2025 Volume 32 Issue 3 Pages 67-74
会 期:2024年11月3日(日)
会 場:山形大学医学部交流会館
会 長:外山裕章(山形大学医学部麻酔科学講座主任教授)
瀬戸真由美
美容専門家
【背景】疼痛患者が抱えている心身や社会的な苦痛で自分らしさを失い人生の質や生活の質が低下する可能性がある.
【目的】セルフケアを日常的に行うことで痛みの苦痛を和らげ,希望を見いだし生活の質を高めてもらうこと.
【方法】宮城県内の5病院にてアピアランスケアで患者に介入している.疼痛患者に対しての介入時間は一人約60分.患者の同意を得てからパーソナルスペースに入り込み,痛みの部位とその周りを衣服の上からもしくは保湿剤を用いて肌に直接触れて苦痛を与えないように手を当て,患者が心地よさを感じリラックスできる手技や強弱やリズムを一緒に探し出し患者や家族にセルフケアのトレーニングを行う.継続できるように簡単な行程を短時間でできることを提案する.
【結果】痛みに対して自身でもできることがあると再認識しポジティブな思考になり,不安の軽減や活動性も上がったケースもある.また,継続的な家族の愛護的ケアで患者はよりリラックスし気分が良くなり一時でも痛みから解放されることもある.
【考察】痛む部位に手を当て,「痛みに共感」することは安心と安楽を与え表情も穏やかになりプラスの感情やプラスの喜びを見いだすこともできると考える.
黒木雅大*1 飯澤和恵*2 黒田美聡*1 外山裕章*1
*1山形大学医学部附属病院麻酔科,*2山形大学医学部附属病院疼痛緩和内科
【背景】免疫抑制患者は帯状疱疹(HZ)の発症・重症化のリスクが高く,心血管疾患や脳卒中のリスクも高いと指摘されている.今回,腎移植後に深部静脈血栓症/肺血栓塞栓症(DVT/PE)を併発し,HZ痛治療に難渋した症例を報告する.
【症例】50代女性.生体腎移植約3週間後に左上肢の疼痛が出現.1週間後に激痛で救急外来受診し,HZおよびDVT/PEを指摘された.アシクロビル点滴と抗凝固療法を開始されたがHZは汎発化し,頻回の発作痛を伴う激痛で眠れない状態が続き,発症25日目に疼痛緩和内科紹介となった.プレガバリン,アセトアミノフェンに加え,モルヒネ20 mg/日の持続静注とアミトリプチリン10 mg内服を開始したが激痛は治まらなかった.発症35日目にリドカイン100 mgを点滴静注したところ,急速に痛みは軽減,発作痛は短時間で間隔も延長した.リドカイン静注を1日2回,7日間継続したところ,30 mg/日のモルヒネは減量中止となった.リドカインによるせん妄や意識障害,不整脈等の副作用は認めなかった.
【結語】通常の薬物療法が無効で神経ブロックを適用できなかった腎移植後のHZに対してリドカインが有効であった.
2. 群発頭痛様症状を生じた頸神経領域帯状疱疹の1例加藤幸恵 青山泰樹 青山有佳 木村 丘 松井秀明
岩手県立胆沢病院
皮疹出現前で痛み症状のみの帯状疱疹は確定診断ができない.今回,自律神経症状を伴う強い頭痛を生じ,群発頭痛と鑑別を要した頸神経領域帯状疱疹症例を経験した.
【症例】70代男性,10年以上前群発頭痛と診断された既往がある.
【経過】数日前に発症した左側頭部痛が増悪し救急外来受診時左流涙と左鼻閉が確認された.痛み部位に帯状疱疹を疑わせる皮疹はなかった.群発頭痛と診断され,高濃度酸素吸入とスマトリプタン3 mg皮下注射の効果はなかった.翌日再受診の時点では痛みで絶叫していた.インドメタシン50 mg座薬,ペンタゾシン15 mg筋注,リドカイン70 mg静注で痛みは軽快した.ペア血清で水痘帯状ヘルペス抗体価の上昇と後に出現した左後頭部~後頸部の皮疹からC2,3帯状疱疹と診断した.
【考察】本症例の自律神経症状は,頸神経領域帯状疱疹により三叉神経頸髄複合体が活性化し,三叉神経−自律神経反射を惹起したことで生じたと推察した.疼痛治療薬に対する反応は鑑別に有用だった.自律神経症状を伴う頭痛であっても,通常の群発頭痛治療の効果がない場合には頭頸部帯状疱疹も考慮すべきである.
3. 難治性帯状疱疹後神経痛の1例鈴木陽子 米沢瑞穂 藤原航太 伊達 久
仙台ペインクリニック
【はじめに】従来より痛みと認知機能の低下には関係があることが知られており,慢性的な痛みは認知機能のリスクを高めると考えられている.
