Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2024 Volume 31 Issue 9 Pages 212-222

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会 期:2024年1月27日(土)

会 場:東京医科大学教育研究棟(自主自学館)3階 維持会記念講堂

会 長:西山隆久(西東京中央総合病院麻酔科)

形 式:現地開催・オンデマンド配信

■エキスパートハンズオン

エコー下頚部硬膜外ブロックの実際

前田 学 前田奈々

まえだ整形外科

従来,頚部硬膜外ブロックは,ブラインドでのブロック,デバイスアシストでのブロック等のloss of resistance法を用いた方法が主に報告されてきた.近年は,透視を用いた骨をランドマークにした方法以外にも,CTやMRIを用いた方法などが報告されている.針先の位置の確認には,透視やCTを用いた方法では,頻回の放射線被曝が,患者のみならず,医師やパラメディカルに及ぶことが危惧される.さらに,薬液がどこに流れるかを注入中リアルタイムに捉えることはできず,注入後にどこに流れたかの確認がなされているのが現状である.エコーの解像度の近年の向上は目覚ましく,ウインドウこそ限られるものの椎弓切除術などの手術中のエコーでなくても脊髄,硬膜がはっきり見えるようになってきた.さらに,ドップラー法の進歩も目覚ましく,注入薬液の局在を造影剤なしで捉えることができるようになった.これらの超音波技術を用いて,より安全なloss of resistance法を用いないエコーガイド下頚部硬膜外ブロックの方法を考案し昨年当学術集会で報告した.今回は,エコーガイド下頚部硬麻に必要なエコー解剖を中心に,硬膜,黄色靱帯,脊髄の描出方法をハンズオン形式で発表する.

■一般演題I

三叉神経第1枝帯状疱疹関連痛の脳MRI画像所見の検討

権藤栄蔵 田邉 豊 天野功二郎 秋本真梨子 宮﨑里佳 中村尊子 吉川晶子

順天堂大学医学部附属練馬病院麻酔科・ペインクリニック

脳MRIを撮影した三叉神経第1枝(V1)帯状疱疹関連痛5症例中4症例で三叉神経脊髄路に異常所見を認めたので報告する.

【症例1】60歳,女性.左V1帯状疱疹で発症10日後に受診した.NRS 6で,星状神経節ブロック(SGB)と眼窩上神経ブロックを開始した.発症29日後に脳MRIを撮影した.発症3カ月後にはNRS 2に軽快した.

【症例2】62歳,男性.左V1帯状疱疹で発症19日後に受診した.NRS 8で,眼窩上神経ブロックと直線偏光近赤外線のSG照射(以下SG照射)を開始した.発症23日後に脳MRIを撮影した.発症4カ月後にはNRS 1に軽快した.

【症例3】74歳,女性.左V1,2帯状疱疹で発症42日後に受診した.NRS 5で,眼窩上・下神経ブロックとSG照射による治療を開始した.発症後63日に脳MRIを撮影した.発症4カ月後にはNRS 2に軽快した.

【症例4】83歳,女性.左V1帯状疱疹で発症7日後に受診した.NRS 6で,眼窩上神経ブロックとSG照射を開始した.発症して約4カ月後にはNRS 3に軽快したが,物忘れや歩行異常が出現し,脳MRIを撮影した.

これら4症例で,脳MRI画像(T2強調像)で罹患側の三叉神経脊髄路に高信号を認めた.

【症例5】83歳,女性.右V1帯状疱疹で発症1年半後に受診した.NRS 6で,SGBを開始した.発症4年8カ月後には投薬のみとなった.発症12年2カ月後に痛みが再増悪したため,脳MRIを撮影した.

この1症例では,脳MRI画像で三叉神経脊髄路に異常所見は認めなかった.

【まとめ】V1帯状疱疹発症早期に撮影した脳MRI画像で,三叉神経脊髄路に異常信号を認めた.早期から中枢神経に影響を及ぼしている可能性が確認できた.この所見が重症度や帯状疱疹後神経痛(PHN)への移行に関与するかは不明である.PHNでは,異常所見は認めなかった.文献的考察を含めて報告したい.

海綿静脈洞髄膜腫に対する放射線治療後に生じた症候性三叉神経痛に翼口蓋神経節ブロックが著効した1症例

長田洋平 田村美穂子 室谷健司 林 摩耶 中川雅之 上島賢哉 安部洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

【はじめに】翼口蓋神経節ブロックは三叉神経・自律神経性頭痛などの頭痛・顔面痛に対しての有効性が報告されている.

今回,海綿静脈洞髄膜種に対するガンマナイフ治療により生じた症候性三叉神経痛に対して翼口蓋神経節ブロック(エコーガイド下頬骨弓下アプローチ)を施行し有効な鎮痛が得られたため報告する.

【症例】40代男性.海綿静脈洞髄膜種に対して行われたガンマナイフ治療施行1日後より右眼~右前額部~頭頂部にかけての持続痛,右後頚部~右後頭部痛,硬口蓋右側の痛み出現.同症状に対しX日当科紹介となった.疼痛以外に嘔吐・嘔気,耳鳴り,右眼瞼下垂,右眼外転認めた.症状に対しセレコキシブ200 mg/day内服,プレドニン40 mg/day点滴静注施行.当科初診時NRS 6.ガンマナイフ治療後の症候性三叉神経痛,三叉神経脊髄路核経由の後頚部痛の診断でX+1日より連日,上頚神経節ブロック(X+2日,+後頭神経ブロック)を施行し一時的にNRS 3.X+3日,翼口蓋神経節ブロック施行後NRS 1.X+4日,翼口蓋神経節ブロック施行しNRS 0~1と疼痛軽快を認めた.

【考察】本症例はガンマナイフ治療により三叉神経周囲組織・硬膜の浮腫/炎症が原因と考えられる三叉神経第1・2枝領域の持続痛であった.それに対し,複数回の穿刺の必要性がある三叉神経末梢枝ブロック,腫瘍周囲の穿刺リスクのある三叉神経節ブロックは施行困難であった.三叉神経領域に加え,頚部~後頭部にかけての疼痛症状も認めたため,頚神経由来の交感神経興奮に対するブロックとして上頚神経節ブロック,口蓋痛に対して翼口蓋神経節ブロックを施行した.口蓋部の痛みだけでなく眼,頭痛に対して翼口蓋神経節ブロックが有効であったことから自律神経性頭痛の病態が本症例には関係していた可能性がある.

【結語】海綿静脈洞髄膜種に対しての放射線治療後に生じた症候性三叉神経痛に対して翼口蓋神経節ブロックが著効した症例を経験した.

心臓ペースメーカーを留置した患者に対する脊椎刺激経皮的トライアルを行った症例

木村信康 増田清夏

湘南藤沢徳洲会病院痛みセンター

【はじめに】心臓ペースメーカー(以下PM)を留置した患者に脊髄刺激療法(以下SCS)を使用する際には注意が必要である.今回,PMを留置した腰部脊柱管狭窄症で神経ブロック治療の効果が一時的な患者に対して,脊椎刺激経皮的トライアル(以下PT)を行った患者について経験したので報告する.

