Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2025 Volume 32 Issue 5 Pages 123-130

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会 期:2025年2月8日(土)

会 場:カクイックス交流センター(鹿児島県民交流センター)

会 長:松永 明(鹿児島大学医学部麻酔・蘇生学教室)

■一般口演1

1. 肩峰下疼痛症候群に対する運動と神経ブロックの併用効果の予測因子

服部貴文 大賀智史 下 和弘 松原貴子

神戸学院大学総合リハビリテーション学部

【緒言】肩峰下疼痛症候群(SAPS)の疼痛には,腱板断裂などの構造的要因に加えて,末梢・中枢感作の関与が示唆されている.SAPSには運動と神経ブロック(NB)の併用療法が有効とされるが,奏効しない患者が一定数存在することから,SAPSに対する運動とNBの併用効果の予測因子について検証した.

【方法】対象はSAPS患者53名とし,単回のNB後に8週間の運動療法を実施した.治療反応性はIMMPACT(国際疼痛学会)の分類に基づき,主観的疼痛強度(NRS)の改善率50%を基準として,改善群(31名)と非改善群(22名)に分類した.評価は患者特性に加えて,構造的要因としてMRIでの腱板損傷のタイプ,末梢感作として有痛部の圧痛閾値(PPT),脊髄感作として時間的加重(TSP),内因性疼痛抑制能として条件刺激性疼痛調節(CPM)を介入前に評価した.

【結果】非改善群のPPTが有意に低値,TSPが有意に高値であり,多変量解析では治療反応性の関連要因としてTSPが抽出された.

【考察】構造的要因にかかわらず,末梢・中枢感作はSAPSに対する運動とNBの併用療法の予後予測因子であることが示唆された.

2. 運動誘発性鎮痛における骨格筋の役割―性差による効果検証―

大賀智史 服部貴文 下 和弘 松原貴子

神戸学院大学総合リハビリテーション学部

【緒言】われわれはこれまでに運動の末梢要素である筋収縮のみでも運動部に限局した運動誘発性鎮痛(EIH)が生じ,その効果は骨格筋量に関連することを明らかにした.しかし,骨格筋量に影響を及ぼす性差によるEIH効果の差異は不明であった.そこで,骨格筋電気刺激(EMS)により誘発した筋収縮運動のEIH効果について男女別で検討した.

【方法】対象は若年健常者27名,対象者特性として四肢骨格筋量(SMI)と下行性疼痛抑制能(CPM)を測定後,全対象にEMSを用いた筋収縮条件とSham条件を無作為順に各20分間実施した.EMSは大腿四頭筋に対して,刺激サイクル1:2(刺激:休止),関節運動が生じない筋収縮が誘発される刺激強度で実施した.各条件前後に運動部(大腿)と非運動部(前腕)の圧痛閾値(PPT)を測定し,PPT変化量とSMI,CPMとの相関を検討した.

【結果】男女ともに筋収縮条件で運動部PPTは有意に上昇し,運動部PPT変化量はSMIと有意な正の相関を示した.

【考察】男女ともに運動の末梢要素である筋収縮のみでも運動部に限局したEIH効果が誘起され,これは性差なく骨格筋由来の鎮痛系の関与が示唆された.

3. 硬膜穿刺後頭痛に頭蓋内硬膜下血腫を伴っていた1症例

武藤佑理 中野涼子 小川のり子 加藤治子

北九州市立医療センター

症例は34歳女性.子宮体がんの診断で,メドロキシプロゲステロンとバイアスピリンの内服を継続していた.今回,脊髄くも膜下麻酔下に3回目の子宮内膜全面掻爬術を受けた.術後1日目,頭痛なく自宅退院したが,術後2日目より活動時の頭痛が出現し,術後3日目に増悪した.術後5日目に頭痛のため麻酔科を受診した.診察時歩行は可能で,起立動作で惹起される頭痛を認め,臥床で改善した.項部硬直や四肢の異常感覚・麻痺は認めなかった.硬膜穿刺後頭痛と診断したが,頭蓋内出血除外のため頭部CTを撮影したところ,左前頭部,頭頂部の2カ所に硬膜下血腫を認め,画像からは両者の発症時期が異なることも示唆された.手術の約2週間前に左前頭部を打撲しており,外傷性の硬膜下血腫に,低髄液圧を契機にさらなる硬膜下血腫を併発した可能性が考えられた.頭痛以外に症状はなく,バイアスピリン内服を休止し,自宅安静で経過観察とした.術後24日目に撮影した頭部CTで,血腫は縮小していた.抗凝固薬内服中の患者の硬膜穿刺後頭痛では積極的に頭蓋内出血の除外を行うべきと考えられた.

4. 持続腕神経叢ブロックが機能温存に有効だった手感染症の1例

加藤治子 小川のり子 武藤佑理

北九州市立医療センター

【はじめに】手感染症は時に機能的予後不良なことがある.