【症例】82歳女性.
【現病歴】X−8年4月左大腿前面に発疹が出現したため近医を受診し,抗ウイルス薬が処方された.痛みが改善せずに5月当院へ紹介された.
【経過】腰部硬膜外ブロックを数回施行するもあまり改善なく,持続硬膜外カテーテルを留置した.痛みは幾分改善傾向であったが,不穏行動が目立ったため留置から13日目に退院となった.1カ月後痛みの変化なく,左L2,L3神経根パルス療法を施行するも効果は一時的であった.薬物療法はほとんど効果なし,もしくは副作用のため中止された.リハビリテーション後の数時間のみ痛みが緩和されるが,自身での継続は難しくセルフコントロールを図れていない.認知機能は徐々に低下してきており,外来では毎回同じ会話が繰り広げられ,内服薬の変更や神経ブロック,認知行動療法など新たな治療法を提案するも拒否されている.
【結語】認知機能低下のある帯状疱疹後神経痛に難渋しており,解決策を模索している.諸先生方に対応策をご教示願いたい.
4. 左肩関節周囲炎の疼痛に肩甲上神経ブロックと腕神経叢ブロック鎖骨下法が著効した1例小松大芽
本荘第一病院麻酔科
【症例】73歳女性.身長154 cm.体重66 kg.
【現病歴】X−1年5月より左肩関節痛が出現.整形外科で左肩関節ヒアルロン酸注射,ロキソプロフェン・アセトアミノフェン内服等するも,左手指のしびれもあり,23時ごろに疼痛で目覚める状態となり当科紹介.
【既往歴】腰椎すべり症;脊椎後方固定.両膝OA;右TKA,右THA.
【初診時所見】左肩周囲の圧痛と左第2~5指のしびれあり.
【経過】初診時,超音波下左1.肩甲上2.腋窩神経ブロック3.肩甲骨周囲・後頸部TPIを1%メピバカイン計10 mlで施行.夜間就眠時NRS 10/10から処置直後NRS 1/10に軽減.内服薬継続し,3週後から左1.後頸部TPI 2.肩甲上神経3.腋窩神経ブロック4.腕神経叢ブロック(鎖骨下法)を1%メピバカイン計10 mlで施行し,1~2週に1回の処置で左上腕挙上に難渋するときもあったが,本処置3カ月半後には左上肢を約120°程度まで挙上しても左上肢の疼痛・しびれが出現せず,左第2~5指のしびれも改善し,現在治療継続中である.
【考察・結語】本ブロックにて左肩関節周囲炎の疼痛が著明に改善したと思われる症例を経験したので今回報告する.
河野友美 鈴木皐平 小橋芳紀 伊藤裕之 伊達 久
仙台ペインクリニック
【背景】頸椎症性筋萎縮症は頸椎の退行性変化によって生じる神経根前根障害で,感覚障害を認めない一方,神経根支配領域の麻痺と筋委縮をきたす疾患である.保存的加療を行った報告は少ないため治療経験を報告する.
【症例】60歳台,男性,左後頸部と左上腕の痛みが出現した.初診時は巧緻運動障害や感覚障害,筋力低下は認めなかった.頸椎MRIでC3/4~C6/7左椎間孔狭窄,C5/6椎間板膨隆とModic変化があり,左頸椎症性神経根症の診断で星状神経節ブロックや腕神経叢ブロックを施行した.治療開始6週後に突如痛みは消失した一方,左上肢の麻痺が出現した.左肩関節MRI施行するも腱板損傷など筋力低下をきたす所見はなかったため,頸椎症性筋萎縮症と判断した.C5およびC6支配領域の麻痺があったが進行性ではなく,整形外科コンサルトの上,手術療法は選択しないという方針となった.当院で理学療法,星状神経節ブロックを施行し,筋力の回復が得られている.
【考察】頸椎症性筋萎縮症はC5やC6神経支配領域の麻痺が多く,一見腱板断裂を思わせる.頸椎の不安定性が予測因子となりうるが本症例ではみられなかった.
2. 第一肋骨頸アプローチ星状神経節ブロックを施行した4症例の臨床効果と造影所見間島卓哉*1 矢吹志津葉*1 新堀博展*2 臼井要介*3 山内正憲*1
*1東北大学病院麻酔科,*2医療法人緩和会横浜クリニック,*3静岡リハビリペインクリニック
【背景】星状神経節は第一肋骨頸の上前方に位置する.従来の星状神経節ブロック(C6-SGB)はC6のレベルで頸長筋内に薬液を投与するが,近年第一肋骨頸を目印とした新しい星状神経節ブロックの手技(NR1-SGB)が提唱されている.