【症例】70代男性,繰り返す失神,1度房室ブロックでPM(DDD設定)留置中であった.

脊椎外科から腰部脊柱管狭窄症の腰下肢痛のため神経ブロック治療目的で当科に紹介となった.バイアスピリン内服中で仙骨ブロック,神経根ブロックを行うも効果が一時的のためPTを行った.PMとSCSの業者を同一にし,治療可能とのことだった.

入室時にPMチェックを行い特に異常を認めなかった.腰痛と左L5領域の下肢痛であったため,SCS電極の刺激位置をTh11とした.PMチェック下でTh10上端に電極を留置して刺激を行い腰と下肢に刺激を認めたところで心内心電図上異常は認めなかった.バーストDR刺激で治療を開始し,セントラルモニター上異常は認めなかった.

翌日,電極先端位置を確認し刺激位置を調整したところ,セントラルモニターでPMのスパイク波形の消失を認めた.PMとSCSに何らかの影響が考えられたが,PMチェック下でSCSの刺激位置,強さの調節を行ったが心内心電図上異常は認めなかった.その後治療は中断することなく安全に行えた.

【考察・まとめ】PM留置している患者にSCSを行う注意点として,PMモニター下でSCSの振幅やパルス幅などを変えた場合に心内心電図上影響がないことなどいくつか挙げられる.

この症例では刺激位置はTh11であり,SCS刺激の位置がPM電極に近接しないため,SCSの影響が少ないことが予想された.PMの誤作動は致死的なリスクもあるため,PMチェックは電極挿入時だけでなく,モニター心電図上異常が認められた場合には随時行う必要がある.なお本発表に関して患者から文章での承諾を得た.

小児の複合性局所疼痛症候群による歩行困難に対し腰部硬膜外ブロックと理学療法が奏功した1症例

森田 恵 津﨑晃一

日本鋼管病院麻酔科

複合性局所疼痛症候群(以下,CRPS)は,典型的には何らかの外傷に引き続き生じ,当初の組織損傷とはかけ離れた重度の疼痛や自律神経変化,運動機能変化,萎縮性変化などを伴う難治性の病態を示す.一方,小児におけるCRPSの報告は少なく,予後は比較的良好とされているが,確立した治療法は存在せず,薬物療法に関しても,鎮痛薬あるいは鎮痛補助薬の選択やその至適投与量,副作用対策,特にこれらが精神的および身体的発育期にどのような影響を及ぼすか不明な点が多い.今回,われわれは左足根骨骨挫傷後にCRPSを発症し,難治性疼痛に伴う歩行困難を示した14歳男児に対し,腰部硬膜外ブロックと理学療法を集中的に行った結果,円滑な自力歩行が可能となった症例を経験したので報告する.

症例は他院にてCRPS I型と診断された後,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液とロキソプロフェンの投与を受けたが,改善が認められず,当院紹介となった.薬物療法として,ミロガバリンメシル酸とノルトリプチン塩酸塩を選択したが,眠気傾向が強く,継続困難であった.その後集学的な治療が必要と判断したため,近隣の特定機能病院に紹介したが,発症1年3カ月後には症状の増悪を認めるのみであった.歩行困難になり休学したことをきっかけに近医である当院再受診.一時的な交感神経遮断効果を目的とした週1回の腰部硬膜外ブロック(L1/2)および週3回の理学療法を定期的に施行することで,治療開始4週間後には杖歩行,6カ月後には自力歩行が可能となり,休学状態からの脱却に成功した.ところでCRPSは認知行動療法を含め,多職種による集学的治療はなによりも重要と考えられるが,中規模医療施設ではマンパワーの問題などから治療プログラムを策定することさえ困難と言わざるを得ない.しかしながら,今回得た教訓を糧に今後の体制づくりを推進したいと考えている.

星状神経節ブロック後に明らかな頚部腫脹なく咽頭後間隙血腫を合併した患者

高岡春花 小林玲音 武冨麻恵 原 詠子 米良仁志 増田 豊 大江克憲

昭和大学病院麻酔科学講座

星状神経節ブロック(以下,SGB)を行った後の咽頭後間隙血腫はまれだが致死的な合併症である.今回SGBを行った後,明らかな頚部腫脹を認めず咽頭後間隙血腫に至った例を経験した.

症例は49歳,男性.身長173 cm,体重65 kg.新型コロナウイルスワクチン後遺症に伴う痛覚過敏と全身倦怠感を訴え,当院ペインクリニックを受診した.血液凝固異常がないことを確認後,左右SGB治療を開始した.治療開始43日目,13回目のSGBを行った.左SGBを第6頚椎レベルでランドマーク法により,25G,25 mm針で1%メピバカイン4 mlを使用した.抜針時吸引テストは陰性であった.約2時間後に嚥下障害と呼吸困難感を自覚し,約7時間後に自ら救急要請し当院に搬送となった.来院時,頚部腫脹などの明らかな外見上の変化はなかった.頚部造影CT像で咽頭後間隙に内部均一,造影効果のない軟部組織陰影を認めた.喉頭の圧排と気道狭小を認め,気管切開で気道確保を行った.血腫は広範囲であり翌日に外科的血腫除去術を行った.

SGB後の咽頭後間隙血腫の発生頻度は4~10万人に1人とまれだが,前方の気道を圧排し得る致死的な合併症である.血液凝固検査に異常のない患者や,吸引テストが陰性で起きることも多く,手技直後に合併症を予測することは難しい.初期症状はSGB後,2時間以上経過してから起こる場合が多いとされ,本例でも同様の経過をたどった.一方,頻繁に起こる頚部血腫の初期症状は頚部痛,呼吸困難,頚部腫脹と考えられているが,本例では嚥下障害と呼吸困難感のみであり頚部腫脹は顕著でなかった.頚部の潜在腔は傍咽頭間隙を介して咽頭後間隙と繋がっているため,頚部腫脹が無いことは血腫が咽頭後間隙にとどまり減圧されない,すなわち気道狭窄のリスクが高いことを示唆する.SGBを行う際は,患者に血腫合併リスクを十分に説明し,何らかの初期症状を認めればすぐに医療機関の受診を促すことが必要である.

胸郭出口症候群による難治性疼痛に硬膜外癒着剥離術が著効した1症例

石田裕介 小林玲音 原 詠子 高岡春花 真宅真与 米良仁志 大江克憲

昭和大学医学部麻酔科学講座

【背景】胸郭出口症候群(TOS)は第1肋骨,斜角筋群,鎖骨,小胸筋,頚肋などによって腕神経叢や鎖骨下動静脈が絞扼されて生ずる頚肩腕痛を始めとする症候群である.TOSに対する治療にはリハビリテーション,薬物療法,手術療法そして神経ブロック療法などが適応となる.しかし,これらの治療を施行するも疼痛の改善が乏しい状況にしばしば遭遇することがある.今回,TOSによる難治性疼痛に対し硬膜外癒着剥離術(PEA)が著効した症例を報告する.

