Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2024 Volume 31 Issue 4 Pages 77-84

Details

会 期:2023年10月14日(土)

会 場:大阪カンファレンスセンター

会 長:増澤宗洋(関西医科大学総合医療センター診療部長教授)

開催形式:現地開催

■特別講演

脳脊髄液漏出症の診断と治療のコツ

ペインクリニック・インターベンショナル治療を活かす

石川慎一 丸山真実 妹尾悠祐 南 絵里子 岡部大輔 門馬和枝 小橋真司

姫路赤十字病院麻酔科

脳脊髄液漏出症は重い両側性起立性の頭痛が基本で,慢性連日性頭痛から硬膜下血腫による意識障害まで幅広い症候を示す.症状は起立性頭痛が特徴的であるが,慢性化によって非起立性に変化することもある.症状は頻度順に嘔気・嘔吐,頚部のこわばりなどを示すが脊髄MRIとCT脊髄造影が漏出診断に有用な一方で,頭部Gd造影MRIや髄液圧が正常でも否定できない.外傷性頚部症候群の約2%に脳脊髄液漏出症が含まれており,両側性起立性の頭頚部痛とバレー・リュー症状を合併する場合に鑑別診断が必要である.難治例が存在するが,漏出の継続より慢性化,頚性頭痛,外リンパ瘻,心理社会的ストレスなど漏出以外に原因があることが多く,これらの鑑別診断と治療前後の心理社会的評価も重要である.外傷例では,頚性頭痛や頚椎疾患による痛みの鑑別も重要である.頚椎椎間関節へのブロックや後枝内側枝への高周波熱凝固,大後頭神経ブロックや第三後頭神経ブロック,眼窩上神経ブロックは頭痛に有効なことがある.また神経根ブロックや腕神経叢ブロックも効果を期待できる.診断が明確でない場合には硬膜外生理食塩水注入も検討すべきである.近年はスポーツ外傷後の不登校の原因の一つとして症例が増加している.

脳脊髄液漏出症における診断と治療のコツおよびpitfallを解説し,ペインインターベンショナル治療についても述べる.

■教育講演1

なぜ脊髄刺激療法(SCS)は鎮痛効果があるのか?

奥谷博愛

兵庫医科大学麻酔科学・疼痛制御科学講座

脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)は,難治性慢性疼痛患者に対して脊髄後索を刺激することで疼痛緩和や血流改善をすることを目的として1967年に初めて報告され,本邦では1982年より使用されてきた.現在,本邦では3社の製品が使用でき各社で刺激方法に特徴がある.しかし,使用開始から半世紀余りが経つにもかかわらず,実際にどのような作用機序で鎮痛効果が出ているのか完全には明らかになっていないのが現状である.かねてよりゲートコントロール理論を基盤とした「疼痛部位をさする刺激が痛みを低下させる」という説明がなされていたが,それだけでは説明がつかないことも多い.また近年は従来のtonic刺激とは異なる刺激様式(high frequency/burst)による作用機序についても注目を集めている.

神経障害性疼痛の成因としては,脊髄後角グリア細胞の活性化により炎症性/抗炎症性サイトカイン,神経栄養因子やケモカインが放出され,この炎症性/抗炎症性のバランスが炎症性に傾くことで神経障害性疼痛の発症・維持につながる.SCSの疼痛緩和機序として,中枢性グリア細胞から放出されるサイトカインのうち抗炎症性のものを優位にさせる作用が報告されている.今後,異なる刺激様式による作用機序の差異が詳細に解明されることで,疾患ごとにより効果が高い刺激様式を適応することが可能になり,神経障害性疼痛患者の疼痛緩和の質を向上させることが可能となる.そのためにはさらなる詳細なメカニズムの解明を基礎研究で進めると同時に臨床研究で疾患・刺激様式ごとの鎮痛効果の評価を積み重ねるといった基礎・臨床双方からのアプローチによる科学的根拠の蓄積が必要不可欠である.そこで今回の講演では現在までに分かっているSCSのメカニズムについて理解を深めることを目的として最新の知見を交えて紹介する.

■教育講演2

緩和ケアにおける疼痛管理について,ペインクリニシャンが知っておくべきことは何か?

