Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2023 Volume 30 Issue 6 Pages 156-162

Details

会 期:2023年2月25日(土)

会 場:Web開催

会 長:高橋 完(金沢医科大学麻酔科学講座)

■大会長講演

多領域の痛みについて学ぶ

高橋 完

金沢医科大学麻酔科学講座

■特別講演

麻酔科医,地域で緩和ケア普及活動をする

本間恵子

金沢医科大学麻酔科学講座

石川県は大きく,能登地域と加賀地域に分けられる.金沢医科大学は能登半島に向かう高速道路の始発点に位置していることもあり,能登地域医療圏の中心となっている.とはいうものの,能登半島最先端の自治体までは130 kmあり,患者が当院を受診するのは1日がかりとなる.公的病院はいくつかあるが,がんになってからなくなるまで,ずっと過ごせる病院は少ない.また,がんの症状緩和を行える在宅診療医の数は非常に少なく,簡単に在宅診療の半径16 km制限に引っかかってしまう.緩和ケア病棟・病床はどうか.「ありません」.残念ながら,当院にも緩和ケア病棟・病床はないので,緩和ケア病棟で最後を過ごしたいと望んだら,いや応なく,金沢市に行くしかない.非がんの場合はどうか.だいぶ状況が違ってくる.療養型病床を持っている病院は能登地区の地域ごとにある.訪問看護はどこに行っても受けられる.「医療用麻薬を使用していない」患者はかかりつけ医で診察してもらえる.

「どうする緩和ケア」.ハード面はすぐには変えられない.「医療用麻薬」の使用が大きなハードルの一つになっているようだ.毎日,医療用麻薬と接している側からすると「正しく使えば怖くないのに」と思ってしまう.まずは知ってもらうことだ.こっちから情報発信しちゃえ.コロナ禍は収まっていないが,よかったことが一つある.Webでの情報のやり取りが増え,気軽にアクセスできるようになったことだ.Web seminar開催!

緩和ケアチームで活動する麻酔科医が,地域に向けて行った発信をご紹介したいと思います.

■一般演題A 整形外科疾患の疼痛治療

1. 変形性股関節症による慢性股関節痛をpericapsular nerve groupブロックで治療した1例

佐藤玲子 加藤利奈 杉浦健之 太田晴子 加古英介 徐 民恵 祖父江和哉

名古屋市立大学大学院医学研究科麻酔科学・集中治療分野

【はじめに】近年,股関節痛に対する新たな鎮痛法の一つとして超音波ガイド下のpericapsular nerve group(PENG)ブロックが注目されている.変形性股関節症による慢性股関節痛に対して,PENGブロックを行い,良好な経過をたどったので報告する.

【症例】65歳の女性.主訴は左股関節痛.6カ月前に両側変形性股関節症と診断,手術療法を提案された.しかし鎮痛薬の内服で痛みは改善したため,保存的に経過を見ていた.転倒をきっかけに左股関節痛が再燃し,鎮痛薬を再開した.3カ月後も痛みの改善が得られず(NRS 7~8),歩行に支えを要した.画像検査では,骨折はなく,関節裂隙狭少化は転倒前と同様であった.疼痛軽減を目的に,0.5%リドカイン15 mlを用いた左PENGブロックを行うと,歩行時の痛みの改善が見られた.2~4週間隔で計5回のブロックを行い,NRS 1~2となり,自立歩行も安定した.3カ月後も痛みの再燃はない.

【考察】股関節の固有知覚は,大腿神経,閉鎖神経,上殿神経,坐骨神経などが支配する.PENGブロックは感覚枝である大腿神経関節枝と副閉鎖神経をターゲットとするため,筋力低下をきたしにくく,骨折や手術に伴う股関節痛に有効との報告がある.本症例では,外来治療における保存療法としてPENGブロックが有用であった.PENGブロックは筋力低下をきたしにくいとされるが,大腿四頭筋の筋力低下を合併するとの報告があり,本症例でも筋力低下をきたしたことがあった.外来で安全に施行するためには,今後適切な注入部位や局所麻酔薬の投与量を検討する必要がある.

【結語】変形性股関節症による慢性股関節痛に対して,PENGブロックは,有効な保存療法となる可能性がある.

