院した.血管内治療・抗凝固療法で救肢でき,虚血の残存は認めなかったが,退院後より左下肢痛の増悪を認めた.急性閉塞時の阻血による神経障害性疼痛の可能性を考え,退院2カ月後に当科初診となった.合併症にうっ血性心不全(左室駆出率20~25%),狭心症,高血圧,糖尿病,前立腺肥大を認めたが,腎機能は正常であった.左足趾を最強点とするNRS 8~10/10の電撃痛を認め,虚血による末梢神経障害が原因の神経障害性疼痛と診断した.アセトアミノフェン800 mg/dayを内服しており,尿閉の出現を懸念し抗うつ薬ではなくガパペンチノイドであるミロガバリン5 mg/dayを追加処方した.1週間おきに5→10→15 mg/dayと増量したところ,軽度の眠気を認めたものの,痛み範囲の縮小も認めたため,4週後の再診でミロガバリン20 mg/day,アセトアミノフェン1,200 mg/dayに増量した.増量後より下肢の浮腫症状が増悪を認めたため,3日後にミロガバリンを15 mg/dayに減量したが,さらに痛み症状の改善を認めたため,4週後の受診でミロガバリンを10 mg/dayに減量した.浮腫はさらに軽減したものの痛みの増悪を認め,15 mg/dayに内服量を戻し,NRS 3~4/10と痛み症状は改善している.
【考察】本症例ではミロガバリンによる浮腫の副作用が生じたが,2.5 mg製剤を処方し副作用出現時には自己判断で減量してもよいと伝え,10 mg/dayへの減量時も必要があれば増量してよいと伝えていたため,症状の変化に迅速に対応できた.高齢者の場合には特に治療薬による副作用や合併症の増悪を念頭に置く必要がある.また常に治療薬の減量・中止の可能性を検討することが患者の生活の質を上げると考える.
9. 疼痛外来に紹介される帯状疱疹後神経痛患者に関する検討竹生浩人 田口奈津子 山田ことの
千葉大学医学部附属病院麻酔・疼痛・緩和医療科
【背景】帯状疱疹後神経痛(post herpetic neuralgia:PHN)は水疱帯状疱疹ウイルスによる神経障害を原因とする神経障害性疼痛である.本邦において,帯状疱疹に罹患する患者は増加傾向であり,それに伴いPHN患者も増加していくと考えられる.疼痛外来に紹介されるPHN患者は難治性と考えられるが,今回は受診時の情報から,難治性と判断される因子に関して検討を行うこととした.当研究はオプトアウトにより患者の権利を保障する.
【方法】対象は2017年10月から2022年9月の間に当院ペインクリニック外来および痛みセンター外来を受診したPHN患者とする.患者情報に関しては電子カルテを用いて,後方視的に情報を収集した.主要評価項目は,患者のNRSに関連する因子とする.統計解析はEZRを用いて行った.
【結果】対象となった患者は145名(男性58名,女性87名)であった.重回帰分析(調整済みR2=0.082,p=0.016)を行ったところ,年齢(回帰係数推定値:0.044±0.018,p=0.013)およびDN4問診表の点数(回帰係数推定値:0.40±0.12,p<0.01)で有意差を認めた.当院受診時の使用薬剤としてはプレガバリンが多かったため,プレガバリン使用患者のNRS,DN4,allodyniaの有無について解析を行ったが,いずれも有意差を認めなかった.
【考察】神経障害性疼痛の要素が強い高齢者が難治性のPHNと診断される傾向にあると考えられる.紹介元で神経障害性疼痛の要素が高いと判断される要素の一つに,プレガバリンの効果が低いということが挙げられると考えられる.65歳以上の高齢者はPHNへの移行因子の一つといわれており,患者の高齢化が難治性PHNを増加させている要因とも考えられる.
【結語】当研究は後方視研究であり,治療介入による改善の有無に関しては調査を行っていない.今後は改善する因子を含めて前向きに検討してく必要があると考えられる.