2025 Volume 32 Issue 5 Pages 96-105
ミロガバリン(タリージェ®:以下,本剤)の末梢性神経障害性疼痛(PNP)承認時までの臨床試験は,糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)/帯状疱疹後神経痛(PHN)が対象であり,DPNP/PHN以外のPNP(その他PNP)に対する本剤の有効性は検討されていない.その他PNPに対する本剤の有効性の確認を目的とし,実臨床下で本剤を服用したDPNP/PHN群とその他PNP群を対象に,本剤の有効性を群間で評価した多施設共同前向き観察研究を実施した.有効性評価対象のDPNP/PHN群529例,その他PNP群1,029例の観察期間終了時の疼痛VAS 50%レスポンダー率は45.6%,48.7%であり,有意差は認められなかった(オッズ比の中央値[95%信用区間]:1.134[0.919,1.401]).全症例の副作用発現割合は9.08%であり,群間で大きな違いはなく(DPNP/PHN群8.63%,その他PNP群9.29%),主な副作用は本剤の既知事象の浮動性めまいおよび傾眠であった.本調査結果では,本剤はその他PNPに対して有効性が得られていると考えられ,安全性についても新たな懸念は認められなかった.
Peripheral neuropathic pain (PNP) other than diabetic peripheral neuropathic pain (DPNP)/postherpetic neuralgia (PHN) was not the target population in clinical trials of mirogabalin (Tarlige®). To assess the effectiveness of mirogabalin for other types of PNP, this multicenter, prospective, observational study evaluated the effectiveness of mirogabalin in patients with DPNP/PHN (n=529) and in those with other types of PNP (n=1,029) in real-world clinical settings. The rate of patients with ≥50% reduction in pain visual analog scale (VAS) scores was not significantly different between the groups (45.6% in the DPNP/PHN group and 48.7% in the other PNP group; median odds ratio [95% credible interval]: 1.134 [0.919, 1.401]). The overall incidence of adverse drug reactions (ADRs) was 9.08% (DPNP/PHN 8.63%,other PNP 9.29%). The most common ADRs were dizziness and somnolence, which are expected events with mirogabalin. Given these results, mirogabalin seems effective for other types of PNP. And there were no new safety concerns with mirogabalin in this study.
ミロガバリン(タリージェ®:以下,本剤)は電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットリガンドであり1),神経障害性疼痛の第一選択薬として本邦で推奨されている2,3).神経障害性疼痛は,原因となる神経の損傷部位の解剖学的な位置により,末梢性神経障害性疼痛(peripheral neuropathic pain:PNP)と中枢性神経障害性疼痛に分類される4).本剤は,欧州医薬品庁の神経障害性疼痛治療薬の開発ガイドライン5)等を参考とし,PNPのうち,糖尿病性末梢神経障害性疼痛(diabetic peripheral neuropathic pain:DPNP)および帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia:PHN)のそれぞれを対象とした第III相試験で有効性と安全性が確認されたこと6–9)から,「末梢性神経障害性疼痛」を効能または効果として承認され,2019年に上市された.なお,現在では中枢性神経障害性疼痛も含む「神経障害性疼痛」の効能または効果に変更され,臨床で使用されている1).
PNPの疾患は多岐にわたり,本剤のPNPの承認時までの臨床試験で対象としたDPNP,PHNだけではなく,臨床試験で対象としていない神経根障害,外傷性末梢神経損傷後疼痛,術後疼痛,化学療法による神経障害,腫瘍による神経圧迫または浸潤による神経障害などさまざまな領域の疾患が含まれる10).
そのため,DPNP/PHN以外のPNPに対するミロガバリンの有効性を確認することを目的とし,実臨床下で本剤を服用した患者を対象に調査を実施した.
本調査は2019年10月から2023年5月までに本邦の314施設で実施された多施設共同前向き観察研究である.実臨床下で本剤を服用したDPNPおよびPHN群(以下,DPNP/PHN群)とDPNP/PHN以外のPNP群(以下,その他PNP群)について,群間で本剤の有効性を評価した.観察期間は本剤の投与開始から14週間,または投与中止日から1週間後までとした.症例登録とデータ収集は,電子的症例データ収集システム(PostMaNet,富士通Japan株式会社)を使用した.