2. メサドン内服患者の脊椎手術において周術期疼痛管理に難渋した1例

森川高宗 東谷沙希 木田紘昌 本間恵子 高橋 完

金沢医科大学麻酔科学講座

【症例】69歳男性.後腹膜脂肪肉腫の第5腰椎転移に対して脊椎後方除圧固定術+腫瘍椎体部分切除術と椎体再建術の二期的手術が予定された.脊椎浸潤による左下肢痛に対してトラマドール塩酸塩とオキシコドン徐放錠の内服歴があった.手術の3週間前にオキシコドン徐放錠からメサドンへ内服薬の変更が行われ,脊椎後方除圧固定術+腫瘍椎体部分切除術が施行された.麻酔はセボフルラン―レミフェンタニルを用い,術後痛に対して経静脈的モルヒネ自己調節鎮痛を行った.手術中は著しい血圧変動を認め,術後は強い創部痛の訴えがあった.約2週間後に椎体再建術が施行され,セボフルラン―レミフェンタニル―ケタミンで麻酔を行った.ケタミンを0.4 mg/kg/時間(総量100 mg)で持続静脈内投与したが,手術操作が誘因と考えられる血圧変動を認めた.経静脈的モルヒネ自己調節鎮痛を用いたが,術後3日ごろまでは強い創部痛の訴えがあり,周術期の疼痛管理に難渋した.

【考察】本症例は2度の脊椎手術における周術期疼痛管理に難渋した.メサドンをはじめオピオイド長期内服患者では,疼痛の発生機序やオピオイド反応性が複雑化することが報告されている.森田1)の報告では,メサドン内服患者の脊椎手術においてケタミン総量150 mgを静脈内投与されており,本症例ではケタミンの投与量が不足していた可能性がある.また,これまでの報告から脊椎手術における脊柱起立筋ブロックや胸部傍脊椎ブロックなど神経ブロックの有効性が示唆されており,オピオイド内服患者の全身麻酔に神経ブロックを併用することは周術期の疼痛管理に有用と考えられる.

【結語】メサドン内服患者の2度の脊椎手術において周術期疼痛管理に難渋した1例を経験した.

1)Palliat Care Res 2022; 17: 135–9.

3. リニアプローブを用いた超音波ガイド下星状神経節ブロックの初期経験

中島良夫

金沢医療センター脳神経外科

【目的】頭頚部や上肢の疼痛を改善させる目的に星状神経節ブロック(stellate ganglion block:SGB)は有用な方法である.われわれはこれまでX線透視下でSGBを施行してきたが,放射線被ばくの問題から超音波ガイド下SGBに変更した.その初期経験について報告する.

【対象】脳卒中後疼痛3例,頚椎椎間板ヘルニア1例,複合性局所疼痛症候群2例,帯状疱疹関連痛1例,耳鳴り1例の8症例.男性4例,女性4例,年齢は48~78歳.

【方法】仰臥位.患側の肩下に枕を入れ健側へ90度顔を向けた.リニアプローブでC6横突起前結節を同定し,頚動脈の外側から刺入し,頚長筋に22Gスパイナル針を刺入した.血液の逆流がないことを確認,1%キシロカイン5 ml注入し,頚長筋が腫脹することを確認した.

【結果】8症例中,有効例で複数回施行したため計12回に施行し,全施行例でブロック施行後ホルネル徴候を認めた.脳卒中後疼痛3例中1例,頚椎椎間板ヘルニア1例中1例,複合性局所疼痛症候群2例中2例,帯状疱疹関連痛1例中1例で疼痛・しびれの改善が得られたが,耳鳴りの1例は無効であった.合併症は1例で血液の逆流を認めたが,圧迫止血後に再施行できた.

【考察】SGBの重篤な合併症は血腫と血管内注入による痙攣であるが,リニアプローブを用いた超音波ガイド下SGBは,解像度がよく,椎骨動脈を回避し確実に頚長筋に刺入できるため,これらの合併症を回避できる.しかし,超音波ガイド下のブロック針の刺入操作に習熟し,頚部の解剖を十分に理解しておく必要がある.

【結語】超音波ガイド下のブロックに慣れた初心者であれば,本法は安全,確実に施行できると考えられた.

■一般演題B 高周波・薬物療法

1. 鼠径ヘルニア術後の難治性疼痛に対してパルス高周波法が奏功した1例

秋永泰嗣 山本洋子 内山智浩 平出恵理

掛川市・袋井市病院企業団立中東遠総合医療センター

【症例】70代男性,166 cm,49 kg.10年ほど前に他院にて両側の鼠径ヘルニア根治術を施行.術直後より鼠径部の疼痛があったが放置していた.2~3カ月前より鼠径部痛の悪化が見られたため当院外科を紹介受診.鼠径ヘルニア根治術による疼痛が原因と考えられた.疼痛コントロール目的のヘルニアメッシュ除去はさらなる神経損傷をきたす可能性があり,手術適応はないとして,当科紹介となる.

