2024 Volume 31 Issue 1 Pages 1-4
経皮的硬膜外腔癒着剥離術(percutaneous epidural adhesiolysis:PEA)で,薬液がくも膜下腔へ誤投与されることは危険であり,それを防ぐために脊髄造影の検出は重要である.腹臥位で正側2方向透視下にPEAを施行し,腹側硬膜外造影と判断して治療薬液も注入したが,術後脊椎CT(仰臥位)にて硬膜外造影と脊髄造影の併存が明らかとなった2症例を経験したので報告する.PEAでは偶発的くも膜下注入の可能性を常に念頭に置き,疑わしい場合はCT検査の併用が必要である.
Percutaneous epidural adhesiolysis (PEA) uses a larger volume of drug solution than epidural block and it can be dangerous if the solution is misadministered into the subarachnoid space. Detection of myelography findings during PEA is very important to avoid subarachnoid block, but this can be sometimes difficult to determine. We report two cases in which PEA was performed under biplane fluoroscopic guidance; however, we could not detect a myelogram that overlapped with an epidural contrast image. We should always keep in mind that unintentional myelography are always possible during PEA, and CT scan should be performed to detect unintentional myelography.
経皮的硬膜外腔癒着剥離術(percutaneous epidural adhesiolysis:PEA)は,X線透視下にスプリングガイドカテーテルを用いて硬膜外腔の癒着を剥離する治療である.使用する薬液量が多く,薬液がくも膜下投与されると危険であり,それを防ぐためには脊髄造影の検出が重要である.正側2方向透視下にPEAを施術し,術中は脊髄造影を検出できなかったが,施術後の脊椎CTで脊髄造影が確認された2症例を経験した.
なお,本論文の発表に関して,高清会高井病院倫理委員会の承認と患者の承諾を得た.
症例1:85歳男性,L4すべり症に対するL3/4,L4/5開窓術後の左L5神経根症にPEAを施行した.PEA後の脊椎CTでは左L5神経根造影は見られず十分な癒着剥離ができたとは判断できなかったが,自覚症状が少し軽減したため患者の希望により1カ月後に再度の施行となった.腹臥位,バイプレーン透視下に15G・RX-COUDE®硬膜外針(東京医研,東京)で仙骨裂孔から硬膜外腔に達し,19G腰椎用TUN-L-XL®カテーテル(東京医研,東京)を上行させた.L5/S左側で抵抗があり,造影すると左S1神経根造影とL5/Sで停止する腹・背側硬膜外造影が見られた.L5/S左側に癒着部位があると判断し,それを剥離する意図でカテーテルの進退と生理食塩水の注入を反復し,数分後にL4/5左側に達し造影した.ここまで造影剤イオヘキソール240 mgI/mlを6 ml,生理食塩水6 mlを使用した.正面透視(図1a)でL3より頭側の硬膜嚢が均一かつ高位まで造影され脊髄造影も疑われたが,神経根鞘部が癒着し造影欠損となった硬膜外造影像とも考えられた.側面透視(図1b)では,くも膜下注入を示す脊柱管腹側に水面状に貯留する典型的な造影像が視認できず,腹側硬膜外造影と判断し,吸引テスト陰性を確認後,デキサメタゾン3.3 mgを混合した1%メピバカイン5 mlを注入した.術後脊椎CTで透視中の所見と一致する腹・背側硬膜外造影を確認したが,L2~S1領域に脊髄造影(図1c,d)を認めた.幸いくも膜下ブロックの兆候は認めず,特別な対処を要しなかった.
症例1
a:透視正面像(腹臥位).カテーテル先端がL5/S左側の抵抗部位(白線円)を迂回してL4/5左側に達した(白矢印).L3より頭側の硬膜嚢が均一に造影され脊髄造影が疑われた(白矢頭).
b:透視側面像(同上).L5/S領域に腹・背側硬膜外造影(白線矢印)あり.L3より上位は造影剤が腹側に厚く貯留するが水平面状でなく腹側硬膜外造影と判断した(白矢頭).
c:術後CT矢状断像(体位変換後の仰臥位).透視と一致する腹・背側の硬膜外造影(白矢頭)とL2~S1の脊髄造影(白線矢頭).
d:cの各レベルでの横断像(同上).硬膜外造影(白矢頭)と脊髄造影(白線矢頭)が併存する.L2/3の硬膜外造影は厚い.
症例2:83歳女性,腰椎側弯症・狭窄症による右L5神経根症にPEAを施行した.腹臥位,バイプレーン透視下に18G・RX-COUDE®硬膜外針(東京医研,東京)で仙骨裂孔を穿刺し,21G頚椎用Versa-Kath®カテーテル(東京医研,東京)を硬膜外腔に進めた.L5/S右側で抵抗があり,そこを迂回して抵抗なくL4/5右側へ進めた.造影剤イオヘキソール240 mgI/ml計7 mlを注入すると正面透視で硬膜嚢の形状に一致した造影像がL3高位まで示され,S1神経根鞘も辺縁が明瞭すぎるため脊髄造影を疑った(図2a).しかし側面透視で水面状貯留像が視認できなかったため(図2b),症例1と同様に腹側硬膜外造影と判断した.なお,S1~S2では背側硬膜外造影も見られた.吸引テスト陰性も確認したが,くも膜下注入の可能性も念頭に置いて1%メピバカイン2 ml注入で終了した.術後脊椎CTでは施術時の透視所見に一致する硬膜外造影を確認したが,L2~S1で脊髄造影が認められた(図2c,d).くも膜下ブロックの兆候は認めず,特別な対処を要しなかった.