実臨床下で実施した調査のため,本剤の医療用医薬品の電子化された添付文書(電子添文)で規定する投与方法を実施要綱で提示した.本剤の用法および用量は「通常,成人には,ミロガバリンとして初期用量1回5 mgを1日2回経口投与し,その後1回用量として5 mgずつ1週間以上の間隔をあけて漸増し,1回15 mgを1日2回経口投与する.なお,年齢,症状により1回10 mgから15 mgの範囲で適宜増減し,1日2回投与する」であり,また,用法および用量に関連する注意に腎機能障害患者に投与する場合の用量調節が設定されている1).
本調査は,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律第14条の4第4項(再審査)に基づく本剤の再審査申請の基礎資料とするため,「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令(平成16年12月20日付厚生労働省令第171号)」に基づいて実施され,実施計画書を厚生労働省へ事前に提出した.なお,本省令では参加施設からの倫理的承認は必須とされていないため,各医療機関の治験審査委員会または倫理委員会の審査は各医療機関の規定に従って実施された.本調査では,書面による参加および結果公表に関する同意を患者から取得した.また,本調査はJapan Registry of Clinical Trials(jRCT)に登録(jRCT1080224913)されている.
2. 対象患者登録時点で,以下の選択基準をすべて満たす患者を本調査の対象とした:1)本剤を初めて投与するPNP患者,2)神経障害性疼痛スクリーニング質問票11)にて12点以上の疼痛を示す患者,3)疼痛の発現が3カ月以上前であると判断できる患者,4)本剤投与開始前の疼痛visual analogue scale(VAS)が40 mm以上の患者.また,以下の除外基準に該当した患者は本調査から除外された:1)本剤投与開始前の疼痛VASが90 mmを超える患者,2)PNP以外の痛みを有し,その痛みがPNPの評価に影響を与えると判断された患者,3)重大な精神障害(うつ病,双極性障害,統合失調症等)を有する患者,4)認知症等を有し,質問票や疼痛VASに適切な回答ができない患者.
3. 評価項目有効性に関して,主要評価項目は観察期間終了時の疼痛VAS 50%レスポンダー率,副次評価項目は観察期間終了時の疼痛VAS 30%レスポンダー率,睡眠障害VAS 50%レスポンダー率・30%レスポンダー率とした.50%レスポンダー率は疼痛VAS,睡眠障害VASが本剤投与開始前から50%以上減少した症例の割合,30%レスポンダー率は30%以上減少した症例の割合と定義した.疼痛VAS(100 mmの直線:0 mm痛みがない~100 mm想像できる最大の痛み),睡眠障害VAS(100 mmの直線:0 mm痛みによる睡眠の妨げはない~100 mm痛みにより一睡もできない)は質問票を用いて患者より収集し,投与開始後14週または投与中止日に最も近い評価日を観察期間終了時とした.
安全性は副作用の発現状況を評価した.本剤投与開始後に起こるあらゆる好ましくない,あるいは意図しない事象を有害事象とし,そのうち本剤との因果関係が否定できない事象を副作用とした.有害事象および副作用は,調査担当医師が判定した.
4. 統計解析類薬の使用成績調査における患者集団12)を考慮し,両群の患者が同程度の進捗率で登録されるようにDPNP/PHN群とその他PNP群の登録比を1:2とした.DPNP/PHN群,その他PNP群の疼痛VAS 50%レスポンダー率をそれぞれ20~30%,15~30%と仮定したとき,DPNP/PHN群に対するその他PNP群の対数オッズ比の事後平均が,真の対数オッズ比±ln 0.8の間に含まれる確率が90%以上となるためには1,770例(DPNP/PHN群590例:その他PNP群1,180例)の評価例数が必要となる.脱落例を考慮し1,890例(DPNP/PHN群630例:その他PNP群1,260例)を登録目標に設定した.
