Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2025 Volume 32 Issue 6 Pages 154-160

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テーマ:慢性疼痛へのアプローチ

会 期:2025年2月8日(土)

会 場:アクトシティ浜松コングレスセンター

会 長:中島芳樹(浜松医科大学医学部麻酔・蘇生学講座)

開催形式:現地開催

■教育講演

1. 痛みに使える漢方診療

木村哲朗

浜松医科大学医学部附属病院麻酔科蘇生科

私たちペインクリニシャンは,多角的なアプローチで痛みに苦しむ患者さんと日々向き合っています.漢方薬は有効な治療手段の一つですが,西洋医学とは理論体系が異なり,特有の専門用語も多いため,ハードルが高いと感じる方もいるかもしれません.しかし,他の治療法で効果が得られなかった痛みに,漢方薬が驚くほど有効なことや,時には主訴以外の症状が改善することで患者さんとの信頼関係が深まることもあります.さらに,日本では均一で高品質なエキス製剤が保険診療で利用できるという大きな利点があります.そんな漢方薬を使わない手はありません.

臨床では,まず使ってみることが重要です.本講演では,痛みの原因を6つに分類し,それぞれに適した漢方薬を処方のポイントとともにご紹介します.

・筋緊張の亢進:芍薬甘草湯

・水分バランスの乱れ:五苓散,当帰芍薬散

・血流障害:桂枝茯苓丸,疎経活血湯,治打撲一方

・冷え:当帰四逆加呉茱萸生姜湯,桂枝加朮附湯,真武湯

・加齢性変化:八味地黄丸

・ストレスや情動の影響:抑肝散,柴胡剤

治療の選択肢が限られていると感じたとき,漢方薬という新たな引き出しを活用して診療の幅を広げてみませんか?

2. ペインクリニックから多職種チームによる痛み診療へ

杉浦健之

名古屋市立大学大学院医学研究科麻酔科学・集中治療医学分野,名古屋市立大学病院いたみセンター

ペインクリニックでは,半世紀以上前から各種神経ブロック,低侵襲外科的介入等を駆使して,患者の苦痛を和らげてきた.また,神経障害性疼痛の病態解明が進み,従来の鎮痛薬のみならず新たな薬物治療が選択できるようになったことは大きな進歩である.ところが,進歩したインターベンショナル治療,新規内服治療薬だけでは太刀打ちできない患者にもしばしば出会う.このように,さまざまな背景を持つ患者に対し,痛み診療のトレンドも変わりつつある.

痛みを訴える患者,特に慢性疼痛の患者においては,生物心理社会モデルを用いた評価の重要性が高まっている.そこで当院では,ペインクリニックを核として,医師,看護師,臨床心理士,理学療法士,薬剤師など多職種が関わる“いたみセンター”を開設した.手探りで始めた多職種診療であるが,常に患者を中心とした診療を心がけ,毎週行われる多職種カンファレンスにて治療方針とゴールについて話し合い情報共有を行っている.7年目を迎えた当院いたみセンターにおける多職種チーム診療について紹介し,活動上の問題点なども取り上げながら,慢性疼痛へのアプローチの一選択肢として多職種診療のメリットを伝えたい.

3. 周術期鎮痛から始める緩和ケア

小林 充

聖隷三方原病院麻酔科

ペインクリニック学会や緩和医療学会において,インターベンショナル治療の担い手不足がしばしば取り上げられている.その背景には,薬物療法やがん治療自体の進歩による適応症例の減少,手術件数の増加に伴う麻酔科医のマンパワー不足,さらにはそれらが相まって経験や教育機会が減少していることが挙げられる.また,がん性疼痛に対する神経ブロックの特殊性(神経破壊など)やその技術習得の敷居の高さも影響し,麻酔科医と緩和インターベンショナル治療の間に隔たりが生じているのが現状である.

しかし,必ずしも特殊な技術を持たなければ,麻酔科医としてがん性疼痛にアプローチできないわけではない.当院では2年前より,緩和支持治療科やホスピス科の医師と合同で,がん性疼痛に対するインターベンショナル治療の適応について定期的にカンファレンスを行っている.その中で,硬膜外鎮痛や末梢神経ブロックを実施し,患者のQOLが改善した症例を多数経験してきた.本発表では,その一部を紹介するとともに,一般麻酔科医が持つ周術期鎮痛の技術が,緩和インターベンショナル治療の入り口となり得る可能性について考察する.

