2023 Volume 30 Issue 6 Pages 147-155
会 期:2023年1月28日(土)
会 場:福祉保健研修交流センターウィリング横浜12階
会 長:新堀博展(緩和会横浜クリニック)
テーマ:知と技の伝承
川井康嗣
仙台ペインクリニック石巻分院
慢性痛は急性痛と異なり,痛みに対処することだけでは解決に至らないことが多く,治療において多面的な問題把握と柔軟な解決法が求められる疾患であると思われます.そのため,直接,またはおおよそ痛みとは関係がなさそうな学問からの学びが有用となる場合があります.慢性痛は患者把握が重要であり,心理学や精神科学が有用なのは言うまでもありませんが,演者が主に製薬企業在籍時に触れ,かつ現在も慢性痛診療に活用している学問−行動経済学,経営学,教育学,防災学など−からの叡智やTIPSを紹介します.皆さまの慢性痛診療において解決の一助となれば幸いです.
中川雅之
NTT東日本関東病院ペインクリニック科
腰痛にはさまざまな要因があるが,椎間板の異常も腰痛の原因となる.椎間板が原因となる痛みには,椎間板ヘルニア,脊柱管狭窄症,椎間板性腰痛がある.画像診断にはMRIが有効であるが,十分であるとは言えない.椎間板造影による再現痛の有無,椎間板造影後のCTで,より詳しい診断が可能となる.
椎間板に対する治療には,椎間板ブロック,椎骨洞神経ブロック,椎間板加圧,コントリアーゼ注入,椎間板パルス高周波,椎間板高周波熱凝固,経皮的椎間板髄核摘出術など多くの治療法があるが,手技はほぼ同様で椎間板穿刺さえできれば容易に施行できる.椎間板穿刺を身につければ,痛みの診断と治療の両方に役立てることが可能となる.椎間板穿刺ができない施設であっても,治療により椎間板がどのような変化を起こすかを理解することは,診断・治療の役に立つ.
椎間板の異常による腰痛の診断・治療のポイントは,髄核は変性を起こすこと,髄核は後縦靱帯から脱出すると吸収されることの二つの特徴を理解することにある.髄核の変性,吸収を治療に結び付けるためには,MRIをよく見ることが大切である.椎間板や椎間板周囲組織に起こっている病態や治療後に起こる変化を想像しながらMRIを見ると椎間板の見え方が変わる.椎間板治療を通して椎間板の見方を変え,明日からの診療に役立ててもらうことが本講演の狙いである.
1–2 がん性疼痛に対して麻酔科医ができること~透視下内臓神経ブロック(経椎間板法)再考~柳泉亮太
横浜市立大学附属市民総合医療センター麻酔科・緩和ケアチーム
演者は麻酔科医師として手術麻酔のトレーニングを積んだ後,ペインクリニックおよび緩和医療を学んだ.現在は手術麻酔業務に加えて緩和ケアチームの一員として大学病院でのがん性疼痛の緩和に携わっている.がん性疼痛のコントロールはオピオイドを中心とした薬物療法がメインではあるが,それだけでは疼痛コントロールに限界を感じる症例にもしばしば遭遇する.その際にインターベンション治療を提供できることは麻酔科出身のペインクリニシャンの強みである.
本講演ではがん性疼痛に対するインターベンション治療の中で最も有効性が確認されている腹腔神経叢ブロックを取り上げる.さまざまな手法で実施されてきた本ブロックだが,ここでは演者が簡便性および安全性の点で一番と考える「透視下内臓神経ブロック(経椎間板法)」について実際の症例を提示しながらお話しする.
本ブロックは膵がんを代表とする難治性のがん性疼痛の緩和に非常に有効な手段ではあるが,実際に施行する術者は全国的にも減少している.その原因として薬物療法の進歩による施行機会の減少がしばしば言及されるが,演者はペインクリニックの「社会的認知」の向上が,がん性疼痛に対するペインクリニシャンの関与・関心の低下にもつながったのではないかと推察している.昨今,ペインクリニック分野でも学際的痛み治療が言われるようになり,神経ブロック療法の比重が以前よりも下がってきたという意見もあるが,がん性疼痛に対する集学的痛み治療にこそ,痛み治療に経験豊富なペインクリニシャンの神経ブロック技術が活きると考える.
偉大な先人たちが培ってきた技術を継承していくことは重要であり,まさに本学術集会のテーマである「知と技の伝承」である.本講演が少しでもペインクリニシャンの先生方にがん性疼痛治療への興味を持っていただけるきっかけとなれば幸甚である.
1–3 三叉神経痛を低侵襲手術でコントロールする矢﨑貴仁
秋山脳神経外科病院
三叉神経痛は食事,歯磨き,冷風などをトリガーとして顔面に短時間の激痛が間欠的に起きる病態である.繰り返し経験しているうちに精神的ストレスが増えメンタル不調をきたしたり,時には食事ができなくなることもあり快適な生活を維持するためだけでなく,生命を維持する上でも症状の軽減が必須になる場合が多い.三叉神経痛は腫瘍などが原因となる場合もあるが,ほとんどの場合は三叉神経が脳幹から分岐した付近で近傍を走行する血管が神経に接触・圧迫することが原因となっている.したがって症状としてのペインコントロールが大切であることは言うまでもないが,根本的な原因を取り除くこと,つまり手術が唯一の根治療法となる.私どもは,長い歴史を有する神経減圧術(保険手術名:頭蓋内微小血管減圧術)に複数の改良を重ね,患者さまへの手術時の負担軽減,手術時間の短縮,入院期間の短縮,そして何より手術合併症と後遺症の抑制を極力実現した術式を開発し実用化しているのでご紹介させていただきたい.近年は痛みのクリニックと連携することで,この手術とペインコントロールを時期を見ながら組み合わせ,患者さまの苦痛を極力軽減することに成功している.
