2025 Volume 32 Issue 1 Pages 7-10
脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)は神経障害性痛や血流障害を改善することが知られている.今回われわれは両側多発性腎結石による背部痛に対してSCSが著効した症例を経験した.症例は47歳,男性.両側多発性腎結石に対して定期的に破砕術や内視鏡的摘出術を実施するも残存結石による慢性的な背部痛が持続していた.オピオイド処方でも安静時は背部に数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)7の鈍痛と動作時にNRS 8の鋭い疼痛が出現するため,夜間不眠・就労不可となり当院紹介となった.2回の硬膜外ブロックで安静時痛がNRS 3に改善されたため,SCSを提案した.サージカルトライアルにて8極リードを2本挿入し,安静時痛はNRS 1まで,動作痛もNRS 2まで軽減したため埋め込み術に至った.以後オピオイドは不要となり復職した.背部の安静時痛および動作痛は共に内臓痛を主とする侵害受容性痛であり,両者にSCSが著効した.上記疾患による慢性痛に対して,SCSは長期オピオイド服用の回避と日常生活動作・生活の質の改善を得られ,良い適応になると考えられる.
A 47-year-old man with bilateral multiple nephrolithiasis had been suffering from chronic back pain due to residual stones despite periodic transurethral ureterolithotripsy. Even under prescription opioids, he had dull pain in his back with numerical rating scale (NRS) 7 when resting, and sharp pain with NRS 8 when moving or putting pressure on his back. He was unable to work or sleep. Three days following an epidural block, his resting pain reduced to NRS 3, and we implanted the spinal cord stimulation (SCS). With SCS stimulation, his back pain at rest and back tenderness were reduced to NRS 1 and NRS 2, respectively. After that, he no longer needed opioids and returned to work or sleep. Both resting pain and incident pain were visceral with somatic, but SCS was significantly effective for both nociceptive types of pain. SCS may be a good indication for chronic pain caused by polynephrolithiasis. It can avoid long-term opioid use and improve ADL and QOL.
両側多発性腎結石は根治困難な内臓痛を伴う疾患であり,結石の予防と疼痛管理が加療の中心となる.脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)は神経障害性痛や虚血痛に対して有用であるが,内臓痛に対しても有用であった報告が散見される1,2).今回われわれは両側多発性腎結石に伴う背部痛に対してSCSが著効した症例を経験した.
今回の症例報告に関して,患者本人より書面で承諾を得ている.
47歳,男性.身長175 cm,体重108 kg.既往に高血圧があり降圧薬で管理良好であった.39歳から遠位尿細管性アシドーシスによる両側の腎結石が出現した.結石による疼痛発作のたびに経尿道的腎尿細管砕石術(transurethral ureterolithotripsy:TUL)を実施されたが,結石を完全に除去することはできず一時的に疼痛軽減するのみだった.8年間に計12回のTULを施行したが残存結石は増加し,安静時は数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)で7の鈍痛を両側の背部に呈し,同部位にNRS 8の鋭い動作痛を訴えた.トラマドール塩酸塩150 mg/日や塩酸モルヒネ10 mg/日を処方されたが効果は乏しく重度の便秘も出現し,不眠・就労困難から本人より腎臓摘出を希望されるほど疼痛管理困難となったため当院に紹介された.
初診時は両側の肋骨脊柱角に叩打痛を認め,背部の安静時痛や仰臥位での自己体重による圧迫の痛みによる不眠も訴えた.前屈や立位・歩行による動作痛の訴えも強く,疼痛生活障害評価尺度(pain disability assessment scale:PDAS)は43点と日常生活動作(activities of daily living:ADL)の低下を認めていた.3D-CT画像で両側に腎石灰沈着を伴う結石を多数認めた(図1).胸腰椎の傍正中に圧痛はなく下肢症状は認めず,胸腰椎CTにて椎体やその周囲に異常は認めなかった.また尿管や膀胱にも結石は認められず,これまでTULのたびに疼痛軽減を得られていたが,残存結石が増加するにつれて疼痛が増強した.
腹部3D-CT所見
両側の腎臓にTULで除去できない多数の結石・石灰化を認める.
硬膜外ブロック(Th9/10より1%メピバカイン5 ml)を施行後,安静時NRSが2まで低下し,前屈や歩行での動作時もNRS 3まで低下した状態が3日間得られた.また,便秘に伴う排便時背部痛も訴えるため,塩酸モルヒネを中止し,アセトアミノフェン1,500 mg/日を処方した.
初診より1週間後,再度硬膜外ブロック施行により同様の効果が認められたため,SCSを提案し,初診より3週間後にサージカルトライアルにて8極リード(インテリスTMプラットフォーム,メドトロニック社)を2本挿入した.先端は右Th5椎体下縁,左Th4椎体下縁として,tonic刺激を左右ともTh6付近を中心に開始した(図2).術当日より安静時NRSは5に低下し,挿入5日後には安静時NRSは1,動作時NRSは3まで低下したためトラマドール塩酸塩とアセトアミノフェンを終了した.リード留置7日後にジェネレーター埋め込み術を実施し,本人希望によりジクロフェナクナトリウム坐剤50 mgを頓用処方し退院となった.初診より18週間後に復職したが坐剤の使用なく,不眠や便秘は解消され安静時NRSは2・動作時NRSは5以下を維持し,ADLにおいてもPDASは23点と改善している(図3).