【方法】当院で施行したNR1-SGBのうち,4症例で造影透視画像を確認しており,臨床効果と造影剤の広がりを評価した.エコー下に第一肋骨頸を同定したのち,平行法でC8神経根と椎骨動脈の間に針を進めて薬液を投与した.イオヘキソール3 mlを注入して広がりを確認し,局所麻酔薬を3~4 ml投与した.
【結果】症例内訳は非定型顔面痛2例,幻肢痛1例,放射線誘発神経障害1例であった.全例で症状改善を認めた.ホルネル徴候は全例で確認できた.上肢温上昇は幻肢痛を除き全例で確認できた.透視ではC7~T2を含む造影剤の広がりを全例で確認できた.
【考察】C6-SGBは薬液の尾側の広がりが安定せず上肢交感神経遮断が不十分になる可能性がある.一方でNR1-SGBは少量の薬液でT2まで広がり,確実な遮断効果が示唆された.
【結語】NR1-SGBは上肢交感神経遮断の確実性が高く,有用な手技である.
3. スーパーライザーTM EX/PXによる星状神経節近傍照射の自律神経応答の比較検討小橋芳紀*1 伊達 久*1 大友 篤*2 伊藤裕之*1 末永佑太*1 鈴木陽子*1 河野友美*1
*1仙台ペインクリニック麻酔科,*2仙台ペインクリニックリハビリテーション科
【緒言】直線偏光近赤外線の星状神経節近傍照射(SGL)は,交感神経の抑制や副交感神経の活性化に寄与する可能性が報告されているが,異なる治療機器間での自律神経機能への影響を比較した報告はない.本研究では,新機種Superlizer EXTMと従来機PXTMのSGLによる自律神経応答の変化を検討した.
【方法】健康な医療従事者13名に対し,TAS9VIEWTMで心拍拍動(HRV)を測定し自律神経機能を評価した.安静時測定後,EXまたはPXで左側星状神経節近傍を10分間照射し,治療直後のHRVを測定し,治療前後で比較した.
【結果】EX治療群でのみ,交感神経活動性の指標であるLn(LF/HF)が治療前1.04±0.24から治療後0.94±0.19へ有意に低下(p=0.049)した.2群間でLn(LF/HF)変化率に有意差はみられなかったが,EX群でより交感神経抑制する傾向がみられた.
【考察】従来器の1,000 nm以上の波長帯を除き,生体深達性に優れる限定された波長帯のEXは,明確な交感神経ブロック効果が示唆された.しかし,プラセボ効果除外や盲検化の不十分さが限界であり,今後の検証が必要である.
4. 難治性持続性心室頻拍に対して星状神経節ブロック(SGB)が有効であった1症例今野俊宏*1 山本夏子*1 根本 晃*1 木村 哲*2 新山幸俊*1
*1秋田大学医学部附属病院麻酔科,*2秋田大学医学部附属病院医療安全管理部
SGBは抗不整脈薬で制御できない心室細動/無脈性心室頻拍に対する手段として日本循環器学会不整脈薬物治療ガイドラインに記載がある.今回われわれは難治性持続性心室頻拍を呈する71歳男性に対し予防目的にSGBを施行し,良好な結果が得られたので報告する.患者は拡張型心筋症による心不全と持続性心室頻拍のため両室ペーシング機能付き植え込み型除細動器を植え込まれていた.複数回のカテーテルアブレーションと高用量の抗不整脈薬の投与にもかかわらず,約1回/日程度の除細動器の作動を認めたため,胸部交感神経節切除術が検討された.しかし,低心機能のため耐術能がないと判断され,SGBを行うために当科へ紹介された.1%カルボカインによるSGBを連日左右に施行後,3週間にわたり除細動器の作動を認めなかったため一定の有効性があると判断し,SGBを継続する方針となった.SGB施行開始後3カ月経過した現在,抗不整脈薬と2週間ごとの左右交互のSGBにより除細動器の作動は認めておらず,本症例に対するSGBの有効性が示された.SGBを左単独あるいは両側施行するか,施行頻度・期間については一定の見解がなく,今後さらなる検討が必要である.
田中 荘 伊達 久 伊藤裕之 鈴木陽子 末永佑太 河野友美
仙台ペインクリニック
【はじめに】経皮的椎間板髄核摘出術(PD)は腰椎椎間板ヘルニアに対する低侵襲治療として近年多く行われているが,術後合併症はまれとされる.今回,術後に下肢痛が増悪した症例を経験したため報告する.
