2025 Volume 32 Issue 6 Pages 147-153
会 期:2025年1月18日(土)
会 場:御茶ノ水ソラシティRoom C
会 長:小杉志都子(慶應義塾大学医学部麻酔学教室・慶應義塾大学病院痛み診療センター)
開催形式:現地開催+オンデマンド配信
Clinical results and complications of trans-sacral canal plasty
船尾陽生
国際医療福祉大学医学部整形外科
近年の超高齢社会を背景に,脊椎領域においても最小侵襲脊椎治療が注目されている.最小侵襲脊椎治療の一つである経仙骨的脊柱管形成術(TSCP)は,局所麻酔下にフレキシブルなカテーテルによる硬膜外腔の機械的な癒着剥離により除痛効果を得る治療法である.今回われわれは,脊椎手術後疼痛症候群(FBSS)に対するTSCPの治療成績を検討した.対象は,慢性腰痛および下肢痛に対して7施設でTSCPを施行し,最低6カ月の観察期間を有する271例である.腰椎手術歴のある80例(F群:男性37/女性43例,平均72.7歳)と手術歴のない191例(N群:男87例/女性107例,平均70.2歳)の2群で,腰痛および下肢痛VAS値を比較し,術後3カ月時に50%以上VAS値が減少した例を有効と定義し,比較検討した.性別と年齢は,2群間に有意差を認めなかった.N群/F群の術前,術直後,術後1カ月,術後3カ月,術後6カ月の腰痛VAS値は51/52 mm,24/26 mm,33/34 mm,30/36 mm,30/36 mmと両群で有意に低下し(p<0.01),下肢痛VAS値も69/67 mm,28/27 mm,39/41 mm,36/43 mm,32/40 mmと有意に低下した(p<0.01).しかしながら,F群の術後3カ月,術後6カ月時の下肢痛VAS値はN群と比較し高値であった(p<0.05).腰痛の有効率は,N群37%,F群31%と2群間で差を認めなかったが,下肢痛の有効例はN群47%,F群33%とF群で低かった(p<0.05).次に,12施設で施行されたTSCP 766例において,周術期合併症を調査した.766例中,カテーテル先端の折損を16例(2.1%)に,硬膜損傷を15例(2.0%)(11例は術後CTで硬膜内造影像を呈した不顕性を含む)に,頭痛を7例(0.9%)に,一過性の神経障害を5例(0.7%)に,徐脈を4例(0.5%)に,血圧低下を3例(0.4%)に,局所麻酔中毒を2例(0.3%)に,その他仙骨裂孔の狭窄・閉鎖によるカテーテル挿入が不可もしくは困難であった例を5例(0.7%)に認め,特にFBSSでは剥離困難例も多く認めた.今回の結果より,TSCPはFBSSに対しても術後有意に疼痛を低下させていたが,FBSSでは硬膜外腔の癒着剥離が困難で,特に下肢痛の除痛効果は劣っていた.合併症に対して外科的処置を要した例はなかったが,イントロデューサーやカテーテルによる物理的な馬尾神経や神経根障害,硬膜外血腫による麻痺なども潜在的合併症として考えられる.合併症発生時の的確な診断や処置,また硬膜外血腫に対する迅速な外科的対応など,各種合併症に対する対応策は講じておく必要があると思われる.また,安全かつ有効な剥離操作などが今後の検討課題と考えられ,操作性の高いカテーテルの開発や内視鏡技術の発展も望まれる.
2. ラッツスプリングガイドカテーテル硬膜外神経剥離術―腹側硬膜外腔解放を目指して―Racz spring guide catheter epidural neurolysis―aim for releasing ventral epidural space stenosis―
内木亮介
西鶴間メディカルクリニック
難治性腰下肢痛の治療にはさまざまな方法が試みられている.筆者も硬膜外ブロック(EDB),神経根ブロック(RB)をはじめ硬膜外内視鏡による硬膜外腔癒着剥離術(エピドラスコピー:EDS)や,さらに椎間板性疼痛に対して経皮的髄核摘出術,椎間板加圧注水術などを行ってきた.これらの方法でも直後の鎮痛は得られても痛みが再燃する症例も多く,また外科的な観血手術を行い術後症状は消退しても,数年後再発した時の再手術は手技も複雑になり成績も初回ほどではないといわれている.言い換えれば決定的な方法はないといえる.
