Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2025 Volume 32 Issue 6 Pages 142-146

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会 期:2025年3月1日(土)

会 場:埼玉医科大学かわごえクリニック6階大会議室

会 長:小幡英章(埼玉医科大学総合医療センター麻酔科)

■シンポジウム

1. 当院における術後疼痛管理チームの管理と運営

杉本真由

埼玉医科大学総合医療センター麻酔科

当院は,救急救命センターおよび総合周産期センターを有する1,053床の総合病院である.周術期管理に電子チャートと部門システムを導入し,統一した評価が可能となった後,2018年に看護師が主体となり術前患者外来を設立し,患者支援体制を強化した.このような基盤を活かし,2021年9月より麻酔科医,手術室看護師,薬剤師を中心とした術後疼痛管理チームを立ち上げ,2022年9月から術後疼痛管理加算を取得して活動が軌道に乗った.当院の術後疼痛管理チームの主な活動は以下のとおりである.

① 術前計画の説明:麻酔科の術前外来時に,術後疼痛管理計画について患者に説明する.

② 術後回診:チームで回診を行い術後疼痛の評価とPONV,咽頭痛,嗄声,神経障害などの合併症を早期発見して対応する.

③ フォローアップ:合併症が発見された場合,情報共有と適切なフォローを実施する.

④ データ管理と分析:術後回診台帳のデータを定期的に解析して,結果を麻酔科内で共有し改善策を提案する.

立ち上げからさまざまな課題があったが試行錯誤の結果,対象となる患者は年間約1,300症例である.初めに取り組んだ課題は各術式に対する術後鎮痛法の標準化と疼痛評価方法の統一であった.院内での疼痛評価方法や記載が統一されていない状況であったため,全病棟を対象に,術後疼痛やERASに関するe-learningを実施した後に,疼痛管理に関するアンケート調査を行い結果を公開した.情報の共有と各病棟の協力の結果,術後疼痛評価の記載項目や記入部位の統一化が実現した.術後尿閉やPONVによるiv-PCA中断などの各病棟におけるトラブルに対しても,持続投与内容の変更やPONVに対する各病棟への啓蒙活動など,試行錯誤しながら適切な解決策を模索中である.

当院でのトラブルシューティングや最近のデータを基にした合併症発生率の分析,改善案の詳細,さらには術後疼痛管理チームの今後の方向性についてなども検討し報告する.

2. 当院の術後疼痛管理チームの実際と課題

石田公美子 田中 聡

信州大学医学部麻酔蘇生学教室

当院では2023年5月より麻酔科医,周麻酔期看護師,薬剤師,手術室看護師,臨床工学技士からなる「術後疼痛管理(APS)チーム」を結成し,術後疼痛管理の質の向上に努めてきた.われわれは,麻酔科管理症例を対象に,チーム内で役割分担して痛みや合併症に対応しているが,これまで主治医や看護師が行ってきた病棟業務にAPSチームが介入することから,お互いのコミュニケーション不足や認識の違いにより対応が遅れることや十分に対応できないことが問題となってきた.

今回,当院の倫理委員会承認後(承認番号6233),麻酔記録と電子カルテ上の診療録情報を用いて肝切除手術患者を対象に後ろ向き研究を行い術後痛について検討した.その結果,硬膜外麻酔群は術後早期の痛みは抑えたが,術後2日目以降の痛みは増強し,フェンタニル持続投与群と比較して痛みの程度に差はなかった.また,硬膜外麻酔群ではアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬の使用率は年々上昇し,創部痛も低下傾向にあったが,その使用は術後3日目以降に多く,術後早期からの多角的疼痛管理の普及に課題があった.

今後は,それぞれの職種の役割を明確にし,術後疼痛管理について理解を深めてもらうための勉強会を積極的に開催し,鎮痛プロトコールの普及による多角的疼痛管理の標準化やデータベースに基づいた課題抽出と情報共有を行い,効率化と質の向上に努めていきたい.