【初診時所見】両側のクーパー靱帯に一致した部位に圧痛およびチクチクとした疼痛の訴えあり.疼痛の程度はNRSで50 mm程度.疼痛部位の知覚鈍麻の訴えは認めなかった.

【経過】鼠径ヘルニア根治術による神経損傷が原因の神経障害性疼痛と考え,両側の腸骨鼠径神経・下腹神経ブロックとプレガバリン50 mg,デュロキセチン20 mg,ワクシニアウイルス接種野兎炎症皮膚抽出液含有製剤4単位による治療を開始,ブロックの継続および内服薬の増量をするも疼痛のコントロールに難渋した.

治療開始後6カ月経過した時点でパルス高周波法の施行を考慮,腸骨鼠径・下腹神経に対し42℃6分間の高周波パルス療法を片側ずつ1週間おきに3回施行,両側併せて7回施行した時点で疼痛の軽減を認め内服薬の減量を開始.以降少量の内服薬とご本人の訴えに応じて数カ月に1回程度のブロックを継続している.

【考察】鼠径ヘルニア根治術は術後に一定の頻度で疼痛を引き起こすことが知られている.鼠径ヘルニア術後の慢性疼痛には確立した治療法が存在せず,ガイドライン上でもメッシュの除去などの外科的治療が示唆されるのみである.

神経損傷などのリスクから外科的治療に適応がなく,また内服薬やブロックでの疼痛のコントロールが難しい症例においてパルス高周波法は疼痛コントロールの選択肢として有効な可能性がある.

【結後】鼠径ヘルニア術後の難治性疼痛に対してパルス高周波法が奏功した1例を経験した.

2. 帯状疱疹後三叉神経痛の治療方針の決定において卵円孔の同定にコーンビームCTが有用であった1症例

松田修子*1 竹内健二*2 松木悠佳*1 重見研司*1

*1福井大学医学部附属病院麻酔科・蘇生科,*2社会医療法人財団中村病院麻酔科

【はじめに】コーンビームCTとは,被写体に円錐状のX線ビーム(コーンビーム)を回転照射して,撮影した画像データをコンピュータを用いて3D立体画像へ生成できる撮像法である.一般的なCT検査に比して低被ばく線量で精密画像を短時間で撮影できる利点があり,ペインクリニック領域でも有用である.今回われわれは,治療方針の決定にコーンビームCTが有用であった症例を経験した.

【症例】50歳,男性,身長175 cm,体重80 kg.「右下顎神経領域の帯状疱疹後三叉神経痛」の疼痛コントロール目的に当院に照会受診となった.既往歴:高血圧,うつ病.内服:プレガバリン300 mg,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液4単位,アセトアミノフェン1,200 mg,デュロキセチン20 mg,メコバラミン1,500 µg,ミアンセリン10 mg,フルニトラゼパム2 mg,柴竜湯,ロサルタン.初診時身体所見:血圧123/68 mmHg,脈拍71回/分.右下顎神経領域に色素沈着あり.同部の触覚,冷覚はほぼ正常.アロディニアなし.NRS 3.

【経過】薬物治療単体では除痛困難と判断し,「右下顎神経パルス高周波治療」の方針とした.X線透視下に前方アプローチによる穿刺を試みたが,通常斜位像では右卵円孔の同定が困難であり,かろうじてparesthesiaを得たが軸位像では卵円孔らしき構造物の末梢側に針先が位置するように見えた.そこで,コーンビームCTを施行したところ,右卵円孔の前方に骨棘を認め,これが卵円孔への前方アプローチの障害となっていると考えられた.後日,頬骨弓下アプローチにて卵円孔まで針先を誘導することができ,神経ブロックは成功した.

【結語】通常の神経ブロックに問題が生じたが,コーンビームCTによって,その場で問題点を明らかにできた.治療方針を正しく修正する上で,コーンビームCTは非常に有用であった.

3. 多施設多領域の連携によって診断確定および治癒しえた,診断に難渋する希少な大腿骨頭の類骨骨腫の1例

瀧 康彦 松葉 聖 本間恵子 高橋 完

金沢医科大学麻酔科

【症例】生来健康な30歳男性.左股関節痛と持続する夜間痛のため近医を受診.NSAIDs内服で症状軽減したが診断には至らず,当院紹介となった.

