Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Clinical Report
A case that had been using high-dose fentanyl patches for chronic pain for a long time reduced opioid usage by opioid switching with measuring serum concentration
Keiko KODAKAYusuke HASHIMOTO
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2025 Volume 32 Issue 2 Pages 35-39

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Abstract

難治性慢性疼痛の管理におけるフェンタニル貼付剤への適応は,その期間や使用量に未だ問題が多い.今回,難病である家族性地中海熱,運動器疾患による難治性の慢性疼痛に対して長期間および高用量フェンタニル貼付剤を使用していた患者に対し,フェンタニル血清濃度を測定しながらオキシコドンへのスイッチングを計画した.慎重な管理で約1/3量へのオピオイド量へ減量でき,かつ疼痛が軽快することで日常生活動作および生活の質が改善した.

Translated Abstract

Fentanyl patch (FP) has been available for more than 10 years for the management of intractable chronic pain. Indications for chronic pain is still problematic in terms of duration and dosage. In this study, we planned to switch to oxycodone while measuring serum concentrations of fentanyl in patients who had been using long-term, very high-dose FP for intractable chronic pain due to familial Mediterranean fever, an incurable disease, and musculoskeletal disease. The patient was switched to oxycodone while serum fentanyl concentrations were measured. The patient was initially managed as an inpatient and was able to reduce the opioid dose to about 1/3 of the original dose over 21 weeks, while improving activities of daily living and quality of life.

I はじめに

非がん性慢性疼痛において,オピオイド鎮痛薬による治療の目的は,患者の疼痛を緩和し,日常生活動作(以下,ADL)および生活の質(以下,QOL)を改善することにある.しかしながら,その高用量・長期使用によるオピオイド誘発性知覚過敏や鎮痛耐性,使用障害などの問題点がある1).今回,高用量のフェンタニル貼付剤使用の慢性疼痛患者に対してオピオイドスイッチングを行い,総量を1/3に減量かつADLおよびQOLの改善が得られた症例を経験したので報告する.

なお,学会発表・症例報告に対して,患者本人から書面で承諾を得た.

II 症例

50代女性,身長160 cm,体重50 kg台.

職業専業主婦(夫と同居,子なし).

合併症:家族性地中海熱,橋本病,高血圧症,喘息,統合失調症,脊柱管狭窄症,脊椎後弯症,変形性股関節症.

既往歴:10歳心身症,12歳胸膜炎,17歳若年性関節リウマチ,53歳間質性肺炎.

手術歴:整形外科関連(脊椎手術)を全身麻酔で12回.

若年時から原因不明の繰り返す全身痛・発熱があり,約30年の経過の後,44歳で家族性地中海熱2)と診断された.また,20代より腰痛・下肢痛があり,脊椎側弯・後弯手術・右人工股関節置換手術などを複数回受けていたが,背部痛や臀部痛は持続していた.

全身の疼痛に対しペインクリニックには十数年以上の通院歴があり,種々の神経ブロックでは疼痛緩和が困難であった.フェンタニル貼付剤保険適応後より貼付を開始し,適宜神経ブロックも併用していたが,疼痛は持続していた.複数の外来担当医を経てフェンタニル貼付量は徐々に増量となっており,著者の外来担当開始時にはフェンタニル貼付剤(フェントス®)32 mg(有効成分量として20.36 mg)であった.合併症や既往歴も多く,複数の担当医より処方の多数の内服薬を使用していた(表1).疼痛は主に項部,上背部,腰部,右臀部,両肩関節痛で常に安静時もNRS 9/10程度の訴えがあり,家族性地中海熱と運動器由来の疼痛が混在していると思われた.著者初診時のADLはほぼ室内生活で,疼痛が強い場合は日中も臥床しており,屋内でも車いすを使用していた.32 mgと高用量の使用でも強い疼痛の訴えがあり,鎮痛耐性が疑われたためオピオイドスイッチングの提案をしたところ同意された.外来で測定したフェンタニル血清濃度は43.4 ng/mlと異常高値であり,貼付状況の確認と,スイッチング開始での退薬症状出現時の管理のため入院とした.入院当日の朝,フェントス®24 mg貼付に減量し,8 mg分を同日夕方よりオキシコドン40 mg/日に置換した.呼吸抑制や退薬症状に注意を払いつつ,疼痛への意識をしないようリハビリテーションも導入した.経過中退薬症状はみられず,薬物動態的に減量分が消失する期間も経過していたため,外来で継続は可能と判断し,5日間で退院とした.フェンタニル血清濃度測定は,フェントス®24 mgに減量してから48,96時間後に行い,後にそれぞれ8.9,7.5 ng/mlへの低下を確認した.退院後フェントス®24 mg貼付とオキシコドン40 mg/日を継続し,退院1週間後の電話診察では,NRS 8/10程度だが安全を確認した.退院2週間後にフェントス®16 mg貼付とオキシコドン60 mg/日へと変更した.しかしフェントス®減量への強い不安の訴えがあったため,その2週間後にはフェントス®16 mg貼付のままオキシコドンを80 mg/日,その2週間後にも100 mg/日への増量を行った.NRSは8/10であったが,患者満足度は高かった.スイッチング開始13週間後にフェントス®8 mg貼付とオキシコドン150 mg/日へ,さらに19週間後には,オキシコドン200 mg/日のみとなりスイッチングを完了した.経口モルヒネ換算でのオピオイド総量とフェンタニル血清濃度の推移を示す(図1).NRSは6/10となり,独歩での外来通院となった.また,自宅内での軽い家事が可能となり,時短で在宅勤務の意欲がわいた.