朴 基彦
ぱくペインクリニック
一般的に五十肩,四十肩と称されている主に中年期に発症する肩の痛みと可動域制限を有する病態は,現在,英語ではfrozen shoulder,日本語では凍結肩と命名されている.
凍結肩は,一般的には回復には時間がかかるがその予後は良く,痛み,可動域ともに回復するとされている.しかし最近の研究によると必ずしもそうではなく,長期間にわたって痛みが持続したり,可動域低下でADLが損なわれる症例が少なくないことが分かっている.
凍結肩に対しては過去にさまざまな治療法(関節パンピング,鏡下関節授動術など)が提案されてきたが,その有効性や簡便性,安全性などで決定打となる治療法はなかった.
サイレントマニピュレーション(以下SM)は超音波ガイドで上肢伝達麻酔と関節内注射を行い,ほぼ無痛の状態で患者に苦痛を与えることなく徒手的に関節包を解離する手技である.
われわれがSMを提唱し開始してから早くも10年以上が経過した.現在ではその有効性が広く認められ,この治療法が多くの施設で広く行われるようになったことは喜ばしい限りである.探し求めていた凍結肩に対する決定的な治療法になったと言っても過言ではないであろう.
ここでは現在われわれが到達したSMの現状について,その具体的な方法と治療成績について述べる.
皆さまの凍結肩治療の一助になれば幸いである.
2–2 頭痛に対する漢方治療~定番処方の使い方とその組み合わせのコツ~矢数芳英
東京医科大学病院麻酔科,温知堂矢数医院
近年,頭痛の治療は大きく進歩している.本邦では2021年に片頭痛に対しCGRP(*)関連抗体薬が使用可能となったが,さらに漢方治療という選択肢を加えることで治療の幅を広げることができる.
一次性頭痛(片頭痛,緊張型頭痛)に対する漢方薬でよく使われるもの,つまり「定番処方」としては,呉茱萸湯・釣藤散・五苓散・半夏白朮天麻湯・桂枝茯苓丸などがある.そしてこれらの処方にはそれぞれに明確なキャラクターがあり,これを理解することでより適切な漢方薬の選択が可能となる.
本講演でははじめに各処方のキャラクターについて解説する.例えば,呉茱萸湯は「温める」薬であり,釣藤散は「ゆるめる」薬,五苓散は「水はけをよくする」薬,半夏白朮天麻湯は「補う」薬というように,各処方の特性を漢方の専門用語ではなく,イメージしやすい平たい言葉に置き換えて解説を試みる.
これらの処方が使いこなせれば多くの頭痛には対応が可能であるが,それでも疼痛コントロールが不十分な例もある.そこで次のステップとしてこれらの処方の組み合わせ方と,そのコツやポイントについても説明する.
諸先生方の明日からの臨床にお役に立てば幸いである.
(*)calcitonin gene-related peptide:カルシトニン遺伝子関連ペプチド
2–3 loss of resistance法を用いないエコーガイド下頚部硬膜外ブロックについて前田 学 前田奈々
まえだ整形外科
従来,頚部硬膜外ブロックは,ブラインドでのブロック,デバイスアシストでのブロック等のloss of resistance法を用いた方法が主に報告されてきた.近年は,透視を用いた骨をランドマークにした方法以外にも,CTやMRIを用いた方法などが報告されている.針先の位置の確認には,透視やCTを用いた方法では,頻回の放射線被曝が,患者のみならず,医師やパラメディカルに及ぶことが危惧される.さらに,薬液がどこに流れるかを注入中リアルタイムに捉えることはできず,注入後にどこに流れたかの確認がなされているのが現状である.エコーの解像度の近年の向上は目覚ましく,ウインドウこそ限られるものの椎弓切除術などの手術中のエコーでなくても脊髄,硬膜がはっきり見えるようになってきた.さらに,ドップラー法の進歩も目覚ましく,注入薬液の局在を造影剤なしで捉えることができるようになった.これらの超音波技術を用いて,より安全なloss of resistance法を用いないエコーガイド下頚部硬膜外ブロックの方法を考案したので報告する.
井上 茂 田村美穂子 松原香名 林 摩耶 中川雅之 上島賢哉 安部洋一郎
NTT東日本関東病院ペインクリニック科
【症例】58歳男性.主訴,右上顎部痛.X−30年ごろ,会話や歯磨きで誘発される原因不明の右上顎部痛が出現した.X−8年に当院を受診した.カルバマゼピンやゾニサミドで治療開始したが,効果を示したものの肝機能障害を呈し,内服中止した.眼窩下神経高周波熱凝固法(サーモ)を施行し,治療後約1年間発作痛軽減した.その後,同症状を繰り返し,X年に至るまで繰り返し治療を行ったが,X年の眼窩下サーモには治療抵抗性を示し,会話や歯磨きで誘発されない発作痛と流涙が出現した.三叉神経・自立神経性頭痛(TACs)を疑い,診断的治療目的でインドメタシンファルネシルによる内服を開始したところ著効した.
【考察】TACsは視床下部の活性化による短期持続性の一側頭痛と三叉神経−自律神経反射による流涙・結膜充血などの自律神経症状を伴う.タイプ診断に発作期の発作時間・頻度や寛解期,インドメタシンの有効性を評価することが重要である.三叉神経痛とは症状が似ているため,鑑別や治療にはしばしば苦慮する場合がある.本症例では,初期治療では眼窩下サーモが有効であり,治療抵抗性と流涙や典型的三叉神経痛を示唆する会話などで誘発される発作痛とは違う痛みが出現したことから合併したと考える.
