Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Clinical Report
Spinal cord stimulation for the treatment of refractory pain in polyarteritis nodosa: a case report
Fumiaki HAYASHINoriko YONEMOTOHirotaka HAYASHIKei KAMIUTSURIShunji KOBAYASHI
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2025 Volume 32 Issue 1 Pages 15-18

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Abstract

結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)は神経の栄養血管の虚血から多発性神経障害を引き起こすため,神経障害性疼痛を発症する場合がある.一方で,比較的まれな疾患であるPANの疼痛の治療についての報告は限られている.われわれはPANの難治性疼痛に対して脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)が著効した1症例を経験したので報告する.症例は60代の男性.PANを発症し免疫抑制治療の後に寛解した.しかし発症初期からみられた四肢の強い疼痛はその後も残存した.保存的治療によって手の疼痛は改善傾向にあったものの,足底の疼痛は依然として強く残った(numerical rating scale:NRS 10/10).そのため歩行困難と夜間中途覚醒が続いた.疼痛緩和目的に施行したSCSが直後より著効(NRS 10/10→2/10)した結果,歩行速度は改善し疼痛による夜間中途覚醒も消失した.埋め込みから半年後にも合併症はなく鎮痛効果は継続している(NRS 2~3/10).

Translated Abstract

Polyarteritis nodosa (PAN) can cause multiple neuropathies due to ischemia of the vasa nervorum, sometimes resulting in neuropathic pain. Reports on treating PAN-related pain are limited as it is a rare condition. We report a case where spinal cord stimulation (SCS) was effective in managing refractory pain in a patient with PAN. The patient, a male in his 60s, achieved remission following immunosuppressive therapy, but severe limb pain persisted. While conservative treatments improved the pain in his hands, the pain in his feet remained intense (NRS 10/10), causing difficulty walking and frequent nighttime awakenings. SCS implantation provided immediate relief (NRS 10/10 to 2/10), improving his walking speed and eliminating pain-related sleep disturbances. Six months post-implantation, the patient remained free of complications, with sustained pain relief (NRS 2–3/10).

I はじめに

結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)は,中型および小型動脈に炎症とフィブリノイド壊死を引き起こす希少な全身性血管炎である.PAN患者の約75%に,血管の虚血により多発性神経障害が生じ,これが神経障害性疼痛の原因となることが知られている1).しかし,PANはまれな疾患であるため,疼痛に対する治療法の報告は限られている.本症例では,PANに伴う難治性疼痛に対して脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)が著明な効果を示したため,ここに報告する.

症例報告に際しては,患者に対し十分な説明を行い,書面で同意を得た.

II 症例

患者は60代の男性.身長159 cm,体重52 kg.日常生活動作は自立しており,建設業の責任者として働いていた.両下腿の疼痛と足のしびれが突発的に出現し,翌月には四肢の強い疼痛と筋力低下により立位保持が不可能となり,当院の総合診療内科へ緊急入院した.自己免疫疾患を疑い,下腿紫斑の皮膚生検を行った結果,皮下小血管のフィブリノイド壊死が確認され,臨床症状(多発性神経障害,筋力低下,高血圧,紫斑)からPANと診断された.治療としてステロイドパルス療法,シクロフォスファミドパルス療法,アザチオプリンが投与された.発症から2カ月後,高かった炎症反応は改善し,杖を使って歩行が可能となり退院した.その後,定期的なシクロフォスファミド投与により寛解し,寛解維持のためにプレドニン10 mg/日およびアザチオプリン50 mg/日を継続した.一方で,正中神経領域(手掌と指先)および後脛骨神経領域(足底)を中心とした疼痛や異常感覚,感覚低下,四肢末梢の筋力低下が残存していた.

初回入院時から四肢の疼痛に対する内服治療と神経ブロックを行った.最初に処方されたアセトアミノフェン2,000 mg/日,NSAIDs,プレガバリン150 mg/日,トラマドール150 mg/日では鎮痛効果が得られず,フェンタニルを導入した.フェントステープ2 mg/日まで増量した際,鎮痛効果が現れたものの,ふらつきと集中力低下がみられた.両側の正中神経と後脛骨神経への神経ブロックを併用し(エコーガイド下0.2%レボブピバカイン1 mlずつ使用),神経ブロック後約3日間の疼痛緩和が得られた.

上記の治療の結果,手の疼痛は改善傾向にあったものの,足底の症状は増悪した.数分間のスプーンでの摂食やスマートフォン操作などの簡単な手の運動が可能となった一方で,足底の異常感覚と痛覚過敏が増悪し杖歩行は困難で,足底の自発痛(numerical rating scale:NRS 10/10)のために臥位でも夜間中途覚醒して叫ぶことがあった.ふらつきと集中力低下があり,内服薬剤の増量は難しく,患者は業務復帰が不可能な状況となり,「死んでもいい」という発言も聞かれるようになった(EuroQol 5 Dimension:EQ5D 32333 −0.063).

発症から1年3カ月後,Boston Scientific社のWave Writer AlphaTMの一期的な埋め込みを行った.L2/3椎弓間隙から硬膜外腔へアプローチし,Th12椎体高で両足底に刺激が確認された(図1).創部感染予防のためのセファゾリンナトリウム1 gは執刀直前から翌日まで計5回投与された.皮膚切開から閉創までの手術時間は2時間10分だった.

図1

最終的な刺激用電極の位置

Boston Scientific社Wave Writer AlphaTM.L2/3椎弓間隙より硬膜外腔へアプローチし2本の刺激用電極の先端はTh12椎体高.