【経過】関節内観察と組織生検のための股関節鏡手術では原因は特定されず,疼痛改善もなかった.処方で疼痛コントロールしたがNSAIDs以外の効果は乏しかった.持続する疼痛に加えて,精査および手術加療を行っても症状改善も診断も得られないストレスから,次第にNSAIDsを多量に内服するなどの行動が見られた.他院整形外科や心療内科を受診するも改善なく診断と加療に苦慮した.画像所見,臨床経過,疫学的データをまとめていく過程で類骨骨腫が鑑別に挙げられた.整形外科での外科的な病巣切除術が検討されたが,患者希望に合わせて放射線科によるCTガイド下ラジオ波焼灼術(RFA)が施行された.鎮静および局所麻酔下にRFAを施行し術後トラブルなく退院した.退院1週間の時点でVAS 10→1の症状軽快を認めた.併せて行った組織生検では類骨骨腫に矛盾しない病理所見を得た.

【考察】類骨骨腫は若年者の長管骨に好発する良性腫瘍である.夜間痛とNSAIDsが著効すること,画像上nidusと周囲の骨硬化像が特徴として挙げられるが,本症例のような大腿骨頭部の発生はまれであり報告も少ない.関節内発生症例では他疾患との鑑別が困難であり診断に難渋する報告が散見される.痛みの診療を行うためには迅速かつ正しい診断が必要である.疾患の知識や経験の充足など個人の研鑽が望まれるのは無論であるが,鑑別が困難なものや希少な疾患においては個々人の能力や努力に依存するのには限度がある.より良好な治療成績や予後のためには診療科や施設間の連携や協力が肝要と考えた.

【まとめ】診断に難渋する希少な大腿骨頭の類骨骨腫の1例を経験し,多施設および診療科の連携によって診断確定と良好な治療成績を得るに至った.

4. 当院ペインクリニック内科の片頭痛に対する抗CGRP関連抗体製剤使用状況の調査

真鍋優希子 松浦康荘 永川 保

富山市立富山市民病院ペインクリニック内科

【緒言】片頭痛は幅広い年代で日常生活への疾病負担が大きい神経疾患であり,医療費負担だけでなく労働生産性が損なわれることから,経済損失は年間3,600億円~2兆3,000億円と推定されている.2021年4月に承認された抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)関連抗体薬は,片頭痛に対する予防薬としての有効性が複数の大規模プラセボ対照ランダム化二重盲検試験によって実証されており,当科でも片頭痛患者に対して複数例の使用経験がある.当科の片頭痛に対する抗CGRP関連抗体製剤使用状況を調査した.

【方法】2021年7月から2022年12月に片頭痛に対して当科で抗CGRP関連抗体製剤を処方された11例の使用状況を後方視的に調査した.

【結果】患者は男性2例,女性9例で平均年齢は43歳,処方理由は反復性片頭痛(5例),慢性片頭痛(6例),薬剤使用方による頭痛(3例)(重複あり)であった.製剤の使用期間は平均8カ月で,1例は症状の改善がなかったため製剤の使用を中止したが,残りの患者には頭痛インパクトテスト(HIT-6)の得点の改善や頭痛回数の減少の傾向が見られた.2例で注射部位反応が観察され内服・外用薬の使用を要したが,その他に重篤な有害事象は見られなかった.

【考察】抗CGRP関連抗体製剤の使用により,片頭痛患者の日常生活における支障度は軽減する傾向が見られたが,無効例や有害事象も観察された.新規作用機序の薬剤であり経済的負担も大きいため,使用に際しては患者への十分な説明や定期的な評価・検討が必要である.

5. 五苓散の併用が著効した三叉神経痛の1例

山口智子 谷口美づき 鈴木興太 木村哲朗 中島芳樹

浜松医科大学医学部附属病院麻酔科蘇生科

【背景】神経障害性疼痛薬物療法アルゴリズムで三叉神経痛には,特殊な薬物療法がある.第一選択はカルバマゼピン,第二選択はラモトリギン,バクロフェンとなる.今回,カルバマゼピンで皮疹が出現し,ラモトリギンで治療中の三叉神経痛の患者に,五苓散を併用し著効したので報告する.

【症例】53歳女性.6年前に乳がんの手術歴がある以外は特記事項なし.

10年前,夕食中に急に右の前額部に鋭い痛みが出現した.頭部CT検査で異常を認めず,以後同様の発作に対し,近医で処方されたロキソプロフェンナトリウムで対応していた.3年前に近医脳神経外科に受診し,プレガバリンとデュロキセチンを処方されたが,症状が改善せず,当科紹介となった.

【治療経過】右前額部から頬までの数秒から数十秒続くNRS 7/10の鋭い痛みが1日に数回あった.くしゃみや右の頭頂部の一点を触れると発作が誘発される.右V1,2領域の三叉神経痛と診断し,カルバマゼピン200 mg/日の内服を開始した.3日後,皮疹が出現し,内服を中止した.2週間後,ラモトリギン25 mg/日の内服を開始し,発作の頻度と程度の改善を認めた.1カ月後,精神的ストレスがあり,症状が増悪した.歯痕舌を認め,五苓散を追加処方した.1カ月後発作がほぼ消失し,本人の希望で3カ月ごとの経過観察となった.

