Journal of Japan Society of Pain Clinicians
Online ISSN : 1884-1791
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Original Article
Effectiveness of online cognitive behavioral group therapy for chronic pain
Atsuo YOSHINOKatsuyuki MORIWAKIShima TAGUCHITakaharu NAKAMURAYasuo TSUTSUMI
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2025 Volume 32 Issue 1 Pages 1-6

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Abstract

慢性疼痛患者の痛みや気分,QOLを改善するための治療法として,認知行動療法が行われている.近年,治療へのアクセスが容易なインターネットを利用した心理療法が注目を集めている.われわれは広島大学精神科で作成した対面式の集団認知行動療法(cognitive behavioral group therapy:CBGT)を基に,週1回,合計12回のオンラインCBGTプログラムを作成し,慢性疼痛患者30名を対象に効果を検証した(前後比較の予備的検証).主要評価項目として痛みの強度(visual analogue scale:VAS)を3時点(待機開始時T0,治療前T1,治療後T2)で実施した.その結果,T2でのVASがT0およびT1と比較して有意に改善していた[T0:73.0(22.1),T1:73.9(22.1),T2:58.8(27.3),平均(SD),paired t-test,p<0.001,効果量d=0.95].本研究結果から,慢性疼痛患者に対してオンラインCBGTが効果的であることが示唆された.今後対照群の設定による効果検証や治療後の効果持続期間を明らかにする必要がある.

Translated Abstract

Cognitive behavioral therapy has been used as a treatment to improve pain, mood, and quality of life in chronic pain patients. Recently, internet-based interventions have increased due to the ease of access to treatment. We developed an online cognitive behavioral group therapy (CBGT) program, based on an existing face-to-face group CBGT program, and tested its effectiveness with 30 patients with chronic pain. The program consisted of 12 weekly sessions. We used the visual analogue scale (VAS) for pain intensity as a primary evaluation measure at three points in time: at entry (T0), before treatment (T1), and after treatment (T2). The results indicated that VAS scores at T2 significantly improved compared to both T0 and T1 [T0: 73.0 (22.1), T1: 73.9 (22.1), T2: 58.8 (27.3), mean (SD), p<0.001]. These findings suggest that therapeutic effects are achieved through online CBGT interventions. However, a control group and the duration of post-treatment effects need to be assessed in future studies.

I はじめに

慢性疼痛の治療は,薬物療法と非薬物療法に分類されるが,認知行動療法(cognitive behavioral therapy:CBT)は,非薬物療法に含まれる代表的な心理療法である1).CBTにて慢性疼痛に対する痛みの強さや抑うつなど,精神症状の有意な改善が認められている2,3).広島大学精神科では,慢性疼痛に対する対面式の集団認知行動療法(cognitive behavioral group therapy:CBGT)を作成し,その効果を明らかにしてきた46)

しかし,この対面式CBGTでは,治療施設へのアクセス困難などのため,慢性疼痛患者の多くがCBT治療を受けられずにいる.近年,COVID-19を契機としてインターネットを利用した心理療法は,ウェブサイト,ビデオ会議,電話および電子メールなどの方法で,治療機関へのアクセスが困難な患者にも適応できる方法として注目されつつある7).また痛みの心理療法において集団での治療がより良好な結果につながることがメタ解析にて報告されている8).これらを踏まえると,インターネットを利用したグループで行う治療者支援によるCBTが効果的であることが考えられる.しかしオンラインCBGTの有効性に関する検証の報告はほとんどみられない.今回,われわれは広島大学精神科方式の対面式CBGTのプログラムをオンライン化し,治療効果が得られるかどうか検討した.

II 対象と方法

この研究は,単一施設による事前・事後の予備的試験として実施した.本研究はすべて広島大学臨床研究倫理審査委員会にて承認されたプロトコールに従い,書面にて説明同意を行った(許可番号C2021–0321).プライバシーに関する守秘義務を遵守し,匿名性の保持に十分な配慮をした.