【症例】69歳男性.3カ月前に上顎がんと診断され化学療法を開始した.3日前より右母指に疼痛を自覚しその後急速に発赤・腫脹・疼痛範囲が拡大した.化膿性母指屈筋炎・化膿性手関節炎の診断で同日緊急切開排膿・デブリドマンを施行した.術後炎症兆候は順調に軽減した.術前より上顎がんの疼痛に対してオキシコドン,ミロガバリン,アセトアミノフェンを使用中だった.術後はセレコキシブを追加したがNRS 8~9でリハビリ困難だった.術後9日に疼痛コントロール目的で当科紹介となった.高度機能障害残存の恐れあり神経ブロック追加を検討した.易感染状態であり,頸部の持続ブロック用のカテーテル留置は致死的合併症リスクから回避した.腋窩にて腕神経叢に留置し,持続投与とリハビリ前の単回投与にて疼痛コントロール良好となった.合併症なく術後30日でカテーテル抜去.NRS 0~2,軽度の可動域制限を残すのみとなった.

【結語】化膿性手関節・化膿性母指屈筋炎術後の疼痛コントロールに難渋したが持続神経ブロックを併用することでリハビリが可能となった.高度機能障害を予防できる可能性がある.

5. 両側下顎骨骨髄炎に対する除痛とその課題

三原慶介 平井規雅 外山恵美子 木下敦子 秋吉浩三郎

福岡大学病院

30代男性.身長175 cm,60 kg.X−3年,両側下顎骨骨髄炎に対しそれぞれ骨掻把術施行後,両下顎部痛増悪,X年当科紹介受診となった.疼痛強度はNRS 6~10/10であり,自己判断でロキソプロフェン30錠/日内服中であった.当科受診後,ロキソプロフェンを中止し,トラマドール,三環系抗うつ薬,抗てんかん薬を開始したが効果なく,ブプレノルフィン5 mgを開始した.疼痛は一時NRS 6程度まで改善したが,徐々に増悪,食事摂取も困難となった.X+3年,下顎神経高周波熱凝固療法を施行,疼痛はNRS 4まで改善した.しかし,疼痛軽減に伴い開口が可能となったため,顎骨骨髄炎により変形した関節が開口に伴い過剰に可動し,関節破壊の進行が懸念される状態となった.また,神経ブロックに伴い,両側口腔内の感覚が脱失し,口腔内熱傷や誤嚥のリスクも増加した.こうした状態を鑑み,半年後の疼痛再燃時にはパルス高周波療法に変更したが,除痛効果は不十分であった.今後疼痛コントロールと副次効果による合併症のバランスをどのようにコントロールしていくか,課題となっている.

6. 当科のインターベンショナル痛み治療

金出政人

医療法人社団尚整会菅整形外科病院

当院は長崎県諫早市にある73床の有床病院で,整形外科,リハビリテーション科,リウマチ科,内科,麻酔科およびペインクリニック・整形外科を標榜する地域中核病院である.

演者は1999年に長崎大学麻酔科に入局し,2003年から長崎大学大学院で薬理学,ペインクリニック,緩和医療を学び,2006年から3年間整形外科を研修した.2011年に現在の病院に麻酔科として着任後,整形外科手術の麻酔が主な仕事であったが,2021年に麻酔科医の増員に伴い,標榜を麻酔科からペインクリニック・整形外科に改め,現在はペインクリニック診療が主な仕事となっている.

当科では主に運動器疾患および帯状疱疹に関連する痛みに対して,超音波ガイド下または透視下による神経ブロックを始めとして,ハイドロリリース注射,高周波療法,非観血的肩関節授動術,硬膜外腔癒着剝離術,多血小板血漿療法(PRP-FD),椎間板内酵素注入療法,脊髄刺激療法を行っている.当科のインターベンショナル痛み治療の現況を報告する.

■一般口演2

1. 肛門部がん性疼痛に不対神経節ブロックとくも膜下フェノールブロックを施行した1症例

中野孝美 山本俊介 佐々木美圭 安部隆国 内野哲哉 松本重清

大分大学医学部麻酔科学講座

【序文】肛門部がん性疼痛に対する有効な手立ては各種報告されているが,実施のタイミングや順序に関しては明確な定説がない.今回,当院で経験した1症例を紹介する.

【症例】60代女性.子宮体がん術後再発で人工肛門を造設.直腸浸潤による肛門部痛に対しオピオイドを導入されたが副作用のため増量できず,神経ブロック目的に紹介となった.

【治療経過】フェンタニル貼付剤1 mg/日と,速放性ヒドロモルフォン1 mgを1日6回使用し,NRS 5点の肛門部痛が持続,NRS 8点の突出痛が数回あり,睡眠困難を伴っていた.ブロックと薬物調整について提案し,協議の上,アルコールによる不対神経節の神経破壊を実施した.ブロック後NRSは4点に低下したが,夜間の突出痛は残存した.後日くも膜下フェノールブロックを施行し,NRSは2~3点に改善し,突出痛は消失した.運動障害や膀胱障害などの合併症はなかった.