【症例】20代女性.1年前からの腰痛と右下肢外側痛を主訴に当院を受診.腰椎MRIでL4/5に椎間板ヘルニアを認め,外来で腰部硬膜外ブロックと内服治療を開始したが症状の改善は乏しかった.3カ月後に入院し,椎間板造影およびL5神経根パルス高周波を実施したが,痛みが残存したためPD(Disc-FX)を行った.外筒挿入時およびラジオ波焼灼中に右下肢外側への放散痛を訴え,術直後より術前よりも強い右下肢外側痛を認めた.疼痛が強く,入院を延長し連日透視下で腰部硬膜外ブロックを行ったところ症状は軽快し1週間後に退院となった.退院後も腰部硬膜外ブロックを継続し,右下腿外側痛は改善傾向にある.
【結語】術中の操作で外筒が線維輪に対してやや浅く留置されたことでデバイスの操作時に神経根が刺激され,神経根周囲に炎症性浮腫が生じたことが原因と考えられた.外筒を留置する際は線維輪を確実に貫通して留置することが望ましいと思われる.
2. 脱出型腰椎椎間板ヘルニアに対するL'DISQ手術症例の後方視的検討伊藤裕之 伊達 久 末永佑太 鈴木陽子 河野友美 田中 荘
仙台ペインクリニック
【緒言】L'DISQによる経皮的髄核摘出術(PN)は腰椎椎間板ヘルニア(LDH)に対する低侵襲手術法の一つである.脱出型ヘルニアはヘルニア塊が大きく治療に難渋する.われわれはどのような症例にL'DISQが有効だったかについて検討した.
【方法】脱出型ヘルニアに対してL'DISQを用いてPNを行った症例(施行6カ月後までフォロー)を後方視的に検討した.治療有効率(VAS改善率≧50%),術前の椎間板造影所見と再現痛の有無,術前後のインターベンショナル治療の有無等を検討した.
【結果】19症例が抽出された.治療有効群が9例,無効群が10例(うち整形外科手術5例)であった.VAS値は有効群で74±13から24±20,無効群で78±24から68±9に低下した.椎間板造影時に注入圧が高かったのは各群56%,30%,椎間板造影時の再現痛ありは各群78%,80%であった.インターベンショナル治療を要したのは各群11%,50%であった.
【考察】有効群で椎間板注入圧が高い症例が多い傾向だった.一方,無効群ではその他の治療を要することも多く,PNの適応を決める際には総合的な判断が必要であると考えられた.
3. 穿刺困難な神経根ブロックに3D-CTによる事前シミュレーションが有効であった2例石川理恵 箕輪麻友美 石川有平 窪田 武
八戸平和病院
【はじめに】透視下神経根ブロック穿刺困難症例に3D-CTが有効であった症例を報告する.
【症例1】82歳女性.腰部脊柱管狭窄症でL4/5レベルに高度狭窄を認めた.腰椎は,骨棘形成・癒合による変形と側弯を認めた.右L5症状に対し右L5神経根パルス高周波法を予定した.Cアームを用い,腹臥位,斜位法で施行した.穿刺角度や位置を調整して何度も試みたが穿刺困難であった.患者の強い希望で,再度予定した.施行前に3D-CT作成による事前シミュレーションを行った.当日はシミュレーション位置に透視を合わせて穿刺部位を決定し,成功した.
【症例2】寛骨臼回転骨切り術(RAO)の既往がある56歳女性.L5/S椎間板ヘルニアに伴う左S1症状に対して,左S1神経根パルス高周波法を予定した.腹臥位で,前後仙骨孔が重なる位置に針先を進めようと試みたが,仙骨孔が不明瞭で穿刺に時間を要した.RAO術後で骨盤に左右差があり,腰仙角の狭小化が原因と考えた.仙骨の3D-CTを作成し,2回目はスムーズに施行できた.
【結語】穿刺困難な神経ブロックに3D-CTによる事前シミュレーションが有用であった.
4. 14年来の慢性会陰部痛患者に神経破壊薬を用いた上下腹神経ブロックを行うべきか山城 晃 北村知子
JCHO仙台病院
【症例】50代,男性,職業農業.主訴,会陰部痛.
【現病歴・経過】X−14年に痔ろう手術を施行.その後より会陰部痛出現し,熊本を含め多くの医療機関を受診.各種治療は効果を認めるものの一過性であった.X−4年,当院整形外科を紹介受診.仙腸関節ブロック等も無効であり当科紹介となった.初診時VAS 99 mm.会陰部,左仙腸関節領域の痛み以外に他の所見は認めなかった.不対神経ブロックを施行したところ効果は一時的であったが患者の満足度は高かった.その後1~3カ月間隔で不対神経ブロックを行った.その間,他院へ受診することもなく,痛みはあるものの生活に支障はなかった.X年6月,患者が強く希望してきたため,上下腹神経ブロックを局所麻酔薬で行った.VAS 40 mm台まで改善するも,2カ月後の再診時には再燃していた.現在患者は神経破壊薬による上下腹神経ブロックを希望している.