3. 当院における術後疼痛管理チームの活動運営

須藤貴史

群馬大学大学院医学系研究科麻酔神経科学

当院の術後疼痛管理チームは周術期管理チーム委員会として立ち上げ,術後疼痛管理のプロトコル作成や術後回診の方法について検討を行ってきた.2022年からは手術部長,麻酔科医3名,集中治療部医師1名,歯科医2名,手術部看護師2名,患者支援センター看護師1名,薬剤師1名,ME 1名,管理栄養士1名,理学療法士1名,事務職員1名からなる周術期管理チーム専門委員会として再結成され,活動を継続している.同年7月からは専門委員会の構成メンバーを中心に術後疼痛管理チームを結成し,活動を行っている.麻酔科医10名,手術部看護師4名,薬剤師1名からなる.全身麻酔後も持続的な疼痛管理を行っている患者の術後回診を行っている.現在のところ,消化器外科,呼吸器外科,整形外科,婦人科を中心に持続硬膜外麻酔,患者自己調節鎮痛(IVPCA),持続神経ブロックによる持続的な鎮痛法を実施しており,当院の麻酔科管理症例の40%程度が周術期管理加算の対象として説明と同意取得,術後回診を行っている.本シンポジウムでは当院での術後疼痛管理チームの活動について現状について共有し,今後の周術期疼痛管理チームの課題に関わる課題について議論を行いたいと考えている.

4. 自治医科大学附属病院における術後疼痛管理チームの活動

堀田訓久 鈴木昭広

自治医科大学

自治医科大学附属病院の術後疼痛管理チームは2020年に発足した.チームは麻酔科医師,看護師,薬剤師,臨床工学技士,事務職員で構成され,術後回診は麻酔科医師と看護師で行い,診療録の入力サポートを事務職員が行っている.また,2カ月ごとに全職種によるチームミーティングを行い,業務の改善や見直しをしている.回診対象患者はIVまたは硬膜外PCAを実施している患者とし,PCAの適応は術後痛が強いと考えられる術式をリストアップして運用している.チーム発足時,すでにIV-PCAや硬膜外PCAは使われていたが,各病棟・診療科はそれぞれ独自の術後疼痛管理を行っていた.そこで,マルチモーダル鎮痛やアセトアミノフェン定時投与,術後悪心嘔吐の予防や対応など,クリニカルパスの見直しを提案し,病棟や外科系診療科と連携して術後疼痛管理の向上を目指している.問題点としては,限られた時間とマンパワーのため,全ての術後患者の回診は行っておらず,管理チームが直接関与できることには限界があるのが現状である.そのため,病棟スタッフを対象とした勉強会などを開催し,術後疼痛管理に興味を持つ病棟スタッフを増やし,連携を強化するための環境作りを目指している.

■一般演題

1. 医療従事者のストレスチェック

畑中浩成 松川 隆

山梨大学

【はじめに】医療は,患者急変で勤務がハードである.ストレスチェック制度は,メンタルヘルス不調の未然の防止を目的としている.ストレスの心理的な負担の程度を数値化する.心の健康診断である.

【目的】ストレスチェック制度の評価(後向き研究).

【方法】厚生労働省職業ストレス簡易調査票.

① 仕事のストレス

② 症状

③ 周囲のサポート

対象は認知症病院.約100名.看護師,事務職,技師,医師.2017年より2024年まで1年に1回施行.

【結果】① 看護師のストレスは医師より高かった.

② 勤務年数が長くなるとストレスは低くなった.

③ ストレスチェックの受検者は年々減少した.

④ 医師面談の希望者はいなかった.

【考察】ストレスチェックを受検することにより,自身のストレスを意識するようになる.ストレス度合を数値化する.ストレスチェックの受検者が減少しているのは,個人情報の漏洩の不安による.また,事業者自身も自分に対しての成績表と捉えている.医師面談を人事評価と捉えている.

【展望】職場環境改善が実感できなかった.職員間のcommunicationが必要.一人ひとりの行動変容からその輪を全体に広げていく.

2. パーキンソン病の痛みに対し薬物療法が著効した1症例

高橋綾子 山家陽児 小幡英章

埼玉医科大学総合医療センター麻酔科

パーキンソン病(Parkinson's disease:以下PD)は運動症状だけでなく,多彩な非運動症状を呈する.痛みはその代表的な症状の1つであり,生活の質(quality of life:QOL)を大きく低下させる要因となるため,適切な治療が求められる.今回,PDの痛みに対し,デュロキセチンに併用したワクシニアウイルス接種家兔炎症皮膚抽出液が有効であった1症例を経験したため,報告する.