解析対象集団は,調査票収集症例のうち重大な実施計画書違反症例等を除いた症例を安全性評価対象症例とし,そのうち有効性評価不能症例(観察期間終了時の疼痛VAS欠損)を除いた症例を有効性評価対象症例とした.
主要評価項目の主解析として,群を説明変数としたベイズ流のロジスティック回帰モデルを用いて,DPNP/PHN群に対するその他PNP群のオッズ比(odds ratio:OR)の事後分布を算出した.ORの事後分布は,モデルの各係数の事前分布に無情報事前分布を仮定し,Markov chain Monte Carlo法を用いて推定した.また,ORの事後分布は平均値,中央値および95%信用区間(credible interval:CrI)(真のオッズ比が95%の確率で含まれる区間)を用いて要約した.95%CrIに,95%信頼区間の考え方を適用し,ORの95%CrIが1を含むか否かで,群間のORが統計的に有意か否かを判断した.その他PNP群の神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版2)に基づく病態分類ごとの有効性を検討するために,その他PNP群の病態分類を層としたロジスティック回帰モデル(階層ベイズモデル)を用いて,DPNP/PHN群に対するその他PNP群の病態分類ごとのORの事後分布を算出した.病態分類間で共通する事前分布には,無情報事前分布を仮定した.交絡因子を調整するために,交絡因子を共変量として加えたモデルを用いた解析も実施した.交絡因子は,性別,年齢,ボディマス指数,疼痛の罹病期間,腎機能障害の程度,本剤投与開始前の疼痛VAS,疼痛に対する前治療薬剤の有無,疼痛に対する投与開始時併用療法の有無とした.副次評価項目に関しても主要評価項目の主解析と同様の解析を実施した.事後解析として,その他PNP群の病態分類ごとの疼痛VAS 30%レスポンダー率について,Clopper-Pearson法による正確な95%信頼区間を算出した.
副作用の集計にはICH国際医薬用語集日本語版(MedDRA/J version 26.1)13)を用いた.統計解析にはSASバージョン9.4(SAS Institute Inc.)を用いた.
登録された2,077例(DPNP/PHN群681例,その他PNP群1,396例)のうち,2,062例(678例,1,384例)の調査票を収集し,重大な実施計画書違反症例等の222例(87例,135例)を除いた1,840例(591例,1,249例)を安全性評価対象症例とし,さらに有効性評価不能症例282例(62例,220例)を除いた1,558例(529例,1,029例)を有効性評価対象症例とした.
有効性評価対象症例の患者背景を表1に示す.DPNP/PHN群,その他PNP群の順に,女性は54.8%,59.3%,65歳以上は73.7%,63.3%,本剤投与開始前の疼痛VASの平均値は66.8 mm,68.3 mmであった.
DPNP/PHN群 N=529 |
その他PNP群 N=1,029 |
全症例 N=1,558 |
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性別 | 男性 | 239(45.2) | 419(40.7) | 658(42.2) |
女性 | 290(54.8) | 610(59.3) | 900(57.8) | |
年齢(歳) | 平均値±標準偏差 | 70.6±13.08 (n=529) |
67.5±14.99 (n=1,029) |
68.6±14.45 (n=1,558) |
15≦,<65 | 139(26.3) | 378(36.7) | 517(33.2) | |
65≦ | 390(73.7) | 651(63.3) | 1,041(66.8) | |
BMI(kg/m2) | <25 | 274(51.8) | 415(40.3) | 689(44.2) |
25≦ | 99(18.7) | 175(17.0) | 274(17.6) | |
不明 | 156(29.5) | 439(42.7) | 595(38.2) | |
平均値±標準偏差 | 23.32±4.073 (n=373) |
23.51±3.939 (n=590) |
23.44±3.991 (n=963) |
|
入院・外来 | 入院 | 11(2.1) | 36(3.5) | 47(3.0) |
外来 | 518(97.9) | 993(96.5) | 1,511(97.0) | |
腎機能障害の程度a) | 正常 | 329(62.2) | 758(73.7) | 1,087(69.8) |
