2024 Volume 31 Issue 1 Pages 31-33
Modic変性type 1(MC1)を伴った脆弱性椎体骨折の症例を経験した.
本症例に関して,該当患者の承認を得ている.
58歳,女性,身長164 cm,体重56 kg.
入院前経過:突然,左臀部より足首にかけて痛みが増悪して立位がとれず入院した.
入院経過:入院時VAS 90/100,モルヒネ5 mg/日の持続皮下投与でVAS 50/100に改善した.腰椎側面像(図1)MRI検査(図2)ではL3~Sの脊椎終板部に変化が見られMC1と診断した.骨シンチ(図3)でL3~5に集積像があり脆弱性椎体骨折と診断した.入院6日目,L3,L5に椎体関節アプローチにて1 cm椎体内に針を進める骨穿孔術を施行した.VAS 30/100に改善しモルヒネ投与を終了した.歩行訓練中に脊椎関節周辺の痛みが残ったので,脊髄後枝内側枝ブロックを行い22日目に退院した.L2~4のdual X-ray absorptiometry(DXA)法による骨密度は,腰椎1.477 g/cm2,young adult mean(YAM)値は146%で骨過形成の傾向があった.
腰椎側面X線写真
L3~4,L5~Sの椎体終板部に椎体硬化像,椎間板間隙の狭小化が認められる.
腰椎側面MRI画像
左:T1強調MRI画像.L3椎体下縁とL4椎体上縁およびL5椎体下縁とS椎体上縁が低信号(矢印).
右:STIR T2強調MRI画像.L3椎体下縁とL4椎体上縁およびL5椎体下縁とS椎体上縁が高信号(矢印).
骨シンチ正面像
L3~5に集積像が認められる.
Modic変性は椎体終板のMRI信号変化を指し,3タイプに分類されている1).MC1は,T1強調像で低信号,T2強調像で高信号を示し炎症反応を示唆する.MC2は,T1強調像で低信号,T2強調像で高または等信号を示し脂肪変性を示唆する.MC3は,T1強調像,T2強調像での低信号で骨硬化を示唆するとされ,時間経過により変化する2).MC1が腰痛に関係するとされ,椎間板への治療が行われる3).しかしながら,椎体終板の構造変化が進行すると椎間板への治療が困難な場合がある.
本症例では,椎間板変性が強く椎間板への治療は困難であった.MRI検査で,T1強調像で低信号,STIR T2強調像で高信号の骨髄浮腫が認められ,骨シンチにて椎間板ではなく椎体に集積像が認められたため,脆弱性椎体骨折による体動時腰痛が下肢への体重負荷時の激痛となり歩行困難となった.
椎体圧潰率が30%未満の群では,椎体形成術と脊椎骨穿孔術(骨セメント未使用)の鎮痛作用に差がない4).脆弱性椎体骨折では,脊椎配列の補正が必要ないため脊椎骨穿孔術を当院で行っている5).骨セメントを使用した場合,隣接椎体骨折や炎症反応を悪化する危険性があるため,脊椎骨穿孔術を選択した.脊椎骨穿孔術後に残存した痛みは,疼痛範囲が限局的で圧痛点を認めたため,腰椎関節炎による痛みと判断して,脊髄後枝内側枝ブロックを行い良好な経過をたどった.
MC1で骨髄浮腫が椎体に波及していたため,脊椎骨穿孔術を行ったところ良好な経過をたどった.
本報告の要旨は,日本ペインクリニック学会第57回大会(2023年7月,佐賀)において発表した.