症例は75歳男性.PD診断後,頸肩部・腰下肢に疼痛を認め,疼痛コントロール不良(VAS 51)にて当院受診.ミロガバリンベシル酸塩を開始するも複視が出現し,治療開始2週後よりデュロキセチンへ変更となる.その後疼痛軽減を認め,60 mg/dayまで増量し経過良好(VAS 16)であった.その後疼痛が増悪した際にワクシニアウイルス接種家兔炎症皮膚抽出液を併用したところ,疼痛が消失したためデュロキセチンを中止.以後ワクシニアウイルス接種家兔炎症抽出液のみで良好な経過を得られた.

PDの疼痛には,下行疼痛抑制系の減弱が影響している可能性が指摘されており,同経路を賦活化させる薬剤により症状の軽減が得られた可能性がある.

3. 頸部痛に対する血管周囲ファシアハイドロリリース鎮痛効果の検討(中間報告)

廣木忠直*1 木村裕明*2 須藤貴史*3 小幡英章*4

*1伊勢崎市民病院,*2木村ペインクリニック,*3群馬大学大学院医学系研究科,*4埼玉医科大学総合医療センター

【背景】頸部痛の原因として,組織虚血が指摘されており,血流正常化が治療手段となる可能性がある.本研究では筋膜性疼痛症候群(MPS)患者に,血管周囲ファシアハイドロリリース(FHR)を施行し,痛みと血流の変化を調べた.

【方法】頸部MPS患者に痛みvisual analog scale(VAS)を聴取し,頸横動脈または肩甲背動脈の血流を測定した.同部位でFHRを施行し,直後・1週後の血流,痛みを評価した.また日本語版疼痛生活障害指標(PDI-5-J)で生活の質を評価した.解析は対応のあるt検定・Bonferroni補正を用い,P<0.05を有意とした(シングルアーム介入研究).

【結果】10名でFHR施行前(54.8±10.2)と比較し,施行直後(21.1±12.4)および1週後(23.9±16.7)の動作時痛みVASは低下し(共にP<0.0001),1週後のPDI-5-Jも改善した.動脈血流はFHR直後に増加した(増加率95% CI:18.1~115.2%,P=0.0266).

【結論】MPSには虚血痛の要素があり,血管周囲FHRにより血流が増加すると痛みが改善する.

4. 乳房切除後疼痛症候群に対し胸椎傍脊椎ブロックが著効した1例

鈴木雄大 伊藤健二 伊藤美保 鈴木武志

東海大学医学部付属病院

【背景】乳房切除後疼痛症候群(以下PMPS)は乳がん術後に発生する疼痛であり,慢性的な経過をたどることが多く,本邦の発症頻度は20~30%とされる.PMPSは神経障害性疼痛に分類され,治療は薬物治療が第一選択となる.今回,薬物治療で改善が乏しかったPMPSに対して胸椎傍脊椎ブロック(以下TPVB)を行い,良好な鎮痛が得られた症例を経験した.

【症例】49歳女性,B領域の右乳がんに対し右乳房切除+センチネルリンパ節生検+乳房再建が施行された.術後創部の訴えが強く,主科よりトラマドール製剤・NSAIDs坐剤の処方がされたが,継続する疼痛のために当科紹介となった.神経障害性疼痛治療に準じた薬剤治療による改善は乏しかったが,トリガーポイント注射に加えキセノン照射を行ったところ一時的に改善を認めた.疼痛範囲を考えTPVBを施行したところ,4日程度の劇的な疼痛軽減を認めた.

【考察】PMPS予防としての末梢神経ブロックは有用との報告はあるが,発症後に関する報告は少ない.治療介入期間は今後のさらなる検討が必要となるが,TPVBはPMPS治療の一手として考慮できる.

5. 骨転移性疼痛に対してトラマドールが有効だった2症例

藤田 怜 荻原知美 井上 敬 小板橋俊哉

東京歯科大学市川総合病院麻酔科

骨転移性疼痛に対してトラマドールが有効な症例を経験した.

