2024 Volume 31 Issue 7 Pages 153-157
Genicular nerveに対する高周波熱凝固(genicular nerve-radiofrequency ablation:GN-RFA)は慢性膝関節痛に対して有効である一方,人工膝関節置換術後の遷延性術後痛(chronic post-surgical pain:CPSP)に対しても鎮痛効果が期待できる.われわれは人工膝関節置換術後にCPSPを発症した2症例に対しGN-RFAを実施し,良好な鎮痛を得たので報告する.2症例ともに,人工膝関節置換術後のCPSPに対し,複数回の超音波ガイド下GN-RFAを実施した.伏在神経RFAまたはX線透視下GN-RFAを併用することで,超音波ガイド下GN-RFA単独よりも良好な鎮痛効果を得た.手術に伴う解剖構造の変化や新生血管により,超音波による穿刺部位の同定が困難な場合は,X線透視や伏在神経RFAを併用するなどの工夫が必要かもしれない.
Genicular nerve-radiofrequency ablation (GN-RFA) is reportedly effective in treating chronic knee arthralgia. Although an analgesic effect is also expected for chronic post-surgical pain (CPSP) after knee arthroplasty, such a case has not been reported. We report two cases of CPSP after knee arthroplasty treated with GN-RFA. Case 1 is a 50-year-old woman. She underwent multiple ultrasound-guided GN-RFA for CPSP after total knee arthroplasty. Adding saphenous nerve RFA to GN-RFA provided better analgesia than ultrasound-guided GN-RFA only. Case 2 is a 69-year-old woman. She underwent multiple ultrasound-guided GN-RFA for CPSP after left unicompartmental knee arthroplasty. The patient had an excellent analgesic effect with fluoroscopy-guided GN-RFA. GN-RFA is effective for CPSP after knee arthroplasty. However, the ultrasound-guided GN-RFA might lead to inaccurate determination of the puncture site due to anatomical changes and angiogenesis associated with surgery. Additional treatments, including fluoroscopy-guided or other nerve blocks, could be needed in such cases.
重症な膝関節症の治療は人工膝関節置換術が一般的であるが,約20%の患者が遷延性術後痛(chronic post-surgical pain:CPSP)を発症する1).
膝関節の知覚を支配する末梢神経枝genicular nerveに対する高周波熱凝固療法(genicular nerve-radiofrequency ablation:GN-RFA)は,膝関節症の痛みを軽減させることで,日常の活動度の改善や手術待機期間の延長が期待できる2).GN-RFAは,CPSPに対しても鎮痛効果が期待できるが,効果を調査した報告はない.今回,人工膝関節置換術後のCPSPに対しGN-RFAが有効であった2症例を報告する.
なお,症例報告にあたり,該当患者から書面にて同意を得た.
症例1:50歳女性.5年前に変形性膝関節症に対し右大腿骨遠位骨切り術,抜釘術および複数回の関節鏡視下手術を受けたが痛みが残存したため,全人工膝関節置換術を受けた.手術2カ月後より右膝関節内側に痛みが出現し徐々に増悪したため,手術1年後に当科を受診した.膝関節屈曲時に痛み強度(numerical rating scale:NRS)が8の突出痛があり,日常生活が制限されていた.膝関節置換術後のCPSPと診断し,トラマドール150 mg/日,アセトアミノフェン1,300 mg/日の内服と運動療法を行ったが症状は改善しなかった.
GN-RFAの効果予測を目的として,超音波ガイド下に上内側膝神経(superomedial genicular nerve:SMGN),下内側膝神経(inferomedial genicular nerve:IMGN),上外側膝神経(superolateral genicular nerve:SLGN),下外側膝神経(inferolateral genicular nerve:ILGN)の4カ所に0.5%ロピバカインを4 mlずつ投与したところ,膝屈曲時NRSは1に低下し3日間効果が持続したため神経ブロックは有効と判断した.超音波ガイド下にSMGN 2カ所,IMGN 2カ所,SLGN 1カ所,ILGN 1カ所にそれぞれ90℃,120秒間のGN-RFAを施行したところNRSは2に低下したが9日間で再燃した.痛みが内側に限局していたため,SMGN 2カ所,IMGN 3カ所に2回目のGN-RFAを実施した.NRSが0に低下したため,トラマドールとアセトアミノフェンを中止したが,鎮痛効果は1カ月持続した.同部位に3回目のGN-RFAを追加したが,やはり鎮痛効果が1カ月程度しか持続しなかったため,4回目のGN-RFAに加えて,伏在神経に対し90℃,120秒間のRFAを行った.膝屈曲時のNRSは0に低下し,関節可動域の改善を認め(図1),鎮痛効果は3カ月以上持続している.治療経過を表1に示す.