谷口彩乃

京都第一赤十字病院緩和ケア内科

本邦において,人口の高齢化に伴いがんの罹患数は増加の一途をたどり,さらに,がんの診断技術や治療法の進歩によってがんの生存率は上昇した.その結果,がんと診断され治療中または治療後を通して生活しているがんサバイバーは増加している.中でも痛みをもつがんサバイバーは40%に達すると報告されており,さらに彼らのもつ痛みはますます多様化している.つまりがん患者の痛みとして取り扱われる対象は,がんによる急性痛や進行した病変に伴う痛みだけでなく,がんサバイバーが長期にわたって抱える痛みにも広がっている.現代では彼らのもつさまざまな痛みとこれらにまつわる問題に対し,がん患者の疼痛管理を多面的に考え,それぞれに細やかな対応が求められているのである.まず,WHO方式がん疼痛治療法などの普及やオピオイド鎮痛薬の開発により,がん疼痛治療の質は飛躍的に向上した.しかし,一方で薬物療法では緩和できない難治性がん疼痛や,オピオイド鎮痛薬等の副作用による苦痛を強いられる場合が10~30%存在すると報告されており,薬物療法の限界も明らかである.このような場合,神経ブロックは十分に有用な手段となる可能性があり,1人でも多くのペインクリニシャンに関わってほしいと願う.普及のためには課題は多いが,ここではがん患者に対する神経ブロックの有用性と,必要とする患者に神経ブロックを届けるための取り組みの一つを紹介したい.次に,薬物療法の主軸であるオピオイド鎮痛薬の弊害である.依存・乱用に至らずとも,情緒的な苦悩に対処するためにオピオイド鎮痛薬を用いるケミカルコーピングは,患者の心理社会的な問題と医療者の疼痛管理方法が相まって生み出される,緩和ケアでは避けて通ることのできない問題である.ケミカルコーピングの予防や対応について,その背景をひもときながら考えたい.

■一般演題1

肛門部がん疼痛に対して側方アプローチ法により不対神経節ブロックを行った1例

丸山智之 栗山俊之 小川舜也 山㟢亮典 水本一弘 川股知之

和歌山県立医科大学麻酔科学教室

【はじめに】がん性肛門痛に対して不対神経節ブロックを計画した患者において,経仙尾関節垂直アプローチ法では血管が造影され,側方アプローチ法によって造影の改善と鎮痛が得られた症例を経験したので報告する.

【症例】48歳男性.切除不能な直腸内分泌腫瘍と診断され,化学療法が開始された.PET-CTにより肛門,鼠径リンパ節および胸腰椎に転移が認められた.がんによると考えられる肛門部痛緩和目的で当科受診した.初診時,NRS 6/10程度の肛門部と腰背部痛に対してオキシコドン80 mg/日,アセトアミノフェン4,000 mg/日を使用していた.肛門部痛に対して,さらにレスキューとしてオキシコドン5 mg/回を3回/日程度使用していたが,痛みは緩和しなかった.肛門部痛に対して2%メピバカインを用いて不対神経節ブロックを施行したところ,NRS 0/10となり20時間程度持続したため,アルコールによる不対神経節ブロックを計画した.透視下に経仙尾関節垂直アプローチで穿刺し,造影剤により部位を確認したが仙骨前面は造影されず,静脈が強く造影されたため薬液の投与は行わなかった.その後も内服薬では痛みは改善せず,再度,不対神経節ブロックを試みることとした.前回,経仙尾関節アプローチで静脈が強く造影されたため,側方アプローチ法で穿刺した.側方よりエコーガイド下に仙尾関節側面まで穿刺針を誘導,透視下に仙骨に沿わせて針先の位置を調節し,造影剤を投与した.仙尾関節前面が造影され,血管はわずかに造影される程度であった.2%メピバカインによるテストブロック後,99.5%エタノール4 mlをゆっくりと投与した.エタノールに起因する症状はなく,痛みはNRS 2/10まで改善し,肛門痛に対してレスキューを必要としなくなった.不対神経節ブロックにおいて穿刺困難な患者に対してアプローチ法の変更により有効な鎮痛が得られた.

オピオイド忍容性が低い患者に内臓神経ブロックを繰り返すことでがん疼痛治療を行った1例

髙橋徹朗 前 知子 立花潤子 服部政治

中部徳洲会病院疼痛治療科

【背景】オピオイドはがん疼痛に使用されるが,オピオイドの忍容性が低い患者では疼痛コントロールが困難である.今回,オピオイドの忍容性が低い患者に内臓神経ブロックを繰り返し行い,疼痛コントロールを2年間行った膵体部がんの1例を経験したので報告する.

【臨床経過】40代女性.心窩部痛と背部痛にて他院を受診し膵体部がんStage IVと診断された.オキシコドン内服を開始し,120 mg/日まで増量したが疼痛コントロールがつかず,神経ブロック目的で他院緩和ケア内科より当院に紹介され,内臓神経ブロックを施行した.その後,痛みは軽減し,転院後オキシコドンの内服は中止した.10カ月後痛みの再燃に伴い,オピオイド再開を試みるも,眠気と倦怠感を懸念し本人が希望しなかった.再度内臓神経ブロックを行うことを希望され,当院にて内臓神経ブロックを施行した.前回同様痛みは軽減し,退院した.その後,同様に9カ月後に3回目,15カ月後に4回目の内臓神経ブロックを施行した.

【考察】内臓神経ブロックは腹部内臓痛,特に上腹部痛に対して有効であり,薬物療法単独と比較してオピオイドの使用量が減少する.神経破壊薬を用いた内臓神経ブロックの持続効果は平均3~4カ月であり,内臓神経ブロックを施行した約2/3の患者で病状の進行とともに痛みが再燃するとされている.本症例はオピオイドの忍容性が低く,内臓神経ブロックを繰り返すことでオピオイド投与を最低限にすることができたと考えられる.