■一般演題

A–1 VTストームを繰り返す重症虚血性心筋症の患者に星状神経節ブロックを施行した1症例

秋永泰嗣 石野起也 内山智浩 山本洋子

掛川市・袋井市病院企業団立中東遠総合医療センター

【症例】76歳男性,168.4 cm,63.5 kg.

X年6月29日に腎機能低下,呼吸苦および重症心不全で当院入院となった.

【臨床経過】入院後著明な心機能低下を認めたため心臓カテーテル検査を施行,重症虚血性心筋症の診断でIABPを装着.脈なしVTをはじめ心室性の致死的不整脈を繰り返し,心停止と蘇生を複数回行う状況であった.

麻酔科に星状神経節ブロックの施行について相談あり,8月1日に1%メピバカイン3 ml,8月5日に0.75%ロピバカイン3 ml使用しエコーガイド下に星状神経節ブロックを施行.1回目のブロック施行後よりVTの出現はなく,2回目ブロック施行後,同日中に抜管およびIABP離脱することができた.

【考察】近年,星状神経節ブロックが心室性不整脈に対し効果があることが示されており,本症例においても内科的治療に対して難治性であったVTストームを2回の星状神経節ブロックにて抑制し,呼吸器管理および補助循環から離脱することができた.

【結語】VTストームを繰り返す重症虚血性心筋症の患者に対し星状神経節ブロックを行うことによってVTの出現を抑制し,抜管およびIABP離脱を行うことができた1例を経験した.

A–2 慢性難治性の椎間板性腰痛に対して,脊髄刺激療法が有効であった症例

三村真一郎

浜名病院

50歳女性.介護士.X−20年ごろから慢性腰痛あり.X−3カ月に腰痛増悪したため当院整形外科受診.内服中心に加療されたが奏功せず,当科紹介.トリガーポイント注射や仙腸関節ブロックなどの併用療法を施行した.

X+3カ月ごろより左下肢痛も認め,MRIでL5/S椎間板の後方膨隆を認めた.椎間板ヘルニアの診断で硬膜外ブロックなどの各種インターベンション施行・継続し,X+1年3カ月ごろには下肢痛は許容内まで軽減した.

しかし,腰痛は残存.腰椎椎間板の膨隆などから椎間板由来の痛みも疑ったが,椎間板ブロックは穿刺困難であった.弱オピオイドを導入したが効果不良であり,仕事への支障もあったが,外科的加療は適応外とされた.

腰部高位硬膜外ブロックが奏功したため,X+1年5カ月に両側のL2神経根パルス高周波法施行.一時的ではあるが仕事に支障をきたすほどの腰痛は軽減した.L2神経根への痛み信号入力も関与していると思われ,X+2年に脊髄刺激療法のトライアルを施行して奏功した.長期的な腰痛軽減の目的で,X+2年2カ月に脊髄刺激電極植え込み術施行.満足度の比較的高い腰痛緩和が持続した.当症例について考察を加えて報告をする.

A–3 ペインクリニシャンが主導する産褥期の硬膜外穿刺後頭痛に対する包括的アプローチ

山口智子*1 小林賢輔*1 成瀬 智*2 加藤弘美*3 木村哲朗*1 御室総一郎*4 中島芳樹*4

*1浜松医科大学医学部附属病院麻酔科蘇生科,*2浜松医科大学医学部附属病院周産母子センター,*3浜松医科大学医学部附属病院集中治療部,*4浜松医科大学医学部麻酔・蘇生学講座

【緒言】硬膜外自家血注入(EBP)は硬膜穿刺後頭痛(PDPH)の標準的な治療法であるが,症状が残る症例も存在する.産褥期にペインクリニシャンが主導し,患者を包括的に評価・治療するアプローチが有効と考えられる症例があったので報告する.

【症例】30歳代女性.硬膜外無痛分娩時の偶発的硬膜穿刺後にPDPHを発症し当院ペインクリニックにて治療を行った.翼口蓋神経節表面麻酔は一時的効果のみで,分娩7日後にEBPを施行し著効するも,体位性頭痛が残存した.産褥期の心理状態を考慮し定期鎮痛薬投与を開始したが,職場復帰準備期に頭痛の再燃を認めた.ペインクリニシャンが中心となり,低髄液圧症候群を除外し患者の不安軽減を図りつつ段階的に頓用投与に移行することで,症状が安定化した.