症例は49歳,男性.5年前より頚椎椎間板ヘルニアによるC6,8神経根症と考えられる右上腕外側部~前腕内側部痛,前腕外側部痛に対して,神経ブロック療法を施行していた.3年前にC6/7頚椎椎間板ヘルニアによる右C7神経根症に対して経皮的椎間板髄核摘出術が施行された.しかし,右上腕外側部~前腕内側部痛,前腕外側部痛は残存していた.画像所見では陰性であったが,斜角筋内への局所麻酔薬注入による再現痛により,これらの疼痛は斜角筋が原因のTOSと考えられた.その後は,星状神経節ブロック,腕神経叢ブロック,神経根ブロックやパルス高周波法で加療されるも効果は一時的であった.神経根ブロックではT1で最も再現痛が得られていた.疼痛が徐々に増悪傾向となったため,右T1のPEAを施行した.施行後はNRS 8/10から3/10にまで改善し,3カ月程度継続した.

【考察】本症例は斜角筋による腕神経叢の絞扼が原因のTOSと思われ,TOSによる難治性疼痛にPEAが著効した.

RaczカテーテルによるPEAは,硬膜外腔にカテーテルを侵入させ,癒着剥離・炎症物質の洗浄を行う治療法である.本症例は長期にわたるT1神経根の炎症で癒着が生じ,難治性疼痛となっていたと思われた.今回,PEAによる治療効果が継続した要因は,癒着の剥離・炎症性物質の洗浄により痛みの悪循環を断ち切った可能性が考えられた.

【結語】TOSによる難治性疼痛にPEAは治療法の一つとなりうる.

■特別講演

神経障害性疼痛診療の意義と実践

住谷昌彦*1,2

*1東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部/麻酔科・痛みセンター,*2東京大学大学院医学系研究科疼痛・緩和病態医科学講座

中等度以上の運動器疼痛が6カ月以上持続する慢性疼痛患者は国内人口の15.4%を占め,世界でも運動器疼痛は20年以上にわたって一般市民の愁訴の最上位である.腰痛・肩こりを代表とする運動器疼痛がいわゆる慢性化した患者では身体的健康度だけでなく精神的健康度も著しく低く,痛みがQOLの重大な阻害因子となっている.国内においては厚労省から2010年に「今後の慢性の痛み対策について」と題した提言が発出されて以降,さまざまな痛み対策が行われてきたが,慢性の痛み対策のさらなる深化の必要性が日本学術会議から2023年9月「運動器疼痛に対する本邦の診療研究体制整備」として発出されている.この提言書では,運動器疼痛対策を公衆衛生上の健康課題として認識し,一次予防(疾患の発生防止)~二次予防(発症後早期の診療の開始,適切な診療の提供による寛解)~三次予防(重症化の防止)の段階的な予防の必要性が提案されている.運動器疼痛の発症機序は侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,痛覚変調性疼痛のいずれも検討が必要であるが,これらは痛みの病態(発症機序)ごとに臨床的特徴が異なり,中でも神経障害性疼痛は重症度が最も高くQOLの低下が著しい.神経障害性疼痛は,先進国での有病率が一般人口の約7%,中高齢者に限ると約15%とされ,世界規模で進行する超高齢社会においては,その解決に向けた取り組みをより一層強化しなければならない.

本発表では,神経障害性疼痛の原因物質として報告されたリゾホスファチジン酸(LPA)に着目した新しい診断法の開発や脊椎手術適応の最適化に向けた取り組み,さらに,鎮痛薬の最適化に向けたわれわれのアプローチを概説し,痛みの専門医が疼痛診療で果たすべき役割について考える機会とする.

■一般演題II

当科での片頭痛患者に対する抗CGPR抗体製剤注射薬の使用経験

原 厚子 井関雅子 千葉聡子 濱岡早枝子 西田茉那 後藤友理 河内 順 山田恵子

順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座

【目的】2022年の1年間に当科で抗CGRP抗体製剤の注射を開始した片頭痛患者の背景や治療効果を明らかにするために,診療録より後ろ向きに調査を施行した.

【対象】2022年の1年間に当科で抗CGRP抗体製剤を処方された片頭痛患者とした.

【方法】患者背景と6カ月後の①頭痛頻度や強度の改善②日常生活支障度の改善③減薬の有無を診療録より後ろ向きに確認した.治療効果は,3項目とも改善した場合には著効,2項目では有効,1項目ではやや有効,変化なしを無効,受診を中止したものや副作用で投与を中止したものは不明,として評価した.

【結果】該当患者は9名(女性8名・男性1名)であり,年齢は36~68歳(平均52.7歳),罹患年数3~20年(平均10.5年),緊張型頭痛合併が4名であった,使用薬はガルカネズマブ3名,フレマネズマブ6名であった.フレマネズマブ使用6名中1名は,3回接種後から皮膚発赤と硬結が出現しガルカネズマブに変更したが,1回目から同様の皮膚症状が出現したため抗CGPR抗体製剤による治療を中止した.予防薬は,過去の治療で効果なしまたは副作用のため中止し投与前には使用していない患者が4名,使用薬物としてロメリジン3名,アミトリプチリン1名,バルプロ酸2名,クロナゼパム1名であった.頓服薬はトリプタン製剤が8名,ラスミジタンコハク酸塩1名,ロキソプロフェン1名,アセトアミノフェン1名であった.6カ月後の治療効果は,著効5名,有効2名,やや有効0名,無効1名,不明1名であった.

【考察】ペインクリニックにおける片頭痛患者のCGPR抗体製剤の有効以上の割合は77.8%程度であり,CGPR抗体製剤注射薬の使用に適した患者選択がなされていると考える.また導入年齢は中年以降が多数を占めていたが,経済的な面からの影響も考えられる.

精神疾患併存片頭痛患者治療に抗CGRP抗体を用い転機良好であった2例

木村篤史*1,2 山田 治*3

*1恵愛会大島病院脳神経内科,*2新潟大学脳研究所統合脳機能研究センター臨床機能脳神経学分野,*3恵愛会大島病院精神科

当院は精神科単科病院として地域の精神科医療を担っている.2023年春に脳神経内科外来を開設後,精神科疾患を併存する頭痛患者を診療している.抗CGRP抗体は,高い効果で副作用も少なく,精神科薬とも併用しやすい薬として近年注目されている.最近,この抗CGRP抗体を使用し,慢性的な片頭痛と精神症状の軽減につながった2例について経験したため報告する.

