2024 Volume 31 Issue 7 Pages 166-170
会 期:2024年3月9日(土)
会 場:自治医科大学地域医療情報研修センター
会 長:五十嵐 孝(自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座)
桜井康良
東京慈恵会医科大学麻酔科学講座
無痛分娩の普及に伴い麻酔科に無痛分娩を依頼される機会が増えている.当院で麻酔科による無痛分娩を開始して,5年目になる.硬膜外無痛分娩の求められる麻酔域はTh10からS領域までと広く,効果的に麻酔域を得るためにPIB(programmed intermitted bolus)モードを使用して維持しているので,その詳細を紹介する.
腰部硬膜外穿刺に際して,硬膜外超音波の有用性を自験例を交えて紹介する1).最後に無痛分娩や帝王切開の麻酔の依頼を受けた穿刺困難症例に対して,硬膜外超音波を用いた症例を供覧する.
【側彎症術後2)】側彎症に対して,16歳時ハリントンロッド術(C7–L1)を受けた症例の硬膜外無痛分娩の依頼があった.穿刺できるのか? 投与された薬剤は広がるのか?
【二分脊椎4症例3)】先天性の疾患の中では比較的多い疾患である.手術を受けている症例もあるなどさまざまな経過をたどっている.一方無症状で偶然指摘される症例もある.帝王切開の麻酔や硬膜外無痛分娩の依頼があった場合にどう対応するべきか悩むことも多い.
さまざまな状況において硬膜外超音波の可能性を提示し,皆さま方の今後の臨床に役立てば幸いです.
1) 覚本雅也,桜井康良,他.帝王切開患者における腰部硬膜外麻酔での超音波画像の有用性:正中矢状断像と横断像の比較.麻酔2013; 62: 395–401.
2) アレン絵里沙,桜井康良,他.側弯症術後の妊婦に対して硬膜外麻酔による計画無痛分娩を行い,緊急帝王切開分娩へ移行した一例.第62回関東甲信越・東京支部合同学術集会,2022.9.2,東京.
3) Doi M, Sakurai Y, et al. Ultrasonographic images of spina bifida before obstetric anesthesia: a case series. BMC Anesthesiol 2023 Apr.
中嶋 剛
自治医科大学脳神経外科
本邦では難治性疼痛に対するニューロモデュレーション治療として脊髄刺激治療(spinal cord stimulation:SCS)が保険適応になっている.Gate control theoryに基づいて1960年代にShealyらが椎弓切除下に脊髄後索を刺激した症例を報告して以降1),Shimojiらがより低侵襲な経皮的電極穿刺法を報告し2),電極の進歩とともに体内埋め込み型装置が開発され,SCSは欧米で先行し普及するに至った.1992年に本邦で保険適応となり,今日では難治性慢性疼痛に対する重要な治療選択肢になっている.これまでに慢性疼痛に関わるいくつかの学会からSCSの診療指針が示されてきたが,最近のMinds診療ガイドライン作成の手引きに則った指針では脊椎手術後症候群,下肢末梢血管疾患,有痛性糖尿病性末梢神経障害,脳卒中・脊髄損傷・幻肢痛・帯状疱疹後神経痛,複合性局所疼痛症候群などに対するSCSの推奨度が明示されている.また,近年は刺激機器の進歩により,従来型の刺激感を伴うトニック刺激に加えて刺激感のない高頻度刺激,バースト刺激,differential target multiplexed(DTM)刺激といったさまざまな方法を選択することが可能になり,治療効果の向上が期待されている.本演題ではSCSの適応と効果,手法を最新の知見に基づいて紹介する.
1) Shealy CN, et al. Electrical inhibition of pain by stimulation of the dorsal columns: preliminary clinical report. Anesth Analg 1967; 46: 489–91.
2) Shimoji K, et al. Electrical management of intractable pain. Masui 1971; 20: 444–7.
3) 慢性疼痛診療ガイドライン作成ワーキンググループ編.慢性疼痛診療ガイドライン.真興交易医書出版部,2021.
波多野裕理 堀田訓久 中村美織 島田宣弘 篠原貴子 五十嵐 孝
自治医科大学附属病院麻酔科
【背景】国際頭痛分類は複雑であり,専門医以外には正確な診断が困難である.本研究では,大規模言語モデルを用いた新しい頭痛分類システムの開発とその臨床での実用可能性を模索した.