【結語】がん性肛門部痛に対する不対神経節ブロックの効果は十分とまでは言えなかったが,安全性が高い神経ブロックであり,くも膜下フェノールブロックがすぐに施行できない場合や合併症に対する患者の不安が強い場合などに試みる意義があると考える.

2. 座位保持が困難な臀部痛に対してフェノールブロックを施行した1例

渡慶次さやか 松尾敬介 中村清哉 垣花 学

琉球大学病院ペインクリニック科

くも膜下フェノールブロック(subarachnoid phenol block:SAPB)によるサドルブロックは,骨盤周囲のがん性疼痛に有効とされているが,施行には座位の保持が必要である.今回,疼痛のため座位の保持が困難な患者に対し,SAPBを施行したので報告する.

【症例】40歳男性.臀部痛の精査にて悪性神経線維腫の骨盤内浸潤を指摘され,骨盤内全摘術後,化学療法を開始したが,腫瘍の増大による臀部の変形と疼痛の増悪,左下肢痛の訴えを主訴に当科受診となった.診察時,座位の保持が困難であったため,まず,右側臥位で等比重ブピバカイン2 mlによるくも膜下ブロックを施行し,L1までの冷覚低下および右下肢の運動機能温存を確認した.その後,座位保持が可能となったため,右下肢の運動機能を指標にフェノールグリセリンを緩徐に投与し,0.4 mlで右下肢運動低下を認めなかった.翌日以降も臀部,左下肢の疼痛低下を認めた.

【結語】SAPBでは,座位で下肢の疼痛をモニターする必要があるが,今回の症例では,まず脊椎くも膜下ブロックで健側肢の運動機能を温存し,モニターすることで,安全にSAPBを施行できた.

3. 緩和ケアチームにおけるがん性疼痛患者に対する神経ブロック適応と出血傾向の検討

姫野未来*1 佐々木美圭*2 山本俊介*2 中野孝美*2 松本重清*2

*1大分大学医学部,*2大分大学医学部麻酔科学講座

【目的】がん性疼痛に対する神経ブロックは有用な鎮痛法であるが,出血傾向により適応が限られる.今回,がん患者の出血傾向とその関連因子を調査した.

【方法】当院緩和ケアチーム介入成人がん患者を対象に電子カルテよりデータを抽出し出血傾向と関連因子を調査した.また,APTT 50%以上,未満の2群に分け,関連項目を検討した.結果は中央値で示し,p<0.05を有意差有りとした.

【結果】症例は140例,患者の平均年齢は84歳.抗凝固・血小板薬服用が11.4%.血小板<10万が13.6%,PT-INR>1.2が12.9%,APTT>40秒が17.1%,APTT<50%が25.7%であった.APTT<50%群とAPTT≧50%群におけるアルブミンはそれぞれ2.6 g/dl,3.3 g/dlで有意差を認めた.多重ロジスティック解析の結果はアルブミンでオッズ比3.8と,有意な関連を認めた.

【考察】本研究では,アルブミンとAPTTに有意な相関が認められた.よって低栄養に陥るとAPTT延長により神経ブロックが困難となる可能性が高いため,早期より適応を検討することが重要である.

4. 会陰部の難治性がん性疼痛に対して仙骨硬膜外エタノール注入法が有効だった3症例

小松祐也 小杉寿文 久保麻悠子

佐賀県医療センター好生館

【はじめに】仙骨硬膜外エタノール注入法はS4~S5神経支配領域に体性痛があり,座位保持が困難な例が適応となる.今回,適応のある症例を複数経験した.

【症例1】57歳女性.子宮体がん.202X年4月直腸浸潤で再発を認めた.5月7日硬膜外カテーテルを留置した.5月8日膀胱直腸障害が出現しカテーテルの調整を行った.5月9日合併症は改善,座位保持も可能となり神経破壊を行った.死亡4日前まで車椅子移動が可能だった.

【症例2】62歳男性.肛門管がん.202X年6月4日硬膜外カテーテルを留置,翌日に軽度の排尿異常はあるものの会陰部痛は改善し座位保持が可能だったため神経破壊を行った.疼痛は緩和し旧肛門部の膿瘍の処置が可能になった.遠方の自宅へ自家用車での退院が実現した.死亡4日前まで座位で食事が可能だった.

【症例3】86歳女性.腟がん.独居だが認知機能の低下のため麻薬の管理が困難だった.神経破壊後ヒドロモルフォンは4 mg/日まで減量できた.

【結語】座位がとれない会陰部痛に対し仙骨硬膜外エタノール注入法が有効だった症例を経験した.施行にあたっては患者のニーズの確認と,合併症の正しい理解が重要である.

5. 陰部痛に対して効果不十分であったくも膜下フェノールブロックの1例

押川 隆 松川美澄 日高康太郎 山賀昌治 恒吉勇男

宮崎大学医学部附属病院

【はじめに】膀胱がんの仙骨浸潤に伴う臀部痛に対して,くも膜下フェノールブロック(subarachnoid phenol block:SAPB)を施行するも,陰茎部の疼痛が残存した症例について報告する.