表1内服薬

処方科 処方薬(時期により変動あり)1日量
ペインクリニック 1日貼り替えフェンタニル貼付剤8 mg 4枚,トラマドール・アセトアミノフェン合剤8錠,ロキソプロフェン60 mg 3錠,ワクシニアウィルス接種家兎炎症皮膚抽出液4単位4錠,ミロガバリン5 mg 2錠,SG 3 g,ナルデメジン0.2 mg 1錠,ゾルミトリプタン2.5 mg屯用
リウマチ科 ジメチコン40 mg 6錠,ウルソデオキシコール酸100 mg 6錠,エナラプリル2.5 mg 1錠,アスコルビン酸パントテン酸合剤2錠,セファクロル250 mg 3錠,トラネキサム酸250 mg 3錠
精神科 リスペリドン2 mg 1錠,トラゾドン2.5 mg 1錠
消化器内科 ボノプラザン錠20 mg 1錠
呼吸器内科 カルボシステイン500 mg 3錠,メシル酸ガレノキサシン水和物錠200 mg 3錠
内分泌科 チラーヂン37.5 µg
整形外科 パゼドキシフェン20 mg 1錠
かかりつけ医 エブランチル15 mg 2錠,水酸化アルミニウムゲル・水酸化マグネシウムシロップ用,ポリエチレングリコール内用剤LD屯用,大黄甘草湯屯用,経腸栄養剤

主たるもののみ記載.外用・点鼻は除外し,全部で約30種類.多くの併存疾患により,多剤内服状態であった.

図1

フェンタニル血清濃度の推移とオピオイド経口モルヒネ換算量

フェンタニルの血清濃度を測定しながら,オピオイド鎮痛薬の総量を高用量フェンタニル貼付剤より約1/3量の経口オキシコドンに減少させることができた.

III 考察

オピオイド鎮痛薬は,慢性疼痛に対するガイドライン1,3)やペインクリニック治療指針4)において,慎重な適応と経過観察が必要とされている.その投与においては,がん性疼痛とは使用可能薬剤の種類・投与期間・至適投与量の限定やレスキューを用いない点など大きく異なっている.高用量フェンタニル貼付剤からの強オピオイド鎮痛剤へのオピオイドスイッチングは,がん性疼痛でのフェンタニル貼付剤からモルヒネ注射薬やオキシコドン徐放剤などの報告があるのみである57)

フェントス®によるフェンタニル血清濃度に関しては,臨床試験の結果から0.5 mgに基準化した血清濃度は185.5±129.9 pg/mlとされ,個体差が大きく最小は30.9 pg/ml,最大は1,220.3 pg/mlと報告されている8)

フェンタニル血清濃度は投与量に比例した増加が得られるとされ,フェントス®32 mg貼付により定常状態で理論値では11.8±8.31 ng/mlと思われるが,本症例での実測値は43.4 ng/mlであり大きな乖離があったが,その後は大きく理論値からは外れていない.理論上は32 mgの使用では,最大78 ng/mlとなる可能性があるが,その原因として,経皮吸収という薬剤特性により,そもそもの個体差,発熱時や貼付のままの入浴などの使用条件によって血中濃度に大きく変動があること9)が挙げられる.患者に確認すると,疼痛を強く感じるときに枚数の自己調整を行っており,8 mg製剤を複数枚追加していた可能性が考えられた.実際,入院管理下で24 mg貼付へと減量後の血清濃度は8.9,7.5 ng/mlと理論値と大きな乖離はなかった.さらに,8 mg貼付時も3.5 ng/mlと矛盾しない数値となっていた.

