Journal of Japan Society of Pain Clinicians
Online ISSN : 1884-1791
Print ISSN : 1340-4903
ISSN-L : 1340-4903
A case of refractory ventricular tachycardia successfully treated with stellate ganglion block
Natsuko YAMAMOTOToshihiro KONNOAkira NEMOTOTetsu KIMURAYukitoshi NIIYAMA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 32 Issue 7 Pages 183-186

Details
Abstract

星状神経節ブロック(stellate ganglion block:SGB)は,抗不整脈薬で制御できない難治性心室細動/無脈性心室頻拍に対する有用性が示されている.われわれは難治性心室頻拍のために植込み型除細動器の作動が頻回に繰り返される患者に対して定期的にSGBを施行することで,除細動器の作動を抑制し得た症例を経験した.植込み型除細動器の作動は患者にとって不安や恐怖などの心理的負担が大きい.本症例では,低心機能のため胸部交感神経節切除術を施行できなかったが,左右のSGBを2~4週間ごとに繰り返し施行することで,長期にわたり除細動器の作動を抑制することができたことは,生活の質を維持できたという点で患者にとって有益であったと考えられる.しかし,SGBの左右や施行頻度,継続期間については一定の見解がなく,今後さらなる検討が必要である.

Translated Abstract

Stellate ganglion block (SGB) is an effective treatment for refractory ventricular fibrillation and ventricular tachycardia that do not respond to antiarrhythmic medications. We present a case of successful management of defibrillation events through periodic SGB in a patient who experienced frequent activation of an implantable cardiac resynchronization therapy-defibrillator (CRT-D) due to intractable ventricular tachycardia. The patient was not a candidate for thoracic sympathectomy due to impaired cardiac function. However, continuous left and right SGB effectively suppressed defibrillator activations for an extended period. Since defibrillation can cause anxiety and fear in patients, reducing the frequency of these activations through SGB also lessens the psychological burden on the patient. However, it is unclear which SGB is more effective, left or right, how often treatment should be given, and the ideal interval between each block. Further research is needed to address these questions.

I はじめに

星状神経節ブロック(stellate ganglion block:SGB)は,抗不整脈薬で制御できない難治性心室細動/無脈性心室頻拍に対する治療手段として日本循環器学会不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年度改訂版)1)に記載されている.今回,われわれは難治性心室頻拍を呈する71歳の男性に対して心室頻拍の予防目的にSGBを施行し,良好な結果が得られたので報告する.

本症例の報告にあたり,患者本人に説明し,文書で同意を得た.

II 症例

71歳,男性.身長175 cm,体重54 kg.

既往歴:X−6年,前医を受診し,持続性心室頻拍,心不全と診断された.X−5年,拡張型心筋症のため前医で両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(cardiac resynchronization therapy-defibrillator:CRT-D)植込術を施行された.X−3年からX−2年にかけて3回のカテーテルアブレーションが施行されたが,心室頻拍は消失しなかった.

現病歴:X年4月,当院循環器内科でエタノールアブレーションが施行され退院したが,帰路の車内で心室頻拍が生じ,同日に再入院となった.ビソプロロールフマル酸塩5 mg/日,ソタロール塩酸塩320 mg/日,メキシレチン塩酸塩300 mg/日を内服し,ランジオロール塩酸塩9 mg/時を持続静注されていたが,1日1回程度の除細動器の作動を認めた.アミオダロン塩酸塩は甲状腺機能障害をきたしたため中止されていた.複数回のカテーテルアブレーションと高用量の抗不整脈薬の投与にもかかわらず除細動器の作動を繰り返すため,循環器内科で胸腔鏡下胸部交感神経節切除術(endoscopic thoracic sympathectomy:ETS)が検討された.X年5月,交感神経ブロックの効果を確認するためのSGB施行を目的として当科に紹介された.

治療経過(図1):エドキサバントシル三塩水和物を内服していたため,ブロック2日前に休薬し,血液検査で凝固能が正常範囲内であることを確認した.1%メピバカイン5 mlを用いてランドマーク法にて,初回は左,翌日は右にSGBを施行し,左右交互に連日実施した.その結果,2週間にわたり除細動器の作動を認めなかった.この結果から,交感神経遮断による心室頻拍抑制効果があると判断したが,ETSは低心機能であること,保険適応外治療であることから見送られた.また,胸部交感神経節ブロックは当科では治療実績がなく,合併症として気胸を発症した際の循環動態破綻のリスクを考慮して適応外と判断し,SGBを継続する方針となった.退院後より2週間ごとに左右交互に合計9回,その後除細動器の作動がないこと,および,遠方からの通院が困難なことを考慮し,4週間あけて1回,合計10回のSGBを施行したところ,その間5カ月にわたり除細動器の作動を認めなかった.SGBは1%メピバカイン5 mlを用いて,ランドマーク法あるいは超音波ガイド下側方アプローチで行い,Horner兆候でSGBが適切に施行されたことを確認した.X年12月からは自宅近くの総合病院麻酔科にて4週間ごとの左右交互のSGBを継続しているが,X+1年3月まで除細動器の作動は認めていない.治療中は,心電図,パルスオキシメーター,血圧計を装着してモニタリング監視下で行い,5分間圧迫止血し,ブロック施行後は30分間ベッド上で安静とした.

