Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Clinical Report
Two cases of cone-beam CT-assisted fluoroscopy-guided splanchnic nerve neurolysis for managing non-cancer pain
Ryoko NISHIDAKatsuyuki KATAYAMA
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2024 Volume 31 Issue 4 Pages 73-76

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Abstract

非がん性上腹部内臓痛に対し,神経破壊薬を用いたコーンビームCT補助下透視下内臓神経ブロックを施行した2症例を経験した.症例1,46歳男性.アルコール性膵炎に起因する心窩部・側腹部痛(NRS 7/10)を自覚.経口鎮痛薬での疼痛制御が困難な上,鎮痛薬に起因する日中の眠気が強く就業困難であったため,神経破壊薬を使用した内臓神経ブロックを施行した.施行直後より疼痛は消失し,経口鎮痛薬を減量し,復職を果たした.ブロック施行後4年2カ月経過した現在も疼痛の増悪を認めていない.症例2,57歳男性.反復性胆管炎に起因する間欠痛(NRS 7~8/10)を自覚.疼痛により就業困難(バスの運転業務)であり,傾眠作用を持つ鎮痛薬を使用せず鎮痛する必要があった.症例1と同様に神経破壊薬を用いて内臓神経ブロックを施行した直後より疼痛は消失し,胆管炎再燃時もアセトアミノフェン頓用内服での鎮痛が可能となった.ブロック施行後3年経過した現在も疼痛の増悪を認めていない.神経破壊薬を用いた内臓神経ブロックは,慎重な適応の判断を必要とするが,非がん性上腹部痛患者に対しても治療法の選択肢になる可能性がある.

Translated Abstract

A 46-year-old male suffered from upper and left abdominal pain caused by alcohol induced pancreatitis. As oral analgesics were not effective and caused drowsiness resulting in difficulties in his job, splanchnic nerve neurolysis (SNN) with ethanol was performed. Pain relief was immediately achieved and he returned to his job. He was free from pain 50 months after the procedure. A 57-year-old male suffered from intermittent pain of upper abdomen and back caused by recurrent cholangitis. He was unable to continue his job due to intolerable pain despite taking oral analgesics. After performing SNN, pain was immediately relieved. He returned to his job and had little pain which could be managed with a single use of acetaminophen 36 months after the procedure. CT-assisted fluoroscopy-guided SNN is an effective procedure and could be a good option for non-cancer upper abdominal pain. However, neurolysis induces permanent destruction of the plexus by ethanol, which should be taken into considered before performing this procedure.

I はじめに

内臓神経ブロック(splanchnic nerve block:SNB)および腹腔神経叢ブロック(celiac plexus block:CPB)は,上腹部内臓痛に対して古くから用いられてきた.しかし,神経破壊薬の使用は悪性腫瘍に起因する疼痛に限られ,非がん性の上腹部内臓痛に対して使用した報告は非常に少ない.今回,慢性膵炎を含む非がん性の上腹部内臓痛2症例に対し,神経破壊薬を用いた内臓神経ブロック(splanchnic nerve neurolysis:SNN)を施行したため報告する.

なお,本報告を行うにあたり,患者および所属施設の承認を得ている.

II 症例

症例1:46歳男性,コールセンター勤務.

既往歴:X−11年にアルコール性膵炎と診断された.X−9年,激しい腹痛に対し,当院内科にて膵結石除去術が施行され,疼痛は軽快した.X年3月,再度激しい腹痛を自覚し,同科にて精査された.膵炎以外に腹痛の原因となる疾患を認めず,内視鏡的膵管口切開術および内視鏡的結石除去術が施行された.しかし疼痛の改善を認めず,X年4月,当科を紹介受診した.

初診時現症:心窩部から左側腹部に及ぶ安静時体動時共にnumerical rating scale(NRS)7/10の疼痛を自覚していた.血液検査所見では,血中膵酵素値が軽度低下し,慢性膵炎に矛盾しない所見であった.

経 過:トラマドール,ロキソプロフェンの内服を開始し,漸増した.6週後にはトラマドール200 mg/日,ロキソプロフェン180 mg/日の内服で安静時のNRSは2まで低下した.しかし,体動時の痛みとトラマドールによる日中の眠気により,コールセンターでの就業が困難となり退職に至った.X年6月,アルコール摂取を契機に再度疼痛が増悪したため,鎮痛薬の変更(トラマドール200 mg/日,アセトアミノフェン1,800 mg/日,ロキソプロフェン60 mg/回,疼痛時頓用)を行うも疼痛の改善は乏しく,X年8月,神経破壊薬を用いたコーンビームCT(computerized tomography)補助下透視下SNNを施行した.