本症例の疼痛の原因を考察する.患者は若年時よりの全身痛に悩まされ,遺伝子検索を経て家族性地中海熱の疑いが強いと診断された.家族性地中海熱は,炎症経路の一つであるインフラマソームの働きを抑えるパイリンの異常で発症する自己炎症性疾患で,特徴は,反復性発作性の発熱や随伴症状として漿膜炎による激しい疼痛とされる2).幼少期よりの心身症の診断や胸膜炎,若年性関節リウマチなどは,繰り返す漿膜等の炎症性疾患による侵害受容性疼痛の原因であった可能性もある.また脊椎アライメントの異常,変形性股関節症による神経障害性疼痛,体性痛もあり,これらの要素が複合された結果の疼痛と推察されるが,評価が不十分であったため,漫然とオピオイドが増やされた可能性も考えられた.

フェンタニルからオキシコドンへのスイッチングの換算量は,1日量の50~75%での開始とされている1).しかしながら超高用量のため退薬症候が懸念され,少量からの開始を計画した.具体的には,患者が使用していたフェントス®32 mgおよびトラマドール・アセトアミノフェン合剤8錠/日は,経口モルヒネ換算でそれぞれ960 mg/日,60 mg/日程度で,総量1,020 mg/日であった.フェントス®8 mg分をオキシコドン40 mg/日にスイッチングすると経口モルヒネ換算840 mg/日となる.超高用量であるため慎重を期し,換算量として18%の減量で開始とした.

また,本症例のオピオイドスイッチングが減量に成功した原因を考察する.第一に,オピオイド鎮痛薬の鎮痛耐性は,オピオイド受容体の細胞内陥入/移行に起因するとされ,オキシコドンは早期に細胞膜上に再浮上するが,フェンタニルは再浮上しないとの報告もあり10),フェンタニルの鎮痛耐性の可能性があること,第二に,オキシコドンの神経障害性疼痛に対する効果は,フェンタニルやモルヒネに比して高いとする報告もあり11),本症例の疼痛の要因が,神経障害性疼痛の要素が強かった可能性があることなどが考えられる.

フェンタニルは,鎮痛域から呼吸抑制域までの安全域が狭いとされており12),特に高用量の使用では注意が必要となる.フェンタニルの血清濃度の結果判明には,1~2週間を要することから,スイッチングの経過に血清濃度を測定することは,リアルタイムでの実用性は低い.しかし,最初の外来での異常高値を踏まえての入院管理中やその後の外来での血清濃度は理論値と大きく乖離する結果とはならず,血清濃度から適正使用が類推され,スイッチングにおける安全な減量換算の参考にできたことには意義があるものと思われた.

今後に向けた反省点としては,貼付剤は患者の内服負担を減らせるメリットから,医療側としても安易に処方してしまう傾向にあること,また,外来管理では実際の貼付状況を十分に確認することは困難であり,想定以上の血清濃度になりうることなどが挙げられた.本症例を経験し,特にポリファーマシーや高用量フェンタニル貼付剤使用患者には,訪問薬剤師との連携を図ることで使用障害を防ぐことも必要と思われた.

慢性疼痛治療の目標は,完全な除痛でなくADLやQOLの改善が目的である.患者とのラポールも不可欠な要素であるため,今後も患者との対話を十分に行いつつ,安全に配慮した慢性疼痛治療を継続していくべきであると,この症例を通じて痛感した.

IV 結語

長期間高用量のフェンタニル貼付剤を使用していた慢性疼痛患者に対して,血清濃度測定を行いながら,オキシコドンへのオピオイドスイッチングを行い,オピオイド換算量として1/3量に減量でき,かつ疼痛程度も軽減した症例を経験した.

本稿の要旨は,日本麻酔科学会第71回学術集会(2024年6月,神戸)において発表した.

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