【方法】今回,医師の診断サポートツールとして「ChatGPT」ベースの頭痛分類システムを開発した.このシステムを使用し,従来の医師の診断と比較した.評価指標には,診断の感度,特異性を含めた.
【結果】LLMシステムは,特定の頭痛サブタイプ(例えば片頭痛や群発頭痛)の識別に高い精度を示し,診断時間の短縮と医師の負担軽減に寄与した.一部の質問や検査項目で特に高い感度・特異度を示したが,正確なデータは今後の研究で必要となる.臨床診断と一致しないケースも観察され,これらのケースについての分析が今後の研究の焦点となる.
【考察】LLMは頭痛の分類において高い潜在能力を持つ.このモデルは,大量の医療テキストデータからパターンを学習し,複雑な医療情報を処理する能力を有している.特に,診断基準が明確に示されている頭痛診断のような場合,LLMはその力を最大限に発揮する.明確なルールやパラメータに基づく判断が求められる状況では,LLMの特性が特に有効である.しかし,複雑なケースでは従来の診断法に匹敵しない場合もあり,LLMの限界として考慮する必要がある.また,インターネットを介したLLMの運用においては,患者の医療データや個人情報の取り扱いに際し,その安全性と機密性を確保するための運用が求められる.
【結論】LLMを用いた頭痛分類システムは,臨床診断において有用なツールとなり得る.しかし,その適用範囲と限界を理解することが不可欠であり,さらなる詳細な研究と改良が必要である.
キーワード:大規模言語モデル,頭痛分類,臨床診断
2. 交通事故を契機に発症した上肢のしびれを伴う痛みに対して,複数種類でのブロック治療が有効であった3例四方田了平*1 関本研一*2
*1埼玉県立がんセンター麻酔科,*2国立機構渋川医療センター麻酔科
交通事故を契機に発症した上肢のしびれを伴う痛みは,神経ブロックや筋膜リリースを組み合わせることで改善する可能性がある.交通事故を契機に発症した痛みやしびれは経験上,難治性であることが知られている.今回,われわれは上肢のしびれを伴う痛みに対して複数種類のブロックを組み合わせ,症状を軽減できた3例を経験したので報告する.
【1】40歳代女性.左上肢のしびれ・痛みを発症.受傷後2週間で当科初診.所見は頚部から左手指にかけてのしびれと痛み(NRS 6),冷感,軽度握力低下.C8領域の感覚低下とアロディニアを認めた.投薬治療に加えて左星状神経節に対するスーパーライザー治療と斜角筋間での左C8神経周囲リリースを共に5回施行.2カ月後に痛みは半減(NRS 3)した.その後,リハビリを併用し6カ月後には症状はほぼ消失.握力も回復した.
【2】50歳代女性.左上肢のしびれ・痛みを発症.事故後に鎖骨上部の痛みとむくみがあった.受傷後5カ月で当科初診.所見は左上肢のしびれと痛み(NRS 9),C8領域の感覚低下・アロディニア,冷感,著明な握力低下を認めた.投薬治療に加えて左星状神経節ブロック(SGB),左C8神経周囲リリースを共に5回施行.4カ月後に痛みは半減(NRS 3)した.筋力の回復は得られていないが,その後,リハビリを併用し治療継続中である.
【3】50歳代男性.右上肢のしびれ・痛みを発症.事故後に鎖骨周囲の腫脹とあざが数週間残った.受傷後9カ月で当科初診.所見は右上肢のしびれと痛み(NRS 8),冷感,浮腫,C7/8領域の感覚低下・アロディニアを認めた.投薬治療に加えて,右SGB,右C8神経周囲の筋膜リリース,腋窩動脈周囲筋膜リリースを共に5回施行.2カ月後に痛みは軽減(NRS 5)した.その後,リハビリを併用して治療継続中である.発表では,リハビリ施行後の治療効果と文献的考察を含めて報告する.
3. 当院の脊髄刺激療法患者に対する臨床工学士の関わり市川宗賢*1 畔柳 綾*2 稲野千明*3 金子吾朗*2 黒羽根朋子*2 岩切祐子*2 西川 毅*2
*1埼玉協同病院臨床工学科,*2埼玉協同病院麻酔科,*3東京警察病院
【背景】脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)は,硬膜外腔にリードを留置し,電気刺激することにより,痛みの軽減や血流の改善をもたらす治療法である.当院ペインクリニックでは,2021年より,SCSの術中・術後の刺激調整などの管理を臨床工学技士(clinical engineer:CE)が行っている.それまでCEがSCS治療に関わりのなかった中で,どのように治療に携わり,また苦労してきた点などについて報告する.