【症例1】40代女性,X−3年ごろより不眠,思考制止,抑うつ気分が出現した.X年1月に生活苦から希死念慮をきたし,うつ病の診断で当院精神科に入院した.加療により希死念慮は消失したが,難治性持続性の頭痛で3月に当科紹介となった.頭痛の初発は17歳,拍動性左側優位で視覚性前兆を伴った.前兆のある片頭痛および薬物乱用性頭痛と診断し,ベラパミルで治療開始したが効果限定的で8月よりガルカネヅマブを投与開始した.投与前HIT-6(頭痛インパクトテスト)は78点,翌月より51点まで改善した.退院当初の外来では不安・抑うつ気分の訴えが強かったが,次第に改善しSDS(うつ性自己評価尺度)は62点から50点まで回復した.現在は自立した生活を送り復職を目指している.

【症例2】30代女性,X−4年にパニック障害,不安障害と診断され通院中,X年5月に紹介受診した.頭痛の初発は20代,月に10日以上の右側優位拍動性で嘔吐と音過敏を伴った.前兆のない片頭痛および薬物乱用性頭痛の診断でバルプロ酸の予防内服を開始した.効果が部分的であり10月にフレマネズマブを導入しHIT-6は68点から60点へ改善した.SDSは52点から45点まで改善し,それまでは家でじっと閉じこもることも多かったが外出頻度も増えた.

片頭痛は主観的症状による診断で,しばしば精神症状との鑑別が困難である.多領域連携のもと抗CGRP抗体を活用することで精神疾患併存片頭痛患者のQOL改善を得られる可能性がある.

20年以上内服したコデインをトラマドールへ移行できた慢性痛の1症例

梶原一絵 河合満月 清水菜央 飯田良司 前田 剛 鈴木孝浩

日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野

59歳女性.X−27年,左三叉神経第三枝領域の帯状疱疹を発症,その後左耳介側頭神経領域に痛みが残存していた.X−22年,左顎関節症手術後,同部位にも痛みが持続するようになった.前医にて光線療法,薬物療法,星状神経節ブロック(SGB)を行ったが,著明な改善なく,X−21年に当院紹介となった.初診時,VAS 70 mmであり,光線療法,薬物療法,神経ブロックを行うも痛みの改善は乏しく,コデイン内服を開始したところ用量依存的に痛みの緩和が得られた.経過中,さらなる鎮痛を求め,フェンタニル貼付薬への変更も試みたが,嘔気,頭痛のため再度コデインの内服となった.その後,薬物療法とSGBにて痛みは安定し,ADLも保たれたためコデインの減量を試みたが,痛みの再燃により20年以上にわたりコデインを継続していた.X年,ライフステージの変化,診察医の変更などに伴い,今後の治療方針についてご本人から相談されるようになり,コデイン漸減を検討した.コデインへの執着,減量への不安が強かったため,まずはトラマドールへの切替えを提案した.痛みの増強や嘔気,眠気への不安に対し,自宅で過ごす時間の多い夜からの切替えを開始し,2週ごとに状態を観察しながら進めた結果,提案から12週で全量トラマドールに変更し得た.ご本人の生活に合わせた新たな薬物選択と計画が,コデインに対する認知を解きほぐしたと考えられた.経過が長く,減薬や新たな治療に抵抗を示す患者でも,真摯な診療態度で患者のアドヒアランスを重要視し,信頼関係を築くことで,痛み,治療に関する固定観念を解くことも不可能でないと改めて感じる症例であった.トラマドールに変更後,痛みはやや改善し,気分も爽快とのことであった.今後はこの成功体験をもとに,薬物量を調整していく予定である.

頚椎神経根ブロックの後療法としてのリハビリテーション;神経根症状と筋骨格要因の混在が疑われた頚椎症性神経根症の2症例

佐藤雅文*1 江原弘之*2 福島悠基*3 水野幸一*4

*1多摩センター痛みのクリニックリハビリテーション科,*2西鶴間メディカルクリニックリハビリテーション科,*3多摩センター痛みのクリニックペインクリニック科,*4日本医科大学多摩永山病院麻酔科

【背景】頚椎症性神経根症に対する神経根ブロックは痛みや機能障害の改善に有用とされるが,短期間で痛みが再発する症例を経験する.そこで当院では頚椎症性神経根症の症状に筋骨格要因が混在すると考え,神経根ブロック後にリハビリテーション(以下リハ)を積極的に実施している.今回,特に神経根症状と筋骨格要因の混在が特徴的であった2症例について報告する.

【症例】2症例は画像所見と身体所見から神経根症状と判断された.症例1は60代女性で主訴は左頚肩腕痛であった.ブロック後に安静時痛は改善するも,Spurling test陽性および頚部の運動時痛が残存し,リハ開始した.リハ開始時のPainDETECT Questionnaireから混合性疼痛が疑われた.症例2は80代女性で主訴は左頚肩腕痛であった.ブロック後に上肢痛は軽減するも肩甲帯部痛が残存しリハ開始した.2症例ともに頭部屈曲,頚部屈曲の徒手筋力検査は2/5であり,胸椎自動伸展運動の低下が顕著であった.

【結果】リハ開始時と終了時にnumerical rating scale(以下NRS)とneck disability index(以下NDI)を評価した.症例1は99日間でリハ8回実施し,運動時の最大NRSは8/10から2/10となり,NDIは33%から6%となった.症例2は136日間でリハ12回実施し,運動時の最大NRSは7/10から3/10となり,NDIは42%から20%となった.

【考察】頚部深層筋の筋活動低下と頚部痛の関連を示唆する報告や,胸椎後弯姿勢により椎間孔面積の減少が引き起こされるとの報告がある.またブロック後に頚部や肩甲帯部に筋骨格要因を疑う痛みが顕在化することがある.ブロック後に症状の残存を認める症例において,ブロック後のリハが症状の軽減に重要な役割を果たす.

超音波ガイド下局所麻酔薬浸潤が有用であった臍ヘルニア術後遷延痛

小山杏奈*1 田邉 豊*2 林 怜史*1 林 督人*1 藤田信子*1 阿部世紀*1 井上大輔*1

*1聖路加国際病院麻酔科,*2順天堂大学医学部附属練馬病院麻酔科・ペインクリニック

【はじめに】今回われわれは,臍へルニア術後の遷延する腹壁の痛みに対し,疼痛部位へ超音波ガイド下に局所麻酔薬を浸潤させたことが有用であった症例を経験したので報告する.

【症例】80歳男性,身長170 cm,体重91 kg.

【現病歴】当科初診の3年前に他院で臍ヘルニア手術を施行された.術後の痛みが遷延し,他院で末梢神経ブロックや薬物療法を受けたが症状は軽快せず,当科初診の数カ月前に臍ヘルニアのメッシュ摘出術が検討され当院ヘルニアセンターを受診,そして手術までの疼痛コントロール目的に当科へ紹介受診となった.