【結語】顔面痛に対して三叉神経痛だけでなく,結膜充血および流涙を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNCT)や頭部自律神経症状を伴う短時間持続性神経痛様頭痛発作(SUNA)などのTACsを念頭に置き,詳細な問診や画像評価,診断的治療が重要である.
I–2 当院における片頭痛患者に対する抗CGRP抗体製剤の効果について打越絵理子*1 新堀博展*2 斎藤義孝*1 伊藤純子*2 丸田秀郎*2 立山俊朗*1
*1横浜痛みのクリニック,*2緩和会横浜クリニック
【目的】2021年に本邦において3種類の抗CGRP抗体製剤が上市された.当院でも従来の予防薬や神経ブロック治療無効例の片頭痛患者に対して,2021年10月より抗CGRP抗体製剤の投与を開始したのでその治療効果について報告する.
【対象と方法】2021年10月より2022年12月まで当院で抗CGRP抗体製剤を使用した21名の患者に抗CGRP抗体製剤投与前,投与後の日常生活支障度評価(HIT-6)を記入してもらい集計した.また1カ月あたりの頭痛日数,内服予防薬の数を比較し分析した.
【結果】症例は18歳~66歳(平均43.1歳)で,男性5名,女性16名であった.慢性片頭痛は10名,反復性片頭痛は11名,ガルカネズマブを11名,フレマネズマブを7名,エレヌマブを3名に使用開始したが,1名が妊娠のため中止した.3名が効果不十分のため他の製剤に変更したが,3名すべての患者において変更後の製剤で効果を認めた.HIT-6は投与前平均点68.5点から投与後平均56.6点,1カ月あたりの頭痛回数は投与前平均13.7回から投与後平均5.3回とどちらも減少した.また頭痛回数が減少した患者の約9割は1回投与後に回数が減少しており,残りの患者も2回目投与後に減少した.内服している予防薬の数の平均は投与前平均1.9種類から投与後平均0.8種類と減少しており,11名の患者が予防薬の内服を中止した.
【考察と結語】抗CGRP抗体製剤は片頭痛患者の頭痛回数を早期に減少させ,HIT-6の点数も減少させた.その結果内服予防薬の数を減らすことができた.また21名のうち副作用が認められた患者は1名で,注射部位の紅斑のみであった.これまで,1種類の製剤で効果がない場合でも他の製剤で効果が認められたという報告もあり,実際に当院で製剤を変更した3名の患者でも変更後に効果が認められた.1種類の製剤で効果が不十分な患者において,他の抗CGRP抗体製剤への変更という選択肢も増えると考えられた.
I–3 眼窩深部痛と歯痛を主訴とした片頭痛の1例川原小百合 木下純貴 青山幸生 小竹良文
東邦大学医療センター大橋病院麻酔科
眼窩深部痛と歯痛を主訴とした片頭痛の1症例を経験したので報告する.30歳代の男性,X−3年から右眼窩深部痛と右下顎犬歯根尖部痛を認めていた.眼科や脳外科を含めた多施設医療機関を受診したが器質的疾患は否定されていた.半年間,痛みのためにactivities of daily living(ADL)の低下をきたし休職をするに至っていた.X−1年,歯痛に対して三叉神経痛の診断を受けてカルバマゼピン(400~600 mg/日),デュロキセチン(20~60 mg/日)を処方されたが効果は乏しく,副作用により治療は中断していた.X年,歯痛部位に対して歯科治療を受けたが歯痛の改善はなく,眼窩痛も持続していることから当院受診された.眼窩痛の程度は数値評価スケール(NRS)で8(0~10),出現頻度はほぼ毎日であり日中に出現することが多く,持続時間は6~12時間で片側性,非拍動性の鈍痛で歯痛に先行して出現することが多かった.結膜充血や流涙,鼻漏,眼瞼浮腫などの自律神経症候は認めなかった.疼痛出現時に嘔気と,頚部から背部や臀部にかけての筋肉の緊張を伴っていた.経穴上の風池部位へのブロック注射と星状神経節部位への光線療法,漢方薬処方による治療を行い,痛みの程度はNRS 3~4と改善が認められたが出現頻度は変わらず経過していた.さらに詳細な問診を続けると,眼窩痛の出現前に明るい光に対して光過敏を自覚していることが判明した.また,光や運動,頭を下げる動作,ストレスにより眼窩痛と歯痛の誘発を認めていることが分かった.片頭痛と診断しエレトリプタン20 mgを疼痛出現時に頓服処方したところ,症状は改善し眼窩痛と歯痛は消失した.眼窩深部痛と歯痛を主訴にした片頭痛を経験した.非典型的な症状であり診断に苦慮したが,予兆や前兆,随伴症状,誘発因子を確認することが診断の助けになった1例であった.
I–4 ベンラファキシンが著効した慢性肛門部痛の2症例岡田 薫*1 後藤友里*1 西田茉那*1 濱岡早枝子*1 川口早織*1,2 池宮博子*1 千葉聡子*1 原 厚子*1 井関雅子*1
*1順天堂大学医学部附属順天堂医院麻酔科学・ペインクリニック講座,*2自衛隊中央病院麻酔科
ベンラファキシンは,デュロキセチンと同様のセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)であり,国外では神経障害性疼痛への有効性が報告されている.今回,他剤で効果不十分または副作用で継続不可の慢性肛門部痛2症例に対して,ベンラファキシンが著効したので報告する.