軽度 | 73(13.8) | 130(12.6) | 203(13.0) | |
中等度 | 103(19.5) | 127(12.3) | 230(14.8) | |
重度 | 24(4.5) | 14(1.4) | 38(2.4) | |
疼痛の罹病期間 | 3カ月≦,<1年 | 354(66.9) | 574(55.8) | 928(59.6) |
1年≦,<5年 | 117(22.1) | 319(31.0) | 436(28.0) | |
5年≦ | 58(11.0) | 136(13.2) | 194(12.5) | |
本剤投与開始前の 疼痛VAS(mm) |
平均値±標準偏差 | 66.8±14.24 (n=529) |
68.3±14.32 (n=1,029) |
67.8±14.30 (n=1,558) |
疼痛に対する 前治療薬剤 |
無 | 330(62.4) | 476(46.3) | 806(51.7) |
有b) | 191(36.1) | 524(50.9) | 715(45.9) | |
プレガバリン | 88(16.6) | 140(13.6) | 228(14.6) | |
ガバペンチン | 0(0.0) | 1(0.1) | 1(0.1) | |
デュロキセチン | 17(3.2) | 50(4.9) | 67(4.3) | |
アミトリプチリン | 15(2.8) | 6(0.6) | 21(1.3) | |
ノルトリプチリン | 0(0.0) | 1(0.1) | 1(0.1) | |
イミプラミン | 0(0.0) | 0(0.0) | 0(0.0) | |
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液 | 33(6.2) | 29(2.8) | 62(4.0) | |
トラマドール | 18(3.4) | 30(2.9) | 48(3.1) | |
アセトアミノフェン | 31(5.9) | 55(5.3) | 86(5.5) | |
トラマドール・アセトアミノフェン配合錠 | 18(3.4) | 47(4.6) | 65(4.2) | |
オピオイド鎮痛薬(トラマドール,トラマドール・アセトアミノフェン配合錠を含む) | 36(6.8) | 88(8.6) | 124(8.0) | |
NSAIDs | 61(11.5) | 335(32.6) | 396(25.4) | |
不明 | 8(1.5) | 29(2.8) | 37(2.4) |
特に記載がない限り,表の値はn(%)を表す.a)医師判断に基づく腎機能障害の程度,b)内訳について,複数の項目に該当する場合はそれぞれを集計した.
BMI:ボディマス指数,DPNP:糖尿病性末梢神経障害性疼痛,NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬,PHN:帯状疱疹後神経痛,PNP:末梢性神経障害性疼痛,VAS:visual analogue scale.
DPNP/PHN群 N=529 |
その他PNP群 N=1,029 |
全症例 N=1,558 |
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本剤の投与状況 | ||||
投与継続・中止状況 | 継続中(投与開始後14週時点) | 424(80.2) | 836(81.2) | 1,260(80.9) |
投与中止 | 105(19.8) | 193(18.8) | 298(19.1) | |
投与中止症例の投与期間, 平均値±標準偏差(日) |
56.6±22.69 | 52.3±23.79 | 53.8±23.46 | |
中止理由a,b) | 有害事象 | 17(16.2) | 35(18.1) | 52(17.4) |
来院せず・転院 | 18(17.1) | 42(21.8) | 60(20.1) | |
効果不十分・無効 | 20(19.0) | 25(13.0) | 45(15.1) | |
症状改善 | 48(45.7) | 83(43.0) | 131(44.0) | |
上記以外 | 8(7.6) | 12(6.2) | 20(6.7) | |
初期用量(1日投与量),(mg) | ≦2.5 | 43(8.1) | 77(7.5) | 120(7.7) |
2.5<,≦5 | 200(37.8) | 388(37.7) | 588(37.7) | |