【初診時所見】臍の右側周囲にNRS 8の持続する痛みあり.咳や排便時など腹圧がかかると症状は増悪傾向で,時にナイフで刺されるような痛みと表現される発作痛もあった.加えて臍の右近傍の体表上に3 cm大の硬結があり,非常に強い圧痛を認めた.アロディニアや感覚低下は認められなかった.

【治療経過】腹直筋鞘ブロックは効果がなく,腹横筋膜面ブロック(trans versus abdominis plane block:TAP block)を施行したところ,NRS 3まで疼痛軽減した.効果は一時的であったため,圧痛部位を超音波で観察したところ,高輝度に映る索状物が観察された.索状物直上に0.5%リドカイン10 mlを浸潤させたところ,NRS 0となり,その後も痛みの増悪なく経過したためメッシュ摘出術は中止され,当科も終診となった.なお,超音波で確認した際に索状物の中に腸管が入り込んでいることを確認しており,盲目的ではなく超音波ガイド下で局所麻酔薬の浸潤を行ったことも腸管穿刺を避けるためにも有用であった.

【まとめ】3年以上経過した腹壁の術後遷延痛の治療に超音波ガイド下の局所麻酔薬の浸潤が有用であった.疼痛部位はメッシュが縮んで一塊になったmeshomaとなり,炎症や圧迫などによる局所の組織内圧上昇に伴い疼痛が発生したと推測した.

腹臥位困難な腰下肢痛に硬膜外麻酔を用いて全内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア切除術を行った1症例

石川慎一*1 田中正道*2 岡部大輔*1 丸山真実*1 林 裕之*1 妹尾悠祐*1 小橋真司*1

*1姫路赤十字病院麻酔科ペインクリニック,*2姫路赤十字病院リハビリテーション科

【はじめに】全内視鏡下脊椎手術は,その低侵襲性と術後回復の早さから急速に広まりつつある.経椎間孔内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術(TELD:transforaminal endoscopic lumbar discectomy)では,デクスメデトミジン(DEX:dexmedetomidine)併用局所麻酔下に施行可能であるが,術中の安定した腹臥位保持は重要である.今回われわれは,腹臥位が困難な垂れ上がりヘルニアに対して硬膜外麻酔を用いてTELDを安全に施行できた1症例を経験した.

【症例】50代女性.既往に片頭痛と頚椎症性神経根症を有しており,片頭痛予防薬と月に1回程度の腕神経叢ブロックを当院で行っていた.X日,急に左腰下肢痛が出現し,強い痛みで歩行および腹臥位をとることが困難となった.X+2日に当院受診,VAS 98/100.左L4,5レベルの知覚過敏を有する下肢痛と軽度の筋力低下を認めた.腰椎MRIでは左L4/5椎間板の左椎間孔および上方へ脱出したヘルニアを示した.仙骨硬膜外ブロックと左L4,5神経根ブロックの効果は一時的であったが,腹臥位可能な時間は5分から30分に延長した.X+18日に硬膜外麻酔併用TELDを予定した.腹臥位後に左L3/4間より0.1%ロピバカイン6 ml(0.2%ロピバカイン3 ml+造影3 ml)を硬膜外投与し,DEXおよび局所麻酔併用下にTELDを行った.VAS値は術直前,術後1,3週に腰痛65⇒20⇒25,下肢痛65⇒40⇒25,下肢しびれ80⇒40⇒25と改善した.JOAスコアは術前3/29点,術後3週17/29点,術後2カ月22/29点,術後6カ月24/29点と改善した.術後1年も再発を示していない.

【結語】腹臥位困難な症例でも硬膜外麻酔を併用して意識下TELDを安全に施行できた.麻酔方法の適切な選択は,意識下TELDの施行に重要と思われた.

変形性股関節症に対し股関節枝高周波熱凝固法が奏功した2症例

岡田寿郎 合谷木 徹 大瀬戸清茂

東京医科大学麻酔科学分野

【はじめに】薬物療法のみで疼痛コントロールに難渋する変形性股関節症患者(hip osteoarthritis:股OA)では神経ブロックを施行するが,除痛効果や持続時間が不十分である場合には,股関節枝高周波熱凝固法(radiofrequency thermocoagulation:RF)を考慮する.今回,股OAによる慢性疼痛患者2症例に対し,圧痛点付近から股関節枝RFを施行し鎮痛効果を得たので報告する.

【症例】症例1:80歳,女性.1年前より右股関節痛(NRS 5/10)を自覚したため当院初診となった.腰神経叢ブロックおよび坐骨神経ブロックを施行したが鎮痛効果が不十分であったため,股関節枝RFを施行したところNRS 2/10まで改善を得,現在は内服治療のみで経過観察となっている.症例2:50歳,男性.右股関節痛(NRS 7/10)および右下肢のしびれを自覚し当院初診となった.外来通院にて腰神経叢ブロックおよび坐骨神経ブロックを数回施行し,以後他院でフォローしていたが,疼痛が増悪したため再度当院を受診し,仰臥位でX線透視下に圧痛点付近から血管などを避けながら大腿神経の股関節枝のRFを施行した.施行後,股関節痛は消失し終診となった.

【考察・結語】股関節の感覚神経は,閉鎖神経,大腿神経,上殿神経,坐骨神経によって支配されている.本症例は,圧痛点付近からX線透視下で大腿神経股関節枝に向けてSluijter針を刺入し,高周波刺激により再現痛が得られた部位でRFを施行し,責任神経枝を変性させ徐痛を得ることができた.股関節枝RFは圧痛点直下での穿刺についてほとんど報告がないが,椎間関節RFと同様に圧痛点が刺入点となりより簡便に施行できることが判明した.ただし,針の刺入経路の神経や血管を避ける必要がある.人工股関節置換術の適応となるような変形性股関節症による慢性疼痛患者に対する股関節枝RFは手術回避や疼痛管理の観点から有用であることが示唆された.

■基調講演

がんサバイバーの慢性疼痛治療

間宮敬子

信州大学医学部附属病院信州がんセンター緩和部門

近年,がん治療の進歩に伴い,がんサバイバーが増加している.したがって,医療者が一人のがん患者の痛みにかかわる時間はこれまでより長期間となっている.

がん患者の痛みには,がんが直接原因となる痛み,がん治療による痛み,がんやがん治療と直接関係ない痛みがある.がん自体が原因となる痛みはWHO方式がん疼痛治療のガイドラインに沿って治療を行うが,それ以外の痛みは非がん性疼痛としての取り扱いとなる.

がん疼痛と非がん性疼痛の治療で大きく異なるのはオピオイドの使用法であろう.がんの痛みに対しては,オピオイド鎮痛薬の上限を設けることなく使用するWHO方式がん疼痛治療法は,わが国においても広く普及した.しかしながら,がんが寛解したがんサバイバーにおいてWHO方式にのっとって処方されたオピオイドが,痛みが軽減したにもかかわらず長期処方され続けているケースも散見される.オピオイドの長期使用は,オピオイド依存・乱用,オピオイド誘発性痛覚過敏,免疫・内分泌の障害,睡眠障害等のリスクを高め,がんの転移・再発のリスクを高める可能性も指摘されている.