【症例】70歳代男性.17年前に直腸がんに対してMiles手術施行した.フォロー中に仙骨浸潤を伴う膀胱がんを発症し,尿閉となったため,膀胱カテーテルを留置された.仙骨浸潤部位に対して放射線治療を行う方針となったが,放射線治療時の体位保持困難が予想され,紹介となった.初診時の痛みはNRS 8/10であった.早期の鎮痛を図るため,薬物療法の強化と並行してSAPBを計画した.テストブロック(L4/5 0.5%高比重ブピバカイン0.5 ml)で,NRS 2/10まで改善したため,SAPB(L4/5 10%フェノールグリセリン0.4 ml)を施行したところ,肛門部の疼痛は軽減したが陰茎部の疼痛が残存した.放射線治療は施行可能となったため,追加のブロックは行わない方針とした.

【考察】SAPBの薬液投与量や施行回数のコンセンサスは得られていない.ブロックの施行方法について文献的考察を踏まえて発表する.

6. 当院における乾燥組換え帯状疱疹ワクチンの接種後状況

前原光佑 田代章悟

前原総合医療病院

【目的】乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス?)を接種した症例の安全性を評価するため接種後状況を調査した.今回2022年6月から2024年11月までに同ワクチンを接種した100症例の評価を文献を踏まえて考察する.

【方法】帯状疱疹の予防を目的とし,当院で乾燥組換え帯状疱疹ワクチンを接種した症例を対象とした.本調査は電話連絡でのヒアリングにて症例登録およびデータ収集を行った.観察期間は,ワクチン2回接種終了後30日間を調査期間とした.安全性について,調査対象症例における副反応の状況を評価した.

【成績】症例は100例であり,このうちヒアリング可能であった86例を調査した.このうち接種後に副反応が認められた主なものは,「接種部位疼痛・腫脹・紅斑」,「発熱」,「疲労」,「筋肉痛」,「頭痛」,「悪寒」であった.また,「アナフィラキシー反応」に該当する副反応は認めなかった.

【結論】本調査において,乾燥組換え帯状疱疹ワクチンの日常診療における安全性に大きな問題点は認めず,当院では積極的に同ワクチン接種を推奨している.

■一般口演3

1. 椎体棘突起に著明な骨髄浮腫像を認めた胸背部痛の1症例

赤嶺智教*1 笹良剛史*2 宜保さとこ*1

*1友愛医療センター,*2豊見城中央病院

【症例】30歳代,女性.身長156 cm,体重49 kg.既往歴なし.

【手術歴】帝王切開.

【現病歴】X−5年に胸背部痛が出現.X−4年に近医整形外科受診したが,明らかな異常を認めず,月に1回の頻度でテニス大会に参加するために,ハードなトレーニングを継続していた.X年,整骨院での施術を契機に痛みが増悪し当院整形外科受診.明らかな異常を認めず,痛みコントロール目的に当科に紹介となる.安静時などの体動が少ない時に増悪し,背中が爆発するような痛みを訴えていた.体幹前屈により増悪し,第10胸椎から第1胸椎棘突起の叩打痛,圧痛を認めた.脊椎MRIを再確認したところ,同部位の棘突起にSTIRで高信号を示す骨髄浮腫所見(以下,BME)を認めた.過剰な運動負荷による棘突起の骨挫傷と診断し,セレコキシブ200 mg分2と運動療法士による介入を開始した.また,BMEを指摘できたことで患者は適切な療養の必要性を受容できた.2カ月後には痛みは劇的に改善している.

【まとめ】脊椎MRIで疼痛部位に一致した椎体棘突起のBMEを同定できたことで,棘突起の骨挫傷と診断し,適切な治療,療養で軽快した症例を経験した.

2. 大耳介神経ブロックが奏功した外傷性大耳介神経痛の1例

原野りか絵*1 山田信一*1 北村静香*2 野口 洋*1 平松史帆*3 田代 卓*3

*1佐賀大学医学部附属病院,*2国立病院機構嬉野医療センター,*3佐賀県医療センター好生館

大耳介神経はC2,C3脊髄神経に由来する頸神経叢の皮膚の枝であり,外耳の皮膚,下顎角,耳下腺を支配している.表層に位置しているため,外傷により損傷を受けやすいが大耳介神経痛はまれである.今回われわれは転倒による外傷後に発症した大耳介神経痛に対して大耳介神経ブロックを行い,症状改善に至った症例を経験したため報告する.症例は70歳代男性.X年Y月,階段から転倒し受傷.C2骨折の診断でC2/3後方固定術が行われた.しかし術後も左耳介全体から後頭部にかけてのジンジン・ビリビリした痛みが強く,近医ペインクリニックにて神経ブロックも行われたが,症状緩和が得られなかった.X+1年,夜間も眠れないほどの痛みとのことで当科紹介となった.左の下顎角周囲~耳介全部~耳介後部にかけて接触アロディニアが著明であり,非常に強い痛みを訴えていた.C2・C3ブロックでは耳介の痛みは緩和されず,大耳介神経ブロックを行うことで症状緩和が得られ,耳介を触ることも可能となった.外傷性の大耳介神経痛に対しては,より末梢枝である大耳介神経ブロックの方が有効であった.