症例1におけるGN-RFA実施前後の関節可動域
症例1.SMGN 1カ所,IMGN 2カ所に対する超音波ガイド下GN-RFAと伏在神経に対するRFAの実施前(a)と実施後(b).実施前は膝関節を60度程度屈曲すると強い痛みが出現するが,実施後は痛みが消失する.下肢のマーキングは穿刺位置.
SMGN:superomedial genicular nerve,IMGN:inferomedial genicular nerve,GN-RFA:genicular nerve-radiofrequency ablation,GNB:genicular nerve block.
症例1 | 初回治療 からの期間 |
ブロック | ガイド | 対象神経 | 治療前 NRS |
治療後 NRS |
持続期間 | 薬物療法 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
初回 | GNB | エコー | SNGN,IMGN,SLGN, ILGN各1カ所ずつ |
8/10 | 1/10 | 3日間 | 変更なし | |
2回目 | 14日後 | GN-RFA GNB |
エコー | SNGN,IMGN,SLGN, ILGN各1カ所ずつ |
8/10 | 2/10 | 9日間 | 減量 |
3回目 | 1カ月後 | GN-RFA GNB |
エコー | SMGN 2カ所, IMGN 3カ所 |
8/10 | 0/10 | 1カ月間 | なし |
4回目 | 2カ月後 | GN-RFA | エコー | SMGN 2カ所, IMGN 3カ所 |
9/10 | 0/10 | 1カ月間 | なし |
5回目 | 3カ月後 | GN-RFA | エコー | SMGN 1カ所, IMGN 2カ所 |
8/10 | 0/10 | 3カ月以上 | なし |
伏在神経-RFA 伏在神経ブロック |
エコー | 伏在神経 | ||||||
症例2 | ||||||||
初回 | GNB | エコー | SNGN,IMGN,SLGN, ILGN各1カ所ずつ |
10/10 | 2/10 | 4日間 | 変更なし | |
2回目 | 2週間後 | GN-RFA GNB |
エコー | SNGN,IMGN,SLGN, ILGN各1カ所ずつ |
10/10 | 3/10 | 1カ月間 | 変更なし |
3回目 | 2カ月後 | GN-RFA GNB |
エコー | SNGN,IMGN,SLGN, ILGN各1カ所ずつ |
10/10 | 2/10 | 1.5カ月間 | 変更なし |
4回目 | 4.5カ月後 | GN-RFA | X線透視 | IMGN 1カ所, ILGN 3カ所 |
8/10 | 0/10* | 3カ月以上 | 減量 |
NRS:numerical rating scale,*:治療後のNRSは0/10であったが,3カ月後のNRSは5/10.NRSに比して,荷重負荷での疼痛増悪の訴えなく歩行可能となっている.
症例2:69歳女性.3年前に左大腿骨内顆骨壊死に対して左膝人工膝関節単顆置換術を受けた.術後から左膝関節下内側領域と下外側領域を中心とした左膝全体の痛みと左下腿前面から外側のしびれがあり,内服治療や運動療法では改善なく当科受診となった.受診時のNRSは安静時と体動時ともに10であり,立位保持が困難であった.前医からは,トラマドール75 mg/日,アセトアミノフェン1,500 mg/日,デュロキセチン20 mg/日,牛車腎気丸2.5 g/日,ロキソプロフェン貼付剤100 mg/日が処方されていた.