【症例1】6X歳の男性,既往歴に過敏性腸炎と10年前の痔核手術.現病歴としてX−1年より肛門部に疼痛が出現し,皮膚科で繰り返す軽微な単純ヘルペスと診断された.X年冬期に疼痛が増悪しトラマドールやプレガバリンを服用するもNRS 9となり当科受診,仙骨硬膜外ブロックは一過性の効果であり不対神経節ブロックは希望されなかった.デュロキセチン処方では痛みが増悪し,腹部症状と気分不快で継続困難であり,治療効果も不明であった.そこでベンラファキシンを開始し75 mg/日で増量,NRS 3まで軽減した.
【症例2】4X歳の女性で,既往歴はなし.現病歴としてX−1年に痔核の手術後から肛門部痛が持続,腰椎MRIでは仙骨嚢腫を指摘され当院整形外科に紹介されたが,整形外科から術後痛としてX年に当科に紹介された.肛門より後部の狭領域に感覚低下とNRS 8の疼痛があり,夕方に増悪した.仙骨硬膜外ブロックやS4ブロックなど施行,並行してカルシウムチャネルα2δリガンドやトラマドール,デュロキセチンを処方したがすべての薬物で副作用が強く治療効果も不明であったため,ベンラファキシンを開始,1週間の服用で中止後も疼痛の再燃はなく,中止2カ月後に間欠的な痛みが出現している.
【考察・結語】本2症例の痛みにベンラファキシンが著効した理由としては,SNRI作用により中枢性感作の軽減によると考えるが,ベンラファキシンはデュロキセチンと比較してセロトニン作用が強くノルアドレナリン作用が弱いことから,不安や抑うつの改善が中枢系感作に好影響を与えた可能性も示唆される.
I–5 鑑別が困難であった腹部痛の原因が胸椎椎間板ヘルニアであった1例菊池 賢 上島賢哉 林 摩耶 博多紗綾 安部洋一郎
NTT東日本関東病院ペインクリニック科
【はじめに】上腹部痛をきたす疾患は多く,疼痛治療へのアプローチに鑑別は重要である.今回,鑑別が困難であった腹部痛の原因が胸椎椎間板ヘルニアであった症例を経験したため報告する.
【症例】48歳男性,2カ月前に誘因なく左上腹部痛が出現した.近位で帯状疱疹の疑いで抗ウイルス薬を処方されたが改善せず,皮疹も出現しなかった.さらに血液検査,CTも施行されたが異常は認めなかった.前皮神経絞扼症候群を疑い,腹直筋鞘ブロックを施行されたが疼痛は改善しなかった.疼痛の精査のために胸椎MRIを撮影したところ,第8/9胸椎(Th8/9)椎間板に左傍正中ヘルニアを認め,肋間神経ブロックを施行したところ疼痛の軽減を認めた.疼痛の精査加療目的に当院紹介受診となった.
当院受診時numerical rating scale(NRS)5の疼痛を左上腹部に認め,前屈で疼痛は増悪した.胸椎椎間板ヘルニアによる疼痛と判断し,透視下左第9神経根ブロックを施行し,1%カルボカイン2 mlとデキサメサゾン3.3 mgを投与した.その後疼痛は著明に改善し,初診から2カ月後には同部位の疼痛はNRS 0となった.
【考察・結語】胸椎椎間板ヘルニアは腰椎や頚椎と比べて頻度が少なく,報告によりばらつきがあるが椎間板ヘルニアのうち0.1~3%程度とされる.75%以上がTh7/8以下であり,胸椎の可動性が高いTh11/12が最も多い.背部痛や神経根症状で発症することが多いが,本症例のように腹部痛のみをきたす場合もあり鑑別が難しい.さらに,高位により頚部痛や腰痛をきたす場合もある.前屈での疼痛の増悪など,体位で疼痛の変化が見られることが診断の一助となる場合がある.
腹部痛をきたす疾患として胸椎椎間板ヘルニアも鑑別の一つとして挙げることが重要であると考えられた.
木村信康 増田清夏
湘南藤沢徳洲会病院痛みセンター
【はじめに】骨転移の痛みは強く,体動時の痛みで日常生活に支障をきたし難治性であることが多い.脊椎多発骨転移の背部痛・腰痛のため体動困難の患者さんに対して高周波熱凝固術を行い,自宅退院できた患者さんを経験したので報告する.
【症例】60代女性,4年前に肺がんと診断された.診断時より脊椎多発骨転移を指摘され,フェンタニルパッチにより痛み治療をされてきたが,痛みが増強したために体動困難となり入院された.
肺がん自体は分子標的薬でコントロールされていたが,フェンタニルパッチでは痛みが抑えられず,フェンタニル原液持続静注11 ml/時投与を行っていた.痛みが強いが,自宅退院の希望があり当科に紹介となった.
右側の背部痛と腰痛が主であり38℃の発熱.血液性化学検査はCa 8.3 mg/dl,eGFR 33.2と腎機能障害を認め,胸腰MRIでTh6~12,L1~5,仙骨,腸骨に骨転移を認めた.
硬膜外からくも膜下まで一部浸潤しており,くも膜下モルヒネ投与も困難であると判断した.右胸腰傍脊柱部に圧痛を認めトリガーポイント注射で一時的な背部痛・腰痛の軽減を認めたため,その部位に高周波熱凝固術を行った.痛みのため長時間の腹臥位が困難だったため,脊椎の椎弓根あたりに針先を進め放散痛の最も強いところで,高周波熱凝固を行った.その後フェンタニル原液持続静注からフェンタニルテープに変更でき自宅退院となった.
