2024 Volume 31 Issue 1 Pages 23-26
包括的慢性下肢虚血の急性増悪痛を高周波熱凝固法による末梢神経ブロックで緩和した1例を経験した.症例は50歳代の女性.足関節以下の痛みで受診,腎動脈下腹部大動脈以下の広範な血栓と動脈閉塞のため緊急入院した.救命のために下肢切断の適応があったが,患者が積極的治療を希望せず,緩和ケアの方針となった.坐骨神経,伏在神経に対し高周波熱凝固法を計4回施行したところ,痛みは緩和された.包括的慢性下肢虚血に対する末梢神経の高周波熱凝固法は,患者予後や日常生活動作のバランスを考慮すれば,鎮痛方法として有効な選択肢となる.
The patient was a woman in her 50s. She had pain below her ankle joint and was hospitalized due to extensive thrombosis and arterial occlusion below the renal abdominal aorta. She was diagnosed as chronic limb-threatening ischemia (CLTI) of the lower limb. Although amputation was needed, she did not wish to undergo aggressive treatment. Pain was well controlled with radiofrequency thermocoagulation (RF) performed four times. RF of peripheral nerves for CLTI is an effective option for pain relief, considering the patient's prognosis and the balance of activity of daily living.
包括的慢性下肢虚血(chronic limb-threatening ischemia:CLTI)は末梢動脈疾患(peripheral artery disease:PAD)の一つに分類され,下肢虚血,組織欠損,神経障害,感染などの肢切断リスクをもち,治療介入を必要とする疾患概念である1).急性増悪時には血行再建や肢切断が適応だが,患者が積極的治療を選択しない場合,疼痛管理に難渋する.今回,CLTIの急性増悪痛に対し,末梢神経に対する高周波熱凝固法(radiofrequency thermocoagulation:RF)で痛みの緩和を図った症例を経験したので報告する.
なお,本報告は患者からの文書による了承を得ている.
患 者:50歳代,女性,身長151 cm,体重95 kg,BMI 42.キーパーソンは弟.
主 訴:足関節以下の両下肢痛.
既往歴:動脈硬化性下肢閉塞性動脈疾患(lower extremity artery disease:LEAD),ベーチェット病.
現病歴:両足趾のしびれが出現し,リウマチ膠原病内科から当科紹介となった.初診時はしびれの訴えが主で,痛みは間欠的であった.末梢冷感が強く,足趾は紫色に変色していた.シロスタゾール,リマプロストアルファデクスの内服があり,出血のリスクを説明の上,仙骨硬膜外ブロックを施行し,症状の改善をみとめた.主科に抗血小板薬の休薬可否を尋ね,腰部交感神経節ブロックを考慮していた.
約3週間後,足関節以下の両下肢痛が増強し,救急搬送された.足関節/上腕血圧比は両側計測不能,超音波カラードップラー画像にて血流の確認困難で,造影CTで以前から指摘されていた右腸骨動脈以遠の血栓が腎動脈下腹部大動脈から対側下肢動脈まで広範に拡大していた.CPK 4,273 U/Lと上昇をみとめ,両下肢CLTIの診断で,バイアスピリン内服を開始し入院となった.血行再建は困難と判断され,救命のために下肢切断が必要とされたが,患者からは積極的治療の希望がなかった.生命予後は2週間から2カ月と伝えられた.入院1日目に緩和科に紹介,鎮痛のためのフェンタニルクエン酸塩の持続静脈内投与は4 mg/日まで増量された.鎮痛薬の定期投与はアセトアミノフェン注射薬4,000 mg/日,ミロガバリン20 mg/日,ロキソプロフェン180 mg/日であり,痛み増強時の追加鎮痛薬は,フェンタニルクエン酸塩の静脈内投与0.17 mg/回,フルルビプロフェン注射薬50 mg,トラマドール25 mg内服であった.しかし,痛みのコントロールが不良で,入院2日目に当科に連絡があった.足背の潰瘍と足趾の暗赤色への色調変化をみとめており,特に左足趾に強い痛みがあった.膝窩アプローチによる両側坐骨神経ブロックと左坐骨神経にカテーテル留置を行い,0.17%ポプスカイン4 ml/時間,patient-controlled analgesia(PCA)3 ml/回,lockout time 30分で開始した.これによりフェンタニルクエン酸塩の持続静脈内投与は1.2 mg/日まで漸減できた.しかし,患者から地元の病院への転院希望があり,転院先では神経ブロックカテーテルの管理が困難であると連絡を受けた.また,主治医から,敗血症となると転院が困難となるため,迅速で永続的な痛みのコントロールを求められた.各科,転院先病院と協議の上,転院目標を約1週間後とした.
