Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Clinical Report
A case of visceral nerve block turned into a celiac plexus block due to osteophyte formation
Takako MARUUCHIKazunori HIROTA
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2024 Volume 31 Issue 8 Pages 175-179

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Abstract

骨棘形成のために,内臓神経ブロック時に横隔膜穿刺となり,腹腔神経叢ブロックに変更した症例を経験した.症例は膵尾部がんの70代の男性.腹痛がオピオイドではコントロール困難であったために,内臓神経ブロックを予定した.ブロック前の画像診断で脊椎の骨棘形成があった.内臓神経ブロックの際,ブロック針先端が骨棘を抜けたところで横隔膜脚に達し,横隔膜造影となった.CTライクイメージで針先を確認し,そのまま針を進めて腹腔神経叢ブロックを安全に行うことができた.横隔膜穿刺に気づかずそのまま神経破壊薬を注入すると,ブロック後の上腹部,側胸部,肩の重圧感や痛み,横隔神経麻痺などの合併症の原因となる可能性があり,ブロック中の造影所見に注意が必要である.

Translated Abstract

We report a case in which a splanchnic nerve block for osteophyte formation resulted in diaphragmatic puncture during the procedure and was converted to a celiac plexus block. A man in his 70s with severe opioid-resistant abdominal pain due to pancreatic tail cancer was scheduled for a splanchnic nerve block. Pre-block imaging revealed osteophyte formation in his spine. While performing the block, the needle tip traversed the osteophyte and reached the diaphragmatic crus, resulting in diaphragmatic contrast. With the safety of the needle position confirmed by CT-like imaging, we proceeded to advance the needle and performed the celiac plexus block. Unnoticed diaphragmatic puncture during neuroleptic drug injection may cause complications such as upper abdominal, lateral thoracic, and shoulder discomfort, along with diaphragmatic nerve palsy. Need to pay attention to contrast findings during the block.

I はじめに

内臓痛に対する神経ブロックは,がん性疼痛患者の難治性の内臓痛に効果的であり1),quality of life(QOL)を改善する有効な手段である.しかし,椎体の変形や椎間板の変性等があると穿刺ルートが確保できず,ブロック手技が困難となる.今回,がん性疼痛患者の内臓痛に対する内臓神経ブロックが,脊椎の変性のために横隔膜穿刺となったために,腹腔神経叢ブロックに変更した症例を経験したので報告する.

本症例報告に関しては,患者からの承認を得ている.

II 症例

70代男性.176 cm,47 kg.X−1年7月,腹部CTで膵尾部腫瘍を指摘されていたが,治療希望はなく受診していなかった.X−1年12月より背部痛と腹痛が出現.X年1月に痛みが増悪したために,当院消化器外科に緊急入院となった.入院時の腹部CTでは,背側に進展する膵尾部腫瘍は左副腎へ浸潤しており,腹腔内の多発結節もみられ,膵尾部がんに伴うがん性腹膜炎の所見であった.しかし,腹膜刺激症状があり,血液検査でWBC 11,730/µl,CRP 21.76 mg/dlと炎症反応の著明な上昇があったことから汎発性腹膜炎との鑑別診断目的で緊急手術が行われた.術中所見では膵腫瘍は横行結腸および胃壁と一塊となっており切除不能であった.腹膜にも多数の播種性結節がみられ,膵尾部がんの浸潤,播種と診断された.

入院時から,臍部を中心とした腹部の痛みは,numerical rating scale(NRS)で10/10であった.術後もNRS 8/10の腹痛が持続したために,入院2日目よりフェンタニルの持続静脈内投与が20 µg/時から開始された.入院3日目に放射線緩和照射が開始され,同時に緩和ケアチームへの介入依頼もあった.フェンタニルを徐々に増量し50 µg/時,突出痛に対して40 µg急速投与としたが,依然として腹痛の訴えが続き疼痛コントロールが不十分であった.嘔気などの副作用も出現したために,入院20日目に内臓神経ブロックを計画した.入院9日目の腹部CTで,第12胸椎から第2腰椎レベルにかけて骨棘形成がみられていた(図1).

図1

ブロック前の腹部CT画像所見

a:横断面,椎体前面の骨棘.b:縦断面,椎間板を覆うように形成された骨棘.

内臓神経ブロックは左側臥位で行った.ミダゾラム2 mgを静脈内投与し鎮静した後,第1・2腰椎間より棘突起の右外側4 cmから15 cmポール針を穿刺し,経椎間板法でX線透視下に針先端を椎体前面中央に誘導した.抵抗消失法で,針先端が椎間板を抜けると予測された部位でやや抵抗を感じたが,そのまま針を抵抗が消失する部位まで慎重に進め造影した.2%メピバカイン10 mlとイオヘキソール240 10 mlの混合液を15 ml注入したが,正常造影像が得られず横隔膜が造影された(図2a図3a,b).CTライクイメージでそのまま針を進めても安全だと判断し,X線透視下で針を慎重に進めて横隔膜脚を貫通し腹腔神経叢ブロックとした(図2b図3c,d).2%メピバカイン10 mlとイオヘキソール240 10 mlの混合液を10 ml注入し,CTライクイメージで大動脈周囲,腹腔神経叢領域での造影剤の広がりが良好なことを確認した上で(図3e)無水エタノール12 mlを注入した.

図2

透視時の造影所見

針先の位置を示す(黄矢印).

a:横隔膜穿刺となり,横隔膜脚とその上部の筋層(青矢印)が造影されている.b:腹腔神経叢ブロック時の造影所見.