【考察・結語】4年前から脊椎多発骨転移を認めていたが,脊椎骨転移は多いものの高Ca血症を認めないため,陳旧性のもので新規の骨転移はあまりないと考えられた.転移性骨腫瘍の治療は,骨セメントや外科的治療もあるが,本症例では骨転移が多椎体に及んでおり,これらの治療は困難であると考えた.
脊椎多発骨転移に関連した胸腰痛に対し,圧痛部のトリガーポイント注射が有効であったため,椎体の圧痛の強い部位に高周波熱凝固術を行い,痛みの軽減を認めた症例を経験した.
II–2 原因不明とされていた上腹部痛に対して悪性疾患を疑い,膵尾部がんが発見された1例廣瀨彩名 中川雅之 博多紗綾 高岡早紀 林 摩耶 上島賢哉 安部洋一郎
NTT東日本関東病院ペインクリニック科
【背景】悪性腫瘍では約70%に何らかの疼痛を認めるとされている.しかし,疼痛を主訴として受診し,悪性腫瘍が見逃されている場合がある.今回,上腹部痛で発症し,一度肝胆膵内科で悪性腫瘍を否定された後に当科を受診し,再精査の結果膵がんが疼痛の原因であった1例について報告する.
【症例】63歳男性.6カ月前から前胸部の違和感を自覚していた.徐々に鈍痛に変化し,2カ月前に肝胆膵内科を受診した.腹部超音波検査,単純CT,上部・下部消化管内視鏡検査を施行され,異常は指摘されなかった.1カ月前に前医ペインクリニックを受診し,疼痛に対して肋間神経ブロックを施行されたが無効であった.前医で胸椎MRIを撮影したが異常は認めなかった.疼痛コントロールに難渋し,精査および疼痛緩和を目的に当科受診となった.
【経過】当科初診時,持続的な左側有意の上腹部痛を認め,安静時および夜間の疼痛増強と,それに伴う睡眠障害を認めた.また,食思不振により半年間で約10 kgの体重減少を認めた.血液検査では肝酵素,血糖値および白血球の軽度上昇を認めた.症状から悪性疾患を疑い,初診後速やかに肝胆膵内科に診察を依頼した.肝胆膵内科で造影CTを施行され,膵尾部がんが発見された.直後より疼痛に対してヒドロモルフォン塩酸塩の投与が開始され,症状の緩和を認めた.
【考察・結語】膵がんは特異的な臨床症状に乏しく,診断が難しい腹部疾患の代表格である.検診では腫瘍マーカーと腹部超音波検査を行うが,検出率は低い.臨床症状もまた膵がんを早期に発見する指標にはならない.本症例は,初回の内科受診後に安静時および夜間の疼痛増強や体重減少など,症状の増悪を認めた.悪性腫瘍に起因する疼痛を疑った場合には,一度専門科で悪性腫瘍の可能性を否定されていても,再度検査や診断を試みることが重要であると考えられた.
II–3 持続する背部の感覚過敏と疼痛を主訴に受診した脊椎腫瘍の1例伊藤純子*1 新堀博展*1 丸田秀郎*1 打越絵理子*2 齋藤義孝*1 立山俊朗*2
*1緩和会横浜クリニック,*2横浜痛みのクリニック
若年者の脊椎腫瘍はまれである.今回われわれは,背部の感覚過敏を伴う疼痛を主訴に受診し,脊椎腫瘍の診断に至った1症例を経験したので報告する.
3年にわたる傍胸椎の感覚過敏を呈する20歳代の女性が当院を受診した.3年前に比べ,痛みは増強していたが,持続する背部の感覚過敏と圧痛以外に異常所見を認めず,全身状態は良好であった.当院受診5カ月前に施行した血液検査では異常を認めなかった.感覚過敏,肋間神経痛を念頭にプレガバリン,アセトアミノフェンを投与したが,わずかな効果を認めるのみであり,また,肋間神経痛の診断的治療目的に肋間神経ブロックを施行したが,治療前の触診時に強い疼痛を訴え,肋間神経ブロック自体の効果も認めなかった.来院後2カ月半の時点で,他院において胸椎MRI検査を施行した.胸椎MRI検査の結果,第11胸椎棘突起の造影増強効果と周囲軟部組織の浮腫性変化を認めた.脊柱管や椎間孔の狭窄像は認めなかった.脊椎腫瘍の診断で,さらなる診断治療目的に専門機関へ紹介した.
持続する背部の強い知覚過敏と疼痛を主訴に受診した,若年者の脊椎腫瘍の症例を経験した.3年という比較的長い経過であったこと,体重減少はなく全身状態が良好であったこと,傍脊椎の感覚過敏と圧痛以外に他覚的臨床所見を認めなかったことから,初診時点での鑑別診断に,脊椎疾患は挙がらなかった.初診時ははっきりとしなかった痛みの範囲が,診療を重ねるに従い右傍脊椎にトリガーポイントとして同定できたことをきっかけに画像診断を行い,脊椎腫瘍の診断に至った.背部の感覚過敏の原因は,脊椎腫瘍周囲の軟部組織へ波及した炎症に伴うものだと考えられた.
若年者の脊椎腫瘍の発生頻度はまれであるが,背部の局所的な疼痛を伴う所見を認めた際には,脊椎腫瘍の可能性も念頭に置きつつ診療を行う必要がある.
II–4 原因不明の側胸腹部痛で来院した胸髄腫瘍の2症例権藤栄蔵 田邉 豊 天野功二郎 秋本真梨子 宮﨑里佳 中村尊子 吉川晶子
順天堂大学医学部附属練馬病院麻酔科・ペインクリニック
側胸腹部痛を主訴にペインクリニックの外来を受診することは少なくない.今回,原因不明の側胸腹部痛を主訴に紹介され,胸髄腫瘍であった2症例を経験した.