【考察】三叉神経痛に有効とされる漢方薬には五苓散,小柴胡湯,桂枝加芍薬湯等がある.今回,ラモトリギンで症状の軽快を認めたが,軽快したと思われた疼痛がストレスにより増悪した.舌診により水滞を認め,利水作用のある五苓散を追加処方したところ著効した.五苓散の利水作用により三叉神経周囲の浮腫が軽減し,症状改善につながったと考えられる.

【結語】三叉神経痛の第二選択であるラモトリギンに五苓散を併用し奏功した症例を経験した.

■一般演題C 周術期疼痛管理

1. 持続腹直筋鞘ブロックにて管理し良好な術後鎮痛を得た,腹部大動脈瘤人工血管置換術の1症例

栁田豊伸 木田英樹

市立長浜病院麻酔科

【背景】当施設では,腹部大動脈瘤人工血管置換術は条件が整えば,術者の希望で手術室にて抜管を行っている.開腹手術の術後の鎮痛手段として代表的なものとしては硬膜外麻酔があるが,人工血管置換術では術中にヘパリンを使用するため,手術当日の手術室では施行しづらい.今回,持続腹直筋鞘ブロック(cRSB)にて,良好な術後鎮痛を得た症例を経験したのでここで報告する.

【症例】81歳女性.148 cm,54 kg.高血圧,糖尿病の既往,ADLは自立していた.腹部大動脈瘤に対して人工血管置換術が予定された.麻酔は全身麻酔と術後鎮痛としてcRSBとフェンタニル持続静注を行った.

手術後半にかけてフェンタニルを250 µg投与し,その後,退室時から20 µg/hの持続投与を行った.またアセトアミノフェン1,000 mgを投与した.

また,手術終了後に腹直筋鞘ブロックを行った.両側の臍から心窩部にかけて18G touhy針を数カ所穿刺し,腹直筋と腹直筋後葉の間に0.25%ロピバカイン合計60 mlを投与した.硬膜外用のカテーテルを先端が心窩部から3 cmほどの位置の両側に留置した.手術室にて抜管の後,ICUに帰室した.ブロックの持続投与は単回投与の1時間後から行った.両側で,0.15%ロピバカイン8 ml/hとした.

ICU入室後,腰部痛と下腹部の創痛があり,フェンタニルの持続投与が30 µg/hに増量され,12時間行われた.ブロックの持続投与は40時間行われた.補助鎮痛としてアセトアミノフェン1,000 mgが8時間おきに4回投与された.

ICU入室時の鎮痛スコアは,腰痛と下腹部の創痛がありNRS 5であったが,2時間後から40時間後までNSR 1~2で推移した.

【考察】心臓血管外科の術後は,鎮痛が不十分な場合,頻呼吸から呼吸状態が悪化したり,高血圧から術後出血を誘発する可能性があり,良好な術後鎮痛管理を行うことが重要である.cRSBは単回投与と比較し長時間の鎮痛効果を得ることができ,腹部大動脈瘤人工血管置換術に対しても比較的良好な術後鎮痛管理を行うことができた.

2. 肩関節形成術に対する持続腕神経叢ブロックの効果に関する検討

寺崎敏治 那須倫範 青山 実 吉田 仁

富山県立中央病院麻酔科

当院では肩関節形成術の麻酔を全身麻酔と持続腕神経叢ブロック斜角筋間アプローチで行っている.今回,持続腕神経叢ブロックの鎮痛効果および合併症について後ろ向きに検討した.

【方法と対象】腕神経叢ブロックは手術終了後,超音波ガイド下に0.3%ロピバカイン20 mlを単回投与した後,0.2%ロピバカイン持続投与(4~6 ml/hr)を行っている.2016年9月から2022年9月までに当院で肩関節形成術を施行した症例を後ろ向きに検討し,術後24時間のレスキュー頻度,合併症について調査した.レスキューは術後に主科の指示に基づき,ジクロフェナク坐剤挿肛,ペンタゾシン筋注が行われた.