1. 対象患者

広島大学病院を受診した患者を対象とした.以前当院で行った対面式CBGTの効果量は痛みの強度に対して0.94と0.80(平均スコア:0.87)の効果サイズを示していた4,5).この効果サイズを基に,今回効果を検証するには,Gpower®により少なくとも25名のサンプルサイズが必要であることが明らかとなった(パワー=0.80,α=0.05).脱落者を考慮して30名を対象とした.問診(身体疾患,精神疾患の確認など),研究説明,自宅のインターネット環境の確認は対面で行った.最初のスクリーニング時点での参加条件の選定は,先行研究の慢性疼痛患者の選択基準9,10)を参考に,次の条件とした:1)18歳以上であること,2)過去6カ月間痛みにより日常生活に重大な支障をきたしていること,3)過去6カ月以内に3カ月以上痛みが続いていること,4)過去3カ月間に0から10までの数値評価尺度(numerical rating scale:NRS)で痛みの強度が3以上であった日が45日以上あること,5)日常的に使用できるインターネット環境へのアクセスがあること,6)メールの送受信ができること.除外基準は,1)悪性疾患に伴う痛み,2)研究の目的を理解するのが難しい場合(例:認知症,せん妄,精神病の存在),3)器質的脳障害(例:脳出血や脳梗塞)および4)薬物治療で適切にコントロールされていない統合失調症,双極性感情障害,てんかん障害,薬物乱用とした.参加条件に合致し同意の得られた参加者全員はその後待機リストコントロールに割り当てられた(図1).オンラインCBGTの各グループには3~6人の参加者が含まれ,7つのグループが完了した.治療開始までの平均待機期間は69.3日(標準偏差:22.3)であった.

図1

オンラインCBGT参加フローチャート

2. 臨床評価尺度

本研究の主要評価項目は痛みの強さ(visual analogue scale:VAS)とし,副次的評価項目は痛みの破局的思考(pain catastrophizing scale:PCS),抑うつ(beck depression inventory-second edition:BDI-II)とした.これらの臨床評価を待機開始時(T0),治療前(T1),治療後(T2)に自記式質問票を用いて行った.T0とT1の間,患者は麻酔科ペインクリニック,リハビリテーション科,精神科などで薬物治療などの通常治療(treatment as usual:TAU)を受けた.今回そのTAU期間をコントロールとし,TAUに認知行動療法を追加することで得られる治療効果と比較した.T1とT2における臨床評価は,治療前後のそれぞれ2週間以内に外来受診時に行った.VASは過去7日間の平均の痛みの強さを主観的に評価した.

痛みに対する破局的思考の程度を測定するPCS11)は,13項目の尺度で1項目0(全くない)から4(常に)点で最大スコア数は52である.PCSは高い内的一貫性(α=0.91)と高い再テスト信頼性(r=0.75)が報告されている11).うつ症状の評価には,BDI-II12,13)を使用した.BDI-IIの日本語版は,十分な内的一貫性(α=0.87)を有しており,この尺度の妥当性は,他のうつ病尺度(center for epidemiologic studies depression scale)との有意な相関によって確認されている13)

3. オンラインCBGT

本研究では,広島大学精神科方式の対面式CBGTをオンライン上で実施した.この広島大学対面式CBGTは,週に1回90分で合計12回のマニュアル化されたセッションで構成されている46).本プログラムは,10年以上の臨床経験を持ち,CBTの経験が5年以上の精神科医または公認心理師によって実施される.対面式CBGTは,Thornら14)やOtisら15)の文献を参考に約2年間の予備的検討を行い,マニュアルをより日本人向けに修正した.主な治療内容は,痛みに対する心理教育,ワークシート(図2)を用いた痛み,思考,行動,気分の特定を促すセルフモニタリングの実施,リラクゼーションや行動活性化などの行動的介入,「痛みは今後も強くなる一方だ」,「何をしても痛みは改善しない」など痛みに対する過度な認知に対する認知的介入である.セッション1から3では,心理教育とセルフモニタリング,セッション4と5では,リラクゼーション,セッション6では行動活性化に焦点を当て,セッション7から12では,認知再構成を行う46).上記を行うことによって,痛みに対する新しい認知的,行動的な対応の学習,身体的・精神的ストレスに対処するスキルの学習,日常生活の活動量増加を促進し,痛み自体や生活,気分を改善することを目指した.