【結論】オピオイドの忍容性が低い患者に対して内臓神経ブロックを併用することで有効な疼痛コントロールができる可能性がある.

リハビリテーション単独で著明な痛みの改善が得られた化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛の1例

栗原健太*1 山中百優*1,2 岡野侑紀子*1 加藤直樹*2,3 上田佳弥*2,3 高橋亜矢子*1,2 松田陽一*1,2

*1大阪大学大学院医学系研究科麻酔・集中治療医学教室,*2大阪大学医学部附属病院疼痛医療センター,*3大阪大学医学部附属病院リハビリテーション部

【はじめに】各種治療が無効であった難治性の化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛に対して,リハビリテーションのみを集中的に行った結果,ADLに加えて痛み強度も著明な改善が得られた症例を経験した.

【症例】76歳男性.X−8年に大腸がんに対して腹腔鏡下直腸前方切除術と術後補助化学療法(XELOX 8コース)が施行された.以後大腸がんは再発なく経過しているが,オキサリプラチンによる四肢の末梢神経障害性疼痛が出現した.薬物療法は医療用麻薬を含めて全て無効で,神経ブロック(仙骨ブロック,脊髄くも膜下ブロック),脊髄刺激療法(tonic,1,000 Hz,DTM刺激)も効果なく,ADL低下も著しいため,X年Y月に集学的治療を目的に当院に紹介となった.両下肢全体(特に両足底)と両手・手指に知覚低下とNRS 10の持続痛・歩行時痛があり,痛みのため立位・歩行がほぼできない状況が長期に続いていた.過去に未実施の刺激モードによる脊髄刺激療法のトライアルと並行して集中的なリハビリテーションを行うことを提案したところ,リハビリテーションのみを行うことを希望されたため,X年Y+1月より入院リハビリテーションを行った.リハビリテーションに前向きに取り組む気持ちになったことで入院初日の時点で痛みに対する感情・認知面の改善がみられたが,NRSの変化はなかった.段階的な理学・作業療法とペーシング指導を3週間行うことにより,120 m歩行や階段昇降が可能となり,しびれ感は変化がないものの痛み強度はNRS 3まで改善した状態で退院となった.

【考察】化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛では薬物療法とインターベンショナル治療が重要な治療であるが,リハビリテーションにも有効性を示すエビデンスがあり,難治例においてもリハビリテーション単独で痛みの軽減が期待できる可能性が示唆された.

化学療法誘発性末梢神経障害に対してSCS trialが有効であった1症例

古畑真有*1 奥谷博愛*1 高雄由美子*2 永井貴子*1 佐伯彩乃*1 廣瀬宗孝*1

*1兵庫医科大学麻酔科学・疼痛制御科学講座,*2兵庫医科大学病院ペインクリニック部

【緒言】化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)による難治性疼痛に対し一時的なSCSが有効であった症例を経験したので報告する.

【症例】59歳,男性.20XX年9月に虫垂がんの腹膜播種の診断で化学療法(mFOLFOX+抗VEGF抗体)を導入された.がん性疼痛コントロール目的で当科紹介受診となり内臓神経ブロック,オピオイド,鎮痛補助薬を併用して腹痛のコントロールは良好であったが,CIPNにより上下肢しびれを認めていた.翌年6月,外来化学療法後に両側大腿~膝窩部を中心としたNRS 10/10の下肢激痛を訴え,オキシコドン塩酸塩水和物散を頻回に使用しても効果がなく救急搬送された.MMTは正常で,疼痛部位に明らかな運動・感覚障害を認めなかった.化学療法により急速な血小板減少を認めており,オキシコドン静注薬36 mg/日,アセトアミノフェン静注薬3,000 mg/日,静注用リドカイン注射液(2%)300 mg/日の投与を開始したがNRS 8/10と効果は乏しかった.血小板数の回復を待って脊髄くも膜下ブロックを行い数日程度の鎮痛を得ることができ,連日施行することで大腿後面の痛みは徐々に緩和された.その後も重度の上下肢しびれ,疼痛は継続し,上下肢遠位筋優位の筋力低下,腱反射の減弱を認め,脱髄を疑う所見があることから慢性炎症性脱髄性ポリニューロパチーとしてIVIG療法を施行したが効果は乏しかった.疼痛でリハビリが進まないことからSCS trialを2週間行ったところNRS 6/10まで軽快し,オキシコドン塩酸塩錠40 mg/日+鎮痛補助薬の内服でリハビリを進めることができ退院に至った.

【考察】CIPNは薬物抵抗性で疼痛治療に難渋することがある.本症例は症状が典型的ではなく診断が困難であったがSCS trialが疼痛緩和のきっかけとなった.