3. ロボット支援下高位前方切除術にre-modified TAPAが有効であった症例

青木 浩*1 大路牧人*2 大路奈津子*2 寺尾嘉彰*2

*1佐世保中央病院,*2長崎労災病院

【緒言】ロボット支援下高位前方切除術(Rob-HAR)の最右側のポートは外側皮枝領域にある.modified TAPAブロック(M-TAPA)の外側皮枝領域の効果は相反する報告がある.そこで大越らは外側皮枝領域の効果が確実なre-modified TAPAブロック(RM-TAPA)を考案した.今回われわれはRM-TAPAが有効であった症例を経験したので報告する.患者より文書で発表の同意を得た.

【症例】41歳男性.直腸がんに対しRob-HARが予定された.右はRM-TAPA,左はM-TAPAを施行し0.25%ロピバカイン30 mlずつ投与した.術中はフェンタニル400 µg,アセトアミノフェン1,000 mg投与した.術後8時間まで安静時痛NRS 0~4/10,NRS 2~5/10であったが9時間後に体動時痛がNRS 7/10まで増強しアセトアミノフェン1,000 mg投与した.10時間後の感覚低下は前枝領域で右Th7~12,左Th7~11,外側皮枝領域は右Th8~12,左Th9~11であった.神経ブロックによる有害事象は認めなかった.

【結語】Rob-HARに対しRM-TAPAが有効であった症例を経験した.

4. 疼痛部位を狙ったパルス高周波療法が奏功した前皮神経絞扼症候群の1例

林田裕美*1 小松修治*1 山田寿彦*1 松本 舞*1 平田直之*2

*1熊本大学病院麻酔科,*2熊本大学大学院生命科学研究部麻酔科学講座

【はじめに】前皮神経絞扼症候群(ACNES)は,肋間神経前皮枝が腹直筋を貫く過程で絞扼され疼痛を生じる疾患であり,圧痛部へのトリガーポイント注射が治療法の第一選択とされている.今回,トリガーポイント注射を繰り返しても残存する疼痛に対し,パルス高周波法(PRF)が有効であった症例を経験したので報告する.

【症例】57歳男性.2年前から特に誘因なく左下腹部痛が出現し,徐々に増悪した.近医で血液検査および画像検査を施行したが,異常は認めなかった.当院総合診療科を受診しACNESと診断され,約1年半にわたってトリガーポイント注射を繰り返していたが,効果が短期間しか持続せず当科へ紹介となった.エコー下に左下腹の疼痛部位を穿刺し,誘発刺激で再現痛が得られた部位に対しPRFを施行した.PRF 2回の施行後,常時感じていた疼痛が軽減し,本人は生活への支障度の低下を自覚している.

【結語】ACNESに対しトリガーポイント注射が無効な場合,肋間神経や神経根に対するPRFが有効との報告があるが,本症例のように誘発刺激で特定した疼痛部位へのPRFは,低侵襲かつ持続的な鎮痛効果を得られる治療法として有用と考える.

5. MCTD関連三叉神経障害による顔面痛に三叉神経節パルス高周波法が有効であった1例

春田怜子*1 前田愛子*1 戴 佳恵*1 浅田雅子*2 山浦 健*2

*1九州大学病院麻酔科蘇生科,*2九州大学大学院医学研究院麻酔蘇生学

【はじめに】混合性結合組織病(MCTD)は,全身性エリテマトーデス,全身性強皮症,多発性筋炎/皮膚筋炎の臨床症状が混在し,血液検査で抗U1-RNP抗体が検出される疾患で,10%に三叉神経障害が合併する.今回,MCTD関連三叉神経障害に対して三叉神経節ブロック(GGB)パルス高周波法が有効であった1例を経験したので報告する.

【症例】64歳の女性.現病歴:X−1年9月よりMCTDと診断され治療が開始された.X年5月ごろより左舌先のしびれを自覚し,徐々に範囲の拡大と症状増悪をきたし,MCTD関連三叉神経障害と診断された.ミロガバリン,デュロキセチン等の薬物療法を試みたが効果に乏しく当科紹介となった.初診時現症:左三叉神経第2,3枝領域の痛みと異常感覚がみられた.食後に最も痛みが増強し,NRSは5であった.その他の脳神経障害はなかった.治療経過:左GGBパルス高周波法を施行した直後よりNRSは3に改善し数カ月間維持されている.

【考察】MCTD関連三叉神経障害の原因は不明であるが,末梢神経障害に分類されており,パルス高周波法を使用した神経ブロックが有効である可能性がある.