【考察】PDPHは,器質的疾患の除外に加え,産褥期特有の心理社会的因子を考慮した治療戦略が重要である.ペインクリニシャンが積極的に関与したことが症状の改善につながった.

【結語】産褥期のEBP後の頭痛に対して,ペインクリニシャンが主導し身体的治療に加えて心理社会的支援を組み合わせた包括的なアプローチが有用であると考えられる.

A–4 帝王切開術後の硬膜穿刺後頭痛に対して経鼻翼口蓋神経節ブロックが有用であった3症例

朝羽 瞳*1 御室総一郎*2 中島芳樹*2

*1焼津市立総合病院,*2浜松医科大学医学部麻酔・蘇生学講座

薬物治療不応性硬膜穿刺後頭痛(PDPH)に対して,経鼻局所麻酔薬浸潤による翼口蓋神経節ブロック(sphenopalatine ganglion block:SPGB)の有効性が報告されている.今回,帝王切開術後において薬物治療の効果が乏しかった難治性PDPHに対し4%リドカインを用いてSPGBを行い,症状の著明な改善を認めた3例を経験したので,文献的考察とともに報告する.

【症例1】術後3日目にPDPH発症.術後4日目にSPGB実施.麻酔前numerical rating scale(NRS)9が麻酔1時間後NRS 6,麻酔翌日NRS 3に軽減.

【症例2】術後2日目にPDPHと診断.術後4日目にSPGB実施.麻酔前NRS 10が麻酔1時間後NRS 8,麻酔翌日NRS 2に軽減.

【症例3】術後3日目にPDPHの診断.術後4日目にSPGB実施.麻酔前NRS 8が麻酔1時間後NRS 6,麻酔翌日NRS 1に軽減.3例ともに麻酔による有害事象は認めなかった.

SPGBは帝王切開後PDPHに対し保険適応外ではあるが,有効かつ安全な治療法であると考えられる.

B–1 骨切り術後遷延痛に対して超音波ガイド下fasciaハイドロリリースが著効した1例

大塚剛史 木村哲朗 鈴木興太 中島芳樹

浜松医科大学医学部附属病院麻酔科蘇生科

【はじめに】橈骨骨切り術後遷延痛に対して,超音波ガイド下fasciaハイドロリリースが奏功した1例を報告する.

【症例】57歳男性.175 cm,73 kg.右手キーンベック病に対する橈骨骨切り術後に手関節周囲の痛みが残存していた.内服療法やステロイド局所注入による治療では改善せず,術後1年4カ月で当科を紹介受診した.右手関節の負荷動作および掌・背屈時に痛みが増強し,手関節の掌・背側に複数の圧痛点を認めた.超音波で圧痛点に対応する高輝度部位が確認され,同部位にハイドロリリースを施行した.処置後,手関節可動時の痛みと圧痛が顕著に軽減し,関節可動域も改善した.翌週の再診時,圧痛が2割程度残存していた3カ所に同様の処置を行い,症状はほぼ消失し,当科を終診した.

【考察】圧痛点と超音波での高輝度部位が一致し,fasciaハイドロリリース後に症状が消失したことから,術後の癒着が手関節周囲の圧痛や可動域制限の原因であったと考えられる.ハイドロリリースにより癒着が解除されたと推察される.

【結語】術後遷延痛の原因として癒着が考えられる場合,fasciaハイドロリリースは有力な治療選択肢となりうる.

B–2 上喉頭神経痛に対して上喉頭神経ブロックが有効であった1例

西川紗由美 金  優 岩井亮太 操 奈美 田辺久美子 紙谷義孝

岐阜大学医学部附属病院

【はじめに】上喉頭神経は上喉頭神経の内枝に起因する甲状舌骨膜や梨状窩の知覚神経であり,上喉頭神経痛は嚥下運動や会話によって喉に発作性の痛みが出現するまれな疾患である.今回,上喉頭神経痛に対して上喉頭神経ブロックとパルス高周波療法が有効であった1例を経験したので報告する.