5<,≦7.5 | 3(0.6) | 4(0.4) | 7(0.4) | |
7.5<,≦10 | 269(50.9) | 535(52.0) | 804(51.6) | |
10<,≦15 | 6(1.1) | 4(0.4) | 10(0.6) | |
15<,≦20 | 5(0.9) | 17(1.7) | 22(1.4) | |
20<,≦30 | 3(0.6) | 4(0.4) | 7(0.4) | |
最大用量(1日投与量),(mg) | ≦2.5 | 30(5.7) | 34(3.3) | 64(4.1) |
2.5<,≦5 | 118(22.3) | 207(20.1) | 325(20.9) | |
5<,≦7.5 | 11(2.1) | 11(1.1) | 22(1.4) | |
7.5<,≦10 | 180(34.0) | 365(35.5) | 545(35.0) | |
10<,≦15 | 39(7.4) | 80(7.8) | 119(7.6) | |
15<,≦20 | 67(12.7) | 180(17.5) | 247(15.9) | |
20<,≦30 | 84(15.9) | 152(14.8) | 236(15.1) | |
用量変更 | 無 | 269(50.9) | 457(44.4) | 726(46.6) |
有 | 260(49.1) | 572(55.6) | 832(53.4) | |
本剤以外の治療状況 | ||||
疼痛に対する併用薬剤 | 無 | 337(63.7) | 465(45.2) | 802(51.5) |
有 | 184(34.8) | 535(52.0) | 719(46.1) | |
不明 | 8(1.5) | 29(2.8) | 37(2.4) | |
併用療法(疼痛に対する併用療法以外も含む) | 無 | 415(78.4) | 651(63.3) | 1,066(68.4) |
有b) | 113(21.4) | 364(35.4) | 477(30.6) | |
疼痛に対するインターベンショナル治療 | 77(14.6) | 126(12.2) | 203(13.0) | |
疼痛に対するリハビリテーション(運動療法を含む) | 30(5.7) | 245(23.8) | 275(17.7) | |
疼痛に対する心理療法 | 0(0.0) | 2(0.2) | 2(0.1) | |
その他の併用療法 | 10(1.9) | 30(2.9) | 40(2.6) | |
不明 | 1(0.2) | 14(1.4) | 15(1.0) |
特に記載がない限り,表の値はn(%)を表す.a)投与中止症例を対象,b)内訳について,複数の項目に該当する場合はそれぞれを集計した.
DPNP:糖尿病性末梢神経障害性疼痛,PHN:帯状疱疹後神経痛,PNP:末梢性神経障害性疼痛.
なお,DPNP/PHN群の原因疾患は,DPNP 35.2%,PHN 64.8%であり,その他PNP群の主な原因疾患は,脊柱管狭窄症27.7%,頸椎症性神経根症13.7%,椎間板ヘルニア12.8%,腰椎坐骨神経痛10.1%,坐骨神経痛8.4%であった.
2. 本剤の投与状況,本剤以外の治療状況有効性評価対象症例の本剤の投与状況,本剤以外の治療状況を表2に示す.DPNP/PHN群,その他PNP群の順に詳細を示す.本剤の投与状況は,投与開始後14週時点の投与継続が80.2%,81.2%であり,投与中止症例の投与期間の平均値は56.6日,52.3日であった.また,投与中止症例の最も多い中止理由は症状改善であり,45.7%,43.0%であった.主な初期用量(1日投与量)は,2.5 mg超5 mg以下が37.8%,37.7%,7.5 mg超10 mg以下が50.9%,52.0%であった.主な最大用量(1日投与量)は,2.5 mg超5 mg以下が22.3%,20.1%,7.5 mg超10 mg以下が34.0%,35.5%,15 mg超20 mg以下が12.7%,17.5%,20 mg超30 mg以下が15.9%,14.8%であった.
3. 有効性:主要評価項目「疼痛VAS 50%レスポンダー率」疼痛VAS 50%レスポンダー率は,DPNP/PHN群が45.6%,その他PNP群が48.7%であり,主解析の結果,群間で統計的な有意差は認められなかった(ORの中央値[95%CrI]:1.134[0.919,1.401])(図1).一方,交絡因子を調整した結果,調整ORはその他PNP群がDPNP/PHN群に対して統計的に有意に高かった(1.262[1.003,1.589]).