腰下肢痛は腰仙椎神経根がさまざまな原因で脊柱管,椎間孔などで圧迫,癒着を受けることにより炎症をきたし,その神経根領域のしびれ,痛みを引き起こすと考えられる.腰仙椎神経根は脊柱管から硬膜外腔を経て椎間孔,前仙骨管を通過して体内に至る.これらの神経根は硬膜外腔を通過する際に腹側硬膜外腔を経由する.脊柱管,神経根の圧迫,狭窄は,発症機序から腹側からの圧迫,癒着が原因と考えられ,効果的な鎮痛を得るには腹側硬膜外腔の圧迫,癒着を解除することが必要と考えられる.
Racz spring guide catheter硬膜外神経剥離術(R-PEA)は仙骨裂孔,椎間孔,S1後仙骨孔から硬膜外針を刺入し,さらに針の内部にRaczが考案したスプリングカテーテルを通して,X線透視下で腹側硬膜外腔にカテーテルを進めて生理食塩液による液性剥離を行うことで癒着剥離,狭窄解除を図る.本法の最大の特徴は腹側硬膜外腔での神経根の解放が得られる確率が高いことである.術前に硬膜外造影,硬膜外洗浄(EDL)などを行い標的部位をあらかじめ定めておけば,実際の手技にかかる時間は30分程度で済み当院のような無床クリニックでも十分対応が可能である.またカテーテルを腹側硬膜外腔に導くことで椎間孔,前仙骨管が解放され,神経根遠位での解放も可能となり神経痛は比較的速やかに解放される.術後に痛みの再発も起きるがこの痛みに対しては,ほとんどの症例でEDB,EDLで対処可能と考えている.さらに遺残する筋・筋膜性疼痛に対してリハビリテーションを加えることでより鎮痛効果を上げることが期待できると考え現在リハビリ科と治療を考案中である.ただし中には神経変性によると思われる痛みの遺残も見られ,ここが本法の限界と考え観血的治療を勧めている.
本講演ではわれわれのR-PEA手技の解説および実際の症例を紹介しさらに今後の課題を提唱する.
Stellate ganglion block is effective for intractable hiccups: a case report
茂木睦美 神﨑正人 不破礼美
日産厚生会玉川病院
【はじめに】吃逆に対する治療法のガイドラインはいまだ確立されておらず治療に難渋することがある.今回,難治性吃逆症に対し星状神経節ブロック(SGB)が有効であった症例を経験したので報告する.
【症例】76歳男性.既往症は高血圧のみ.
飲酒を契機に吃逆が出現し1週間以上持続していたため,当院内科を受診し芍薬甘草湯とエペリゾンを開始されたが改善せず,発症約2週間後に神経ブロックを希望して当科初診となった.1~2週間ごとにSGBを左右交互に3回施行したところ,治療開始から吃逆の頻度や持続時間は減少傾向となった.吃逆の原因精査のために消化器内科と神経内科にも紹介,CT検査等施行されたが吃逆の原因となるような明らかな所見は認めなかった.
【考察】吃逆は迷走神経,舌咽神経,横隔神経とT6~12の交感神経を求心路,延髄を中枢,横隔神経,迷走神経と肋間神経を遠心路とする吃逆反射によって発生すると考えられている.SGBは吃逆反射の抑制効果を示すと考えられ,内服薬のみでは治療に難渋する症例において有効な治療の選択肢となり得ることが示唆された.
【結語】星状神経節ブロックが有効であった難治性吃逆症の1例を経験した.
I–2 鼠径部ヘルニア術後慢性疼痛に神経根ブロックが有効であった1例A successful nerve root block for a chronic postoperative inguinal pain: a case report
黒田真由美*1 中川雅之*2 長谷川晴子*1 庄司詩保子*1 笹川智貴*1 長坂安子*1
*1東京女子医科大学麻酔科分野,*2NTT東日本関東病院
【背景】鼠径部ヘルニア術後慢性疼痛(CPIP)とは鼠径部ヘルニア手術後3カ月以降も痛みが継続する状態と定義される.治療には薬物療法や神経ブロック療法があるが,推奨される神経ブロック法は確立していない.今回,腸骨鼠径・腸骨下腹神経ブロック(IIIB)は奏効しなかったが,神経根ブロックを契機に疼痛が改善した症例を経験したので報告する.