【症例1】25歳,男性.当院初診の3年前から左側腹部に痛みを自覚していた.初診の2年前に動けないほどの痛みとなり,他院で精査を受けたが,異常は認めなかった.その後も痛みは持続したため,整形外科から原因不明の肋間神経痛として紹介となった.現症:痛みは左Th12肋骨周辺にあり,締め付けられるような痛みで,電気が走るような痛みは認めなかった.背部には圧迫されるような痛みを認めた.NRS 4.胸椎MRI画像でTh11レベルに胸髄腫瘍を認めた.治療:手術で腫瘍摘出し,神経鞘腫の診断であった.
【症例2】56歳,男性.当院初診の3カ月前から左側腹部に痛みが出現し,徐々に広がった.複数の病院で精査するも原因不明の肋間神経痛として鎮痛薬を内服していたが,効果を認めず,当院に紹介となった.現症:痛みは左Th11肋軟骨周辺を中心に左側胸腹部全体に認めた.持続的な筋肉痛のような,つったような痛みで,電気が走るような痛みではなかった.NRS 7.持参されたCT画像でTh7胸椎の椎弓の後方左側から骨破壊を伴い脊柱管内に進行してきている病変を認め,胸椎MRI画像でTh7レベルに胸髄腫瘍を認めた.治療:手術で椎弓切除と腫瘍摘出し,軟骨肉腫の診断であった.
【まとめ】2症例ともに漠然とした側胸腹部痛であった.難治性の側胸腹部痛を訴える場合には胸髄腫瘍も念頭に置くべきである.文献的考察を含めて報告する.
II–5 骨棘著明のため経椎間板法での穿刺困難が予想された症例にコーンビームCTを併用して透視下内臓神経ブロックを成功させた1例柳泉亮太 小橋紅音 遠藤 大
横浜市立大学附属市民総合医療センター
【はじめに】透視下内臓神経ブロックは膵がんなどの上腹部内臓痛の疼痛緩和に非常に有効な手段である.本邦ではX線透視下に経椎間板法アプローチで実施されることも多いが,加齢による骨棘形成等で穿刺に難渋するケースもある.今回,われわれは術前の3D-CTで骨棘著明のため穿刺困難が予想された症例にコーンビームCTを併用することで,スムーズに内臓神経ブロックを施行できた症例を経験したので報告する.
【症例】70歳代女性.膵がんによる上腹部内臓痛の患者.
【治療経過】透視下内臓神経ブロックを計画したがTh12/L1間の前方骨棘形成に加えて椎間板刺入部位の狭小もあり,X線透視のみではレトロクルーラルスペースへの到達困難が予想されたため,コーンビームCTを併用する方針とした.透視下でTh12/L1椎間板の右側から刺入して側面像を見ながら椎間板前方まで針を進めた後,コーンビームCTを撮影した.コーンビームCTでブロック針の進行先に骨棘による阻害がないこと,レトロクルーラルスペースへの到達予想距離も確認することができた.生理食塩水による抵抗消失法に切り替え,ほぼ到達予想距離通りにloss of resistanceを得ることができた.造影所見も問題ないことを確認し,神経破壊薬として無水エタノールを20 ml投与して終了した.鎮痛効果も良好のため,経口モルヒネ換算量で120 mg/日から60 mg/日まで強オピオイドを減量でき,ブロック翌日に自宅退院した.
【考察】従来のX線透視装置に加えて,コーンビームCTの併用で即座に針先の位置を確認できることは,穿刺困難が予想される症例では特に有効と思われる.
【結語】穿刺予定経路の骨棘著明なため,穿刺困難が予想された症例にコーンビームCTを併用することで透視下内臓神経ブロックを確実に施行することができた.
室谷健司 上島賢哉 林 摩耶 菊池 賢 安部洋一郎
NTT東日本関東病院ペインクリニック科
【はじめに】経皮的髄核摘出術を行う際は,X線透視下に斜位像で上関節突起を確認しながらカニューレを挿入することが一般的である.今回,高度肥満のために斜位像での穿刺が困難であったが,正面・側面像を用いて安全に施行し得た症例を経験したため報告する.
【症例および経過】54歳男性.L5/S左外側椎間板ヘルニアによる左下肢痛に対して経皮的髄核摘出術が予定された.174 cm,124 kg,BMI 41と高度肥満を認めた.手術室にて右側臥位となり,Cアームを用いてプレスキャンを行った.斜位像で上関節突起を確認したところ,肥満のために管球と患者の距離が極めて近く通常の穿刺は困難であった.そのため刺入点のマーキングのみ行い,正面・側面像を用いて穿刺を行う方針とした.棘突起外側8 cmから側面像を見ながらガイド針を穿刺し,その後,正面像で椎間板との角度や椎間板中心までの距離を確認しながら針を進めた.ガイド針が上関節突起に当たった後は針先を滑らせて椎間板に到達することができた.下肢への放散痛がないことを確認し,ガイドワイヤーを用いてカニューレを椎間板内に挿入し,髄核を摘出することができた.手術による合併症を認めず術翌日に退院となった.疼痛はNRS 8から治療2週間後にはNRS 5へ改善した.
【考察・結語】経皮的髄核摘出術の際に斜位像で上関節突起を確認し手技を行うことは解剖学的に神経・血管の走行を予想しやすく,重篤な合併症を避けることに役立つ.また管球の方向が針の方向の目安となるため操作しやすい.今回の症例では,正面・側面像のみで手術を行ったが,手技に習熟し,針の刺入イメージを持つことが重要であると考えられた.