脊髄刺激電極留置時のXP所見
左リードはTh4椎体下端に,右リードはTh5椎体下端に先端を配置.主にTh6周辺でtonic刺激を行った.
経過
硬膜外ブロックにより安静時痛も動作痛も鎮痛効果を認め,SCS留置後は内服薬を終了して坐剤もほぼ使用せず復職を果たした.
M:モルヒネ塩酸塩10 mg,T+A:トラマドール塩酸塩150 mg+アセトアミノフェン1,500 mg.
病 態:尿細管性アシドーシスはI型の遠位型,II型の近位型,IV型のアルドステロン型があり,本症例は水素イオン排出障害を主とするI型であった.I型はアシドーシスの基で尿中カルシウムが増加し,結石化を阻害するクエン酸が低下するため,尿路に継続的に結石が析出される.よって対症療法としてクエン酸製剤などの内服と定期的な結石摘出・砕石術に加え,根治が困難な結石による腎臓の疼痛管理を継続することになる3,4).
痛みの検討:本症例の背部痛は,1.腎結石が増減することで左右される痛みであった,2.MRIやCTで脊椎疾患は否定されていた,3.筋筋膜性疼痛を示唆するような圧痛点も認めなかったことより腎結石由来の痛みと診断した.結石患者では,腎臓周囲の臓器圧迫により立位や歩行で痛みが増悪することが報告されている5).この痛みに対して,①非ステロイド性抗炎症薬(non steroid anti infectious drug:NSAID)やオピオイドなどの内服,②交感神経ブロックや経皮的電気神経刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS),③SCSや硬膜外・くも膜下オピオイド投与,④両側腎摘出後透析導入などが考慮される5,6).①は効果が乏しく,副作用のため投与に制限があった.③④は適応の判断が難しく,特に④は前医にて拒否されており②および③の選択となった.②は腹腔神経叢ブロックが該当するが,消化管を含む腎臓以外の正常臓器への影響があり効果は恒久的でない.外来での硬膜外ブロックにより良好な効果が得られたことや薬剤に頼らず疼痛を管理できるなどの利点から,③のSCSを選択した.安静時の鈍痛は尿細管や腎盂の鬱滞による内臓痛であり,動作時の鋭い疼痛は結石が周辺組織へ刺激を与える体性痛か,腎内圧の上昇に伴う内臓痛および関連痛かの区別はつかなかった.また立位や歩行で痛みが増悪する原因は姿勢の不均衡である考察もあり5),肥満があるので圧痛はなくとも筋筋膜性疼痛の混在を否定するためにトリガーポイントブロックなどを実施する必要もあったかもしれない.いずれも侵害受容性痛である上記症状に,SCSによって疼痛緩和を認められた.
作用機序の考察:腎臓および尿管の神経支配は交感神経線維,副交感神経線維,求心性知覚線維による三重支配となっており,これらは主に腹腔神経叢を経由しTh6(左腎はTh8)からL2レベルの交感神経幹や後根神経節に入力される7).本症例ではSCSによる知覚神経および交感神経の求心性伝導抑制効果が有力であったと考えられる8).ラットでは,求心性知覚神経は腎髄質や腎皮質にほとんど存在せず,大部分は腎盂に分布する.この知覚神経にはサブスタンスPとカルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)の両方が含まれており,腎盂圧に敏感に反応して求心性知覚神経を興奮させる8).一方,交感神経は腎臓全体の血管と尿細管に分布しており,腎動脈付近で求心性知覚神経線維とともに神経束を形成する.この神経束で求心性知覚神経と遠心性および求心性腎交感神経が互いに伝達調整を行う.過剰な腎盂拡張は求心性知覚神経の異常興奮を引き起こし,同じ神経束にある遠心性および求心性腎交感神経も刺激されるため,SCSによってその両者の求心性刺激伝導を脊髄後角にて抑制したと推察される.胸椎レベルのSCSによりCGRPを抑制することも報告されている9).
SCSの意義:本疾患は根治不可能であり生涯にわたり結石と疼痛の管理が必要となる.SCSによる疼痛管理は,感染や断線・位置異常などのリスクもあるが,一度の侵襲で恒久的に肝臓や腎臓などの代謝経路に負荷なく維持できるため,他の治療法には代え難いメリットがある.NSAIDsやオピオイドなどの各種内服薬による継続的な内服や副作用を回避できた意義が大きく,本症例ではNRSとADLの改善から復職可能となり,患者の生活の質を上昇させた.
これまでにも腹部臓器の内臓痛にSCSの効果を認めた報告があり1,2,10),近年では海綿腎による内臓痛にSCSが有効であった報告もある11).本症例は,慢性的な内臓痛に対してSCSが今後の有力な選択肢になる可能性を示唆した.
本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第57回大会(2023年7月,佐賀)において発表した.