6. 下部消化管蠕動運動で誘発される上下腹部痛に腹直筋鞘ブロックが有効であった1症例

吉﨑真依 樋田久美子 村田寛明 原 哲也

長崎大学病院麻酔科

40代,男性.2カ月前に明らかな誘因なく上下腹部痛が出現した.痛みは下部消化管蠕動によって誘発され,下痢,便秘,悪心嘔吐を伴い食事摂取困難であった.2週間前に内科受診し,血液検査,上部消化管内視鏡検査,腹部CT,胸腹部MRIを行ったが異常なく,ミロガバリン,トラマドール内服による鎮痛は不十分で前皮神経絞扼症候群を疑われて当科紹介となった.初診時のPain NRSは3(安静時)~10(食後)/10だった.カーネット徴候陰性だったが,心窩部,左右季肋部,左右臍上部腹直筋外側縁に圧痛点を認めたため超音波ガイド下腹直筋鞘ブロック(1%メピバカイン5 ml+生理食塩液15 ml)を施行した.施行後に安静時痛は消失,食後痛はPain NRS 3まで軽減,食事摂取量は増加し,1週間程度の効果があった.その後も神経ブロック治療を繰り返し行っており,施行間隔は徐々に延長できている.本症例は消化器症状を主訴とする食事摂取に関連した上下腹部痛であったが,神経ブロック治療が症状緩和に有用であった.

■ポスター発表

1. 特徴的な発症パターンの関節炎に対して回帰性リウマチと診断した1例

益山隆志 八木由紀子

鹿児島共済会南風病院

部位が移動しながら関節炎を繰り返す症例を経験したので報告する.

【症例】35歳男性.約5年前から1(~2)箇所の関節に発赤・腫脹・痛みを生じるようになった.短期間で自然寛解し関節が移動しながら症状を繰り返すものの1~2カ月間無症状のこともあった.近医内科や整形外科の受診歴があるが検査で異常の指摘はなし.当科初診時は左小指PIP関節部に前日発症の発赤・腫脹・疼痛を呈していた.CRPは0.91 mg/dlで軽度上昇していたがリウマチ因子は陰性,両手XPでは異常はなかった.12日後再診では前回症状は初診の3日後に消失したがその後右母指に再発したとのこと.再診時は無症状でCRPも正常化していた.手指関節を主に手・足関節などに部位が移動しながら関節炎を繰り返し,症状は7日以内に自然寛解していた.関節リウマチや他の膠原病を示唆する所見はなく発症パターンから回帰性リウマチと診断した.

【考察】回帰性リウマチでは関節リウマチへ移行する患者もおり経過に注意が必要である.あまり周知されていない疾患だが診断することで患者に安心を与え,また今後の経過に注意を促す意味で医療者側も認識しておく必要がある.

2. 四肢の疼痛・しびれ・こわばりを契機として判明した亜急性連合性脊髄変性症の1例

立山真吾

潤和会記念病院

亜急性連合性脊髄変性症(以下SCD)は,ビタミンB12(以下VB12)欠乏を原因とする神経系の退行変性をきたす疾患である.今回,症状から神経疾患を疑い,精査の結果,SCDと診断し得た症例を経験したので報告する.70歳代女性,X−5月ごろ,左上肢の疼痛・しびれ・こわばりが出現し,近医脳神経外科を受診した.頸椎MRIでは異常所見はないと言われた.その後,右上肢にも同様の症状が出現し,味覚障害も併発した.X−3月,下肢にも同様の症状が出現した.X−2月,近医整形外科を受診した.末梢神経障害と診断され,プレガバリン,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液を処方されたが,症状は変わらなかった.X月,当科紹介受診となった.四肢末梢の疼痛・感覚障害・しびれ,上肢の筋力低下が認められた.神経疾患を疑い,頸椎MRIにて,T2強調画像の水平断でC1~7の両後索に逆Vサインの高信号が認められた.既往歴で約20年前に胃全摘出術を行っており,血液検査で大球性貧血が認められた.これらの所見等よりVB12欠乏によるSCDと診断することができた.これまでの経緯の把握も必要であるが,再検査の重要性を考えさせられた.

3. 神経ブロック施行直後に傾眠となった難治性がん疼痛の2症例

野田美弥子*1 榎畑 京*2 萩原信太郎*2 松永 明*2

*1鹿児島大学病院緩和ケアセンター,*2鹿児島大学病院麻酔科

【緒言】難治性がん疼痛に対し神経ブロックを施行した直後に傾眠となった2症例を報告する.

【症例1】95歳女性.左下顎歯肉がんと診断され自宅療養となっていたが,病状進行に伴い下顎痛が増悪,ヒドロモルフォン(以下HDM)注射製剤を投与し1.44 mg/日まで増量したが,悪心で継続困難となり当院へ紹介された.ガッセル神経節ブロックを施行後,下顎痛は軽快したが傾眠となった.HDMを中止,翌日に意識清明となり退院した.

【症例2】50歳男性.左上葉肺がんに対し化学療法を施行されていたが心窩部痛が出現,モルヒネ(以下MOR)徐放錠を600 mg/日まで増量するも疼痛コントロール困難となり当院へ紹介された.傍大動脈リンパ節腫脹に伴う内臓痛と判断し腹腔神経叢ブロックを施行,心窩部痛は軽減したが傾眠となった.MOR徐放錠を480 mg/日へ減量,翌日意識清明となり退院した.