【考察】症例は痔ろう手術後の会陰部痛を14年も抱えており,痛みへの執着が強かった.局所麻酔薬による上下腹神経ブロックは一時的に効果があったものの,今後神経破壊薬を使用するべきか判断に悩む症例を経験したので報告する.
5. 間欠跛行は腰部脊柱管狭窄症だけではなかった寺田宏達
秋桜ペインクリニック
間欠跛行を主訴として来院し腰椎MRI検査で腹部大動脈解離を認めた症例を経験した.
【症例】70歳男性.
【主訴】間欠跛行.
【現病歴】4カ月前から立位歩行時に両下腿後面の痛みとしびれが生じ休まなければいけない状態が続いている.腰痛は訴えない.安静時痛なし.下肢筋力低下なし.下肢の冷感なし.足背動脈の触知は不明瞭であった.
【経過】腰部脊柱管狭窄症の可能性を考えて腰椎MRI検査を施行した.脊柱管狭窄や神経圧迫所見は認めなかった.腹部大動脈の解離所見があり,左総腸骨動脈の血流障害の所見を認めた.心臓血管外科へ紹介となった.
【考察および結語】下肢痛・しびれがあり歩行で増悪する間欠跛行を示すときは第一に腰部脊柱管狭窄症を想定する.しかし明らかな腰痛がなかったり急性の経過でなくとも腹部大動脈解離による下肢の血流障害により間欠跛行を示す場合があることを再認識させられた.
泉山仁志 及川 孔 白鳥海知 下村 祥 齋藤秀悠 山内正憲
東北大学病院麻酔科
【はじめに】硬膜外自家血療法(EBP)は特発性低髄液圧症候群(SIH)や硬膜穿刺後頭痛(PDPH)に対する効果的な治療法の一つである.漏出部位への血液投与を確実に行うため,造影剤を使用して透視下に行うこともある.われわれは造影剤混合血が凝固する適切な濃度を比較検討したので報告する.発表にあたり当院倫理委員会の承認および全対象患者からの同意を得た.
【方法】観血的動脈圧測定を行う全身麻酔症例のうち,SIHの好発年齢である20歳から60歳の症例を対象とした.動脈圧ラインより採取した血液と造影剤イオヘキソール240をそれぞれ1:0,2:1,1:1,1:2の比率で検体作成した.各検体を血液凝固分析装置SonoclotとTEG6sを用いて比較検討を行った.
【結果】対象症例3例.どの検体も全血と比較してSonoclotではclot rateが有意に短縮,TEG6sではCK-R,CKH-Rが有意に延長し,適切な凝固が得られなかった(いずれもp<0.05).
【結語】EBPにおいて血液凝固能を保つためには造影剤と混合する血液の割合をさらに多くする必要があると示唆された.
2. 硬膜外ブロックとオピオイド鎮痛が人工股関節置換術後の回復へ与える影響の検討古山彩郁*1 鈴木 潤*1 高野 淳*2 及川 孔*1 下村 祥*1 矢吹志津葉*1 山内正憲*1
*1東北大学病院麻酔科,*2東北大学病院看護部
【はじめに】epidural analgesia(EA)は人工股関節置換術後の回復を遅らせるとされる.同手術の術後鎮痛にEAまたはopioid analgesia(OA)を用いた患者の術後回復の程度を比較検討した.
【方法】2023年7月から2024年2月までの間に当院で人工股関節置換術を受けた患者のうち,EAまたはOAによる鎮痛を受けた患者(それぞれEA群,OA群)の術後在院日数を調べた.また,CT画像から手術側L4レベルの大腰筋面積を測定し,術後回復の指標として術後6カ月における面積増加率を算出し,これらを2群間で比較検討した.統計解析にはMann-Whitney U testを用いた.
【結果】EA群17例,OA群14例を解析対象とした.術後在院日数の中央値はOA群で短い傾向があったが(18日vs. 20日,p=0.35),大腰筋面積増加率は2群間で差がなかった(中央値:EA群5.3% vs. OA群6.3%,p=0.98).
【結語】人工股関節置換術におけるOAは,EAに対して術後在院日数を短縮させる可能性があるが,術後6カ月後の回復へ与える影響は同等である.