【症例】60歳代,男性.15年前に施行された鼠径部ヘルニア術後の鼠径部痛(NRS 8)が出現した.薬剤性Stevens-Johnson症候群(被疑薬:アセトアミノフェン)の既往があり,薬物療法に先行して神経ブロック療法を行った.IIIBでは疼痛は改善しなかったため,L1神経根ブロックを施行したところNRS 0となった.その後NRS 4の疼痛が再燃したためミロガバリンを注意深く開始したところ,疼痛はNRS 1まで改善し神経障害性疼痛に矛盾しない経過であった.
【考察】IIIBは神経分枝位置によって効果が不十分となる可能性があり,より効果範囲の広い神経根ブロックが奏効したと考えられた.
【結語】CPIPに対して神経根ブロックは考慮すべき神経ブロック療法の一つである.
I–3 抗血栓薬休薬困難な腰椎椎間板ヘルニアに対し,コンドリアーゼ注入が著効した1例A case in which condoliase injection to lumber disc herniation patient who took two antithrombotic drugs was effective
中重大紀 上島賢哉 長田洋平 林 摩耶 安部洋一郎
NTT東日本関東病院
【背景】腰椎椎間板ヘルニアの治療は保存療法が原則だが,抗血栓薬内服中は出血リスクのため頻回の神経ブロックは困難となる.抗血栓薬休薬困難な腰椎椎間板ヘルニア患者に対し,コンドリアーゼ注入が著効した1例を経験したので報告する.
【症例】83歳男性,主訴はX−1カ月からの右腰痛と下腿外側部痛,NRS 8であった.下肢筋力低下やSLRT陽性,腰椎MRIなどからL4/5右傍正中ヘルニアを疑われたが,抗血栓薬2剤内服中のため整形外科より手術不可とされ当科紹介受診となった.有効性に乏しいとされる経後縦靱帯脱出型ヘルニアと考えたが,休薬による心血管系リスクが高く頻回の神経ブロックは困難のため,循環器内科と協議のうえ抗血栓薬1剤のみ休薬とし,入院にてL4/5椎間板内にコンドリアーゼ注入を愛護的に施行した.翌日にはNRS 2へ軽減し退院となった.1カ月後にはNRS 0,3カ月後も増悪なく,またMRI上もヘルニアの退縮を認めた.
【結語】抗血栓薬休薬困難な腰椎椎間板ヘルニア患者に対し,コンドリアーゼ注入が著効した1例を経験した.頻回の神経ブロックや手術療法を行わず低侵襲に疼痛軽減を得る有効な手段といえるだろう.
I–4 便秘症の治療により慢性乳房切除後疼痛が改善した1例Improvement of chronic postmastectomy pain with systematic treatment of constipation: a case report
河手森彦*1,2 若泉謙太*1,2 高岡早紀*1,2 星野麗子*1,2 小杉志都子*1,2
*1慶應義塾大学医学部麻酔学教室,*2慶應義塾大学病院痛み診療センター
症例は50歳女性.X−1年8月に右乳房全切除後の疼痛に対し薬物療法(トラマドール・アセトアミノフェン配合錠,NSAIDS,デュロキセチン)を行ったが反応せず,X年1月に当院を紹介受診した.前胸部から右腋窩・上腕にかけての疼痛(NRS 4~5)や感覚異常に加えて便秘症を訴えていた.疼痛に対してミロガバリンを追加した.便秘症に対してナルデメジン,酸化マグネシウムを追加したが便秘の改善なかったため,ルビプロストンを追加し,その2週間後にエロビキシバットを追加した.また疼痛に対してアミトリプチンを追加した.X年4月に便秘の改善とともに疼痛も軽減(NRS 1)し,X年6月以降,天候に関連して出現する疼痛に対して五苓散が奏効し,最終的に疼痛は消失し,トラマドール,ミロガバリン,アミトリプチンを中止することができた.近年,腸脳相関による痛みの慢性化が起きることが示唆されている(Anesth Pain Med. 2018.).日常診療では慢性疼痛に併存するADL低下や不眠などの副症状に対して介入が必要な場合がある.そのような副症状の一つとして便秘症への介入による有効性が示唆された.
A patient with refractory perineal cancer pain successfully treated with methadone
石川理舜 金谷弘之 板垣益美 佐藤英恵 松井美貴 鈴木孝浩
日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野
【背景】メサドンはµ受容体に作用する以外にNMDA受容体拮抗作用やSNRI作用を有する薬で,一般的な強オピオイドで対応困難な痛みに対して使用される.今回,ヒドロモルフォンやケタミンでも鎮痛困難であった会陰部がん疼痛にメサドンが有効であった症例を経験したので報告する.