図2

ワークシート

プログラム開始前にオンラインでの参加に慣れるまで予行練習を行った.先行研究を参考に16,17),オンライン参加にはMicrosoft Teams,資料共有にはGoogle Driveを使用した.資料は,セッションごとにテキストとしてPDFデータ,セルフモニタリング(痛み日記)はGoogleスプレッドシートで管理した.オンライン治療介入における個人情報保護のため,他の研究報告1618)を参考に,同意取得時に,参加者に以下の要件を伝えた:1)オペレーティングシステム(Windows,macOS,Android,iOSなど)またはMicrosoft Teamsを含むすべての関連ソフトウェアやアンチウイルスソフトウェアの最新アップデートを行うこと,2)宿題や痛み日記などのワークシートの記録には個人情報を含めないこと,3)フリーWi-Fiの使用を避け,プライバシーが確保された自宅環境から参加すること,4)セッション中にビデオモニターをオンにして,参加者が一人であることを確認すること.すべての参加者がこれらの条件に同意した.

治療開始後,治療者はGoogle Driveを用いて各セッション間に定期的に治療者と各患者のみで共有された痛み日記の内容を確認した.また治療者は,各セッション間に参加者が宿題を取り組むよう促し,記載方法について指導も行った.このようなサポートには,「痛み日記は新しい取り組みであるため負担に感じやすい」,「痛みがある中での困難な取り組みである」と相手に伝え,共感を示すことも含まれていた.参加者とのセッション以外のすべてのコミュニケーションは,日常のワークシートに使用されたGoogleスプレッドシートのコメント機能を通じて,またはメールを通じて行った.

4. 治療効果の統計的検討

オンラインCBGTの治療効果を評価するために,VAS,PCS,BDI-IIの3時点間の変数の比較を行った.治療前後の3時点(T0,T1,T2)の各変数の比較は,Bonferroni補正を伴うpaired t-testを使用して行った(p<0.05/2).また効果量(Cohenのd値)も算出した19)

Intent-to-treat(ITT)法を使用して,すべての変数を解析対象とした.脱落した2名の治療後データの欠損値は,last observation carried forward(LOCF)法の手順を使用して補完した.

統計ソフトはRバージョン4.3.2を使用した.

III 結果

2名の参加者(6.7%)がCBTの概念になじめないという理由で1回目のセッション後に脱落し,結果として28名の参加者が治療を完了した(図1).

1. 参加者数と患者背景(表1
表1オンラインCBGT導入前の対象背景(N=30)

[年齢] 50.3±12.2歳
[性別] 女性21名/男性9名
[疼痛持続期間] 89.2±86.9カ月
[身体疾患]  
 これまで指摘なし 15
 複合型局所疼痛症候群 1
 椎間板ヘルニア 4
 関節リウマチ 1
 バセドウ病 1
 手術または交通外傷後 3
 口腔疾患 2
 その他 3
[精神疾患]  
 身体症状症 19
 うつ病 7
 不安障害 3
[薬物療法]  
 抗うつ薬 20
 抗てんかん薬 10
 抗精神病薬 11
 抗不安薬 21
 鎮痛薬 10

表1は参加者の背景を示している.臨床的痛み部位は,頭(N=9),胸(N=7),上肢(N=20),下肢(N=17),背中(N=14),腹部(N=7)が含まれていた(複数回答).

2. 治療結果

1) 主要評価項目(VAS)

VASは治療前(T1)に比べ治療後(T2)には有意に減少した(表2)[T0:73.0(22.1),T1:73.9(22.1),T2:58.8(27.3),いずれも平均(SD),paired t-test,p<0.001].

表2オンラインCBGTの治療効果(N=30)

  T0 T1 T2 paired t test effect size(Cohen’s d)
M SD M SD M SD T0<T1 T1<T2 T1<T2
痛みの強さ(VAS) 75.3 17.6 77.8 16.2 58.0 24.5 0.31 <0.001 0.95
PCS 36.0 10.2 36.3 9.9 30.1 12.5 0.77 <0.001 0.55
BDI-II 27.0 10.7 27.0 12.1 20.8 11.5 0.97 <0.001 0.53

CBGT:cognitive behavioral group therapy,T0:待機開始時,T1:治療前,T2:治療後,M:平均,SD:標準偏差,VAS:visual analogue scale,PCS:pain catastrophizing scale,BDI-II:beck depression inventory second edition.