日常診療での透視下ブロックにおいて,常に目標部位までの立体的なイメージを持つことで正確性や安全性を高めることができると考えられた.
III–2 股関節周囲筋に対するアプローチが治療方針に貢献したと考えられる尾骨痛の1症例佐藤雅文*1 土屋 裕*1 福島悠基*2 水野幸一*3 江原弘之*4
*1多摩センター痛みのクリニックリハビリテーション科,*2多摩センター痛みのクリニックペインクリニック科,*3日本医科大学多摩永山病院麻酔科,*4西鶴間メディカルクリニックリハビリテーション科
【はじめに】股関節周囲筋に対するアプローチが治療方針に貢献したと考えられる尾骨痛の症例を経験したため報告する.
【症例】50代女性,BMI 30.8.X−3年に尾骨痛自覚,NSAIDs内服で軽快していたが自動車の追突事故を契機に尾骨痛再燃.座位,仰臥位で激痛のため睡眠も妨げられた.尾骨の形態学的な変形を認めるもMRI上明らかな異常信号は指摘し得なかった.複数の医療機関で治療の必要はないと判断されX年Y月に当院紹介となった.ブロック注射の効果は一時的でデュロキセチン20 mg内服継続した.また全身の筋緊張亢進が著明で不良座位姿勢を認めたため,リハビリ開始となった.NRSは座位と仰臥位で尾骨に7/10,殿部と大腿後面近位部の圧痛が顕著であり,触診から内転筋群,殿部筋群の過緊張を認めた.PDAS(pain disability assessment scale:以下PDAS)15点,PCS(pain catastrophizing scale:以下PCS)37点,CSI(central sensitization inventory:以下CSI)44点であった.尾骨に付着する大殿筋や骨盤底筋群,それらと解剖学的連結を持つ内転筋群の過緊張などが尾骨痛の要因や増悪因子に関連していると考え介入した.
【結果】40分間の運動療法を103日間で計10回実施した.股関節周囲筋の過緊張は軽減し,殿部と大腿後面近位部の圧痛は消失した.PDAS 10点,PCS 33点,CSI 26点であった.座位における局所的な尾骨痛はNRS 5/10と残存し,医師による診断的治療を再開した.
【考察】本症例では股関節周囲筋の過緊張に対しアプローチし,拡大した痛みやCSIに一定の効果があった.残存した尾骨痛への診断的治療を再開するなど,治療方針に貢献したと考えられる.
III–3 身体知覚異常が影響した新型コロナウイルスワクチン接種後の肩関節周囲炎の1症例江原弘之*1 西 啓太郎*1 岩﨑かな子*2 内木亮介*2 中西一浩*2
*1西鶴間メディカルクリニックリハビリテーション科,*2西鶴間メディカルクリニックペインクリニック科
【はじめに】ワクチン接種後の左肩関節周囲炎に身体知覚異常が影響していた症例を経験したので報告する.
【症例】60歳代女性.X年Y月に3回目のCOVID-19ワクチン(モデルナ製)を接種し,その後左肩痛と可動域制限が生じた.1・2・4回目の接種後に有害事象はなかった.近隣の整骨院に通院するも症状不変のため,Y+5カ月当院紹介受診となった.
【経過】肩甲上神経ブロックを計2回実施したが効果は少なく,リハビリが処方された.痛みはNRS 7/10で,特に三角筋部の運動時を訴えた.関節可動域(ROM)は肩関節屈曲150°/100°,外転130°/100°,内旋50°/30°,結帯動作困難であった.MMTは異常なかった.質問紙はQuick DASH:27.2/100,PCS:29/52だった.他動的伸張法と運動療法を3カ月実施したが,ROM不変のため再評価した.TSK-11,HADS,CSIは問題なく,知覚テストにて左肩周囲の二点識別覚に左右差(4.0/8.5 cm)を認めた.感覚運動パターンの修正をアプローチに取り入れリハビリを継続した.
【結果】アプローチ変更後は感覚運動パターンに変化が認められ,左肩ROM最終域の痛みが改善した.
【考察】COVID-19ワクチン接種後の肩関節周囲炎には三角筋下包への針刺入による炎症の報告があるが,本症例のROM制限は,接種後の疼痛と二次的な身体知覚異常の影響と考えられる.
【まとめ】肩関節周囲炎に併発する身体知覚異常による肩ROM制限を経験した.適切な評価とアプローチを実施し,ROMの改善を得ることができた.
【倫理的配慮】本報告はヘルシンキ宣言に則って行った.また当院には倫理委員会がなく施設長の許可を得て発表している.患者本人にはオプトアウトについて説明し了承を得た.
【キーワード】COVID-19ワクチン,関節可動域制限,身体知覚異常
III–4 三叉神経第3枝領域帯状疱疹にRamsay Hunt症候群を合併した1症例原 詠子 小林玲音 武富麻恵 米良仁志
昭和大学病院麻酔科学講座
【背景】三叉神経領域の帯状疱疹にRamsay Hunt症候群が合併することがある.その場合,痛みよりも顔面神経麻痺が遷延する報告や遅発性に顔面神経麻痺が発症する報告が多い.両者を合併した場合,痛みはどのように推移するだろうか.今回われわれは,三叉神経第3枝領域の帯状疱疹にRamsay Hunt症候群を合併し,痛みが遷延した症例を経験したので報告する.