【症例】88歳女性.約5年前に発症した小陰唇がんに対し,化学療法や放射線療法が施行されたが徐々に増悪し,会陰部の痛みのため体動困難となり緊急入院された.
【経過】入院後,ヒドロモルフォンやケタミンの持続静脈内投与を試みたが,鎮痛不十分で希死念慮が出現した.速やかに持続硬膜外PCAを導入し良好な鎮痛を得たが,転院に際し硬膜外鎮痛手段が障害となり代替鎮痛方法としてメサドンを導入した.全身状態を考慮し5 mg/日から開始し,10 mg/日で十分な痛みの軽減が得られた.
【考察】オピオイドやNMDA受容体拮抗薬を先行使用したが鎮痛は困難だった.本症例のような除痛困難な場合,オピオイド受容体やNMDA受容体拮抗薬を単剤で追加するより両方に作用するメサドンが効果的だったと考える.
II–2 子宮頸がんの馬尾転移による神経障害性疼痛にオキシコドン投与が奏功した1例A case of neuropathic pain due to cauda equina metastasis of cervical cancer successfully treated with oxycodone
井熊優香 岩﨑雅江 井野佑佳 金子美穂 石川真士
日本医科大学付属病院麻酔科・ペインクリニック
【背景】転移性馬尾神経腫瘍はまれである.今回子宮頸がんの馬尾神経転移による神経障害性疼痛にオキシコドン投与が奏功したので報告する.
【症例】88歳女性,X月に左下肢筋力低下と左腓腹筋痛を訴え,子宮頸がんの髄膜播種および馬尾神経転移の診断で当院転院となった.X+1月入院時,意識レベルJCS 0,PS 3,自覚症状は腰痛と左下腿の「ビリビリした」痛みで,馬尾神経転移による神経障害性疼痛と判断した.腰椎への緩和照射療法を行いながら,トラマドール塩酸塩アセトアミノフェン4錠/日,ミロガバリンベシル酸塩5 mg/日,ロキソプロフェン180 mg/日を内服開始したが,症状は改善しなかった.オキシコドン10 mg/日内服に変更したところ,腰背部痛はNRS 8から5へ,左下腿痛はNRS 6から4へ改善した.その後,誤嚥性肺炎となりオキシコドン持続静注へ変更,ジクロフェナクナトリウム貼付剤150 mg/日を併用し,症状はともにNRS 1となった.傾眠傾向に伴いオキシコドン注5 mg/日に減量し,X+2月緩和ケア病院にて永眠された.
【結語】子宮頸がんの馬尾転移の既報はない.本症例では馬尾転移に伴う神経障害性疼痛に対してオキシコドン投与が奏功した.
II–3 9年前から持続する右上肢痛の原因が乳がん原発の腕神経叢転移と判明した1症例A case of right upper limb pain lasting for 9 years diagnosed as metastatic brachial plexopathy due to breast cancer
高岡早紀*1,2 河手森彦*1,2 星野麗子*1,2 伊原奈帆*1,3 若泉謙太*1,2 小杉志都子*1,2
*1慶應義塾大学医学部麻酔学教室,*2慶應義塾大学病院痛み診療センター,*3慶應義塾大学病院緩和ケアセンター
乳がん転移の好発部位は骨や肺であり腕神経叢転移はまれである.今回,9年間持続する右上肢痛の原因が乳がんの腕神経叢転移と判明した症例を報告する.
【症例】70歳女性.X−23年右乳がんの診断で右乳房全摘とリンパ節郭清,術後放射線を受けた.X−9年右上肢の痛み,しびれ,浮腫が出現した.X−8年当院腫瘍センターで精査したが原因は不明であった.X−4年当院整形外科を受診し,誘発試験の陽性所見はMorleyのみと非典型的ではあったが胸郭出口症候群の可能性が指摘され,X−1年手術が行われた.術後,痛みとしびれ,浮腫,筋力低下が進行し,同年当科を受診した.痛みの範囲は右上肢全体に及び,強さはNRS 9,筋力はMMT 1~2であった.頸椎MRIで有意な所見を認めず,針筋電図で上神経幹の障害が疑われた.遅発性放射線障害の可能性も考慮したが,強い痛みの訴えが非典型的であった.X年浮腫が進行し,CTで腕神経叢に沿う腫瘤を認めた.生検の結果,乳がん原発の腕神経叢転移の診断に至った.