主要評価項目「疼痛VAS 50%レスポンダー率」の群間比較,DPNP/PHN群に対するその他PNP群の病態分類ごとの比較
a)DPNP/PHN群に対するその他PNP群またはその他PNP群の病態分類ごとのオッズ比.DPNP/PHN群に対するその他PNP群のオッズ比は,群を説明変数としたベイズ流のロジスティック回帰モデルを用いて算出した.モデルの各係数の事前分布には無情報事前分布を仮定した.DPNP/PHN群に対するその他PNP群の病態分類ごとのオッズ比は,その他PNP群の病態分類を層としたロジスティック回帰モデル(階層ベイズモデル)を用いて算出した.その他PNP群の病態分類間で共通する事前分布には,無情報事前分布を仮定した.b)a)のモデルに交絡因子を共変量として加えたモデルを用いた.交絡因子は,性別,年齢,ボディマス指数,疼痛の罹病期間,腎機能障害の程度,本剤投与開始前の疼痛VAS,疼痛に対する前治療薬剤の有無,疼痛に対する投与開始時併用療法の有無とした.モデルの共変量の係数の事前分布には無情報事前分布を仮定した.c)その他PNP群の病態分類は,神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版2) p22表1に基づき,分類した.d)その他PNP群における病態分類のうち,評価例数が10例未満の病態分類は,「その他」に分類した.
CrI:信用区間,DPNP:糖尿病性末梢神経障害性疼痛,OR:オッズ比,PHN:帯状疱疹後神経痛,PNP:末梢性神経障害性疼痛,VAS:visual analogue scale.
その他PNP群の病態分類別の疼痛VAS 50%レスポンダー率は,圧迫/絞扼性49.9%(461/924例),外傷性35.6%(16/45例),腫瘍性42.9%(6/14例),中毒性33.3%(10/30例),その他50.0%(8/16例)であった.その他PNP群の病態分類ごとにDPNP/PHN群と比較した結果,いずれの病態分類もDPNP/PHN群に対する統計的な有意差は認められなかった.一方で,交絡因子を調整した結果,圧迫/絞扼性の調整ORはDPNP/PHN群よりも統計的に有意に高く(1.339[1.061,1.690]),中毒性の調整ORはDPNP/PHN群よりも統計的に有意に低かった(0.430[0.179,0.957])(図1).
4. 有効性:副次評価項目「疼痛VAS 30%レスポンダー率」,「睡眠障害VAS 50%・30%レスポンダー率」DPNP/PHN群,その他PNP群の順に,疼痛VAS 30%レスポンダー率は62.9%,64.7%,睡眠障害VAS 50%レスポンダー率は61.8%,65.7%,睡眠障害VAS 30%レスポンダー率は74.2%,75.4%であり,いずれの評価項目も群間で統計的な有意差は認められなかった(図2).
副次評価項目「疼痛VAS 30%レスポンダー率」,「睡眠障害VAS 50%・30%レスポンダー率」の群間比較
a)DPNP/PHN群に対するその他PNP群のオッズ比.オッズ比は,群を説明変数としたベイズ流のロジスティック回帰モデルを用いて算出した.モデルの各係数の事前分布には無情報事前分布を仮定した.
CrI:信用区間,DPNP:糖尿病性末梢神経障害性疼痛,OR:オッズ比,PHN:帯状疱疹後神経痛,PNP:末梢性神経障害性疼痛,VAS:visual analogue scale.
5. 副作用
安全性評価対象症例の副作用発現状況を表3に示す.副作用発現割合は全症例9.08%(DPNP/PHN群8.63%,その他PNP群9.29%)であり,主な副作用は浮動性めまい3.64%(3.38%,3.76%)および傾眠2.55%(2.20%,2.72%)であった.重篤な副作用は2例に認められ,内訳は抑うつ症状と認知障害を発現した1例(DPNP/PHN群),肝酵素上昇が1例(その他PNP群)であり,各事象の転帰はそれぞれ軽快・回復および不明であった.