図3

CTライクイメージ画像

a,b:横隔膜造影.c,d,e:腹腔神経叢ブロック.

腹腔神経叢ブロック翌日にはNRSが0/10となったのでフェンタニルの静脈内投与を中止しフェンタニル貼付剤1 mg/日にスイッチした.ブロック後6日目より,腹水による腹部膨満感や腹痛,右下腹壁転移巣の痛みを訴え始めたため,レスキューとしてオキシコドン5 mg/回を開始し,痛みの増強に伴いフェンタニル貼付剤を漸増して対応したが,徐々に全身状態が悪化し入院55日後(ブロック36日後)に死亡した.

III 考察

腹腔神経叢ブロックおよび内臓神経ブロックは,膵がんを含む上腹部内臓痛の緩和に有効な方法であり,オピオイドの使用量を減量することでオピオイドによる副作用を軽減しQOLを向上させる2).また,がん性疼痛に対するインターベンショナル治療の中でもエビデンスレベルが高く,推奨される治療法である1)

腹腔神経叢ブロックでは腹部大動脈の腹側までブロック針を進める必要があるが,内臓神経ブロックは,腹部大動脈後壁,両側横隔膜脚,椎体前面で構成されるretro-crural spaceに薬液を注入するコンパートメントブロックであり,ブロック針の先端を腹部大動脈の背側に位置させればよいため,手技が腹腔神経叢ブロックに比べ簡便で安全性が高い.それゆえ,近年では内臓神経ブロックが選択されることが多いとされる3)

内臓神経ブロックを困難にする解剖学的要因として,リンパ節転移や腫瘍浸潤によるretro-crural spaceの狭小化,骨棘形成や転移による椎体の変形などが挙げられる.椎体の変形がある場合は,単純X線撮影だけでなくCTやMRI検査で詳細を評価し,事前にアプローチの方法やブロック針の刺入方向を十分に検討しておく必要がある.脊椎の変形が強くブロックが困難と予想された症例において,バイプレーン透視およびコーンビームCTの使用が,穿刺時間の短縮や針の刺入方向の微調整に有用であったことが報告されている4).当施設ではブロック時に,通常の透視に加えC-armを用いて三次元画像を構築できるCTライクイメージを利用しており,腹腔神経叢ブロックに変更する際の針先の位置確認に役立った.

本症例では,ブロック前の腹部CTで,矢状断面で第12胸椎から第2腰椎にかけて,横断面で椎体右側から前方に張り出すように骨棘形成がみられた(図1).実際の手技中に,ブロック針の先端が椎間板を抜け骨棘を通過したのち,造影剤を注入すると横隔膜が造影されたことから,骨棘と横隔膜脚が隣接していたと推察された(図4a,b).対処法として,ブロック針を椎間板入口まで後退させ刺入方向を微調整する,あるいは椎間を変更して再穿刺する,または傍椎体法にアプローチを変更するなどの選択肢が考えられたが,今回の症例では,CTライクイメージにて腹腔神経叢に安全に到達できると判断し,針をさらに進めて腹腔神経叢ブロック(図4c)とした.腹腔神経叢ブロック後の造影所見においても薬液の広がりは良好であったが,造影所見によっては,前述のような穿刺法の変更も考慮すべきであったと考えられた.今回の穿刺では針の破損はなかったが,硬い組織を穿刺することは針先の損傷や針の破折により周囲の血管や組織の損傷につながる恐れがあるため,避けることが望ましい.

図4

ブロック針先端の位置

a:骨棘.b:横隔膜脚内.c:腹腔神経叢領域.d:retro-crural space.

内臓神経ブロックの合併症として横隔膜穿刺が報告されている.ブロック時に横隔膜脚が造影されると横隔膜脚の筋層が筋状に描出され,またブロック針が呼吸性に振り子のように動く呼吸性移動がみられる5).椎体前面の造影剤の広がりに集中していると,上方に淡く広がる筋状の横隔膜造影像を見落とす可能性もあり,注意が必要である.横隔膜穿刺に気づかないまま神経破壊薬を注入すると,注入時の上肢や肩,胸,背部の放散痛や,ブロック後の上腹部,側胸部,肩の重圧感や痛みの原因となる可能性がある5).福重ら6)は内臓神経ブロック後に右肩痛を訴えた症例を報告している.またRosenthal7)は,アルコールを用いた内臓神経ブロックで,ブロック後に右横隔神経麻痺による労作時呼吸困難が発生し改善しなかった症例を報告している.その原因として右横隔膜脚へのアルコール注入の可能性を述べており,横隔膜穿刺の合併症として横隔神経麻痺が生ずる可能性がある.

今回,ブロック後6日目より痛みの訴えがあったが,腹水貯留による腹部膨満感や右下腹部腹壁転移巣の疼痛,下腹部痛の訴えが主であった.ブロック時の造影所見では大動脈周囲に造影剤が十分広がっており(図3e)腹腔神経叢ブロックの効果は十分であったと思われた.

IV まとめ

腹腔神経叢ブロックおよび内臓神経ブロックは,がんや膵慢性疾患における上腹部内臓痛の緩和に有効な手法であるが,本例のように脊椎の変形が強い場合,手技が困難となり合併症につながる危険性がある.ブロック施行前の画像評価,手技中の造影所見に注意が必要である.また,X線透視のみならず,CTライクイメージやCTガイド下の穿刺を有効活用することも必要だと思われる.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第57回大会(2023年7月,佐賀)において発表した.

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