【結語】CIPNによる難治性疼痛に対してSCSが有効であった症例を経験した.

■一般演題2

入院治療によりpolypharmacyを改善し得た難治性疼痛の1症例

森  梓 佐藤仁昭 西原侑紀 上野恭平 野村有紀 溝渕知司

神戸大学大学院医学研究科外科系講座麻酔科学分野

50歳女性.アルコール依存症で他院精神科にて通院治療中に転倒し,左大腿外側部に蜂窩織炎を生じた.蜂窩織炎軽快後も左下肢痛が遷延し,疼痛コントロールに難渋したことから当院ペインクリニックに紹介となった.

既往歴として,右胸郭出口症候群術後の複合性局所疼痛症候群,正中神経鞘腫,腰部椎間板ヘルニア,甲状腺機能亢進症に伴う心不全,不眠症があり23種類の内服薬と2種類の貼付剤(うち鎮痛薬が5種類,抗精神病薬・睡眠薬が7種類)を使用していた.

左下肢痛の原因は,神経障害性痛様の症状と診断的神経ブロックにより左外側大腿皮神経の神経障害性痛と診断した.左鼠径部での外側大腿皮神経ブロックで除痛は得られるものの,効果は短期的であった.またすでに神経障害性痛に対する薬剤は内服されており,ふらつきや歩行困難,日中の眠気などの有害事象を認めていたことから新たに鎮痛薬の追加投与を行わず,疼痛コントロールと内服薬の調整目的に入院治療を予定した.

入院後,左下肢の神経障害性痛に対して脊髄刺激療法試験刺激を開始したところ下肢痛は著明に軽減した.また同時に歩行器を使用した運動療法を開始した.運動療法を開始したことで下肢の廃用性浮腫は軽減し,歩行距離も日ごとに増えていった.また,規則正しい生活を過ごすことで便秘の改善や不眠の改善も得られるようになり,内服薬の漸減を進めることが可能になった.有害事象を確認しながら鎮痛薬の種類や量も調節し,約2週間の脊髄刺激療法後にリードを抜去しても下肢痛の軽減が維持できたため退院とし,かかりつけ医での通院治療継続とした.退院時の内服薬と貼付剤は10種類(うち鎮痛薬が4種類,抗精神病薬・睡眠薬が1種類)まで整理できていた.当院退院後4カ月になるが,痛みの増悪や内服薬の増量なく経過している.

脊髄刺激療法の電極挿入時に急性腰椎硬膜外血腫を合併した1例

Acute lumbar epidural hematoma during electrode insertion for spinal cord stimulation: a case report

山東正志 成尾英和 佐野博昭 中尾謙太 間嶋 望 南 敏明

大阪医科薬科大学麻酔科学教室

脊髄刺激療法(SCS)は,難治性の慢性痛に対して鎮痛効果が期待される一方で,穿刺後頭痛や神経障害などのリスクも伴う.今回,SCSの電極挿入時に急性腰椎硬膜外血腫を合併した症例を経験したので報告する.

症例は83歳女性で,左側胸部帯状疱疹関連痛のため発症1カ月後に当科に紹介となった.初診時,痛みの強さはNRS 10で,ミロガバリン,メコバラミンおよびトラマドール・アセトアミノフェン配合剤等を処方したが,薬剤性肝障害が出現したため内服を中止した.神経ブロックと10%リドカイン軟膏による治療を行ったが痛みの改善なく,抑うつ症状が出現したため初診より1カ月後にSCSトライアルを施行した.

SCSトライアルは,Th12/L1より左傍正中法で1本目の電極を挿入し,先端をTh2椎体レベルに留置した.試験刺激の際,左側胸部以外に右下肢にも刺激を感じると訴えがあったが,X線透視で電極の位置異常は認めず手技を続行した.Th12/L1より右傍正中法で2本目の電極を挿入した直後に,右鼠径部に痛みの訴えがあった.電極による脊髄圧迫の可能性を考え,まず2本目の電極を抜去したが痛みは改善せず,続いて1本目の電極も抜去したが改善しなかった.手技を中断し身体診察を行ったところ両下肢の運動麻痺を認めた.至急,胸腰椎MRI検査施行しTh10からL3領域に硬膜外血腫を認めた.発症直後の下肢MMT 3~4が検査後にはMMT 4~5と改善したため,保存的加療の方針とした.発症2日後には下肢筋力はMMT 5まで回復し,発症15日後に独歩で退院した.

急性腰椎硬膜外血腫は,抗凝固薬の使用がなく,15時間以内に神経障害の回復がみられる場合,保存的加療により70%程度の症例で機能が回復すると報告されている.今回の症例では抗凝固薬の使用や凝固異常はなく,早期より回復を認めたため保存的加療とし,神経障害を残すことなく軽快した.SCSによる硬膜外血腫の発症リスクは0.25~0.3%と高くないものの,合併症が疑わしい場合には即座に精査加療を行うべきである.