【結果】2016年9月から2022年9月までに当院で行われた肩関節形成術は150例であり,持続腕神経叢ブロックを術後24時間まで継続的に実施できた症例は115例であった.15例は抗血栓療法のため,IV PCAで管理された.腕神経叢ブロックを施行したが,術後24時間以内に中止となった症例は事故抜去:8例,呼吸困難:1例,効果不十分:1例,挿入部液漏れ:1例,硬膜外ブロック:1例であった.また,8例は運動・感覚麻痺のため,一時的に持続投与を中止され,麻痺の改善を確認した後に再開となった.術後24時間以内のレスキュー回数は0回:41例(36%),1回:50例(43%),2回:16例(14%),3回:8例(7.0%)であった.合併症としては嘔気・嘔吐(25例),嗄声(2例),星状神経節ブロック(1例),頚神経叢ブロック(1例)であった.術後に継続的な酸素投与を必要とした症例はなかった.

【考察】肩関節形成術に対する持続腕神経叢ブロックは良好な鎮痛をもたらした.また,術後呼吸不全や永続する神経障害などの重大な合併症はなかった.一方で術後嘔気・嘔吐は生じており,腕神経叢ブロックにより良好に鎮痛された症例で多く生じていた.術中のオピオイド投与や吸入麻酔薬,レスキューに用いた薬剤の影響が考えられた.

3. 単回神経ブロック後,iv-PCAは必要か

梶山加奈枝 高 ひとみ

岡崎市民病院麻酔科

【緒言】術後疼痛管理の単回神経ブロックでは局所麻酔薬効果消失後時にリバウンドペインが発生することがある.今回,神経ブロック併用全身麻酔施行患者において経静脈自己疼痛管理(iv-PCA)の有無により術後追加鎮痛薬使用に差があるかを検討した.

【方法】単施設後ろ向き観察研究.対象は2022年2月1日から2022年9月30日に腕神経叢ブロック(ISB)あるいは腹横筋膜面(TAP)ブロック併用全身麻酔が施行された患者.両群をiv-PCA併用の有無で振り分けた.主要評価項目は術後24時間以内の追加鎮痛薬使用の有無,副次評価項目を術中フェンタニル総使用量,術中アセトアミノフェン使用の有無,術後悪心・嘔吐(PONV)発症の有無とし,患者背景因子(年齢,性別)を後方視的に解析.統計解析はWilcoxonの順位和検定とFisherの正確検定を用い,有意水準はp<0.05とした.

【結果】ISB施行患者20例,iv-PCA併用9例,非併用11例.患者背景因子に有意差なし.主要評価項目は3 VS. 10(p<0.05)で有意差あり.副次評価項目はPONV発症のみ3 VS. 0(p<0.05)と有意差あり.TAPブロック施行患者20例,iv-PCA併用17例,非併用3例.患者背景因子に有意差なし.主要項目は2 VS. 1(p>0.05)で有意差なし.副次評価項目はPONV発症のみ6 VS. 0(p<0.05)と有意差あり.

【考察】リバウンドペイン対策として神経ブロック持続カテーテル挿入,術後先行鎮痛薬使用などの報告がある.iv-PCAはカテーテル挿入に比べ簡易に施行でき,疼痛時すぐにボーラス使用できる利点がある.神経ブロックの種類や手術内容によりiv-PCAを含めた術後鎮痛薬の選択,副作用の対策が必要であると思われる.

【結語】腕神経叢ブロック後のiv-PCA併用は術後追加鎮痛薬を減らし,疼痛管理に有効である可能性がある.

4. 超音波ガイド下眼窩下,下顎神経ブロックが顎変形症手術の周術期管理に有用であった2例

河野 優*1 田原春早織*1 中村寛美*1 三宅舞香*1 宗宮奈美恵*1 木村智政*2

*1独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター麻酔科,*2きむらクリニック

【はじめに】Le Fort I型骨切り術,下顎枝矢状分割法を同時に行う上下顎同時移動術では術後疼痛,嘔吐対策が課題となる.今回,われわれはペインクリニック領域でよく用いられる眼窩下神経ブロックと下顎神経ブロックを手術麻酔下で用い,周術期の経過が良好であった2例を経験したので報告する.下顎神経ブロックは超音波ガイド下に外側翼突筋と内側翼突筋の間を走行する下歯槽神経と舌神経をブロックする方法を用いた.2症例とも0.375%ロピバカインを両側眼窩下神経に0.5 mlずつ,両側下顎神経に1.5 mlずつ,合計4 mlを用いてブロックを行った.神経ブロック後,リバウンドペイン予防目的にデキサメタゾン6.6 mgを経静脈投与した.閉創時にアセトアミノフェン注射液1,000 mgを投与し,定期投与として帰室後フルルビプロフェン50 mgの経静脈投与と,翌朝からロキソプロフェン60 mgが1日3回経胃管投与された.

