Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2024 Volume 31 Issue 1 Pages 34-36

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I はじめに

がん疼痛にはオピオイドがよく使用されるが,忍容性が低い患者では疼痛コントロールが困難となることもある.今回,オピオイド忍容性が低い患者に対して内臓神経ブロック(splanchnic nerve block:SNB)を繰り返し行い,疼痛コントロールを2年間行った膵体部がんの症例を経験した.

II 症例

患者:40代,女性.155 cm,61 kg,BMI 25 kg/m2

臨床経過(図1):心窩部痛と背部痛にて他院を受診し,膵体部がんStage IVと診断された.受診時numerical rating scale(NRS:0~10,平均値を示す)は8であり,オキシコドンの内服が開始され,120 mg/日まで増量したものの,眠気は強い一方で,痛みの軽減はみられなかった.診断から10日後,当院に神経ブロック目的で紹介され,同月SNBを施行した.X線透視下に後方アプローチ,Th12/L1,L1/2の経椎間板法で,それぞれ99.5%無水エタノール15 mlを投与した.直後からNRSは8→0に低下し,紹介元の病院に転院後,オキシコドンの内服は漸減して中止された.

図1

治療の経過

治療の経過およびオピオイド投与量,痛みの強さを示す.

発症から10カ月後,心窩部痛と背部痛が再燃(NRS 6)し,オピオイド再開を促されたが,本人はオピオイドによる眠気と倦怠感を懸念し,再度SNBを希望した.前回と同様の方法で2回目のSNBを施行した結果,NRS 6→1に低下し,転院となった.発症から19カ月後,痛みの再燃に対し3回目のSNBを施行し,NRS 5→2に低下した.発症から25カ月後,心窩部痛と腰背部痛が再燃した.MRIでTh12に椎体転移を認めており,トモセラピーを施行されていた.ヒドロモルフォン6 mg/日内服を開始したが,痛みは軽減せず,眠気と嘔気が強かった.プロクロルペラジンを投与したが,嘔気は改善せず,本人はオピオイドの中止を希望した.再度当院に紹介され,4回目のSNBを施行し,心窩部痛はNRS 6→1に軽減したものの,椎体転移による腰背部痛は残存した.椎体転移に対してサイバーナイフ治療や経カテーテル的動脈塞栓術が施行されたが,腰背部痛は軽減せず,ヒドロモルフォンによる強い眠気が継続していた.発症から28カ月後,脊髄くも膜下カテーテル留置・皮下ポート設置術を施行し,持続脊髄くも膜下モルヒネ投与を開始した.腰背部痛は軽減し,転院となった.発症から29カ月後,病状悪化により死亡した.

III 考察

腹部内臓痛は膵がん患者の主要な症状であり,進行がんで66.4%,そのうち38%は中等度以上の痛みを抱えている1).中等度以上の痛みに対しては強オピオイドを使用することが推奨されているが,嘔気・嘔吐,便秘,眠気などの副作用があり,オピオイドの継続が困難な場合がある.副作用対策として便秘に対してはナルデメジンの投与や排便指導,嘔気・嘔吐に対しては予防的制吐薬の投与が行われる.嘔気・嘔吐は1~2週間で,眠気は数日で耐性ができることが多い.オピオイド以外のがん疼痛治療としては神経ブロックや放射線治療,インターベンショナル・ラジオロジーなどがある.

SNBは膵がんをはじめとした腹腔内のさまざまな種類のがんによる痛みに対して行われており,腹部内臓痛,特に上腹部痛に対して有効である.SNBを施行した場合,薬物療法単独と比較してオピオイドの使用量が減少する2).一方,合併症として血圧低下,下痢,酩酊が一過性にみられることがあり,まれに血管穿刺,臓器穿刺,アルコール性神経炎,対麻痺,感染といった重篤な合併症を起こすこともある.

SNBは腹腔神経叢への腫瘍の浸潤度が高くなるほど有効性が低くなるため,早期に行うことが推奨されている.一方,時間とともに腫瘍の増大・浸潤,破壊した軸索の再生や除神経に伴う中枢機序によりブロック効果は減弱する3).神経破壊薬を用いたSNBの持続効果は平均3~4カ月であり,SNB施行した約2/3の患者で痛みが再燃する4).そのため,痛みの再燃時は再度SNBを施行することも考慮される.

McGreevyらは1回目のSNBの奏功期間が3.4カ月(中央値)であったのに対して,2回目のSNBの奏功期間は1.7カ月(中央値)に短縮したと報告している.また2回目のSNBが奏功しなかった群では71%の症例でがんの進行を認め,奏功しない主因は疾患の進行や転移によるものと推測している5).Mercadanteらは上部消化管がんではがんの進行による腹膜浸潤のため,体性痛を伴うことが多く,その場合SNB以外の治療法が必要となると報告している3)

本症例はSNB間の期間が1回目から2回目で10カ月,3回目で9カ月,4回目で6カ月と徐々に短縮した.また,椎体転移により4回目のSNB後も痛みが残存し,オピオイドの使用と脊髄鎮痛法を実施した.病状の進行とともにSNBのみではコントロール困難な痛みが生じることがあり,痛みの性質に応じた治療法を選択する必要がある.

本症例ではオピオイドによる容認できない眠気が生じ,SNBを繰り返すことでオピオイドを使用することなく2年間疼痛コントロールを行った.こういった症例に限らず,オピオイドの使用で痛みが軽減しない場合,積極的に併用の適応を検討することが重要である.

IV 結論

オピオイド忍容性が低い膵がん患者の内臓痛に対して,SNBを繰り返すことで有効な疼痛コントロールができる可能性がある.

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