症例2
a:透視正面像(腹臥位).硬膜嚢に一致して造影され(白矢頭),S1神経根鞘(白矢印)も明瞭すぎる印象があり,脊髄造影が疑われた.
b:透視側面像(同上).造影剤の水面状貯留は認められず腹側硬膜外造影と判断した(白矢頭).S1~S2では背側硬膜外造影も見られる(白線矢印).
c:CT矢状断像(体位変換後の仰臥位).透視と一致する硬膜外造影(白矢頭)とL2以下(L5以下が明瞭)の脊髄造影(白線矢頭).
d:cの各レベルでの横断像(同上).L3レベルで腹・背側の厚い硬膜外造影(白矢頭)と圧迫された脊髄腔の淡い造影像(白線矢頭).L5レベルで全周性硬膜外造影(白矢頭)と淡い脊髄造影像(白線矢頭),S1レベルで腹側の厚い硬膜外造影(白矢頭),内部に馬尾神経像が見える脊髄造影(白線矢頭).
PEAではカテーテルによる硬膜穿破や穿刺針による硬膜穿刺が発生し得る.症例1は癒着部位を長時間剥離した経緯があり,癒着部位近傍の硬膜をカテーテルで穿破したと推測される.症例2は時間をかけて剥離した経緯はないが,慢性的に骨棘に接する硬膜に脆弱部位があり,それをカテーテルで穿破したと推測している.仮に大量の薬液がくも膜下腔に誤注入されると,血圧低下,呼吸抑制,下肢脱力,硬膜穿刺後頭痛などが起こる1).PEA施術中に的確に脊髄造影を検出し,くも膜下誤注入を防止することが重要である.
一般に硬膜外造影正面像はほぼ左右対称に硬膜外腔と神経根鞘が描出され,しばしば中央部の襞による陰影欠損が見られる.側面像は脊柱管腹側を縦走する前走像と背側を縦走する後走像が描出され,前走像は椎間板の形状に一致して蛇行する.ただし硬膜外腔は狭窄,癒着などのため,複雑な造影所見が多い2).きわめてまれに硬膜下造影となることがあり,少量の造影剤で頭・尾側に広範囲に拡がる3–5).典型的な脊髄造影所見は,正面・側面ともに造影剤が均一に硬膜嚢内に拡がり,辺縁の明瞭な神経根鞘像を伴うこともある6,7).ただしこれは造影剤と脳脊髄液が十分混和した後の所見である.整形外科の脊髄造影手順書によれば,腹臥位でくも膜下穿刺し造影剤を緩徐に注入すると脳脊髄液と造影剤は直ちには混和せず,くも膜下腔の下方(腹臥位なので腹側)に造影剤が水平面を形成して貯留する.これは造影剤が脳脊髄液よりも高比重だからである.続いて体位変換を行うと,脳脊髄液と混和されて均一になり,教科書的な上記の脊髄造影像となる.圧をかけて造影剤を急速に注入すれば脳脊髄液と混和し得るが,緩徐に注入するのが基本である8,9).PEAでも患者は腹臥位を保つため,造影剤の水面状貯留像はくも膜下注入を疑う重要な所見である.
2症例とも,PEA施術中の正面透視では硬膜嚢の形状に一致して高位まで造影され脊髄造影の疑いもあったが,神経根鞘部が癒着している場合はそのような硬膜外造影像もあり得ること,また側面透視で水面状貯留像を視認できなかったことから,癒着により複雑な形状をした腹側硬膜外腔が造影されたものと判断した.術後脊椎CTでは,術中の判断どおりの硬膜外造影像が証明されたが,加えて予想外の脊髄造影が確認された.その範囲は,症例1,症例2ともL2~S1と限局的であった.10 ml前後の造影剤でくも膜下腔全域が造影されることを考えると,症例1で6 ml(生理食塩水を含めても12 ml),症例2で7 mlの注入量から考えて,くも膜下腔に注入されたのは少量と推測される.以下は推測であるが,側面透視において少量の腹側水面状貯留像があったはずだが,厚く不規則な腹側硬膜外造影像に隠れていたと考えられる.また正面透視での硬膜嚢に一致して均一に高位まで造影された所見は硬膜外腔ではあったが,くも膜下注入が隠されやすい可能性がある.今回経験した透視所見を見た場合は,脊椎CTで脊髄造影を判定する必要がある.症例1の経験を踏まえ,症例2では薬液注入前にCT検査を考慮できたはずであった.
薬液注入前のCT検査には二つの方法がある.一つはコーンビームCTであり,施術中に随時可能である.もう一つは別室でのCT撮影だが,針を穿刺したままでは危険で,また清潔維持の観点から針は抜いてカテーテルを固定してCT室に移動するのが実際的である.コーンビームCTは便利だが画質が劣り,腹臥位で撮影するので脳脊髄液と混和前の画像となり,硬膜外造影とくも膜下腔腹側の貯留像との鑑別が容易でない可能性が残る.くも膜下注入の有無を確信できない時は,手技断念の判断も必要になる.別室でCT撮影する際は,通常,腹臥位から仰臥位へ体位変換されるので造影剤が脳脊髄液と混和され,かつ硬膜外造影像は体位によってほぼ変化しないので,硬膜外造影と脊髄造影の鑑別は確実になる.しかし,カテーテル位置の修正は不可能であり,脊髄造影が判明したら治療は断念するしかない.
PEAでは硬膜外造影に重なって脊髄造影が併存し得る.腹側に厚く,高位まで及ぶ硬膜外造影を認めた場合は,可能であればコーンビームCTを評価し,評価が不十分またはコーンビームCTが不可能な場合は,移動を必要としてもCT検査を優先するべきである.