2008 Volume 12 Issue 2-2 Pages 102-106
パターン(または, 形)の「良さ」の概念を明確に定義することは難しい. しかしながら, 枠内に点を配列した対象(本稿では, これをドット・パターンと記す)の形の良さの評価を求めると, 個人間で比較的一貫した傾向を示すことが知られている. この事実に基づいて, ドット・パターンを対象とした形の良さの評価は組織的に研究されている(e. g. Garner, 1962, 1970;Garner & Clement, 1963;今井, 1986;Imai, 1992;今井・伊藤・伊藤, 1976).
今井他(1976)は, 線対称と点対称の観点から, ドット・パターンが持つ不変性の程度について記述して, 不変性の程度が高いほど, 形の良さの評価が高くなると述べた(今井, 1986;Imai, 1992). 今井他(1976)の不変性の程度に関する記述は, 以下のようにまとめることができる:(1)ドット・パターンが線対称の軸を持ち, 同時に, 点対称の軸を持つとき, それは高い不変性を持つ;(2)ドット・パターンが線対称の軸を持つか, または, 点対称の軸を持つとき, それは不変性を持つ;(3)ドット・パターンが線対称の軸も点対称の軸も持たないとき, つまり, 非対称(ランダム)のとき, それは不変性を持たない. ドット・パターンが持つ不変性の程度が形の良さの評価の程度に影響するとの仮説に基づき, 今井他(1976)は, ドット・パターンを対象とし, 形の良さの評価を7段階評定法で測定して, 線対称と点対称が形の良さの評価にどのように影響するか検討した. その結果, 以下の3点が示された:(1)ドット・パターンが, 線対称と点対称の軸を同時に持つとき, 形の良さの評価が高い;(2)ドット・パターンが, 線対称か点対称の軸を持つとき, 形の良さの評価がやや高い;(3)ドット・パターンが, 線対称の軸も点対称の軸も持たないとき, つまり, 非対称のとき, 形の良さの評価が低い. さらに, 今井他(1976)の実験の結果を見ると, 線対称の軸の個数が1個であれば, その軸方向が垂直のときのほうが, ±45度のときより形の良さの評価が高かった. ここで, 線対称の軸方向が変化するとき, いつでも線対称のほうが非対称よりも形の良さの評価が高いかに疑問が残る. そこで, 本研究では, 円形の枠を持つ5ドット・パターンを対象とし, それぞれの形の良さの評価を7段階評定法で測定して, 線対称のドット・パターンの軸方向が形の良さの評価にどのように影響するか検討することを目的とした. その際, 非対称を統制条件として使用した. 今井他(1976)の仮説に基づいて, 軸方向の変化に関わらず, 線対称のほうが非対称より形の良さの評価が高いであろう, と予想した.
実験参加者 39名(男性9名, 女性30名, 平均年齢19.5歳)の大学生が参加した.
ドット・パターンの作成手順
<材料> 白色の円形(直径70mm. 輪郭の幅は1mm)の枠内に, 5個の黒色の円板(直径は10mm)を配置することで5ドット・パターンを作成した.
<ドットを配置する方法> まず, 3×3の正方形のマトリックス(1つのセルの一辺の長さは15mm)を仮定し, 次に, 9個のセルから5個のセルを選択した. そして, 該当するセルの中心に5つの円板を配置した(Figure 1). その際, 今井他(1976)が使用した5ドット・パターンを参考に, 線対称6枚, 非対称6枚を作成した.
<独立変数> 線対称の軸方向が垂直のときを0度として, その軸方向を0度から180度まで時計回りに45度ステップで5通り操作した.
ドット・パターンのセット ドット・パターンのセットは, 12種類(線対称が6種類, 非対称が6種類)のドット・パターンを5種類の方向ずつ作成したため, 計60枚であった(Figure 2).
手続きと教示 実験は集団式で行った. まず, 実験参加者は, A4用紙上にランダムな順に印刷された全60枚のドット・パターンを一通り観察し, 次に, 自分のペースで1枚ずつ形の良さを評定した. 観察距離は, 約50cmであった. なお, 机の上に置かれたA4用紙の右上に印刷した点が右上になるように観察するように求めた.
<形の良さの評価> 評価は, 非常に形が悪い場合は1点, 形が悪い場合は2点, 少し形が悪い場合は3点, どちらでもない場合は4点, 少し形が良い場合は5点, 形が良い場合は6点, 非常に形が良い場合は7点と得点化した. なお, 形の良さの概念については特に教示せず, 実験参加者の内的基準に評価基準を求めた. 評定時間は統制しなかった.
Method for making of 5 dot-patterns
Classification of 30 dot-patterns by means of axis-orientation of mirror-symmetry: at the lower are shown the mean scale values of pattern goodness are shown under each pattern.
Classification of 30 dot-patterns by means of orientation asymmetry: at the lower are shown the mean scale values of pattern goodness.
実験の結果をFigure 3の棒グラフとして示した. 形の良さの評価の平均と標準誤差が, 線対称のドット・パターンの軸方向が0度(0度/180度)のとき, ±45度(45度/135度)のとき, そして, ±90度(90度)のときについて示されている.
Figure 3を見ると, 線対称の軸方向が0度の条件のほうが, 軸方向が±45度と±90度の条件よりも形の良さの評価が高かった. また, 線対称のドット・パターンの軸方向が±45度と±90度の条件では, 非対称の条件と同程度に形の良さの評価は低かった.
線対称のドット・パターンの軸方向要因は4水準(0度, ±45度, ±90度, 非対称)であった. これらについて1要因分散分析を行った結果, 軸方向要因は有意であった(F(3, 114)=282.83, p<.01). LSD法による多重比較の結果, 線対称の軸方向が0度の条件のほうが, 軸方向が±45度, ±90度, そして, 非対称の条件よりも形の良さの評価が高かった(p<.05). さらに, 線対称の軸方向±45度, ±90度, そして, 非対称の3条件を1要因分散分析によって比較したところ, 有意差は見られなかった.
The mean scale values of pattern goodness are shown as a function of the axis-orientation, along with the standard errors. Note the high value of goodness for the 0 degree condition.
本研究では, 円形の枠を持つ5ドット・パターンを対象とし, それぞれの形の良さの評価を7段階評定法で測定して, 線対称のドット・パターンの軸方向が形の良さの評価にどのように影響するか検討した. 独立変数として, 線対称のドット・パターンの軸方向を0度(垂直), ±45度, ±90度(水平)に変化させた. なお, 統制条件として, 非対称(ランダム・ドット・パターン)を使用した.
本研究の結果, 線対称のドット・パターンの軸方向が0度の条件のほうが, ±45度, ±90度, そして, 非対称の条件よりも形の良さの評価が高かった. また, 線対称の軸方向が±45度と±90度の条件の形の良さの評価と非対称の条件の形の良さの評価には差が見られなかった. この結果は, 線対称の軸方向に関わらず, 線対称であれば, 非対称よりも形が良いと評価されるとする今井他(1976)の仮説(今井, 1986;Imai, 1992)と一致しない. 今井他(1976)の仮説は, 線対称のドット・パターンの軸方向が0度という限られた条件では成立するが, それ以外の線対称の軸方向(たとえば±45度)では成立しないと考えられる.
本研究を行うにあたり, ご助言いただいた北海道大学の今井四郎先生に深く感謝いたします.