3. 人工膝関節置換術後の在院日数に対するAPSの効果の検討鈴木 潤*1 高野 淳*2 及川 孔*1 下村 祥*1 矢吹志津葉*1 山内正憲*1
*1東北大学病院麻酔科,*2東北大学病院看護部
【はじめに】acute pain service(APS)による介入は術後在院日数を短縮させる可能性がある.当院では,整形外科術後症例へのAPSの介入開始を契機に,人工膝関節置換術における術後鎮痛法を硬膜外ブロックからフェンタニルの患者自己調節鎮痛法を主体とした多角的鎮痛法に変更した.APSが同手術の術後在院日数を短縮させたかどうかを検討した.
【方法】2023年1月から2024年7月までに当院で人工膝関節置換術を受けた患者を対象に,APS開始前後で術後在院日数を収集し比較した.統計解析はMann-Whitney U testを用いた.データは中央値[最小値,最大値]で表記した.
【結果】対象期間に人工膝関節置換術を受けた患者はAPS開始前61例,APS開始後63例であった.術後在院日数は,APS開始前は22[14,84]日であったのに対して,APS開始後は21[10,78]日であった(p=0.232).
【結語】人工膝関節置換術に対するAPSの介入は術後在院日数を短縮させなかった.
末永佑太 伊達 久 伊藤裕之 鈴木陽子 河野友美 田中 荘
仙台ペインクリニック
【症例】44歳男性.主訴:右足内果から足底の痛みとしびれ感.現病歴:X年10月に右足関節ガングリオンに対してガングリオン摘出術・足根管開放術,X+1年9月に右足関節ガングリオン再発に対して再手術が施行された.術後に創部の痛み,足底のしびれ感が出現しX+1年11月に当科紹介となった.右足内側術創部にアロディニア,内側足底神経領域にしびれ感がみられた.エコーガイド下に10 Hz,0.2 mAの電気刺激で足底への放散痛一致を確認し,後脛骨神経PRF 42℃ 300秒間を施行した.施行後に足底のしびれ感が改善し,職務復帰が可能となった.X+2年2月に術創部のアロディニアの増悪がみられた.エコーガイド下に10 Hz,0.2 mAの電気刺激で術創部への放散痛一致を確認し,後脛骨神経PRF 42℃ 180秒間を施行した.翌日には術創部のアロディニアが消失し退院した.
【考察】後脛骨神経鞘内で穿刺針の非絶縁部位置を調整し電気刺激により刺激部位を確認することで目的の分枝にPRFを施行することができた.
【まとめ】遷延性術後痛に対して後脛骨神経PRFが有用である症例を経験した.
2. 虚血肢に続発した筋短縮に対して神経ブロック療法とリハビリの併用が有効であった1例北村知子 山城 晃
JCHO仙台病院
【症例】80歳代男性.
【既往歴】狭心症,透析.
【現病歴】X年Y月に左膝窩動脈閉塞に対し動脈バイパス術が施行された.術後約2カ月経過しても歩行時に左腓腹部に疼痛を訴え,当院整形外科で腓腹筋短縮の状態であり,リハビリを行う以外の治療はないと診断を受けた.痛みのためリハビリが進まず,退院困難の状態が続き当科紹介となった.
【初診時所見】左足を接地荷重した際に腓腹部の痛みを訴えた.エコーにて左腓腹筋中央にスリット状の高エコー像を認めた.
【経過】腓腹筋の筋膜は非常に硬く筋膜リリースは不可能だった.筋緊張を解除する目的に膝窩下坐骨神経ブロックを行ったところ,足底での接地が可能となり荷重も増加した.坐骨神経ブロックを2回施行した時点で,本人が継続を希望せずブロック療法は終了となった.しかし運動機能は維持され2週間後に退院となった.
【考察】筋壊死に伴う筋短縮の状態が継続していても,筋緊張と痛みの悪循環を神経ブロックで抑制したことがリハビリを容易にしたと考えられた.
【結語】虚血による筋壊死から腓腹筋の短縮をきたした症例を経験した.神経ブロックをリハビリに併用することによって入院期間の短縮に寄与することができた.
3. 30年経過した左下肢幻肢痛に脊髄刺激療法が有効であった1症例佐々木美圭*1,2 伊達 久*1 大友 篤*1 新里勇人*1 伊藤裕之*1
*1仙台ペインクリニック,*2大分大学医学部麻酔科学講座
症例は70代男性.X−34年前に左大腿部悪性腫瘍で左股関節離断術施行,X−30年後に幻肢痛が出現した.X−9年の退職後より痛みが増悪しリン酸コデイン,仙骨硬膜外ブロック施行するが夜間痛により不眠が持続し,X年Y月に当院紹介受診となった.幻肢の左足底部に電撃痛があり,VAS 100 mm,幻肢は下肢屈曲位の幻肢感覚で,動かすことはできなかった.腰部硬膜外ブロックでは鎮痛効果が得られた.リハビリテーションで鏡療法や患部外の運動療法を開始し,Y+6月に幻肢の運動感覚が得られてきたとこで左L5,S1神経根パルス高周波法を行った.疼痛改善が得られたが,Y+8月に痛みが再燃したため,Y+12月に脊髄刺激療法(SCS)を行った.トライアル後より,幻肢痛は減弱し夜間痛による不眠が改善されたため,植え込み術を施行し,退院となった.今回,30年前に発症した幻肢痛に対してSCSで効果が得られた症例を経験した.痛みが長期化し治療効果が得られにくいことが懸念されたが,リハビリテーションとSCS施行をしたことで治療効果が高まったと考えられた.