【結語】進行の遅い乳がんは一般的な観察期間を超えて再発する潜在的リスクがある.痛みの経過が典型的でない場合,悪性腫瘍の鑑別を忘れてはならない.
II–4 後横隔膜脚腔が狭小化して手技が困難な中,内蔵神経ブロックが著効した膵尾部がんの症例A case of pancreatic cancer with effective splanchnic nerve block, despite difficult block technique due to the small retrocrural space
小薗祐紀*1 濱岡早枝子*2 千葉聡子*2 原 厚子*2 河内 順*2 川上桃子*2 井関雅子*2
*1江東病院麻酔科,*2順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座
症例は40代女性,2年前膵尾部がん,がん性腹膜炎を指摘されその後肝転移が出現し化学療法を行っていた.腫瘍浸潤による疼痛のため,オピオイドでのコントロール不良となり当科紹介となった.初診時左上腹部痛はNRS 7~10/10と強かったが全身状態は神経ブロックの施行に問題なく,内臓神経ブロックを予定した.しかしCT画像から腫瘍の増大によりTh12/L1での後横隔膜脚腔(retrocrural space)の狭小が判明したため,穿刺はL1/2より行った.X線透視下で経椎間板アプローチで行い,椎間板を超えたときの抵抗消失が分かりづらかったが,良好な造影所見が得られたため2%メピバカイン10 mlを投与し,5分後に無水エタノール10 mlを投与した.最後の2~3 mlを注入する際,患者は前胸下部の圧迫痛を訴えたが投与後は消失した.その後合併症はなく,NRS 0となり退院となった.
今回の内臓神経ブロックは事前にretrocrural spaceの狭小化を確認しL1/2から穿刺し良好な効果が得られた.さらに腫瘍が増大すればブロックが困難となるため,内臓神経ブロックに関して早めの紹介を啓蒙していく必要がある.
II–5 偽薬がオピオイド嗜癖/依存患者のオピオイド内服量の減量に奏功した1例A case of success in reducing opioid dosage in an opioid addicted/dependent patient with a sham medication
宮崎 有*1 金 徹*1 石川真士*2
*1日本医科大学千葉北総病院,*2日本医科大学
【緒言】⾧期オピオイド療法は嗜癖/依存をきたす可能性がある.今回われわれは偽薬の使用によりオピオイド内服量を減らすことのできた症例を経験した.
【症例】76歳女性.26年前に右肩腱板断裂に対して右肩腱板断裂修復術を施行した.術後より右上肢が動かしづらくなり右肩・右首の疼痛が出現し,1年後にはうつ病を発症した.脊髄神経刺激装置や神経ブロック,非オピオイド鎮痛薬の内服をしたが疼痛コントロール不良であったため頓用でモルヒネ塩酸塩(モルヒネ)の内服を開始した.その後,10年以上にわたりモルヒネの内服を継続した結果,一日280 mg~440 mgのモルヒネを内服するようになっていた.疼痛時にモルヒネを内服する前に偽薬の内服を指示した結果,偽薬開始から2週間後にはモルヒネ塩酸塩は一日160 mgに減った.
【考察】本症例では⾧期のモルヒネ内服によってオピオイド嗜癖/依存をきたした.嗜癖は条件反射によって引き起こされるとの報告がある.疼痛時に偽薬を内服し薬物摂取動作を完了することで条件反射を抑制しモルヒネの内服量を減らすことに成功したと考えられる.
【結語】偽薬は過量なオピオイドの内服量を減らせる可能性がある.
Effect of AKA Hakata method on sacroiliac joints for lower back and lower limb pain and numbness
住田憲是*1 尾崎祐一郎*2 住田憲祐*2 山田信一*3
*1望クリニック,*2スガモ駅前整形外科,*3佐賀大学医学部附属病院
AKA博田法とは「関節運動学に基づき関節神経学を考慮して,関節包内運動の異常を治療する方法」である.慢性腰下肢痛に関しては,仙腸関節機能障害が存在していると注目されており,AKA博田法に反応する症状は関節包内運動の障害と考えられる.このため仙腸関節機能障害は仙腸関節へのAKA博田法の効果が期待できる.今回われわれは,他院で手術をすでに施行された,または勧められた腰下肢痛・しびれの症状を持つ患者に対して仙腸関節へのAKA博田法を行い改善の得られた13症例を経験したため報告する.症例はMRIで椎間板ヘルニアまたは脊柱管狭窄症と診断された患者で男4例,女9例であった.感覚障害や運動麻痺は認められず,痛みとしびれが持続していた.AKA博田法を行い,全例5回の施行で痛みだけではなくしびれ症状は緩解した.1~2月に1回の施行により症状緩解が持続できている.仙腸関節を中心としたAKA博田法を行うことで全症例改善したことから,MRIの画像所見との因果関係よりも関節機能障害が症状の多くを占めているものと考えられた.発表では腰下肢の痛みとしびれ症状は画像所見に偏重した診断治療に対する問題点を挙げ,考察を行う.