【症例】68歳女性,2カ月前から左前頸部に嚥下時の電撃痛が出現した.近医にて加療されていたが,痛みのために経口摂取が不可能となり当院に紹介受診となった.受診時は疼痛のために開口と発声ができなかった.左上喉頭神経ブロックによって痛みは軽減し,嚥下が可能となった.カルバマゼピンの内服を開始し,1週間後,経口摂取は可能となったが違和感は残存していた.左上喉頭神経パルス高周波療法とステロイドの局注によって違和感も改善し,内服薬のみで疼痛コントロール良好となった.

【結語】上喉頭神経痛の治療法は薬物療法が第一選択とされている.本症例のように痛みが強く内服困難な場合には,上喉頭神経ブロックあるいはパルス高周波療法を行うことで内服可能とすることができる.また,同様の症状を呈する三叉神経痛や舌咽神経痛との鑑別にも有用である.

B–3 前皮神経絞扼症候群に対する末梢神経ブロック治療効果の検討

野澤広樹 木村哲朗 御室総一郎 中島芳樹

浜松医科大学附属病院麻酔科蘇生学科

【背景】前皮神経絞扼症候群(ACNES)は,脊髄神経前皮枝が腹直筋を貫く部位で絞扼され痛みを生じる.ACNESに対して神経ブロックが有効との報告が散見する.浜松医科大学附属病院におけるACNESに対する神経ブロックの有効性を調査した.

【方法】2020年11月から2023年11月に当院外来でACNESと診断された症例を対象とし,後ろ向きに調査した.神経ブロックの種類,回数,治療効果を調べた.治療効果は,改善(治療前から5割以上の軽減)・軽度改善(5割未満の軽減)・不変・悪化の4段階とした.

【結果】ACNESと診断されたのは,10例だった.全員が神経ブロック(腹直筋鞘ブロック9名,腹横筋膜面ブロック1例)を受けた.7例で疼痛部位に高輝度領域を超音波で認めていた.治療後の改善は9例,軽度改善は1例であった.

【考察】ACNESと診断された10例すべてで神経ブロックを行い,症状が改善した.超音波で疼痛部位に高輝度領域を認めた症例が多く,筋肉の炎症で超音波上高輝度となることが報告され,治療目標となりうると考えられた.

【結語】ACNESに対して超音波ガイド下神経ブロックが有効であると考えられる.

B–4 ペインクリニック外来診療における初学者の実態と課題:静岡県での意識調査結果

伊藤純哉*1 御室総一郎*2 大元美季*1 木村哲朗*1

*1浜松医科大学医学部附属病院麻酔科蘇生科,*2浜松医科大学麻酔・蘇生学講座

【はじめに】慢性疼痛の管理には高い需要がある一方で,ペインクリニシャンの絶対数は需要に対し慢性的に不足している.静岡県においては人口1万人当たりのペインクリニック専門医数は0.116人であり,全国平均の0.133人を下回る.新規に外来診療を開始する際の参入障壁を特定することが,将来的なペインクリニシャンの増加につながると考え外来診療に関する意識調査を行った.

【研究概要】

【対象】静岡県中西部でペインクリニック外来を開始してから5年以内の麻酔科医10名を対象としたアンケート調査.

【方法】外来診療についての30項目の質問を作成し,文書またはメールで送付した.

【結果】新規の外来診療開始の主な理由は,職場異動に伴う上司からの勧めであった.外来診療における苦手分野では,ポリファーマシー患者の対応,透視下ブロック,漢方薬の使用,入院患者対応が挙げられた.他科との連携を強化したい分野として,精神科領域が最多であった.

【結語】外来診療は透視下ブロックや精神科との連携など,個人では完結できない要素が多い.指導体制の充実や他科連携の強化を図り,ペインクリックに興味のある医師が増加する方策を目指すべきと考える.

C–1 「がん疼痛緩和を目的とした神経ブロック実施施設一覧」から地域による問題点を考える

若尾佳子*1 若尾政弘*2 柴田康之*3 柴田純平*4

*1羽島市民病院,*2医療法人小笠原会ケアプラスクリニック,*3名古屋大学医学部附属病院,*4藤田医科大学岡崎医療センター

難治性がん性疼痛に対する侵襲的治療の一部は,必要薬品の院内調合が不可能,実施に高額な器具が必要などの問題があり実施困難な施設も多い.今回,がん疼痛緩和目的で紹介された症例を経験し,「がん疼痛緩和を目的とした神経ブロック実施施設一覧」を参照した際に感じたがん疼痛緩和における課題を考察した.