【症例①】23歳男性,164 cm,57 kg.手術時間は5時間50分で,フェンタニルは250 µg,レミフェンタニルは0.08~0.17 γを使用した.上顎骨down fractureの際に収縮期血圧が30 mmHg上昇したが,その他大きなバイタル変動はなかった.術後は定期投与のみで疼痛コントロールは良好であり,嘔吐はなかった.

【症例②】24歳女性,153 cm,56 kg.手術時間は6時間35分で,フェンタニルは200 µg,レミフェンタニルは0.08~0.17 γを使用した.術中血圧変動は全くなかった.術後定期投与と翌朝一度のアセトアミノフェン注射液1,000 mg投与で疼痛コントロールは良好であり,嘔吐はなかった.

【まとめ】上下顎同時移動術に神経ブロックを併用しなかった当院での過去11症例の平均と比較すると,フェンタニル,レミフェンタニルの術中使用量はそれぞれ43%,58%に減少した.嘔吐は27%で生じていたが,この2例ではなかった.眼窩下神経ブロックの術中効果範囲には差があったが,術後経過は2例ともに良好であり,顎間固定を伴った顎顔面領域の術後鎮痛に三叉神経領域の神経ブロックが有用であった.

■一般演題D 緩和医療・その他

1. 服薬コンプライアンス不良のがんサバイバーへ緩和ケアチームで対応した症例

本間恵子*1,2 道渕道子*2 西川美香子*2 平木祥子*2

*1金沢医科大学麻酔学講座,*2金沢医科大学病院緩和ケアチーム

がん治療の向上によりオピオイド服薬中のがんサバイバーが増加している.若年であるが処方どおりの服薬が行われていなかった患者に対して緩和ケアチームで対応した事例を報告する.

【症例】40歳代女性.乳がん,多発骨転移にて外来化学療法中であった.腰下肢痛に対してオキシコドン徐放剤30 mg/日,ロキソプロフェン180 mg/日,アセトアミノフェン1,200 mg/日を服用していたが疼痛コントロール不良のため,緩和ケアチームが行っている緩和ケア外来紹介受診した.L1椎体圧壊を認め,神経障害性疼痛の関与を考えプレガバリン150 mg/日を追加しオピオイドの調節を開始した.オキシコドン75 mg/日まで増量したところ,コントロール良好となったため緩和ケア外来は終診とした.6カ月後,オキシコドン160 mg/日まで増量され,レスキューをオキシコドン速放剤160 mg/日使用していたため緩和ケア外来紹介となった.メサドンへスイッチし,90 mg/日まで増量した.2回目の関与開始から5カ月後,大腿骨病的骨折のため入院となった.持参薬にメサドン錠が488錠(約27日分)あり,正しく服薬されていないことが発覚した.入院中は緩和ケアチームが薬剤調整を行い,メサドン105 mg/日で退院となった.退院後は受診時に残薬をすべて持参することを約束し,緩和ケア外来で処方を継続した.残薬が多い状態が続いたため,徐々に減薬し,5カ月後にメサドン30 mg/日で落ち着いた.処方分すべてを正しく服用することはなかったが,残薬が著しく増加することはなかった.

【考察】オピオイド服用の理解が不十分なため即効性のある速放性剤を好む患者もおり,レスキュー使用状況だけでは疼痛コントロールの評価は困難な場合がある.外来で多職種チームである緩和ケアチームが関与することにより,正しい服薬による疼痛コントロールが可能になると考える.

2. 座位保持が困難な直腸がん局所再発患者の陰茎部突出痛に対して仙骨硬膜外エタノールブロックが有効だった1例

伊藤貴志 内山壮太 小野由季加 水谷彰仁 矢田部智昭

公立西知多総合病院麻酔科

【緒言】直腸がん局所再発による会陰部痛に対しサドルブロックは効果的であるが膀胱直腸障害や下肢運動障害が問題となる.また,座位保持が困難な症例では適応とならない.しかし仙骨硬膜外エタノールブロックは座位保持が不要であり,膀胱直腸障害をきたさずに会陰部の鎮痛効果が期待できる.われわれは座位の保持が困難な直腸がん局所再発患者の陰茎部突出痛に対して仙骨硬膜外エタノールブロックを実施し良好な鎮痛効果を得た症例を経験したので報告する.