SNNは第12胸椎/第1腰椎(thoracic spine 12/lumbar spine 1:Th12/L1)間より経椎間板アプローチで行った.はじめに,穿刺予定の椎間板を中心にCTを撮像した.スライス画像上に右retrocrural spaceを到達点,到達点まで椎間板以外の障害物がない経路を設定し,皮膚上に穿刺方向を示すレーザー光が照射されるよう設定した.計測された穿刺距離を穿刺針にマーキング後,患者の背部に照射されるレーザー光に従って穿刺を行った.針の刺入はレーザー光どおりに針が進入していることを透視画像にて確認しながら,生理食塩水による抵抗消失法を併用して行った.予定された深さでシリンジの抵抗消失を確認した後,イオトロラン5 mlと2%リドカイン5 mlの混合液を注入し再度CTを撮像した.右retrocrural spaceに混合液が拡がっていることを確認後,5分後に無水エタノールを10 ml投与した.同様に左retrocrural spaceを到達点とした経路を再設定し,レーザー光をガイドとしながら刺入を行った.前述と同様のイオトロランと局所麻酔薬の混合液5 mlを投与後,CT画像で拡がりを確認し,さらに無水エタノール5 ml投与した.最後に両retrocrural spaceにおけるイオトロランおよびエタノールの拡がりをCT撮像し確認し,終了とした(図1).

図1

症例1におけるブロック終了後の確認CT

SNN施行直後より,心窩部から左側腹部に及ぶ痛みは安静時労作時共に消失した.一方で,施行約4時間後より右背側Th12領域に最大NRS 6の痛みが発生した.経口鎮痛薬(トラマドール100 mg/日,アセトアミノフェン1,200 mg/日)を継続し経過観察したところ徐々に軽快し,施行4カ月後に消失した.その後も肋骨骨折や頚椎椎間板ヘルニアに起因する疼痛に鎮痛薬の処方(トラマドール100 mg/日)を要したが,ブロック施行後から9カ月後であるX+1年4月,経口鎮痛薬の漸減中止と同時に終診とした.ブロック施行後から4年2カ月経過した現在も,痛みの再発を認めていない.

症例2:57歳男性,バス運転手.

既往歴:X年9月,膵胆管合流異常症,先天性胆道拡張症に対し,開腹肝外胆管切除術,胆管空腸吻合術,胆嚢摘出術を施行された.X年10月,胆管炎の発症を契機に術前と同様の腹痛を自覚し,精査目的に再入院した.消化管の吻合不全や狭窄の検索が行われたが異常なく,痛みにより退院が困難な状況から,当科に紹介された.

初診時現症:上腹部正中から背部正中の間欠痛を訴えていた.疼痛時のNRSは7~8/10であった.血液検査では肝胆道系酵素の上昇,炎症反応の上昇を認め,胆管炎の所見として矛盾なかった.

経 過:抗生剤治療と並行して持続硬膜外ブロックによる鎮痛を開始し,NRSは2に低下した.疼痛管理と並行し,再度原因検索を行ったが,再建腸管における逆流を原因とした胆管の炎症が原因の痛みと考えられ,介入の余地がある器質的原因は指摘されなかった.この結果を踏まえ,硬膜外ブロックから経口鎮痛薬への移行を開始し,当科紹介から3週間後,トラマドール200 mg/日,アセトアミノフェン2,000 mg/日,トラマドール25 mgの疼痛時頓服処方で退院となった.

退院後は,バスの運転業務への復帰を目指し,トラマドールの減薬を目標とした.しかし,X+1年3月,胆管炎の再発を契機に再度痛みが増悪し,抗生剤治療により炎症反応が改善した後も間欠痛が頻発した.再度原因検索を行ったが明らかな器質的異常は認められず,コーンビームCT補助下透視下SNNを施行することとした.

SNNは,症例1と同様の手順で,右アプローチはTh12/L1間より,左アプローチは肺の誤穿刺を避けるためL1/L2間から経椎間板アプローチで施行した.右アプローチより無水エタノールを10 ml,左アプローチより5 mlを投与した.

