Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Clinical Report
Thoracic root block combined with pulsed radiofrequency was effective for intractable pain due to erosion in the edge of an ileostomy: a case report
Mami MURAKIMitsuko MIMURAAkiko HAGIWARAYukiko GODAYukimasa TAKADAMichiaki YAMAKAGE
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2024 Volume 31 Issue 4 Pages 69-72

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Abstract

回腸ストマは消化酵素を含む強アルカリ性の排液により周囲皮膚が障害されやすく,治療に難渋する痛みを伴うことがある.神経ブロックを契機に痛みが改善した症例を経験したため報告する.症例は60歳,女性.20歳代に卵巣嚢腫手術後イレウスを繰り返し40歳代に回腸ストマ造設に至った.血液透析施行,モルヒネ依存の既往がある.右下腹部の回腸ストマ下縁にびらん形成を生じて以来,同部に火傷様の強い痛みが生じていた.ジクロフェナク坐剤の使用により胃潰瘍をきたし,坐剤中止後に前医において持続硬膜外ブロックを開始し当科紹介となった.硬膜外カテーテル抜去後にパルス高周波による右Th10神経根ブロックを行った.痛みは軽減し,その後3度の硬膜外ブロックとミロガバリン等神経障害性痛治療薬によりnumerical rating scale(NRS)4/10以下となった.回腸ストマ辺縁の痛みは当初侵害受容性の痛みであるが,強い痛みが持続するうち中枢性感作による神経障害性痛を生じうると推測される.このような痛みには,パルス高周波法を併用した神経ブロックおよび神経障害性痛治療薬が有用と考えられた.

Translated Abstract

We report a case of intractable pain due to erosion in the edge of an ileostomy improved by thoracic root block. The patient was a 60-year-old woman who had a burning pain due to erosion in an edge of the ileostomy. She was on hemodialysis and had a history of morphine dependence. She used diclofenac suppositories and developed a gastric ulcer. Her previous physician started continuous epidural block and referred her to our hospital for pain control. After removal of the epidural catheter, we performed right Th10 root block with a pulsed radiofrequency. Her pain was alleviated, and the numerical rating scale (NRS) was reduced to 4/10. An ileostomy can cause severe pain because the surrounding skin is easily damaged by the strong alkaline intestinal fluid. This pain is initially nociceptive, but after a long period of time, it may become intractable due to central sensitization. Treatment for neuropathic pain, including nerve blocks, may be useful for this intractable pain.

I はじめに

回腸ストマは強アルカリ性の排液により周囲皮膚が障害されやすく1),治療に難渋する痛みを伴うことがある.今回,回腸ストマのびらん形成による難治性痛に対し,パルス高周波を用いた神経根ブロックが奏効した1症例を経験したため報告する.

本症例に関する症例報告に関して,本人に対して口頭にて説明を行い同意を得ている.

II 症例

患 者:60歳,女性.

主 訴:右腹壁(回腸ストマ下縁)の痛み.

既往歴:高血圧,末期腎不全による血液透析.

現病歴:20歳代に卵巣嚢腫手術を受け,術後癒着性イレウスによる癒着剥離術を繰り返し,40歳代に回腸ストマ造設に至った.以後,腸蠕動に伴う強い腹痛があり,モルヒネ塩酸水和物5 mgの頓用から開始し,モルヒネ塩酸水和物180 mg/日の定期内服と30 mg/回の頓用まで増量された.その後,複数回のモルヒネ塩酸水和物と睡眠薬の過量内服の既往があり,モルヒネ塩酸水和物は60 mg/日まで減薬された.50歳時,イレウスによる敗血症性ショックをきたし,人工呼吸器による管理を要した.その間にモルヒネを減薬し,人工呼吸器離脱を契機にモルヒネを離脱していた.57歳時に右下腹部の回腸ストマ下縁にびらんを形成して以来,同部に「火傷のような」強い痛みが生じた.トラマドール塩酸塩100 mg/回の頓用は無効で,比較的効果のあるジクロフェナク坐剤を自己判断で200 mg/日使用していたところ,胃潰瘍を発症した.ジクロフェナク坐剤が中止され,アセトアミノフェン坐剤1,200 mg/日に変更となったが,痛みはさらに増強し睡眠障害をきたした.薬物による痛みのコントロールが難しく,安静時の痛みのnumerical rating scale(NRS)は8/10であった.前医においてTh10/11より硬膜外カテーテルが挿入され,0.2%ロピバカイン2 ml/hの持続投与が行われた.痛み増強時はpatient controlled analgesia(PCA)ボーラス投与(4 ml/回,ロックアウトタイム2時間),アセトアミノフェン坐剤200 mgを使用していた.持続硬膜外ブロックを継続のまま,痛みの制御のため当科紹介となった.