【症例1】74歳男性.直腸がん仙骨転移による仙骨部痛に対し第4病日よりタペンタドール100 mg/日を投与し,NRS 7~8の痛みが翌日NRS 2に改善した.両下肢の痛みに対し第18病日にタペンタドール150 mg/日へ増量した.転院調整に際しトラマドール200 mg/日へ変更し第33病日の転院までNRS 1と良好な鎮痛を得た.

【症例2】71歳男性.左腎盂がん肋骨転移による右側胸部痛に対しヒドロモルフォン12 mg/日を投与していた.NRS 7~8の側胸部痛と椎体転移による背部痛を認め,第2病日よりヒドロモルフォン18 mg/日,24 mg/日へ漸増,第7病日トラマドール100 mg/日の追加によりNRS 0~3に改善した.背部痛増強時もトラマドール200 mg/日へ増量し良好な鎮痛を得た.

トラマドールは比較的軽度のがん性疼痛に適応があり神経障害性疼痛に有効である.タペンタドールはより高度ながん性疼痛や骨転移性疼痛にも有効だが,販売終了に伴い使用は制限される.骨転移性疼痛に対するタペンタドールの代替薬やヒドロモルフォンの併用薬としてトラマドールが有用だった.

6. メサドンへのオピオイドスイッチングと心理的背景への対応を行ったがん疼痛の1症例

平賀証人*1 山田真紀子*2 齋藤 繁*3

*1群馬大学医学部附属病院麻酔・集中治療科,*2群馬大学医学部附属病院腫瘍センター,*3群馬大学大学院医学系研究科麻酔神経科学

【はじめに】難治性がん疼痛に対してメサドンは有用であるが,困難症例には発達障害が併存している場合がある.今回メサドンへのスイッチングとともに発達障害へ配慮を行った症例を経験したので報告する.

【症例】50代,男性.胃消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)の術後再発病変による病状進行にてX年Y月に入院,症状マネジメント目的に緩和ケアチームに依頼となった.非常に強い痛みにより内服のタペンタドール400 mg/dayとオキシコドン徐放薬50 mg/dayをオキシコドン注射薬100 mg/dayに置換し,ケタミン50 mg/dayを追加した.オピオイドとNMDA受容体拮抗薬のケタミンにより疼痛コントロールが得られてきたことから,メサドン45 mg/3へスイッチングを行った.疼痛の改善に対してどこがどのように楽になったかについては明確に答えられず,自己客観化がしづらい発達障害の特性があると判断した.痛みをイチゼロ的に捉えるのではなく生活上許容できるかの評価を促し,また本人からの質問に対してあいまいな表現は避け,今後の見通しについて率直に伝える対応を行った.

7. 術後痛の評価にverbal pain scaleを採用した取り組み

鈴木英雄 塚本 昇 藤田 尚 入山 渉 新井 学 鈴木優元

慶友整形外科病院

【はじめに】当院では2021年10月より術後疼痛の評価をface pain scale(FS:1~10)からverbal pain rating scale(VRS;0:痛みはない,1:ほんの少し痛い,2:痛いが薬はいらない,3:痛くて薬がほしい,4:かなり強く痛い,5:考えられる最大の痛み)に変更した.今回,術後疼痛の評価をFSからVRSに変更したことで術後疼痛管理がどのように変化したかについて検討した.

【調査項目】病棟看護師によるVRSとFSの使いやすさ,レスキュー使用の判断のしやすさの評価.THA術後疼痛スコアにFSとVRSを用いた場合の疼痛スコアの比較.

【結果】病棟看護師によるVRSの使いやすさ,レスキュー使用の判断のしやすさの評価では共にVRSの方が評価が高かった.THAの術後疼痛スコアにFSとVRSを用いた場合の疼痛スコアの比較では,FS群では術後4時間後の平均疼痛スコアが3.3(低下率81%)であったのに対し,VRS群では1.04(低下率57%)であった.

【結語】VRSによる術後疼痛の評価は評価者にとって使いやすく,術後疼痛スコアの軽減にも寄与する可能性があると思われた.

8. 非歯原性歯痛と誤診した歯原性歯痛の1例

大野由夏 髙木沙央理 小長谷 光

明海大学歯学部病態診断治療学講座歯科麻酔学分野

【緒言】非歯原性歯痛と誤診した歯原性歯痛の1例を経験した.