【現状】現在まで体外式トライアル9名,埋め込み6名,電池交換1名,リード抜去を1名行っている.術前に担当CEに対して院内教育と,on-the-job Trainingによるプログラム操作や術中対応を行い,技術の習得を行っている.現在主に2名のCEが中心となって,トライアルから埋め込み時,外来や入院中の調整を行っている.リード挿入直後はリードの位置ズレや患者の慣れない機器操作によるトラブルも起こりやすいが,CEが入院中の刺激調節に対して迅速に対応している.
【課題】当院は3社の装置を使用しているが,操作を行う際の共通言語がないため,初期の技術習得に時間を要し苦労した.また,SCSについての情報共有する場が少なく,メーカー指導による教育が必要となっている.
【まとめ】CEによる当院のSCS治療の導入と取り組みについて報告した.CEが治療に参加することで,SCS治療の質の向上に貢献できる可能性がある.
4. 左鼠径部痛に対し腰椎椎間関節ブロックが著効した1例大石まゆ 傅田定平 小村玲子
新潟市民病院ペインクリニック外科・麻酔科
【症例】63歳男性,身長176 cm,体重66 kg,調理師.
【現病歴】X年4月に入り左鼠径部痛が出現した.4月20日ごろより特に痛みが強くなり某整形外科を受診したが異常は認められなかった.X−12年に発症した右鼠径ヘルニアと同じ症状で,立ち仕事を数時間行うと痛みが強くなるため5月9日に当院総合内科を受診した.症状から鼠径ヘルニアが疑われ消化器外科併診し精査を行うも鼠径部に膨隆はなく,CT画像で左鼠径部痛の原因となる病変は認められず,5月18日に当科紹介となった.
【経過】左鼠径部の皮膚異常や膨隆は認めず,左鼠径部と左腰部に痛みを認めた.2時間ほど立位で仕事をしていると左鼠径部にずきーんとした痛みが出現し,5~6時間経過するとチクチクとした強い痛みに変化する.電撃痛や圧痛,放散痛は認めなかった.仰臥位や座位では痛みは感じない.歩行時は時折ひっかかるように感じる.痛みは持続性があるが座位や仰臥位になると消失する.左腰部傍脊柱部の圧痛を認めた.
超音波ガイド下で左腰部椎間関節ブロックを診断目的に施行したところ,3日間疼痛軽減が得られた.その後3回同ブロックを行い左鼠径部痛は消失したため,痛みは腰椎椎間関節由来と診断した.残存する腰痛に対し8月3日,透視下に左L3,L4脊髄神経後枝内側枝高周波熱凝固,9月21日にL4,L5へ同加療を追加することで腰痛は軽減した.鎮痛薬が不要となり10月19日に当科終診となった.
【考察】腰椎椎間関節に由来する痛みは腰痛の他に側腹部や臀部,時に鼠径部や大腿部に伝搬する.腰椎椎間関節由来の痛みは腰部傍脊椎の圧痛が痛みの指標となる可能性がある.本症例は傍脊椎の圧痛を有する腰痛を併発していたことから診断的椎間関節ブロックを行い,鼠径部痛が改善した.原因の特定できない体幹部の痛みは脊椎由来の痛みの可能性もあることを念頭に診察を行うべきである.
5. 医療従事者のストレスチェック畑中浩成 松川 隆
山梨大学麻酔科
【はじめに】医療従事者は,過重労働(残業)など激務である.コロナ禍で感染者が増加し,医療逼迫,コミュニケーション不足,自粛生活,誹謗中傷,が起こった.かなりストレスフルだった.感染症の分類2類から5類に移行し,生活が落ち着いてきたが,コロナ,インフルエンザ,プール熱は増加している.ストレスは疼痛,急性胃腸炎に関与する.
【ストレスチェック制度】メンタルヘルスには体重のような客観的な指標がない,ストレスチェック制度では,ストレスを数値化しているので,課題を可視していて科学的である.自身で心理的負担の程度を把握できる,早期に対応できる,ヘルスメンタル不調をセルフで未然に防止できる,心の健康診断であるが,病気の診断はしない.
【目的】ストレスチェック制度を活用し,2024年問題の働き方改革の貢献度の指標としたい.ストレスチェック結果を考察する後ろ向き研究である.