症例は82歳男性.膀胱がんの局所再発から骨盤への広範囲な浸潤を伴い,耐え難い疼痛と全身衰弱で緊急入院,疼痛コントロール目的にて当科紹介となった.患者は持続硬膜外ブロックにより良好な疼痛緩和が得られたが,サドルブロックが必要となった場合はフェノールグリセリンが使用可能な施設への転院を考慮しなければならなかった.

施設一覧によれば,がん疼痛緩和を専門的に実施できる施設は限られる.一方,がん患者は衰弱が進行し長時間の移動が困難になることも多い.がん拠点病院認定における病院間連携も進んでいるが,適切な疼痛緩和治療が可能な拠点施設への早期紹介体制や連携による薬品の融通,医師や機器の派遣・レンタルなど,(学会主導で)患者の状態や地域・医療圏を考慮した総合的なネットワークの形成が必要と考えられる.

C–2 悪性縦隔腫瘍の腕神経叢浸潤に対して持続斜角筋間ブロックが長期に奏効した1例

横山聡子 小林 充 佐藤徳子 杉浦弥栄子 加藤 茂

聖隷三方原病院

【はじめに】持続斜角筋間ブロックはしばしば肩関節手術などの周術期鎮痛に用いられるが,カテーテルの逸脱や薬液の漏出が問題になることがある.今回,セルフコイリングカテーテルを使用することでがん性疼痛に対して長期間の鎮痛が得られた症例を経験した.

【症例】58歳女性.悪性縦隔腫瘍の腕神経叢への浸潤による右肩の疼痛が生じ,薬物での疼痛コントロールが困難になったため当科紹介となった.単回投与での斜角筋間ブロックで鎮痛効果を得られたことから,持続ブロックの方針とした.エコーガイド下にセルフコイリングカテーテルの先端をC6の腹側に留置し,持続鎮痛を開始した.ブロック施行後,突出痛が消失したことからオピオイドレスキューの使用はなくなり,苦痛様だった表情が改善した.カテーテル挿入から22日後,原病の悪化により永眠.その間カテーテルの逸脱や薬液漏出なく,最後まで同一カテーテルを使用できた.

【結論】セルフコイリングカテーテルによる持続斜角筋間腕神経叢ブロックは,固定性が安定することで長期留置が可能となり,がん性疼痛に対しても有効な鎮痛法となりうる.

C–3 高用量オピオイド使用患者に対する肩甲帯離断術の麻酔経験

高木真奈*1 木村哲朗*2 杉村 翔*3 中島芳樹*2

*1浜松医科大学医学部附属病院麻酔科蘇生科,*2浜松医科大学医学部麻酔・蘇生学講座,*3榛原総合病院麻酔科

【緒言】ヒドロモルフォンはモルヒネの5倍の力価(経口)を持つ強オピオイドである.高用量ヒドロモルフォン内服患者に対する肩甲帯離断術の周術期管理を経験したので報告する.

【症例】49歳男性.右上腕軟部肉腫に対して肩甲帯離断術が予定された.右上腕近位部の痛みが強く,術前よりヒドロモルフォン60 mg/日(維持量+レスキュー)を内服していた.麻酔方法は全身麻酔と持続硬膜外麻酔(C7/Th1),単回右腕神経叢ブロック(斜角筋間)の併用を選択した.術中はフェンタニル50 µg/時(術前ヒドロモルフォン維持相当量)の持続静注を継続した.覚醒遅延や覚醒時の呼吸抑制は認めなかった.術後に幻肢痛が出現したが硬膜外追加投与で対応しフェンタニル持続投与量も漸減できた.

【考察】術前から高用量オピオイドを長期間使用している患者では周術期のオピオイド量を適切に調整することが重要である.本症例では区域麻酔を併用することで術後痛の遷延防止に努めオピオイドの退薬症状と相対的過量投与の回避に有用だった.

【結語】高用量オピオイド使用患者に対する肩甲帯離断術において区域麻酔を併用することでオピオイド投与量を調節し安全に管理できた.