膝関節置換術後のCPSPに対し,GN-RFAの効果予測を目的として,超音波ガイド下にSMGN,IMGN,SLGN,ILGNに0.5%ロピバカインを6 mlずつ投与した.NRSは2に低下し鎮痛効果は4日間持続したため,神経ブロックは有効と判断した.そこで,同部位にそれぞれ90℃,120秒間の超音波ガイド下GN-RFAを施行した.NRSは3に低下し,鎮痛効果は1カ月間持続した.2回目のGN-RFAを施行したところ,NRSは2に低下したが,鎮痛効果の持続は1.5カ月程度であったため,X線透視下でIMGN 1カ所,ILGN 3カ所に対し80℃,180秒間のGN-RFAを実施した(図2).NRSは0に低下し,トラマドール塩酸塩50 mg/日,アセトアミノフェン1,000 mg/日に減量した.3カ月後のNRSは5/10だったが歩行可能となり,保存的加療を継続している.治療経過を表1に示す.
症例2におけるGN-RFAのX線透視画像
症例2.IMGNに対するGN-RFAのX線透視画像(aが正面,bが側面)とILGNに対するGN-RFAのX線透視画像(c).ILGNに対するGN-RFAは穿刺部位が一般的な解剖と比較し下方で疼痛が誘発されたため,疼痛部位に合わせて穿刺.
矢印:穿刺針の先端.
なお,症例1,2ともにGN-RFAの際には感覚神経刺激モード(周波数200 Hz,パルス幅0.2 ms,レンジ0.4~1.2 mA)で電気刺激を行い,再現痛を確認した.
われわれは人工膝関節置換術後のCPSPに対しGN-RFAを実施し,NRSの低下と日常の活動度の改善が得られた.CPSPの病態は,手術に伴う末梢神経障害と慢性的な痛み刺激が招く中枢感作が想定される.有効な鎮痛方法は確立されていない.本症例では末梢からの入力をGN-RFAで遮断することで鎮痛が得られ,症例2では痛みの破局的思考や自己効力感も改善した(症例1はデータ欠損のため評価できず).本報告はCPSPに対するGN-RFAの治療効果を示す最初の報告である.
膝関節の知覚は,複数の神経が支配している3).GN-RFAはChoiらが膝関節痛を軽減すると報告して以降普及した4).いくつかのランダム化比較試験でGN-RFAは,関節内ステロイド注入を含む従来の治療法と比較し鎮痛効果が優れていることが示された5,6).またILGNを除く3カ所のGNに加え,膝蓋上膝神経枝や腓骨神経反回枝を治療対象とするプロトコルの報告がある7,8).疼痛部位に基づいたGN-RFAが有効と考える.
穿刺部位の描出について,超音波ガイドとX線透視でGN-RFAの効果は同等とする報告がある9).超音波ガイドは骨膜上の膝動脈を指標とし,その簡便さや安全性から広く普及している.しかし,術後は解剖変化や血管新生のため穿刺部位が不正確となり得る.一方でX線透視は骨との位置関係を指標とするため再現性が高い.本症例では,超音波ガイド下GN-RFAの鎮痛持続効果が限定的であり,症例1では伏在神経RFAの併用,症例2ではX線透視下GN-RFAに変更することで鎮痛効果が延長した.術後症例では,より中枢の神経に対するRFAを併用するかX線透視下で行うほうが良いかもしれない.
RFAは高周波エネルギーにより神経組織を変性させ,侵害受容器からのシグナル伝達を減少させることで鎮痛効果をもたらす.GN-RFAの鎮痛効果は12カ月間持続すると報告されており,局所麻酔薬と比較し長期間の鎮痛効果が期待できる10).RFAは皮膚熱傷や知覚障害のリスクがあり,それらの合併症が生じにくいパルス高周波法も選択肢となる.本症例は患者の希望を考慮しRFAを実施した結果,合併症を生じることなく治療効果が3カ月以上維持されており,今後も効果の持続が期待できる.
CPSPに対しGN-RFAを行う場合には,描出方法や治療対象とする神経枝の選択について,通常の膝関節症の治療と比べて工夫を要する.そのため今後さらなる症例の蓄積が必要である.
われわれは人工膝関節置換術後にCPSPを発症した2症例に対し,通常のGN-RFAに加え,X線透視下のGN-RFAや中枢側の神経に対するRFAを追加するなどの工夫により鎮痛効果を延長させることができた.今後さらに症例を蓄積し,人工膝関節置換術後のCPSPに対して効果的なGN-RFAのプロトコルを確立する必要がある.
本論文の要旨は,第16回日本運動器疼痛学会(2023年11月,富山)において発表した.