胸部神経根パルス高周波療法の繰り返し施行(repeated-PRF)が奏功した帯状疱疹後神経痛の3症例

赤澤舞衣 中西美保 河島愛莉奈 岩下成人 松本富吉 北川裕利

滋賀医科大学麻酔学講座

【緒言】パルス高周波療法は繰り返し施行(repeated pulsed radiofrequency:repeated-PRF)で鎮痛効果が高まることが報告されている.今回われわれは胸部神経根repeated-PRF(1回/1~2カ月)が奏功した帯状疱疹後神経痛(PHN)の3症例を経験したので報告する.

【症例】症例1:76歳,女性.7年前に胸部帯状疱疹(左Th4領域)を発症しPHNへ移行した.近医で肋間神経ブロックが施行されたが痛みの軽減は得られなかった.当科初診時にNRS 6/10の自発痛を認め,薬物療法が奏功しなかったため左Th4神経根repeated-PRF(9回,1回/月)を施行したところ,NRS 0/10まで改善した.

症例2:58歳,女性.初診2カ月前に左Th5領域の帯状疱疹を発症した.ミロガバリンは無効でNRS 9/10の痛みが持続した.左Th5神経根ブロックを5回施行したが効果が一時的であったため,左Th5神経根repeated-PRF(計3回,1回/月)を施行したところ,NRS 2/10に改善した.症例3:73歳,女性.初診6カ月前に帯状疱疹(左Th7領域)を発症.近医で肋間神経ブロックが施行され一時的な痛みの改善が得られていたが,その後再燃しPHNへ移行した.当科初診時,NRS 6/10の自発痛を認め,薬物療法が奏功しなかったため,初診2カ月後から右Th7神経根repeated-PRF(計5回,1回/月)を施行したところNRS 0~3/10に改善した.

【考察】帯状疱疹関連痛に対するPRFの有用性は複数報告されており,本邦では1カ月に1回,保険適応が認められている.過去のrepeated-PRFの報告は施行頻度が1回/3~14日と短く,PHNに対して神経根へ施行した報告はない.本症例はPRFを1回/月の頻度で複数回施行することが有用であった.PHNに対する神経根repeated-PRFは発症早期から慢性期までのPHNに対して有用な可能性がある.

■一般演題3

ファーストバイト症候群の治療経験

藤原亜紀*1 渡邉恵介*2 吉村季恵*1 山村祐司*1 西井世良*2 川口昌彦*1

*1奈良県立医科大学麻酔ペインクリニック科,*2奈良県立医科大学附属病院ペインセンター

【症例】46歳女性.

【既往歴】糖尿病,高血圧,甲状腺機能亢進症,高脂血症,鉄欠乏性貧血.

【現病歴】X−8年→頚部痛,咽頭痛が出現.

X−6年→A病院耳鼻科で茎状突起過長症を指摘され,同年に口内アプローチで茎状突起部分切除を受けたが,症状改善せず.

X−1年→両側茎状突起切除術を受けた.術前からの痛みは改善したが,食事の一口目に両側こめかみの激痛が起こるようになった.ファーストバイト症候群と診断され,ミロガバリン,漢方,ビタミン剤の処方と唾液腺マッサージ指導を受けたが無効.

術後5カ月にBペインクリニック受診.星状神経節ブロック,ケタミン,デュロキセチンを試したが無効.

X年(術後9カ月)に当科受診.

【初診時現症】両側耳の下から頚部にかけて手術痕あり.食事を口腔内に入れたときに両側のこめかみがズキッと痛み,二口目からは無痛.皮膚感覚異常なし.痛みを誘発するトリガーポイントなし.

【治療経過】食事法,カルバマゼピン,立効散,アミトリプチリン,耳介側頭神経ブロック,星状神経節ブロック(エコー下頭長筋注入),翼口蓋神経節ブロック(鼻腔アプローチ)を試した.翼口蓋神経節ブロックのみ半日程度効果を認めたため,X線透視下翼口蓋神経節ブロックPRFを施行したが無効だった.耳下腺へのボツリヌス毒素注入の情報を提供したが希望されず,「このままこの痛みとつきあっていこうかな」とおっしゃり,終診となった.

【考察】耳下腺は交感神経と副交感神経の二重支配を受けている.上部頚部手術の際に頚部交感神経が障害されることにより,そのバランスが崩れ一口目に耳下腺が過剰に収縮して激痛をおこすとされる.耳下腺手術の約10%に発生し,多くは1年以内に軽快する.治療法に定まった見解はないが,苦味から食事を始める,抗てんかん薬,アミトリプチリン,立効散,耳下腺ボツリヌス毒素注入などの報告がある.本症例ではいずれの治療も無効であった.

仙骨関節注射に抵抗性の仙腸関節痛に対して苓姜朮甘湯が奏功した1症例

田原慎治*1 緒方洪輔*1,2 増澤宗洋*1 上林卓彦*1

*1関西医科大学総合医療センター,*2関西医科大学附属病院

【現病歴】50代女性.X−3年前の開腹術後の遷延痛に対して当科通院中.疼痛は内服にて自制内であった.

