Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Clinical Report
A case of intractable pain due to pelvic recurrence of cervical cancer in a patient with familial amyloidotic polyneuropathy controlled with intrathecal high-dose morphine and bupivacaine administration
Nahoko IWAMOTOKaya KISHIMOTOTetsutaro SHINOMURA
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2024 Volume 31 Issue 6 Pages 110-114

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Abstract

くも膜下(IT)鎮痛法は難治性がん性痛に有効な手段である.子宮頚がん疼痛管理のIT鎮痛で高用量モルヒネ・ブピバカインを必要とした症例を報告する.子宮頚がんに広汎子宮全摘出術と化学放射線療法を施行した40代患者が右側腹部から右大腿前面に疼痛としびれを訴え当科紹介となった.既往に家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)があった.CTで認めた腰神経叢浸潤を伴う右骨盤内再発腫瘤が疼痛の原因と考えられた.初診時オキシコドン80 mg/日,ヒドロモルフォン24 mg/日の内服で鎮痛不十分で傾眠傾向だったため,くも膜下ポートを留置した.モルヒネ1.2 mg/日,ブピバカイン12 mg/日のくも膜下投与を開始し最終的にモルヒネ60.48 mg/日,ブピバカイン77.76 mg/日が必要となったが歩行や膝立ちは可能だった.その間,numerical rating scale(NRS)は8/10から1~2/10に改善した.本症例で高用量モルヒネ・ブピバカインを必要とした理由に病勢の進行や高用量モルヒネに伴う腫瘤の形成,FAPの進行が考えられた.

Translated Abstract

We report a case of intrathecal analgesia with high-dose morphine and bupivacaine for refractory cancer pain management. A patient in her 40s who had undergone radical hysterectomy and chemoradiotherapy for cervical cancer complained of pain and numbness from the right lateral flank to the front of the right thigh. She had familial amyloidotic polyneuropathy (FAP). The CT scan showed a recurrent mass with lumbar plexus invasion, which might cause the pain. Oral oxycodone 80 mg/day and hydromorphone 24 mg/day caused drowsiness but did not alleviate the pain. An intrathecal port was implanted. Intrathecal morphine 1.2 mg/day and bupivacaine 12 mg/day were administered, and finally morphine 60.48 mg/day and bupivacaine 77.76 mg/day were required. Despite high-dose bupivacaine, she could walk. The numerical rating score was improved from 8 to 1–2/10. The reasons for requiring high dose may be related to disease progression, mass formation associated with high-dose morphine and FAP.

I はじめに

くも膜下(IT)鎮痛法は,オピオイドの全身投与で十分な鎮痛が得られない場合やオピオイドの副作用で継続困難な場合などの難治性がん性痛に対して有効な手段である1).必要薬液量が少なくて済むため,在宅療養を含む長期的な疼痛管理に適している.一方で入浴の制約などの日常生活制限や導入初期の尿閉や呼吸抑制の可能性,持続注入カテーテルに関する合併症(髄膜炎・髄液漏・カテーテルトラブル・カテーテル先端の炎症性変化)の問題点もある2)

40代女性で家族性アミロイドポリニューロパチー(familial amyloidotic polyneuropathy:FAP)合併患者の子宮頚がん再発による難治性がん性痛に対し,くも膜下ポートを留置し高用量モルヒネ・ブピバカインを必要とした症例を経験したため文献的考察を加えて報告する.

本報告は患者本人から承諾と同意を書面で得ている.

II 症例

43歳女性,身長162 cm 体重55.2 kg.当科受診2年前に子宮頚がんI B2期で広汎子宮全摘出術と術後化学療法を行った.術後1年で右骨盤内に再発腫瘤を認め,化学放射線療法を行うも腫瘤は増大傾向だった.再発に伴い右側腹部から右大腿前面に疼痛・しびれが出現し疼痛管理が不十分のため緩和ケアチームより当科に紹介された.また子宮頚がん診断同時期にFAP(Val30Met変異型)を発症していた.

初診時の症状は右側腹部(臍の高さ)から右大腿にかけての疼痛と排便時の肛門周囲疼痛,右大腿背側・両足全体のしびれであり,右Th10~S領域に至る疼痛と考えられた.CTでも骨盤内腫瘍の炎症が回盲部に及んでいた.腫瘍の腰神経叢への神経浸潤またはリンパ節浸潤による神経障害性疼痛が疑われた(図1).