DPNP/PHN群 N=591 |
その他PNP群 N=1,249 |
全症例 N=1,840 |
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発現症例数 | 51(8.63) | 116(9.29) | 167(9.08) |
免疫系障害 | 1(0.17) | 0(0.00) | 1(0.05) |
過敏症 | 1(0.17) | 0(0.00) | 1(0.05) |
代謝および栄養障害 | 1(0.17) | 2(0.16) | 3(0.16) |
糖尿病 | 1(0.17) | 0(0.00) | 1(0.05) |
食欲減退 | 0(0.00) | 2(0.16) | 2(0.11) |
精神障害 | 1(0.17) | 1(0.08) | 2(0.11) |
攻撃性 | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
抑うつ症状 | 1(0.17) | 0(0.00) | 1(0.05) |
神経系障害 | 32(5.41) | 80(6.41) | 112(6.09) |
浮動性めまい | 20(3.38) | 47(3.76) | 67(3.64) |
頭痛 | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
感覚鈍麻 | 1(0.17) | 0(0.00) | 1(0.05) |
傾眠 | 13(2.20) | 34(2.72) | 47(2.55) |
認知障害 | 1(0.17) | 0(0.00) | 1(0.05) |
眼障害 | 1(0.17) | 2(0.16) | 3(0.16) |
複視 | 1(0.17) | 0(0.00) | 1(0.05) |
眼の障害 | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
眼瞼下垂 | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
耳および迷路障害 | 0(0.00) | 2(0.16) | 2(0.11) |
回転性めまい | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
耳不快感 | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
胃腸障害 | 4(0.68) | 15(1.20) | 19(1.03) |
呼気臭 | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
便秘 | 1(0.17) | 4(0.32) | 5(0.27) |
下痢 | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
悪心 | 3(0.51) | 9(0.72) | 12(0.65) |
口内炎 | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
嘔吐 | 0(0.00) | 3(0.24) | 3(0.16) |
肝胆道系障害 | 1(0.17) | 0(0.00) | 1(0.05) |
肝機能異常 | 1(0.17) | 0(0.00) | 1(0.05) |
皮膚および皮下組織障害 | 6(1.02) | 5(0.40) | 11(0.60) |
薬疹 | 1(0.17) | 0(0.00) | 1(0.05) |
湿疹 | 1(0.17) | 1(0.08) | 2(0.11) |
そう痒症 | 2(0.34) | 1(0.08) | 3(0.16) |
発疹 | 1(0.17) | 2(0.16) | 3(0.16) |
蕁麻疹 | 1(0.17) | 1(0.08) | 2(0.11) |
腎および尿路障害 | 1(0.17) | 1(0.08) | 2(0.11) |
排尿困難 | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
腎機能障害 | 1(0.17) | 0(0.00) | 1(0.05) |
一般・全身障害および投与部位の状態 | 10(1.69) | 12(0.96) | 22(1.20) |
異常感 | 1(0.17) | 4(0.32) | 5(0.27) |
倦怠感 | 2(0.34) | 0(0.00) | 2(0.11) |
浮腫 | 5(0.85) | 4(0.32) | 9(0.49) |
末梢性浮腫 | 2(0.34) | 1(0.08) | 3(0.16) |
疼痛 | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
口渇 | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
体調不良 | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
臨床検査 | 3(0.51) | 4(0.32) | 7(0.38) |
血中ブドウ糖増加 | 1(0.17) | 0(0.00) | 1(0.05) |
体重増加 | 2(0.34) | 3(0.24) | 5(0.27) |
肝酵素上昇 | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
傷害,中毒および処置合併症 | 0(0.00) | 2(0.16) | 2(0.11) |
転倒 | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
交通事故 | 0(0.00) | 1(0.08) | 1(0.05) |
表の値はn(%)を表す.集計にはICH国際医薬用語集日本語版(MedDRA/J version 26.1)を用いた.
DPNP:糖尿病性末梢神経障害性疼痛,PHN:帯状疱疹後神経痛,PNP:末梢性神経障害性疼痛.
本調査は,本剤のPNPの承認時までの臨床試験で対象としていない「DPNP/PHN以外のPNP」に対する本剤の有効性を確認するため,実臨床下で本剤を服用したDPNP/PHN群とその他PNP群の有効性を評価した多施設共同前向き観察研究である.