一方で慢性疼痛に対する強オピオイドの使用は,日本ペインクリニック学会の非がん性慢性疼痛ガイドラインでは,可能な限り最少量で長期投与は避けることが推奨されている.また,非がん性慢性疼痛患者に発生する突然増強する痛みに対し,安易にオピオイド鎮痛薬を使用すべきではなく,オピオイド鎮痛薬をレスキューとして使用することは,乱用につながる可能性が高く推奨されないとされている.

欧米ではオピオイド鎮痛薬の乱用,依存などのオピオイドクライシスが大きな問題になっている.ここでは,オピオイドの乱用や依存を回避しながら,がんサバイバーの慢性疼痛にどのように対応すべきなのか,昨年発行されたがんサバイバーの慢性疼痛治療に関するステートメントや演者が経験した症例を含めてお話しする.

■教育講演

周術期区域麻酔とペインクリニックでの神経ブロックに垣根はあるか

信太賢治 諸冨進一郎

昭和大学横浜市北部病院麻酔科

会長の西山先生から「手術麻酔とペインクリニックの垣根という制限をはずす」という趣旨で講演を依頼されました.以前はペインクリニックに専従していた私が,現在麻酔科の責任者という立場となったことから白羽の矢が立ったと考えています.

麻酔科の専攻医には将来を見据えて,心臓麻酔,産科麻酔,小児麻酔,区域麻酔など専門性を高めていくこと.さらに,集中治療,ペインクリニック,緩和医療などのサブスペシャルティ領域も合わせて研修し,二刀流あるいは三刀流の麻酔科医を育てたいと考えています.そのため,当院では専攻医には手術麻酔だけでなく,ペインクリニック,緩和医療,無痛分娩などを並行して研修させています.できるだけ若いうちから,手術麻酔とサブスペシャリティ領域の垣根をなくすことが大切と考えています.

今回,会長の意図を狭めて手術麻酔ではなく「周術期区域麻酔とペインクリニックでの神経ブロックに垣根はあるか」という内容で昭和大学関連施設の専攻医にアンケートを実施しました.講演の前半はこのアンケート結果をもとにお話を進め,後半は当院の専攻医3年目の諸冨進一郎先生に,手術麻酔とペインクリニックに関する正直な感想を含めて講演をお願いしています.

どうかお気軽に聞いていただきたいと思います.

内視鏡でみえる新しいペインクリニック治療の可能性

上島賢哉

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

ペインクリニック領域のインターベンショナル治療は,低侵襲でありながら有効性があるものを模索してきた.ブラインドテクニックから透視を用いる方法,さらに超音波,CTライクイメージを用いた方法など大きく進化してはいるが,いずれも直接治療部位を見ながら行う方法ではない.

一方,直接治療部位を見ながら行う外科領域では,大きく開創する方法から,ダビンチに代表される内視鏡を用いた方法にとって代わってきている.内視鏡下手術は,大きな皮膚切開を伴わないことで患者の心身の負担を軽減させることはもちろんだが,開腹手術と同等もしくはそれ以上の効果を示しながら,術後疼痛の減少,入院期間の短縮など,低侵襲であるからこそ得られる長所が随所にある.

整形外科領域では関節鏡などは以前から行われていたが,最近では脊椎領域でも内視鏡下手術は盛んに行われるようになってきた.その中でも1 cm以下の小さな皮膚切開で生理的食塩水を灌流させて良好な視野を確保できる脊椎手術が登場している.先日,日本低侵襲脊椎外科学会学術集会に参加したが,そのような治療に若手の先生も積極的に取り組んでおり,確実に進歩している印象があった.

現在,当科でも内視鏡下椎間板手術を開始している.近年の内視鏡は画質が向上しているため,椎間板,椎体,靱帯や神経など,われわれの治療対象となるものが,画面上で驚くほど鮮明に見ることができる.

外科領域では内視鏡手術はより低侵襲なものとして進化してきたが,ペインクリニック領域では,これまでより侵襲度が高い治療となる.さらに解剖学的理解,手技の会得など容易ではないことが多々ある.しかし,今後のペインクリニック治療の発展には欠かすことができない分野となる可能性は高い.内視鏡治療とはどのようなものか,今後,どのような場面で生かされていくか等について解説する.内視鏡治療に興味をお持ちの先生方に少しでも参考になれば幸いである.

■一般演題III

外傷性局所多汗症の経過および治療

増田清夏 木村信康

湘南藤沢徳洲会病院痛みセンター

【はじめに】多汗症は全身ないし局所の発汗が増加し患者のQOLを著しく低下させる.原発性と続発性に分類され,国内では2009年に原発性局所多汗症診療ガイドラインが作成され,2023に改訂された.また,抗コリン外用薬が保険適応となったことも記憶に新しい.一方,続発性多汗症の背景疾患や疫学,治療経過に関するデータは非常に少ない.

【症例】40歳代,男性.スノーボードで転倒し,右鎖骨および第3~8肋骨骨折,気胸を認め,受傷後より右肩甲骨内側の痛み,右上肢に限局した多汗が出現し当科での治療を開始した.初診時,上記症状の他に手関節~手背に斑様発赤を認めた.右上肢の疼痛,筋力低下,感覚異常,allodyniaなどの神経症状,可動域制限,浮腫は認めなかった.MRIでは右頚部から肩の軟部組織にSTIR高信号域を認めた.右胸郭の痛みにより仰臥位になれなかったため,星状神経節ブロックは断念し,5日間の近赤外線照射療法を行った.発汗部位は徐々に縮小し,受傷12日目には右手背にわずかに残る程度に回復した.

【考察】続発性多汗症の多くは全身性・対称性であり局所性は少ない.また外傷性の場合は脊髄損傷に伴うものが多く分節型の多汗症,Wallenberg症候群の報告もある.本症例では交感神経幹,脊髄損傷の可能性を考え,早期にMRIのスクリーニングを行った.MRIでは胸部交感神経幹近傍,脊髄に異常はなく,腕神経叢周囲の炎症を認めたことから末梢神経周囲の交感神経過緊張に伴う発汗亢進と考えた.なお,発症までの既往からは他の続発性の原因検索は行わなかった.疼痛を伴う多汗からCRPSを疑われ,早期にペインクリニックへの受診につながったことにより急性期の経過を追うことができた続発性局所多汗症の1例である.

本発表にあたり本人から同意を得,その同意内容にしたがってプライバシーの保護に努めた.