X年9月から右の骨盤から大腿外側にかけての疼痛を自覚した.また,明け方のこむら返りが出現し,整形外科で仙腸関節痛と診断された.

右仙腸関節痛に対して仙腸関節注射を2週間に1回受けていたが,整形外科での通院日が合わず当科での加療を希望された.

【現症】当科受診時,右の腰痛と明け方のこむら返りを訴えられ,腰以下の冷えと重たさを自覚していた.one finger test陽性,Newton変法陽性であった.

【既往歴】3年前,子宮内膜症開腹子宮全摘術.1年前,腰椎ヘルニア.

【治療経過】整形外科での仙腸関節注射に効果があることも踏まえ,当科でも理学所見と併せて仙腸関節痛と診断した.仙腸関節痛とこむら返りは下半身の強い冷えが誘引と考え,苓姜朮甘湯を処方した.1週間後の再診時には持続していた仙腸関節痛も断続的となり,疼痛の程度も改善を自覚された.こむら返りについては苓姜朮甘湯の内服初日から消失した.当科では仙腸注射はせず苓姜朮甘湯の処方の継続とした.1カ月後には疼痛は気にならないほどとなった.

【考察】仙骨関節痛について,注射に治療抵抗性の症例や,易出血性などの理由で注射が困難な症例でも,漢方治療が有効な手段となりうると考えられた.

【キーワード】仙腸関節痛,漢方治療,苓姜朮甘湯

トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合錠使用中に幻覚の副作用が生じた1症例

相原真琴*1 川本修司*2 宮尾真理子*1 加藤果林*3 池浦麻紀子*1 廣津聡子*1 江木盛時*1

*1京都大学医学部附属病院麻酔科,*2京都大学医学部附属病院麻酔科・集中治療部,*3京都大学医学部附属病院医療安全管理部

【症例】帯状疱疹後神経痛に対しトラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合錠(TM)内服中に,幻覚を生じた1例を経験したので報告する.70代男性.X−3年,慢性炎症性脱髄性多発神経炎に対するステロイド,γグロブリン大量静注療法中に胸部帯状疱疹後神経痛を発症し,TM 4錠(トラマドール150 mg相当)を内服しても疼痛が改善しないため当科紹介となった.複数回の神経ブロックを行ったが効果は乏しく,薬物療法による疼痛管理を継続した.X−2年,肝酵素上昇を認めたために全内服薬を一時中断した.X−1年に疼痛が増悪し,トラマドール50~100 mg/日を開始した際も副作用は認めなかった.X年,TM 4錠/日の内服を再開したところ,「玄関先に妻と亡くなった母が見えた」という幻覚が生じた.TMの内服中断で軽快したが,疼痛が再燃したため6錠/日まで増量したところ,幻覚が再度生じたため中断した.TMの減量・中止によって症状が消失したことから,トラマドールに誘発された幻覚との診断に至った.TMを2錠/日に減量し再開すると幻覚は発症しなかったため3錠/日まで増量し,以降は幻覚が出現することなく経過した.

【考察】トラマドール誘発性幻覚は,トラマドールとその活性代謝物による抗コリン作用,さらにトラマドールのセロトニン再取り込み阻害作用によるセロトニン症候群によって引き起こされるとされるが,病態はあくまで推測の域であり確定診断をつけるための検査はない.本症例では,原疾患や疼痛コントロールのためポリファーマシーの状態にあったことでCYP2D6競合阻害が生じ,トラマドール代謝の低下していたことが一因であった可能性が考えられる.現在のオピオイド危機は,強オピオイドから弱オピオイドであるトラマドールへの移行を促進しつつあるが,トラマドールによるまれな合併症である幻覚を認識しておく必要がある.

舌および頚部から背部にかけての痛みを併発した1症例

村谷忠利

洛西シミズ病院麻酔科

【症例】70歳女性.身長153 cm,体重60 kg.既往歴に30年前に交通事故があった.

【現病歴】5年前から舌に針で刺したようなピリピリした痛みと味覚障害があった.また交通事故後から頚部~背部に痛みを自覚し,寝返り時に痛みがあり睡眠障害があった.多施設で加療されたが改善せず,当科を受診した.

【臨床経過】舌の痛み,舌痛症の原因検索に一般血液検査と電解質,鉄,マグネシウム,亜鉛を測定した.その結果,亜鉛が67 µg/dlと低値であり低亜鉛血症に随伴する舌痛症を疑った.頚部~背部の痛みは,頚椎単純X線で病的異状はなく,頚部と背部にトリガーポイントが存在した.そのため筋緊張性の痛みと判断した.亜鉛の結果判定まで時間を要したため,まず筋緊張性痛に対しアミトリプチリン10 mg/日の投与を開始した.またアミトリプチリン開始14日後に低亜鉛血症が判明し,酢酸亜鉛水和物製剤50 mg/日の投与を開始した.亜鉛投与後に全ての症状は消失し,良好に経過している.