術後,患者はパレステジアフリーを希望し,FASTTM(fast acting sub-perception therapy)とContourTMを組み合わせて設定した.その後は左右の足の疼痛は減少し(NRS 10/10→2/10),SCS埋め込み術後3日目には2本杖での歩行の速度が改善した.早期から両足の鎮痛が得られたことで患者は上記の刺激方法を気に入り継続とした.足の疼痛による夜間中途覚醒がなくなり,前向きかつ意欲的にリハビリに取り組む様子がみられた.またNSAIDsとトラマドールを漸減中止し,プレガバリンも半減したところふらつきや集中力低下は改善した.SCS埋め込み術後17日目,創部や全身の感染兆候なく自宅へ退院し,その後は外来でフォローアップを行っている.術後半年経過後も鎮痛効果は持続し(NRS 2~3/10),1本杖での歩行が可能となり職場復帰も果たしている(EQ5D 12222 0.608).

III 考察

現在までPANに伴う疼痛の治療にSCSが用いられた文献はないが,本症例ではPANに伴う難治性疼痛に対してSCSが効果的であったことを報告する.

PANに伴う神経の栄養血管の虚血によって感覚神経と運動神経が傷害されると,突発的に疼痛や筋力低下を訴える.そして罹患頻度が高い神経は腓腹・腓骨・正中・尺骨神経で,本症例のように四肢の多発神経障害を示す場合がある1).診断は厚生労働省PAN診断基準を用いて主要症候2項目以上と組織所見のある例を確実例とする.指定難病であるPANの医療受給者証の所持者は全国で2,186人(令和3年時点)2)と比較的まれな疾患である.本症例は疼痛の範囲が神経解剖学的に妥当で,神経支配に一致した領域に観察される異常感覚と感覚低下があること,神経障害性疼痛を説明する疾患(PAN)を診断されたことから神経障害性疼痛として治療を進めた.また今回は血管造影やサーモグラフィなどは施行していないが小血管のフィブリノイド壊死を確認したこととPANの病態から血行障害性疼痛の要因も含まれる可能性がある.

PANの難治性疼痛に対し,末梢性の神経障害性疼痛や血行障害性疼痛に反応性があるSCSが有効であると予想した.SCSは脊椎手術後症候群や複合性局所疼痛症候群のように有効な疾患が明らかになってきている3)一方ですべての種類の慢性疼痛に効果的ではないため適応となる疾患の選択が必要である.現在,PANの難治性疼痛に対するSCSの有効性は示されていない.しかしThe British Pain Societyが示している慢性疼痛の原因ごとの反応性の分類において末梢神経障害性疼痛と血行障害性疼痛は「good indication(likely to respond)」とされ4),本症例の足底の自発痛はPANの病態から末梢神経障害性疼痛と血行障害性疼痛の混在する疼痛と考えられるためSCSの導入は妥当と考えた.

SCS埋め込みにあたって,患者が免疫抑制の治療を継続していたため感染への対策を考慮した.SCS埋め込みから1年以内に感染した2,700人以上の患者を対象とした研究では感染までの期間の中央値は27日5)だが,本症例は術後半年経過した現在も感染は起こっていない.SCSを二期的に埋め込みをする場合には試験期間が5日以上超えた場合に感染率が上昇すること6),試験期間を設けずに一期的にSCS埋め込みを行った80例に感染がなかった報告7)がある.本症例は手術室枠などの都合によりトライアル期間が5日を超えることが予想されたため,感染対策として一期的に刺激電極と刺激装置の埋め込み術を計画した.また主に免疫抑制治療中の炎症性腸疾患の周術期に関する研究においてアザチオプリンは術後合併症リスクを増加させないこと8),高容量のステロイド(プレドニゾロン20 mg/日以上)は術後合併症に関連する可能性を指摘するガイドライン9)(本症例はプレドニゾロン10 mg/日と比較的低容量)などから本症例でもSCS埋め込み時にアザチオプリンとステロイドの内服を継続とした.そのほかに長い手術時間10)が感染率と関連があるという研究があるため,本症例では外科手技(皮膚切開と刺激装置のポケット作成など)を脳神経外科医師,硬膜外腔へのアプローチと刺激電極の調整は麻酔科医が分担して行うことでできる限り手術時間の短縮を図った.また抗菌薬の投与期間は術後24時間までを推奨する文献11)に従った.

本症例では術後の刺激設定としてFASTから開始しContourを追加した.FASTは脊髄後索をターゲットとした疼痛部位をピンポイントで刺激する波形で,Contourは脊髄後角をターゲットとした広く面で刺激をする波形である.FASTもContourも本来はパレステジア波形であるが,設定時は刺激場所の確認のため,どちらもパレステジアがある状態(閾値以上)で刺激位置を確認し,そこから閾値以下の振幅に設定する.本症例では設定時に左足底はFASTでパレステジアを確認できたが,右足底はFASTでパレステジアがやや得られづらい状況となったため,より効果が出るよう右側に寄せたContourをさらに追加した.またその後のADLが改善傾向であるため,今後は体動による脊髄への通電の不安定化に注意が必要である.今回使用したBoston Scientific社の刺激装置は複数のパレステジア波形を有することやmultiple independent current control(MICC)による細やかでシームレスな刺激といったメリットがあるため採用したが,体位の変化に対して刺激強度を調整する機能を持たない.現状では脊髄刺激は閾値の半分以下(FASTは閾値の30%,Contourは閾値の50%で設定)で使用できているため,本症例では体位の変化によって不快な刺激を感じることはほとんどなく,体動による突発痛などの脊髄への通電の問題は現在みられていない.今後の経過を注視する必要がある.

IV 結語

PANに伴う難治性疼痛に対し,SCSが有効であった症例を報告する.PANに伴う難治性疼痛を管理するための治療選択肢として,SCSの可能性を示した.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第58回大会(2024年7月,宇都宮)において発表した.

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