【症例】40代女性.

【経過】X−20年ごろより下顎右側の鈍痛自覚.複数の歯科医院受診し下顎右側第二小臼歯抜髄や感染根管治療を行うも鈍痛消失認めなかった.X−1年5月,「右下の奥から3番目くらいのブリッジを入れたところがずっと痛い」ことを主訴に本院初診来院.歯牙に器質的異常は認めないと診断され本院に紹介されたことから,本院初診時に画像検査およびポケット診査を行わなかった.食事中に疼痛を認めない,ストレスによる疼痛悪化,セルフマッサージによる痛みの減弱等認めたことから非歯原性歯痛と診断し,理学療法を開始した.X−1年6月,アミトリプチリンによる薬物療法開始も疼痛軽減認めなかった.X−1年11月,歯原性歯痛を疑い口腔内診察を行ったところ下顎右側第二小臼歯頬側遠心に4ミリのポケットを認めた.画像検査を施行したところ下顎右側第二小臼の歯根破折・穿孔が疑われ,痛みの原因は歯原性歯痛と考えた.

【考察】疼痛診療の開始前に歯科的精査を行うべきであった.

【結語】非歯原性歯痛と誤診した歯原性歯痛の1例を経験した.

9. 第3枝領域の三叉神経痛に対して下歯槽神経へのパルス高周波法が有効だった症例

本田善孝*1 須藤貴史*1 山田真紀子*2 三枝里江*1 齋藤 繁*1

*1群馬大学医学部附属病院麻酔・集中治療科,*2群馬大学医学部附属病院腫瘍センター

【はじめに】三叉神経痛は,突然生じる顔面の激痛で治療に難渋することが多い.カルバマゼピンは有効だが,副作用により使用できないケースもある.内服の継続が困難で,オトガイ神経への高周波熱凝固では制御できなかった第3枝領域の三叉神経痛に対し,下歯槽神経へのパルス高周波を追加し疼痛が緩和できた症例を報告する.

【症例】40歳代女性.右第3枝領域の三叉神経痛に対してカルバマゼピンの内服を開始したが,薬疹のために中止した.疼痛コントロール目的にペインクリニック外来を受診した.

【経過】バクロフェン,アミトリプチリン,トラマドール,ブシ末を用いて治療を開始したが,NRS 7程度の発作痛が続いたため神経ブロックを検討した.超音波ガイド下でオトガイ神経への高周波熱凝固を行ったが,右下歯痛が残存していたため下歯槽神経へのパルス高周波を追加したところ良好な鎮痛効果が得られた.

【考察】第3枝領域の難治性三叉神経痛に対して,オトガイ神経の高周波熱凝固に加え,下歯槽神経へのパルス高周波により大きな合併症なく疼痛緩和が得られた.下顎歯領域に疼痛がある症例では,下歯槽神経への神経ブロックが有用であると考えられた.

10. 股関節疾患と脊椎疾患の鑑別について

森 純一郎 篠崎未緒 濱口眞輔

獨協医科大学医学部麻酔科学講座

中高年者で下肢痛を伴う場合,脊柱管狭窄症などの脊椎疾患と診断されてペインクリニック外来へ治療依頼となることが多い.しかし痛みが鼠径部や大腿部に限定されるか,または特に強い場合は,椎間関節症や股関節疾患が併存していることも多く,硬膜外ブロックや神経根ブロックなどの神経ブロックの効果は断定的となるため鑑別する必要がある.股関節症の症状の特徴として,坐位から立位変換時や階段を昇るときに痛みが強くなり,坐位で痛みが増強する脊椎疾患との鑑別点となり,進行すると安静時痛や夜間痛を伴う.身体所見として鼠径部(Scarpa三角部)の圧痛やPatricテストが陽性となる.脊椎病変と股関節病変は併存することも多いが診断や治療法が異なるため,個々に対応する必要がある.症例提示もふまえて鑑別について発表する.

