2024 Volume 31 Issue 8 Pages 180-183
腰椎椎間関節低形成は非常にまれな先天性疾患であるが,慢性腰痛の原因となることがある.今回,椎間関節低形成患者の腰椎椎間関節症(lumbar facet joint pain:LFJP)に対し,3D-CT画像を併用しインターベンショナル治療を施行した症例を経験したので報告する.症例は20歳代男性.腰痛に対し内服加療されていたが,症状改善が乏しいため当科紹介となった.CT検査において,右L5/S1椎間関節低形成があり,同部位に一致する自発痛および圧痛を認めたためLFJPを疑った.診断・治療目的にX線透視下での椎間関節ブロック(facet block:FB)を試みたが,形態異常のため椎間関節の同定が困難であったため,3D-CT画像と比較しながら穿刺した.FBが著効したためLFJPと診断した.FBの効果は一時的であったため,facet rhizotomyも3D-CT画像を参考に施行し,長期間の鎮痛を得た.本症例のように形態異常を伴う場合の神経ブロックにおいて,3D-CT画像との比較は非常に有用であった.
Lumbar facet joint hypoplasia is a very rare congenital disease that can cause low back pain. We report a case of lumbar facet joint pain (LFJP) with hypoplasia of the lumbar facet joint, in which interventional treatment was performed using 3D-CT images. The patient was a male in his twenties. CT showed hypoplasia of the right L5/S1 facet joint and there were spontaneous pain and tenderness in the same area, These findings led us to suspect LFJP. Facet block (FB) under fluoroscopic guidance was attempted, but it was difficult to identify the facet joint due to its morphological abnormality, so it was carried out by comparing 3DCT images together. Since FB was effective, we diagnosed his pain as LFJP. Because the effect of FB was short-term, facet rhizotomy was also performed using 3D-CT images, and long-term pain relief was obtained. In the case of nerve block with morphological abnormalities as in the present case, 3DCT images were very useful.
椎間関節は脊椎支持機構の後方要素であり,前後屈や回旋等,体幹の運動を制御する役割を有する.腰痛のうち15~41%は椎間関節が関与するといわれ,腰椎椎間関節症(lumbar facet joint pain:LFJP)は腰痛の代表的な原因の一つである1).しかしながら明確な診断基準がなく,椎間関節ブロック(facet block:FB)ないし後枝内側枝ブロックによる症状の軽減が診断のために必須である.いずれのブロックもX線透視ガイド下での施行が推奨されている2)が,形態異常や高度の変形を伴う症例では手技の難易度が高くなる.今回,椎間関節形態異常を伴うLFJPに対し,3D-CT画像を参照しインターベンショナル治療を施行した症例を経験したので報告する.
本症例の報告について,患者本人より文書にて承諾を得ている.
20歳代,男性.身長168 cm,体重61 kg.
既往歴:特記事項なし.
内服薬:トラマドール200 mg/日.
生活歴:自衛官であり,訓練等で体を動かす機会が多かったが,腰痛出現後はデスクワーク中心の部署へ異動していた.
現病歴:X−1年3月,足を滑らせ踏ん張った際に腰痛が出現し近医整形外科を受診した.トラマドールを処方され経過観察となったが,その後も腰痛は遷延した.X−1年11月,セカンドオピニオン目的に当院整形外科を紹介受診したが手術適応はないと判断され,X年1月疼痛コントロール目的で当科受診となった.
初診時現症:腰椎L5レベル正中からやや右側に動作時に増強する持続痛を認め,numerical rating scale(NRS)=6であった.針で刺されるような鋭い痛みであり,同部位の圧迫で痛みは増強し,また右大腿外側への放散痛も認めた.身体所見としては,下肢筋力低下や感覚異常はなく,深部腱反射も正常であった.右側のKemp testで下肢痛の出現は見られなかったが腰痛は増強した.CTでは右L5/S1椎間関節の低形成を認めた(図1).腰椎MRIでは,椎間関節低形成以外に特記すべき所見を認めなかった.痛みによるADL低下や不眠は見られなかったが,pain catastrophizing scaleは45と高値であった.
腰椎3DCT
A:正面像,B:斜位像.低形成の椎間関節を矢印で示す.
治療経過:膝関節以遠の下肢神経症状を伴わない腰痛で,右L5/S1椎間関節におおむね一致する圧痛を認めたことから,右L5/S1 LFJPを疑った.診断的治療としてエコーガイド下での右L5/S1 FBを試みたが,同関節の同定が困難であったためX線透視下での施行を計画した.まず斜位にて穿刺を試みたが,X線透視下でも椎間関節の同定が困難であった.3D-CT画像を参照すると,椎間関節裂隙が正面方向を向いていると考えられたため(図1),腹臥位・後方からの透視像を確認したところ,X線透視軸と関節面が並行となったことで辛うじて目的椎間関節裂隙を視認することができた.同アプローチで穿刺し,イオトロラン注入にて穿刺針が椎間関節内にあることを確認した後,0.125%ブピバカイン1 ml+デキサメタゾン1.65 mgを投与した(図2).その後,速やかにNRS=0まで改善したため,右L5/S1 LFJPと診断した.