入院5日目に痛みが増強し,神経ブロックカテーテルの位置異常を疑い抜去した.最も痛みが強い両側拇趾に対しRFによる膝窩部脛骨神経ブロックを予定し,運動神経障害,出血,痛み増悪の可能性を説明して同意書を取得した.既に立位や歩行は困難であったため,activities of daily living(ADL)の目標を「ベッド上の移動」とした.リニアプローブ(SONIMAGE HS2 PRO®,コニカミノルタ)で膝窩にて脛骨神経を描出後,可視可能であった膝窩直上まで神経を追い,感覚神経刺激モード(周波数:10 Hz,パルス幅:1.0 mS,レンジ:0.5~1 mA)で拇趾への刺激があり,運動神経刺激モード(周波数:5 Hz,パルス幅:0.5 mS,レンジ:0.5~1 mA)で反応しない部位を探し,RF(トップリーションジェネレーターTLG-10,ポール針RF:TOP®)を80℃ 1分間施行した.RFの効果確認のため,局所麻酔は1カ所あたり1%リドカイン0.5 ml未満とした.RFの手技による痛みの訴えはなかった.残存した痛みや新たな痛みに対し,RFを入院9日目までに合計4回施行した(表1).この間に,潰瘍や皮膚の暗赤色への色調変化は足関節より近位へと進行していたが,フェンタニルの増量を必要とせず,追加鎮痛薬使用回数は減少した.入院10日目には左の足関節の底背屈は不可能となったが,鎮痛緩和の目標を達成することができた.RFによる運動障害以外の合併症はみとめなかった.しかし,入院11日目に膝より近位まで皮膚の色調変化をみとめ,入院12日目に38度台の発熱をみとめた.突出痛が増強したが,モルヒネ塩酸塩の持続静脈内投与60 mg/日へのオピオイドスイッチにより痛みの緩和が得られ,14日目に転院した.転院の約2カ月後に永眠された.
RF施行日 | 疼痛部位 | RF施行部位 | 追加鎮痛薬 使用回数 |
痛みのNRS※ 朝/昼(RF後)/夕 |
---|---|---|---|---|
入院5日目 | 両拇趾遠位 | 脛骨神経 | 9回 | 7/2/5 |
入院6日目 | 両小趾遠位 両足部内側 |
総腓骨神経 伏在神経 |
6回 | ―/2/3 |
入院7日目 | 両拇趾近位 両小趾近位 |
脛骨神経 総腓骨神経 |
5回 | 8/2/5 |
入院9日目 | 左足底 左ふくらはぎ 左小趾近位 |
脛骨神経 脛骨神経 総腓骨神経 |
4回 | 6/3/4 |
入院10日目 | ― | ― | 3回 | 4/―/4 |
NRS:numerical rating scale,RF:高周波熱凝固法.
※RFは昼前後に行ったため,朝,昼またはRF後,夕のNRSを示す.欠損データは「―」と表記した.
PADは上下肢動脈疾患の総称で,患者数は世界的に2億人を超える2).以前は,肢の予後が不良と想定されるPADを重症下肢虚血(critical limb ischemia:CLI)と定義し,PAD患者の約10%がCLIであると報告されていた3).しかし,CLIは肢の予後が正確に反映されないとして,新たにCLTIが定義された1).PAD患者のうち,下肢病変をLEADと称し,CLTIの診断にはLEADの診断が条件となる.本症例は動脈硬化性LEADと診断されていた.動脈硬化性LEADは従来の下肢閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans:ASO)と同義である.本症例は,血行動態検査で虚血が証明され,安静時疼痛を有し,CLTIと診断された1).