【症例】45歳,男性.身長173 cm,体重77 kg,BMI 25.既往歴:1型糖尿病(インスリン使用).2022年3月X日に口唇,舌の腫脹,疼痛で近医受診し,帯状疱疹と診断され抗ウイルス薬を開始した.X+20日に左顔面神経麻痺を発症し,Ramsay Hunt症候群の診断で翌日から星状神経ブロック(以下SGB)を開始した.この時軽度の痛みがあり,耳介周囲であったため随伴痛と考えた.X+22日から疼痛増悪,痛みの範囲が広がり,X+26日には左三叉神経第3枝領域に一致した痛み(NRS 10)となった.SGBや超音波ガイド下オトガイ神経ブロックでは疼痛の軽減が得られなかったため,X+28日ガッセル神経節ブロックパルス高周波法を施行した.X+41日顔面神経麻痺は柳原スコア38点と軽快し,X+47日には痛みはNRS 4となった.
【考察】三叉神経第3枝領域の帯状疱疹にRamsay Hunt症候群が合併し,顔面神経麻痺よりも,疼痛コントロールに難渋した症例を経験した.痛みは帯状疱疹発症後約1カ月でピークとなり,ガッセル神経節ブロックパルス高周波法後約3週で軽快した.
Ramsay Hunt症候群の随伴痛と三叉神経第3枝領域の痛みは,注意深く鑑別していく必要がある.
III–5 慢性肛門痛にS5帯状疱疹を併発しIgG抗体価の上昇により診断し得た1例清家拓海 佐伯美奈子 中易夏子 山口佳子
藤沢市民病院
【緒言】帯状疱疹は左右片側の痛みとそれに一致する領域の皮膚症状から診断できるが,血清IgG抗体,IgM抗体の上昇によって診断を得ることも可能である.今回,元々慢性肛門痛の患者の痛みが増悪し,肛門左端に限局するアロディニアを確認,IgG抗体が高値であることから帯状疱疹痛を疑い治療を開始し,良好な経過を得ることができた症例を報告する.
【症例】73歳女性.X−1年10月,便潜血陽性のため近医内科で大腸内視鏡検査を行った.その際に肛門部の激痛があり,検査後も痛みが続いていた.原因は不明であったが,徐々に痛みは自制内となり日常生活を送ることができていた.しかしX年5月,激しい肛門部痛が出現したため前医を受診した.視診,肛門鏡では異常を認めなかったが,プレガバリン150 mgを処方されやや症状の改善を得た.しかし,痛みが続き自制不可となったため,X年6月に当科を紹介受診した.身体所見では皮疹は認めないが肛門左端に限局したアロディニアを認めた.IgM抗体は陰性であったが,IgG抗体が42.8と高値であることから左S5帯状疱疹痛の診断で治療を開始した.仙骨硬膜外ブロックと並行して薬物治療を行い,疼痛コントロールは良好となった.
【考察】当院受診時には発症後1カ月以上が経過しており,血清IgM抗体が陰転化していた可能性があり,かつ皮疹を確認できなかったが,詳細な身体診察を行うことで帯状疱疹として診断し良好な転帰を得ることができた.疼痛部位の感覚異常の評価を怠らないことが肝要である.
III–6 地域医療連携により受け入れを行った帯状疱疹患者の2症例中村瑞道*1 大岩彩乃*1,2 八反丸善康*1 武冨麻恵*2,3 濱口孝幸*1 倉田二郎*1
*1東京慈恵会医科大学病院麻酔科学講座・ペインクリニック部,*2あびこ痛みのクリニック,*3昭和大学麻酔科学講座・東病院ペインクリニック
医療連携システム運用管理規定に基づき,東京慈恵会医科大学病院では,患者をかかりつけ医と相互に紹介し,重症度や医療の必要性に応じた治療が行われている.本発表では,症例報告を通して,受け入れの実際,大学病院のサポート体制,紹介元施設の現状および今後の課題を検討する.
【症例1】80代女性.主訴は右顔面帯状疱疹.既往歴に糖尿病,高血圧,慢性腎不全があった.X−13日に発症し,痛みが改善せずN−8日に近医ペインクリニックへ受診.初診時にnumerical rating scale(NRS)8~10の右V-I,II領域の疼痛および皮疹を認め,内服薬抵抗性の激しい痛みのため,X日に当院へ紹介受診し即日入院となった.プレガバリン150 mg/日およびフェントステープ1 mg/日が処方され,X+13日目に右ガッセル神経節ブロックを施行した後,顔面痛はNRS 3程度へ改善し,X+18日に退院となった.
【症例2】80代男性.主訴は左顔面から頚部帯状疱疹.既往歴に糖尿病があった.X−20日に同部位に帯状疱疹を発症し,近医ペインクリニック科へ受診し抗ウイルス薬を処方された.痛みが改善せずX日に当科へ紹介入院.初診時にNRS 10の左C3~5領域の疼痛および皮疹を認め,X日から高周波パルス併用の頚部神経根ブロックが施行され著効した.さらにミロガバリン5 mg/日およびフェントステープ0.5 mg/日が追加処方され,痛みはNRS 1~2程度へ改善し,X+7日目に退院した.
今回の2症例は,帯状疱疹の急性期の症例であり,発症から早期に大学病院で医療用麻薬の調整と神経ブロックを行い,1カ月以内に痛みの緩和が得られた.医療連携には,双方の医療機関の機能分化を図り,医療の効率化を行うおよび先進医療へのアクセスを患者にもたらすなどの利点が挙げられる.現在は,カルテ共有システムを活用し,予約の効率化や画像評価の共有を図っている.今後は,かかりつけの外部機関と受け入れ施設の役割分担を明確にし,さらに教育の充実や知見の共有が重要であると考えられる.