SNN施行直後よりNRSは0と著明に疼痛が改善し,胆管炎再発時もアセトアミノフェンのみでの疼痛制御が可能となった.SNN施行2カ月後であるX+1年5月には運転業務も再開することができた.現在SNN施行から3年が経過しているが,胆管炎再発時もアセトアミノフェン頓用のみで対処できている.

III 考察

慢性膵炎などの非がん性の上腹部内臓痛に対しては,NSAIDsやオピオイド鎮痛薬を用いた治療が標準的に行われている.薬物治療によっても疼痛管理が困難な場合はCTガイド下あるいは超音波内視鏡ガイド下腹腔神経叢ブロックが施行されており,良好な成績が報告されている1,2).当院では,CTガイド法と同様に穿刺方向と深度をCT画像で計画し,穿刺針をレーザー光に合わせて挿入するコーンビームCT補助下透視下ガイド法を採用している.また,上腹部内臓痛に対しては,手技が比較的簡単で臓器損傷等の合併症を回避しやすく,かつ,少量の薬液で腹腔神経叢ブロックと同程度の効果が期待できるとされている3)内臓神経ブロックを選択している.

非がん性の上腹部内臓痛に対する腹腔神経叢ブロックに使用する薬剤は主にステロイドおよび局所麻酔薬であるため,長期的な効果は明確ではない.Gressらは慢性膵炎患者に対し腹腔神経叢ブロックを施行し55%の患者で効果があったが12週後では26%,24週後では10%に低下したと報告している1).Santoshらの報告でも腹腔神経叢ブロック直後には97%の患者で効果があったが12週後には10%に低下している2)

これに対し神経破壊薬を用いた腹腔神経叢ブロック(celiac plexus neurolysis:CPN)は恒久的な神経の破壊を目的にした治療法であり,主にがん性上腹部内臓痛の緩和目的に施行されてきた.がん性疼痛に対するCPNの効果について,Eisenbergらは手技にばらつきはあるものの12週を超えても90%の患者に効果があったと報告し4),また最近の超音波内視鏡ガイド下CPNによるメタ解析ではおよそ72~80%の症例に対する効果が報告されている5,6).これらの治療成績を受け,近年では慢性膵炎による難治性上腹部内臓痛に対するCPNの報告もわずかながら見られる5).Levyらは慢性膵炎による疼痛に対する腹腔神経叢ブロックの疼痛緩和効果について,ステロイドを用いた場合が38%であったのに対してエタノールを用いた場合80%であったと報告した7)

経椎間板アプローチによるCPN/SNNの合併症として神経根症状が1%程度に生じるとされている4).症例1ではSNN施行後にTh12領域に一過性の疼痛が生じた.アルコール注入後の確認画像で,造影剤と局所麻酔薬の混合液投与後の確認撮影では認めなかった,造影剤の椎間孔への流入像が確認され,アルコールによる神経炎が原因と考えられた.患者には神経根損傷を原因とした疼痛であることを説明し,鎮痛薬の内服を継続する方針とした結果,疼痛は4カ月後に消失した.

症例1の患者は比較的若年にもかかわらず,腹痛および薬剤を原因とした眠気による就労困難など日常生活や社会生活に著しく支障をきたし,内服加療の効果も限定的であった.症例2も,反復性胆管炎の原因である胆汁の逆流を治療する道は残されておらず,かつ,運転業務復帰のために,催眠作用のない薬剤での疼痛管理が求められていた.このような患者に対する疼痛治療の選択肢は未だ多くなく,単回の処置で長期の鎮痛効果が得られる選択肢の確立は非常に意義がある.

非がん性上腹部痛に対する疼痛管理としてはNSAIDsやオピオイド系鎮痛薬が効果的な方法であるが,これら薬物治療に抵抗する症例や副作用の出現により薬物の継続や増量が困難な症例が少なからず存在する.本報告の2例ではSNNを施行し3年にわたる鎮痛効果を発揮した.神経破壊薬の使用は組織の線維化や別疾患の見逃しの可能性等,長期間影響のあるデメリットを有するため,安易な施行は慎むべきである.しかし,内服薬による鎮痛が困難であり,かつ長期の鎮痛効果が必要である場合,慎重な適応判断を行った上であれば,コーンビームCT補助下透視下SNNは非がん性上腹部内臓痛に対して治療法の選択肢の一つとなる可能性がある.

本稿の要旨は,日本ペインクリニック学会 第2回北海道支部学術集会(2021年9月,Web開催)において発表した.

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