蝶形骨大翼の形態異常によりガッセル神経節ブロックに難渋した1例

田中隆堂 中川雅之 博多紗綾 上島賢哉 林 摩耶 田村美穂子 安部洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

ガッセル神経節ブロック(GGB)は,卵円孔の形態異常によりエックス線透視で卵円孔の視認性が悪くブロックが困難な症例が存在することが報告されている.今回われわれは,卵円孔の形態異常はないにもかかわらず,卵円孔内への針の刺入が困難であった症例を経験したので報告する.

【症例】23歳女性.2年前から第二枝領域の右顔面痛出現し,三叉神経痛と診断された.前医で眼窩下神経ブロックによる疼痛コントロールを行われていたが,1カ月前から第三枝領域に新たな右顔面痛が出現したため,透視下下顎神経ブロックが施行された.しかし,卵円孔の視認が困難なため断念され,当院に紹介受診となった.エックス線透視下でGGBを試みたところ,卵円孔の視認はできたが卵円孔の直前で骨に針があたってしまい卵円孔内に針を刺入することができなかった.コンビームCTを使用できる透視室に移動し,前医で撮像した3DCTを再確認したところ卵円孔の形態異常はないが,針の刺入経路上に蝶形骨の大翼が張り出しているため卵円孔への経路の障害となっている可能性が疑われた.通常の刺入点よりも尾側から針を刺入することで蝶形骨大翼を避けられると考え,下顎角近傍より針を穿刺することで卵円孔内に針を刺入することができた.CTを撮像し針が卵円孔内にあることを確認後,高周波熱凝固を行った.GGB後右顔面痛は消失した.

【考察】卵円孔の形態異常によりエックス線透視での卵円孔の視認性が悪い症例に対しては術前の3DCT撮影が勧められている.本症例は術前の3DCTで卵円孔の形態異常はなく,透視画像で卵円孔の視認性は良好であったにもかかわらず,卵円孔内に針を刺入することができなかった.蝶形骨大翼の形態異常が疑われたが,3DCTで刺入経路を予測することでGGBを施行することができた.

【結語】GGBが難しい症例には3DCTを撮像し,事前に刺入経路を計画することが大切である.

異なる治療経過により寛解した前皮神経絞扼症候群の2症例

河合満月 世戸克尚 古谷友則 飯田良司 前田 剛 鈴木孝浩

日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野

【症例1】40歳女性.当科初診約1年前より右下腹部痛が出現した.A医院内科とB医院婦人科で精査されたが内臓痛を否定された.半年前に受診したC医院内科で前皮神経絞扼症候群(ACNES)と診断され繰り返しトリガーポイント注射を受けたが,疼痛が持続したため,当科を紹介受診した.初診時,臍部の右側3 cm,尾側2 cmに圧痛部位があった.visual analogue scale(VAS)は42 mmであった.また,右側腹部への放散痛を伴っていた.カーネット徴候陽性,ピンチテスト陽性であった.圧痛部の腹直筋へトリガーポイント注射を行ったところ圧痛は一時的に消失した.同注射を計2回行ったところ,VASは8 mmへ低下し圧痛は寛解した.一方で,右側腹部への放散痛は残存したため,約2カ月にわたり腹横筋膜面ブロック計4回と胸部硬膜外ブロック計7回を行ったところ,放散痛は消失した.

【症例2】16歳男性.当科初診約2カ月前より,右側腹部痛が出現した.当院消化器内科で精査されたが内臓痛を否定され,ACNES疑いで当科を紹介受診した.初診時,臍部の右側5 cm,頭側2 cmに圧痛部位があった.VASは64 mmであった.カーネット徴候陽性,ピンチテスト陽性であった.圧痛部の腹直筋へトリガーポイント注射を行ったところ圧痛は一時的に消失した.同注射を週に1回で計6回行ったが,VASは低下しなかった.患者と両親へ他の治療法を説明したところ,手術療法について外科医から話を聞きたいと希望された.患者は当院消化器外科で2回の神経切離術,絞扼解除術を受け,2回目の手術後約11カ月間,圧痛は消失した状態にある.

【結語】ACNESに対して主としてトリガーポイント注射によって寛解した症例と,手術療法によって寛解した症例を経験した.前皮神経絞扼症候群において患者に幅広い治療法を提案し疼痛の軽減を図ることが重要と考えられた.

歩行時痛を生じた慢性期椎体骨折の再圧壊の1症例

井上 茂 上島賢哉 林 摩耶 菊池 賢 博多紗綾 田村美穂子 中川雅之 安部洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

【はじめに】腰椎圧迫骨折は高齢化社会を反映し,その数は増加している.圧迫骨折によるアライメント不良で陳旧性となってから歩行時痛が出現し,長時間歩けない症例に対して経皮的椎体形成術(percutaneous vertebroplasty:PVP)は効果不良といわれている.今回,圧迫骨折による再圧壊を認め,PVPを行い,良好な経過をたどった1症例を経験し,報告する.

【症例】83歳女性.X−1年,数年来の腰痛があり,受診前より腰臀部痛・間欠跛行が出現し,当科受診.腰椎MRIで陳旧性L1圧迫骨折による後弯変性,脊柱管狭窄症,L4/5椎間板腔狭小化,L3を認めていた.外来通院にて硬膜外ブロック,神経根ブロック,硬膜外洗浄など行い,疼痛軽減を得ていた.X−0.5年,腰臀部痛再燃・歩行時痛が出現し,Xp,MRIを撮影したところ,L1に再圧潰を認め,PVP目的で入院治療を行った.

L1圧迫骨折に対してPVPを行い,歩行時のNRS 8から2への軽減を認め,術後,1カ月以上経過しても良好な疼痛コントロールを得ている.

【考察】本症例では慢性圧迫骨折の再圧壊を認め,クレフトの存在と前後屈による椎体高と椎体楔上角(椎体上縁と下縁のなす角度)の変化があり,骨膜刺激による疼痛,L1/2椎間関節の関連痛,歩行時の椎体高の変化で椎間孔の狭窄よる歩行時痛を認めたと考えられる.PVPは荷重時の椎体高の維持と圧壊の進行防止による治療効果を得たと考えられる.

圧迫骨折は高齢者に起きやすく,PVPはBKPや後方固定術に比べて侵襲は低く,全身麻酔を行いにくい高齢者にも行いやすい.本症例のように圧迫骨折による体動時痛だけでなく,椎間孔狭窄を認めた患者に対してPVPは治療の選択肢の1つとして考慮するのがよいと考えられる.

【結語】圧迫骨折の再圧壊による歩行時痛に対してPVPが著効した症例を経験した.