【方法】厚生労働省の推奨する職業簡易調査票(57項目)を用い2017年から2022年までのストレスチェック結果の集団分析を検討した.対象は病院職員である.調査票の質問項目は,①心理的な負担の原因②自覚症状③自身への支援.個人の結果を集団分析した.個人を特定しない.
【結果】看護師の方が医師よりストレスが高かった.若年者の方が(勤続年数少ない程)ストレスが高かった.
ストレスチェック受検者が減少した.結果に対応できないよう労働者が存在(潜在的放置).
【考察】メンタルヘルスの相談はハードルが高い,ITを利用した産業保健である・team連携にする日常のなにげない会話が助けになる.一方管理者との関係が良好でない時,回答が操作される.コロハラで,病院が打撃を受けた.コロナによる離職は職場に影響した.ストレスチェックは一時予防を目的とするが,二次予防,三次予防にもなり得る.
6. 60年間の原因不明の目の痛みに対して加味逍遙散が奏功した1症例今井美奈*1 光畑裕正*2
*1済生会川口総合病院麻酔科,*2みつはたペインクリニック
【症例】87歳女性.
【既往】高血圧,不安神経症,双極性うつ病.
【現病歴】出産後より目の痛みが出現し,以来60年間持続している.1カ月前より目の奥にも痛みが出現し,近医眼科受診するも眼球には問題ないと言われた.肩こり,頚凝りとそれによる頭痛も出現し,当院受診.
【経過】受診時,舌診上,舌下静脈怒張あり,腹診上も臍傍部に圧痛があったことより瘀血があると判断して,桂枝茯苓丸を処方した.頭痛に対しては,冷えがあることより呉茱萸湯も処方した.2週間後の再診時には効果はあまり感じられないとのことだった.再度,東洋医学的診察をしたところ,瘀血に加えて軽度胸脇苦満あることより柴胡剤の適応と考えた.精神的緊張が強く訴えが多いことも考慮して,加味逍遙散の証であると判断して処方したところ4週間後の再診時には眼の痛みは改善してきNRS 5/10,4日前から散歩に行けるようになった.7週間後の再診時にはNRS 0/10,眼の痛みはなくなり,頭痛も良くなったとのことであった.しばらく内服を継続している.
【考察】加味逍遙散の出典は『和剤局方』で,体質虚弱な婦人の自律神経・内分泌系の機能失調により現れる諸症状に用いられる方剤である.駈瘀血剤であるが,柴胡も含まれており,精神的緊張が強い症例に用いられる.百々漢陰によると「婦人一切の申し分に用いてよく効く……」とされる.本症例では瘀血あり,かつ不定愁訴も多く,精神的緊張が強いと考えて柴胡を含む駈瘀血剤である加味逍遙散を処方したところ奏功した.瘀血があり,不定愁訴の多い症例に加味逍遙散を用いてみる価値はあるものと思われた.
7. 乳がん術後の上肢リンパ浮腫による疼痛に対し五苓散と柴苓湯の併用が有用であった1例中村美織 堀田訓久 波多野裕理 島田宣弘 篠原貴子 五十嵐 孝
自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座
乳がん術後の後遺障害としてリンパ浮腫があるが,痛みは伴わないことが多い.今回,痛みの治療に難渋する上肢の術後リンパ浮腫に対して,五苓散と柴苓湯の併用が有効と考えられた症例を経験した.
【症例】74歳の女性.右乳がんに対してX年1月に右乳房全摘および腋窩リンパ節郭清術が施行された.術後より右上肢の浮腫と痛みがあり,乳がん手術後のリンパ浮腫と診断された.アセトアミノフェン1,500 mg/日およびミロガバリン15 mg/日を内服したが効果がなく,X年10月に麻酔科を紹介受診した.大動脈基部置換術の既往歴があり,ワルファリンを内服していた.初診時の身体所見は,右上腕が浮腫状に腫脹し,NRS 6の痛みを伴っていた.痛みによる可動域制限のために日常生活の困難感が生じていた.感覚障害は認めず,Roos test陽性,Adson test陽性,Eden test陰性であった.また,蜂窩織炎を疑う所見も認めなかった.リンパ浮腫による右上腕部痛と診断し,鑑別診断として胸郭出口症候群を挙げた.トラマドール50 mg/日と星状神経節近赤外線照射を開始し,並行して近医整形外科にて上肢の運動療法を継続した.1週間後,症状の改善はなく,五苓散7.5 g/日の内服を開始した.近赤外線照射は効果がなく2回の実施で終了した.初診から5週後も症状の改善はなく,トラマドールによる嘔気を認めた.トラマドールを25 mg/日に減量し,五苓散に加えて柴苓湯9 g/日を開始したところ,初診から10週後には,右上肢の腫脹の軽減がみられ,痛みもNRS 3まで低下した.