11. AKA-博田法による腰部脊柱管狭窄症術後患者の疼痛緩和効果について

住田憲是*1 尾崎祐一郎*2 山田信一*3

*1望クリニック,*2スガモ駅前整形外科,*3佐賀大学医学部附属病院ペインクリニック・緩和ケア科

【はじめに】現在,腰部脊柱管狭窄症の手術を行っても,腰痛,下肢痛,しびれに悩まされる患者は少なくはない.このような脊椎手術後の残存する痛みに関しては,仙腸関節機能障害が併存している可能性もある.そこでわれわれは,「関節運動学に基づき関節神経学を考慮し,関節包内運動の異常を治療する方法」であるAKA-博田法を用い,術後も症状が残存した患者3症例に対して,仙腸関節へのAKA-博田法を施行し,その効果を検討したため報告する.

【方法】腰部脊柱管狭窄症の手術後1年以内の患者3名で,腰痛,下肢痛,しびれを主訴としており,従来の治療法では改善がみられなかった者を対象とした.月に2回の頻度で,6カ月間AKA-博田法を施行した.

【結果】全ての患者において,6カ月以内に疼痛の消失または著しい軽減が認められた.

【考察】AKA-博田法は,関節の動きを正常化することで,疼痛を緩和する効果が期待される.本研究の結果は,AKA-博田法が,腰部脊柱管狭窄症術後患者の疼痛緩和に有効である可能性を示唆する.AKA-博田法は,従来の治療法では改善がみられない患者に対する新たな治療選択肢となる可能性がある.

12. デュロキセチンが奏功したと考えられる舌痛症の1例

堀越雄太 三枝 勉

埼玉医科大学病院

【緒言】舌痛症は,器質的変化や検査値異常は認めず,舌の痛みを訴える病態とされ,背景にストレスやホルモンバランス,ビタミンや微量元素の欠乏,神経障害性疼痛,口腔内環境などの関与が考察される.

【症例】62歳,女性,脂質異常症を除き健康.X−4年3月,歯科治療後より舌に痛みを認めたが自己観察していた.X−3年8月,同症状で他施設受診し,舌左辺縁部に粘膜剥離を認め,半夏瀉心湯,立効散開始した.鍼灸治療併用で痛みは改善傾向であったが,治癒に至らず,治療目的で当院紹介受診した.この際,口腔内にびらんや潰瘍など病的所見は認めず,numerical rating scale(NRS)は6と中等度だった.既存薬にデュロキセチン追加し,NRSは2まで改善した.

【考察】症例は,前医受診前に漢方薬により改善した食思不振や,ガムを噛む間は症状緩和がみられるといったエピソードがあり,口渇による舌痛症増悪に配慮し,SNRIを追加したが,これが寄与したと考えられる.

【結語】治療経過から,デュロキセチンが奏功したと考える舌痛症の1例を経験した.舌痛症に対する早期SNRI投与の有用性について,さらなる症例の蓄積が望ましい.

13. 無疹性帯状疱疹が疑われた頭部痛の1例

吉田賢一 山家陽児 清水健次 小幡英章

埼玉医科大学総合医療センター麻酔科

【背景】無疹性帯状疱疹は典型的な帯状疱疹と異なり,皮膚症候を伴わない水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化による神経障害のことである.皮膚症状を欠くため早期診断は困難となり,その後の疼痛の慢性化が予想される.今回,発症早期の無疹性帯状疱疹が疑われた症例を経験したので報告する.

【症例提示】71歳,女性.右頭部疼痛(V1領域)を自覚,近医皮膚科受診し皮疹なく,鎮痛剤の処方受けたが疼痛増悪し前医脳神経外科クリニック受診.頭蓋内病変を疑うも画像所見上異常なし.水痘・帯状ヘルペスIgG型抗体検査施行し,バラシクロビルの処方を受けた.後日,検査結果41.9と高値と判明,疼痛増悪し,睡眠障害を伴い当科紹介受診となった.疼痛強度の訴え(VAS 87)あり神経ブロック等の治療を開始.5日後にはVAS 32と改善し,睡眠障害も改善.治療2週目にはVAS 6とさらなる改善を認めた.治療4週後,症状消失し治療終了となった.

【結語】帯状疱疹の皮膚所見は特徴的であり,診断は臨床診察で下されることが多いが,皮疹にとらわれず,所見上可能性があれば積極的に抗体検査を施行し,早期治療を行うことが重要であると認識した.

 
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