【考察】2症例とも疼痛が軽減し,オピオイドが相対的過剰となり傾眠となった可能性が考えられた.

【結語】神経ブロックは難治性のがん疼痛に対して有効な手段となり得るが,患者の状態を慎重にモニタリングし,きめ細かな薬剤調整を行うことが重要である.

4. 腰痛にBaastrup病が関与していた1症例

大納哲也 青木利奈 藤井真樹子 濱﨑順一郎

鹿児島市立病院麻酔科

【はじめに】長期にわたる難治性腰痛に対しBaastrup病の診断が得られ手術を行うに至った症例を経験した.

【症例】症例は,51歳女性.4年以上前から腰痛を主訴に通院していた.腰椎分離症が痛みの原因ではないかと考えられ治療を続けていた.一時落ち着いていた痛みが強くなったため他県の病院を自ら希望受診したところBaastrup病と診断され,棘突起切除が施行された.以後激しい腰痛はみられなくなった.

【考察】Baastrup病は,隣接棘突起が接触することによって疼痛が生じる,1933年に報告された疾患である.通常は70歳以上に多くみられ発生機序的に椎体間高減少など腰椎の変形に伴って生じることが多いとされているが,本症例のように変性の少ない状態でも発症することがあり腰痛の鑑別疾患として重要であると考えられた.

5. 異なる要因により再発した外側大腿皮神経痛の1症例

大木 浩 島内美奈

鹿児島県立大島病院麻酔科

【はじめに】外側大腿皮神経痛(lateral femoral cutaneous nerve pain)は,外側大腿皮神経が圧迫または損傷されることによって引き起こされる.異なる要因により再発した外側大腿皮神経痛の症例を経験したので報告する.

【症例】56歳男性.166 cm,85 kg(BMI 30.8).201X年3月,大動脈解離手術後に右外腸骨動脈閉塞を認め右腋窩大腿動脈バイパス術を施行.直後から右大腿神経,右外側大腿皮神経領域の痛みが出現し6月当科初診となった.エコーガイド下外側大腿皮神経ブロックを合計14回施行,軽快し201X+2年9月終診となった.201X+5年12月,同じ領域,同じ性質の痛みが出現し当科再診となった.NRS 3/10の持続痛に加えて1時間持続するNRS 8/10の突出痛を認めた.体重が数カ月で10 kg増加していたことと数日前に労作時以外に著変はなかった.エコーガイド下外側大腿皮神経ブロックを施行,症状軽快し経過観察中である.

【考察】初発は手術による侵害刺激,再発時は体重増加に伴う外側大腿皮神経圧迫が原因であろうと想像された.

6. がん性腹膜炎に伴う腹部膨満感に対し,くも膜下鎮痛を施行し在宅医療へつなげた1例

前 知子 服部政治 河野 優

中部徳洲会病院疼痛治療科

【はじめに】がん性腹膜炎に伴う腹部膨満感は,腹水穿刺やオピオイド投与でも継続した症状緩和を得ることは難しい.今回,くも膜下鎮痛により腹部膨満感の軽減を得て在宅療養できた症例を報告する.

【症例】70歳女性.盲腸がん術後再発,がん性腹膜炎に伴う腹部膨満感が強く緊急入院した.硬膜外モルヒネの開始により,腹部膨満感は軽減し仰臥位が可能になった.3日後,くも膜下カテーテル留置およびアクセスポート造設術(intrathecal port:以下ITport)を施行した.腹部膨満感は改善していたが腹部膨隆による食思不振あり,11日目に腹水除去濃縮再静注法(以下CART)を施行した.CART後,食欲も改善した.訪問診療,訪問看護の調整を行い,くも膜下鎮痛の管理は当科で行う方針として,ITport挿入から1カ月後に退院した.退院3週間後,家族に囲まれて穏やかに自宅で死亡した.

【まとめ】がん性腹膜炎に伴う腹部膨満感は,腹水穿刺を行って一時的に改善してもすぐに腹水が貯留し苦痛が再燃することが少なくない.がん性腹膜炎に伴う腹部膨満感に対し,硬膜外鎮痛やくも膜下鎮痛は有用な方法であると思われた.