【結語】乳がん術後のリンパ浮腫による疼痛に対し,五苓散と柴苓湯の併用が有用であった1例を経験した.
8. パーキンソン病の関連が考えられた口腔顔面痛の1例大野由夏 髙木沙央理 小長谷 光
明海大学歯学部病態診断治療学講座歯科麻酔学分野
【緒言】パーキンソン病の関連が考えられた口腔顔面痛の1例を経験したので報告する.なお,本症例報告に関し,患者より口頭および書面で同意を得た.
【症例】70代女性.既往歴:パーキンソン病,線維筋痛症,高血圧,狭心症.
【経過】X−数年,下顎左側臼歯部歯肉の痛みを生じた.患者はパーキンソン病主治医に相談したが,パーキンソン病とは関係ないと言われた.X−1年4月,「パーキンソン病の発作時に左下の歯がガチガチして痛くなる」ため,近歯科受診.口腔内の器質的な異常は認めず,咬合調整し経過観察を行った.X年9月,痛みが増悪したため紹介により,X年10月本院紹介初診.構造化問診の結果,数年前から毎日,下顎左側臼歯部歯肉に,ナイフで切られるようなキーっというVAS 100以上/100の痛みを認めた.
痛みは左側に限局した.レボドパ・カルビドパ水和物の効果が切れると痛みが発現し,レボドパ・カルビドパ水和物を内服し効果が発現すると痛みも楽になる,とのことであった.口腔内に器質的な異常は認めなかった.筋触診により咬筋に圧痛を認めたが,関連痛の誘発は認めなかった.パーキンソン病治療薬オフ時に疼痛を認めたことから,パーキンソン病に関連する中枢性口腔顔面痛と考えられた.脳神経内科にてパーキンソン病治療薬の調整中であり,当院では運動療法を指示しながら経過観察を行っている.
【考察】パーキンソン病に疼痛を伴うことがある.歯科的診察により器質的異常を認めない場合も,患者の既往歴や内服状況,症状などを正確に把握し,脳神経内科など主治医と連携を図ることが望まれる.
【結語】パーキンソン病の関連が考えられた口腔顔面痛の1例を経験した.
9. 巨大Tarlov嚢胞と腰椎椎間板症の合併が疑われた患者の治療経験椎名真由 丸山耕平 櫻井秀嵩 國分伸一 篠崎未緒 濱口眞輔
獨協医科大学医学部麻酔科学講座
【緒言】腰臀部痛を主訴として当科を紹介され,巨大Tarlov嚢胞と腰椎椎間板症の合併が疑われた患者の治療を経験したので報告する.
【症例】30代女性.
【主訴】腰臀部痛.
【既往歴】不安障害の治療歴がある.
【家族歴】特記事項なし.
【現病歴】X年に腰痛を主訴に医療機関を受診し,L5/S1椎間板ヘルニアを指摘された.非ステロイド性抗炎症薬や神経障害性疼痛治療薬の処方を受けたが痛みが軽減しないために当科を紹介された.
【現症】腰痛は体動開始時,体幹前屈と背屈時に増悪し,MRI検査でL4/5とL5/S1の椎間板変性および膨隆がみられ,S1~3のTarlov嚢胞も認めた.
【治療経過】診断兼治療を目的にL5/S1棘間から硬膜外ブロックを行ったが効果は一過性であり,両L5/S1椎間関節ブロックと仙腸関節ブロックは無効であった.L2/3棘間からの硬膜外ブロックで腰痛の軽減がみられたために上位腰椎の椎間板症の存在が疑われたが,臀部痛は軽減しなかった.これらの治療経過から,われわれは患者の臀部痛がTarlov嚢胞によるS1,S2の仙腸関節枝障害によるものと臨床的に判断した.その後,トラマドールの内服で腰臀部痛は軽減しており,今後の治療方針を検討している.