【症例】70歳代男性.身長167.5 cm,体重44.7 kg.直腸がん再発に伴い人工肛門造設術,膀胱留置カテーテルが留置されていた.会陰部の痛みに対しアセトアミノフェン2 g/日,貼付型フェンタニル製剤3 mg/日,レスキューにオキシコドン塩酸塩水和物散5 mg/回を使用していたが,NRS 7~8の陰茎部突出痛が頻回に出現するようになったため当科に紹介となった.患者は座位の保持が困難だったため0.75%ロピバカイン2 ml,デキサメサゾン(3.3 mg)1 ml計3 mlを用い仙骨硬膜外ブロックを実施したところ陰茎部突出痛が消失した.そのため仙骨硬膜外エタノールブロックを予定し,透視下,仙骨裂孔アプローチで実施した.硬膜外カテーテルの先端の留置位置をS3/4レベルとし,造影剤を用い硬膜外腔であることを確認した後,1%キシロカイン1 ml,0.75%ロピバカイン2 ml計3 mlを投与した.下肢の運動障害がないことを確認後,無水エタノールを1.5 ml緩徐に注入,1.5 ml/hで2時間投与を継続した.2時間投与後1時間の間隔を空け0.375%ロピバカインを1.5 ml/hを翌朝まで継続しカテーテルを抜去した.本ブロック実施後から陰茎部突出痛は消失し,下肢の運動障害も認めなかった.その後患者の訴えはNRS 1~2の下腹部,肛門痛のみとなり,陰茎部突出痛は認めないままブロック14日後に緩和病棟で永眠となった.

【結語】座位の保持が困難な直腸がん局所再発患者の陰茎部突出痛に対する仙骨硬膜外エタノールブロックは合併症なく良好な鎮痛効果が期待できる可能性がある.

3. 医療従事者のストレスチェック制度

畑中浩成 松川 隆

山梨大学医学部附属病院麻酔科

【はじめに】コロナ禍以降,ストレス不調者が増加している.ストレスは体重や血圧とは異なり発見が難しい.ストレスチェック制度は定期的に労働者のストレス状況について検査を行い,本人に通知する.自らのストレス状況について気付きを促し,個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させる.仕事上の心理的なストレス要因を評価し,職員のストレス反応や健康にどの程度影響を与えているか判断する.

【目的】ストレスチェック制度の結果を後向きに研究する.

【方法】職業性ストレス簡易調査票

A.仕事について,ストレス因子(量的,質的,自由度,コントロール度)

B.最近1カ月間の状態(心身のストレス反応,活気,イライラ感,不安,疲労感)

C.周りの方々からの支援(communication,上司,同僚,頼り)

2018年から2021年まで1年に1回病院職員を対象とした.

ストレス者は,自覚症状があり,ストレスの原因があり,周囲のサポート状況が悪い者と定義した.個人のストレス結果を集団ごとに集計,分析した.

【考察】疲労の蓄積を自己判定できた.高ストレス者を把握し,職場環境改善を定量的に把握できた.隠れ高ストレス者発見につながった.集団分析では,管理者診断となり,責任追及,職場批判になることもあった.管理者から職員へのtop downの場合,やらされ感が伴う,従業員参加型が必要.集団分析では,個人への効果だけでなく,組織介入し,毎年の検査による経年変化が分かった.但し,短期的ではなく長期的経過観察が必要.PDCA cycleを回し,職場の強み(利点)を発見することが必要.健康情報は法的に保護されているが,メンタルヘルスは機微な問題であり,取り扱いは難しかった.コロナ禍でcommunicationは取りづらくなった.webで検査ができ,参加者にはhurdleが下ったかもしれない.ストレスチェックでは判明できなかった隠れストレス者には,医師面接,管理者followが必要.

4. 当院における注射後の痛みの治療

川瀨守智 川瀨治美

金山ペインクリニック

【はじめに】医療行為において,筋肉注射や静脈注射,皮下注射などを行う機会は科を問わず避けられない.注射による痛みが残る場合があり,適切に対処しないと重症な状況になることもあり早期の適切な対応が必要であると思われる.今回当院で注射後の痛みを訴える患者の症例を振り返り検討した.

【症例】・症例1:64歳女性,コロナワクチン接種後に上腕の痛みが出現,プレガバリンとスーパーライザー照射で改善した.

・症例2:54歳女性,コロナワクチン接種後に上腕の痛みが出現.ミロガバリンとスーパーライザー照射で改善した.

・症例3:42歳女性,コロナワクチン接種後に右半身のしびれが出現,アセトアミノフェン,ノイロトロピン処方.

・症例4:52歳女性,採血後に採血部位の痛みが出現,スーパーライザー照射で痛みは改善した.

・症例5:46歳男性,採血後に採血部位の痛みが出現,神経ブロックや麻薬貼付薬等で緩和的治療を継続している.

【考察】注射により痛みが出現しているため,治療には光線治療が安全で効果的であると思われた.

注射部位の組織確認にはMRIも有効であると思われた.

【結語】当院における注射後の痛みの治療の振り返りを報告した.

 
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