C–4 重症虚血肢の痛みに対して坐骨神経の高周波熱凝固法を行い,良好な鎮痛が得られた1例

佐藤徳子 杉浦弥栄子 横山聡子 小林 充 加藤 茂

聖隷三方原病院

84歳男性.閉塞性動脈硬化症,虚血性心疾患,糖尿病,慢性心房細動,慢性心不全,大動脈弁置換術後,左下肢バイパス術後.左足潰瘍から壊疽となり,処置時に痛みが強くNRS 7~8であった.全身状態不良となり当院へ救急搬送,今後は壊疽部の処置と疼痛緩和を行う方針となり,疼痛コントロール目的に当科紹介受診された.左足関節以下は知覚がなく,左ふくらはぎに痛みがあった.坐骨神経ブロックで痛みの軽減を認めたため,坐骨神経分岐部にて高周波熱凝固療法を脛骨神経,総腓骨神経それぞれ60° 180秒で実施し,NRS 5~6となった.足関節の背底屈は可能であった.2回目は脛骨神経,総腓骨神経それぞれ70° 180秒で実施し,NRS 1~3となったが,足関節の背底屈は不可能となった.3回目は2回目と同じ温度で実施,痛みはNRS 0~1となり,自宅退院となった.

重症虚血肢の痛みに対し坐骨神経の高周波熱凝固法を行い,温度漸増により良好な鎮痛を得た.高周波熱凝固法は温度調節により神経破壊の程度を調整できる利点がある.患者の予後やリスクを考慮したうえで,疼痛緩和治療の選択肢となりうる.

D–1 原因不明の難治性多発関節痛に対して低用量ステロイドが有効であった1例

岩田祐里*1 柴田純平*2 小川 慧*2 鈴木万三*1 望月利昭*1

*1藤田医科大学岡崎医療センター麻酔・蘇生学講座,*2藤田医科大学岡崎医療センター麻酔科

【はじめに】原因不明の難治性多発関節痛に低用量ステロイドが有効であった症例を経験したため報告する.

【症例】50代男性.両手指関節のこわばりと浮腫が出現.近医で関節リウマチと診断されNSAIDsなど内服加療されるも改善なし.その後移動性の間欠的多発関節痛が出現しリウマチ内科受診.抗SS-B抗体弱陽性のみで偽陽性と判断されたが治療は受けなかった.前医で各種神経障害性疼痛薬を内服するも改善なく当院ペインクリニック受診.診察時腫脹・発赤は認めず両側第2~4手指中手骨指節骨関節と近位指節骨間関節に圧痛あり,プレドニゾロン4 mg/日内服で鎮痛が得られた.

【考察】原因不明の関節痛に対してNSAIDsが複数の治療ガイドラインで推奨されているが効果がないことも多い.ステロイドが慢性関節痛に効果を示した報告があるが,量が多いと副作用が問題となる.本症例では原因不明の慢性関節痛にステロイドカバーのいらない低用量ステロイドが有効であった.副作用がある程度回避できるため他の内服不応性慢性関節痛の治療選択肢になり得ると考えられた.

【まとめ】原因不明の多発関節痛に低用量ステロイドが有効であった症例を経験した.

D–2 レストレスレッグス症候群の灼熱感に三物黄芩湯の併用が有効であった1症例

加藤利奈*1,2 太田晴子*1,2 髙 ひとみ*2,3 星加麻衣子*2,4 杉浦健之*1,2 祖父江和哉*1,2

*1名古屋市立大学大学院医学研究科麻酔科学・集中治療医学分野,*2名古屋市立大学病院いたみセンター,*3名古屋市立大学医学部附属西部医療センター麻酔科,*4のぞみクリニック

【緒言】レストレスレッグス症候群は,夜間の下肢異常感覚により睡眠障害を引き起こす疾患である.

【症例】82歳の女性.小児期から両足底の火照りがあり,50歳ごろより両足底の灼熱感で眠れない日があった.X月より症状が悪化し,連日不眠となった.近医でX+7月プラミペキソールが開始され,同月当院いたみセンターを紹介受診した.

【既往歴】乳がん手術後,胸腰椎後方除圧固定術後,右中足骨骨折術後.

【内服薬】プラミペキソール0.125 mg,芍薬甘草湯2.5 g頓用.