CLTIは,薬物療法や創傷ケアなどの保存的加療か下肢切断,血行再建などの積極的治療が選択される1).しかし,重症の虚血症状が出現した場合は急性下肢動脈塞栓(acute limb ischemia:ALI)に準じて,積極的治療が必要になる.積極的治療を選択しないCLTI患者の自然経過の報告は少ないが,現実には積極的治療症例よりはるかに多いとされる4).保存的に加療されたCLTI患者の1年後死亡率は46~58%とされ,急性増悪症例ではさらに高い死亡率が予想される5,6).いずれの治療方法でも痛みの緩和は優先される治療であるが,保存的加療は時に組織の血流増加が見込まれず,痛みのコントロールに難渋する1).
保存的に加療されるCLTI患者の鎮痛方法には,複数の選択肢がある(表2).本症例では薬物療法は無効で,神経ブロックカテーテルは継続不可能であった.交感神経節ブロック,脊髄刺激療法は抗血小板薬の休薬がリスクであり,また1週間を目安に転院を考慮していたため,休薬期間が取れず,末梢神経へのRFを選択した.CLTIに対するRFは,腰部交感神経節に施行した報告はあるが,末梢神経での報告は本症例が初めてである7).先端非絶縁部が5 mm,22Gのブロック針による熱凝固は,温度80~85℃×通電時間60秒で直径2 mmの熱凝固巣になるとされ,凝固部位が限局されることが利点である8).また,膝窩部アプローチの坐骨神経ブロックであれば,重篤な出血のリスクは低い9).さらに,本症例ではベッドサイドで症状の進行に合わせてRFを施行することで,移動によるストレスを回避できた.一方,末梢神経の焼灼は運動神経障害やRF自体により神経炎が惹起されうることが欠点である.従って,CLTIの痛みの治療として,末梢神経へのRFが第一選択になることはない.しかし,患者の予後やリスクを考慮した上で,ADLを保つための緩和的治療の選択肢となりうる.足関節以遠の慢性疼痛に対し,足関節レベルでのRFは重篤な合併症なく施行できるとされ,運動神経障害を最小限にするため,施行の際は可能な限り末梢かつ限局して施行するよう心がけるべきである10).
鎮痛方法の選択肢 | 長 所 | 短 所 | |
---|---|---|---|
薬物療法 | 多施設で継続可能 調節が容易 |
各種副作用(特に麻薬) 突出痛への効果が不十分 |
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持続神経ブロック | 可逆的・選択的鎮痛 | カテーテルの位置異常 カテーテル感染 |
共通の合併症リスク (出血,感染,神経損傷,周囲の組織損傷) |
腰部交感神経節ブロック | 長期的効果 | 抗血小板薬・抗凝固薬の休薬が必要 腰背部痛 下肢麻痺 |
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脊髄刺激療法 | 長期的効果 可逆的鎮痛 |
抗血小板薬・抗凝固薬の休薬が必要 硬膜外膿瘍 硬膜穿刺・低髄液圧症候群 効果の個体差 高額 |
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神経破壊薬による神経ブロック | 長期的効果 選択的鎮痛 |
運動神経麻痺が時に不可逆的 推奨至適濃度・投与量がない アルコール神経炎 |
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パルス式高周波神経ブロック | 長期的効果 選択的鎮痛 |
効果が不十分・不安定 | |
高周波熱凝固(RF) | 長期的効果 選択的鎮痛 |
運動神経麻痺が時に不可逆的 焼灼による神経炎の可能性 |
CLTIの急性増悪痛に対し,高周波熱凝固法による末梢神経ブロックを行い,良好な終末期の鎮痛を得ることができた.RFは,患者のADLや予後と運動神経障害のバランスを考慮することで,患者満足度を向上させうる治療方法である.
本稿の要旨は,日本ペインクリニック学会第57回大会(2023年7月,佐賀)において発表した.