図1

子宮頚がん再発腫瘤の腰神経叢浸潤

左:術後1年(当科初診時の1年前),右:当科初診時.

1年で骨盤内腫瘤が増大し,回盲部まで炎症が波及.腰神経叢への神経浸潤・リンパ節浸潤による神経障害性疼痛が疑われる.

初診時鎮痛薬は1日量でオキシコドン80 mg・ヒドロモルフォン24 mg・アセトアミノフェン2,400 mgに加え,レスキューとしてヒドロモルフォン4 mgを5~6回内服していた.オピオイド内服による眠気が強いがnumerical rating scale(NRS)は8/10と疼痛管理も不十分だった.

またFAPの症状として,発症時より両手足のしびれ・手根管症候群,下痢・便秘や立ちくらみを認め,タファミジスメグルミン20 mg/日とブレガバリン300 mg/日・デュロキセチン20 mg/日が処方されていた.末梢神経障害は診断から2年間で悪化してきておりプレガバリン100 mg/日から300 mg/日に増量されていた.ただし神経伝導検査ではFAPの著明な進行は認めず,化学療法による末梢神経障害や腫瘤増大に伴う神経症状悪化の可能性もあった.

疼痛範囲が広範囲で予後が1カ月以上見込め,本人の在宅療養希望が強いこと,また広汎子宮全摘術で硬膜外麻酔を受け問題がなかったことから,IT鎮痛法の適応と判断した.IT鎮痛による神経障害の可能性を説明し同意を得た上で,T12/L1間のくも膜下ポート留置術(ポータカットII®スミスメディカル社使用)を行った.

くも膜下カテーテルから0.5%等比重ブピバカイン3 ml注入した.15分後足関節の背屈が可能だった.デクスメデトミジン0.6 µg/kg/hとミダゾラム2 mg投与による鎮静のため冷覚消失が確認できなかった.そのため0.5%等比重ブピバカイン3 mlを追加し,その後15分でL1レベルまで,1時間後にはT6レベルまで左右差なく冷覚消失を認めた.最終的な運動麻痺の程度は不明だった.

電動ポンプ(CADD®スミスメディカル社)によるIT鎮痛導入後,レスキューにはPCA(持続投与1時間量分)を使用し,PCA回数・患者の疼痛の程度に応じて基本流量の増減を行った.患者の強い希望でヒドロモルフォンのレスキューは継続とした.導入後NRSは8/10から1~2/10と改善した.

IT鎮痛導入時から患者死亡までのモルヒネとブピバカインの用量の推移を示す(図2).導入時モルヒネ1.2 mg/日,ブピバカイン12 mg/日で開始し,モルヒネ4.8 mg/日,ブピバカイン9.6 mg/日で疼痛管理良好となり導入後12日目に退院した.導入後23日目で疼痛管理不良で再入院した.モルヒネ28.8 mg/日,ブピバカイン33.6 mg/日に増量し導入後35日目に退院した.導入後47日目に腫瘍の直腸浸潤と膿瘍形成による腹膜炎を発症し抗生剤加療のため入院した.腸閉塞のため導入後86日目に小腸人工肛門・結腸人工肛門造設術を施行した.抗生剤加療中モルヒネ48 mg/日,ブピバカイン48 mg/日に増量したが,人工肛門造設後はモルヒネ40 mg/日,ブピバカイン40 mg/日に減量した.CTで右大腿静脈の深部静脈血栓と骨盤内膿瘍増大に伴う右閉鎖筋と梨状筋への炎症の波及を認め,ポート導入後110日目ごろから右大腿の疼痛が増強したため,モルヒネ64 mg/日,ブピバカイン64 mg/日に増量した.136日目には腎不全に伴う傾眠傾向と意識障害を認めたためモルヒネ60.48 mg/日,ブピバカイン77.76 mg/日に減量し,導入後145日目で死亡した.3回目入院時よりモルヒネ濃度は最大となり3.3 mg/mlだった.IT鎮痛開始後より最後まで運動麻痺はなく,歩行・膝立ては可能であった.IT鎮痛導入前よりオムツ使用だったことと経過中の人工肛門造設のため膀胱直腸障害は不明だが,導入後も尿閉は起きなかった.