【考察】舌痛症は病因が不明であるが,糖尿病,膠原病,微量元素の低下なども原因とされる.しかし本症例のように舌痛症と背部痛を併発した場合,心因性つまり痛覚変調性疼痛が疑われ,必要な検査が行われない可能性がある.本症例も微量元素や膠原病などの精査が行われていなかった.アミトリプチリンは緊張性頭痛や舌痛症に有用であるが,本症例の舌痛症は亜鉛投与後に症状の改善がみられた.そのため本症例では,亜鉛低下が舌痛症の原因であった可能性が高かった.本症例は新奇性のある症例ではない.しかし他施設で必要な精査加療を受けていなかった.本症例は必要な検査の選択を行い,丁寧に診断を行っていく重要性を再認識できる症例であった.

【結語】治療が奏功した舌痛症と頚背部痛を併発した1例を経験した.

■一般演題4

上喉頭神経ブロックにて非挿管意識下に咽頭異物摘出が行えた1症例

門馬和枝 石川慎一 丸山真実 林 裕之 妹尾悠祐 岡部大輔 小橋真司

姫路赤十字病院麻酔科

【緒言】咽頭内異物のさらなる脱落は,気道閉塞による窒息の可能性があり慎重な管理を要する.今回われわれは,咽頭異物除去術を上喉頭神経ブロックおよび少量のフェンタニル投与のみで管理できた1症例を経験したため報告する.

【症例】70代女性,認知症および脳梗塞の既往があった.朝食時,義歯を誤飲し,内視鏡的に摘出困難なため他院より当院紹介となった.全身麻酔下で摘出術が予定されたが,義歯が声帯の手前左で声帯を塞ぐ形で係留しており挿管困難な状況であった.そこで,超音波ガイド下に1%キシロカイン1.5 ml使用し左上喉頭神経ブロックを施行,軽い鎮静下での摘出を試みた.ブロック後フェンタニル50 µgとレミフェンタニル0.05 γ使用し,嘔吐反射,咳嗽反射を誘発することなく異物を摘出できた.

【考察】高齢者の咽頭喉頭異物は,下気道異物,消化管異物となりうる.特に下気道異物は,気道閉塞による窒息の可能性がある.今回,全身麻酔管理下での異物除去を依頼されたが,声帯の手前で義歯が覆いかぶさっており挿管は困難な状況であった.上喉頭神経ブロックは,上喉頭神経の感覚枝である内枝が甲状舌骨膜を通過する所で局所麻酔薬を注入することにより,舌根部,咽頭後壁,喉頭蓋から声帯レベルの感覚をブロックする方法である.ブロックによって,①咽頭喉頭の除痛,②特発性上喉頭神経痛の診断治療,③意識下気管挿管,内視鏡挿入,経食道心エコーや気管ステント挿入時の疼痛・不快感の軽減,喉頭反射の抑制が可能となる.

【結語】超音波ガイド下に上喉頭神経ブロックを施行し,意識下に義歯を除去することができた.上喉頭神経ブロックは,咽頭異物除去の際,二次性に誤飲,誤嚥を引き起こすことなく管理できる有用な方法と思われた.

脊椎変性疾患を合併した腰椎椎間板ヘルニアでL'DISQTMによる治療が奏功した1症例

谷口優里 宅野結貴 長谷川湧也 辻川翔吾 山崎広之 矢部充英 森  隆

大阪公立大学大学院医学研究科麻酔科学

【緒言】L'DISQTMは椎間板内治療の新たなデバイスとして2019年3月に薬事承認され,本邦でも臨床使用が可能となった.現在のところL'DISQTM治療の主な適応疾患は椎間板ヘルニアであるが,今回われわれは,椎体すべり症,脊柱管狭窄症を合併した腰椎椎間板ヘルニアに対してL'DISQTM治療が奏功した1症例を経験したので報告する.

【症例】61歳女性,右坐骨神経痛に対し保存的加療を受けていたが,X−1年5月より左腰部~大腿外側・前面痛が出現し,同年7月,硬膜外ブロック目的に当院初診となった.初診時のNRSは4/10で間欠性跛行を認めた.MRIではL3/4椎間板ヘルニアによる左硬膜嚢圧迫とL4神経根圧迫所見,L4前方すべりによる脊柱管狭窄,L5/S椎間板膨隆,右椎間孔狭窄を認めた.

左L4神経根ブロックを施行したところ,効果を認めた.L3/4椎間板ブロックを施行したところ,再現痛が得られ,責任病変と考えられた.NRS 2/10程度の慢性痛が残存しており,患者の希望でL'DISQTMを用いたインターベンション治療を施行した.L3/4椎間板の左側を中心にプラズマアブレーションを施行し,治療後から速やかに疼痛は軽減した.