III–2 出産を契機に発症した仙腸関節痛に理学療法が奏功した1症例Sacroiliac joint pain triggered by childbirth successfully treated with physical therapy: a case report
篠原佑太 石川愛子 川上途行 若泉謙太 小杉志都子
慶應義塾大学病院痛み診療センター
【症例紹介】40歳代女性.
診断名:右仙腸関節痛.
現病歴:X−15年の出産を契機に腰痛・仙腸関節痛を発症し,寛解・再燃を繰り返して当院を受診.X年より理学療法を開始した.
【理学療法評価】疼痛は右PSIS部(NRS 7~8/10)に集中し,寝返りや腰椎伸展・回旋動作で増悪,ストレッチやNSAIDsで軽減した.MMT(右/左)では中殿筋2/3,腹斜筋群2/2であり,右脊柱起立筋と右大腿筋膜張筋に過緊張が確認された.自動的下肢伸展挙上運動(ASLR)では,右下肢挙上時に疼痛を認めたが,骨盤側方圧迫介助により疼痛が消失した.腰椎MRIでは,神経圧迫の所見は認めず,多裂筋の脂肪変性が認められた.上記より,骨盤帯−体幹の筋力および柔軟性の低下が疼痛に関与することが疑われた.
【介入】①骨盤帯−体幹筋群の筋力トレーニング,②過緊張筋群のストレッチ,③動作指導(寝返り動作など).
【結語】出産を契機とした腰痛・仙腸関節痛の症例であり,仙腸関節の不安定性を認めた.そこで,疼痛軽減動作(ASLR)に着目し,理学療法を実施した結果,骨盤帯−体幹の筋力向上とともにASLR時の疼痛が消失し,症状の改善(NRS 2/10)を示した.
III–3 過敏性腸症候群にプレガバリンと抑肝散が著効した症例Case in which pregabalin and liver-inhibiting powder were effective for irritable bowel syndrome
谷 葉央*1 田邉 豊*2 天野功二郎*2 権藤栄蔵*2 中村尊子*2 吉川晶子*2 宮崎里佳*2
*1板橋中央総合病院,*2順天堂大学医学部附属練馬病院
過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)にプレガバリンと抑肝散が著効した症例を経験したので報告する.
74歳,女性.
【主訴】下腹部痛.
【現病歴】約1年前に受けた上行大動脈置換術後から下腹部痛が持続し,器質的疾患を認めないと当院外科・婦人科から紹介を受けた.
【現症】鈍痛,明け方に痛くなり,腹痛に伴い便意が12回/日起こることもあった.NRS 8.心理社会的背景の問診で生来健康であったにもかかわらず,2年前のアブレーション治療後から神経質となり,大動脈瘤に対する上行大動脈置換術の経験は衝撃的でさらに子どもの入院で見舞いにも行けなかったことなど,流涙しながら話された.
【治療経過】生活環境の変化で強い不安感が潜在し,自律神経のバランスが崩れIBSが生じたと診断した.病態を説明し,プレガバリンと抑肝散の投与を開始した.下腹部痛はNRS 6,夜間良眠となり,その後NRS 3で日常生活に問題はなく経過している.
【まとめ】プレガバリンと抑肝散が抗不安作用をもたらし,IBSを改善させたと考えられた.慢性疼痛において心理社会的背景の影響に目を向け診察する重要性を再確認した.
III–4 医療トラウマを伴う複合性局所疼痛症候群にテーラーメイドの心理療法が奏効した1例A case of complex regional pain syndrome with a medical trauma successfully treated by a tailor-made psychotherapy.