図1

治療経過

III 考察

難治性心室細動/無脈性心室頻拍に対するSGBの有効性は以前より報告されており,Mengらによるシステマティックレビューでは,SGBは抗不整脈薬で制御できない心室細動・無脈性心室頻拍に対する有効な治療手段であると位置付けられている2).これまでの報告では,頻回に心室細動を繰り返すelectrical storm(ES)に対するSGBが多い.植込み型除細動器を移植された患者に対するSGBの有効性を示したChouairiらの報告3)はあるが,本症例は長期にわたる定期的なSGBにより植込み型除細動器移植後の難治性心室性頻拍に対する頻回の除細動を抑制したという点で新規性があると考えられる.

交感神経活動の亢進は,心臓突然死や致死的不整脈の誘因となり得る.心臓支配交感神経(cardiac sympathetic nerves:CSN)は第1~5胸髄から交感神経幹を介して心筋に達し,冠動脈に沿って心外膜側を走行して心筋内に分布する.CSNの密度や機能は心疾患の病態に応じて変化しており,神経再生によるCSNの発芽と不均一な神経支配密度が心筋イオンチャネルへの介入を通して致死性不整脈の原因となり得る4)

一方,解剖学的に星状神経節は下頸交感神経節と第1胸部交感神経節(まれに第2胸部交感神経節を含む)が癒合した構造となっており,下位頸椎横突起前面に局所麻酔薬を注入するSGBは,星状神経節や頸部交感神経幹,交感神経の節前線維や節後線維を遮断するコンパートメントブロックとして,前頸部や顔面,上肢,上胸部の痛みや末梢循環の改善,発汗抑制などが期待できる他,心臓交感神経活動にも大きな影響を与える.SGBの適応疾患としては,上述の部位の帯状疱疹や複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS),口腔顔面痛,多汗症,三叉神経障害などに有効であるとされている5)

「日本循環器学会不整脈非薬物治療ガイドライン」(2018年度改訂版)には,胸部交感神経遮断術としてSGBや胸部交感神経節切除術,胸部硬膜外麻酔などが記載されている1).胸部交感神経節切除術であるETSは交感神経を直視下で遮断するため確実性の高い手技であるが,全身麻酔が必要となる6).一方,胸部交感神経節ブロックは胸部の交感神経節を薬物あるいは高周波熱凝固法で遮断する方法であり,X線透視下で行う方法だけでなく,近年はCTガイド下でより安全に行うことができるようになっている6).本症例は,当初循環器内科でETSが検討され,試験的交感神経ブロックとしてSGBを施行したところ,心室頻拍抑制効果があると考えられたが,左室駆出率23.1%と低心機能であり,全身麻酔および手術の利益と損失から,ETSは適応外と判断された.また,胸部交感神経節ブロックは当科での治療実績がなく,気胸のリスクも高い手技であること,県内のペインクリニックでの治療が困難であることから,除外された.そこで,より侵襲の低い治療手技であるSGBを継続することとなった.星状神経節近傍への近赤外線治療器による照射治療はCRT-Dへの影響が不明であるため,施行しなかった.

これまでのところSGBの左右による心室細動・心室頻拍抑制効果の違いや薬剤の投与量,施行頻度に関しては一定の見解は得られていない.左右に関しては,頻回に心室細動を繰り返すelectrical storm(ES)に対して左SGBがカリウムチャネルブロッカーやβブロッカーなどの抗不整脈薬による薬物治療に比べて有意に治療効果が高いという報告7)がある一方,左右のSGBを行うことで心室性不整脈を抑制したという報告もある8).また,Vaseghiらは,心筋症に由来する頻回の心室頻拍発作に対して,左あるいは両側心臓交感神経遮断術を施行したところ,前者よりも後者の方がより不整脈再発率が低いと報告している9).ESに対する左SGBの作用機序は,過度の交感神経の緊張緩和,左右の交感神経の調和によると考えられている10,11).また,SGBはQT時間に影響を及ぼし,左SGBではQT短縮,右側では延長することが知られており,Romano-Ward症候群などのQT延長症候群の治療としてSGBが奏功した例が報告されている10,12).薬剤投与量に関しては,Mengらは2%メピバカイン4 mlを使用してSGBを行い,11時間~4週間心室頻拍を抑制する効果があったと報告している2).本症例ではこれらの報告を踏まえて循環器内科と協議し,左右のSGBを交互に2~4週間で施行することとした.ペインクリニック治療指診に基づき,薬剤には短時間作用型の局所麻酔薬であるメピバカインを選択した.

植込み型除細動器の作動は適切・不適切作動にかかわらず生命予後を悪化させるという報告13)もあり,患者が抱える不安や恐怖などの心理的問題点が指摘されている14).除細動器の作動が生活の質を下げるという報告もある15).よって,本症例では手術適応がないためにETSを施行できなかったが,左右のSGBを継続して施行することで長期にわたり除細動器の作動を抑制し得たことは,ペインクリニシャンの医療への貢献の窓口を広げるという点においても意義があると考えられる.

IV おわりに

難治性心室頻拍のためCRT-D植込み後も頻回の除細動を繰り返す患者に対し,定期的なSGBを施行し除細動器の作動を抑制し得た症例を経験した.SGBを左単独あるいは両側に施行するか,施行頻度や継続期間についてはこれまでのところ一定の見解がないが,今回両側SGBを左右交互2~4週ごとに行うことが心室頻拍に対するCRT-Dの作動抑制に有効であったと考えられたため報告した.

本報告の要旨は,日本ペインクリニック学会 第5回東北支部学術集会(2024年11月,山形)において発表した.

文献
 
© 2025 Japan Society of Pain Clinicians
feedback
Top