【考察】本症例では椎間板ヘルニアに加え,椎体すべり症や脊柱管狭窄症を合併していたが,L'DISQTM治療を行うことで疼痛を軽減することができた.身体所見・画像所見・神経ブロックの結果から原因となる椎間板を同定して行うことで,他病変を合併していても効果を得ることができると考えられた.

頚椎MRIが慢性リンパ性白血病診断の契機となった上肢帯状疱疹痛の1症例

西井世良*1 渡邉恵介*1 藤原亜紀*2 吉村季恵*2 山村祐司*2 川口昌彦*2

*1奈良県立医科大学付属病院ペインセンター,*2奈良県立医科大学麻酔ペインクリニック科

上肢運動障害を認める帯状疱疹患者では,帯状疱疹による神経根障害の他に,脊髄炎,頚椎疾患,神経痛性筋萎縮症等の鑑別を要するため,頚椎MRIの撮影を考慮する.今回,頚椎MRIで多発リンパ節腫脹を認め,慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)の診断,治療につながった症例を経験した.

【症例・現病歴】特記する既往歴のない70歳代女性.右上肢帯状疱疹に対し発症4日目から抗ウイルス薬の投与を受けた.しかし,皮疹軽快後も疼痛が続くため,発症43日目に当科を受診した.初診時,右C7領域を中心にC5からC8領域に皮疹痕,同部の皮膚知覚低下,右手浮腫を認めた.MMTは上腕二頭筋4,三頭筋4,手根伸屈筋1,手指伸屈曲不可で廃用し,複数の神経根障害が推定された.アロディニアはなく,筋力低下に比して疼痛の訴えは少ない印象であった.当日,頚椎MRIを撮影し,両側頚部や縦隔に多数のリンパ節腫大を認めた.

【経過】初診2日目から入院し持続硬膜外鎮痛を7日間,その後,一時的脊髄刺激療法を10日間併用してリハビリテーションを行ったが,筋力回復は乏しかった.並行してリンパ節腫大の原因検索を血液内科に依頼し,リンパ節生検,骨髄穿刺が施行された.当科退院後,慢性リンパ性白血病(CLL)と診断され抗がん剤治療が開始された.さらに,Gd造影MRIによりC6・7後根神経節の軽度腫大,C8神経根後根とC5・C7髄内の造影効果がみられたため,CLL脊髄浸潤が疑われた.

【考察】本症例では一般的な血液検査で異常を認めなかった.通常の帯状疱疹患者では,免疫抑制をきたす病因について検索されることは少ない.本症例は運動神経障害の鑑別のため頚椎MRI撮影を行ったことが,CLLの発見・治療開始につながった.

【結語】運動神経障害を伴う重症の帯状疱疹患者では,脊椎MRI検査を積極的に考慮すべきである.

穿刺部位と脊髄MRI漏出所見の乖離を示した硬膜穿刺後頭痛の1例

林 裕之 石川慎一 丸山真実 妹尾悠祐 岡部大輔 栗田真佐子 小橋真司

姫路赤十字病院麻酔科

【緒言】硬膜穿刺後頭痛(post-dural puncture headache:PDPH)では,穿刺部位を中心に脳脊髄液が漏出すると考えるのが妥当である.今回われわれは脊髄くも膜下麻酔後にPDPHを訴えた症例にMRI検査を行い,穿刺部位と漏出所見の乖離を示した1例を経験したので報告する.

【症例】20代女性,既往なし.脊髄くも膜下麻酔での婦人科手術を予定した.L3/4脊髄くも膜下穿刺および高比重0.5%ブピバカイン1.8 ml投与を麻酔レベル不十分が理由で計2回必要としたが,麻酔方法の変更なく手術を施行できた.術後1日目より坐位で増悪,臥位で改善する体位性頭痛を訴えた.

症状は起立時NRS 10/10,臥位時NRS 8/10,両側性非拍動性であった.

経過と症状からPDPHと診断し,安静・補液と鎮痛剤内服を行った.しかし術後3日目も頭痛はVAS 100/100と改善なく,嘔気も合併し食事困難となっていた.術後4日目に腰椎MRIを施行した.heavy-T2強調矢状断では,T12からL3/4レベルまでDinosaur tail signを示した.また水平断では,T11からL1レベル下端までfloating dural sac signを示し,T11からL3/4レベルまでfringed epidural space signを示した.T11からL1レベルに著明な漏出を示すPDPHと診断し,術後6日目に腰部硬膜外生理食塩水注入を1回施行したところ頭痛は著明に改善,術後9日目にVAS 10/100となったため退院帰宅した.術後23日目の退院後診察でもVAS 3/100と頭痛の再発なく経過した.

【結語】PDPHに対するheavy-T2 MRI撮影では,髄液漏出の証拠である硬膜外水信号を非侵襲的に捉えた.症例により撮影時の体位や脊椎弯曲が影響して,水信号の著明な部位が漏出部位とは限らない可能性が示唆された.

 
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