【初診時初見】両足痛(NRS 2/10),足底の色調変化や他覚的な熱感なし,神経伝導検査異常なし,アテネ不眠尺度14/24,血清フェリチン値31.1 ng/ml.

【東洋医学的初見】舌候)暗紅色,乾燥,黄苔,腹候)2/5以外所見なし.

【経過】灼熱感を煩熱と捉えて三物黄芩湯5 g/分2を追加したところ,灼熱感が軽減し,再入眠困難が改善した.X+10月にプラミペキソールを0.25 gに増量したところ,入眠障害も改善した.

【考察・結語】レストレスレッグス症候群に伴う異常感覚が灼熱感である症例には,滋陰(地黄),清熱(黄芩)作用のある三物黄芩湯併用は有効である可能性がある.

D–3 重症薬疹のためカルバマゼピンを中止したがラモトリギンで緩解した三叉神経痛の1例

桂川孝行 山口昌一 平出恵理 二橋江理奈 高橋 浩

磐田市立総合病院

【はじめに】カルバマゼピンは重症薬疹の報告が多い薬剤の一つである.今回,カルバマゼピンによる薬剤性過敏症症候群を発症し,ラモトリギンに変更して疼痛緩解した三叉神経痛の症例を経験したので報告する.

【症例】82歳女性.当科初診の約5カ月前より顔面の疼痛があり,他院ペインクリニック受診.カルバマゼピン100 mg/dayが処方された.痛みは緩解していたが,当科初診の約4カ月前から皮疹が出現し全身に拡大した.かかりつけ医でカルバマゼピンの中止とプレドニゾロン20 mg/dayを開始したが,改善せず摂食不良となり,当院救急搬送となった.皮膚科入院となり薬剤性過敏症症候群の診断でプレドニゾロン40 mg/dayに増量した.皮疹は徐々に改善傾向であったが,疼痛が再燃したため当科紹介となった.右三叉神経第2枝領域の非侵害刺激により誘発される同部位の数秒間持続する激痛を認めたため三叉神経痛と診断した.ラモトリギン25 mg/dayを開始し,50 mg/dayに漸増したところ痛みは緩解した.

【結語】ラモトリギンへの変更が奏功した三叉神経痛の症例を経験した.

E–1 学校生活への介入で軽快した小児慢性痛の1例

徐 民恵*1,2 伊藤嘉規*2,3 友成 毅*1,2 山添大輝*1,2 杉浦健之*1,2 祖父江和哉*1,2

*1名古屋市立大学大学院医学研究科麻酔科学・集中治療医学分野,*2名古屋市立大学病院いたみセンター,*3名古屋市立大学病院臨床心理室

【はじめに】小児慢性痛は,生理学的,発達,社会的背景など成人と異なる.今回,学校生活への介入で軽快した小児の全身痛症例を報告する.

【症例】13歳の女性.全身痛と不眠を主訴に当院を受診した.10歳で月経が始まり,以降月経周期に関連した頭痛と腹痛のため学校を休むことがあった.11歳で不眠,12歳から全身の痛みが生じ,小児科,整形外科,脳神経内科,ペインクリニックを受診.各種内服薬は無効であった.初診時,朝5時ごろ寝て11時に起床,5限目から学校に行くという生活であった.臨床心理士とともにサポートを開始し,規則正しい生活に向けた指導を行った.心理面談の過程で,匂い過敏のために教室で昼食を摂れず,昼食を挟む時間帯で学校に行けないことも生活リズムを乱す一因と判明した.別室での昼食を学校に許可してもらい,以降生活リズムの改善に伴い徐々に全身の痛みも減り,初診から4カ月後終診となった.

【結語】小児の慢性痛に関与する社会的要因として,家庭や学校での問題は大きい.生物心理社会モデルでの包括的治療を念頭に患児が置かれている環境に介入することで,良好な予後につながる場合がある.

E–2 術後硬膜外鎮痛が開胸術後症候群の治療期間に与える影響―後ろ向き観察研究

大嶋進史*1 鈴木興太*1 大元美季*1 野澤広樹*1 山口智子*1 谷口美づき*2 中島芳樹*1

*1浜松医科大学医学部附属病院,*2浜松ろうさい病院

【背景】開胸術後疼痛症候群(PTPS)は胸部手術の創部に沿って出現し2カ月以上持続する疼痛と定義される.硬膜外鎮痛はPTPSの発生率を抑えるとされるが,発症したPTPSの症状に与える影響については検討されていない.PTPS症例を対象に術後鎮痛法と症状改善に要した期間の関係を調査した.