図2

くも膜下ポート導入から死亡までの全体量の変化

III 考察

IT鎮痛法における各薬剤の推奨最大1日投与量はモルヒネ15 mg/日,ブピバカイン15~20 mg/日となっているが3),本症例では最高量でモルヒネ64 mg/日,ブピバカイン64 mg/日を必要とした.またブピバカインは30~60 mg/日以上で感覚障害,運動障害,自律神経失調症の徴候の可能性が示唆されているが1),本症例では増量しても運動麻痺はなかった.

薬剤を高用量必要とした理由として,1)病勢の進行,2)高用量モルヒネ投与による腫瘤形成の可能性,3)カテーテルが抜けた可能性,4)FAPの関連の4点が考えられる.

病勢の進行では,ポート導入後腫瘍の直腸浸潤・膿瘍形成による腹膜炎を発症し腸閉塞に至った経緯から,腫瘍増大が続いていたと考えられる.また人工肛門造設後の深部静脈血栓症も疼痛増悪の一因となったと考えられる.

高用量モルヒネ投与に伴う腫瘤形成はモルヒネの投与量と濃度が関係しており,カテーテル先端の周りに無菌性の肉芽種を形成することが報告されている4).炎症性の腫瘤が大きくなるにつれて局所的な髄液の流れはより不安定になり,髄液と薬物の流れが遅くなることが疼痛管理不良の原因となる可能性がある4,5)

腫瘤形成に必要なモルヒネ用量について,12 mg/日のモルヒネで重篤な脊髄圧迫と運動障害を起こす炎症性腫瘤が生じたという羊による動物実験での報告がある4).ヒトでも腫瘤ができた13人の患者の平均モルヒネ濃度は30.3 mg/ml(1日平均総投与量12.5 mg/日)だったのに対し,できなかった54人の患者では19.5 mg/ml(1日平均総投与量6.2 mg/日)だったとの症例報告がある5).本症例ではモルヒネ濃度は最大3.3 mg/mlであり濃度には問題なかったが,投与量は12 mg/日を超えており,腫瘤ができていた可能性がある.

カテーテルが抜けてきていた可能性も考慮したが薬液交換時に脳脊髄液の逆流は確認できており,導入から4カ月後のCTでカテーテルの先端をT12/L1間髄腔内に認めたことからカテーテルは髄腔内にあったと考えた.

最後に,FAPは主にトランスサイレチン(TTR)変異を有する遺伝性アミロイドーシスで,末梢神経,自律神経,眼,臓器などにアミロイド沈着をきたす.約140種類の遺伝子変異が報告されているが,Val30Metは最も一般的な変異であり主に下肢の感覚障害から始まる末梢神経障害や自律神経障害・眼や心臓などの臓器障害を引き起こす6)

治療薬のタファミジスメグルミンはTTR四量体を安定化させ,神経学的な悪化を遅らせる可能性があり7),本症例では亡くなる6日前まで投与されていたが,化学療法や病勢の進行に伴う神経障害もあり薬剤の効果判定は困難だった.

また高用量ブピバカイン投与後も運動麻痺が生じなかった原因として,くも膜下ポート留置時の麻酔効果発現が遅かったことを考慮すると,初診時から脳脊髄液の広がりに問題があった可能性が挙げられる.

高濃度モルヒネによる炎症性腫瘤の診断や脳脊髄液の広がりの問題はMRIによる脊髄造影により確認できるが,本症例では運動麻痺がなくモルヒネ・ブピバカインを増加させることで対応できていたことや仮に診断がついても手術などの治療介入はできなかったため検査を行わなかった.ただしポート導入時の麻酔効果が不十分だった段階で脊髄腔造影を行うことは,形態異常の有無を知るのに有効であり考慮すべきであった.

IV まとめ

FAP合併患者の子宮頚がんの腰神経叢浸潤による疼痛に対し,IT鎮痛法で高用量モルヒネ・ブピバカインを必要とした症例を経験した.

くも膜下投与モルヒネ・ブピバカインが高用量の場合,一般的には運動麻痺や膀胱直腸障害に留意すべきだが,本症例では脳脊髄液の広がりに問題があった可能性があったため認めなかった.

運動麻痺や膀胱直腸障害が生じる際は,高用量モルヒネに伴う炎症性腫瘤の形成や患者の病態(本症例では病勢の進行やFAPの進行)などを考慮すべきである.またポート留置時に脊髄腔造影を行うことはIT鎮痛法の有効性を知る上で重要であり考慮すべきであった.

この報告の要旨は,日本ペインクリニック学会第54回大会(2020年11月,Web開催)において発表した.

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