右L5/S1椎間関節ブロック
FBの効果は1週間程度しか持続しなかったため,3週間後に鎮痛効果延長を期待し,右L4およびL5後枝内側枝高周波熱凝固(radiofrequency ablation:RF)を施行した.右L4後枝内側枝は斜位にてL5椎弓根をメルクマールにポール針RF(22G,100 mm,アクティブチップ5 mm,株式会社トップ,東京)を穿刺した.100 Hz,0.3 Vのsensory刺激で再現痛が得られること,また2 Hz,0.3 Vのmotor刺激で多裂筋が収縮することを確認の上,トップリージョンジェネレーターTLG-10(株式会社トップ,東京)を使用し,RFを90度,90秒間施行した(図3A).右L5後枝内側枝は形態異常の影響を考慮し,FBの際と同様に3DCT画像を参考に腹臥位・後方より穿刺した.仙骨上関節突起基部で再現痛を認めたため,同様の手順で焼灼した.
facet rhizotomy
A:右L4後枝内側枝RF,B:右L5後枝内側枝RF.
3週間後の再診時にNRS=3まで改善したが,患者より「L5後枝内側枝をRFした際に,再現痛をうまく伝えられなかった」との申し出があったため,右L5後枝内側枝RFを再施行した(図3B).その後はNRS=0~1まで改善し,仕事も元の部署に戻り訓練にも参加することとなった.X年6月,訓練後に腰痛がNRS=6まで再増悪したため,右L4およびL5後枝内側枝RFを再施行した.その後は安定して経過し,X年12月に転居に伴い終診となったが,NRS=0~1を維持しており,トラマドールも50 mg/日まで減量できた.
腰椎椎間関節の形成不全は非常にまれな先天性疾患であり,1932年から1992年の間にわずか34症例の報告があるのみである3).原因として胎児期の血液供給不全による骨化障害が推定されている.ほとんどの場合L5/S1椎間関節に病変が存在し,男女比は2:1と男性に多い3).画像所見としては,CTやMRIにおいて椎間関節低形成に加え横突起の前方変位,棘突起の傾きや対側椎間関節の肥大・硬化を認めることもある4).無症候性で偶発的に画像診断されるケースも多いが,一方で椎間関節の不安定性が強い場合や微小な骨折を生じた場合,腰痛を引き起こすとされる5).多くの症例は保存的加療のみで改善が得られるが,椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症を伴うケースでは手術療法が選択される.本症例では,他院にて10カ月程度内服治療されるも効果不十分であり,また診断的ブロックが著効したため,ブロックでの加療を優先した.今回,文献を渉猟した限りでは,過去に椎間関節低形成に起因するLFJP患者にインターベンショナル治療を行い有効であったという報告はなく,本症例が初めての症例報告と思われる.
国際的ワーキンググループによるLFJPのインターベンショナル治療ガイドライン(2020年)6)では,LFJPの診断において後枝内側枝ブロックの推奨度がFBより高くなっているが,本患者では腰椎形態異常のため,特にL5後枝内側枝の走行が正常と異なる可能性があること,また多裂筋筋力低下による仕事への影響が懸念されたため,まずFBでの診断・治療を試みた.ブロック効果時間延長を目的にステロイド薬を添加しFBを施行したものの,効果時間は1週間程度であった.急性期のLFJPにおいてはステロイド薬の椎間関節内注射で中期的な(12週間程度)鎮痛が得られるとの報告もあるが7),本症例は発症から1年弱経過しており炎症の関与が小さかったため,ステロイド薬の効果が不十分だったと考えられた.結果的に長期間の鎮痛を得るためfacet rhizotomyを施行したが,腰椎不安定性増悪による下肢神経症状の出現はなく経過した.
FBやfacet rhizotomyを安全に行うため,何らかの画像ガイドが必須である.エコーガイド下での施行は,特別な設備が不要であり,被曝がないという大きな利点があるが,肥満患者ではブロック成功率が低く8),また本患者のような形態異常のある症例においても穿刺難易度は高く,その成否は患者要因によるところが大きい.X線透視下でのFBおよびfacet rhizotomyはゴールドスタンダードではあるが,あくまで得られる画像は2次元であり,そこから3次元的な構造を推測する必要がある.本症例では形態異常のためメルクマールとなる構造物が分かりにくく,より3次元的な解剖を理解する上で,3D-CT画像との比較を行い効果的な治療ができた.形態異常や高度の変形を伴う症例では,安全かつ精度の高いインターベンショナル治療をするために,3D-CT画像の利用は有用と考えられる.
椎間関節低形成患者のLFJPに対し,インターベンショナル治療を施行した症例を経験した.形態異常のため穿刺のメルクマールが不明瞭であり,X線透視像と3DCT画像との比較が穿刺に有用であった.
本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第57回大会(2023年7月,佐賀)において発表した.