森 喜代子 眞島裕樹 河手森彦 高岡早紀 若泉謙太 小杉志都子
慶應義塾大学病院痛み診療センター
症例は40代女性.X−2年,右足の外傷を契機に複合性局所疼痛症候群を発症した.X−1年8月,脊髄刺激療法を開始して痛みが軽減したが,10月のコロナワクチン接種後に痛みが増悪した.その後,次第に主治医に対する不信感が蓄積し,転院希望によりX年,当院に紹介受診となった.前医とのトラブルを訴える傾向が強く,心理アセスメントの必要性から心理師面接を行い,フラッシュバック体験を伴う医療トラウマであることが判明した.専門的なトラウマ治療技法と催眠鎮痛を取り入れたテーラーメイドの心理療法により痛みの強さ(VAS)は14カ月で72から27に減少し,破局的思考(SCS)は9から1に減少した.PTSD症状(IES-R)は18カ月で60から12に減少し,精神的苦痛(K6)は15から3に改善した.今回,合意を得たうえで行われた適切な医療行為でも,医療トラウマとして痛みの難治化の要因になってしまった症例を経験した.医療トラウマの治療は専門性が高く,患者の心理状態や背景因子を的確に理解する必要がある.痛みセンターにおける多角的評価に基づいたテーラーメイドの心理療法が医療トラウマの克服と痛みの改善に寄与した.
III–5 脊椎手術後症候群に対して腸肋筋と腰方形筋間への局所麻酔投与が奏功した1例A case of successful local anesthetic administration between the iliocostal and quadratus lumborum muscles for failed back surgery syndrome
中島愛理沙 田村美穂子 卜部繁彦 林 摩耶 中川雅之 上島賢哉 安部洋一郎
NTT東日本関東病院ペインクリニック科
【はじめに】脊椎手術後症候群(failed back surgery syndrome:FBSS)に対する神経ブロック治療は標的組織近傍のインストゥルメントにより施行可能な選択肢が限られる.今回われわれはFBSSによる腰痛に対し腸肋筋と腰方形筋間への局所麻酔薬投与が奏功した1例を経験したので報告する.
【症例】80歳男性.3年前に胸腰椎後方固定術を受けた.術後に右腰痛が残存し当科紹介受診した.L3/4から4/5レベルの右腰部に圧痛を伴う安静時痛と体動時痛を認めた.術後MRIでは腸肋筋の脂肪変性を認め,筋筋膜性疼痛の診断的治療目的に腸肋筋と腰方形筋間に局所麻酔薬を定期的に投与した.疼痛は徐々に改善し2カ月後には同部位の違和感に変化した.
【考察】本症例ではインストゥルメントにより腸肋筋が圧排され変性し,支配神経である後枝外側枝が障害された可能性がある.後枝外側枝をブロックし効果を得られたと考えられる.また腸肋筋と腰方形筋を隔てる胸腰筋膜も発痛源として注目されており,筋膜へも作用した可能性がある.
【結論】腸肋筋と腰方形筋間への局所麻酔薬投与はFBSSによる腰痛に対して有効である可能性が示唆された.
A patient of Barre-Lieu syndrome effectively treated with stellate ganglion block.
小島 悠 佐藤英恵 松井美貴 北島 治 高木俊一 鈴木孝浩
日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野
【緒言】Barre-Lieu症候群は,頸椎症などに伴うさまざまな自律神経症状を一つの症候群としてBarre氏とLieu氏が報告した疾患である.後頸部交感神経系の興奮に伴う,頭痛や耳鳴,視覚障害,めまいなどの多彩な症状を主体とし,他覚所見に乏しいため,診断・治療に難渋することが多い.今回,変形性頸椎症に合併したBarre-Lieu症候群に星状神経節ブロックが奏効した1症例について報告する.
【症例】47歳女性.6年前より変形性頸椎症と頸肩腕症候群で近医整形外科で加療されていた.1カ月前よりめまいと浮動感を自覚し,脳脊髄液減少症が疑われ,当科を紹介受診した.両側後頸部にNRS 3の鈍痛があったが,明らかな神経症状は認めなかった.めまいは頭部回旋の際に出現し,耳鼻科の診察で良性発作性頭位めまい症などの耳性めまいは否定された.変形性頸椎症に伴う自律神経症状と考え,Barre-Lieu症候群の診断の下,星状神経節ブロックを施行した.1回/週,計3回施行したところ,めまいが消失し,頸部痛も改善したため終診となった.
【結語】めまいを主徴とするBarre-Lieu症候群症例において,星状神経節ブロックは有用であった.