【結論】L2/3硬膜外ブロックが有効であったことから,本症例の腰痛は上位腰椎の椎間板症によると考えられ,S1,S2の仙腸関節枝ブロックで鎮痛が得られる部位の臀部痛がみられたことから,巨大Tarlov嚢胞による仙腸関節枝障害が併発していたと考えた.
(本症例報告は患者から書面による承諾を得ている)
10. 疼痛コントロールに難渋した,特発性肺動脈肺高血圧症の1症例松野由以 瀧澤 裕
自治医科大学さいたま医療センター麻酔科
【はじめに】特発性肺動脈性肺高血圧症による頭痛,全身痛の疼痛コントロールを行った症例を経験したので報告する.
【症例】症例は39歳女性.X−3年,労作時息切れを主訴に当院循環器内科を紹介受診.精査で特発性肺動脈性肺高血圧症と診断された.
【経過】循環器内科で治療開始し,X−1年3月トレプロスチニル持続皮下注射が導入されるも,それに伴う皮下注射穿刺部の痛み,頭痛を自覚していた.循環器内科外来で薬物調整による疼痛コントロールが図られたが(トラマドール塩酸塩アセトアミノフェン8錠/日,他),徐々に疼痛増強みられ,X年7月にペインクリニック外来紹介初診.オピオイド導入について説明するが,本人は希望なく,頭痛に対し呉茱萸湯,当帰芍薬散,プレガバリン75 mg/日等の薬物調整を行った.X年11月,「痛みに耐えられない」(穿刺部痛,頭痛,嘔気)と痛みの増強を訴え,トレプロスチニル持続皮下注の継続が困難となったことより,緊急入院.PICCカテーテル下にトレプロスチニル持続静脈注射が開始された.持続静注開始後より穿刺部痛など全身痛は軽快するも,頭痛,嘔気は持続し,トラマドール塩酸塩アセトアミノフェンに加えプレガバリン50 mg/回頓用使用で鎮痛効果得られ,以後プレガバリン150 mg/日の頓用使用とした.X+1年3月,原疾患増悪に伴う体液貯留で緊急入院,利尿剤使用等で症状軽快し退院した.循環器内科,当科外来で薬物調整を継続しながら,加療を継続中である.
【考察,まとめ】特発性肺動脈性肺高血圧症は,近年プロスタサイクリン系のトレプロスチニルが有効とされるが,穿刺部痛,頭痛等の副作用が多いことでも知られる.疼痛をきたす機序として,血管拡張作用による盗血(スティール)現象,原疾患に伴う末梢循環不全があり,本症例でも病勢と並行しての疼痛コントロール,薬物調整を要した.文献的考察も加えて報告する.
11. 上肢麻痺を伴う右C6帯状疱疹関連痛に対して神経根パルス高周波法が奏功した症例櫻井秀嵩 長田舞奈 小松崎 誠 篠崎未緒 濱口眞輔
獨協医科大学医学部麻酔科学講座
帯状疱疹は重症化すると知覚神経のみならず運動神経にも障害が生じ,運動麻痺を伴い痛みが難治化することが多い.今回,脊椎MRIで脊髄内信号変化を伴う右C6帯状疱疹痛に対して神経根パルス高周波が奏功した症例を経験したので報告する.
症例は72歳男性.既往は高血圧と心房細動で加療.X−4月に右上肢に皮疹が生じ帯状疱疹の診断で抗ウイルス薬処方.その後,右上肢の痛みと握力低下,手の浮腫を認め,X−3月に近位ペインクリニック受診.リドカイン静脈注射,理学療法,薬物療法が行われたが症状の改善なく当科紹介となる.右C6神経根領域に皮疹痕とNRS 9の灼熱痛を認め,C5とC6領域の感覚過敏を伴っていた.また右手指の屈曲はMMT 3と低下していた.頚椎所見で頚椎の右側屈で痛みが誘発されたため脊椎疾患を疑いMRI検査を施行し,C4~6レベルの脊髄変性を認めた.心房細動に対する抗凝固薬の休薬後,エコーガイド下右C6パルス高周波240ドーズ施行し3週間後には痛みは軽減した.握力低下を伴う筋力低下に対してリハビリ指導と薬物療法の調整を継続していたが,X+2月に痛みが再燃傾向で再度のC6パルス高周波法施行しX+4月に痛みは消失した.
脊髄変性を伴う帯状疱疹関連痛は重症化しやすく,一時的な脊髄刺激電極挿入を行うこともある.本症例はパルス高周波と筋力低下に対してのリハビリ介入により良好な経過となった.