初診時現症:小腸ストマ下縁にびらんがあり,疼痛部位のデルマトームはTh10またはTh11であった(図1).安静時の痛みのNRSは3/10であり,持続硬膜外ブロック開始後から睡眠障害はなかった.ストマからの排泄物がびらんに付着すると突出痛があり,予防のために1日7,8回はPCAボーラス投与を使用していた.

図1

回腸ストマ下縁のびらん

上:右腹部に造設された回腸ストマ.下:Th10レベルでストマ下縁にびらんが認められた.

治療経過:硬膜外カテーテル抜去後に,腹臥位にて右Th10,Th11の神経根ブロックを行った(図2).Th10の神経根ブロックによるパレステジアが常にある疼痛部位に一致していた.Th10で2%リドカイン2.5 mlとデカドロン1.65 mg 0.5 mlの混合液のうち1.5 mlを注入後,パルス高周波42℃,120秒を施行した.施行後より痛みは著減し,効果は2週間持続した.その後,1カ月ごとの受診時に3度の硬膜外ブロックを追加した.初回のパルス高周波療法から4カ月経過した時点で,NRS 6/10と痛みが再燃したため,再度パルス高周波法を併用した右Th10の神経ブロックを施行した.以後,約半年間にわたり,ミロガバリンベシル酸塩2.5 mg/日,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有剤16単位/日,アミトリプチリン塩酸塩10 mg/日による薬物療法のみによりNRS 4/10以下で経過している.

図2

Th10右神経根ブロック

上:正面像,下:側面像,日ごろの痛みの部位にパレステジアが得られた.

III 考察

回腸ストマは皮膚障害をきたしやすく,永久ストマとしての頻度は低い(表12).回腸ストマのびらんの痛み治療に関する報告は少なく,決め手となるような治療はない.

表1回腸ストマと小腸ストマの違い

  回腸ストマ 結腸ストマ
便の性状 水様便 泥状便~軟便
排便回数 6~8回/日 2~3回/日
消化酵素 含む 含まれない
皮膚障害 びらんを形成しやすい 比較的生じにくい
永久ストマ 頻度は少ない 多い

本症例では,びらんによる侵害受容性痛に対し,アセトアミノフェン製剤およびトラマドール塩酸塩は奏効せず,モルヒネ依存の既往があり,強オピオイドの使用は選択されなかった.また,胃潰瘍があり,NSAIDsは適応外であった.痛みの領域が限局していたため,パルス高周波法を併用した神経根ブロックを行い,薬物療法に抵抗する痛みが軽快した.当初は炎症による侵害受容性の痛みであったが,ストマ周辺の組織が障害されたことにより神経障害性の痛みが加わり,さらに痛みの長期化で中枢性感作も進行し,難治性の痛みを生じたと推測される.

動物実験において,中枢感作は持続的な一次侵害求心性入力により生じ,持続痛または痛覚過敏を引き起こすことが指摘されている3,4).また,神経ブロックにより求心性入力を遮断することで,痛みだけでなく中枢性感作の軽減が得られることが報告されている5).本症例では神経根ブロックにより,びらんへの排泄物の付着による一次侵害求心性入力が遮断され,持続痛の改善と中枢性感作の軽減が得られたと考えられる.パルス高周波療法の正確な作用機序はまだ解明されていないが,脊髄後角で慢性痛による長期増強に拮抗することやノルアドレナリンおよびセロトニン作動性の下行性抑制系を活性化することが知られており,さまざまな神経障害性痛に応用されることが増えている6,7).本症例では持続硬膜外麻酔を使用していた際には突出痛を抑えることができず,PCAボーラス投与が必要な状況であったが,パルス高周波法を併用した神経根ブロックを施行したことで,突出痛に対するレスキュー鎮痛剤が不要となった.一次侵害求心性入力の遮断のみならずパルス高周波療法の副次効果が加わり,痛みが軽減した可能性がある.パルス高周波療法による鎮痛効果は通電時間によって異なることや遅発効果があることなどが知られている.一方で,施行部位に応じた施行時間を含む適切な施行条件についての報告は少なく,今後さらなる検討が必要である8).また,パルス高周波療法の効果持続時間は3~6カ月とされており,蓄積効果も認められているが,本症例においては今後も繰り返しの施行が必要であることが予想される.内服薬の管理を含めた継続的な指導も重要であり,慎重に経過を見ていきたい.

IV 結語

回腸ストマ周囲の難治性の痛みは,神経ブロックを含む神経障害性痛に対する治療が選択肢となりうる.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第57回大会(2023年7月,佐賀)において発表した.

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