4. 幻肢の強いしびれ症状に,フェンタニルが有効だった症例石堂瑛美 大石理江子 中野裕子 小原伸樹 佐藤 薫 黒澤 伸
福島県立医科大学
【はじめに】四肢切断後の患者は失った四肢が存在するような錯覚や失った四肢が存在していた空間に温冷感やしびれ感などの感覚を知覚し(幻肢),約半数の患者で,その部位に痛みを感じる(幻肢痛).今回,幻肢の痛みというより,しびれ感が強く,治療に難渋したが,フェンタニルを使用してしびれ症状が軽減した症例を経験したので報告する.
【症例】18歳男性.左大腿骨骨肉腫で股関節離断術後,約2週間後に幻肢のしびれ症状がnumerical rating scale(NRS)8~9/10まで増強した.アセトアミノフェン1,500 mg/日,デュロキセチン60 mg/日,プレガバリン300 mg/日,トラマドール75 mg/日では軽減せず,当科に紹介となった.術後鎮痛にフェンタニルが持続投与されていたときは,幻肢のしびれもなかったことから,フェントステープ®0.3 mg/日を追加し,幻肢のしびれ症状はNRS 1~2/10に軽減した.その3週間後にフェントステープ®は中止したが,症状の増悪はなかった.
【結語】幻肢のしびれに対する治療方法の報告はないが,フェントステープ®が著効した症例を経験した.
窪田 武 箕輪麻友美 石川理恵 石川有平
八戸平和病院麻酔科
69歳女性.数カ月前から舌全体の痛みが出現し近医歯科口腔外科を受診したが異常を指摘されなかった.当科初診時,痛みは「鉛を乗せられたような痛みで全体的にじくじくする感じ」と表現され,また舌に間歇的に硬結ができることを訴えていた.症状には日内変動があり,午後3時ごろに痛みが出現し,徐々に増強.夕食時には食事がとれなくなるくらい痛みが増強する(NRS 8/10)が,夜間就眠中は痛みが消失するという一定のパターンを繰り返していた.既往歴に不安障害,自律神経失調症があり,50歳代から近医精神科へ通院.投薬内容はエチゾラム2 mg(眠前),ブロチゾラム0.25 mg(眠前),トフィゾパム150 mg/日等であった.痛みの日内変動がエチゾラムの血中濃度の低下と一致していることに着目し,ベンゾジアゼピン離脱症状を疑って,ジアゼパム4 mgを昼食後に処方したところ,7日後にはpain score 6に改善,ジアゼパム6 mgに増量して,14日後にはpain score 4に改善した.ベンゾジアゼピン長期服用者ではいろいろな不調が出現することがあるため,離脱症状を念頭に置くことも大切である.
2. 運動恐怖が強い椎間板ヘルニア患者に対する認知行動療法の有効性新里勇人 米沢瑞穂 藤原航太 佐々木美圭 伊藤裕之 伊達 久
仙台ペインクリニック
【症例】71歳男性.10年前から右腰臀部に慢性的な痛みがあり,X−20日から右臀部痛と右下肢痛が増悪したためX日に当院を受診した.MRIでL4/5,L5/Sに椎間板ヘルニアを認め,右L5,S1神経根症と診断した.外来での硬膜外ブロックでは症状の改善が限定的であり,X+13日に入院加療を開始した.硬膜外カテーテル留置,椎間板造影,神経根パルス高周波法を実施し,疼痛は軽減したものの退院への不安が強かった.入院前に痛みと下肢脱力から動けなくなった経験による運動恐怖が強かったため,3週間の認知行動療法(CBT)を実施した.病態の理解を促す指導やペーシングを中心としたリハビリ指導,心理士との面談により,運動恐怖が徐々に改善し,X+43日に退院した.外来フォローを続けているが,運動恐怖は再発せず良好に経過している.
【結語】運動恐怖は痛みの悪循環を促進し,症状の慢性化を引き起こす要因として知られている.本症例では腰痛治療後も運動恐怖が強く,慢性痛に至る可能性が考えられたため,早期にCBTを導入し症状の慢性化を防ぐことができた.CBTは運動恐怖を抱える患者に対して有効な可能性がある.
