Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2025 Volume 32 Issue 6 Pages 139-141

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I はじめに

化膿性脊椎炎(pyogenic spondylitis:PS)は,腰背部痛や頸部痛を主訴とし発熱を伴うことが多い疾患であるが,典型的な兆候に乏しく診断に苦慮することも多い13).診断後の速やかな脊椎専門医・感染症専門医(以下,専門医)へのコンサルトが推奨されており1),診断の遅れは神経学的予後を悪化させる2).JA尾道総合病院で手術介入となったPSを対象に,手術に至るまでの経過を後方視的に調査し,特に診断の遅れにつながった要因について検討した.本研究は当院倫理委員会の承認を得ている(OJH–202178).

II 対象と方法

当院で2011年7月~2021年6月に手術介入を必要としたPS 30症例を対象とし,①年齢・性別,②診断時の疼痛・発熱(37.0℃以上)の有無,③診断法,④疼痛出現から診断までの期間,⑤PS病変部に一致した疼痛以外に神経学的異常が出現して初めてmagnetic resonance imaging(MRI)を施行した症例,⑥診断から専門医診察までの期間,⑦専門医診察から手術までの期間,⑧転帰を調査した.

III 結果

①年齢・性別は,中央値69.5[33~88]歳(20症例が65歳以上の高齢者),男/女=22/8であった.②診断時に全症例で病変部に一致した疼痛を認めたが,8症例で発熱を認めなかった.③全症例においてMRIで診断していたが,6症例は初回MRIで診断できていなかった.④疼痛出現から診断までの期間は,中央値12[3~90]日であった.⑤病変部に一致した疼痛以外に神経学的異常が出現して初めてMRIを施行した症例が8症例あった(表1).⑥診断から専門医診察までの期間は,0~1日(専門医が診断した場合は0日としてカウント)であった.⑦専門医診察から手術までの期間は,中央値3.5[0~42]日で,診察当日の緊急手術が6症例(⑤の症例が4症例,残りの2症例は麻痺など神経学的所見の出現はないが硬膜外膿瘍を認めたため緊急手術を施行)であった.⑧転帰は,死亡2症例,リハビリ転院16症例,退院12症例であった.⑤の8症例のうち自立歩行で退院できた症例は1症例のみであった(残りの22症例では9症例が自立歩行で退院).

表1病変部に一致した疼痛以外の神経学的異常が出現して初めてMRIが施行された8症例

症例 年齢 性別 発熱有無 併存疾患 疼痛出現~診断までの期間 MRI施行のきっかけとなった兆候 診断~手術までの期間 転院or退院時の移動状況
1 65 F 肝炎 14日 下肢運動障害 0日 杖歩行
(右下肢不全麻痺)
2 76 F 認知症,DM,腰椎圧迫骨折 約90日 鼠径部痛 30日
(保存的加療中に下肢運動障害が明らかに)
車椅子
(移乗一部介助)
3 54 M 知的障害,DM 約70日 体動困難 26日
(保存的加療の限界と判断)
車椅子
(移乗一部介助)
4 65 M 腸閉塞,DM,腰椎手術既往 14日 下肢運動障害 0日 車椅子
(移乗全介助)
5 57 M DM 23日 下肢運動障害 0日 車椅子
(移乗介助不要)
6 61 M 知的障害,胸腰椎圧迫骨折 不明 体動困難 21日
(保存的加療中に下肢運動障害が明らかに)
車椅子
(移乗一部介助)
7 79 F 胆管炎,RA,腰椎圧迫骨折 約30日 下肢運動障害 1日 車椅子
(移乗介助不要)
8 45 F 腎盂腎炎,アトピー性皮膚炎 5日 下肢広範のしびれ 0日 自立歩行

MRI:magnetic resonance imaging,DM:diabetes mellitus,RA:rheumatoid arthritis.

IV 考察

PSは,呼吸器感染症や尿路感染症などの一次感染巣から血行感染で脊椎へ波及して生じる24)ことが一般的であるが,近接した感染巣からの直達浸潤や手術・処置による直達経路も考えられている4).本邦において高齢化社会の進行に伴いPSの発症年齢は高齢化し,罹患率も上昇している3).PSの男女比は1.5~3:1で,高齢者・糖尿病や透析患者など易感染性宿主が増加していることでPSの治療リスクは高まっており,死亡率は2~11%,生存者の約1/3は神経学的後遺症に悩まされる2,3)

PSの主症状は腰背部痛や頸部痛と発熱であるが,近年は高齢者・易感染性宿主の増加により,疼痛の訴えが弱く発熱も乏しい症例が増えている2,3).診断にはMRIが非常に有用である13)が,初期にはMRIで診断できないことがあるので注意が必要である2,3).診断後の速やかな専門医へのコンサルトが推奨されており1),診断の遅れは神経学的予後を悪化させる2).手術や緊急処置を必要とする病態は,四肢麻痺・排尿障害の併発,頸椎化膿性脊椎炎・咽後膿瘍,髄膜炎である3).本検討30症例においても上述同様の傾向を認めた.高齢男性の罹患者が多く,全症例で病変部に一致した疼痛を認めたものの,8症例で発熱を認めなかった.また全症例においてMRIで診断していたが,6症例が初回MRIで診断できていなかった.PS診断後は全症例で速やかに専門医にコンサルトされていた.病変部に一致した疼痛以外の神経学的異常が出現して初めてMRIを施行された症例が8症例あった.その8症例のうち自力歩行で退院できた症例は1症例のみで,この1症例は運動障害が出現する前にPSを診断できた症例であった.

表1に示した8症例においてMRI施行が遅れた要因について考察する.疼痛と発熱はPSを疑う上で重要な所見ではあるが,どちらの所見とも認めていたにもかかわらずMRI施行が遅れたと考えられる症例が5症例あった.そのうち他の疾患・病態が併存していたために当初PSを疑わなかった症例が4症例あり,PS発症前から併存していた腰背部痛の増悪や腎盂腎炎による腰背部痛と判断してしまった症例が4症例,胆管炎など他の発熱性疾患を併存していた症例が3症例あった(それぞれ重複あり).

また発熱を認めなかった症例が3症例,認知症や知的障害があるため訴えや理学的所見を拾いにくかった症例が3症例あった.概して,持続する腰背部痛や頸部痛を訴えるときは発熱の有無にかかわらず血液データで炎症反応の有無を確認し,炎症反応を認める場合はMRIを施行することがよいと考える.

V 結語

2011年から2021年に手術介入となったPS 30症例について診断・手術に至るまでの経過を後方視的に調査した.PSは全症例でMRIを施行して診断されていたが,その施行の遅れは神経学的予後を悪化させる要因になりうると考えられた.PSが発症して早期はMRIで診断できない場合(6症例)があった.疼痛や発熱を認めてもそれらを評価困難な疾患・病態を併存している患者でMRIの施行が遅れがちとなっていた.病変部に一致した疼痛を全症例に認めたが,発熱を認めなかった症例が8症例あった.腰背部痛や頸部痛の診察では発熱の有無に関わらずPSの臨床的特徴を念頭に置いた対応が必要である.

本報告の要旨は,日本ペインクリニック学会第56回大会(2022年7月,東京)において発表した.

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