IV–2 LDISQ-Cによる経皮的椎間板減圧術が著効した頸椎椎間板ヘルニアの1例A case of cervical disc herniation with excellent response to percutaneous disc decompression using LDISQ-C
増田清夏 木村信康
医療法人徳洲会湘南藤沢徳洲会病院痛みセンター
【はじめに】頸椎椎間板ヘルニアに対するLDISQ-Cを使用した経皮的椎間板減圧術の報告は少なく,その治療効果については十分に検討されていない.LDISQ-Cが有効だった症例を報告する.
【症例】30代男性.2週間前,起床時に右頸肩腕痛が出現した.その後は頸部後屈で疼痛が増強し,仰臥位になれず,眠れない状態が続いていた.痛みは首から肩に広がり,母指にしびれを伴っていた.半年前にも左側に同様の症状があり,整骨院の治療で軽減したが,右側に同様の症状が出現したため当院を受診した.NRS 8/10,JacksonテストおよびSpuringテストは右側で陽性.頸椎MRIでC5/6およびC6/7に椎間孔狭窄を認め,星状神経節ブロックと腕神経叢ブロックを実施した.一時的に症状は改善したが後屈でのしびれが残存したため,椎間板造影を行い,椎間板高が低下していたC5/6に穿刺が可能であることを確認後,LDISQ-Cを施行した.術直後より痛みは半減し,しびれも改善した.
【考察】LDISQ-Cは早期に有効性を示し,保存療法で十分な効果が得られない頸椎椎間板ヘルニアの治療において有用な選択肢となり得る.
IV–3 リードレスペースメーカー移植後に脊髄刺激療法を安全に施行できた1症例Experience of spinal cord stimulation therapy for a patient with leadless pacemaker implantation
原 詠子 小林玲音 高岡春花 武冨麻恵 米良仁志
昭和大学医学部麻酔科学講座
【はじめに】心臓ペースメーカー(PM)移植後の患者に脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)を併用する場合,PMセンシングの阻害による誤作動が懸念される.従来のPM移植後患者に対するSCSの安全性を示した報告は散見されるが,Leadless PM(LPM)移植後に使用できた報告は少ない.
【症例】60代女性,既往歴:20代慢性腎不全で透析導入,60代洞不全症候群でLPM挿入.現病歴:X−2年9カ月,腰部脊柱管狭窄症に対して後方固定術が施行されたが,腰下肢痛継続とADL低下のため,X年,SCS植え込み術を施行した.術中術後に両者の機器相互作用の確認をすることで安全にSCS植え込み術を施行することができた.
【考察】本症例では,両者が双極刺激であること,各電極間の距離,術中に各刺激でのPMへの干渉の確認,術後は許容最大出力の30~60%の刺激設定にしたことなどから,従来のPMと同様に安全に植え込み術を施行できた.今後も個々の症例に応じた両者併用の安全性への追求が必要である.
IV–4 脊髄刺激電極トライアルから時間が経過したために埋め込み術に難渋した症例A case of difficult spinal cord stimulation implantation due to time elapsed since the lead trial
木村信康 増田清夏
湘南藤沢徳洲会病院
【はじめに】脊髄刺激電極トライアルから埋め込み術まで約11カ月経過し,硬膜外腔の癒着で難渋した症例を経験した.
【症例】80代女性で,胸腰椎圧迫骨折,腰部脊柱管狭窄症のため,右臀部から下肢の痛みに対して外来で神経ブロック治療を施行していた.治療の効果が一時的であったため,慢性腰下肢痛に対して脊髄刺激電極トライアル(以下,トライアル)を施行した.電極挿入時は硬膜外腔の癒着は認めず,リードの挿入はスムーズに施行できた.トライアルの施行中に痛みが半減し,歩行時の杖が不要になったため埋め込み術を計画した.脊髄刺激電極埋め込み術(以下,埋め込み術)は他科の先生と一緒に施行していたため,埋め込みまで約11カ月を要した.脊髄刺激電極埋め込み術は全身麻酔下で行った.電極挿入時に癒着が強く,ガイドワイヤーを使用しても癒着が剥離できずに挿入に難渋した.
【考察】一般的にトライアルから埋め込み術まで約1~2カ月以内に行うことが推奨されているが,文献検索を行っても過去にこれらについての報告はなかった.今回この症例を経験して,他施設でトライアルから埋め込み術までどのくらいの期間で行っているかを議論したい.