2) 副次的評価項目(痛みの認知と抑うつ症状)

治療前(T1)から治療後(T2)にかけてPCSとBDI-IIはともに有意に減少した(表2)[PCS,T0:36.0(10.2),T1:36.3(9.9),T2:30.1(12.5),BDI-II,T0:27.0(10.7),T1:27.0(12.1),T2:20.8(11.5),いずれも平均(SD),paired t-test,p<0.001].

IV 考察

本研究では,VAS,PCS,BDI-IIのすべての尺度で治療開始前の待機時と比較して有意な改善が認められ,慢性疼痛患者に対する治療者の介入のあるオンラインCBGTが痛みの強さ,抑うつ症状の改善に有効であることが示された.これまでの研究では,インターネットを利用したリアルタイムによるオンラインCBTが慢性疼痛患者の痛みや気分を改善する可能性が示唆されているものの,それを明確に示す研究はこれまでほとんど報告されていなかった20).今回の研究結果は,新たな治療手段としてのオンラインCBGTの有用性を支持するものである.また,これまでにわれわれが行ってきた対面式CBGTの効果量(d=0.87)4,5)と今回の効果量(d=0.95)で大きな相違はみられなかった.今後CBGTを行う際,対面式のみならずオンラインも有効な選択肢の一つとなる可能性がある.しかし,今回の臨床研究では,治療後の短期的,長期的効果について示しておらず,今後検証が必要である.また今回CBGT前後のVAS,PCS,BDI-IIの尺度の有意な変化から治療効果を評価したが,治療効果が治療への期待などに伴う心理的プラセボ効果による可能性が否定できない21).今後,心理教育のみを行うコントロール群の設定によるランダム化比較試験の検証が必要である.

本研究では,途中でCBTを中断した患者が2名(6.7%)みられた.慢性疼痛に対するインターネットを利用した介入に関するシステマティックレビューではドロップアウト率は4%から56%とされており7),本研究での中断率は低いと考えられる.うつや不安に対するオンライン治療において,治療者からの支援が提供される場合,治療を最後まで行う患者の割合は,治療者からの支援が提供されない場合と比べてオッズ比は2.76と高かった22).また,慢性疼痛に対するインターネットを用いた心理療法に関する研究では,患者と治療者との良好な治療関係が臨床効果の向上と関連していることが報告されている23).本研究における低いドロップアウト率も,治療者からの支援が寄与していると考えられる.

治療内容の柔軟性の欠如,情報過多,参加者のデジタルスキルの不足は,インターネットによる心理療法の不成功につながる可能性がある24).われわれのオンラインCBGTでは,治療開始前にMicrosoft Teamsへの入室の仕方やスプレッドシートへの書き方などデジタルに関連する使用方法を患者に詳しく教示し,治療中にも,メールによる定期的な連絡を行い,Google Driveで共有した日常でのワークシートを頻繁にチェックし,コメントを追加した.これらの患者への積極的な関わりが,ドロップアウト率の低減と治療効果に寄与したと考えられる.自宅で治療者の指導のもとでCBT治療を行う簡便さ,病院への移動負担の軽減,心理的に安全な環境で治療を受けることができたことも,オンラインCBGTの利点であったと考えられる.

今回のオンラインCBGTの試みは,臨床研究倫理審査委員会の承認を得て治療者と患者の個人情報保護に関する誓約を経て実施し,個人情報の漏洩に関する問題は生じなかった.しかし治療における遠隔診療では,今後,厳格な個人情報保護を念頭に置いた標準的なオンラインCBGTのシステム構築が必要であると考えられる.また,オンラインCBGTについては,今後,厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」25)に基づいた診療の位置づけの検討も必要である.

V おわりに

本研究の結果は,オンラインCBGTが慢性疼痛患者の痛み,破局的思考,抑うつに対して有効な治療手段であることを示唆している.今後,オンラインCBGTの長期治療効果やオンライン上での治療者と患者の関係が治療効果にどのような影響を与えるか,さらに対面式CBGTとの違いを明らかにする研究が必要であると考える.

本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第57回大会(2023年7月,佐賀)において発表した.

謝辞

本研究は文部科学省科学研究費助成事業「挑戦的研究(萌芽)」(課題番号22K18647)の助成を受けて行われた.

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