Initiative on Methods, Measurement, and Pain Assessment in Clinical Trials(IMMPACT)の推奨では,慢性疼痛の臨床試験において疼痛強度numerical rating scale(NRS)の50%以上の減少を大幅な改善,30%以上の減少を中等度の改善としている14).本剤の第III相試験の14週時点の平均疼痛スコア50%レスポンダー率はDPNPが30.9%6),PHNが29.0%7)(いずれも本剤30 mg/日群のデータ)であった.
本調査での疼痛VAS 50%レスポンダー率は,DPNP/PHN群が45.6%,その他PNP群が48.7%と群間で大きな違いはなく,主解析の結果,群間で統計的な有意差は認められなかった.また,疼痛VAS 30%レスポンダー率でも同様の結果であったことから,本剤はその他PNPに対して有効性が得られていると考えられた.
疼痛VAS 50%レスポンダー率をその他PNP群の病態分類ごとにDPNP/PHN群と比較した結果,いずれの病態分類もDPNP/PHN群に対する統計的な有意差は認められなかったものの,交絡因子を調整した結果では,DPNP/PHN群に対して,圧迫/絞扼性は統計的に有意に高く,中毒性は統計的に有意に低かった.中毒性のPNPの原因疾患は,いずれも化学療法誘発性ニューロパチーであった.中毒性の有効性について,評価例数は30例と限られており,疼痛VAS 50%レスポンダー率は33.3%と,約3割の症例では50%以上の改善が得られていた.また,事後解析の結果,中毒性における疼痛VAS 30%レスポンダー率は56.7%であり(正確な95%信頼区間:37.4%,74.5%),半数以上の症例では30%以上の改善が得られているため,中毒性に対する本剤の有効性に臨床的な大きな懸念はないと考えられた.ただし,圧迫/絞扼性(924例)を除く各病態分類の評価例数は,外傷性45例,腫瘍性14例,中毒性30例と限られており,病態分類ごとの本剤の有効性についてはさらなる研究が必要である.
神経障害性疼痛を有する患者では,疼痛により睡眠が障害される場合があり,薬物治療は疼痛を完全に治癒させることが難しい場合が多い2).そのため,睡眠障害の改善も鎮痛薬の重要な指標の一つである.本調査ではDPNP/PHN群,その他PNP群の順に,睡眠障害VAS 50%レスポンダー率が61.8%,65.7%,30%レスポンダー率が74.2%,75.4%であり,いずれの評価項目も群間で統計的な有意差は認められず,睡眠障害の改善においても,本剤はその他PNPに対して有効性が得られていると考えられた.
全症例の副作用発現割合は9.08%(167/1,840例)であり,主な副作用は浮動性めまいおよび傾眠であった.これらは過去の臨床試験で同定された本剤の既知の事象であり6–9),本剤の電子添文においても重要な基本的な注意としてすでに注意喚起されている1).また,本調査で認められた副作用のうち,DPNP/PHN群またはその他PNP群で発現割合が大きく異なる事象はなかった.以上の結果から,本剤の安全性に新たな懸念は認められなかった.
本調査の結果の解釈に影響を与えるものとして,1)本調査は非介入の観察研究である.2)本剤投与開始前の疼痛VASが40 mm未満または90 mm超の症例が組み込まれていない.3)患者から有効性に関する質問票を入手できず,観察期間終了時の疼痛VASが欠損のため,有効性評価対象から除外した症例が一定数(DPNP/PHN群62例,その他PNP群220例)存在する点が考えられる.
実臨床下で実施した本調査の結果では,ミロガバリンはPNPの承認時までの臨床試験で対象としていなかった「DPNP/PHN以外のPNP」に対して有効性が得られていると考えられた.また,安全性についても,新たな懸念は認められなかった.
本調査にご協力いただきました調査担当医師の方々ならびに関係者,参加いただきました患者の皆さまに深謝いたします.また,本調査の解析計画の立案に関して貴重な助言をいただきました東京医科大学の田栗正隆主任教授に心より感謝申し上げます.
本調査の実施は,第一三共株式会社による資金提供を受けています.本原稿の執筆は第一三共株式会社の資金提供のもと,株式会社インフロント・メディカルパブリケーションズによるサポートを受けています.