3. 生活環境の構築により改善した慢性疼痛患者の1例神長彩音 大畑光彦 栗原寛人 高橋裕也 宮田美智子 畠山知規 水間謙三 鈴木健二
岩手医科大学附属病院麻酔学講座
左膝の外傷から始まり,右膝,右鼠径部・臀部,右側腹部と約10年にわたり痛みが移動した慢性疼痛症例を報告する.
【症例】40代女性,身長158 cm,体重50 kg,身体的疾患の合併なし.
【現病歴】30歳ごろ階段から転落,近医整形外科で膝手術など数年加療された後当院整形外科紹介,手術適応なしの判断で当科紹介.
【経過】初診時左膝痛が主で,右膝痛は軽度であった.オピオイド・SNRIなどの処方,硬膜外ブロック施行も効果乏しく,脊髄刺激療法開始.1年ほどで左膝の痛みは減弱,右膝の痛みが増強,その後,痛みは右鼠径部・臀部に移動.画像検査では所見なく,受診回数も増加したため入院とし,持続硬膜外ブロック・心理面接・リハビリテーションを開始,2カ月経過も改善なし.現状を受け入れた今後の生活指導に切り替え,環境を整えるためソーシャルワーカーに介入をお願いした.家族親族へ病状説明を行い退院後の生活への協力を要請した.退院後,痛み残存も増強はなく前向きな発言があり就職を希望されるようになった.
【考察】鎮痛手段の反応に乏しく,器質的要因以外の影響が大きいと考えた場合,心理面接・生活指導・生活環境の再考を進めることが肝要と思われた.
4. 頻回の吸引を希望した異なる病態による呼吸苦の気管切開後甲状腺未分化がんの2症例袖山直也*1 安達厚子*1 山内正憲*2
*1仙台市立病院麻酔科,*2東北大学病院麻酔科
【背景】甲状腺未分化がんは局所浸潤による気道狭窄から気管切開が施行される頻度が高い.呼吸苦に対して気管切開孔から頻回の吸引を希望した異なる病態の在宅best supportive careの2症例を経験したので報告する.
【症例1】60代男性.分泌物によるカニューレ狭窄が数度あった.呼吸苦で入院し,分泌物はないが吸引希望が頻回であった.腫瘍浸潤増大とがん性リンパ管症の診断となり,分泌物による呼吸苦ではないという認識を共有し,モルヒネ持続静注と抗不安薬を開始,吸引希望頻度は減少した.
【症例2】80代男性.発熱と呼吸苦で入院し,分泌物が著明で吸引希望が頻回であった.肺転移,がん性リンパ管症,胸水,嫌気性菌肺炎の診断で,吸引の苦痛緩和に自己による吸引手技獲得と吸引時のモルヒネ静注自己調節鎮痛法を開始し,自分のペースでの吸引が可能となった.
【結語】甲状腺未分化がんは局所浸潤,転移,感染など多様な原因の呼吸苦を生じうるため,病態に合わせたアプローチとその情報共有が重要であることが示された.本報告の一部は日本ペインクリニック学会 第58回学術集会で発表した.
5. 医療従事者における慢性疼痛によるプレゼンティーイズムの現状及川 孔*1 鈴木 潤*1 大久美紀*1,2 及川香織*2 松岡朋美*2 佐藤麻耶*2 竹森加菜子*2
*1東北大学大学院医学系研究科麻酔科学・周術期医学分野,*2東北大学病院看護部
【はじめに】慢性疼痛を抱える労働者の生産時間の喪失コストは,本邦において年間199億ドルにも及ぶとされる.欠勤には至らないものの疾患により生産性が低下した状態をプレゼンティーイズムという.手術部看護師における慢性疼痛によるプレゼンティーイズムを調査した.
【方法】当院手術部看護師を対象に,アンケートを実施した.プレゼンティーイズムの測定にはSPQ(Single-Item Presenteeism Question,東大1項目版)を用いた.
【結果】49人がアンケートに回答した.回答者のSPQプレゼンティーイズムの平均値は19.0%であり,本邦における労働者の平均値15.1%よりも高かった.慢性疼痛の部位は肩痛(肩こり)が最も多く(72.5%),次いで腰痛(70.0%)であった.過去1週間のNRSの平均値は3.2±1.6で,20人(50%)の看護師が,市販または処方された鎮痛薬を使用していた.32.5%の看護師がその痛みのために医療機関を受診したことがあると回答した.
【結語】手術部看護師における慢性疼痛によるプレゼンティーイズムは,労働生産性の喪失に関係している.