【方法】2022年8月から2024年7月に開胸術後痛を主訴に浜松医科大学医学部附属病院ペインクリニック外来を受診した症例を対象とした.術式,術後鎮痛,手術から初診までの日数,疼痛改善に要した日数,初期治療を調査した.

【結果】期間中開胸手術は258件行われており,18症例が開胸術後痛を主訴にペインクリニック外来を受診した.8例で硬膜外鎮痛が施行されていた.初回治療として7例で肋間神経ブロック,5例で理学療法,3例で硬膜外ブロックが行われた.症状改善までの平均期間は22.6日,硬膜外鎮痛症例では19.3日,硬膜外鎮痛なしの症例では26.0日であった.

【結語】当院におけるPTPSで症状改善に要した平均日数は22.6日だった.硬膜外鎮痛を行った症例では改善に要した期間が短い傾向が認められた.

E–3 新型コロナワクチン接種に伴う肩の障害にインターベンションと運動療法が奏功した1例

鬼頭祐子*1 池村明里*2 白木大吾*2 杉山陽子*1 松原貴子*3 飯田宏樹*1

*1中部国際医療センター麻酔・疼痛・侵襲制御センター,*2中部国際医療センターリハビリテーション技術部,*3神戸学院大学総合リハビリテーション学部

【はじめに】新型コロナウイルスワクチンの接種後に生じた肩関節の疼痛と機能障害が長期残存した症例に対して,運動療法とインターベンショナル治療を併用することにより,良好な経過をたどった症例を経験したので報告する.

【症例】40代女性.患者は4回目の新型コロナウイルスワクチン接種後,接種部位周辺に疼痛が生じ,徐々に増強した.特に左上肢の動作時に痛みが強く,日常生活に支障をきたした.ワクチン接種から8カ月経過後,当科初診,薬物療法を開始した.ワクチン接種による疼痛と,それに伴う不動性疼痛があると考えられたため,受診2カ月後から運動療法を開始した.運動療法開始から1カ月後,肩関節前面の痛み軽減を目的に肩甲下神経パルス療法を実施した結果,疼痛症状が軽減し,運動療法を増加させることができた.その後,運動療法を継続したことで症状は改善し,運動療法開始後1年経過したところで中枢性感作,脊髄感作,条件刺激性疼痛調節も正常化して日常生活に支障がなくなった.

【結語】本症例は,新型コロナウイルスワクチン接種後に発生した持続的な疼痛に対し,運動療法とインターベンショナル治療の併用が効果的であったと思われた.

E–4 難治性がん疼痛患者に内臓神経ブロックとくも膜下鎮痛法を行い,在宅医療へつなげた1例

河野 優 服部政治 前 知子

医療法人徳洲会中部徳洲会病院疼痛治療科

【はじめに】くも膜下鎮痛法は,がん疼痛を軽減するのに有効な手段である.今回,当科が往診でくも膜下鎮痛法の管理を行うことで,訪問診療医と連携し在宅医療へつなげた症例を経験した.

【症例】80歳男性.膵頭部がん術後再発による腹痛に対して内臓神経ブロックを2回施行した.2回目の内臓神経ブロックの5日後に痛みは再燃した.患者と家族の自宅退院希望をかなえるため,残存した痛みに対してくも膜下カテーテル留置術および皮下アクセスポート(intrathecal port:ITport)造設術を施行した.ITportを予定すると同時に訪問診療,訪問看護の調整を行い,くも膜下鎮痛法の管理は当科の往診で行う方針とし,ITport挿入から5日後に退院した.退院4日後に当科で往診し,ITport留置針と薬液の交換を行った.退院7日後,家族に囲まれて穏やかに自宅で死亡した.

【まとめ】膵がんは進行が早く,内臓痛に対して神経破壊を行って一時的に改善しても,痛みが再燃することもある.強いがん疼痛を有する患者が自宅で穏やかに最期を過ごすために,ペインクリニックの技術は有用な方法であると思われた.

 
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