胆管がんによるがん性疼痛の左腹壁部痛に対して肋間神経ブロックが奏効した1例

前田亮二*1 西山隆久*2 藤田陽介*1 唐仁原 慧*1

*1東京医科大学八王子医療センター麻酔科,*2西東京中央総合病院麻酔科

患者は70代女性.胆管がんの術後1年後に食思不振と左上腹部痛で入院し,ペインクリニック外来を紹介受診された.食事の摂取と内服も進まない状況で,余命は1~2カ月と考えられた.中心静脈下の点滴投与,オキシコドン持続静注300 mg/日とレスキュードーズを頻回に行われていた.初診時に,触診にて腹壁部の圧痛とみられる症状があった.当科にて診断的神経ブロックとしてエコー下肋間神経ブロック(0.5%リドカイン10 ml+0.75%アナペイン2 ml)を第7~9胸椎の高位で施行した.約1時間後より圧痛と安静時痛は軽快した(VAS 6→2,NRS 6→2).また当日は食事摂取量も改善し,疼痛部位である左側を下にして就寝することも可能となった.その後の鎮痛効果は2日間であり,同部位に肋間神経高周波熱凝固法(70度,120秒)を併用した肋間神経ブロックを施行した.効果は良好で,頻回なレスキュードーズを減らすことが可能となった.しかし腹腔内の痛みは残存した.

高周波熱凝固による神経ブロックは,一般的に三叉神経痛や関節由来の慢性疼痛には効果が認められて推奨されることが多いとされる.今回のような腹部のがん性疼痛に対して肋間神経ブロックが奏効した発表は少ない.本症例では腹腔神経叢ブロックは全身状態からリスクが高いと判断され,試験的に行った肋間神経ブロックが効果的であった.腹壁のがん性疼痛に対して効果が認められ,高周波熱凝固を行った1症例を経験した.

メトロニダゾールによる薬剤性末梢神経障害に対し薬物療法が奏功した1例

綾部里香 岡田寿郎 合谷木 徹 大瀬戸清茂

東京医科大学麻酔科学分野

【背景】薬剤性末梢神経障害に対する治療法は未だ確立されておらず,治療に難渋することが多い.今回メトロニダゾールによる末梢神経障害性疼痛に対し,薬物療法が奏功した1例を経験したので報告する.

【症例】57歳男性.膀胱がんに対しロボット支援下膀胱全摘術を施行された1カ月後,術後腹膜炎を発症した.メトロニダゾール,セフトリアキソンの抗菌薬治療開始後4カ月で構音障害が発現し,不穏状態となった.頭部MRIではT2強調像で中脳水道周囲,乳頭体,尾状核,脳梁膨大部に高信号域を認め,メトロニダゾールによる薬剤性中枢神経障害が疑われた.メトロニダゾールを中止したところ構音障害など中枢神経症状は消失したが,四肢末端の末梢神経障害は残存したため,当科紹介受診した.

初診時,四肢末端に持続痛(NRS 9/10)と,疼痛部位の知覚低下を認めた.随伴症状として食欲低下,睡眠障害,抑うつ傾向があった.内服治療として,プレガバリン,デュロキセチンに加え,随伴症状の治療としてスルピリド,リボトリールを開始した.内服開始後1週間で疼痛改善(NRS 6/10)し,食欲や抑うつ状態も改善した.症状改善に伴い,当科介入から1カ月後に転院となった.

【考察】神経障害性疼痛はしばしば遷延し,治療に難渋することが多い.症状改善のためには多角的なアプローチが必要である.抑うつ状態を伴う神経障害性疼痛には,従来行われている治療薬に加え抗うつ薬の投与が有効であることが示唆された.

■特典録画放送

クリニックでVRやメタバースを使用した新たなる取り組み

寺田 哲

みしま痛み&リハビリクリニック

当院は,医療のデジタル化を推進する一環として,リアルのクリニックを完全に模したメタバースクリニックの開設とVRを利用した治療の実施を行っています.これらの斬新なアプローチは,伝統的な治療法とは異なる新たな治療体験と成果を提供することを目的としています.

メタバースクリニックでは,バーチャル空間における診察を通じて,地理的な制約を超えた医療アクセスを実現しています.一方,VR療法は,運動療法や精神療法が可能であると考えられ物理的な制限にとらわれずに,患者が安全かつ効果的な治療を受けられる環境を提供します.特に運動障害やリハビリテーションが必要な患者にとって,VRを使用した運動療法は,動作の精度を向上させ,より個別化された治療計画の実施を可能にし,認知行動療法にも応用できると考えております.加えて,患者に病態の説明をするときの資料としても使用することができます.

これらの新しい取り組みは,運動療法の分野において革新的な変化をもたらし,患者の治療体験と回復過程に大きな影響を与えると考えられます.デジタル技術のさらなる発展とともに,これらのアプローチは多様な医療ニーズに応え,医療の未来を形作る重要な要素となるでしょう.当院では,これらの技術の効果的な活用と,継続的な研究・開発に注力していきます.

理学療法士による運動器疼痛の病態診断とペインクリニックにおける実践

江原弘之*1 山口 亮*2 西 啓太郎*1,3 佐藤雅文*4 岩﨑かな子*5 内木亮介*5 中西一浩*5

*1西鶴間メディカルクリニックリハビリテーション科,*2港南ひだまりペインクリニックリハビリテーション科,*3西鶴間メディカルクリニック通所リハビリテーション,*4多摩センター痛みのクリニックリハビリテーション科,*5西鶴間メディカルクリニックペインクリニック科

慢性疼痛治療において運動療法の有効性が周知されるようになり,理学療法士を雇用し多面的な治療を行うペインクリニック開業医が増えている.平成30年度の慢性疼痛患者の診療に係る実態調査では,腰下肢痛の診療における悩みの第1位と2位は治療と診断と報告されており,診療科や検査機器が限られるクリニックにおいては,診断の精度やプロセスが課題となりうることが想像できる.

当院ではリハビリ科開設当初に,動作時のみに誘発される疼痛や神経ブロック治療後早期に再発を繰り返す疼痛のメカニズムを明確にしてほしいと医師から要望があった.この課題を解決するため,当院の理学療法士は研修段階から医師と連携し,疼痛の病態診断を行えるための研鑽を積んでいる.

本邦のリハビリテーションでは医師が診断し処方するため,理学療法士が診断に直接関わる場面は少ない.しかし運動器疾患の基礎と疼痛科学を学んだ理学療法士が初診時から関わることによって,診断と治療選択に有用な情報を提供できると考えている.

本動画では,疼痛分類を基礎とした疼痛病態のスクリーニングの手順と再発を繰り返す運動器疼痛疾患に対する運動機能評価をご紹介する.スクリーニングでは,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,痛覚変調性疼痛のうち主にどのメカニズムが関与しているか推察する.運動機能評価では,神経−筋機能の協調性によって構成される姿勢・動作成分と,疼痛発生に影響を及ぼす要因との関係に注目し,当院で実施している臨床的な方法を提示する.どちらも定性的な評価にはなるが,特別な技術や機器を必要とせず理学療法士なら誰でもできることが重要だと考える.

「痛みがよくなるからリハビリを実施する」という認識から,従来の診療システムの制限を外し,病態を共に議論する体制が構築できる内容にしたい.

 
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