7. 胸部CTにて肺尖部腫瘍を指摘された頸椎ヘルニア症例

松尾敬介*1 中村清哉*2 比嘉達也*3 加治佐淳一*3 渡慶次さやか*1 垣花 学*2

*1琉球大学病院,*2琉球大学大学院医学研究科麻酔科学講座,*3おもろまちメディカルセンター

肺尖部腫瘍(パンコースト腫瘍)は腕神経叢や胸膜,椎体などに浸潤することで肩や上肢の疼痛,しびれなどの症状をきたすことが知られており,しばしば頸椎疾患として診断,治療されることがある.今回,頸椎ヘルニアの診断で治療中に胸部CTにて肺尖部腫瘍を指摘された症例を経験したので報告する.症例は50代男性.右肩痛と肩甲骨周囲の疼痛を主訴に前医受診.頸椎MRIで右C6/7ヘルニアの診断を受けていた.内服加療で改善なく当科外来を受診.身体初見では右肩,右肩甲骨内側に圧痛を認め,上腕への放散痛を認めた.安静時痛はNRS 8~10/10であった.胸部レントゲン画像では両側肺野に異常陰影なし.治療はC6神経根ブロックを施行し鎮痛効果あり,超音波画像上解剖学的構造異常なし.NRS 1/10まで軽減したためその後1カ月間外来受診なく経過したが,再受診時には疼痛再燃.胸部CTを施行し右肺尖部に胸壁,肋骨への浸潤を伴う腫瘍を認めた.本症例では胸部レントゲン上肺尖部異常を認めなかったため頸椎ヘルニアに準じて治療を開始していた.臨床症状の詳細な聴取に基づき追加の画像検査を行うことで早期発見ができたと考える.

8. パルス高周波法の出力を増大させるための生理食塩水持続注入の1例

大路牧人 大路奈津子

長崎労災病院

【はじめに】パルス高周波法(PRF)は安定した長期的効果を得られないことがある.PRFは出力が高いほうがより有効に作用すると考えられる.近年,側管付きのスライター針が使用できるようになり,薬液を持続投与しながら先端温度とインピーダンスをコントロールしたPRFが可能となった.

【方法】L5神経根PRFで高周波発生装置はTLG-10(株式会社トップ)を,熱凝固針は変更前は側管のないスライター針を,変更後は側管付きを用い冷蔵保管した生理食塩水を持続投与した.保存データより変更前・後の温度,インピーダンス変動,電圧,出力を比較した.

【結果】変更前後のPRF時の計測値をそれぞれ示す.平均温度:41.1℃から39.2℃に低下した.インピーダンス変動:上昇傾向から下降傾向に変化した.平均電圧:27.6 Vから57.2 Vに上昇した.平均出力:3 Wから25 Wに上昇した.

【考察】生理食塩水を側管から持続投与することにより,組織温度とインピーダンスを変化させられると推察される.それらがPRF出力を増加させるように作用した.

【結論】側管付きスライター針を用い生食を持続投与することにより,PRF出力が増加した.

9. フェンタニル貼付薬の基材に含まれる物質によるアレルギー反応の1症例

小杉寿文 久保麻悠子 小松祐也 田代 拓

佐賀県医療センター好生館

【はじめに】同一薬効成分であるフェンタニルを使用しているにもかかわらず,一方のフェンタニル貼付薬は問題がなく使用でき,一方はアレルギー反応を呈した症例を経験した.

【症例】40女性,左肩関節周囲と左上肢の慢性疼痛,15歳時に左肩関節脱臼に対する手術を機に発症.前医にて脊髄刺激療法(SCS)とワンデュロパッチ4.2 mgを導入.

【現病歴】オピオイド減量目的にSCSを入れ替えた.以前,フェンタニル貼付薬導入時にフェントステープを使用して皮疹を生じた既往があり,ワンデュロパッチを使用していた.当院はフェントステープを採用しており,ワンデュロパッチは臨時採用のため在庫管理上の問題で,フェントステープに変更できないかと考えた.本人に説明の上,一部をフェントステープに変更した.貼付8時間後ぐらいに口唇の腫脹を訴えたためワンデュロパッチのみに変更した.変更後は特に問題はなかった.

【考察】フェントステープとワンデュロパッチの薬効成分は同一のフェンタニルクエン酸塩であるが,貼付薬の基材として含まれている薬剤が異なっており,その成分によってアレルギー反応を呈したものと考えられた.

10. 「痛みの日記」の記載方法の変更により治療満足度が改善した1症例

西村絵実*1 園田拓朗*2 田代章悟*3

*1済生会川内病院,*2鹿児島市医師会病院,*3前原総合医療病院

令和5年に,鹿児島大学麻酔科主催「ペインクリニック市民公開講座」にて,各講師が痛みの種類や治療方法を紹介した.本症例では園田が紹介した「痛みの日記」を実践し,よい結果が得られたのでその経過について報告する(YouTubeで視聴可能,記載方法の説明あり).

【症例】22歳女性.1年前に子宮内膜症に対して内膜症性嚢胞核出術を受け,腹腔内の著明な癒着を指摘された.術後症状再燃により腹痛増悪し,当科紹介となった.初診時,吐き気,下痢,便秘と更年期症状があり流涙し不安定な精神状態を認めた.すでに使用していた鎮痛薬の使用方法を見直し,大建中湯を開始した.初診4週後,NSAIDs使用量が減少したが,「精神的にもつらい」と流涙した.初診7週後,「調子のよい日もある」と笑顔を見せた.初診時から自発的に痛みの日記を作成していたが,聴講後,記載方法を変更し,症状が改善している実感が得られたとのことであった.

本症例は,腹痛に対して大建中湯は有効であったが,消化器症状に対する予期不安強く,治療満足度が低かった.「痛みの日記」の記載方法を一目でわかる様式に変更したところ,痛みの認知が改善したと考えられる.

 
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